特許第6249948号(P6249948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249948
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】金属表面改質液及び金属表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/50 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   C23C22/50
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-529405(P2014-529405)
(86)(22)【出願日】2013年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2013069437
(87)【国際公開番号】WO2014024651
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-175200(P2012-175200)
(32)【優先日】2012年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 真人
(72)【発明者】
【氏名】粕川 高久
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/002040(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/064659(WO,A1)
【文献】 特開2009−263732(JP,A)
【文献】 特開平11−264088(JP,A)
【文献】 特開2008−088551(JP,A)
【文献】 特開2005−290459(JP,A)
【文献】 特開2003−155578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素を10〜500ppm、オキシカルボン酸を20〜3,000ppm、炭素数1〜7のアルカン酸を1〜10,000ppm、及び硝酸イオンを1〜10,000ppm含有し、
オキシカルボン酸が乳酸、リンゴ酸、及びクエン酸から選ばれる少なくとも1種であり、
炭素数1〜7のアルカン酸が、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸から選ばれる少なくとも1種であり、
前記オキシカルボン酸及び炭素数1〜7のアルカン酸の組み合わせが、乳酸と酢酸、乳酸とプロピオン酸、リンゴ酸と酢酸、リンゴ酸とギ酸、クエン酸と酢酸、又はクエン酸とギ酸のいずれかであり、且つ
Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素のオキシカルボン酸に対するモル比が1/10〜1/2で、pH2.0〜6.5の水溶液であることを特徴とするフッ素を含有しない鉄系材料の金属表面改質液。
【請求項2】
Zrが、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種に由来する請求項1に記載の金属表面改質液。
【請求項3】
Tiが、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン及び硝酸チタンアンモニウムから選ばれる少なくとも1種に由来する請求項1に記載の金属表面改質液。
【請求項4】
pH緩衝作用を有し、pH3.5〜5.5の水溶液である請求項1に記載の金属表面改質液。
【請求項5】
Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素が、オキシ硝酸ジルコニウムとオキシ硝酸チタン又は硫酸チタンとの少なくとも一方である請求項1に記載の金属表面改質液。
【請求項6】
鉄系材料である金属材料の表面を改質する金属表面改質方法であって、
請求項1〜5のいずれかに記載の金属表面改質液を前記金属材料に接触させる工程と、
前記改質液を接触させる工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、
を含む金属表面改質方法。
【請求項7】
前記改質液を接触させる前に、酢酸及び硝酸を含有する酸性水溶液による酸洗を金属材料に行なう工程をさらに含む請求項6に記載の金属表面改質方法。
【請求項8】
請求項6に記載の金属表面改質方法によって表面改質された金属表面上に焼付け塗料を塗装することを特徴とする金属材料の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2012年8月7日に出願した特願2012-175200号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)の優先権の利益を主張するものである。
(技術分野)
本発明は、フッ素を含有しない金属表面改質液及び金属表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属表面の耐食性を向上させるためクロム酸塩処理及びリン酸塩処理が一般に行われている。しかしながら近年クロムの毒性が社会問題になっており、クロム酸塩を使用する表面処理方法は、処理工程でのクロム酸塩ヒュ−ムの飛散の問題、排水処理設備に多大な費用を要すること、さらには化成処理皮膜からクロム酸の溶出による問題などがある。
【0003】
またリン酸塩処理では、リン酸亜鉛系、リン酸鉄系の表面処理が通常行われているが、耐食性を付与する目的でリン酸塩処理後、通常クロム酸によるリンス処理を行うためクロム処理の問題とともにリン酸塩処理剤中の反応促進剤や金属イオンなどの排水処理、被処理金属からの金属イオンの溶出によるスラッジ処理などの問題がある。
【0004】
これに対しクロム酸塩処理やリン酸亜鉛処理以外の処理方法としては、ジルコニウム系やチタン系の表面処理剤が知られている。例えば特許文献1には、実質的にリン酸イオンを含有せず、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有してなる鉄及び/又は亜鉛系基材用化成処理剤が提案されている。特許文献2には、(I)Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、(II)フッ素イオンの供給源としてフッ素含有化合物を含有する金属の表面処理用組成物を用いることにより、鉄又は亜鉛の少なくとも1種を含む金属の表面に耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることができ、且つ表面調整(表調)工程を必要としないため処理工程の短縮、省スペース化を図ることが開示されている。
【0005】
しかしながら特許文献1や特許文献2に開示の表面処理剤では、いずれもフッ素を必須として含むものであり、近年の工業廃水におけるフッ素含有量の規制から、これらを克服するために多大な設備投資が必要であった。
【0006】
これに対し特許文献3では、フッ素を含有せずに金属基材表面に耐食性および塗膜密着性を有する化成処理皮膜を形成するため、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、安定化剤として官能基を複数有する有機化合物(B)を、化合物(A)の含有量が0.1〜10mmol/L、有機化合物(B)の含有量が化合物(A)の金属含有量の2.5〜10倍molで含有し、pHが2.0〜6.5である金属表面用化成処理液を用いることを提案している。
【0007】
しかしながら特許文献3に開示の金属表面用化成処理液では、特に鉄系材料に対する化成処理において連続して処理を行った場合、被処理基材から溶出した金属(鉄)イオンが処理液中に蓄積されて化成処理性が低下し、結果として耐食性や上層塗膜との密着性が低下する恐れがあり、溶出金属(鉄)イオンを処理液中から定期的に除去しなければならないという不具合が生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−155578号公報
【特許文献2】国際公開第2002/103080号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/002040号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に鉄系材料に対する化成処理において連続して処理を行った場合でも、上述の不具合が生じることなく、特に鉄系材料に対する化成処理に有用なフッ素を含有しない金属表面改質液及び金属表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素、オキシカルボン酸、炭素数1〜7のアルカン酸及び硝酸イオンを特定量含有させることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0011】
項1.Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素を10〜500ppm、オキシカルボン酸を20〜3,000ppm、炭素数1〜7のアルカン酸を1〜10,000ppm、及び硝酸イオンを1〜10,000ppm含有し、且つZr及びTiから選択される少なくとも1つの元素のオキシカルボン酸に対するモル比(Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素/オキシカルボン酸)が1/10〜1/2で、pH2.0〜6.5の水溶液であることを特徴とするフッ素を含有しない金属表面改質液。
【0012】
項2.オキシカルボン酸が、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の金属表面改質液。
【0013】
項3.炭素数1〜7のアルカン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸から選ばれる少なくとも1種である項1又は2に記載の金属表面改質液。
【0014】
項4.Zrが、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種に由来する項1ないし3のいずれか1項に記載の金属表面改質液。
【0015】
項5.Tiが、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン及び硝酸チタンアンモニウムから選ばれる少なくとも1種に由来する項1ないし4のいずれか1項に記載の金属表面改質液。
【0016】
項6.pH緩衝作用を有し、pH3.5〜5.5の水溶液である項1ないし5のいずれか1項に記載の金属表面改質液。
【0017】
項7. Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素が、オキシ硝酸ジルコニウムと、オキシ硝酸チタン又は硫酸チタンとの少なくとも一方であり、オキシカルボン酸が乳酸、リンゴ酸、及びクエン酸から選択され、炭素数1〜7のアルカン酸が、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸から選択される項1に記載の金属表面改質液。
【0018】
項8.金属材料の表面を改質する金属表面改質方法であって、項1ないし7のいずれか1項に記載の金属表面改質液を前記金属材料に接触させる工程と、前記改質液を接触させる工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、を含む金属表面改質方法。
【0019】
項9.金属材料が鉄系材料である項8に記載の金属表面改質方法。
【0020】
項10.前記改質液を接触させる前に、酢酸及び硝酸を含有する酸性水溶液による酸洗を金属材料に行なう工程をさらに含む項8又は9に記載の金属表面改質方法。
【0021】
項11.項8ないし10のいずれか1項に記載の金属表面改質方法によって表面改質された金属表面上に焼付け塗料を塗装することを特徴とする金属材料の塗装方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明組成物によれば、特に鉄系材料に対する化成処理において連続して処理を行った場合でも不具合が生じることなく、しかもフッ素を含有せずに金属基材表面に耐食性および上層塗膜との密着性に優れた化成処理皮膜を形成することができる。
【0023】
従って本発明の金属表面改質液は、特に鉄系材料に対する化成処理に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の金属表面改質液は、Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素(Zr及びTiの両者を含む場合はその総和)を10〜500ppm、好ましくは25〜300ppm含有する。10ppm未満では、十分な耐食性能が得られず、500ppmを超えると、耐食性能が低下し、処理膜上に形成される塗膜との密着性も低下する恐れがある。
【0025】
Zrは、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどを供給源とすることができる。
【0026】
Tiは、例えば、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン及び硝酸チタンアンモニウムなどを供給源とすることができる。
【0027】
本発明の金属表面改質液は、オキシカルボン酸を20〜3,000ppm、好ましくは50〜1,000ppm含有する。20ppm未満では、改質液中のZrやTiを安定化できず沈殿物を生じる場合があり、3,000ppmを超えるとZrやTiが改質液中から析出し難くなり金属基材表面に化成処理皮膜が形成されない場合がある。
【0028】
オキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸などが使用でき、特に乳酸が好適である。
【0029】
本発明では、上記Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素(Zr及びTiの両者を含む場合はその総和)のオキシカルボン酸に対するモル比(Zr及びTiから選択される少なくとも1つの元素/オキシカルボン酸)が、1/10〜1/2であり、特に1/8〜1/3の範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると金属基材表面に化成処理皮膜が形成されない場合がある。
【0030】
本発明の金属表面改質液は、炭素数1〜7のアルカン酸を1〜10,000ppm、好ましくは25〜3,000ppm含有する。1ppm未満では、経時で改質液のpHが上昇し改質液の制御が困難となり耐食性が低下し、10,000ppmを超えるとZrやTiが改質液中から析出し難くなり金属基材表面に化成処理皮膜が形成されない場合がある。
【0031】
炭素数1〜7のアルカン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが使用でき、特にギ酸、酢酸が好適である。
【0032】
本発明の金属表面改質液は、硝酸イオンを1〜10,000ppm、好ましくは25〜5,000ppm含有する。1ppm未満では、金属基材表面の酸化層を溶解できず金属基材表面に化成処理皮膜が形成されない場合があり、10,000ppmを超えると金属基材からの溶出金属量が多くなり耐食性や上層塗膜との密着性が低下する場合がある。
【0033】
本発明の金属表面改質液は、皮膜の耐食性向上の点から、さらにマグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、セリウム、ストロンチウム、希土類元素、スズ、ビスマス、イットリウム、バナジウム、バリウム、クロム、モリブデン、タングステン及び銀よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有することができる。これら金属元素の供給源としては特に限定されず、例えば、硝酸化物、硫酸化物等として金属表面改質液に配合することができる。これら金属元素を含有させる場合に、その含有量は、金属元素換算で0.1〜5,000ppmの範囲内であることが適当である。
【0034】
本発明の金属表面改質液は、皮膜の耐食性向上、塗膜との付着性向上等の点から、さらにアミノシランやエポキシシラン等のシランカップリング剤;及びエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル樹脂等の水溶性又は水分散性有機樹脂を配合することができる。これらを使用する場合には、その含有量は、固形分濃度で0.1〜300,000ppm、好ましくは5〜5,000ppmの範囲内であることが適当である。
【0035】
本発明の金属表面改質液は、さらに組成物の安定性及び析出性の向上を目的として界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。これら界面活性剤を使用する場合には、その含有量は、固形分濃度で5〜300,000ppm、好ましくは25〜100,000ppmの範囲内での範囲内であることが適当である。
【0036】
本発明の金属表面改質液は、pH2.0〜6.5、特に3.5〜5.5の水溶液であることが好ましい。本発明の金属表面改質液は、処理後の液安定性向上の点から、前記pH範囲でpH緩衝作用を有することが望ましい。pHの調整には、前述のギ酸、酢酸等のアルカン酸や硝酸等の酸性化合物、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、金属表面改質液は、オキシ硝酸ジルコニウムと、オキシ硝酸チタン又は硫酸チタンとの少なくとも一方を10〜500ppm、乳酸、リンゴ酸、及びクエン酸から選択されたオキシカルボン酸を20〜3,000ppm、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸から選択された炭素数1〜7のアルカン酸を1〜10,000ppm、及び硝酸イオンを1〜10,000ppm含有し、且つZr及びTiから選択される少なくとも1つの元素のオキシカルボン酸に対するモル比が1/10〜1/2で、pH2.0〜6.5の水溶液である。
【0038】
上記の通り得られる本発明の金属表面改質液は、金属材料表面にZr及び/又はTiを含む化成皮膜を形成するためのものであり、該金属表面改質液を金属材料に接触させると、素材の鉄が溶出し、その溶出した鉄イオンがオキシカルボン酸と錯体をつくることで、ZrおよびTiが不安定化し、Zr及び/又はTiの水酸化物及び/又は酸化物と、素材金属(鉄系材料の場合は主にFe)とオキシカルボン酸との錯体とを含む化成皮膜層を金属材料表面に析出させることが可能である。その作用機構は十分解明されていないが、素材金属の溶出時に水素イオンの還元がおきるため界面でのpH上昇を生じるものの、アルカン酸があると緩衝効果によりpH上昇を抑えることが可能となり、連続処理時でも素材金属のエッチングを損なうことがなく、またZr及び/又はTiとオキシカルボン酸との錯体がpH上昇により安定性を増し、素材金属である鉄イオンによる不安定化がおきにくくなるが、アルカン酸の緩衝効果によりpH上昇を抑えることと何らかの作用により、一定の析出性が確保できたものと推定している。
【0039】
本発明の金属表面改質方法は、上記の通り得られる金属表面改質液を金属材料に接触させる工程(以下、改質液接触工程)と、前記改質液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、を含む。
【0040】
改質液接触工程は特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等の方法を採用することができる。処理液の温度を20〜70℃、特に30〜55℃の範囲内に調整することによって行うことが好ましい。
【0041】
金属材料としては、通常、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板等の鋼板、鋳鉄、焼結材、鉄亜鉛合金メッキ鋼板等の鉄系材料;アルミニウムダイカスト、アルミニウム合金板等のアルミニウム系材料;亜鉛系材料等を挙げることができる。本発明の金属表面改質方法は、特に鉄及び/又はその合金からなる鉄系材料に有用である。
【0042】
これら金属材料は、上記改質液接触工程前に脱脂処理、脱脂後水洗処理、酸洗処理等を行い、改質液接触工程後に水洗工程を行うことが好ましい。
【0043】
特に本発明の金属表面改質方法では、改質液接触工程前に酢酸及び硝酸を含有する酸性水溶液による酸洗を行なうことで、耐食性能を向上させることができ、また酸洗処理後に通常行なわれる酸洗液の除去を行なわなくとも良い。上記酸性水溶液は、1L中に酢酸0.1〜10g、硝酸0.1〜10gの濃度範囲が好適である。該酸性水溶液には界面活性剤やキレート剤をさらに添加することができる。添加する場合、界面活性剤および/またはキレート剤の種類は、酸性水溶液中で使用可能なものであれば、特に限定されない。酸洗の処理条件としては特に限定しないが、5〜80℃で、3〜30分間処理することが好ましい。
【0044】
上記脱脂処理は、基材表面に付着している油分や汚れを除去するために行われるものであり、無リン及び無窒素の脱脂洗浄液等の脱脂剤により、通常、30〜70℃において数秒間〜数分間程度の浸漬処理がなされる。所望により、脱脂処理の前に、予備脱脂処理を行うことも可能である。
【0045】
上記改質液接触後の水洗工程は、その後の各種塗装後の密着性、耐食性等に悪影響を及ぼさないようにするために、1回又はそれ以上により行われるものである。この場合、最終の水洗は、純水で行われることが適当である。この水洗処理は、スプレー水洗又は浸漬水洗のどちらでもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することもできる。
【0046】
上記水洗工程の後に、乾燥工程をさらに採用することができる。乾燥工程を行う場合は、冷風乾燥、熱風乾燥等を行うことができる。
【0047】
本発明方法により得られる皮膜は、金属材料への付着量が処理剤に含まれる金属元素換算で0.1〜100mg/m、特に1〜50mg/mであることが皮膜の耐食性向上、塗膜との付着性向上等の点から好ましい。
【0048】
本発明方法によって表面改質された金属表面上には、適宜、従来公知の塗料によって塗装がなされ塗膜層が形成されてよく、また接着剤層を介して有機樹脂被覆層を設けても良い。塗料としては、従来公知の塗料が特に制限なく使用でき、例えば有機溶剤希釈型塗料、水性塗料、粉体塗料等の焼付け塗料を塗装することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、別記しない限り、それぞれ、「質量部」及び「質量%」を示す。
【0050】
金属表面改質液の作製
実施例1〜20及び比較例1〜9
オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸チタン、硫酸チタン、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、硝酸、アンモニア、水酸化ナトリウム等を用いて、表1に示す組成及びpHを有する金属表面改質液を作製した。表1において、各金属成分の濃度は金属元素換算で示し、それ以外の成分の濃度は固形分濃度を示す。また表1において、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸チタンを用いた場合の硝酸イオン含有量は、これらを用いたことに由来する持ち込み量と硝酸添加による量の総量を意味する。
また金属表面改質液の液状態を表2に示す。異常の無いものをYとする。尚、表1中の(注1)〜(注3)は下記を示す。
(注1)シランカップリング剤:「KBM403」、商品名、信越化学社製、エポキシ基含有シランカップリング剤
(注2)界面活性剤:「ニューコール1100」、商品名、日本乳化剤社製、ノニオン系界面活性剤
(注3)有機樹脂:「アデカボンタイターUX206」、商品名、ADEKA社製、水性ポリウレタン樹脂。
【0051】
金属表面改質処理
市販の冷間圧延鋼板(SPCC−SD、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)を基材として、下記に示す工程及び表1の条件で表面改質処理を行なった。
【0052】
(1)上記基材を40℃に調整した市販の脱脂液に2分間浸漬して脱脂処理を行なった後、水道水で30秒間水洗処理を行なった。
【0053】
(2)次いで、水洗後の金属基材を、酢酸 1g/L、硝酸 1g/Lの濃度で、35℃に調整した酸洗液に2分間浸漬して酸洗処理を行なった後、水道水で30秒間水洗処理を行なった。
【0054】
(3)次いで、水洗後の金属基材を、表1に示すとおりに、pH及び温度を調整した各実施例及び比較例の金属表面改質液に10〜300秒間浸漬処理した。金属表面改質液は、pHを硝酸又は水酸化ナトリウムを用いて3.2〜4.2に調整し、また温度は35〜50℃に調整して使用した。
【0055】
(4)上記処理後の各基材を水道水で30秒間水洗後、さらにイオン交換水で30秒間水洗処理を行なった。次いで熱風乾燥炉を用いて80℃で5分間乾燥させて各表面改質処理板とした。
【0056】
各表面改質処理板の金属皮膜量は、「XRF1700」(島津製作所社製、蛍光X線分析装置)を用いて付着金属の合計量(mg/m)として分析した。結果を表2に示す。尚、表1において酸洗「無」は、上記工程の(2)を行なわないことを意味する。
【0057】
試験塗板(1)の作成
上記で得た各表面改質板上に、「マジクロン#1000」(関西ペイント社製、アクリル/メラミン樹脂系有機溶剤希釈型塗料)を乾燥膜厚で30μmとなるようにエアスプレー塗装を行い、160℃で30分間加熱して焼き付けて、各試験塗板を作成した。得られた各試験塗板を下記評価試験に供した。結果を表2に示す。
【0058】
評価試験
1.耐食性:各実施例及び比較例の試験塗板(1)に、素地に達するよう塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、これを塩水噴霧腐食試験(SST:JIS Z−2371に準ずる。塩水温度35℃)に240時間供し、その後ナイフ傷部に接着テープによる貼着及び剥離を行い、カット傷から片側の塗膜の剥離幅を測定した。評価基準は以下のとおりである。
【0059】
S:剥離なし
A:剥離幅3mm以内
B:剥離幅3mmを超えて5mm以内
C:剥離幅5mmを超える。
2.(耐水後)付着性:各実施例及び比較例の試験塗板(1)を温水(40℃)中に240時間浸漬し、引き上げ後に直ちに碁盤目(10×10個、1mm間隔)のカットを入れて接着テープによる貼着及び剥離を行い、塗膜の剥れマスの数を調べた。評価基準は以下のとおりである。
【0060】
S:剥れマスなし
A:剥れマス5個以内
B:剥れマス6〜10個
C:剥れマス11個以上。
3.連続処理:各実施例および比較例1の金属表面改質液1リットルを用いて、上記に示す工程(1)〜(4)及び表1の金属表面改質処理の条件で、市販の冷間圧延鋼板(SPCC−SD、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)を基材として、25枚連続処理を行った。処理による改質液の持ち出し分については、適宜、初期濃度を保つように改質液成分を補給した。そして処理後の改質液の鉄イオン濃度(ppm)をICP発光分光分析により測定した後、処理後の改質液を40℃で1日放置した。その後、市販の冷間圧延鋼板(SPCC−SD、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)を基材として1枚、当該処理後の改質液を用いて、上記に示す工程(1)〜(4)及び表1の条件で金属表面改質処理を行い、表面改質処理板とした。各表面改質処理板の金属皮膜量は、「XRF1700」(島津製作所社製、蛍光X線分析装置)を用いて付着金属の合計量(mg/m)として分析した。
【0061】
試験塗板(2)の作成
上記の連続処理で得られた各表面改質処理板上に「マジクロン#1000」(関西ペイント社製、アクリル/メラミン樹脂系有機溶剤希釈型塗料)を乾燥膜厚で30μmとなるようにエアスプレー塗装を行い、160℃で30分間加熱して焼き付けて、各試験塗板(2)を作成した。得られた各試験塗板(2)を上記耐食性試験及び(耐水後)付着性試験に供した。結果を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】