(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249900
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/52 20060101AFI20171211BHJP
A23F 5/26 20060101ALI20171211BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
C07C67/52
A23F5/26
C07C69/732 Z
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-154817(P2014-154817)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2015-134744(P2015-134744A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2017年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-262211(P2013-262211)
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 征輝
【審査官】
奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−528050(JP,A)
【文献】
特開2012−031165(JP,A)
【文献】
特開2009−124951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/52
A23F 5/26
C07C 69/732
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料クロロゲン酸類含有組成物と、エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上を混合して混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度を30〜75質量%に調整する第1の工程と、
該第1の工程により得られた混合液中の析出物を除去する第2の工程と、
該第2の工程により得られた析出物除去後の溶液を濃縮する第3の工程と、
該第3の工程により得られた濃縮液のpHを4.5以上に調整する第4の工程と、
該第4の工程により得られたpH調整溶液を分画分子量が6000〜90000の限外濾過膜で処理する第5の工程と
を含む精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第3の工程又は前記第4の工程において、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を20質量%以下に調整する、請求項1記載の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第4の工程において、濃縮液のpHを4.5〜7.5に調整する、請求項1又は2記載の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【請求項4】
原料クロロゲン酸類含有組成物が生コーヒー豆抽出物及び焙煎コーヒー豆抽出物から選ばれる1種以上を原料とするものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【請求項5】
焙煎コーヒー豆抽出物は、L値が27以上62未満の焙煎コーヒー豆から得られたものである、請求項4記載の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【請求項6】
エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上の合計使用量が原料クロロゲン酸類含有組成物の固形分に対して1〜30質量倍である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロゲン酸類は、抗酸化作用や血圧降下作用等の生理活性を有することが知られている。クロロゲン酸類の生理作用を効果的に発現させるためには、その有効量を継続して摂取することが必要であり、またそれを簡便に達成する手段として飲料がある。しかしながら、クロロゲン酸類を含有する飲料は、保存時において濁りや沈殿物が生じやすいため、商品価値を大きく低下させることがある。
【0003】
従来、コーヒー飲料やコーヒー抽出液の濁りや沈殿の抑制方法として、例えば、コーヒー水溶液を分画分子量が4,000〜50,000の限外濾過膜で濾過する方法(特許文献1)や、コーヒー抽出液又はその濃縮液を、細孔径が0.1〜3.0μmのセラミック膜フィルタで濾過する方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−63137号公報
【特許文献2】特開2002−171909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術に記載の方法は、コーヒー飲料やコーヒー抽出液の濁りや沈殿の抑制に有効であるものの、クロロゲン酸類の回収率が低いという課題があることを見出した。
したがって、本発明の課題は、濁りの発生を抑制でき、かつクロロゲン酸類を収率よく回収可能な精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み種々検討した結果、原料クロロゲン酸類含有組成物と、エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上とを混合し、混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度が特定範囲内のときに生ずる析出物を除去し、次いで析出物除去後の溶液を濃縮して濃縮液のpHを、析出物が生成し難い特定範囲内に調整した後、特定範囲内の分画分子量を有する限外濾過膜で処理することで、濁りの発生を抑制できるだけでなく、クロロゲン酸類を収率よく回収できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、原料クロロゲン酸類含有組成物と、エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上を混合して混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度を30〜75質量%に調整する第1の工程と、
該第1の工程により得られた混合液中の析出物を除去する第2の工程と、
該第2の工程により得られた析出物除去後の溶液を濃縮する第3の工程と、
該第3の工程により得られた濃縮液のpHを4.5以上に調整する第4の工程と、
該第4の工程により得られたpH調整溶液を分画分子量が6000〜90000の限外濾過膜で処理する第5の工程と
を含む精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濁りの発生を抑制でき、かつクロロゲン酸類を収率よく回収可能な精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の精製クロロゲン酸類含有組成物の製造方法は、第1の工程から第5の工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
(第1の工程)
第1の工程は、原料クロロゲン酸類含有組成物と、エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上(以下、「エタノール等」とも称する)を混合して混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度を30〜75質量%に調整する工程である。ここで、本明細書において「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸のモノフェルラキナ酸を併せての総称であり、本発明においては上記6種うち少なくとも1種を含有すればよい。なお、クロロゲン酸類の含有量は上記6種の合計量に基づいて定義される。
【0011】
原料クロロゲン酸類含有組成物としては、クロロゲン酸類が含まれていれば特に限定されないが、クロロゲン酸類を含む植物の抽出物を使用することができる。このような植物抽出物としては、例えば、ヒマワリ種子、リンゴ未熟果、コーヒー豆、シモン葉、マツ科植物の球果、マツ科植物の種子殻、サトウキビ南天の葉、ゴボウ、ナスの皮、ウメの果実、フキタンポポ、ブドウ科植物等から抽出されたものが挙げられる。なお、抽出方法及び抽出条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができる。
これらの中でも、原料クロロゲン酸類含有組成物としては、クロロゲン酸類含量等の点から、コーヒー豆の抽出物が好ましい。また、抽出に使用するコーヒー豆は、生コーヒー豆でも、焙煎コーヒー豆でもよく、これらを併用することも可能であるが、クロロゲン酸類の含量等の点から、生コーヒー豆及び浅焙煎コーヒー豆から選ばれる1種以上が好ましく、生コーヒー豆が更に好ましい。浅焙煎コーヒー豆のL値は、クロロゲン酸類の含量の点から、27以上が好ましく、29以上が更に好ましく、また風味の点から、62未満が好ましく、60以下がより好ましく、55以下が更に好ましい。浅焙煎コーヒー豆のL値の範囲としては、好ましくは27以上62未満、より好ましくは29〜60、更に好ましくは29〜55である。ここで、本明細書において「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を色差計で測定したものである。
【0012】
コーヒーの木の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のいずれでもよい。抽出方法及び抽出条件は特に限定されないが、例えば、特開昭58−138347号公報、特開昭59−51763号公報、特開昭62−111671号公報、特開平5−236918号公報等に記載の方法を採用することができる。
また、原料クロロゲン酸類含有組成物として市販のクロロゲン酸類含有製剤を使用してもよく、例えば、フレーバーホルダーRC(長谷川香料株式会社製)が挙げられる。
なお、原料クロロゲン酸類含有組成物の形態としては、例えば、液体、スラリー、半固体、固体等の種々のものが挙げられる。
【0013】
原料クロロゲン酸類含有組成物と、エタノール等との混合は、混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度が30〜75質量%となるように行うが、後述する析出物の除去の際に、混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度が上記範囲内にあればよい。
混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度は30〜75質量%であるが、濁り成分の除去、クロロゲン酸類の回収率向上の観点から、35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上が更に好ましく、50質量%以上がより更に好ましく、そして、70質量%以下が好ましく、65質量%以下が更に好ましい。かかるエタノール水溶液中のエタノール濃度の範囲としては、好ましくは35〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%、更に好ましくは45〜65質量%、より更に好ましくは50〜65質量%である。
【0014】
原料クロロゲン酸類含有組成物とエタノール等との混合方法としては、例えば、原料クロロゲン酸類含有組成物が固形物である場合には、エタノール濃度が上記範囲内のエタノール水溶液と混合すればよく、また原料クロロゲン酸類含有組成物が水溶液である場合には、混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度が上記範囲内となるように、エタノール及びエタノール水溶液から選ばれる1種以上を添加すればよい。なお、混合に使用するエタノール水溶液中のエタノール濃度は特に限定されず、適宜選択することができる。
【0015】
エタノール等の合計使用量は、濁り成分の除去、クロロゲン酸類の回収率向上の観点から、原料クロロゲン酸類含有組成物の固形分に対して、1質量倍以上が好ましく、2質量倍以上がより好ましく、3質量倍以上が更に好ましく、そして30質量倍以下が好ましく、10質量倍以下がより好ましく、5質量倍以下が更に好ましい。かかるエタノール等の合計使用量の範囲としては、原料クロロゲン酸類含有組成物の固形分に対して、好ましくは1〜30質量倍、より好ましくは2〜10質量倍、更に好ましくは3〜5質量倍である。ここで、「固形分」とは、試料を105℃の電気恒温乾燥機で3時間乾燥して揮発物質を除いた残分をいう。
【0016】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程により得られた混合液中の析出物を除去する工程である。これにより、最終的に得られる精製クロロゲン酸類含有組成物中の濁りの発生を効果的に抑制することができる。
析出物の除去方法としては、食品工業で通常使用されている方法を適用することが可能であるが、例えば、ろ過、遠心分離等の固液分離手段が挙げられる。濾過としては、例えば、濾紙濾過、膜濾過が挙げられ、濾過助剤と組み合わせてもよい。
【0017】
膜濾過による処理条件としては、一般的な濾過条件を採用することが可能であるが、膜孔径は、濾過効率及び濁り成分の除去の観点から、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.2〜5μm、更に好ましくは0.25〜2μmである。膜孔径の測定方法としては、水銀圧入法、バブルポイント試験、細菌濾過法等を用いた一般的な測定方法が挙げられ、中でも、バブルポイント試験で求めた値を用いることが好ましい。膜濾過で使用する膜の材質としては、高分子膜、セラミック膜、ステンレス膜等を挙げることができる。
【0018】
濾過助剤と組み合わせた濾過方法としては特に限定されず、珪藻土、セルロース及びこれらを組み合わせた一般的な濾過助剤及び濾過条件を採用することができる。
【0019】
(第3の工程)
第3の工程は、第2の工程により得られた析出物除去後の溶液を濃縮する工程である。
析出物除去後の溶液の濃縮は、常圧下でも、減圧下でもよく、特に限定されない。濃縮液中のエタノール濃度は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0020】
また、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度は、クロロゲン酸類の回収率向上の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、13質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が殊更に好ましく、そして0.5質量%以上が好ましく、0.75質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、1.5質量%以上がより更に好ましく、2質量%以上が殊更に好ましい。かかる濃縮液中のクロロゲン酸類濃度の範囲としては、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは0.5〜15質量%、更に好ましくは0.75〜13質量%、更に好ましくは1〜10質量%、より更に好ましくは1.5〜10質量%、殊更に好ましくは2〜10質量%である。
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度の調整方法としては、水を添加して希釈するか、あるいは更に濃縮する方法が挙げられる。なお、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度の調整は、次の第4の工程において行ってもよい。
【0021】
(第4の工程)
第4の工程は、第3の工程により得られた濃縮液のpHを4.5以上に調整する工程である。なお、濃縮液のpHは、20℃における値である。
クロロゲン酸類含有組成物は、通常pH2〜4の強酸性領域において析出物を生じやすいが、本発明においては、析出物の発生し難いpH4.5以上の条件、例えば、弱酸性から弱アルカリ性、好ましくは弱酸性〜中性のpH領域に調整する。より具体的には、濃縮液のpH(20℃)は、濁り成分の除去、クロロゲン酸類の回収率向上の観点から、5.0以上が好ましく、5.3以上がより好ましく、5.5以上が更に好ましく、またクロロゲン酸類の分解抑制の観点から、7.5以下が好ましく、7.3以下がより好ましく、7以下が更に好ましい。かかる濃縮液のpHの範囲としては、好ましくは4.5〜7.5、より好ましくは5.0〜7.3、更に好ましくは5.3〜7.0、殊更に好ましくは5.5〜7.0である。
【0022】
pH調整の際には、必要により酸又はアルカリを使用してもよい。酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸、燐酸、塩酸等の無機酸が挙げられる。アルカリとしては、例えば、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。また、酸とアルカリとを併用して所望のpHに調整することも可能である。
【0023】
(第5の工程)
第5の工程は、第4の工程により得られたpH調整溶液を分画分子量が6000〜90000の限外濾過膜で処理する工程である。
本工程では、pH調整後の濃縮液を限外濾過膜に通過させればよいが、限外濾過膜による処理は、必要により複数回行ってもよい。
限外濾過膜の分画分子量は6000〜90000であるが、濁り成分の除去、クロロゲン酸類の回収率向上の観点から、7000以上が好ましく、8000以上がより好ましく、9000以上が更に好ましく、そして80000以下が好ましく、70000以下がより好ましく、60000以下が更に好ましい。かかる分画分子量の範囲としては、好ましくは7000〜80000、より好ましくは8000〜70000、更に好ましくは9000〜60000である。
【0024】
限外濾過膜の材質としては、例えば、ポリスルフォン系、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ポリイミド系又はポリフッ化炭化水素系の高分子が挙げられる。
限外濾過膜の構造としては、例えば、平膜、スパイラル膜、中空糸膜が例示される。中でも、処理効率の観点から、スパイラル膜、中空糸膜が好適である。
このような限外濾過膜として市販品を使用することが可能であり、例えば、SIW−3014、SIW−3054(以上、ポリスルフォン膜、旭化成マイクローザ社)、AIV−3013D、ACV−3010D、ACV−3050D、AHV−3010、ACV−5010D、ACV−5050D、AIV−5010D(ポリアクリルニトリル、旭化成マイクローザ社)を挙げることができる。
【0025】
濾過方式としては、例えば、クロスフロー濾過、遠心濾過等が挙げられる。
限外濾過の条件としては、濁り成分の除去、クロロゲン酸類の回収率上場の観点から、温度は、好ましくは0〜40℃、より好ましくは3〜35℃、更に好ましくは5〜30℃である。また、圧力は、使用する膜モジュールの耐圧範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、濾過方式がクロスフロー濾過である場合、好ましくは30〜400kPa、より好ましくは50〜400kPa、更に好ましくは50〜350kPaである。一方、濾過方式が遠心濾過である場合、分離板型、円筒型、デカンター型等の遠心分離機の種類により条件を適宜設定することができるが、例えば、分離板型の場合、回転数は、好ましくは2000〜10000rpm/min、より好ましくは2500〜8000rpm/min、更に好ましくは3000〜6000rpm/minであり、時間は、好ましくは1〜120分、より好ましくは10〜90分、更に好ましくは20〜50分である。
【実施例】
【0026】
1.クロロゲン酸類(CGA)の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
・UV−VIS検出器:SPD20A(島津製作所社製)、
・カラムオーブン:CTO−20AC(島津製作所社製)、
・ポンプ:LC−20AT(島津製作所社製)、
・オートサンプラー:SIL−20AC(島津製作所社製)、
・カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト社製)。
デガッサー:DGU−20A−5(島津製作所社製)
【0027】
分析条件は次の通りである。
・サンプル注入量:10μL、
・流量:1.0mL/min、
・UV−VIS検出器設定波長:325nm、
・カラムオーブン設定温度:35℃、
・溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM HEDPO、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
・溶離液B:アセトニトリル。
【0028】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0029】
HPLCでは、コーヒー抽出液を、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A、孔径0.45μm、ジーエルサイエンス社製)にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
・モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
・モノフェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
ここで求めた6種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類含有量(質量%)を求めた。
【0030】
2.濁度の測定
試料をpH3.0、かつクロロゲン酸類濃度0.4質量%に調整し、濁度計(Turbidimeter/TN-100 EUTECH INSTRUMENTS社製)を用いて、20℃にて測定した。
【0031】
3.クロロゲン酸類(CGA)の回収量の算出方法
クロロゲン酸類の回収量は、下記式にしたがって算出した。
クロロゲン酸類の回収量(g)=A/100×B/100×C
【0032】
〔式中、Aは析出物除去後のクロロゲン酸類の回収率(%)を示し、Bは膜透過液中のクロロゲン酸類濃度(質量%)を示し、Cは膜透過液の質量(g)を示す。但し、Aは(析出物除去後の溶液中のクロロゲン酸類含有量)/(原料クロロゲン酸類含有組成物中のクロロゲン酸類含有量)×100とする。〕
【0033】
実施例1
ロブスタ種の生コーヒー豆を熱水にて抽出して濾過し、乾燥して粉末状の原料クロロゲン酸類含有組成物である「生コーヒー豆抽出物」を得た。
次に、生コーヒー豆抽出物と、生コーヒー豆抽出物に対し4倍質量のエタノール水溶液とを混合してクロロゲン酸類含有スラリーを得た。なお、エタノール水溶液中のエタノール濃度は60.0質量%であった。
次に、クロロゲン酸類含有スラリーを2号濾紙(ADVANTEC社製)を用いて濾過し、濾液を得た。
次に、ロータリーエバポレータにて濾液からエタノールを溜去した後、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.5質量%、pHを5.7に調整した後、分画分子量10,000の遠心チューブ型限外濾過膜(UF膜)に10g仕込み、回転数3000rpmで30分処理し、『精製クロロゲン酸類含有組成物』を透過液として5g得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
実施例2
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.6質量%、pHを5.7に調整した後、分画分子量30,000の遠心チューブ型UF膜を用いて処理したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
実施例3
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.6質量%、pHを5.7に調整した後、分画分子量50,000の遠心チューブ型UF膜を用いて処理したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
実施例4
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を6.0質量%、pHを5.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
実施例5
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを6.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
実施例6
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを7.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.6質量%、pHを5.7に調整した後、分画分子量5,000の遠心チューブ型UF膜を用いて処理したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
比較例2
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.6質量%、pHを5.7に調整した後、分画分子量100,000の遠心チューブ型UF膜を用いて処理したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
比較例3
エタノール水溶液に代えて水を用いたこと、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を4.9質量%に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
比較例4
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを1.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
比較例5
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを2.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
比較例6
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを3.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
比較例7
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%、pHを4.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から、生コーヒー豆抽出物の乾燥物と、60質量%のエタノール水溶液との混合して混合液中に生じた析出物を除去し、次いで析出物除去後の溶液からエタノールを溜去し、濃縮液のpHを4.5以上に調整した後、分画分子量が6000〜90000の限外濾過膜で処理することで、濁りが抑制され、かつクロロゲン酸類を収率よく回収できることがわかる。
【0048】
実施例7
エタノール濃度が40.0質量%のエタノール水溶液を使用し、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表2に示す。
【0049】
実施例8
エタノール濃度が70.0質量%のエタノール水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表2に示す。
【0050】
比較例8
エタノール濃度が20.0質量%のエタノール水溶液を使用し、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を比較例3の結果とともに表2に示す。
【0051】
比較例9
エタノール濃度が80.0質量%のエタノール水溶液を使用し、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を5.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を比較例3の結果とともに表2に示す。
【0052】
比較例10
エタノール濃度が92.0質量%のエタノール水溶液を使用し、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を4.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を比較例3の結果とともに表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から、析出物を除去する際の混合液に含まれるエタノール水溶液中のエタノール濃度を30〜75質量%とすることにより、クロロゲン酸類の回収率が向上することがわかる。
【0055】
実施例9
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を1.4質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表3に示す。
【0056】
実施例10
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を2.8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表3に示す。
【0057】
実施例11
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を8.8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表3に示す。
【0058】
実施例12
濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を11.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3から、濃縮液中のクロロゲン酸類濃度を20質量%以下に調整することで、クロロゲン酸類を収率よく得られることがわかる。
【0061】
実施例13
L50の焙煎コーヒー豆抽出物を原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、「精製クロロゲン酸類含有組成物」を得た。得られた「精製クロロゲン酸類含有組成物」について分析を行った。その結果を実施例1の結果とともに表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から、焙煎コーヒー豆抽出物を原料としても、生コーヒー豆抽出物を原料とする場合と同様にクロロゲン酸類を収率よく得られることがわかる。