特許第6249976号(P6249976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249976メルカプトエチルグリコールウリル化合物及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249976
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】メルカプトエチルグリコールウリル化合物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20171211BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20171211BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   C07D519/00 311
   C07D519/00CSP
   C08K5/37
   C08L63/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-48959(P2015-48959)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-169174(P2016-169174A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180302
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松田 晃和
(72)【発明者】
【氏名】奥村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】熊野 岳
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−261851(JP,A)
【文献】 特開平11−171887(JP,A)
【文献】 特開平06−211970(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/078282(WO,A1)
【文献】 特開2012−153794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物。
【化1】
【請求項2】
化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物と、請求項1記載のメルカプトエチルグリコールウリル化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤。
【化2】
【請求項3】
学式(III)で示される構造を有するオリゴマーとして、化学式(I)で示されるオリゴマーおよび化学式(VI)〜化学式(IX)で示されるオリゴマーから選択されるオリゴマーの含有量が、前記の化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の含有量に対し、1〜20重量%の割合であることを特徴とする請求項2記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【化3】
【化4】
【化5】
(但し、化学式(VI)中のnは1、2または3を表す。)
【化6】
【請求項4】
学式(III)で示される構造を2つ以上有するオリゴマーであって、且つ、該オリゴマー中の硫黄原子がSH基またはジスルフィド結合の何れか一方を形成する硫黄原子であって、SH基を有すると共に、ジスルフィド結合により接続された1対の化学式(III)で示される構造を有するオリゴマーの含有量が、前記の化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の含有量に対し、1〜20重量%の割合であることを特徴とする請求項2記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【化7】
【請求項5】
請求項2ないし請求項4の何れかに記載のエポキシ樹脂用硬化剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化促進剤として、アミン類を含有することを特徴とする請求項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
硬化促進剤として、アミン類とエポキシ樹脂との反応生成物を含有することを特徴とする請求項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
硬化促進剤として、イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物を含有することを特徴とする請求項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項ないし請求項の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物を成分とすることを特徴とする接着剤。
【請求項10】
請求項ないし請求項の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物を成分とすることを特徴とするシール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルカプトエチルグリコールウリル化合物及びその利用、より詳しくは、チオール系に分類される新規なグリコールウリル化合物と、この物質を利用したエポキシ樹脂用硬化剤と、このエポキシ樹脂用硬化剤を利用したエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を利用した接着剤およびシール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコールウリル化合物は、4個の尿素系窒素を環構造中に有するヘテロ環化合物であって、尿素系窒素の反応性を利用して、種々の物質を製造する際の原料や、種々の用途の薬剤の成分として広く用いられている。
例えば、グリコールウリル化合物をジメトキシエタナールのようなアルデヒド類と反応させてアミノプラスチック樹脂とし、これをセルロースのための架橋剤として用いることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、酢酸ビニルとエチレンと自己架橋性単量体からなる共重合体と、テトラメチロールグリコールウリル化合物を含むエマルジョンを、不織布のためのバインダーとして用いることが知られている(特許文献2参照)。
水溶性高分子抗菌剤であるポリヘキサメチレンビグアナイド化合物を、繊維に固着させるための架橋剤として用いることも知られている(特許文献3参照)。
【0004】
反応性に富むアリル基を分子中に複数有する化合物、例えば、トリアリルイソシアヌレートが、合成樹脂や合成ゴムの架橋剤として広く採用されているが、トリアリルイソシアヌレレートと同様に機能するテトラアリルグリコールウリル化合物も知られている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、分子内に複数のチオール基を有する化合物も、エポキシ樹脂の硬化剤としてよく知られている。例えば、硬化剤としてポリチオール化合物を用いると共に、アミン類とエポキシ化合物との反応生成物を硬化促進剤として含むエポキシ樹脂組成物が提案されている。このエポキシ樹脂組成物は可使時間が長く、しかも、比較的低温で速やかに硬化するとされている(特許文献5参照)。
【0006】
また、イソシアネート化合物と、分子内に1個以上の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応生成物を、硬化促進剤として含むエポキシ樹脂組成物が提案されており、このエポキシ樹脂組成物も可使時間が長く、優れた硬化性を有するとされている(特許文献6参照)。
【0007】
更に、トリチオールイソシアヌレートとも称されるトリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレートは、分子中にエステル基を有さないところから、耐水性に優れるエポキシ樹脂硬化物を与える硬化剤として提案されている(特許文献7参照)。
【0008】
グリコールウリル化合物のN位がメルカプトアルキル基で置換された化合物が知られているが、その中でもメルカプトエチル基を有するグリコールウリル化合物は、高い耐湿信頼性を実現する優れたエポキシ樹脂用硬化剤として機能する(特願2013−193567号)。
しかしながら、このグリコールウリル化合物は常温で固体であるので、エポキシ樹脂に配合物とした際に結晶が析出し易く、組成が不均一となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−67729号公報
【特許文献2】特開平2−261851号公報
【特許文献3】特開平7−82665号公報
【特許文献4】特開平11−171887号公報
【特許文献5】特開平6−211969号公報
【特許文献6】特開平6−211970号公報
【特許文献7】特開2012−153794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、新規なメルカプトエチルグリコールウリル化合物と、この物質を利用したエポキシ樹脂用硬化剤と、このエポキシ樹脂用硬化剤を利用したエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を利用した接着剤およびシール剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するメルカプトエチルグルコールウリル化合物を発見・合成し、本化合物をメルカプトエチルグリコールウリル化合物のモノマー体に含有させることにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完遂するに至ったものである。
【0012】
即ち、第1の発明は、化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物である。
【0013】
【化1】
【0014】
第2の発明は、化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物と第1発明のメルカプトエチルグリコールウリル化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤である。
【0015】
【化2】
【0016】
第3の発明は、学式(III)で示される構造を有するオリゴマーとして、化学式(I)で示されるオリゴマーおよび化学式(VI)〜化学式(IX)で示されるオリゴマーから選択されるオリゴマーの含有量が、前記の化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の含有量に対し、1〜20重量%の割合であることを特徴とする第2の発明のエポキシ樹脂用硬化剤である。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
(但し、化学式(VI)中のnは1、2または3を表す。)
【0020】
【化6】
【0021】
第4の発明は、学式(III)で示される構造を2つ以上有するオリゴマーであって、且つ、該オリゴマー中の硫黄原子がSH基またはジスルフィド結合の何れか一方を形成する硫黄原子であって、SH基を有すると共に、ジスルフィド結合により接続された1対の化学式(III)で示される構造を有するオリゴマーの含有量が、前記の化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の含有量に対し、1〜20重量%の割合であることを特徴とする第2の発明のエポキシ樹脂用硬化剤。
【0022】
【化7】



【0023】
の発明は、第2の発明ないしの発明の何れかのエポキシ樹脂用硬化剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0024】
の発明は、硬化促進剤として、アミン類を含有することを特徴とする第の発明のエポキシ樹脂組成物である。
【0025】
の発明は、硬化促進剤として、アミン類とエポキシ樹脂との反応生成物を含有することを特徴とする第の発明のエポキシ樹脂組成物である。
【0026】
の発明は、硬化促進剤として、イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物を含有することを特徴とする第の発明のエポキシ樹脂組成物である。
【0027】
の発明は、第の発明ないし第の発明の何れかのエポキシ樹脂組成物を成分とすることを特徴とする接着剤である。
【0028】
10の発明は、第の発明ないし第の発明の何れかのエポキシ樹脂組成物を成分とすることを特徴とするシール剤である。
【発明の効果】
【0029】
オリゴマーである化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物を、モノマーである化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物に含有させることにより、本来固体である化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の液体化(結晶化を抑制)が可能となり、当該メルカプトエチルグリコールウリル化合物を、液状のエポキシ樹脂用硬化剤として用いることができる。
従って、本発明によれば、エポキシ樹脂組成物の均一化が確実なものとなり、このようなエポキシ樹脂組成物を成分とし、耐加水分解性が良好で、強度、耐熱性、耐湿性等に優れた接着剤およびシール剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
前記の化学式(I)で示される本発明のメルカプトエチルグリコールウリル化合物は、ジスルフィド結合と、前記の化学式(III)で示される構造を有する新規な物質であり、所謂オリゴマーと称される多量体に属する。
また、この物質の化学名は、1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]である。
【0031】
この物質は、化学式(IV)で示されるヒドロキシエチルグリコールウリル化合物に、必要に応じて、適宜の溶媒中、塩化チオニルを反応させて、化学式(V)で示されるクロロエチルグリコールウリル化合物を得て、続いて、必要に応じて、適宜の溶媒中、チオ尿素と反応させ、次いで、塩基性条件下にて加水分解処理した後、酸による中和処理を行うことにより、化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物(化学名:1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル)および後述する化学式(VI)〜化学式(IX)で例示されるオリゴマー等と共に生成する(反応スキーム(A)参照)。
【0032】
【化8】
【0033】
前述のヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルの反応において、塩化チオニルは、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物の有するヒドロキシ基に対して、通常、1.0〜10.0当量の割合にて用いられ、好ましくは、1.0〜3.0当量の割合にて用いられる。
【0034】
ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルの反応において用いられる溶媒としては、反応を阻害しない限り特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素類、アセトン、2−ブタノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロトリフルオロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホロトリアミドのようなアミド類、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルの反応温度は、通常、−10〜150℃の範囲に設定され、好ましくは、0〜100℃の範囲に設定される。
また、反応時間は、反応温度に応じて適宜決定されるが、通常、1〜24時間の範囲に設定され、好ましくは、1〜6時間の範囲に設定される。
【0036】
ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応の終了後、得られた反応混合物(反応液)から過剰の塩化チオニルと溶媒を留去した後、残留物として得られた反応生成物を、必要に応じて、適宜の溶媒を用いて、チオ尿素と反応させてもよく、また、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応の終了後、得られた反応混合物のまま、必要に応じて、適宜の溶媒を加えて、チオ尿素と反応させてもよい。
【0037】
チオ尿素は、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物の有するヒドロキシ基に対して、1.0〜10当量の割合にて用いられ、好ましくは、1.0〜4.0当量の割合にて用いられる。
【0038】
ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応によって得られた反応生成物を、チオ尿素と反応させる場合に用いることができる溶媒は、反応を阻害しない限り特に制限されないが、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応において用いられる溶媒と同じであってもよい。
【0039】
ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応によって得られた反応生成物を、チオ尿素と反応させる温度は、通常、0〜150℃の範囲に設定され、好ましくは、50℃〜120℃の範囲に設定される。
また、反応時間は、反応温度に応じて適宜決定されるが、通常、1〜36時間の範囲に設定され、好ましくは、1〜12時間の範囲に設定される。
【0040】
チオ尿素との反応が終了して得られた反応混合物を、塩基性化合物で加水分解処理した後、酸で中和することにより、化学式(I)で示される本発明のメルカプトエチルグリコールウリル化合物(オリゴマー)と、化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物と、後述する化学式(VI)〜化学式(IX)で例示されるオリゴマーの混合物を得ることができる。
次いで、水または有機溶媒による洗浄や活性炭処理等によって、本発明のメルカプトエチルグリコールウリル化合物を分離・精製することができる。
【0041】
前記の加水分解処理において用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩等、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン等のアミン類が挙げられる。
また、これらの塩基性化合物は、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物の有するヒドロキシ基に対して、1.0〜10当量の割合、好ましくは、1.0〜4.0当量の割合にて用いられる。
【0042】
この加水分解処理において用いられる溶媒は、反応を阻害しない限り特に制限されないが、ヒドロキシエチルグリコールウリル化合物と塩化チオニルとの反応によって得られた反応生成物を、チオ尿素と反応させる場合に用いることができる溶媒と同じであってもよい。
【0043】
加水分解処理の温度は、通常、0〜150℃の範囲に設定され、好ましくは、50〜120℃の範囲に設定される。
また、反応時間は、設定した反応温度に応じて適宜決定されるが、通常、1〜24時間の範囲に設定され、好ましくは、3〜12時間の範囲に設定される。
【0044】
加水分解処理後の中和処理に用いられる酸としては、塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。
【0045】
化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物を包含するオリゴマー、即ち、化学式(III)で示される構造を2つ以上有するオリゴマーを、化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物に含有させることにより、本来固体である化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物の結晶化を抑制することができる。
化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物中の前記オリゴマーの含有量は、当該メルカプトエチルグリコールウリル化合物の重量に対し、1〜20重量%の割合であることが好ましく、当該オリゴマーをこの割合で含有する当該メルカプトエチルグリコールウリル化合物は、液状のエポキシ樹脂硬化剤として、好適に用いることができる。
【0046】
化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物以外のオリゴマーの例としては、nが1である場合の化学式(VI)や化学式(VII)で示される3量体(トリマー)、nが2である場合の化学式(VI)や化学式(VIII)で示される4量体(テトラマー)、nが3である場合の化学式(VI)や化学式(IX)で示される5量体(ペンタマー)等が挙げられる。
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂を基剤とし、化学式(II)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物と、化学式(III)で示される構造を有するオリゴマーとして、少なくとも化学式(I)で示されるメルカプトエチルグリコールウリル化合物を、硬化剤として含有する。
【0050】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含有することができる。
硬化促進剤としては、(A)アミン類、(B)アミン類とエポキシ樹脂との反応生成物および、(C)イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明において、前記のエポキシ樹脂とは、分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を指し、従来から知られているように、そのようなエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル類、p−ヒドロキシ安息香酸、β−ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル類、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル類、更に、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、環式脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、前記のエポキシ樹脂として、分子中に2個以上のエポキシ基を有するグリシジルグリコールウリル化合物を用いることができる。このようなグリシジルグリコールウリル化合物として、例えば、
1,3−ジグリシジルグリコールウリル、
1,4−ジグリシジルグリコールウリル、
1,6−ジグリシジルグリコールウリル、
1,3,4−トリグリシジルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラグリシジルグリコールウリル、
1,3−ジグリシジル−3a−メチルグリコールウリル、
1,4−ジグリシジル−3a−メチルグリコールウリル、
1,6−ジグリシジル−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4−トリグリシジル−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラグリシジル−3a−メチルグリコールウリル、
1,3−ジグリシジル−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,4−ジグリシジル−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,6−ジグリシジル−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4−トリグリシジル−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラグリシジル−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3−ジグリシジル−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,4−ジグリシジル−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,6−ジグリシジル−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4−トリグリシジル−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラグリシジル−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル
等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<(A)硬化促進剤としての、アミン類の利用について>
前記のアミン類として、従来から知られているように、エポキシ基と付加反応し得る活性水素を分子内に1個以上有すると共に、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基から選ばれるアミノ基を分子内に少なくとも1個有するものであればよい。
このようなアミン類として、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、n−プロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンのような脂肪族アミン類、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、o−メチルアニリン等の芳香族アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、ピペリジン、ピペラジンのような窒素含有複素環化合物等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0054】
<(B)硬化促進剤としての、アミン類とエポキシ樹脂との反応生成物の利用について>
前記のアミン類とエポキシ樹脂との反応生成物は、室温においてエポキシ樹脂に不溶性の固体であって、加熱すると可溶化して硬化促進剤として機能するので、潜在性硬化促進剤とも称される。
以下、このアミン類とエポキシ樹脂との反応生成物を成分とする硬化促進剤を、潜在性硬化促進剤という。このような潜在性硬化促進剤は、イソシアネート化合物や酸性化合物により表面処理されていてもよい。
【0055】
この潜在性硬化促進剤の製造に用いるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノールまたはグリセリンやポリエチレングリコールのような多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、p−ヒドロキシ安息香酸、β−ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、4,4′−ジアミノジフェニルメタンや、m−アミノフェノール等とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルアミン化合物、更には、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン等の多官能性エポキシ化合物や、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等の単官能性エポキシ化合物等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、この潜在性硬化促進剤の製造に用いるアミン類は、エポキシ基と付加反応し得る活性水素を分子内に1個以上有すると共に、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基から選ばれるアミノ基を少なくとも1個、分子内に有するものであればよい。
【0057】
このようなアミン類として、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、n−プロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンのような脂肪族アミン類、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、o−メチルアニリン等の芳香族アミン化合物、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、ピペリジン、ピペラジンのような窒素含有複素環化合物等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0058】
前述のアミン類の内、分子内に第3級アミノ基を有するアミン類は、優れた硬化促進性を発揮する潜在性硬化促進剤を与える。
このようなアミン類としては、例えば、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、N−メチルピペラジン等の脂肪族アミン類、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物や、2−ジメチルアミノエタノール、1−メチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−フェノキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−ブトキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−フェニルイミダゾリン、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N−β−ヒドロキシエチルホルモリン、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、4−メルカプトピリジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸、N,N−ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、N,N−ジメチルグリシンヒドラジド、N,N−ジメチルプロピオン酸ヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジド等のような、分子内に3級アミノ基を有するアルコール類、フェノール類、チオール類、カルボン酸類、ヒドラジド類等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂組成物の保存安定性を更に向上させるために、前記の潜在性硬化促進剤を製造する際、第3成分として分子内に活性水素を2個以上有する活性水素化合物を加えてもよい。
このような活性水素化合物として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、フェノールノボラック樹脂等の多価フェノール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、アジピン酸、フタル酸等の多価カルボン酸類、1,2−ジメルカプトエタン、2−メルカプトエタノール、1−メルカプト−3−フェノキシ−2−プロパノール、メルカプト酢酸、アントラニル酸、乳酸等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0060】
潜在性硬化促進剤の製造の際に、表面処理剤として用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、n−ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート等のような単官能イソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等のような多官能イソシアネート化合物を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0061】
多官能イソシアネート化合物に代えて、多官能イソシアネート化合物と活性水素化合物との反応によって得られる末端イソシアネート基含有化合物も用いることができる。
このような化合物の例としては、トルイレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの反応により得られる末端イソシアネート基を有する付加反応物、トルイレンジイソシアネートとペンタエリスリトールの反応により得られる末端イソシアネート基を有する付加反応物等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0062】
潜在性硬化促進剤の製造の際に、表面処理剤として用いられる酸性化合物は、気体、液体または固体の何れでもよく、また、無機酸、有機酸の何れでもよい。
このような酸性化合物の例としては、例えば、炭酸ガス、亜硫酸ガス、硫酸、塩酸、シュウ酸、リン酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、アジピン酸、カプロン酸、乳酸、琥珀酸、酒石酸、セバシン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、ホウ酸、タンニン酸、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、フェノール、ピロガロール、フェノール樹脂、レゾルシン樹脂等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0063】
潜在性硬化促進剤は、アミン類とエポキシ樹脂と、必要に応じて、活性水素化合物を混合し、室温〜200℃にて反応させた後、固化させて粉砕するか、または、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の溶媒中で反応させ、脱溶媒後、固形分を粉砕することによって得ることができる。
【0064】
本発明のエポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量については、硬化剤中に存在するメルカプト基とエポキシ樹脂組成物中に存在するエポキシ基の比(SH当量数/エポキシ当量数比)が、0.5〜1.2となるように設定されることが好ましい。
また、潜在性硬化促進剤の含有量については、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部となるように設定されることが好ましい。
【0065】
潜在性硬化促進剤としては市販品を用いることができる。例えば、「アミキュア PN−23」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュア PN−H」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュア MY−24」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「ノバキュア HX−3742」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュア HX−3721」(旭化成(株)商品名)等の市販品を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、イソシアネート化合物を含有させることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化特性を損なうことなく、硬化物の接着力を向上させることができる。
【0067】
このようなイソシアネート化合物としては、例えば、n−ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、2−クロロエチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2−エチルフェニルイソシアネート、2,6−ジメチルフェニルイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0068】
イソシアネート化合物は、エポキシ樹脂100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部の割合で用いられる。
【0069】
<(C)硬化促進剤としての、イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物の利用について>
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物を、硬化促進剤として用いることができる。
【0070】
この反応生成物は、イソシアネート化合物と第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物を、ジクロロメタン等の有機溶剤中で反応させて得られる。
【0071】
イソシアネート化合物としては、例えば、n−ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、2−クロロエチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p−ブロモフェニルイソシアネート、m−クロロフェニルイソシアネート、o−クロロフェニルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、2,5−ジクロロフェニルイソシアネート、3,4−ジクロロフェニルイソシアネート、2,6−ジメチルフェニルイソシアネート、o−フルオロフェニルイソシアネート、p−フルオロフェニルイソシアネート、m−トリルイソシアネート、p−トリルイソシアネート、o−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、m−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トルイレンジイソシアネート、2,6−トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、2,2−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、p−フェニレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリス−(3−イソシアナト−4−メチルフェニル)イソシアヌレート、トリス−(6−イソシアナトヘキシル)イソシアヌレート等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジ−n−エタノールアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、モルホリン、ピペリジン、2,6−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、メタキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1,1−ジメチルヒドラジン等を挙げることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0073】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、イソシアネート化合物とアミノ基を有する化合物との反応生成物を成分とする硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して1〜10重量部の割合で用いられる。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、希釈剤、溶剤、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤や、ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム等の流動挙動調整剤、アルミナ等の熱伝導付与剤、銀、カーボン等の導電性付与剤、顔料、染料等の着色剤を含有してもよい。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂組成物により得られる硬化物は、耐加水分解性、耐熱性や耐湿性等に優れているので、当該エポキシ樹脂組成物は、接着剤およびシール剤の成分として、好適に用いることができる。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、前述の各成分を所定量計り取って撹拌混合した後、ロール混練機、ニーダーや押出機等を用いて混合あるいは溶融混練することにより得られる。
【0077】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化方法に特に制限はなく、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の硬化装置を採用することができる。加熱源についても特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱等の方法を採用することができる。硬化温度および硬化時間は、適宜設定すればよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
〔実施例1〕
<1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]の製造>
温度計を備えた30mLフラスコに、1,3,4,6−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)グリコールウリル3.18g(10.0mmol)を入れ、室温下にて撹拌しながら塩化チオニル11.75g(99.4mmol)を滴下した。
滴下終了後、還流下にて2時間撹拌を行った後、10℃まで冷却して水10mLを加えた。次いで、チオ尿素3.65g(48.0mmol)を加え、還流下にて12時間撹拌を行った。
反応終了後、反応混合物(反応液)を25℃まで冷却し、窒素雰囲気下にて48%水酸化ナトリウム水溶液4.00g(48.0mmol)を滴下し、70℃にて9時間撹拌を行った。
反応終了後、反応混合物を20℃まで冷却し、濃塩酸3.50g(35.0mmol)を加え、続いて、クロロホルム10mLを加えて、30分間撹拌し、1回目の吸引ろ過を行った。
得られたろ過ケーキにクロロホルム10mLを加え、30分撹拌した後、2回目の吸引ろ過を行った。1回目の吸引ろ過で得られたろ液と、2回目の吸引ろ過で得られたろ液を合わせて水層を除去し、残った有機層のろ液を水5mLで5回洗浄した後、水層を除去した。
得られた有機層を、減圧下80℃にて濃縮し、3.25gの黄色油状物(粗製物)を得た。
【0080】
この粗製物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム)により精製し、0.26gの淡黄色油状物(精製物)を得た(収率7%)。
この精製物のH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 5.50-5.56(m, 4H), 3.80-3.88(m, 2H), 3.69-3.78(m, 6H), 3.47-3.56(m, 2H), 3.31-3.41(m, 6H), 2.99-3.09(m, 2H), 2.81-2.93(m, 8H), 2.67-2.77(m, 6H), 1.44-1.52(m, 6H).

また、得られた精製物のIRスペクトルデータは、図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた精製物は、標題のグリコールウリル化合物であるものと同定した。
なお、粗製物をHPLC分析したところ、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルを主成分とし、1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]が8重量%含有していることを確認した。
【0081】
〔参考例1〕
<1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルの製造>
実施例1において得られた粗製物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム/メタノール=10:1)により精製し、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル2.90gを白色結晶(融点:75.3-77.8℃)として得た。
【0082】
〔実施例2〕
エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828」)100重量部と、硬化剤として実施例1において得られた粗製物の1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル56重量部を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
このエポキシ樹脂組成物を室温下にて放置し、エポキシ樹脂組成物を調製してから、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルの結晶析出が確認されるまでの時間を測定した。なお、結晶析出の確認は目視にて行った。
得られた測定結果は、表1に示したとおりであった。
【0083】
〔比較例1〕
実施例2と同様にして、エポキシ樹脂100重量部と、硬化剤として参考例1において得られた1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル56重量部を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
続いて、実施例2と同様にして、得られたエポキシ樹脂組成物の結晶析出が確認されるまでの時間を測定した。
得られた測定結果は、表1に示したとおりであった。
【0084】
【表1】
【0085】
1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルを、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物は、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルを、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物に比べて、室温にて放置した場合の、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルの結晶析出が抑制されていると認められる。
【0086】
〔実施例3〕
エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828」)100重量部に、硬化剤として、実施例1において得られた粗製物の1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル56重量部と、硬化促進剤として、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤(味の素ファインテクノ(株)製「アミキュアPN−23」)3重量部を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
このエポキシ樹脂組成物を、10℃/分の昇温速度にて30℃から270℃まで加熱して硬化させ、続いて、得られた硬化物を−50℃/分の降温速度にて270℃から10℃まで冷却し、次いで、10℃/分の昇温速度にて10℃から100℃へ加熱して、硬化物のガラス転移温度(Tg)を測定した。
なお、ガラス転移温度の測定には、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「EXSTAR 6000」)を用いた。
得られた測定結果は、表2に示したとおりであった。
【0087】
〔比較例2〕
硬化剤として、1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル56重量部の代わりに、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(昭和電工(株)製「カレンズMT NR1」、以下、チオール化合物(1)という。)107重量部を用いた以外は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製し、このエポキシ樹脂組成物の硬化物について、ガラス転移温度を測定した。
得られた測定結果は、表2に示したとおりであった。
なお、チオール化合物(1)の化学構造を、化学式(X)に示した。
【0088】
【化11】
【0089】
〔比較例3〕
硬化剤として、1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル56重量部の代わりに、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学(株)製「TMMP」、以下、チオール化合物(2)という。)75重量部を用いた以外は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製し、このエポキシ樹脂組成物の硬化物について、ガラス転移温度を測定した。
得られた測定結果は、表2に示したとおりであった。
なお、チオール化合物(2)の化学構造を、化学式(XI)に示した。
【0090】
【化12】
【0091】
【表2】
【0092】
1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルを、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物は、チオール化合物(1)またはチオール化合物(2)を、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物に比べて、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れているものと認められる。
【0093】
〔実施例4〕
実施例3において調製したエポキシ樹脂組成物を、ブラスト処理したアルミニウム板(A5052P、100×25×1.6mm、TP技研社製)に塗布し、80℃/60分の条件にて硬化させて試験片を作製した。
この試験片について、作製直後の引張せん断接着強さと、85℃/85%RH/1000時間の条件下、恒温恒湿槽内にて加温・加湿後の引張せん断接着強さを、JISK6850に準拠して測定した。
得られた試験結果は、表3に示したとおりであった。
【0094】
〔比較例4、5〕
比較例2および3において各々調製したエポキシ樹脂組成物について、実施例4と同様にして試験片を作製し、引張せん断接着強さを測定した。
得られた試験結果は、表3に示したとおりであった。
【0095】
【表3】
【0096】
1,1′−(ジチオ−ビスエタンジイル)−ビス[3,4,6−トリス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル]を含有する1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリルを、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物は、加温・加湿後の引張せん断接着強さが、作製直後(加温・加湿前)の引張せん断接着強さと変わりなく、チオール化合物(1)とチオール化合物(2)を各々硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物に比べて、耐湿性に優れていると認められる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】実施例1において得られた精製物のIRスペクトルチャートである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
オリゴマー型のメルカプトエチルグリコールウリル化合物と、モノマー型のメルカプトエチルグリコールウリル化合物を、硬化剤として含有するエポキシ樹脂組成物は、モノマー型のメルカプトエチルグリコールウリル化合物のみを含有するエポキシ樹脂組成物に比べて、モノマー型のメルカプトエチルグリコールウリル化合物の析出が抑えられて、均一な液状を保持する安定性に優れているので、接着、シーリング、封止、注型、成型、塗装、コーティング等の用途に好適に用いることができる。
図1