(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249884
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】バリウム化合物を含む粉末状組成物
(51)【国際特許分類】
C01F 11/44 20060101AFI20171211BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
C01F11/44
C01B33/12 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-111939(P2014-111939)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-224178(P2015-224178A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高崎 淳史
(72)【発明者】
【氏名】平郡 洋司
(72)【発明者】
【氏名】原 孝志
(72)【発明者】
【氏名】高木 良太
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−362921(JP,A)
【文献】
特開2014−009122(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/027617(WO,A1)
【文献】
特開平05−310409(JP,A)
【文献】
特開2003−201113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/00 − 11/48
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウム化合物に、多孔質シリカと非多孔質シリカを含有させてなり、前記多孔質シリカはBET比表面積が200m2/g以上であることを特徴とする粉末状組成物。
【請求項2】
バリウム化合物が硝酸バリウムであることを特徴とする請求項1記載の粉末状組成物。
【請求項3】
非多孔質シリカは、平均粒子径が3〜300μmであることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一項に記載の粉末状組成物。
【請求項4】
非多孔質シリカが珪砂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粉末状組成物。
【請求項5】
バリウム化合物の配合量が、90〜99質量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の粉末状組成物。
【請求項6】
多孔質シリカの配合量が、非多孔質シリカ100重量部に対して10〜40重量部であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の粉末状組成物。
【請求項7】
バリウム化合物に、多孔質シリカと非多孔質シリカを添加し乾式で混合処理することにより調製されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の粉末状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸バリウムの非危険物化ができ、また保存安定性に優れたバリウム化合物を含有する粉末状組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バリウム化合物は、ガラス原料、火薬、発煙筒、セラミックの原料等に用いられている。バリウム化合物は保管の際に経時的な変化を受け徐々に固結が起こり、場合によっては取扱いが困難になる場合がある。
一方、バリウム化合物のうち、硝酸バリウムは、可燃物を酸化して、激しい燃焼や爆発を起こす恐れがあり、消防法上の危険物第一類(酸化性固体)と判定され、輸送及び保管に大幅な法的制約を受けている。
【0003】
このため、硝酸バリウム等のバリウム化合物のメーカーでは、固結を防止し、且つ爆発や燃焼の危険性を低減させることで、輸送及び保管にかかる費用等の管理コストの低減化を図る試みもなされている。
【0004】
下記特許文献1にはバリウム化合物の固結防止法として、バリウム化合物に対して、BET比表面積が100〜400m
2/gの微粒子ケイ酸を添加することが提案されている。また、下記特許文献2にはバリウムの固結防止法として、バリウム化合物に疎水基を表面に有するシリカ粒子を添加する方法が提案されている。
【0005】
硝酸バリウムを非危険物化する方法としては、例えば、下記特許文献3には、硝酸塩の外側に、該硝酸塩の表面に形成した酸素封止剤のコーティング層を介してシリカを付着させる方法が提案されている。また、下記特許文献4には、硝酸バリウムに疎水性シリカを含有させる方法が提案されている。
【0006】
下記特許文献1の方法によれば、安価なシリカを用いるため工業的に最も有利な方法ではあるが、梅雨場や夏場の高温多湿の環境下においてバリウム化合物の固結が生じやすく、また、硝酸バリウムを非危険物化することも難しい。
また、下記特許文献2〜4の方法によれば、固結防止及び非危険物化方法として高価なものとなるため工業的に有利でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002―362921号公報
【特許文献2】特開2014−9122号公報
【特許文献3】特開2013−60310号公報
【特許文献4】特開2014−55098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、工業的に有利な方法で梅雨場〜夏場の高温多湿の環境下においてもバリウム化合物の固結を防止することができ、また、硝酸バリウムを非危険物化することができるバリウム化合物を含む粉末状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、バリウム化合物に、
特定のBET比表面積を有する多孔質シリカと非多孔質シリカを併用して含有させたものが、高温多湿の環境下においてもバリウム化合物の固結を防止することができ、また、硝酸バリウムを非危険物化することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、本発明が提供しようとする粉末状組成物は、バリウム化合物に、多孔質シリカと非多孔質シリカを含有させてな
り、前記多孔質シリカはBET比表面積が200m2/g以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバリウム化合物を含む粉末状組成物によれば、安価なシリカを用いることから、工業的に有利であり、また、梅雨場〜夏場にかけての高温多湿の環境下においてもバリウム化合物の固結を防止することができ、更に硝酸バリウムを非危険物化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明のバリウム化合物を含む粉末状組成物(以下、単に「粉末状組成物」と言うことがある。)は、バリウム化合物に、多孔質シリカと非多孔質シリカを併用して含有させたものである。
【0013】
本発明の粉末状組成物に係るバリウム化合物としては、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム等が挙げられる。これらバリウム化合物のうち、特に硝酸バリウムが好ましく用いられる。また、これらバリウム化合物は含水物であっても無水物であってもよい。
【0014】
また、バリウム化合物は、工業的に入手可能なバリウム化合物であれば、その粒子径等の諸物性は特に制限されるものではないが、通常、工業的に入手可能なバリウム化合物の平均粒子径は篩分による平均粒子径が50〜500μmであり、本発明に係る粒末状組成物でもこの平均粒子径の範囲のものを好適に用いることができる。
【0015】
本発明に係る粉末状組成物では、多孔質シリカと非多孔質シリカの2種類のシリカ粒子(以下、単に「シリカ粒子」と言うこともある。)を用いることに一つの特徴がある。
【0016】
本発明の粉末状組成物に係る多孔質シリカは、BET比表面積が200m
2/g以上、好ましくは200〜1000m
2/g、いっそう好ましくは400〜1000m
2/gである。多孔質シリカのBET比表面積が当該範囲であることにより、粒状組成物の固結防止性をより向上させることができ、また、非危険物化においてもロット間のバラツキもなく、より安定した品質の粉末状組成物を得ることが容易になる。
なお、本発明の粉末状組成物に係る多孔質シリカの平均粒子径については、特に制限はないが、通常、前記範囲のBET比表面積のものは、一次粒子が凝集し、二次粒子を形成しているため、多孔質シリカの一次粒子の粒径を測定することは極めて技術的に困難であるが、粒子形状が球と仮定して比表面積と真密度値を用いて算出される一次粒子の平均粒子径が多くの場合15nm以下である。
【0017】
本発明の粉末状組成物に係る多孔質シリカは、市販品を用いることが出来、例えば、東ソーシリカ社、エボニックインダーストリーズ社、キャボット社、トクヤマ社、旭化成ワッカーシリコーン社等から上記諸物性を有する多孔質シリカが市販させている。
【0018】
多孔質シリカの配合量は、組成物中0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜5質量%、いっそう好ましくは0.3〜3質量%である。この理由は、多孔質シリカの配合量が組成物中0.1質量%より小さくなると固結防止の効果が弱くなる傾向があり、一方、微粒子シリカの配合量が10質量%より大きくなってもその効果が飽和し、また、用途によっては、多孔質シリカは不純物となる傾向があるからである。
【0019】
本発明の粉末状組成物に係る非多孔質シリカは、レーザー回折法により求められる平均粒子径が3〜300μm、好ましくは5〜250μmである。この理由は、非多孔質シリカの平均粒子径が300μmより大きくなるとバリウム化合物に対して粒子径が過大となり混合精度に問題が生じる可能性がある。一方、非多孔質シリカの平均粒子径が3μmより小さくなると凝集による混合ムラが生じやすくなるからである。
なお、本発明の係る非多孔質シリカとは、BET比表面積が5m
2/g以下のシリカを意味し、粒子表面に全く細孔を有しないと言うことではない。
【0020】
本発明の粉末状組成物に係る非多孔質シリカは合成品に限らず、珪砂、珪藻、珪石等の天然品であってもよい。本発明の粉末状組成物に係る非多孔質シリカは、これらのうち、特に高純度品が工業的に安価に入手でき、また、硝酸バリウムを少ない添加量で効率よく非危険物化できると言う観点から珪砂が好ましく用いられる。
本発明の粉末状組成物に係る非多孔質シリカも、市販品を用いることが出来、例えば、珪砂は東海工業社、日瓢礦業社、JFEミネラル社、トウチュウ社、宇部サンド工業社等から市販されている。
【0021】
非多孔質シリカの配合量は、組成物中1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%である。この理由は、非多孔質シリカの配合量が組成物中1質量%より小さくなると、硝酸バリウムの非危険物化が難しくなる傾向があり、一方、非多孔質シリカの配合量が10質量%より大きくなってもその効果が飽和し、また、用途によっては、非多孔質シリカは不純物となる傾向があるからである。
【0022】
本発明の粉末状組成物を高純度品が要求される分野に用いる場合には、バリウム化合物、多孔質シリカ及び非多孔質シリカは高純度品を用いることが好ましい。また、多孔質シリカ及び非多孔質シリカは結晶質のものであっても非晶質のものであってもよい。
【0023】
なお、本発明の粉末状組成物に係るシリカ粒子は、工業的な有利性から表面処理されていないものを好ましく用いるが、例えば、アルキル基などの有機疎水基を表面に有する疎水性シリカ粒子を本発明から除外するものではない。
【0024】
本発明に係る粉末状組成物は、バリウム化合物の配合量が、90〜99質量%で、また、シリカ粒子(多孔質シリカ+非多孔質シリカ)の配合量が、組成物中1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%とすることがバリウム化合物の配合比を高める観点から好ましい。
また、多孔質シリカと非多孔質シリカの配合量は、非多孔質シリカ100重量部に対して多孔質シリカが10〜40重量部、好ましくは15〜30重量部であることが混合精度がより安定することに加えて、硝酸バリウムを
非危険物化することができ、また、高温多湿の環境下において、固結を抑制する効果のバランスに優れる観点から好ましい。
【0025】
本発明に係る粉末状組成物は、例えば、バリウム化合物、多孔質シリカ及び非多孔質シリカを機械的混合手段にて乾式法で混合処理することにより調製することが出来る。
【0026】
混合処理する装置は、各成分を均一混合できる装置であれば、特に制限されるものではないが、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機,コニカルブレンダー,ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等を使用することができる。
【0027】
本発明に係る粉末状組成物は、高温多湿の環境下においてもバリウム化合物の固結を防止し、また、硝酸バリウムを非危険物とすることができるため、輸送等における安全性を確保しつつ、保存性にも優れている。
バリウム化合物の固結防止には、通常、高価な多孔質シリカを組成物中、少なくとも3.5重量%以上添加しないと優れた固結防止効果が得られないが、本発明に係る粉末状組成物では、安価な珪砂等の非多孔質シリカを併用して用いることで、高価な多孔質シリカの添加量を3重量%以下に減らした状態においても優れた固結防止効果を発現し、更に硝酸バリウムを非危険物化することができるという工業的に有利な利点も有する。
本発明において、こうした作用機構は不明であるが、多孔質シリカとバリウム化合物の混合処理の際に、非多孔質シリカが存在すると、非多孔質シリカの粒子が媒体となって、バリウム化合物の粒子表面に、多孔質シリカ粒子が強固に付着した濃密なシリカ粒子のコーティング層が均質に形成されるため、バリウム化合物が直接、酸素や水分と接触することを抑制し、更に、非多孔質シリカは外部からの衝撃を吸収し、コーティングされたバリウム化合物を保護する作用で、非危険の落球式打撃感度試験での非危険物化の判定にも寄与しているものと本発明者らは推測している。
【0028】
本発明の粉末状組成物は、ガラス原料、火薬、発煙筒、セラミックの原料等に好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<バリウム化合物試料>
実施例で用いたバリウム化合物は、篩分による平均粒子径が407μmの市販の硝酸バリウムを用いた。
【0030】
<シリカ粒子試料>
下記の表1に示す諸物性の市販のシリカ粒子を用いた。なお、平均粒子径はレーザー回折法により測定した。
【表1】
【0031】
{実施例1〜5及び比較例1〜5}
前記の硝酸バリウム及びシリカ粒子試料を表2に示す配合割合となるように卓上型V型混合機により10分間混合処理を行い粉末状組成物試料を調製した。
【0032】
【表2】
【0033】
<非危険物に関する評価>
実施例及び比較例で得られた粉末状組成物試料について、日本国の消防法に準拠した方法に従い燃焼試験及び落球式打撃感度試験を行った。
燃焼試験では、焼成時間が短いものほど酸化力が強いと判定され、2種類の標準物質(過塩素酸カリウム、臭素酸カリウム)との比較で下記のとおりランク付けを行った。また、その結果を表3に示す。
ランク3;焼成時間が、過塩素酸カリウムの焼成時間よりも長い。
ランク2;焼成時間が、ランク3とランク1の間。
ランク1;焼成時間が、臭素酸カリウムの焼成時間以下である。
【0034】
また、落球式打撃感度試験では、爆発確率が高いものほど衝撃に対する敏感性が高いと判定され、2種類の標準物質(塩素酸カリウム、硝酸カリウム)を用い算出したそれぞれの50%爆点(落下高さ)より金属球を落下させ,下記のとおりランク付けを行った。また、その結果を表3に示す。
ランク3;硝酸カリウムを用いた50%爆点での爆発確率が、50%未満である。
ランク2;爆発確率が、ランク3とランク1の間。
ランク1;塩素酸カリウムを用いた50%爆点での爆発確率が、50%以上である。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、本発明の粉末状組成物は、非危険物(危険物第一種には該当しない)と認定されることが分かる。これに対して、比較例の粉末状組成物は何れにおいても危険物と判定されていることが分かる。
【0037】
<固結性に関する評価>
実施例及び比較例で得られた粉末状組成物20gを容器に入れ、蓋をしないまま、温度33℃、相対湿度70%に設定した恒温室に5日間、10日間及び30日間、それぞれ放置した後、その固結状態を評価した。
なお、表4中の固結状態の評価は、下記のことを示す。
○;さらさらした状態であり、塊が認められない。
△;塊が認められるが、手で容易に崩すことができる状態。
×;塊が認められ、手で容易に崩すことができない状態。
【0038】
【表4】
【0039】
表4の結果より、本発明の粉末状組成物は、梅雨場〜夏場に相当する高温多湿条件下においても、効果的に硝酸バリウムの固結が抑制させていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のバリウム化合物を含む粉末状組成物によれば、安価なシリカを用いることから、工業的に有利であり、また、梅雨場〜夏場にかけての高温多湿の環境下においてもバリウム化合物の固結を防止することができ、更に硝酸バリウムを非危険物化することができるため、輸送等における安全性を確保しつつ、保存性にも優れている。このため、輸送及び保管にかかる費用等の管理コストの低減化を図ることができる。