特許第6249947号(P6249947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249947アニオン性ポリマーを含む、RT−PCR用組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249947
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】アニオン性ポリマーを含む、RT−PCR用組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20171211BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 Z
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-525419(P2014-525419)
(86)(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公表番号】特表2014-525753(P2014-525753A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】EP2012065793
(87)【国際公開番号】WO2013024064
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】11177730.6
(32)【優先日】2011年8月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599072611
【氏名又は名称】キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ファン ナン
(72)【発明者】
【氏名】ミッセル アンドレアス
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/052765(WO,A1)
【文献】 特開2001−008680(JP,A)
【文献】 特開2001−029078(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/065924(WO,A1)
【文献】 特開2000−342287(JP,A)
【文献】 特表2009−532046(JP,A)
【文献】 特表2011−504754(JP,A)
【文献】 QIAGEN(R) OneStep RT-PCR Kit Handbook,2008年,pp.8-14
【文献】 J. Clin. Virol.,2006年,vol.37, no.4,pp.305-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のヌクレオチド又はその誘導体のいずれか、及び2種以上の異なるポリメラーゼ(該ポリメラーゼの少なくとも1種が逆転写酵素活性を有し、少なくとも1種が核酸ポリメラーゼ活性を有する)を含む組成物において、RT−PCRにおいて観察される、逆転写酵素による核酸複製の阻害を抑制又は低減するための、アニオン性ポリマーの使用であって、このアニオン性ポリマーが、RT−PCRで用いられるpHで、少なくとも−1の正味電荷を有し、前記アニオン性ポリマーが、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタメート、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)からなる群から選択される、アニオン性ポリマーの使用。
【請求項2】
アニオン性ポリマーが、RT−PCRにおける使用のためである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
組成物が、さらに、RT−PCRに有効な、緩衝剤、塩、および/または添加剤を含む、請求項1記載の使用。
【請求項4】
逆転写酵素活性を示す前記ポリメラーゼが、OMNISCRIPT(登録商標)、AMV−RT、M−MLV−RT、HIV−RT、EIAV−RT、RAV2−RT、C.ハイドロゲノフォルマン(C.hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、SUPERSCRIP(登録商標)I、SUPERSCRIP(登録商標)II、SUPERSCRIP(登録商標)III並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項5】
核酸ポリメラーゼ活性を示す前記ポリメラーゼが、Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT(商標)DNAポリメラーゼ、DEEP VENT(商標)DNAポリメラーゼ、並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、請求項1記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学の分野に関する。本発明は、RNA鋳型からの核酸の生成、更に核酸の複製に有用な新規組成物、方法及びキットに関する。具体的には、本発明は、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による核酸の生成及び増幅に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出、分析、転写及び増幅は、近代分子生物学において最も重要な手段である。RNA分析のためのこれらの手段の適用は、ほんの数例を挙げれば、遺伝子発現、感染性因子又は遺伝病の診断、cDNAの生成及びレトロウイルスの分析の研究において特に重要である。一般にRT−PCRと呼ばれる、RNAの逆転写に続くポリメラーゼ連鎖反応増幅は、RNAの検出及び定量のために広く用いられるようになってきた。
【0003】
RT−PCR法は、2種の別個の分子の合成:第一に、RNA鋳型からのcDNAの合成と;第二に、PCR増幅による、新規に合成されたcDNAの複製を必要とする。RT−PCRは、以下の3つの一般プロトコルによって実施することができる;
1)2ステップRT−PCRとも呼ばれる、非連結(uncoupled)RT−PCR;
2)単一のポリメラーゼが、RNAからのcDNA生成と、それに続くDNA増幅の両方で用いられる、単一酵素連結(coupled)RT−PCR(1ステップRT−PCR又は連続RT−PCRとも呼ばれる);
3)少なくとも2種の別個のポリメラーゼが、初期のcDNA合成と、それに続く複製で用いられる、2種(又はそれ以上)の酵素連結RT−PCR。この方法は、1ステップRT−PCR、又はワンチューブRT−PCRと呼ばれることもある。
【0004】
非連結RT−PCRでは、逆転写は、逆転写酵素活性に最適な緩衝液及び反応条件を用いて、独立した工程として実施される。cDNA合成の後に、RT反応生成物の一定量を、PCR増幅に最適な条件下で、Taq DNAポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼと共に、RNA増幅の鋳型として用いる。
【0005】
連結RT−PCRでは、逆転写及びPCR増幅は、単一の反応混合物に混合される。単一酵素RT−PCRは、Tth DNAポリメラーゼ等の特定のDNAポリメラーゼの逆転写酵素活性を利用し、一方、2種酵素RT−PCRは、通常は、レトロウイルス又は細菌性逆転写酵素(例えば、AMV−RT、MMLV−RT、HIV−RT、EIAV−RT、RAV2−RT、カルボキシドサーマス.ハイドロゲノフォルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、又はその変異体、変種もしくは誘導体)、及び熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Taq、Tbr、Tih、Tfi、Tfl、Pfu、Pwo、Kod、VENT(登録商標)、DEEPVENT(登録商標)、Tma、Tne、Bst、Pho、Sac、Sso、ES4等、又はその変異体、変種もしくは誘導体)を用いる。
【0006】
連結RT−PCRは、非連結RT−PCRを超える多数の利点をもたらす。連結RT−PCRは、必要な反応混合試薬及び核酸産物の処理が、非連結RT−PCRよりも少なく(例えば、2つの反応工程間の、成分又は酵素の添加のための反応チューブの開封等)、そのため労力が少なくなると共に時間がかからなくなり、汚染の危険性が低減する。更に、連結RT−PDRは必要な試料が少なく、試料の量が限定される場合(例えば、FFPE、生検、環境試料を用いる場合)に適用するのに特に適している。
【0007】
単一酵素連結RT−PCRは、容易に実施されるが、このシステムは、必要とするDNAポリメラーゼの量のために実施するのに費用がかかる。更に、単一酵素連結RT−PCR法は、非連結RT−PCRよりも感度が低く、1キロ塩基対未満の長さの核酸を重合するのには限界があることがわかっている。2種以上の酵素を用いる連結RT−PCRシステムは、単一の反応混合物中で連結した場合であっても、一般に単一酵素システムよりも感度が向上することがわかっている。この効果は、DNAポリメラーゼの逆転写酵素活性と比較すると、逆転写酵素の効率が高いことに起因すると考えられる(Sellner及びTurbett,BioTechniques 25(2):230−234(1998)、非特許文献1)。
【0008】
2種酵素連結RT−PCRシステムは、単一酵素システムよりも、より感度が高いが、逆転写酵素は、cDNAの複製の際にDNAポリメラーゼを直接阻害することがわかっており、そのためこの方法の感度及び効果を低減させる(Sellnerら、J.Virol.Methods 40:255−264(1992)、非特許文献2)。DNAポリメラーゼに対する逆転写酵素の阻害活性を克服するための様々な解決法が試みられている。例えば、鋳型RNA量の増加、逆転写酵素に対するDNAポリメラーゼの比率の増加、DNAポリメラーゼに対する逆転写酵素の阻害活性を低下させる修飾試薬(例えば、非相同tRNA、T4遺伝子32タンパク質、硫黄又はアセテート含有分子)の添加、及びDNAポリメラーゼ添加前の逆転写酵素の熱不活性化が挙げられる。
【0009】
Sellnerら(Nucleic Acids Research 20(7):1487−1490、非特許文献3)には、ポリメラーゼ連鎖反応によるウイルスRNAの検出には、ウイルスRNAの事前の逆転写が必要であることが開示されている。多数の試料を処理するために必要な手作業による操作を最小限にするために、Sellnerらは、逆転写及び増幅の両方に必要な全ての試薬を1本のチューブに加えることができ、かつ単一の中断されない熱サイクルプログラムを実施することのできるシステムを設計することを試みている。このような、Taqポリメラーゼ及び鳥類筋芽細胞ウイルスを用いるワンチューブシステムを構成する試みの際に、Sellnerらは、ウイルスRNA検出の感度が相当に低下していることに気づいた。Sellnerらは、Taqポリメラーゼによる逆転写の直接干渉を発見した。
【0010】
しかし、上記全ての改変RT−PCR法は重大な欠点を有している。鋳型RNAの増量は、限られた量の試料しか利用できない場合には不可能である。DNAポリメラーゼに対する逆転写酵素の比率を個別に最適化することは、1ステップRT−PCRのためのすぐに使用できる試薬キットとしては実用的でない。DNA重合に対する逆転写酵素阻害を排除するために現在提案されている修飾試薬の最終的な効果には議論の余地があり、未解決である。上記試薬による正の効果は、RNA鋳型の量、RNA組成に大きく依存しているか、又は特定の逆転写酵素−DNAポリメラーゼの組み合わせが必要である可能性がある(Chandlerら、Appl.and Environm.Microbiol.64(2):669−677(1998)、非特許文献4)。最後に、DNAポリメラーゼの添加前の逆転写酵素の熱不活性化は連結RT−PCRの利点を無効にし、既に議論した非連結RT−PCRの全ての不利益がもたらされる。たとえ、逆転写酵素を熱不活性化したとしても、おそらくcDNA鋳型に対する熱不活性化逆転写酵素の結合により、PCRの阻害効果を付与する可能性がある。
【0011】
ポリメラーゼ活性に対する逆転写酵素の阻害効果を低減させるためのいくつかの改良が行われた。
【0012】
米国特許出願公開第2009/0137008号A1(特許文献1)では、Gong及びWangは、Sso7d、Sac7d、Sac7e又はSso7e等の、非特異的方法で二重鎖DNAと結合するタンパク質、スルホン酸、及びスルホン酸塩により、DNAポリメラーゼに対する逆転写酵素の阻害効果を低減することを開示している。
【0013】
欧州特許第1050587号B1(特許文献2)では、Misselらは、ホモポリマー核酸により、DNAポリメラーゼに対する逆転写酵素の阻害効果を低減することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0137008号
【特許文献2】欧州特許第1050587号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Sellner及びTurbett,BioTechniques 25(2):230−234(1998)
【非特許文献2】Sellnerら、J.Virol.Methods 40:255−264(1992)
【非特許文献3】Sellnerら(Nucleic Acids Research 20(7):1487−1490)
【非特許文献4】Chandlerら、Appl.and Environm.Microbiol.64(2):669−677(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
Gong及びWang、並びにMisselらにより開示された方法によれば、それぞれ逆転写酵素の阻害効果が著しく低減することに成功したことが開示されているが、逆転写酵素の阻害効果のより効果的な低減によるRT−PCRの特異性及び感度を更に向上させることが、当該技術分野において、まだ必要とされている。
【0017】
RT−PCRの応用は重要なので、一般化したすぐに使用できる組成物の状態で高い特異性及び感度を示し、少量の初期試料しか必要とせず、実行者の操作量を低減し、汚染の危険性を最小限にし、試薬の費用を最小限にし、特定の反応緩衝液の使用に制限されず、かつ核酸最終産物の量を最大にする、連結RT−PCRシステムが、当該技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、RNA鋳型から核酸を生成するのに有用な新規な組成物及び方法に関し、更に核酸の複製に関する。具体的には、本発明は、核酸ではないアニオン性ポリマーの存在下に、2種以上の異なるポリメラーゼを利用する逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による、核酸の生成及び増幅に関する。アニオン性ポリマーが存在すると、2種以上のポリメラーゼを含み、そのうち少なくとも1種が逆転写酵素活性を有する組成物を用いる場合に発生する、DNAプライマーアーゼの阻害の効果をなくす役目を果たす。本発明の組成物及び方法は、RNA鋳型の一部と相補的なDNA分子を生成及び複製するために用いられる。
【0019】
本発明は、概してRNA鋳型から核酸を生成及び複製するのに用いることのできる、全ての反応混合物に関する。本発明の一実施態様は、核酸ではないアニオン性ポリマー、並びに1種以上の以下の反応成分、すなわち逆転写酵素、核酸ポリメラーゼ、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のヌクレオチド塩基、適切な緩衝化剤、塩溶液、又はRT−CRに有用な他の添加剤を含む組成物に関する。
【0020】
本発明は、RNA標的からcDNAを生成するための既知の方法と比較し、いくつかの利点を提供する。利点としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
−1つの反応溶液を含み、試薬及び生成物の取り扱いを低減する連結RT−PCRを許容し;
−RNA鋳型の初期試料の少量の使用を許容し;
−さまざまな異なる逆転写酵素の使用を許容し;
−さまざまな異なるDNAポリメラーゼの使用を許容し;
−追加の特異的反応添加剤を含有する緩衝液を含む、さまざまな異なる反応混合物緩衝液及び塩溶液の使用を許容し;
−例えば、tRNA添加剤で観察されるように、特異性及び生成物収量における悪影響を低減し;
−市販され、容易に合成でき、かつ安価な試薬で作動する。
【0021】
したがって、本発明は、リボ核酸(RNA)を含む試料からの核酸の迅速かつ効率的な生成、並びにRNA分子の検出及び定量を容易にする。さらに、本発明は、さまざまな産業、医療及び法医学の目的に用いることのできる、cDNAの迅速な産生及び増幅にも有用である。本発明のアニオン性ポリマーは、核酸ではない任意の高分子(macromolecule)と定義され、本発明の酵素反応に用いられるpHで少なくとも−1の正味電荷を有し、等量の対陽イオンを含む。本発明の一実施態様では、酵素反応に用いられるpHにおけるアニオン性ポリマーの正味電荷は、−1〜−10,0000の範囲であり、好ましくは−5〜−5,000の範囲であり、更に好ましくは−10〜−1,000の範囲であり、最も好ましくは−20〜−200の範囲である。全てのケースで、等量の対イオンが存在する。本発明の一実施態様では、アニオン性ポリマーは多糖類である。本発明の他の実施態様では、アニオン性ポリマーはポリペプチドである。本発明の更に他の実施態様では、アニオン性ポリマーは、酸又は無水物である。好ましい実施態様では、アニオン性ポリマーは、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)、又は上記アニオン性ポリマーの2種以上の混合物からなる群から選択される。RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの量は、1pg/mLより多くてもよく、好ましくは1pg/mL〜1mg/mLであり、更に好ましくは10pg/mL〜100μg/mLであり、最も好ましくは1ng/mL〜10μg/mLである。用いられるアニオン性ポリマーに応じて、RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの濃度を変えてもよい。
【0022】
本発明は、上記の好ましい最終濃度より高い濃度でアニオン性ポリマーを含む組成物を包含するが、例えば、反応混合物の追加成分と混合することにより、希釈されて好ましい最終濃度に達することが意図される。
【0023】
逆転写酵素は、逆転写酵素活性を示す任意のポリメラーゼであることができる。好ましくは、逆転写酵素は、OmniScript(登録商標)、AMV−RT、MMLV−RT、HIV−RT、EIAV−RT、RAV2−RT、C.ハイドロゲノフォルマン(C.hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、スーパースクリプトI(登録商標)、スーパースクリプトII(登録商標)、スーパースクリプトIII(登録商標)、又は逆転写酵素活性を有する、それらの変異体、変種及び誘導体である。
【0024】
本明細書で用いられる場合、変異体、変種及び誘導体は、化学種の明確な化学的活性をなお残存している、存在し得、又は産生し得る化学種の全ての置換体(permutations)を意味する。例としては、検出可能に標識され、又は他の方法で修飾されており、それによって化合物の化学的又は物理学的特性が変化する化合物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0025】
好ましい実施態様では、核酸ポリメラーゼはDNAポリメラーゼであることができる。DNAポリメラーゼは、DNA分子を複製することのできる任意のポリメラーゼであることができる。好ましくは、DNAポリメラーゼは、PCRに有用な熱安定性ポリメラーゼである。更に好ましくは、DNAポリメラーゼは、Taq、Tbr、Tth、Tih、Tfi、Tfl、Pfu、Pwo、Kod、VENT、DEEPVENT、Tma、Tne、Bst、Pho、Sac、Sso、Poc、Pab、ES4、又はDNAポリメラーゼ活性を有する、それらの変異体、変種及び誘導体である。
【0026】
オリゴヌクレオチドプライマーは、2以上のヌクレオチド長の任意のオリゴヌクレオチドであることができる。プライマーは、ランダムプライマー、ホモポリマー又は標的RNA鋳型に特異的なプライマー、例えば配列特異的プライマーであってもよい。
【0027】
更なる組成物の実施態様は、アニオン性ポリマーと、1種以上のヌクレオチド又はその誘導体等の他の反応混合物成分とを含む。好ましくは、ヌクレオチドは、デオキシヌクレオチド三リン酸、dNTP、例えば、dATP、dCTP、dGTP、dTTP、dITP、dUTP、α−チオ−dTNP、ビオチン−dUTP、フルオレセイン−dUTP、ジゴキシゲニン−dUTPである。
【0028】
本発明の緩衝化剤、塩溶液及び他の添加剤は、RT−PCRに有用な溶液を含む。好ましい緩衝化剤としては、例えば、TRIS、TRICINE、BISTRICINE、HEPES、MOPS、TES、TAPS、PIPES、CAPSが挙げられる。好ましい塩溶液としては、例えば、塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガン、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、及び酢酸リチウムが挙げられる。好ましい添加剤としては、例えば、DMSO、グリセロール、ホルムアミド、ベタイン、塩化テトラメチルアンモニウム、PEG、Tween 20、NP40、エクトイン、ポリオール、大腸菌(E.coli)SSBタンパク質、ファージT4遺伝子32タンパク質及びBSAが挙げられる。更なる組成物の実施態様は、DNAポリメラーゼについての逆転写酵素の阻害効果を低減することがわかっている他の成分、例えば、欧州特許第1050587号B1に開示されているホモポリマー核酸を含む。
【0029】
本発明の更なる実施態様は、RNA鋳型からの核酸の生成法、更に核酸の複製に関する。該方法は、a)RNA鋳型を、少なくとも1種の逆転写酵素並びに/又はその変異体、変種及び誘導体と、少なくとも1種の核酸ポリメラーゼ並びに/又はその変異体、変種及び誘導体と、核酸ではないアニオン性ポリマーと、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマーとを含む反応混合物に加える工程、及びb)上記RNA鋳型の一部と相補的な核酸分子を重合するのに十分な条件下で上記反応混合物をインキュベートする工程を含む。好ましい実施態様では、該方法は、上記RNA鋳型の少なくとも一部に相補的なDNA分子の複製を含む。更に好ましくは、DNA複製法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。最も好ましくは、該方法は、連結逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を含む。
【0030】
本発明のアニオン性ポリマーは、核酸ではない任意の高分子と定義され、本発明の酵素反応に用いられるpHで少なくとも−1の正味電荷を有し、等量の対陽イオンを含む。本発明の一実施態様では、酵素反応に用いられるpHにおけるアニオン性ポリマーの正味電荷は、−1〜−10,0000の範囲であり、好ましくは−5〜−5,000の範囲であり、更に好ましくは−10〜−1,000の範囲であり、最も好ましくは−20〜−200の範囲である。全てのケースで、等量の対イオンが存在する。本発明の一実施態様では、アニオン性ポリマーは多糖類である。本発明の他の実施態様では、アニオン性ポリマーはポリペプチドである。本発明の更に他の実施態様では、アニオン性ポリマーは、酸又は無水物である。好ましい実施態様では、アニオン性ポリマーは、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)、又は上記アニオン性ポリマーの2種以上の混合物からなる群から選択される。RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの量は、1pg/mLより多くてもよく、好ましくは1pg/mL〜1mg/mLであり、更に好ましくは10pg/mL〜100μg/mLであり、最も好ましくは1ng/mL〜10μg/mLである。用いられるアニオン性ポリマーに応じて、RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの濃度を変えてもよい。
【0031】
更に具体的な実施態様では、RT−PCRは約4℃〜約100℃で起こる。好ましくは、逆転写が約25℃〜約75℃で起こり、次いでPCRが約40℃〜約98℃で起こる。最も好ましい条件下で、逆転写が約37℃〜約60℃で起こり、変性が約94℃で起こり、アニーリングが約60℃で起こり、重合が約72℃で起こる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】流行性H1N1/09ウイルス由来のウイルスRNAを逆転写し、次いでA型インフルエンザウイルスのマトリックス(Matrix)遺伝子用の遺伝子特異的プライマーを用いてPCR増幅した。硫酸デキストランが存在しないか(レーン1〜2)、3.2ng/mL(レーン3〜4)、32ng/mL(レーン5〜6)、160ng/mL(レーン7〜8)、320ng/mL(レーン9〜10)及び640ng/mL(レーン11〜12)の最終濃度で硫酸デキストランを加えた。
図2】流行性H1N1/09ウイルス由来のウイルスRNAを逆転写し、次いでマトリックス(Matrix)遺伝子用の遺伝子特異的プライマーを用いてPCR増幅した。硫酸デキストランが存在しないか(レーン1〜2)、320ng/mL(レーン3〜4)、640ng/mL(レーン5〜6)、1.6μg/mL(レーン7〜8)、3.2μg/mL(レーン9〜10)、6.4μg/mL(レーン11〜12)及び16μg/mLの濃度で硫酸デキストランを加えた。
図3】流行性H1N1/09ウイルス由来のウイルスRNAを、マトリックス(Matrix)遺伝子用の遺伝子特異的プライマーを用いて逆転写した。次いで、逆転写混合物をPCRマスターミックスと混合し、マトリックス遺伝子を増幅した。硫酸デキストランの完全非存在下(レーン1〜2)、PCRでのみ480ng/mLの硫酸デキストランを用い(レーン3〜4)、又は逆転写で硫酸デキストランを用い(レーン5〜6)、反応を二通り(in duplicate)行った。
図4】10ngのHeLa細胞からの全RNAを逆転写し、次いで硫酸デキストランの非存在下(レーン−DS)又は640ng/mLの硫酸デキストランを用いて(レーン+DS)、ラミン(Lamin)A/C用の遺伝子特異的プライマーを用いてPCR増幅した。
図5】10ngのHeLa細胞からの全RNAを逆転写し、次いで硫酸デキストランの非存在下(レーン1〜2)又は640ng/mLの硫酸デキストランを用いて(レーン3〜4)、TNFR1用の遺伝子特異的プライマーを用いてPCR増幅した。
図6】10ngのHeLa細胞からの全RNAを逆転写し、次いでアルギン酸ナトリウムの非存在下で(レーン1〜2)、又は40ng/mL(レーン3〜4)、8ng/mL(レーン5〜6)及び4ng/mL(レーン7〜8)の最終濃度のアルギン酸ナトリウムを用いて、TNFR1用の遺伝子特異的プライマーを用いてPCR増幅した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、RNA鋳型からの核酸の生成、具体的には、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)産生及び核酸の分析に使用する組成物及び方法に関する。本発明は、RNA鋳型からの核酸の生成に有用な1種以上の成分と一緒に、核酸ではないアニオン性ポリマーを含む組成物を提供する。このような成分としては、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上の任意のヌクレオチド塩基、適切な緩衝化剤、RT又はRT−PCRに有用な塩又は他の添加剤(欧州特許第1050587号B1に開示されているホモポリマー核酸等の核酸が挙げられる)が挙げられる。本発明の方法は、RNA鋳型から核酸を生成するための、また好ましくは新規に合成された核酸を複製するための他の試薬と一緒にアニオン性ポリマーを利用する。核酸分子の生成、複製、分析、定量、及び他の操作に有用な本発明の組成物及び方法は、連結又は非連結RT−PCR手段に最も有用である。
【0034】
RT−PCRは、RNA鋳型に由来する核酸を生成及び複製するために用いられる、1分子操作である。RT−PCRは、本明細書で、本発明の組成物及び方法を利用することのできる代表的なプロトコルとして記載されているが、これに限定されない。当業者は、本発明が、逆転写酵素とDNAポリメラーゼ活性との組み合わせを必要とする他の方法においても有用であると理解している。RT−PCRは、2つの別個の分子合成:1)RNA鋳型からのcDNA合成;2)PCR増幅による、新規に合成されたcDNAの複製を必要とする。
【0035】
逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
RT−PCRでは、反応混合物を、最初に、RNA鋳型の少なくとも一部と相補的なDNA分子を合成するのに十分な温度で(適切な緩衝化剤中で)インキュベートする。逆転写反応混合物の成分としては、通常は、そこから相補的DNA(cDNA)が転写されるRNA鋳型;逆転写酵素活性を示す核酸ポリメラーゼ;及び核酸合成に必要な適切なヌクレオチド構成要素(building blocks)が挙げられる。本発明の目的のため、cDNAは、その核酸配列がRNA分子に相補的である、任意のDNA分子と定義される。RNA鋳型は、そこからcDNA分子を合成することができる、核酸配列を提供するために用いられる任意のRNA分子と定義される。RNA鋳型からのcDNAの合成は、通常は、逆転写酵素活性を示す核酸ポリメラーゼを利用することにより達成される。本発明の目的のため、逆転写酵素活性とは、RNA鋳型からcDNA分子を重合する酵素の能力を意味し、逆転写酵素は、広く逆転写酵素活性を有する任意の酵素を意味する。逆転写は、通常は、約20℃〜約75℃、好ましくは約35℃〜約70℃の範囲の温度で起こる。
【0036】
cDNA分子を生成するためのRNA鋳型の逆転写後、該cDNAを、cDNA分子の複製に十分な条件下(適切な緩衝剤中で)、インキュベートする。該反応混合物は、連結(連続又は1ステップとも呼ばれる)RT−PCRで用いられる、従来の逆転写酵素反応混合物のものと同じであってもよく、又は該反応混合物は、従来の逆転写反応混合物の一定量を含んでもよく、かつ、非連結(又は2ステップ)RT−PCRのように、核酸複製を更に修飾してもよい。複製反応混合物の成分としては、通常は、核酸鋳型(この例ではcDNA);核酸ポリメラーゼ;及び核酸の合成に必要な適切なヌクレオチド構成要素が挙げられる。核酸複製とは、その配列が他の核酸により決定され、かつ該他の核酸と相補的である核酸の重合を意味する。本明細書で用いられる場合、DNA複製はDNA増幅と同義語である。好ましくは、DNA増幅は、繰り返し起こり、核酸配列の両方の鎖、すなわち、RNA鋳型に相補的なDNAと、その核酸配列がRNA鋳型と実質的に同一であるDNAを複製することである。反復的又は周期的なDNA複製は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)における熱安定性ポリメラーゼを用いて都合よく達成することができる。
【0037】
PCRは、当該技術分野で周知の技術である。PCRは、反応混合物に以下のサイクルを供することにより核酸を増幅するために用いられる。(i)核酸変性、(ii)オリゴヌクレオチドプライマーのアニーリング、及び(iii)核酸重合である。増幅の好ましい反応条件には、熱サイクル、すなわち、PCRサイクルの各工程を促進するように、反応混合物の温度を変化させることが含まれる。PCRは、通常は、変性、アニーリング、及び複製の複数サイクルを通じて伸長され、(任意に及び好ましくは)初期の変性工程の延長、及び最後の伸長(重合)ステップの延長で増大される。熱サイクルは、通常は、約23℃〜約100℃、好ましくは約37℃〜約95℃の範囲の温度で起こる。核酸変性は、通常は、約90℃〜約100℃で、好ましくは約94℃で起こる。アニーリングは、通常は、約37℃〜約75℃、好ましくは約55℃で起こる。重合は、通常は、約55℃〜約80℃、好ましくは約72℃で起こる。熱サイクルの数は、実施者の好み、所望のDNA産物の量により、大きく変動する。好ましくは、PCRサイクルの数は、約5〜約99サイクルの範囲、更に好ましくは約20サイクル以上、最も好ましくは約40サイクルである。
【0038】
鋳型RNA
鋳型RNAは、実施者にとって既知又は未知の、目的の任意のリボ核酸であることができる。鋳型RNAは、人工的に合成しても、天然供給源から単離してもよい。ある実施態様では、RNA鋳型は、RNA、mRNA、piRNA、tRNA、rRNA,ncRNA、shRNA、siRNA、snRNA、miRNA、snoRNAおよびウイルスRNA等のリボ核酸であることもできる。好ましくは、RNAはmRNAである。更に好ましくは、RNAは生物活性であるか、生物活性ポリペプチドをコードする。
【0039】
アニオン性ポリマー
本発明は、アニオン性ポリマーが、RT−PCRで観察される、逆転写酵素による核酸複製の阻害を抑制又は低減し得る阻害低減剤としての役目を果たすことの発見に関する。
本発明のアニオン性ポリマーは、核酸ではなく、本発明の酵素反応で用いられるpHで少なくとも−1の正味電荷を有し、等量の対陽イオンを含む任意の高分子と定義される。本発明の一実施態様では、酵素反応に用いられるpHにおけるアニオン性ポリマーの正味電化は、−1〜−10,0000の範囲であり、好ましくは−5〜−5,000の範囲であり、更に好ましくは−10〜−1,000の範囲であり、最も好ましくは−20〜−200の範囲である。全てのケースで、等量の対イオンが存在する。本発明の一実施態様では、アニオン性ポリマーは多糖類である。本発明の他の実施態様では、アニオン性ポリマーはポリペプチドである。本発明の更に他の実施態様では、アニオン性ポリマーは、酸又は無水物である。好ましい実施態様では、アニオン性ポリマーは、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)、又は上記アニオン性ポリマーの2種以上の混合物からなる群から選択される。RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの量は、1pg/mLより多くてもよく、好ましくは1pg/mL〜1mg/mLであり、更に好ましくは10pg/mL〜100μg/mLであり、最も好ましくは1ng/mL〜10μg/mLである。用いられるアニオン性ポリマーに応じて、RT−PCRに用いられるアニオン性ポリマーの濃度を変えてもよい。
【0040】
逆転写酵素
本発明で有用な逆転写酵素は、逆転写酵素活性を示す任意のポリメラーゼであることができる。いくつかの逆転写酵素は当該技術分野で既知であり、市販されている。好ましい逆転写酵素としては、OmniScript(QIAGEN)、ニワトリ骨髄芽球腫ウイルス逆転写酵素(AMV−RT)、モロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)、ヒト免疫ウイルス逆転写酵素(HIV−RT)、EIAV−RT、RAV2−RT、C.ハイドロゲノフォルマン(C.hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、スーパースクリプトI、スーパースクリプトII、スーパースクリプトIII、並びにその変異体、変種及び誘導体が挙げられる。本発明では、さまざまな逆転写を使用することができ、本発明の範囲又は好ましい実施態様を逸脱しない限り、上記に具体的に記載されていない逆転写酵素が含まれることを理解すべきである。
【0041】
DNAポリメラーゼ
本発明で有用なDNAポリメラーゼは、DNA分子を複製することができる任意のポリメラーゼであることができる。好ましいDNAポリメラーゼは、熱安定性ポリメラーゼであり、これはPCRにとって特に有用である。熱安定性ポリメラーゼは、サーマス・アクティクス(Thermus aquaticus)(Taq)、サーマス・ブロキアナス(Thermus brockianus)(Tbr)、サーマス・フラバス(Thermus flavus)(Tfl)、サーマス・ルベル(Thermus ruber)(Tru)、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)(Tth)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(Tli)、及びサーモコッカス属の他の種、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)(Tac)、サーモトガ・ネアポリタナ(Thermotoga neapolitana)(Tne)、サーモトガ・マリチメ(Thermotoga maritime)(Tma)、及びサーモトガ属の他の種、ピュロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)(Pfu)、ピュロコッカス・ウォエセイ(Pyrococcus woesei)(Pwo)、及びピュロコッカス属の他の種、バキュラス・ステロサーモフィラス(Bacullus sterothermophilus)(Bst)、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)(Sac)、スルホロブス・ソルファタリクス(Sulfolobus solfataricus)(Sso)、ピロジクチウム・オクルタム(Pyrodictium occultum)(Poc)、ピロジクチウム・アビシ(Pyrodictium abyssi)(Pab)、及びメタノバクテリウム・サーモアウトトロフィクス(Methanobacterium thermoautotrophicum)(Mth)、及びその変異体、変種若しくは誘導体等の様々な好熱性細菌から単離される。
【0042】
いくつものDNAポリメラーゼが既知であり、市販されている。好ましい熱安定性DNAポリメラーゼは、Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT、DEEPVENT、並びにその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される。本発明では、さまざまなDNAポリメラーゼを使用することができ、本発明の範囲又は好ましい実施態様を逸脱しない限り、上記に具体的に記載されていないDNAポリメラーゼが含まれることを理解すべきである。
【0043】
オリゴヌクレオチドプライマー
本発明で有用なオリゴヌクレオチドウライマーは、2以上のヌクレオチド長の任意のオリゴヌクレオチドであることができる。好ましくは、PCRプライマーは、約15〜約30塩基長であり、回文構造(自己相補的)又は反応混合物で用いることのできる他のプライマーと相補的ではない。プライマーは、ランダムプライマー、ホモポリマー、又は標的RNA鋳型に特異的なプライマー(例えば、配列特異的プライマー)であることができるが、これらに限定されない。オリゴヌクレオチドプライマーは、相補的核酸の重合を促進する、標的核酸の領域とハイブリダイズするために用いられるオリゴヌクレオチドである。好ましいRT−PCR法では、プライマーはRNA鋳型の一部に相補的な第一の核酸分子(例えば、cDNA分子)の逆転写の促進に役立ち、核酸の複製(例えば、DNAのPCR増幅)の促進にも役立つ。任意のプライマーは、当業者により合成することができ、又は任意の多数の供給業者から購入することができる。本発明では、多数のアレイのプライマーを使用することができ、本発明の範囲又は好ましい実施態様を逸脱しない限り、上記に具体的に記載されていないプライマーが含まれることを理解すべきである。
【0044】
ヌクレオチド塩基
本発明で有用なヌクレオチド塩基は、核酸の重合において有用な任意のヌクレオチドであることができる。ヌクレオチドは、天然に存在する、ありふれていない(unusual)、修飾された、誘導体化された、又は人工的なものであってもよい。ヌクレオチドは、未標識であってもよく、当該技術分野で既知の方法で(例えば、放射性同位体、ビタミン類、蛍光性又は化学発光性部分、ジオキシゲニンを用いて)検出可能に標識してもよい。好ましくは、該ヌクレオチドは、デオキシヌクレオシド3リン酸、dNTP(例えば、dATP、dCTP、dGTP、dTTP、dITP、dUTP、α−チオ−dNTPs、ビオチン−dUTP、フルオレセイン−dUTP、ジゴキシゲニン−dUTP、7−デアザ−dGTP)である。dNTPは、当該技術分野で周知であり、市販されている。
【0045】
緩衝化剤および塩溶液
本発明で有用な緩衝剤及び塩は、核酸合成のため、例えば逆転写酵素及びDNAポリメラーゼ活性のために、適切で安定なpH及びイオン条件をもたらす。本発明で有用な、さまざまな緩衝液及び塩溶液及び修正緩衝液が当該技術分野で既知であり、本明細書に具体的に開示されていない物質も含まれる。好ましい緩衝化剤としては、TRIS、TRICINE、BIS−TRICINE、HEPES、MOPS、TES、TAPS、PIPES、CAPSが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい塩溶液としては、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガン、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、及び酢酸リチウムの溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
RT−PCRに有用な他の添加剤
逆転写、複製、及び/又は両反応の組み合わせを促進し得る他の添加剤(例えば、RT−PCR促進のための物質)、本発明により最初に開示されたもの以外の他のものが、当該技術分野で既知である。本発明の組成物及び方法によれば、RNA鋳型からの核酸の生成及び複製を最適化するため、1種以上の上記添加剤を本発明の組成物に含有させてもよい。添加剤は、有機又は無機の化合物であることができる。本発明で有用な阻害低減剤としては、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン、アルブマックス、カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、グロブリン、リゾチーム、トランスフェリン、ミオグロビン、ヘモグロビン、α−ラクトアルブミン、フマラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、アミログルコシダーゼ、カルボニックアンヒドラーゼ、β−ラクトグロブリン、アプロチニン、大豆トリプシン阻害剤、トリプシノーゲン、ホスホリラーゼb、ミオシン、アクチン、β−ガラクトシダーゼ、カタラーゼ、大豆トリプシン消化物、トリプトース、レクチン、大腸菌(E.coli)一本鎖結合(SSB)タンパク質、ファージT4遺伝子32タンパク質等のポリペプチド、又はこれらの断片若しくは誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。非ポリペプチド添加剤の例としては、ホモポリマー核酸、tRNA、rRNA、硫酸含有化合物、酢酸含有化合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、ホルムアミド、ベタイン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、ポリエチレングリコール(PEG)、Tween20、NP40、エクトイン、及びポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい添加剤としては、ホモポリマー核酸、DMSO、グリセロール、ホルムアミド、ベタイン、TMAC、PEG、Tween20、NP40、エクトイン、ポリオール、大腸菌SSBタンパク質、ファージT4遺伝子32タンパク質、及びBSAが挙げられる。
【0047】
連結RT−PCRのための試薬キット
本発明の更なる態様は、少なくとも1種の逆転写酵素、少なくとも1種のDNAポリメラーゼ、及び少なくとも1種の核酸ではないアニオン性ポリマーを含む、連結RT−PCRのための試薬キットである。このような試薬キットでは、上記逆転写酵素、DNAポリメラーゼ及びアニオン性ポリマーを、1個の容器内で組合せてもよい。また、上記逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを1個の容器内で組合せ、上記アニオン性ポリマーを第二の容器内に入れてもよい。また、上記逆転写酵素及び上記アニオン性ポリマーを1個の容器内で組合せ、上記DNAポリメラーゼを第二の容器内に入れてもよい。また、上記DNAポリメラーゼ及び上記アニオン性ポリマーを1個の容器内で組合せ、上記逆転写酵素を第二の容器内に入れてもよい。また、3種全ての成分を別個の容器に入れてもよい。上記試薬キットは、更に2種以上のdATP、dCTP、dGTP、及びdTTPの混合物、並びに/又は1種以上のRT−PCRに有用な添加剤、並びに/又は緩衝化剤を含んでいてもよい。上記の全ての成分を別個の容器に入れるか、2種以上の成分を1個の容器内で組合せてもよい。好ましくは、2種の酵素を1個の容器内で組合せ、アニオン性ポリマーを一緒に入れるか、アニオン性ポリマーを別個の容器内に入れ、存在する場合には、緩衝化剤、dNTP混合物、及び1種以上の有用な添加剤を別個の容器内でキットに提供する。
本発明の更なる態様は、連結RT−PCRのための、上記組成物又は試薬キットの使用である。
【0048】
本発明の特定の実施態様は以下の通りである:
核酸ではないアニオン性ポリマー、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のヌクレオチド又はその誘導体のいずれか、及び2種以上の異なるポリメラーゼを含み、該ポリメラーゼの少なくとも1種が逆転写酵素活性を有し、少なくとも1種が核酸ポリメラーゼ活性を有する、RNA鋳型から核酸を生成するのに適した組成物。
上記組成物は、更に緩衝化剤、塩、及び/又はRT−PCRに有用な添加剤を含む。
上記アニオン性ポリマーが核酸ではなく、RT−PCRで用いられるpHで少なくとも−1の正味電荷を有し、等量の対イオンを含む、上記組成物。
上記アニオン性ポリマーの正味電荷が、−1〜−10,0000の範囲であり、好ましくは−5〜−5,000の範囲であり、更に好ましくは−10〜−1,000の範囲であり、最も好ましくは−20〜−200の範囲である、上記組成物。全てのケースで、等量の対イオンが存在する。
上記アニオン性ポリマーが、多糖類、ポリペプチド、酸又は無水物である、上記組成物。
上記アニオン性ポリマーは、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)、又は上記アニオン性ポリマーの2種以上の混合物からなる群から選択される、上記組成物。
【0049】
上記逆転写酵素活性を示すポリメラーゼが、OmniScript、AMV−RT、MMLV−RT、HIV−RT、EIAV−RT、RAV2−RT、C.ハイドロゲノフォルマン(C.hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、スーパースクリプトI、スーパースクリプトII、スーパースクリプトIII、並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、上記組成物。
【0050】
上記核酸ポリメラーゼ活性を示すポリメラーゼが、Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT DNAポリメラーゼ、DEEPVENT DNAポリメラーゼ、並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、上記組成物。
【0051】
下記工程を含む、RNA鋳型から核酸を生成する方法:
a)上記RNA鋳型を反応混合物に加える工程であって、上記反応混合物が、少なくとも1種の逆転写酵素並びに/又はその変異体、変種及び誘導体と、少なくとも1種の核酸ポリメラーゼ並びに/又はその変異体、変種及び誘導体と、核酸ではないアニオン性ポリマーと、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマーとを含む工程、及び
b)上記RNA鋳型の一部と相補的な核酸分子を重合するのに十分な条件下で上記反応混合物をインキュベートする工程。
上記アニオン性ポリマーが核酸ではなく、RT−PCRで用いられるpHで少なくとも−1の正味電荷を有し、等量の対イオンを含む、上記方法。
上記アニオン性ポリマーの正味電荷が、−1〜−10,0000の範囲であり、好ましくは−5〜−5,000の範囲であり、更に好ましくは−10〜−1,000の範囲であり、最も好ましくは−20〜−200の範囲である、上記方法。全てのケースで、等量の対イオンが存在する。
上記アニオン性ポリマーが、多糖類、ポリペプチド、酸又は無水物である、上記方法。
上記アニオン性ポリマーが、硫酸デキストラン、アルギン酸ナトリウム、ヘパリン、カラギーン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリフロレチンリン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(メチル−ビニル−エーテル−マレイン酸無水物)、又は上記アニオン性ポリマーの2種以上の混合物からなる群から選択される、上記方法。
【0052】
上記核酸がDNAであり、上記ポリメラーゼがDNAポリメラーゼである、上記方法。
【0053】
上記DNAポリメラーゼが、Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT DNAポリメラーゼ、DEEPVENT DNAポリメラーゼ、並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、上記方法。
【0054】
上記逆転写酵素が、OmniScript、AMV−RT、M−MLV−RT、HIV−RT、EIAV−RT、RAV2−RT、C.ハイドロゲノフォルマン(C.hydrogenoformans)DNAポリメラーゼ、スーパースクリプトI、スーパースクリプトII、スーパースクリプトIII、並びに/又はその変異体、変種及び誘導体からなる群から選択される、上記方法。
【0055】
少なくとも1種の逆転写酵素、少なくとも1種のDNAポリメラーゼ、及び少なくとも1種の核酸ではないアニオン性ポリマーを含む、連結RT−PCRを実施するためのキット。
【0056】
更にdATP、dCTP、dGTP及びdTTPの2種以上の混合物、並びに/又はRT−PCRに有用な1種以上の添加剤、並びに/又は緩衝化剤を含む、連結RT−PCRを実施するためのキット。
【実施例】
【0057】
実施例1:
アニオン性ポリマーを使用することによりRT−PCRの特異性が向上することを証明するために、A型インフルエンザウイルス由来のRNAを含む試料に、硫酸デキストラン8000(Sigma)を、量を少しずつ増やしながら加えた。RT−PCRのためのRNA鋳型として、A型インフルエンザウイルスのマトリックス遺伝子を選択した。
A型インフルエンザウイルスのグループに属する、流行性H1N1/09ウイルス由来のウイルスRNAを、鋳型としての5μLのウイルスRNA、逆転写酵素(OmniScript,QIAGEN)、2.5単位のHotStar Fast Taq 1ステップRT−PCR緩衝液(QIAGEN)(最終濃度1倍)、各0.4mMのdNTP混合物、各0.6μMの、A型インフルエンザウイルスのマトリックス遺伝子のための順方向プライマー(配列番号:1)及び逆方向プライマー(配列番号:2)、及び3.2ng/mL〜640ng/mLの濃度の硫酸デキストランを含む、最終容量25μL中で反応させた。逆転写反応混合物を50℃で30分間インキュベートし、次いで95℃で5分間加熱した。その後、94℃で30秒、50℃で30秒、及び72℃で1分からなる45サイクルを実施した。
試料(二通り)をアガロースゲルで分析した(図1)。硫酸デキストランを加えることにより、効率及び特異性の向上が観察された。硫酸デキストランの量を増やすことにより、RT−PCR産物の収量が著しく増加した。この実験で、320及び640ng/mLの硫酸デキストリンによって最善の結果が示され(レーン9〜12)、非常に低濃度の硫酸デキストラン(3.2ng/mL、レーン3〜4)でさえ、硫酸デキストランをRT−PCRに加えていない対照の反応(レーン1〜2)と比較して明らかなプラスの影響が示された。
【0058】
実施例2:
より高濃度の硫酸デキストランがRT−PCRにおいて悪影響を与えるかどうかを判定するため、より高濃度の硫酸デキストランを用いた。硫酸デキストランの濃度を除き、反応条件は実施例1に記載したのと同じである。本実施例における硫酸デキストランの濃度は、0.32μg/mL〜16μg/mLである。この場合も同様に、アガロースゲルで試料を分析した(図2)。この場合も同様に、硫酸デキストランを加えていない対照(レーン1〜2)と比較して、硫酸デキストランを加えることによって、効率及び特異性の明らかな改善が観察された(レーン3〜12)。非常に高濃度(16μg/mL)の硫酸デキストランでのみ(レーン13〜14)、この濃度ではRT−PCRにおけるいずれの産物も得られず、RT−PCRにおける悪影響を検出することができた。しかし、効率及び特異性における硫酸デキストランのプラスの影響は広範囲の濃度(0.32μg/mL〜6.4μg/mL)にわたってプラスの効果が観察され(レーン3〜12)、これにより、RT−PCRにおけるアニオン性ポリマーのプラスの効果が確かであることが証明された。
【0059】
実施例3:
RT−PCRにおけるアニオン性ポリマーのプラスの影響が、逆転写におけるものか、cDNAの複製におけるものか、又は両者におけるものかを判定するため、逆転写工程で、若しくは複製工程でアニオン性ポリマーを加え、又は全く加えずに2ステップRT−PCRを実施した。
鋳型RNA及び他の全ての反応成分は実施例1と同じである。逆転写反応を50℃で30分間インキュベートで行った。その後、反応物を氷上で冷却することによって逆転写反応を停止した。逆転写反応物の一定量(12.5μL)を、2.5単位のHotStar Taq Plus(QIAGEN)、0.6μMのプライマー(配列番号:1及び2)、0.4mMのdNTPミックス、及び1倍の(1x)1ステップRT−PCR緩衝液(QIAGEN)を含む、12.5μLのPCRマスターミックスと混合した。実施例1に示したサイクル条件でPCRを実施した。硫酸デキストラン8000(Sigma)を、最終濃度が480ng/mLになるように、逆転写反応又はPCR反応のいずれかに加えた。対照反応では、硫酸デキストランを加えなかった。
試料を、二通りアガロースゲルで分析した(図3)。硫酸デキストランを加えなかった反応では、マトリックス遺伝子の産生量は非常に低く、非常に大量の非特異的産物が検出された(レーン1〜2)。PCR反応に硫酸デキストランを加えることにより、マトリックス遺伝子の産生量はわずかに改善されるが、特異性の効果はわずかであるか、又は効果はなかった。一方、逆転写反応に硫酸デキストランを加えることにより、反応の効率及び特異性は著しく高くなった。したがって、硫酸デキストランのプラスの効果は、主として逆転写酵素の際の効果によるものであるが、PCRにおいても、わずかなプラスの効果を検出することができた。
【0060】
実施例4:
ウイルスRNAだけでなく、mRNAも鋳型としての役割を果たすことができるかを証明するため、RT−PCRの鋳型としてHela細胞からのmRNA(10ng)を用いた。鋳型としてHeLa細胞からのmRNAを用いた以外、反応条件は実施例1と同じであり、ラミンA/C(配列番号:3及び4)及びTNFR1(配列番号:5及び6)の増幅用プライマー対をそれぞれ用い、PCRのアニーリング温度は50℃でなく55℃であった。アニオン性ポリマーとして、640ng/mLの硫酸デキストラン8000を用いた。この場合も同様に、試料を、二通りアガロースゲルで分析した(図4及び図5)。この場合も同様に、本実施例によって、RT−PCRの効率及び特異性においてアニオン性ポリマーのプラスの効果が示される。硫酸デキストランを加えないと、ラミンA/Cの特異的アプリコンに加え、多くの非特異的アンプリコンを検出することができ(図4、レーン−DS)、基本的に硫酸デキストランをRT−PCRに加えたときにのみ、ラミンA/Cの特異的アンプリコンを検出することができた(図4、レーン+DS)。TNFR1を増幅した場合、状況は類似していた。硫酸デキストランを加えないと、TNFR1の特異的アンプリコンに加え、多くの非特異的アンプリコンが検出されたが(図5、レーン−DS)、硫酸デキストランを加えることにより、特異性及び効率において著しい向上を検出することができた(図5、レーン+DS)。
【0061】
実施例5
硫酸デキストランに加え、他のアニオン性ポリマーが、特異性及び効率の向上に適していることを証明するために、RT−PCRにおけるアニオン性ポリマーとして、それぞれ1ng、200pg及び100pgのアルギン酸ナトリウムを用いた。アニオン性ポリマーとしてアルギン酸ナトリウムを用い、TNFR1の増幅のためのプライマー対(配列番号:5及び6)を用いたことを除き、反応条件は実施例4に記載したものと同様である。この場合も同様に、試料を、二通りアガロースゲルで分析した(図6)。この結果によって、さまざまな量でアルギン酸ナトリウムを加えることによっても、RT−PCRにおける効率及び特異性の向上がもたらされることがはっきりと証明された。アニオン性ポリマーといてアルギン酸ナトリウムを用いた結果は、アニオン性ポリマーとして硫酸デキストランを用いて得られた結果と同様であった(図5)。
したがって、2種の化学的に異なるアニオン性ポリマーが同様のプラスの効果を示すように、RT−PCRの効率及び特異性の向上は、アニオン性ポリマーの一般的な特徴であることが示された。
【0062】
実施例で言及された配列
配列番号:1:ATGAGYCTTYTAACCGAGGTCGAAACG
配列番号:2:TGGACAANCGTCTACGCTGCAG
配列番号:3:CATCCTCGCAAACCACCCACTCA
配列番号:4:CAGCGCCCACAAGCCACAGAG
配列番号:5:CAGCTCTCCGGCCTCCAGAAG
配列番号:6:TCCTCGGGTCCCCCTGTTGGT
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]