(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ワンウェイクラッチ(40)は、ACGスタータ(27)を接続するクランクシャフト(9)と、前記クランクシャフト(9)と変速機(4)とを連係する一次減速機構(20)と、前記クランクシャフト(9)と前記一次減速機構(20)との間に設けられる遠心クラッチ(21)と、前記一次減速機構(20)を介してクランキングを行うキックスタータ(16A)と、を備える内燃機関(1)に設けられ、
前記第1の軸部材(21d)は、前記一次減速機構(20)のプライマリドライブギヤ(20a)と一体回転する部材として設けられ、
前記第2の軸部材(9d)は、前記クランクシャフト(9)の一部として設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のワンウェイクラッチ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0012】
図1に示す自動二輪車(小型車両)101において、その車体フレーム102は複数種の鋼材を溶接等により一体に結合してなる。車体フレーム102は、前輪懸架系を操向可能に支持するヘッドパイプ103から下後方へ単一のメインチューブ108を延ばし、ヘッドパイプ103と乗員着座用のシート109との間を低部として跨り易さを向上させた所謂バックボーン型とされる。メインチューブ108の後端部の下方にはピボットブラケット110が延び、ピボットブラケット110には後輪懸架系のスイングアーム112の前端部が上下揺動可能に支持される。メインチューブ108の後端部の上後方にはシートフレーム113が延び、シートフレーム113上にシート109が配置されると共に、シートフレーム113とスイングアーム112との間には後輪懸架系のリアクッション114が配置される。図中符号104は前輪、符号105はフロントフォーク、符号106はステアリングステム、符号107は操向ハンドル、符号111は後輪をそれぞれ示す。
【0013】
メインチューブ108の下方には、自動二輪車101の原動機であるエンジン(内燃機関)1が支持される。
図2を併せて参照し、エンジン1は、クランクシャフト9の回転中心軸線(クランク軸線)C1を左右方向に沿わせた空冷単気筒エンジンであり、クランクケース2の前端部から前方に向けてシリンダ3を略水平に(詳細にはやや前上がりに)突出させる。
【0014】
クランクケース2は、左右方向に直交する分割面(例えば車体左右中心面)を境に左右ケース半体2a,2bに分割される。左右ケース半体2a,2bの外側方には、これらの一部をなす左右ケースカバー24,25が取り付けられる。図中符号CLはエンジン1(及び車体)の左右中心線を示す。クランクケース2は、マニュアルトランスミッション(変速機、以下、単にトランスミッションという。)4を収容するミッションケースを兼ねる。クランクケース2を含むエンジン1の内部では、エンジンオイルが適宜循環、撹拌される。
【0015】
シリンダ3は、クランクケース2側から順に、シリンダ本体3a、シリンダヘッド3b及びヘッドカバー3cが連なる。シリンダ本体3aのシリンダボア3d内には、ピストン8が往復動可能に嵌装される。ピストン8は、コネクティングロッド8aを介してクランクシャフト9のクランクピン9aに連結される。
クランクシャフト9は、クランクピン9aを支持する左右クランクウェブ9bと、左右クランクウェブ9bから左右外側に突出する左右ジャーナル部9cと、左右ジャーナル部9cからさらに左右外側に延びる左右延長軸9dと、を有する。
【0016】
左延長軸9dの基端側にはカムドライブスプロケット12が設けられ、このカムドライブスプロケット12を含むチェーン式伝動機構を介して、シリンダヘッド3b内のカムシャフト11がクランクシャフト9と連動して駆動する。
図中符号15はシリンダ3の左側部内に設けられるカムチェーン室、符号17はシリンダヘッド3bに取り付けられる点火プラグ、符号18はシリンダヘッド3bの上側(吸気側)に接続されるスロットルボディ、符号19はシリンダヘッド3bの下側(排気側)に接続される排気管をそれぞれ示す。
【0017】
クランクシャフト9の回転動力は、クランクケース2内右側に収容された二つのクラッチ21,22、及びクランクケース2内後部に収容されたトランスミッション4を介して、クランクケース2の後部左側の機関出力部23に出力される。機関出力部23は、駆動輪である後輪111とチェーン式伝動機構23aを介して連係される。以下、クランクシャフト9から機関出力部23までの伝動経路において、クランクシャフト9側を上流側、機関出力部23側を下流側ということがある。
【0018】
クランクシャフト9の右延長軸9d上には、発進用クラッチである遠心クラッチ21が同軸支持される。
遠心クラッチ21は、右方に開放する有底円筒状をなしてクランクシャフト9の右端部に相対回転可能に支持されるクラッチアウター21aと、クラッチアウター21aの内周側でクランクシャフト9の右端部に一体回転可能に支持されるクラッチインナー21bと、クラッチアウター21aの内周側でクラッチインナー21bに拡開作動可能に支持される複数の遠心ウェイト21cと、を有する。図中符号26はクラッチインナー21bの右側に形成される遠心分離式のオイルフィルタを示す。
【0019】
遠心ウェイト21cは、クランクシャフト9の停止時及び低速回転時には、クラッチアウター21aの内周面から離間し、遠心クラッチ21を動力伝達不能な切断状態とする。遠心ウェイト21cは、クランクシャフト9の回転数(回転速度)の上昇に伴い拡開作動し、所定回転数以上でクラッチアウター21aの内周面に摩擦係合して、遠心クラッチ21を動力伝達可能な接続状態とする。
【0020】
図2、
図4を参照し、クラッチアウター21aの中心部では、円筒状の内周側カラー部41が右側に突設される。内周側カラー部41の外周には、ワンウェイクラッチ40が外嵌される。ワンウェイクラッチ40の外周には、クラッチインナー21bの左側に突設された円筒状の外周側カラー部42が外嵌される。外周側カラー部42は、ワンウェイクラッチ40における外輪44を含む。
【0021】
ワンウェイクラッチ40の基本的な動作は、変速機側のクラッチアウター21aに先んじてクラッチインナー21b及びクランクシャフト9が正転(エンジン運転時の回転に相当)しようとしても、フリー状態となってトルク伝達をせず、クラッチアウター21aに対してクラッチインナー21b及びクランクシャフト9を空転させる。
【0022】
ワンウェイクラッチ40は、クラッチインナー21b及びクランクシャフト9に先んじてクラッチアウター21aが正転しようとすると(又は、クラッチアウター21aに対してクラッチインナー21b及びクランクシャフト9が逆転しようとすると)、クラッチインナー21bの回転速度が所定未満であれば、フリー状態を保ってトルク伝達をせず、クラッチアウター21aをクラッチインナー21b及びクランクシャフト9に対して空転させる。
【0023】
一方、ワンウェイクラッチ40は、クラッチインナー21bの回転速度が所定以上になると、後述するワンウェイ作動状態となり、この状態でクラッチインナー21b及びクランクシャフト9に先んじてクラッチアウター21aが正転しようとすると、後述するローラ46が内外輪43,44間でトルク伝達可能になるようにロック作動する。これにより、クラッチアウター21a、クラッチインナー21b及びクランクシャフト9が一体に正転可能となる。
【0024】
図2を参照し、クラッチアウター21aの中央部左側には、左方に延びる円筒状の伝動筒21dが設けられる。伝動筒21dの左端側には、プライマリドライブギヤ20aが一体回転可能に設けられる。プライマリドライブギヤ20aは、クランクシャフト9の後方に位置するメインシャフト5の右側部に相対回転可能に支持されたプライマリドリブンギヤ20bに噛み合う。プライマリドライブギヤ20a及びプライマリドリブンギヤ20bは、エンジン1の一次減速機構20を構成する。
【0025】
クランクシャフト9の後方には、前側から順に、トランスミッション4のメインシャフト5及びカウンタシャフト6が配置される。メインシャフト5及びカウンタシャフト6は、それぞれの回転中心軸線C3,C4を左右方向に沿わせて(クランク軸線C1と平行にして)配置される。図中符号16はカウンタシャフト6の後下方に配置されるキックスピンドルを示す。
【0026】
メインシャフト5の右端部は遠心クラッチ21の右端よりも左方で終端し、この右端部上に多板クラッチ22が同軸支持される。
多板クラッチ22は変速用クラッチであり、右方に開放する有底円筒状をなしてメインシャフト5の右端部に相対回転可能に支持されるクラッチアウター22aと、クラッチアウター22aの内周側に配置されてメインシャフト5の右端部に一体回転可能に支持されるクラッチインナー22bと、クラッチアウター22a及びクラッチインナー22b間で軸方向に積層される複数のクラッチ板22cと、を有する。クラッチアウター22aの底壁左側には、プライマリドリブンギヤ20bが一体回転可能に支持される。
【0027】
多板クラッチ22は、ダイヤフラムスプリング22dの付勢力によりクラッチ板22cを圧接して摩擦係合させる。多板クラッチ22は、不図示のシフトペダルの変速操作に連動してクラッチ板22cの圧接を一時的に解除し、トランスミッション4のシフトチェンジをよりスムーズにする。
【0028】
トランスミッション4は、メインシャフト5及びカウンタシャフト6と、両シャフト5,6に跨って支持される変速ギヤ群7と、を備える。クランクシャフト9の回転動力は、変速ギヤ群7の任意のギヤを介してメインシャフト5からカウンタシャフト6に伝達される。カウンタシャフト6の左端部は、クランクケース2の後部左側に突出して機関出力部23となる。
【0029】
変速ギヤ群7は、両シャフト5,6にそれぞれ支持された変速段数分のギヤで構成される。トランスミッション4は、両シャフト5,6間で変速ギヤ群7の対応するギヤ同士が常に噛み合った常時噛み合い式とされる。両シャフト5,6に支持された各ギヤは、自身を支持するシャフトに対して相対回転可能なフリーギヤと、自身を支持するシャフトに対して一体回転可能な固定ギヤと、自身を支持するシャフトにスプライン嵌合するスライドギヤと、に分類される。トランスミッション4は、不図示のチェンジ機構の作動によりスライドギヤを移動させ、変速段に応じたギヤ列を選定する。
図2では、変速ギヤ群7の左側から順に、二速ギヤ列7b、四速ギヤ列7d、三速ギヤ列7c及び一速ギヤ列7aが並んで配置される。
【0030】
クランクシャフト9の左延長軸9dの左端部上には、ACGスタータ27が同軸支持される。
ACGスタータ27は、三相交流式の発電電動機であり、エンジン1を始動するスタータモーターとして機能すると共に、エンジン1の運転に伴い発電する交流発電機としても機能する。ACGスタータ27の作動は、
図3に示すECU(Electronic Control Unit)60により制御される。
【0031】
ACGスタータ27は、いわゆるアウタローター型のもので、左方に開放する有底円筒状をなしてクランクシャフト9の左端部に一体回転可能に支持されるアウタローター27aと、アウタローター27aの内周側に配置されて左ケース半体2aの外側壁に固定的に支持されるステーター27bと、を有する。アウタローター27aの内周側には、周方向で並ぶ複数のマグネット27cが固定される。ステーター27bの外周側には、周方向で並ぶ複数のコイル27dが形成される。
【0032】
図3を併せて参照し、ACGスタータ27は、例えばステーター27bにネジ等の締結部材28aで取り付けられた、複数のローター角度センサー28を保持するローター角度センサーユニット28bを有する。ローター角度センサー28は、ステーター27bのコイル27dに対する通電制御に用いられるもので、ACGスタータ27のU相、V相、W相のそれぞれに対応して一つずつ設けられる。
【0033】
ローター角度センサー28は、アウタローター27aの周方向の一位置を点火タイミングとして検出する点火パルサー(パルサーセンサー)としても機能する。ローター角度センサー28は、ホールIC又は磁気抵抗(MR)素子で構成される。
【0034】
ACGスタータ27は、エンジン始動時にはスタータモーターとして機能する。ACGスタータ27は、不図示のバッテリーからECU60のモータードライブ回路61を介して電力が供給され、クランクシャフト9を回転(正転駆動)させてエンジン1のクランキングを行う。このとき、クランクシャフト9の回転数は遠心クラッチ21の接続回転数未満であり、かつこの回転(正転)ではワンウェイクラッチ40がトルク伝達をしない。したがって、遠心クラッチ21の被動部材であるクラッチアウター21aよりも前記伝動経路下流側の多板クラッチ22及びトランスミッション4等には、前記クランキングの回転動は伝達されない。
【0035】
ACGスタータ27は、例えばクランクシャフト9の回転数がアイドリング相当以上になる等によりエンジン1の始動が確認されると、クランクシャフト9の回転により駆動して発電する交流発電機として機能する。この発電により、前記バッテリーの充電及び各種電装部品への電力供給がなされる。このとき、ワンウェイクラッチ40はトルク伝達をしないが、クランクシャフト9の回転数が遠心クラッチ21の接続回転数以上になれば、遠心クラッチ21が接続状態となって前記伝動経路下流側にクランクシャフト9の回転動が伝達される。
【0036】
クランクケース2の後部下側には、エンジン1のキックスタータ16Aにおける左右方向に沿うキックスピンドル16が配置される。キックスピンドル16の右端部はクランクケース2の後部右側に突出し、この突出部にキックアーム16aの基端部が取り付けられる。キックスピンドル16におけるクランクケース2内に臨む左側部上には、キックドライブギヤ16b及び噛合い機構16cが同軸支持される。キックドライブギヤ16bは、キックアーム16aの踏み降ろしによるキックスピンドル16の一方向への回転時にのみ、噛合い機構16cを介してキックスピンドル16と一体回転する。
【0037】
キックドライブギヤ16bは、一速ギヤ列7aのドリブンギヤに噛み合う。キックドライブギヤ16bの回転動は、一速ギヤ列7a、メインシャフト5、多板クラッチ22、プライマリドリブンギヤ20b及びプライマリドライブギヤ20aを介して、遠心クラッチ21のクラッチアウター21aに正転として入力される。この正転の回転数が前記所定以上であれば、ワンウェイクラッチ40がワンウェイ作動状態となり、さらなる正転によりワンウェイクラッチ40がロック作動すると、クラッチアウター21aからクラッチインナー21b及びクランクシャフト9に正転トルクを伝達可能となる。すなわち、キックスタータ16Aによるエンジン1のクランキングが可能となる。
【0038】
ECU60は、ACGスタータ27の駆動及び発電を制御するモータードライブ回路61と、エンジン1の自動停止(アイドルストップ)を行うアイドルストップ制御部62と、アイドルストップ直後にACGスタータ27の逆転駆動によるクランクシャフト9の逆転(スイングバック)を行うスイングバック制御部63と、を有する。
【0039】
ECU60には、ローター角度センサー28の他、スロットルボディ18のスロットルバルブ(不図示)の開度を検出するスロットルセンサー31、車輪の回転速度から車速を検出する車速センサー32、エンジン1の暖気状態として油温を検出する温度センサー33、前記バッテリーの充電状態としてバッテリー電流及び電圧を検出するバッテリーセンサー34、が接続される。ローター角度センサー28は、クランク回転数及び回転角度を検出するクランク角センサーを兼ねる。
【0040】
ECU60には、ACGスタータ27の他に、点火プラグ17を含む点火装置35、スロットルボディ18のインジェクタ18aを含む燃料噴射装置36、が接続されると共に、アイドルストップ制御を行うか否かを乗員に選択させるアイドルストップスイッチ37、アイドルストップ制御の選択時やアイドルストップ時に点灯するインジケーター38、が接続される。
【0041】
モータードライブ回路61は、例えばパワーFET(Field Effect Transistor)を含み、ACGスタータ27が発生する三相交流を全波整流すると共に、ACGスタータ27を駆動する際には前記バッテリーの電力を調圧して供給する。
【0042】
アイドルストップ制御部62は、アイドルストップ制御の選択時において、エンジン1の自動停止許可条件が整ったときには、点火プラグ17の点火及びインジェクタ18aの燃料噴射を停止してエンジン1を自動停止させる(アイドルストップ)。
【0043】
その後、アイドルストップ制御部62は、エンジン1の再始動許可条件が整ったときに、ACGスタータ27を駆動させてエンジン1のクランキングを行うと共に、点火プラグ17の点火及びインジェクタ18aの燃料噴射を再開し、エンジン1を自動で再始動させる。ECU60は、前記バッテリーの充電状態がエンジン1の再始動を行うのに十分であると認められるときのみ、アイドルストップ制御を実施する。
【0044】
スイングバック制御部63は、アイドルストップ後のエンジン1の再始動性を向上させるために、ACGスタータ27を逆転駆動させ、クランクシャフト9をアイドルストップ直前の圧縮上死点の手前(逆転時)となる回転角度まで逆転させる(スイングバック)。
【0045】
スイングバック制御部63は、エンジン1の再始動時におけるクランクシャフト9の助走距離を伸ばし、圧縮上死点を乗り越えるための正転トルクが小さくて済む位置までクランクシャフト9を逆転させる。その後、アイドルストップ制御部62がACGスタータ27を正転駆動させ、クランクシャフト9を改めて正転させると共に、点火装置35及び燃料噴射装置36を改めて作動させることで、エンジン1が再始動される。
【0046】
スイングバック制御部63は、ステージ判定部64、ステージ通過時間検知部65、逆転制御部66及びデューティー比設定部67を有する。
ステージ判定部64は、ローター角度センサー28の出力信号に基づいて、クランクシャフト9の一回転をステージ#0〜#35の36ステージに分割し、ローター角度センサー28が点火パルサーとして発生するパルス信号の検知タイミングを基準ステージ(ステージ#0)として現在のステージを判定する。
ステージ通過時間検知部65は、ステージ判定部64が新たなステージを判定してから次のステージを判定するまでの時間に基づいて、当該ステージの通過時間Δtnを検知する。
【0047】
逆転制御部66は、ステージ判定部64による判定結果及びステージ通過時間検知部65により検知された通過時間Δtnに基づいて、ACGスタータ27の逆転駆動指令を発生する。
デューティー比設定部67は、ステージ判定部64による判定結果に基づいて、モータードライブ回路61の各パワーFETに供給するゲート電圧のデューティー比を動的に制御する。
【0048】
次に、ワンウェイクラッチ40について、
図4〜
図8を参照して説明する。
図4、
図5を参照し、ワンウェイクラッチ40は、クランクシャフト9と同軸の円環状のもので、クラッチアウター21aの内周側カラー部41に一体回転可能に外嵌する内輪43と、クラッチインナー21bの外周側カラー部42に一体に設けられる外輪44と、内外輪43,44間に配置される内輪アウター部材45と、を有する。以下、ワンウェイクラッチ40の軸方向をクラッチ軸方向、径方向をクラッチ径方向、周方向をクラッチ周方向という。図中矢印Fはクランクシャフト9の正転方向、矢印Rはクランクシャフト9の逆転方向をそれぞれ示す。なお、外輪44は、外周側カラー部42と一体ではなく、外周側カラー部42に一体回転可能に内嵌するものであってもよい。
【0049】
内輪アウター部材45は、内外輪43,44間のトルク伝達要素である複数のローラ(移動体)46と、内輪43側の回転による遠心力を受けてローラ46をクラッチ径方向外側へ押圧し、ローラ46をワンウェイクラッチ40がワンウェイ作動する位置まで移動させる複数の錘体48と、を保持する。内輪アウター部材45は、内周側から順に錘体48、ローラ46を収容する収容空間部45gを形成する。収容空間部45gは、外周側が逆転方向側に位置するように屈曲し、その逆転方向側はローラ46を噛み込ませる楔状空間部49とされる。収容空間部45gの内周側端には、内輪43の外周面に形成された凹部52が連なる。凹部52には、収容空間部45gに臨むリフト面45cが形成される。
【0050】
内輪アウター部材45は、収容空間部45gに収容されたローラ46と錘体48とを逆転方向側から正転方向側へ付勢するコイルスプリング等からなる付勢部材47を保持する。収容空間部45g、ローラ46、錘体48及び付勢部材47は、それぞれクラッチ周方向で等間隔に複数配置される。
【0051】
内輪43は、外周面の一部に、クラッチ周方向に長さを有して凹状の付勢部材収容部43aを形成しており、外周面の他の一部に、回転係合部50の一部を構成する凹状の外周係合部43bを形成する。
内輪アウター部材45は、内周面の一部に、クラッチ周方向に長さを有して凹状の付勢部材収容部45dを形成しており、内周面の他の一部に、外周係合部43bにクラッチ周方向で所定量ストローク可能に係合するとともに回転係合部50の他の一部を構成する凸状の内周係合部45eを形成する。
付勢部材収容部45dと付勢部材収容部43aとには、回転係合部50の残りの一部を
構成するコイルスプリング等からなる内輪付勢部材51が収容される。
【0052】
内輪アウター部材45は、内周係合部45eが外周係合部43bに係合した状態で、複数のローラ46、付勢部材47及び錘体48とともに内輪43と一体回転可能であって、内輪43への所定以上の正転入力で内輪43の相対的な正転を許容する。このとき、外周係合部43bは、内輪付勢部材51に蓄積されている弾性反発力に抗して、係合初期位置A1(
図6参照)から内輪43の正転方向へ、内周係合部45eに対して許容される所定量S1だけストロークする(
図7参照)。
【0053】
外輪44は、平坦な円筒状の内周カム面45aを形成する。内輪アウター部材45(又は内輪43)は、内周カム面45aとの間で転動するローラ46を圧接して非転動状態(ロック状態)とする複数の外周カム面45bを形成する。外周カム面45bは、内輪43の接線方向に対して、逆転方向側ほど内周カム面45aに近付くように僅かに傾斜し、ワンウェイを機能させる形状を形成する。内周カム面45aと外周カム面45bとの間には、内輪43の回転方向によってローラ46を移動させて、ローラ46を圧接せずに転動状態(解放状態)に置くか、ローラ46に圧接して非転動状態(ロック状態)に置くか、を切り替え可能とする楔状空間部49が形成される。
【0054】
後述するワンウェイ作動状態において、楔状空間部49では、外輪44に対する内輪43の正転(矢印F方向の回転)、又は内輪43に対する外輪44の逆転(矢印R方向の回転)によって、ローラ46が前記ロック状態となる。これにより、複数のローラ46を介して内外輪43,44間のトルク伝達が可能となる。外輪44に対する内輪43の逆転、又は内輪43に対する外輪44の正転では、楔状空間部49でローラ46が前記解放状態となり、内外輪43,44間のトルク伝達が不能となる。
【0055】
内輪アウター部材45における収容空間部45gの外周側には、内輪43の回転時に遠心力を受ける錘体48を、クラッチ径方向外側に移動するほど逆転方向に移動させるように案内する錘作動面45hが形成される。
【0056】
内輪43の外周で収容空間部45gの内周端側には、錘体48のクラッチ径方向内側を入り込ませる凹部52が形成される。
凹部52には、錘作動面45hと対向するようにリフト面45cが形成される。リフト面45cは、錘作動面45hと同様、クラッチ径方向外側ほど逆転方向に位置するように傾斜した面であるが、錘作動面45hよりも内輪43の接線方向に対する角度が小さい。
【0057】
錘体48の外周側かつ逆転方向側の端部には、正転方向に付勢されたローラ46が当接する。これにより、特定の回転数以下では、錘体48は遠心力に抗する付勢部材47の付勢力によって凹部52内に押し込まれる。このとき、錘体48の内周側かつ逆転方向側の端部はリフト面45cに当接する。保持器45の軸方向両側面には、環状の保持プレート54が固定され、収容空間部53内のローラ46、錘体48及びスプリング47を脱落不能とする。
【0058】
図6を参照し、ローラ46は、錘体48から押圧されない状態では、付勢部材47の付勢力によって収容空間部45gの正転方向側に押し込まれる。このとき、ローラ46の外周面は、外周カム面45b及び内周カム面45aの少なくとも一方との間に隙間を形成する。この状態で、内外輪43,44が正逆何れに相対回転しても、ローラ46が楔状空間部49において圧接されず、常に転動可能となる。すなわち、ローラ46が、収容空間部45gの正転方向側に押し込まれた位置にあるときは、ワンウェイ作動する状態にない。
【0059】
図7を参照し、内輪43側の回転により錘体48に所定以上の遠心力が作用すると、錘体48が錘作動面45hに沿って外周側かつ逆転方向へ移動し、ローラ46を付勢部材47の付勢力に抗して逆転方向へ移動させる。ローラ46は、逆転方向へ所定量移動し、楔状空間部49の所定位置(ワンウェイ作動位置)に至ることで、外周カム面45b及び内周カム面45aに接した状態となる。この状態で、内輪43が正転方向に回転すると(又は外輪44が逆転方向に回転すると)、ローラ46が楔状空間部49において圧接されて非転動状態になる。
【0060】
ここで、ローラ46が、錘体48のクラッチ径方向外側への移動による押圧に伴い、逆転方向へ所定量移動して外周カム面45b及び内周カム面45aに接した状態を、ワンウェイクラッチ40のワンウェイ作動状態(ワンウェイ作動が可能な状態)という。また、ワンウェイ作動状態からさらに、外輪44に対する内輪43の正転、又は内輪43に対する外輪44の逆転によって、ローラ46が圧接されて非転動状態となり、内外輪43,44間のトルク伝達が可能になることを、ワンウェイクラッチ40のロック作動という。なお、外輪44に対する内輪43の逆転、又は内輪43に対する外輪44の正転では、ワンウェイ作動状態か否かによらず、ローラ46が圧接されずに常に転動可能となり(ワンウェイクラッチ40がロック作動せず)、内外輪43,44間のトルク伝達が不能になる。
【0061】
ローラ46を付勢部材47の付勢力に抗してワンウェイ作動状態となる位置まで移動させるほどの遠心力が錘体48に作用しない場合(クラッチアウター21aの回転停止時及び低速回転時に相当)、ワンウェイクラッチ40がワンウェイ作動状態にならず、外輪44に対する内輪43の正転、又は内輪43に対する外輪44の逆転であっても、ローラ46が圧接されず常に転動可能となり、内外輪43,44間のトルク伝達が不能になる。
【0062】
図8は、ワンウェイクラッチ40の作動制限の設定概念を示し、横軸をクランクシャフト9と同軸の各要素の回転速度として、ワンウェイクラッチ40の作動制限のかかる領域と、スイングバックの回転速度域と、キックによるクランク回転速度域と、を示す。スイングバックの回転速度域の幅は、クランクの位相等を考慮し、キックによるクランク回転速度域の幅は、一般運転者のキックのばらつきも含めて想定したものである。なお、スイングバックは逆回転だが、遠心力を活用する回転作動型のワンウェイクラッチ40の場合は、正逆回転によらず、回転速度の絶対値によるので、横軸は各要素の回転速度の絶対数値として設定概念を表している。
【0063】
図8に示すように、スイングバックの回転速度域より上の回転速度で、かつキックスタータ16Aの回転想定域内の回転速度V1にて、ワンウェイクラッチ40のロック作動の制限とワンウェイ作動状態とが切り替わるように設定される。
このように設定することにより、遠心式の発進クラッチを有する小型車両用の内燃機関に、キックスタータ16Aを装備するために、伝動軸上にワンウェイクラッチ40を設けたものであっても、始動電動機兼用の発電機装置を装着し、高効率のスイングバック制御を行うことができる。
【0064】
本実施形態では、内輪の回転速度が速度V1より小であっても、キックを踏み込む勢いをもって内輪が正転すれば、リフト面45cの作用によりワンウェイクラッチ40が係合する(ワンウェイ作動状態となる)。これにより、キックの踏み込み初期から十分なストロークをもってクランキングを行うことができる。
【0065】
特許文献3のワンウェイクラッチでは、キックスタータで始動する際、キックスタータの回転想定域の内、速度V1より上の回転速度域(実線で示す領域)でのみキック駆動が有効になるので、クランキングのキックストロークが少なくなる。
一方、本実施形態のワンウェイクラッチでは、キックの踏み込みの勢いを利用してワンウェイ作動状態となるので、キックスタータの回転想定域の内、速度V1より低い回転速度域(破線で示す領域)からキック駆動が有効になり、クランキングのキックストロークが確保される。
【0066】
図9は、ワンウェイクラッチ40の第二実施形態の要部拡大図を示す。
図9に示すように、本実施形態では、内輪43の付勢部材収容部43aの逆転方向側の一端部に、内輪アウター部材45の付勢部材収容部45d内に突出する凸部43cを形成する。これに対して、内輪アウター部材45の付勢部材収容部45dの正転方向側の他端部に、内輪43の付勢部材収容部43a内に突出する凸部45iを形成する。
【0067】
凸部43cと凸部45iとは、内輪43に対する内輪アウター部材45の組付け時に両者の位置合わせを容易にする機能と、内輪付勢部材51の弾性変形時等での安定化を図る機能とを有する。両凸部43c,45iは、第一実施形態の外周係合部43b及び内周係合部45eに代わり、回転係合部50の一部を構成する。
【0068】
このように、エンジン1においては、機関停止後にクランクシャフト9を所定位置まで逆転させるスイングバック制御におけるクランクシャフト9の低速の逆転時に、ワンウェイクラッチ40におけるトルク伝達のためのロック作動を制限するために、クランクシャフト9から機関出力部23への伝動経路に遠心クラッチ21及びワンウェイクラッチ40を有する既存の内燃機関の構成を大きく変えることなく、エンジンブレーキを利用可能とし、かつ遠心クラッチ21の機関出力部23側のクラッチアウター21aを用いたキックスタータ16Aを装備可能とする。キック始動時には、回転作動型のワンウェイクラッチ40でありながら、回転速度が低くてもロック作動を可能とし、キックの踏み込みストロークを有効利用できる。
【0069】
以上説明したように、上記実施形態におけるワンウェイクラッチ40は、伝動筒21d及び内輪43が停止又は所定未満の速度で回転する状態では、ローラ46が付勢部材47の付勢力により両カム面45a,45bへの圧接可能位置から離脱し、内外輪43,44が正逆何れに相対回転しても内外輪43,44間のトルク伝達はなされない。一方、伝動筒21d及び内輪43が所定以上の速度で回転する状態では、その遠心力で錘体48が外周側に移動し、ローラ46が付勢部材47の付勢力に抗して両カム面45a,45bへの圧接可能位置に移動して、ワンウェイクラッチ40がワンウェイ作動可能となる。すなわち、後者の状態において、内輪43に対する外輪44の正転時は、ローラ46が両カム面45a,45bに圧接されずに内輪43にトルクが伝達されず、外輪44に対する内輪43の正転時は、ローラ46が両カム面45a,45bに圧接されて外輪44にトルクが伝達される。そして、内輪43への所定以上の正転入力により、内輪アウター部材45に対して内輪43が相対的に正転したときには、リフト面45cの作用により錘体48が外周側に移動し、ローラ46が付勢部材47の付勢力に抗して両カム面45a,45bへの圧接可能位置に移動する。これにより、内輪43の回転速度(回転数)が低い初期入力時でも、ワンウェイクラッチ40を速やかにワンウェイ作動させて正転トルクを伝達することができる。
【0070】
すなわち、内輪43への正転入力は、内輪43の外周係合部43bから内輪付勢部材51を介して内輪アウター部材45の内周係合部45eに伝達され、もって内輪アウター部材45と内輪43とが一体回転する。そして、内輪43への所定以上の正転入力時には、内輪付勢部材51の付勢力に抗して内輪43の外周係合部43bが内輪アウター部材45の内周係合部45eに対して所定量ストロークし、錘体48を外周側に移動させる。これにより、内輪43の初期入力時でもワンウェイクラッチ40を速やかにワンウェイ作動させるとともに、内輪アウター部材45及び内輪43の相対回転量を規定し、かつ収容空間部45g及びリフト面45c等の位置合わせを容易に行うことができる。
【0071】
また、上記ワンウェイクラッチ40においては、エンジン1の通常運転時において、クランクシャフト9の正転は、ワンウェイクラッチ40を介してはプライマリドライブギヤ20aに伝達されず、遠心クラッチ21を介してプライマリドライブギヤ20aに伝達される。また、アイドルストップ時のスイングバックでは、クランクシャフト9の逆転は、ワンウェイクラッチ40を介してはプライマリドライブギヤ20aに伝達されず、かつ回転数が低ければ遠心クラッチ21も係合せず、プライマリドライブギヤ20aには伝達されない。一方、エンジンブレーキ時には、プライマリドライブギヤ20aの正転は、その回転数が所定以上であれば、遠心クラッチ21の係合が解除されても、ワンウェイクラッチ40が係合してクランクシャフト9に伝達される。そして、キック始動時には、プライマリドライブギヤ20aの正転は、キックアーム16aの踏み降ろしの勢いがあれば、その回転数が所定未満であっても、回転入力の初期からワンウェイクラッチ40が係合し、クランクシャフト9に伝達される。このように、遠心作動式のワンウェイクラッチ40を備えた内燃機関において、キックアーム16aの踏み降ろしの初期からクランキングを可能にし、キック始動を容易にすることができる。
【0072】
なお、本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、例えば、遠心クラッチ21及びACGスタータ27の少なくとも一方がクランクシャフト9と同軸ではなく別軸に支持されてもよい。マニュアルトランスミッション4ではなく、有段式あるいは無段式のオートマチックトランスミッションを備えたエンジンに適用してもよい。
また、各実施形態においては、遠心クラッチ21のクラッチアウター21a側に、ワンウェイクラッチ40の内輪43が外嵌され、クラッチインナー21b側に、ワンウェイクラッチ40の外輪44が内嵌されているが、この配置に限定されず、遠心クラッチ21のクラッチインナー21b側にワンウェイクラッチ40の内輪43が装着され、遠心クラッチ21のクラッチアウター21a側にワンウェイクラッチ40の外輪44が装着されるものであってもよい。
また、付勢部材47や内輪付勢部材51は、図示したコイルスプリングに代えて、弾性反発力を蓄積した、例えば、ゴム部材やスポンジ部材等を適用することもできる。回転係合部50の凹凸関係は内外周で逆でもよく、かつ凹凸係合に限るものではない。
また、本発明は、自動二輪車に限らず三輪又は四輪の小型車両に適用してもよい。クランクケース2の前方にシリンダ3を突出させたエンジン1に限らずクランクケース2の上方にシリンダ3を起立させたエンジンに適用してもよい。
そして、上記各実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。