(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高炉の炉頂から排出される高炉ガスにより発電を行う発電部と、前記発電部のガス入側とガス出側とを結ぶバイパス流路と、前記バイパス流路に設けられた2以上のバイパス弁とを備えた高炉の炉頂圧発電設備の制御方法であって、
前記発電部を緊急停止するに際し、緊急停止前にバイパス流路を流れる高炉ガス流量が0の場合において、
前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内を流れる高炉ガスの流量を計算し、
前記バイパス弁の、仮決め及び算出したフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた前記発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように算出するものであって、前記バイパス弁の、少なくとも弁機構の開度と、入側の圧力と、当該弁機構を流れる流体の流量との関係を示し、前記開度から前記流量を求めることができ、あるいは、前記流量から前記開度を求めることができる値であるCv値を用いて、前記バイパス弁のうち、フィードバック補償を行う前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を仮決めし、その後、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を算出し、
仮決め及び算出したフィードフォワード補償量を前記バイパス弁に適用するものとし、
2以上の前記バイパス弁のうち、少なくとも一つの前記バイパス弁についてはフィードバック補償を行い、少なくとも一つの前記バイパス弁についてはフィードバック補償を行わないものとし、
前記仮決めしたフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行う前記バイパス弁に適用するものとし、
前記算出したフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁に適用するものとし、
前記フィードバック補償は、前記発電部前圧の実績値を当該発電部前圧の目標値に一致させるように制御するものである、
ことを特徴とする高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法。
高炉の炉頂から排出される高炉ガスにより発電を行う発電部と、前記発電部のガス入側とガス出側とを結ぶバイパス流路と、前記バイパス流路に設けられた2以上のバイパス弁とを備えた高炉の炉頂圧発電設備の制御方法であって、
前記発電部を緊急停止するに際し、緊急停止前にバイパス流路を流れる高炉ガス流量が0でない場合において、
前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内及び前記バイパス流路を流れる高炉ガスの流量それぞれを計算し、
前記バイパス弁の、仮決め及び算出したフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた前記発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように算出するものであって、前記バイパス弁の、少なくとも弁機構の開度と、入側の圧力と、当該弁機構を流れる流体の流量との関係を示し、前記開度から前記流量を求めることができ、あるいは、前記流量から前記開度を求めることができる値であるCv値を用いて、前記バイパス弁のうち、フィードバック補償を行う前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を仮決めし、その後、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を算出し、
仮決め及び算出したフィードフォワード補償量を前記バイパス弁に適用するものとし、
2以上の前記バイパス弁のうち、少なくとも一つの前記バイパス弁については前記フィードバック補償を行い、少なくとも一つの前記バイパス弁については前記フィードバック補償を行わないものとし、
前記仮決めしたフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行う前記バイパス弁に適用するものとし、
前記算出したフィードフォワード補償量を、前記フィードバック補償を行わない前記バイパス弁に適用するものとし、
前記フィードバック補償は、前記発電部前圧の実績値を当該発電部前圧の目標値に一致させるように制御するものである、
ことを特徴とする高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法。
高炉の炉頂と前記発電部との間の流路に、前記高炉ガスに含まれる粉塵を除去するためのリングスリットエレメントが設けられ、前記リングスリットエレメントは、当該リングスリットエレメント内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構を備えており、
前記リングスリットエレメントの弁機構の開度とCv値とを基に、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内の高炉ガスの流量、又は、発電部内及び前記バイパス流路を流れる高炉ガスの流量それぞれを計算することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、高炉では、その上部から鉄鉱石、コークス、石灰石などの炉内装入物を層状に装入し、下部から熱風を吹込んで、鉄鉱石の還元、溶解等の一連の反応を行わせ、銑鉄を製造している。炉内装入物に関しては、高炉内で半径方向に適正なガス流速分布が得られるように投入量や粒度を調整する。また、吹き込む熱風に関しては、高炉下部の側壁に形成された羽口からの送風条件(送風温度や送風湿度など)を適切に制御する。かかる制御を適切に行い、鉄鉱石の還元、溶解等の一連の反応を効率よく進行させ、所望とする銑鉄の温度(出銑温度)が確保できるように操業を行っている。
【0003】
上記した高炉には、炉頂から排出される高温のガス(高炉ガス)を利用した発電設備(炉頂圧発電設備)が設けられている。
炉頂圧発電設備においては、高炉ガスは、炉頂から配管を通してダストキャッチャーに導かれ、粗いダストが除去される。続いて、集塵設備により、細かなダストが取り除かれる。集塵設備は、乾式と湿式の2種類があるが、例えば、湿式では、リングスリットウォッシャー(RSW:Ring Slit Washer)と呼ばれる設備が挙げられる。ここで、RSWには、リングスリットエレメント(RSE:Ring Slit Element)と呼ばれる機器が設けられており、高炉ガスを除塵するとともに、炉頂圧の圧力制御を行っている。
【0004】
集塵設備にて除塵が完了した高炉ガスは、2つのルートを通りうる。
1つ目のルートは、炉頂ガスの圧力を利用してタービンを回し発電を行う炉頂圧発電機(TRT:Top Pressure Recovery Turbine)である。2つ目のルートは、TRTが動作しない場合のバイパスのルートである。
まず、1つ目のTRTのルートでは、高炉ガスによりタービンを駆動し、直結された発電機により発電を行う。この際に、タービンの最前段に設けられた静翼の翼形加減弁(翼弁)により、TRTの前圧を制御している。なお、タービンの前に調速弁が設けられることもある。
【0005】
次に、2つ目のバイパスのルートは、TRTが異常等により動作しない場合のルートである。この2つ目のルートには、バイパス弁が設けられている。バイパス弁は、複数のバタフライ弁で構成されている場合が多い。バイパス弁の上流側にRSE等の炉頂圧の制御系がある場合には、バイパス弁が前圧(TRTの前圧でもあり、バイパス弁の前圧でもある)の制御を行う。バイパス弁の上流側にRSE等の炉頂圧の制御系がない場合には、炉頂圧の制御を行う。バイパス弁の後には、消音のためのサイレンサが設けられている場合が多い。なお、セプタム弁と呼ばれる弁もあるが、TRTを流れる高炉ガスをバイパスするための弁である場合は、バイパス弁に含めるものとする。また、バイパス弁の上流側にRSE等の炉頂圧の制御系がない場合には、以下の説明で、前圧を炉頂圧と読み替えるものとする。
【0006】
ところで、希にではあるが、炉頂圧発電設備においてTRTを緊急停止する場合がある。TRTの緊急停止とは、設備故障等によりTRTを短時間のうちに停止させることであり、TRTを流れていた高炉ガスが、危急遮断弁(図示せず)等により瞬時(通常0.5秒程度)に遮断される場合をいう。
危急遮断弁は、TRTの上流側に設けられており、TRTの緊急停止信号により、弁が高速に動作し、TRTへの高炉ガスの流入を遮断する(なお、TRTのタービン自体は、急停止できないため、時間をかけて停止される。)。
【0007】
緊急遮断時は、TRTへの高炉ガス流量を短時間で0とするため、1つめのルートであるTRTを流れていた高炉ガスを、可及的速やかに2つめのルートであるバイパス弁に流す必要がある。
しかし、バイパス弁の応答が遅い場合、TRTを流れていた高炉ガスの流量がバイパス弁のルートの流量より大きいこととなり、TRTまたはバイパス弁の前圧が一時的に上昇する。さらに、前圧が上昇することにより、RSEを通過する高炉ガス量が減少し、炉頂圧も一時的に上昇することとなる。炉頂圧の変動は、高炉の安定操業の妨げとなるため、TRT緊急停止時のバイパス弁の適切な制御は、重要な課題となっている。
【0008】
また、RSEの前後(上下流)における差圧は、除塵能力から下限が定められているが、TRT前圧の変動を抑制することにより、RSEの差圧設定を限界まで小さくすることができる。このことは、TRT前圧を増加させることとなるため、結果としてTRTの発電量を増加させることができる。
このように、炉頂圧発電設備における弁の制御、それに伴う圧力の制御を行う技術としては、以下に示すものがある。
【0009】
例えば、特許文献1には、高炉排ガスエネルギー回収プラントの制御方法が開示されており、TRTが緊急停止したときの制御技術として、圧力調節計の利得(ゲイン)を高くして、炉頂圧が平常時よりもわずかに上昇した時に、レンジ調節弁を制御する方法が記載されている。
特許文献2には、高炉の炉頂圧制御方法が開示されており、調整弁の容量を表すCv値を利用して、レンジ弁の弁開度を制御する方法が記載されている。
【0010】
特許文献3には、炉頂圧制御方法が開示されており、調速弁とタービンの可変翼弁の合成近似Cv値を用いて、調速弁の開度を補正制御する方法が記載されている。
特許文献4には、炉頂圧回収タービン設備の制御装置が開示されており、セプタム弁又はバイパス弁の最大のCv値と炉頂圧回収タービンの最大Cv値合わせを行わせて、圧力指示、定格出力制御、バンプレスバックアップを行う方法が記載されている。特に、特許文献3の3頁においては、「タービンの実際のCv値は静翼角度発信機により検出された静翼角度で計算される」旨が記載されている。
【0011】
特許文献5には、高炉の炉頂ガス圧力制御方法が開示されており、原料装入時の炉頂圧変動を抑制するために、セプタム弁、炉頂ブリーダ弁、リングスリットワッシャまたは炉頂圧タービンで、フィードフォワード補償制御を行う手法が記載されている。
特許文献6には、高炉炉頂圧制御方法が開示されており、発電機緊急停止時に、弁を開放し、発電機で吸収していたガスを逃がすフィードフォワード制御を介在させると共に、差圧式除塵機でのフィードバック制御を一時停止させる方法が記載されている。
【0012】
特許文献7には、セプタム弁の操作方法に関する技術が開示されており、セプタム弁の緊急開放弁の振動加速度が所定値以下となるような開度上限値を把握しておき、炉頂圧発電設備の計画停止時に、緊急開放弁を、把握した開度上限値に、把握した開度上限値に達する時間で、開放制御を行うこと方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
炉頂圧発電設備におけるTRTの緊急停止時には、非常に短時間にTRTに流れていた高炉ガスの流路が断たれるため、TRTに流れていた流量と同量のガスを可及的速やかにバイパス弁側の流路に流す必要がある。これにより、TRT前圧の変動が抑制され、さらに、炉頂圧の変動が抑制される。
例えば、特許文献1では、圧力調節計の利得(ゲイン)を高くしてレンジ調整弁の開度を増大させており、フィードバック補償により制御を行っている。このため、フィードバックループが安定している場合には、応答を早くすることができるものの、フィードフォワード補償でないため、応答の遅れが生じる虞がある。
【0015】
特許文献2では、Cv値を用いてレンジ弁を操作する炉頂圧制御方法であるが、炉頂圧制御時にハンチングを生じないための制御方法であり、TRT緊急停止時の制御方法ではない。また、特許文献3では、調速弁と静翼開度の合成近似Cv値を用いて、TRT側の調速弁の開度を補正制御する方法であるものの、特許文献2と同様に、TRT緊急停止時のバイパス弁の制御方法ではない。
【0016】
特許文献4に記載の発明は、TRT側と、セプタム弁又はバイパス弁側との、2台の圧力指示調節計の相互に、外部帰還によりその相手側の出力に追従させるようにしている。しかし、フィードバック補償であり、フィードフォワード補償ではないため、TRT緊急停止後、セプタム弁又はバイパス弁側のフィードバック補償の遅れが存在し、炉頂圧が変動する現象を避けることができない。また、タービンのCv値を計算により求める手法が示唆されているものの、フィードフォワード補償に利用されていない。
【0017】
特許文献5に記載の発明は、バイパス用の弁であるセプタム弁のフィードフォワード補償であるものの、TRT緊急停止時のバイパス弁のフィードフォワード補償ではない。
特許文献6に記載の発明は、フィードフォワード補償であるものの、差圧式除塵機のフィードバック補償を一時停止する処理が必要である。また、フィードフォワード補償量は、「ガス量の減少分をセプタム弁に流し込むための、該セプタム弁を開く度合いに対応したもの」と記載されているが、具体的な量や導出法は開示されていない。
【0018】
特許文献7に記載の発明は、配管に生じる振動を防止するために、開度上限値を定めている。しかし、代表的な弁であるバタフライ弁を圧力制御に用いる場合、弁の上流側の圧力を維持するためには開度上限値が存在するが、この開度上限値については、考慮されていない。また、TRTの計画停止時のセプタム弁を開放する開度は、前圧を維持する場合、TRTを流れていた高炉ガスの流量と同量であることが望ましいが、セプタム弁を開放する開度について、上限は開示されているものの、具体的な量や導出法は記載されていない。
【0019】
そこで、本発明は上記問題点を鑑み、炉頂圧発電設備におけるTRT緊急停止時の炉頂ガス圧力の変動を小さく保つことにより、炉頂圧発電設備の安定操業に寄与し、TRTの前圧増加により発電量を増加させる制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係る高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法は、高炉の炉頂から排出される高炉ガスにより発電を行う発電部と、前記発電部のガス入側とガス出側とを結ぶバイパス流路と、前記バイパス流路に設けられた2以上のバイパス弁とを備えた高炉の炉頂圧発電設備の制御方法であって、前記発電部を緊急停止するに際し、緊急停止前にバイパス流路を流れる高炉ガス流量が0の場合において、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内を流れる高炉ガスの流量を計算し、前記バイパス弁の
、仮決め及び算出したフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた前記発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように
算出するものであって、前記バイパス弁の、少なくとも弁機構の開度と、入側の圧力と、当該弁機構を流れる流体の流量との関係を示し、前記開度から前記流量を求めることができ、あるいは、前記流量から前記開度を求めることができる値であるCv値を用いて、前記バイパス弁のうち、フィードバック補償を行う前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を仮決めし、その後、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を算出し、
仮決め及び算出したフィードフォワード補償量を前記バイパス弁に適用するものとし、2以上の前記バイパス弁のうち、少なくとも一つの前記バイパス弁についてはフィードバック補償を行い、少なくとも一つの前記バイパス弁についてはフィードバック補償を行わないものとし、
前記仮決めしたフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行う前記バイパス弁に適用するものとし、前記
算出したフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁に適用するものとし、前記フィードバック補償は、前記発電部前圧の実績値を当該発電部前圧の目標値に一致させるように制御するものである、ことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法は、高炉の炉頂から排出される高炉ガスにより発電を行う発電部と、前記発電部のガス入側とガス出側とを結ぶバイパス流路と、前記バイパス流路に設けられた2以上のバイパス弁とを備えた高炉の炉頂圧発電設備の制御方法であって、前記発電部を緊急停止するに際し、緊急停止前にバイパス流路を流れる高炉ガス流量が0でない場合において、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内及び前記バイパス流路を流れる高炉ガスの流量それぞれを計算し、前記バイパス弁の
、仮決め及び算出したフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた前記発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように
算出するものであって、前記バイパス弁の、少なくとも弁機構の開度と、入側の圧力と、当該弁機構を流れる流体の流量との関係を示し、前記開度から前記流量を求めることができ、あるいは、前記流量から前記開度を求めることができる値であるCv値を用いて、前記バイパス弁のうち、フィードバック補償を行う前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を仮決めし、その後、フィードバック補償を行わない前記バイパス弁の開度のフィードフォワード補償量を算出し、
仮決め及び算出したフィードフォワード補償量を前記バイパス弁に適用するものとし、2以上の前記バイパス弁のうち、少なくとも一つの前記バイパス弁については前記フィードバック補償を行い、少なくとも一つの前記バイパス弁については前記フィードバック補償を行わないものとし、
前記仮決めしたフィードフォワード補償量を、フィードバック補償を行う前記バイパス弁に適用するものとし、前記
算出したフィードフォワード補償量を、前記フィードバック補償を行わない前記バイパス弁に適用するものとし、前記フィードバック補償は、前記発電部前圧の実績値を当該発電部前圧の目標値に一致させるように制御するものである、ことを特徴とする。
【0022】
前記発電部が、当該発電部内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構を備えており、前記発電部の弁機構の開度とCv値とを基に、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内の高炉ガスの流量、又は、発電部内及び前記バイパス流路を流れる高炉ガスの流量それぞれを計算することを特徴とする。
高炉の炉頂と前記発電部との間の流路に、前記高炉ガスに含まれる粉塵を除去するためのリングスリットエレメントが設けられ、前記リングスリットエレメントは、当該リングスリットエレメント内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構を備えており、前記リングスリットエレメントの弁機構の開度とCv値とを基に、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内の高炉ガスの流量、又は、発電部内及び前記バイパス流路を流れる高炉ガスの流量それぞれを計算することを特徴とする。
【0023】
前記発電部が、当該発電部内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構を備えている場合、前記発電部の弁機構の開度とCv値とを基に、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内の高炉ガスの流
量を計算するものとし、高炉の炉頂と前記発電部との間の流路に、前記高炉ガスに含まれる粉塵を除去するためのリングスリットエレメントが設けられ、前記リングスリットエレメントは、当該リングスリットエレメント内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構を備えている場合、前記リングスリットエレメントの弁機構の開度とCv値とを基に、前記発電部を緊急停止する前の前記発電部内の高炉ガスの流
量を計算するものとし、緊急停止前にバイパス流路を流れる高炉ガス流量が0の場合に、緊急停止前における発電部の弁機構の開度の実績値と発電部の弁機構のCv値とから計算される流量又は緊急停止前におけるリングスリットエレメントの弁機構の開度の実績値とリングスリットエレメントのCv値とから計算される流量と、緊急停止後におけるバイパス弁の開度とバイパス弁のCv値とから計算される流量が等しくなるように、前記バイパス弁のCv値を補正しておき、次回以降の緊急停止時に、当該補正済みのCv値を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る炉頂圧発電設備の制御方法によれば、炉頂圧発電設備におけるTRT緊急停止時の炉頂ガス圧力の変動を小さく保つことにより、炉頂圧発電設備の安定操業に寄与し、TRTの前圧増加により発電量を増加させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る高炉の炉頂圧発電設備におけるバイパス弁の操作方法の実施形態を、図を基に説明する。
まず、高炉の炉頂圧発電設備の概略について説明する。
図1に示すように、高炉の炉頂圧発電設備1は、高炉の炉頂で排出されたガス(高炉ガス)を回収し、回収した高炉ガスを用いて発電を行うもので、高炉ガスを回収する高炉ガス流路2を備えている。
【0027】
高炉ガス流路2には、高炉ガスに含まれるダスト等を除去する集塵設備が接続されている。この集塵設備は、ダストキャッチャー(図示省略)やリングスリットウォッシャー(RSW)であり、これらの内部に高炉ガスを通すことにより、ダスト等を除去することができる。このうち、リングスリットウォッシャー(RSW)は、複数(例えば、3つ)のリングスリットエレメント(RSE)を並列に接続することにより構成されている。
【0028】
また、RSEの下流側の高炉ガス流路2には、ミストセパレータ(図示省略)が設けられ、少なくとも2つの流路に枝分かれしている。1つ目の流路は、高炉ガスにより発電を行う発電部(TRT)を通過するメイン流路であり、2つ目の流路は、TRTのガス入側とガス出側との間をメイン流路とは別に結ぶバイパス流路4である。このバイバス流路4には、並列して、2つのバイパス弁5a、5bが設けられている。バイパス流路4であって、バイパス弁5を設置した下流側には、高炉ガスの消音のためのサイレンサが設けられている。
【0029】
次に、上述した個別の装置(RSE、TRT、バイバス弁)について、詳しく説明する。
図2に示すように、RSEは、高炉ガスが流れる円錐管10と、この円錐管10に挿入された移動自在なコーン状(円錐状)の可動部11とを備えている。可動部11は、
図1に示す炉頂圧コントローラ12により制御される。具体的には、炉頂圧コントローラ12は、炉頂圧の実績値と、炉頂圧の目標値とに基づき、可動部11の操作量を求め、この操作量に基づいて可動部11を移動させる。即ち、炉頂圧コントローラ12は、円錐管10と可動部11との間隔を操作し、炉頂圧が目標値になるように、通過する高炉ガス流量を調整する。
【0030】
つまり、RSEでは、可動部11と円錐管(ケース)10とで構成された弁機構によって、両者間の間隙が変化することで、高炉ガスの流量や圧力を調整する。なお、流入ガスには細かな水滴が含まれており、間隙を通過する際に、流速が増えることにより、細かなダストと水滴が付着して、除塵することができる。
図3に示すように、TRT(発電部)は、発電機14に直結するタービンの軸(ロータ)15に設けられた動翼16と、ケーシング側17に固定された静翼18とを備えている。
【0031】
また、静翼18の一部は、角度を変更することができる翼弁(弁機構)18aで構成されており、
図1に示すTRT前圧コントローラによって翼の角度(弁の角度)が変更できるようになっている。具体的には、TRT前圧コントローラ19は、前圧の実績値と前圧の目標値とに基づき、翼弁18a等の操作量を求め、この操作量に基づいて翼弁18a等の角度を変更し、これにより、前圧が目標値になるように、TRTを通過するガス流量を調整する。
【0032】
つまり、流入ガスである高炉ガスがタービンに吸気され、静翼18と動翼16を通過する際に、動翼16がタービンの軸15を回転させる。タービンの軸15は発電機14に接続されており、電力を発生させる。最前段の静翼18aは、前述のように、角度が変えられる翼弁となっており、高炉ガスの流量や圧力を調整することができる。
図4に示すように、バイパス弁5(5a、5b)は、バタフライ弁と呼ばれる弁であり、円状のディスクを軸芯周りで回動させて角度を変更することにより、当該バイバス弁5の開度(弁開度という)を変更することができる。バイパス弁5では、
図1に示すバイバス弁前圧コントローラ20が、前圧の実績値と前圧の目標値とに基づき、バイパス弁5の操作量を求め、この操作量に基づいて弁開度を変更することによって、バイバス流路4を通過するガス流量を調整する、即ち、前圧を目標値に制御する。
【0033】
なお、バイパス弁5aは、フィードフォワード補償(FF補償)により、弁開度が制御され、バイパス弁5bは、フィードフォワード補償(FF補償)とフィードバック補償の(FB補償)の組み合わせにより、弁開度が制御される。また、
図1では、バイパス弁5をバイバス流路4に2つ設置した例を示しているが、この例に限定されることなく、バイパス流路4に、バイバス弁5を1つ、または、3つ以上設置してもよい。また、バイパス弁5は、バタフライ弁以外の弁であってもよい。また、RSE等の炉頂圧の制御系が存在しない場合には、TRTやバイパス弁5が炉頂圧を制御することとなる。
【0034】
以上、炉頂圧発電設備1によれば、高炉の炉頂から排出される高炉ガスは、通常はTRTを流れ、その後、高炉ガスホルダへと回収されることとなる。TRTでは高炉ガスによりタービンが回転し発電が行われる。ここで、TRTの保守作業を行うために、TRTに流す高炉ガスを停止する状況が発生する。その場合には、徐々に時間をかけ、高炉ガスをバイパス流路4へ流すようにする。このとき、バイパス弁5a、5bは通常のFF補償及びFB補償によりコントロールされる。
【0035】
このように、TRTに高炉ガスを流すことにより、発電を続けることができるが、何らかの事情で、TRTを緊急停止する必要がある。緊急停止する場合は、保守作業の場合とは異なり、即座にTRTを停止することから、前圧が急激に上昇して、炉頂圧も大きくなってしまう。炉頂圧の上昇は、高炉の安定操業の妨げとなる。
そのため、本発明では、TRTを緊急停止した場合でも、前圧、即ち、炉頂圧の上昇を抑えて、緊急停止による炉頂圧の変動が発生しない対策を講じている。詳しくは、本発明では、緊急停止する前の高炉ガスの流量を計算する。そのうえで、緊急停止時には、バイパス弁5aのフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように、バイパス弁5のCv値を用いて、バイパス弁5の開度のフィードフォワード補償量を算出し、算出したフィードフォワード補償量をバイパス弁5に適用することで、緊急停止時の高炉ガスをバイパス弁5側に逃がすこととしている。
【0036】
続いて、緊急停止時における処理について、TRT緊急停止前に、バイパス弁5に流れる流量が0の場合を詳しく説明する。
まず、Cv値について説明する。
図5〜7は、それぞれ、TRT、バイパス弁、RSEのCv値またはCv値相当の値の例を示している。ここで、開度は、翼弁18aの角度、バタフライ弁5の角度、RSEにおける弁機構(可動部11及び円錐管10)における間隙(変位量)である。なお、開度は、TRT、バイパス弁5、RSEのそれぞれの角度や変位を正規化し、パーセント表示で表してもよい。
【0037】
簡便に説明するために、バイパス弁5a、5bのそれぞれのCv値の特性は、同じとする。なお、バイパス弁5a、5bのそれぞれのCv値の特性は、異なっていてもよい。
Cv値は、「改訂第2版 工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック (株)山武 調節弁ハンドブック編纂委員会 日本工業出版 2012年」の公知文献にp.52に記載されているように、容量係数と呼ばれる値であり、比重1の水を弁差圧1psiとして通過する体積流量をUSgal/minであらわした数値である。なお、本発明でのCv値は、定義にかかわらず、少なくとも弁機構(翼弁18a、バタフライ弁5、RSE等)の開度と、入側の圧力と、弁機構を流れる流体の流量との関係を示し、開度から流量を求めることができ、あるいは、流量から開度を求めることができる値であればよい。すなわち、本発明でのCv値は、Cv値相当の値を含むものとする。弁機構の出側の圧力や、流体の温度等は、弁機構を流れる流体の流量との関係を示す式の中で、用いられても、用いられなくてもよい。以後の説明で、用いられない値の入力は不要となる。
【0038】
また、弁機構の入側の圧力または出側の圧力は、流路を構成する配管やサイレンサを間に含めた場合の圧力を含むこととする。理由は、入側の圧力または出側の圧力の箇所にセンサがなく、配管の上流側や下流側にセンサがあったり、さらに途中の配管に弁やサイレンサが設置されている場合があったりするからである。
続いて、従来の場合のTRT緊急停止時の制御の例を説明する。
【0039】
TRTを緊急停止する場合は、当該TRTの上流側に設けられた遮断弁(非表示)が閉じ、同時に、翼弁18aの開度が0まで閉じ、TRTを流れる高炉ガス流量は0となる。翼弁18aが閉じると同時に、バイパス弁5aは、フィードフォワード補償により開く。バイパス弁5bは、前圧目標値と前圧実績値が一致するようなフィードバック補償がなされ、TRTに流れていたガスと同流量のガスがバイパス弁5a、5bに流れるようになるまで、弁を開けていくこととなる。
【0040】
このとき、バイパス弁5bの開度が定常値に達するまでは、バイパス弁5a、5bの流量は、元のTRTへ流れる流量より少ないこととなる。このため、
図8に示すように、RSEとバイパス弁5の間の高炉ガスの質量が増加することとなり、この部分の圧力、すなわち、前圧が一時的に増加する。さらに、前圧(言い換えれば、RSEの後圧)が増加することにより、RSEを流れる流量が一時的に減少し、高炉とRSEとの間の高炉ガスの質量が増加し、炉頂圧も増加することとなる。
【0041】
炉頂圧の増加は、吹き抜け等を生じ、安定操業上好ましくない。また、前圧の一時的な増加により除塵能力が低下するため、前圧設定値を高くすること、すなわち、発電量を増加することができない。このように従来では、フィードフォワード補償量が不足しており、フィードフォワード補償量を適切に決定し、バイパス弁5に適切にフィードフォワード補償できれば、炉頂圧や前圧の変動を抑制できる。
次に、本発明おける緊急停止について説明する。
【0042】
図9は、本発明のバイパス弁の制御のブロック図を示している。
本発明では、従来と異なり、バイパス弁5へのフィードフォワード補償量を、TRTのCv値と、バイパス弁5のCv値とを用いて定量的に定めている。また、従来ではフィードフォワード補償量を1つのバイパス弁5のみに適用していたが、本発明では、複数のバイパス弁5に適用している。
【0043】
図10は、フィードフォワード補償量を求めるフローチャートである。
TRTの緊急停止前は、バイパス弁5は閉鎖していて、高炉ガスの全量がTRT側に流れる状況である。本発明では、翼弁18aの開度(翼弁開度という)を取得し、
図5により、翼弁18aのCv値(翼弁Cv値という)を計算する(S1)。
次に、翼弁Cv値(Cv
T)、入側圧力(P
1)、出側圧力(P
2)、温度(T)、比重(G)から、TRTを流れる高炉ガスの流量(Q
T)を計算する(S2)。具体的には、式(1)を用いて、高炉ガスの流量を求める。
【0045】
なお、P
1、P
2、T、G、a
Tは、センサ等から得られた実績値、或いは、シミュレーションから得られた値である。
次に、翼弁Cv値(Cv
T)及び高炉ガスの流量を算出した後、バイパス弁5(5a、5b)の開度を計算する(S3)。
さて、バイパス弁5の開度の計算方法は複数ある。
【0046】
まず、1つ目の計算方法について説明する。この方法では、一方のバイパス弁5a(第1バイパス弁5aという)の開度を仮決めしたうえで、他方のバイパス弁5b(第2バイパス弁5b)の開度を求めることとしている。例えば、第1バイパス弁5aの開度は40%とした場合について説明する。この説明では、第1バイパス弁5aの特性と第2バイパス弁5bの特性とは同じであって、
図6に示す特性を有しているとする。
【0047】
バイパス弁のCv値(Cv
B)、バイパス弁の流量Q
B、バイパス弁の入側圧力P
1、バイパス弁に流れる高炉ガスの温度Tは、式(2)が成り立つ。
【0049】
第1バイパス弁5aの開度は40%であるため、
図6に示す開度及びCv値の関係から、第1バイパス弁5aのCv値であるCv
B1を得ることができる。そして、
図6により得られたCv
B1と、T、P
1、G、a
Bを用いて、式(2)から、第1バイパス弁5aの流量であるQ
B1を求めることができる。
ここで、高炉ガスの流量については、式(3)が成立することから、第1バイパス弁5aの流量であるQ
B1と、予め得られた高炉ガスの流量Q
Tとを用いて、第2バイパス弁5bの流量であるQ
B2を求める。
【0051】
第2バイパス弁5bの特性は第1バイパス弁5aと同じ特性としており、Q
B2、T、P
1、G、a
Bを式(2)に適用することにより、第2バイパス弁5bに対応するCv値であるCv
B2を得ることができる。式(2)により得られたCv
B2と、
図6とを用いて、第2バイパス弁5bの開度を得ることができる。
なお、この実施形態では、各流量は、標準状態での流量[Nm
3/h]としている。このように、緊急停止前の高炉ガス流量と等しくすることによって、同じ状態での流量が等しいことを意味する。
【0052】
次に、バイパス弁5の開度の計算方法の2つ目の例について説明する。
この計算方法では、第1バイパス弁5aの開度と、第2バイパス弁5bの開度とを等しい値としている。また、この説明でも、第1バイパス弁5aの特性と第2バイパス弁5bの特性とは同じであって、
図6に示す特性を有しているものとする。また、Cv
B(Cv
B1、Cv
B2)、T、P
1、G、a
Bは、式(2)の関係式が成り立つとする。
【0053】
第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5bの開度を変数とした場合、まず、
図6を用いて、それぞれのCv値であるCv
B1、Cv
B2を求めることができる。T、P
1、G、a
Bを得ることができるため、これらと、
図6で求めたCv
B1、Cv
B2を式(2)に適用することにより、第1バイパス弁5a及び第2バイパス弁5bのそれぞれの流量Q
B1、Q
B2を計算することができる。
【0054】
ここで、TRTの流量Q
Tが得られていることから、式(3)は、バイパス弁5の開度に依存する非線形方程式となる。そこで、公知の非線形方程式の解法であるニュートン法や二分法を用いて、バイパス弁5の開度を求めればよい。また、単純に、開度を0から1度ごとに増やしながら式(3)の右辺を計算し、左辺より大きくなった場合の開度を採用してもよい。なお、式(3)の解法はこれらに限られるものではない。
【0055】
以上、開度の計算法として、2つの例を説明したが、これらの例に限られるものではない。また、バイパス弁5が2つでなく、1つ、または、3つ以上の場合でも同様に計算することができる。
なお、2つ以上の弁を1つの弁として扱うスプリットレンジ制御(例えば、改訂第2版 工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック (株)山武 調節弁ハンドブック編纂委員会pp.237)を行っている場合には、1つの弁とみなした場合のCv値を求めることで、同様に計算することができる。
【0056】
ここで、バイパス弁5の開度については、上下限を設けることができる。
まず、バイパス弁5の開度の上限について説明する。
バイパス弁5として用いられるバタフライ弁は、開度が90度近くに大きくなると、バイパス弁5の入側の圧力を高く保つことができず、バイパス弁5の出側の圧力に近づいてしまう。これは、ディスクの面がガスの流れと平行に近くなり、弁の圧損が0に近づくからである。検証した結果、対象としたバイパス弁5では、開度が約50%が限界であることが判明した。
【0057】
また、特開2013−133540号公報に示されているように、超音速による振動の上限がある場合や、特開昭58−220929号公報のp.2に示されているように、制御性のよい70%程度を上限としている場合もある。さらに、「改訂第2版 工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック (株)山武 調節弁ハンドブック編纂委員会pp.20〜21」に記載されているように、バタフライ弁のディスクに加えられる流体からのトルクを考慮して、最大開度が指定されている場合もある。したがって、これらのうち最も小さい開度が上限となる。
【0058】
次に、バイパス弁5の開度の下限について説明する。
下限については、特開昭58−220929号公報のp.2に示されているように、制御性のよい30%程度を下限としている場合もある。したがって、下限がある場合には、下限のうち最も大きい開度が下限となる。バイパス弁5の開度は、これら上下限の範囲で求めればよい。
【0059】
さて、バイパス弁5(第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5b)の開度を求めた後は、
図10に示すように、バイパス弁5のフィードフォワード補償量を計算する(S4)。計算されたバイパス弁5a、5bの開度をフィードフォワード補償する。なお、TRT緊急停止前に、オフセット等により、バイパス弁5の開度に0でない開度初期値が存在する場合には、バイパス弁のフィードフォワード補償量=計算された開度−TRT緊急停止前の開度初期値とすればよい。フィードフォワード補償量の設定が終了すると、バイパス弁前圧コントローラ20がフィードフォワード補償量を出力する(S5)。
【0060】
以上、上述した実施形態では、発電部(TRT)が、当該発電部内を流れる高炉ガスの流量を調整可能とする弁機構(翼部18a)を備えており、発電部の弁機構の開度とCv値とを基に、発電部を緊急停止する前の高炉ガスの流量を計算している。そして、バイパス弁5のフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように、バイパス弁5のCv値を用いて、バイパス弁5の開度のフィードフォワード補償量を算出し、算出したフィードフォワード補償量をバイパス弁5に適用している。
【0061】
さて、上述した実施形態では、TRTの翼弁18aの開度に基づいて、緊急停止前の高炉ガスの流量を求めていたが、この代わりに、RSEの開度を用いてもよい。
次に、RSEの開度を求める変形例について説明する。
変形例では、例えば、翼弁18のCv値が利用できない場合や、翼弁18のCv値と併用する場合が対象となる。なお、この変形例において、特に言及しない部分は、上述した実施形態と同じであるとして、説明を進める。
【0062】
図11に示すように、緊急停止前において、RSEの開度を検出して取得する(S10)。続いて、
図7を用いて、高炉ガスの流量を計算する(S11)。具体的には、
図7は、入側圧力が炉頂圧の目標値と等しい場合の様々な差圧(RSE入側圧力−RSE出側圧力)(Pa>Pb>Pc)に対して、RSE開度とRSEの高炉ガス流量との関係(RSEの流量特性)を表しており、RSE開度、入側圧力、出側圧力から、高炉ガスの流量を求めることができる。すなわち、このRSEの流量特性は、Cv値に相当する値となっている。差圧が、Pa、Pb、Pcに一致していないときは、内挿および外挿により、高炉ガス流量を求める。
【0063】
RSEの高炉ガスの流量を求めた後は、翼弁18aの場合と同様に、バイパス弁5の開度の計算(S12)、バイパス弁5のフィードフォワード補償量の計算(S13)、フィードフォワード補償量の出力を行う(S14)。
つまり、変形例では、RSEの弁機構(可動部11及び円錐管10)の開度とCv値(本例では相当値)とを基に、発電部を緊急停止する前の発電部内を流れる高炉ガスの流量を計算し、バイパス弁5のフィードフォワード補償による流量が、計算して得られた発電部内を流れる高炉ガスの流量と等しくなるように、バイパス弁5のCv値を用いて、バイパス弁5の開度のフィードフォワード補償量を算出し、算出したフィードフォワード補償量をバイパス弁5に適用している。
【0064】
以上の説明では、Cv値を求める弁として、TRTの翼弁18aや、RSEを用いているが、RSE以外であっても、TRTの緊急停止前に高炉ガスの全量が流れており、前後に圧力差があり、Cv値が得られているものであれば、何でもよい。TRTの上流側に設けた弁機構であって、セプタム弁、制御弁、入口弁、調速弁、自動弁、調節弁、調整弁等のCv値を用いてもよい。なお、TRT緊急停止前に、高炉ガスが、複数の弁等を流れている場合には、これら複数の弁等から高炉ガスの流量を計算してもよい。また、流量計が存在すれば、その流量を用いればよい。また、流速計が存在すれば流速×測定箇所の配管断面積により流量を計算し、その値を用いればよい。
【0065】
また、TRTの緊急停止前の高炉ガス流量が複数得られる場合、例えば、TRTの翼弁18aからガス流量が計算でき、かつ、RSEからガス流量が計算できる場合には、どちらかのガス流量のうち、流量の小さい方を採用してもよい。このようにすることにより、過大なフィードフォワード補償量を適用することを防止することが可能である。
また、流量計算の精度に違いがある場合には、精度が高いと思われる流量を採用すればよい。TRT翼弁とRSEの場合には、RSEはガスと水の2相流であり、温度降下もあることから、TRT翼弁の方が高精度であるとして、TRT翼弁から計算される流量を採用することが考えられる。流量計算の精度が同程度である場合には、複数の流量を平均して、緊急停止前の高炉ガス流量とすることもできる。
【0066】
また、バイパス弁5のCv値の補正を行ってもよい。
例えば、バイパス弁5の出側にサイレンサが設置されていて、バイパス弁5の単体のCv値しか得られない場合は、バイパス弁5とサイレンサとを合わせたCv値は異なったものとなる。また、TRTのCv値、RSEのCv値、バイパス弁5のCv値(サイレンサを含めたCv値であっても)は、過去の実測値や計算値であっても、誤差を含むことから、適宜、バイパス弁5のCv値を補正する。
【0067】
図12は、バイパス弁のCv値の補正フローチャートである。
図12では、緊急停止後、第1バイパス弁5aと第2バイパス弁5bとが開くこととしている。また、第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5bのCv特性は同じとする。
まず、緊急停止前のTRTを流れる高炉ガスの流量Q
Tを、既述のように、TRTの翼弁18a、RSE等の開度等から求める(S20)。次に、緊急停止後の定常状態のバイパス弁5(第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5b)の開度実績を取得する(S21)。ここで、定常状態とは、バイパス弁5の前圧の制御が整定した状態のことである。例えば、
図8では、時間軸の右端のように、前圧、第1バイパス弁5aの開度、第2バイパス弁5bの開度がほぼ一定になった状態である。
【0068】
Cv値の補正係数をkとおき、初期値としてkmaxを代入する(S22)。誤差がない場合の補正係数は1なので、例えば、kmaxとして、十分に大きな値である10を設定するとよい。
次に、式(2)で得られるバイパス弁5のCv
Bにkを乗じた値をCv
B’とし(S23)、式(4)を用いて、第1バイパス弁5aの開度実績による流量Q
B1を求める(S24)と共に、第2バイパス弁5bの開度実績による流量Q
B2を求める(S25)。
【0070】
ここで、Q
T<Q
B1+Q
B1であれば(S26、yes)、kに対してΔk減じて、S23に戻って計算を繰り返す(S27)。Δkは、例えば、0.01とする。一方、Q
T≧Q
B1+Q
B1 (S26、No)であれば、Cv
Bをk×Cv
Bで置き換え(S28)、この値(k×Cv
B値)を、フィードフォワード補償量計算時に用いる。
つまり、バイパス弁5のCv値を補正するにあたっては、緊急停止前における発電部(TRT)の弁機構の開度の実績値と、緊急停止後におけるバイパス弁5の開度の実績値とに基づいて、TRTの弁機構と、バイパス弁5とを通過する高炉ガスの流量が等しいとしている。或いは、バイパス弁5のCv値を補正するにあたっては、緊急停止前におけるRSEの弁機構の開度の実績値と、緊急停止後におけるバイパス弁5の開度の実績値とに基づいて、RSEの弁機構と、バイパス弁5とを通過する高炉ガスの流量が等しいとしている。
【0071】
なお、上述した例では、翼弁18aまたはRSEのCv値(相当値を含む。)を補正せず、バイパス弁5のCv値を補正しているが、バイパス弁5のCv値を補正せず、翼弁18aまたはRSEのCv値を補正してもよい。この場合には、翼弁18aまたはRSEのCv値を1/k倍すればよい。また、第1バイパス弁5aと、第2バイパス弁5bとのCv値が異なる場合には、Cv値の式としてそれぞれの式を用いればよい。
【0072】
図13は、本発明を実施した場合の結果を示している。なお、Cv値に誤差がある場合は、上述の方法(
図12に示す手法)で補正を行う。本発明では、第1バイパス弁5aのフィードフォワード補償量と、第2バイパス弁5bのフィードフォワード補償量が適正化され、TRT側に流れていた高炉ガスの全量が、フィードフォワード補償により速やかに、バイパス流路に流れることになる。このため、
図13に示すように、前圧の変動が抑制され、さらに、炉頂圧の変動を抑制することができた。
【0073】
なお、計算されたCv値と実際のCv値には、ガスの組成や、含まれる水の量や、配管・弁・サイレンサ等の管路(流路)の影響による誤差やばらつきが無視できない場合には、フィードフォワード補償量に、1近傍のゲインを掛けて補正してもよい。
また、TRT緊急停止前に、バイパス流路4に流れる流量が0でない場合を説明する。
まず、TRTのCv値を利用する場合を
図14を用いて説明する。
図14において、
図10と共通の手順(S1、S2、S5)については説明を省略する。なお、S2において計算されるTRTを流れていた高炉ガスの流量Q
TをQ
Tbeforeと置き換える。
【0074】
バイパス弁について、バイパス弁5の開度を取得し、
図6により、バイパス弁5のCv値を計算する(S300)。すなわち、バイパス弁Cv値(Cv
B)、入側圧力(P
1)、温度(T)、比重(G)から、バイパス弁を流れていた高炉ガスの流量Q
Bbeforeを計算する(S30)。バイパス弁が複数存在する場合には、それぞれのCv値を求め、流量を加算して計算する。
【0075】
次に、TRT緊急停止前の高炉ガスの流量を、TRTを流れていた流量とバイパス弁を流れていた流量とを、式(5)に示すように、加算することにより求める(S31)。
Q
ALLbefore=Q
Tbefore+Q
Bbefore (5)
次に、バイパス弁5(5a、5b)の開度を計算する(S32)。
さて、バイパス弁5の開度の計算方法は複数ある。まず、バイパス弁5の開度の計算方法の1つ目の例について説明する。
【0076】
この方法では、一方のバイパス弁5a(第1バイパス弁5aという)の開度を仮決めした上で、他方のバイパス弁5b(第2バイパス弁5b)の開度を求めることとしている。
例えば、第1バイパス弁5aの開度は40%とした場合について説明する。この説明では、第1バイパス弁5aの特性と第2バイパス弁5bの特性とは同じであって、
図6に示す特性を有しているとする。
【0077】
バイパス弁のCv値(Cv
B)、バイパス弁の流量Q
B、バイパス弁の入側圧力P
1、バイパス弁に流れる高炉ガスの温度Tは、式(2)が成り立つものとする。
第1バイパス弁5aの開度は40%であるため、
図6に示す開度及びCv値の関係から、第1バイパス弁5aのCv値であるCv
B1を得ることができる。そして、
図6により得られたCv
B1と、T、P
1、G、a
Bを用いて、式(2)から、第1バイパス弁5aの流量であるQ
B1を求めることができる。
【0078】
高炉ガスの流量については、式(6)が成立することから、第1バイパス弁5aの流量であるQ
B1と、予め得られた高炉ガスの流量Q
ALLbeforeとを用いて、式(6)に示すように、第2バイパス弁5bの流量であるQ
B2を求める。
Q
ALLbefore=Q
B1+Q
B2 (6)
第2バイパス弁5bの特性は第1バイパス弁5aと同じ特性としており、Q
B2、T、P
1、G、a
Bを式(2)に適用することにより、第2バイパス弁5bに対応するCv値であるCv
B2を得ることができる。式(2)により得られたCv
B2と、
図6とを用いて、第2バイパス弁5bの開度を得ることができる。
ここで、TRTを流れていた高炉ガスの流量が少ない場合、第1バイパス弁5aのみのフィードフォワード補償で十分な場合があるが、これは、第2バイパス弁5bの開度を求める際に、開度の解が0〜100%の間で得られないという形で現れる。この場合は、例えば、仮決めした第1バイパス弁5aの開度を1%ずつ減らして(例:39%、38%、...)再度計算し、第2バイパス弁5bの開度が得られた場合の、第1バイパス弁5aの開度と第2バイパス弁5bの開度を用いればよい。
【0079】
なお、この実施形態では、各流量は、標準状態での流量[Nm
3/h]としている。このように、緊急停止前後の高炉ガス流量と等しくすることによって、同じ状態での流量が等しいことを意味する。
次に、バイパス弁5の開度の計算方法の2つ目の例について説明する。
この計算方法では、第1バイパス弁5aの開度と、第2バイパス弁5の開度とを等しい値としている。また、この説明でも、第1バイパス弁5aの特性と第2バイパス弁5bの特性とは同じであって、
図6に示す特性を有しているものとする。また、Cv
B(Cv
B1、Cv
B2)、T、P
1、G、a
Bは、式(2)の関係式が成り立つとする。
【0080】
第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5bの開度を変数とした場合、まず、
図6を用いて、それぞれのCv値であるCv
B1、Cv
B2を求めることができる。T、P
1、G、a
Bを得ることができるため、これらと、
図6で求めたCv
B1、Cv
B2を式(2)に適用することにより、第1バイパス弁5a及び第2バイパス弁5bのそれぞれの流量Q
B1、Q
B2を計算することができる。
【0081】
ここで、緊急停止前の高炉ガスの流量Q
ALLbeforeが得られていることから、式(6)は、バイパス弁5の開度に依存する非線形方程式となる。そこで、公知の非線形方程式の解法であるニュートン法や二分法を用いて、バイパス弁5の開度を求めればよい。また、単純に、開度を0から1度ごとに増やしながら式(6)の右辺を計算し、左辺より大きくなった場合の開度を採用してもよい。なお、式(6)の解法はこれらに限られるものではない。
【0082】
以上、開度の計算法として、2つの例を説明したが、これらの例に限られるものではない。例えば、フィードバック補償を行う弁が、第2バイパス弁5bでなく、第1バイパス弁5aである場合でもよい。また、バイパス弁5が2つでなく、1つ、または、3つ以上の場合でも同様に計算することができる。
なお、2つ以上の弁を1つの弁として扱うスプリットレンジ制御(例えば、改訂第2版 工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック (株)山武 調節弁ハンドブック編纂委員会pp.237)を行っている場合には、1つの弁とみなした場合のCv値を求めることで、同様に計算することができる。なお、ここで、バイパス弁5の開度については、既述のように、上下限を設けることができる。
【0083】
バイパス弁5(第1バイパス弁5a、第2バイパス弁5b)の開度を求めた後は、
図14に示すように、バイパス弁5のフィードフォワード補償量を計算する(S301)。計算されたバイパス弁5a、5bの開度をフィードフォワード補償する。なお、TRT緊急停止前に、オフセット等によりバイパス弁5の開度が0でない場合や、バイパス弁5が開いている場合であり、バイパス弁の一部又は全部に開度初期値が存在するときには、開度初期値が存在するバイパス弁について、それぞれ「バイパス弁のフィードフォワード補償量=計算された開度−TRT緊急停止前の開度初期値」とすればよい。
【0084】
次に、RSEの開度を求める第2の変形例について説明する。
第2の変形例では、例えば、翼弁18のCv値が利用できない場合や、翼弁18のCv値と併用する場合が対象となる。なお、この変形例において、特に言及しない部分は、上述した実施形態と同じであるとして、説明を進める。
図15に示すように、緊急停止前において、RSEの開度を検出して取得する(S40)。続いて、
図7を用いて、高炉ガスの流量を計算する(S41)。RSEの高炉ガスの流量を求めた後は、翼弁18aの場合と同様に、バイパス弁5の開度の計算(S42)、バイパス弁5のフィードフォワード補償量の計算(S43)、フィードフォワード補償量の出力を行う(S44)。ここで、フィードフォワード補償量の計算(S43)では、TRT緊急停止前に、オフセット等によりバイパス弁5の開度が0でない場合や、バイパス弁5が開いている場合であり、バイパス弁の一部又は全部に開度初期値が存在するときには、開度初期値が存在するバイパス弁について、それぞれ「バイパス弁のフィードフォワード補償量=計算された開度−TRT緊急停止前の開度初期値」とすればよい。
【0085】
つまり、変形例では、RSEの弁機構(可動部11及び円錐管10)の開度とCv値とを基に、発電部を緊急停止する前の高炉ガスの流量を計算し、バイパス弁5のフィードフォワード補償の流量が、計算して得られた発電部内を流れる流量と等しくなるように、バイパス弁5のCv値を用いて、バイパス弁5の開度のフィードフォワード補償量を算出し、算出したフィードフォワード補償量をバイパス弁5に適用している。
【0086】
図16は、本発明を実施した場合の結果を示している。例として、第1バイパス弁および第2バイパス弁が、TRT緊急停止前に開いている場合を示している。なお、Cv値に誤差がある場合は、上述の方法(
図12に示す手法)で補正を行えばよい。本発明では、第1バイパス弁5aのフィードフォワード補償量と、第2バイパス弁5bのフィードフォワード補償量が適正化され、TRT側に流れていた高炉ガスの全量が、フィードフォワード補償により速やかに、バイパス流路に流れることになる。このため、
図16に示すように、前圧の変動が抑制され、さらに、炉頂圧の変動が抑制することができた。
【0087】
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。