(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正部は、前記補正前飛行データに基づいて、時間間隔をおいて撮影された複数の地上の画像における重なり部分を決定する画像比較範囲決定部を備え、前記重なり部分において位置変化を調べる前記対応部分を決定する請求項1に記載の飛翔体の慣性航法システム。
前記補正部は、複数個の対応部分から算出した複数の横すべり角の分散を算出し、算出した分散が所定値以下の時にのみ、算出した前記横すべり角に基づいて、前記補正前飛行データの飛行位置および姿勢角を補正する請求項5に記載の飛翔体の慣性航法システム。
【背景技術】
【0002】
飛翔体の慣性航法システム(INS: Inertial Navigation System)として、ジャイロを有する慣性航法装置が広く使用されている。ジャイロは、3軸の回転角速度を検出し、ジンバルを使用したジャイロや、レーザージャイロ、半導体を利用した加速度センサを組み合わせたものなどが知られている。慣性航法装置は、短時間での精度は良好であるが、長時間では誤差が累積して精度が低下するという問題がある。
【0003】
さらに、ジャイロを有する慣性航法装置は、ジャイロが検出した角速度から飛行方向を検出し、加速度センサにより検出した飛行速度および高度計により検出した高度などから、位置を算出する。慣性航法装置が検出できるのは飛行方向のみであり、機首方向(飛行方向)は飛行方向に一致しているものとして飛行データを算出している。そのため、飛翔体が風により機首方向(飛行方向)を維持したまま横すべり(スライド)すると、位置ずれ分を加味して機首方向を算出するため、実際の機首方向と算出された機首方向に誤差が発生するという問題がある。
【0004】
近年、GPSを使用した移動位置検出システムが広く利用されており、飛翔体の慣性航法システムにおいて、ジャイロを有する慣性航法装置にGPS機能を付加して精度を向上することが行われている。GPSによる移動位置検出は、長時間での平均的な誤差が小さく、ジャイロを有する慣性航法装置に組み合わせることにより、長時間での誤差の累積を小さくできる。
【0005】
しかし、GPSで検出できるのは位置であり、位置変化から移動方向と移動量を検出するのみであり、上記の横すべりに起因する機首方向算出における誤差は、GPSによる移動位置検出結果を利用して補正することはできない。
【0006】
一方、特許文献1は、地上の目標物を高分解能で撮影し、画像誘導方式によって飛翔体を目標物に誘導する誘導装置を記載している。特許文献1によれば、画像安定化装置が、ジャイロの出力から算出された姿勢角に応じて目標物を追尾し、常に目標物を高分解能で撮影可能にする。
特許文献1は、横すべりに起因する機首方向算出における誤差については何ら記載していない。
【0007】
また、特許文献2は、撮影した周囲画像から道路等を走行する車両の姿勢角を標定するナビゲーションシステムを記載しているが、そもそも飛翔体について記載していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上説明したように、ジャイロによる慣性航法を利用する飛翔体の慣性航法システムでは、横すべりに起因する機首方向算出において誤差が発生するが、この誤差を低減することが難しかった。
【0010】
本発明は、横すべりに起因する機首方向算出における誤差を低減した飛翔体の慣性航法システムの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を実現するため、本発明の飛翔体の慣性航法システムは、慣性航法装置と、地上の画像を撮影する撮像装置と、慣性航法装置の検出した慣性データおよび撮像装置が撮影した地上の画像から、飛行データを算出する処理装置と、を備え、処理装置は、慣性データから補正前飛行データを算出する飛行データ算出部と、撮像装置が撮影した地上の画像の変化から、補正前飛行データを補正する補正部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、撮影した地上の画像の変化から横すべりを検出し、機首方向を含む飛行データを補正する。
【0013】
一般的なものと同様に、慣性航法装置は、3軸の回転角速度を含む慣性データを出力し、飛行データ算出部は、慣性データに加速度センサおよび高度計等からのデータを合わせて飛行速度、飛行位置、高度および姿勢角を含む補正前飛行データを算出する。
【0014】
補正部は、撮影した地上の画像の変化から検出した横すべりを利用して、補正前飛行データの飛行位置、速度および姿勢角(機首方向)を補正する。
【0015】
補正部は、時間間隔をおいて撮影された複数の地上の画像における対応部分の位置変化と、補正前飛行データにより予測される時間間隔における対応部分の画像中での位置変化の差から横すべり角を算出し、算出した横すべり角に基づいて、補正前飛行データの飛行位置、速度および姿勢角を補正する。位置変化を検出する部分は、画像中で領域分割処理等により特定し、その外形形状のマッチング処理などにより特定する。
【0016】
補正部は、補正前飛行データに基づいて、時間間隔をおいて撮影された複数の地上の画像における重なり部分を決定する画像比較範囲決定部を備え、重なり部分において位置変化を調べる対応部分を決定することが望ましい。これにより、画像処理を行う範囲が限定され、演算処理量を低減できる。
【0017】
補正部は、補正前慣性飛行データに基づいて、1つの画像において決定した対応部分に対応する部分を他の画像で探索することが望ましい。これにより、他の画像での対応部分の探索が容易になり、演算処理量をさらに低減できる。
【0018】
補正部は、複数個の対応部分の位置変化を算出し、複数個の対応部分の位置変化の平均を横すべり角の算出に使用することが望ましい。これにより、横すべり角の算出誤差を低減できる。なお、補正部は、横すべり角の算出誤差を低減できる平均以外の他の算出手法を使用してもよい。
【0019】
補正部は、複数個の対応部分から算出した複数の横すべり角の分散を算出し、算出した分散が所定値以下の時にのみ、算出した横すべり角に基づいて、補正前飛行データの飛行位置および姿勢角を補正する。もし算出した分散が所定値以上の時には、算出した横すべり角の誤差が大きいと考えられるので、補正前飛行データの飛行位置および姿勢角は補正しないようにすることが望ましい。なお、補正部は、算出した横すべり角の信頼度を評価できる分散以外の他の手法を使用してもよい。
【0020】
補正部は、補正前飛行データに基づいて、複数の地上の画像における重なり部分の画像の倍率、移動および回転を補正することが望ましい。これにより、横すべり角の算出誤差を低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、飛翔体が上空から撮影した地上の画像の変化に基づいて横すべりを算出するので、算出した横すべりに応じて位置・機首方向を補正することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、実施形態の飛翔体の慣性航法システムの概略構成を示す図である。
実施形態の飛翔体の慣性航法システム10は、航空機、ヘリコプター等の飛翔体1に搭載され、自立航法を行うための飛行データを出力する。慣性航法システム10は、慣性航法装置11と、撮像装置12と、処理装置13と、を有する。慣性航法装置11は、ジャイロおよびGPSを有する。ここでは、加速度センサや高度計など飛行軌跡に関係するデータを発生する要素も慣性航法装置11に含まれ、慣性航法装置11の出力する慣性データには速度・加速度・高度などのデータも含まれるとして説明する。撮像装置12は、可視カメラおよび/または赤外線カメラなどを有し、地上100の画像を上空から撮影する。撮像装置12は、広角の光学系により比較的広い範囲の画像を撮影する。処理装置13は、コンピュータなどでソフトウエアにより実現され、慣性航法装置11からの慣性データに基づいて、飛行位置、高度、機首方向などの飛行データを発生する。慣性航法装置11および撮像装置12は、広く知られているものが使用され、本発明を限定するものではないので、慣性航法装置11および撮像装置12についての説明は省略する。
【0024】
図2は、処理装置13の機能ブロック図である。
処理装置13は、飛行データ算出部21と、補正部22と、を有する。飛行データ算出部21は、慣性航法装置11の出力する慣性データに基づいて、飛行位置、高度、機首方向などを含む補正前飛行データを発生する。飛行データ算出部21は、慣性航法システムで広く知られているものが使用され、本発明を限定するものではないので、飛行データ算出部21についての説明は省略する。
【0025】
補正部22は、飛行データ算出部21の出力する補正前飛行データおよび撮像装置12の出力する地上の複数の撮影画像に基づいて横すべり角を算出し、補正前飛行データの位置および姿勢角を補正して飛行データとして出力する。なお、説明を簡単にするために、ここでは2つの画像に基づいて横すべり角を算出する例を説明する。
【0026】
補正部22は、画像選択範囲設定部31と、画像対応付け処理部32と、視点変換処理部33と、横すべり角算出部34と、位置及び姿勢角補正部35と、を有する。
【0027】
画像選択範囲設定部31は、撮像装置12の出力する撮影画像から横すべり角の算出に利用する画像および画像における範囲を選択する。なお、画像選択範囲設定部31から、撮像装置12に撮影タイミング等の指示を行うようにしてもよい。
【0028】
画像対応付け処理部32は、比較する画像範囲において、一方の画像で地上の物体を特徴像として決定し、他方の画像でこの物体に対応する特徴対応像を探索し、対応付ける処理を行う。対応付ける特徴像と特徴対応像の組は1つに限定されず、2組以上であることが望ましい。後述するように、特徴像の対応付けは、2つの画像の撮影間隔の間の飛行距離を考慮して行う。
【0029】
視点変換処理部33は、撮像装置12の光軸が地上に対して傾いている時の画像を、地上に対して垂直な光軸となる画像に変換すると共に、比較する画像の倍率(縮尺)を一致させるように変換する。撮像装置12の光軸が地上に対して傾くのは、機体が水平飛行している時でも機体に搭載された撮像装置12の光軸が傾いている場合や、機体の機首が地上に対して傾く場合や、機体が機首方向の軸の回りを回転する場合などがある。視点変換処理部33は、補正前飛行データから、撮影時の撮像装置12の光軸の地上に対する傾きおよび高度に基づいて、画像を線形変換する。なお、画像の倍率は、比較する2つの画像の重なり部分が同じ倍率になるように変換すればよい。
【0030】
視点変換処理部33における処理は、画像選択範囲設定部31および画像対応付け処理部32における処理を実行する前に行われる場合も、後に行われる場合もあり得る。例えば、傾きおよび倍率を合わせた後、画像選択範囲設定部31により2つの画像が重なる範囲を求め、その重なる範囲で特徴像を特定して対応する特徴対応像を探索して特定する。または、傾きおよび倍率を合わせる前に、飛行データに基づいて画像選択範囲設定部31により2つの画像が重なる範囲を求め、一方の画像の重なる範囲で特徴像をまず特定する。その後、他方の画像の重なる範囲で特徴対応像を求め、特徴像および特徴対応像の部分についてのみ傾きおよび倍率を合わせるようにしてもよい。
【0031】
横すべり角算出部34は、2つの画像中で対応付けられた特徴像と特徴対応像を、補正前飛行データに基づき、重ね合わせる。横すべりが無ければ、重ね合わせた特徴像と特徴対応像の位置は一致するはずである。特徴像と特徴対応像に機首方向に垂直な方向の差が生じていた場合、横すべりに起因するものと捉えることができ、位置ずれから横すべり角を算出することができる。
【0032】
前述のように、画像対応付け処理部32が対応付ける特徴像と特徴対応像の組は1組に限定されず、複数組であることが望ましい。特徴像と特徴対応像の組が複数組ある場合には、横すべり角算出部34は、複数組の特徴像と特徴対応像について位置調整を行い、各組について横すべり角を算出し、一例として複数組の横すべり角の平均を横すべり角とする。これにより、算出される横すべり角の誤差を低減できる。なお、平均以外の他の算出手法を使用して、横すべり角の算出誤差を低減してもよい。
【0033】
さらに、横すべり角算出部34は、一例として複数組の横すべり角の分散を算出し、算出した横すべり角の分散が所定値以下の時にのみ、算出した横すべり角を決定し、分散が所定値より大きい時には算出不能とする。これにより、算出した横すべり角の信頼度が向上する。なお、分散以外の他の手法を使用して、算出した横すべり角の信頼度を評価してもよい。
【0034】
位置及び姿勢角補正部35は、横すべり角算出部34が算出した横すべり角に基づいて、補正前飛行データの位置および姿勢角を補正して飛行データとして出力する。
【0035】
以下、処理装置13の各部の処理を説明する。まず横すべり角の発生およびその影響について説明する。
図3は、横すべり角の発生および横すべり角による機首方向の誤差を説明する図である。
【0036】
飛翔体(ヘリコプター)1は、時刻tでは1Aの位置を飛行しており、横風が無い状態では機首方向Pに飛行し、時刻t+1では1Bの位置を飛行する。ここで横風があり、実際には機首方向Pから横すべり角Q傾いたP+Q方向に飛行し、時刻t+1では1Cの位置を飛行する場合が生じたとする。位置1Cを飛行している時、飛翔体1の機首方向は、方向Pを維持している。
【0037】
慣性航法装置11は、飛翔体1の飛行方向しか検出できないので、機首方向はPであるが、横風のためにP+Qの方向に飛行した場合、機首方向はP+Qであると仮定して補正前飛行データを算出する。言い換えれば、
図3では、横風がある場合、機首方向Pを算出できないという問題があり、機首方向Pを算出することが求められる。機首方向Pを算出するには、横すべり角Qを算出し、補正前飛行データの算出した飛行方向P+Qから横すべり角Qを減ずれば算出できる。
【0038】
実施形態の慣性航法システム10では、補正部22が、飛行データ算出部21の出力する補正前飛行データおよび撮像装置12の出力する地上の複数の撮影画像に基づいて横すべり角Qを算出し、補正前飛行データの算出した飛行方向(=機首方向)を補正する。さらに、その時点の速度でP+Q方向に飛行した場合と、その時点の速度でP方向に飛行し、横風の影響で横すべりした場合の飛行距離は少しではあるが差があるので、その分飛行位置を補正する。
【0039】
次に、補正部22における横すべり角の算出方法について説明する。
図4は、撮像装置で地上を撮影する様子を示す図である。
【0040】
図4では、飛翔体1は、水平に(地上に対して平行に)機首方向を維持しながら飛行しており、時刻tとt+1で、撮像装置が地上を撮影する。時刻tとt+1は、撮影した2つの画像の一部Wが重なるように、言い換えれば2つの画像に地上の同じ部分が含まれるように決定される。
【0041】
図5は、
図4のようにして撮影した2つの画像の位置関係を示す図であり、(A)は横すべりが無い場合を、(B)は横すべりがある場合を示す。
【0042】
図5の(A)に示すように、2つの画像は、撮影時刻がずれており、慣性航法装置11の出力する飛行(移動)速度に撮影の時間間隔を乗じた距離だけ飛行方向にシフトした位置関係にある。そのため、地上の位置が一致するように重ねると、図示のように、時刻tの画像に対して、時刻t+1の画像は飛行方向にずれており、2つの画像はWで示す部分で重なる。横すべりが無い場合には、2つの画像の2つの側辺(飛行方向に平行な辺)は一致する。
【0043】
これに対して、横すべりがある場合には、
図5の(B)に示すように、2つの画像は飛行方向だけでなく、飛行方向に垂直な方向にもずれ、2つの画像の2つの側辺にずれが生じる。
【0044】
図6は、2つの画像の重なり部分に存在する特徴像の対応関係を示す図であり、(A)は横すべりが無い場合を、(B)は横すべりがある場合を示す。
【0045】
図6において、2つの画像は、図示の都合で重ならないように飛行方向にさらに所定量ずらしている。T1からT4は、時刻tの画像における複数の特徴像である。
図6の(A)において、T1’からT4’は、時刻t+1の画像におけるT1からT4に対応する複数の特徴像である。
図6の(B)において、T1’’からT4’’は、時刻t+1の画像におけるT1からT4に対応する複数の特徴像である。
【0046】
図6の(A)に示すように、横すべりが無い場合には、T1’からT4’は、T1からT4を飛行方向に所定量ずらした位置関係にある。言い換えれば、飛行方向に所定量ずらさなければ、T1’からT4’は、T1からT4に重なる(一致する)。
【0047】
これに対して、
図6の(B)に示すように、横すべりがある場合には、T1’’からT4’’は、T1からT4を飛行方向に所定量ずらした上でさらに横すべりの分だけ飛行方向に垂直な方向にずらした位置関係にある。
【0048】
図7は、2つの画像をそのまま重ねた場合の、上記の特徴像T1からT4、特徴対応像T1’からT4’およびT1’’からT4’’の関係を示す図であり、(A)は横すべりが無い場合を、(B)は横すべりがある場合を、(C)はそれらを重ねた場合を、それぞれ示す。
【0049】
2つの画像をそのまま重ねた場合、
図7の(A)に示すように、T1’からT4’は、T1からT4を、時間間隔の間の飛行量だけ飛行方向にシフトした関係にある。一方、
図7の(B)に示すように、T1’からT4’は、T1からT4を、時間間隔の間の飛行量だけ飛行方向にシフトし、さらに横すべりの分飛行方向に垂直な方向にずらした関係にある。したがって、T1からT4、T1’からT4’およびT1’’からT4’’を1つに合わせると、
図7の(C)に示すように、T1からT1’に向かうベクトルとT1からT1’’に向かうベクトル、横すべり角Qをなす。他のT2〜T4についても同様である。
【0050】
以上説明したように、比較する2つの画像の一方における特徴像から、撮影の時間間隔の間の飛行量分シフトしたベクトルと、2つの画像の一方における上記の特徴像に対応する特徴対応像の位置までのベクトルのなす角が、横すべり角である。したがって、この2つのベクトルを算出し、そのなす角を算出すれば横すべり角が算出できる。横すべり角を算出するために利用する特徴像は2つの画像の重なり部分に存在するので、一方の画像で特徴像を特定した後、他方の画像で特徴対応像を探索する場合は、重なり部分に限定される。そのため、画像全体を探索するのに比べて特徴対応像を探索するのが容易で処理時間を短縮できる。
【0051】
以上、撮像装置12により撮影した画像から横すべり角を算出する基本的な処理について説明したが、その処理は、撮像装置の光軸が水平な地面に垂直で、同じ倍率で撮影されている2つの画像を比較することにより行われる。もしこの条件が満たされない時には、視点変換処理部33により2つの画像をこの条件を満たすように変換する必要がある。前述のように、視点変換処理部33における処理は、画像選択範囲設定部31および画像対応付け処理部32における処理を実行する前に行われる場合も、後に行われる場合もあり得る。ここでは、画像選択範囲設定部31および画像対応付け処理部32における処理を実行する前に行われる場合を例として説明する。
【0052】
図8は、飛翔体1の高度が異なる場合の影響を説明する図である。
図8に示すように、撮像装置の画角が同じ場合、飛翔体1の高度が低い場合は地上の撮像範囲は狭く、高度が高い場合は地上の撮像範囲は広くなる。
【0053】
図9は、時間間隔をおいて撮影される2つの画像の高度の違いによる重なり部分Wの大きさの違いを説明する図である。
【0054】
いま、飛翔体1が同じ飛行速度N(m/sec)で飛行しており、1秒(sec)間隔で2つの画像を撮影する場合を考える。飛行速度が同じであるから、2つの画像の中心間の距離は、飛翔体1の高度が低い場合も高い場合も同じである。しかし、飛翔体1の高度が低い場合は撮影範囲が狭く、高い場合は撮影範囲が広いため、2つの画像の重なり部分の幅Wは、飛翔体1の高度が低い場合は狭く、高い場合は広くなる。本発明では、撮影して比較する2つの画像は重なり部分を有することが必要であり、十分な精度で横すべり角を算出するには、重なり部分がある程度以上の幅を有することが求められる。そこで、撮像装置の光学系の特性、飛翔条件に応じて、適度な重なりを持った2つの画像を取得できるように、撮像レート(撮影の時間間隔)を設定する必要がある。
【0055】
図10は、比較する2つの画像を撮影する時の高度が異なる場合を示す図である。
図10では、飛翔体1が上昇中に所定の時間間隔で2つの画像を撮影した場合であり、最初に撮影された画像がAであり、後で撮影された画像がBである。高さが異なるので、画像の倍率も異なる。ここでの倍率は、地上の所定距離とそれに対応する画像上の距離の比であり、高度が2倍になれば倍率は1/2倍になる。例えば、飛翔体1の高度が500mの時には地上で10mの距離が画像では10mmとした場合,倍率=1/1000であり、高度が1000mの時には地上で10mの距離が画像では5mmとなり、倍率=1/2000であり、倍率は1/2となる。
【0056】
視点変換処理部33は、比較する2つの画像の倍率を一致させるように倍率を変換する。この変換は、比較する2つの画像の重なり部分の倍率を一致させればよく、2つの画像を撮影する時の高度差に応じて倍率の調整値を設定する。例えば、飛翔体は同じ高度で飛行しているが、地面が斜めの場合があるが、この場合も、比較する2つの画像の重なり部分は飛翔体に対して同じ距離であり、倍率は同じである。
【0057】
図10に示すように、画像の倍率が異なるため、画像Aの特徴像と画像Bの特徴対応像の大きさも異なる。上記のように、視点変換処理部33により2つの画像の倍率が一致するように変換すると、特徴像と特徴対応像の大きさも一致する。
【0058】
図11は、倍率調整により特徴像および特徴対応像の倍率変化を示す図である。
図11において、倍率が不一致のため、画像Aの特徴像と画像Bの特徴対応像の大きさは異なるが、2つの画像AとBを撮影した時の高度差に応じて画像Aの倍率を画像Bの倍率に一致するように画像A’に変換する。画像A’における特徴像と、画像Bの特徴対応像の大きさは一致し、対応関係を正確に判定できる。
【0059】
なお、高度だけでなく、撮像装置の光軸が、2つの画像の撮影時で異なる場合がある。このような場合には、視点変換処理部33は、撮像装置12の光軸が地上に対して傾いている時の画像を、地上に対して垂直な光軸となる画像に変換する。
【0060】
補正部22で横すべり角算出のために利用する特徴像および特徴対応像は、2つの画像の重なり部分にのみ存在する。重なり部分の範囲は、補正前飛行データから概略知ることができる。
【0061】
図12は、特徴像および特徴対応像の探索範囲を説明する図である。
図12において、Aが時刻tに撮影された画像の一部で、Bが時刻t+1に撮影された画像の一部で、画像AとBは、中心が飛行距離に相当する分、離されて配置されているとする。画像AとBの重なっている部分が重なり部分であり、Tが画像Aにおける特徴像を、T’が画像Bにおける特徴対応像を示す。特徴像Tおよび特徴対応像T’を特定し探索するのは重なり部分に相当する枠Cで示した範囲である。したがって、特徴像Tおよび特徴対応像T’を特定し探索する範囲は狭く、探索が容易で処理時間は短い。
【0062】
特徴像は、重なり部分において、例えば、地上の構造物等の外形等が特定しやすい画像要素を選択することが望ましい。特徴像と特徴対応像が対応するか否かの判定は、例えばパターンマッチングにより行われる。一致度が高いものが選択され、一致度に応じて、後述する信頼度を設定してもよい。
【0063】
特徴像は、1つでも横すべり角の算出は可能であるが、複数の特徴像を特定し、複数の特徴像と特徴対応像の組のそれぞれから横すべり角を算出し、それらの平均から横すべり角を決定することが望ましい。なお、算出した複数の横すべり角の中間値や最小自乗近似等を算出する平均以外の他の算出手法を使用してもよい。また、算出した複数の横すべり角について分散を算出し、分散に応じて信頼度を設定してもよい。これについても後述する分散以外の他の手法を使用して、算出した横すべり角の信頼度を評価してもよい。
【0064】
上記の例では、視点変換処理部33により重なり部分の2つの画像の位置および倍率を合わせる処理を行った後、特徴像および特徴対応像を対応付ける処理および横すべり角の算出処理を行ったが、先に特徴像および特徴対応像を対応付ける処理を行うことも可能である。この場合、2つの画像の重なり部分の大まかな位置関係は補正前飛行データからわかっているので、一方の画像の重なり部分から特徴像を決定し、他方の画像で特徴対応像を探索し対応付ける。その後、特徴像および特徴対応像の部分についてのみ視点変換処理を行うようにしてもよい。
【0065】
この場合も、特徴像に対する特徴対応像の位置は補正前飛行データから大まかに判明しているのでその範囲を探索すればよく、探索は容易である。特に、1組の特徴像と特徴対応像の対応関係が判明すると、他の特徴像および特徴対応像の組も類似の位置関係を有していると推定されるので、探索は一層容易である。
【0066】
位置および姿勢角補正部35は、横すべり角算出部34の算出した横すべり角に応じて補正前飛行データの機首方向および飛行位置を補正するが、上記の信頼度が低い場合には補正を行わないようにすることが望ましい。
【0067】
信頼度は、上記の複数の特徴像と特徴対応像の組がある場合の複数の横すべり角の分散や、特徴像と特徴対応像の一致度を利用する。また、横すべり角の算出に用いた特徴像と特徴対応像の組数を利用してもよい。さらに、視点変換処理部33の変換処理時のシフト量の大きさを利用してもよい。視点変換処理部33の変換処理時のシフト量が大きくなるのは、撮像装置の光軸が2つの画像の撮像時に大きく変化している場合であり、例えば飛翔体が旋回する場合などが考えられる。このような場合には、視点変換しても2つの画像の重なり範囲内での対応は部分的に大きく異なることが考えられるので、信頼度が低いと判断して機首方向および飛行位置の補正は行わないようにすることが望ましい。さらに、2つの画像の撮像時に機首方向が変化していない場合に限定して、機首方向および飛行位置の補正を行うようにしてもよい。このように、何らかのパラメータを設定し、パラメータに応じて機首方向および飛行位置の補正の有無を決定することが望ましい。