【実施例】
【0029】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。
図1は本発明の製造方法に係る電線付き端子を示す斜視図である。また、
図2は
図1のA−A線断面図、
図3は防食部を形成する前の電線付き端子の斜視図、
図4は
図3のB−B線断面図である。さらに、
図5は本発明の製造方法を説明するための電線付き端子の斜視図、
図6は
図5のA−A線断面図、
図7は本発明の製造方法に係る工程説明図である。この他、
図8はワイヤハーネスを構成するコネクタの斜視図、
図9は
図8のコネクタハウジングの図である。
【0030】
<電線付き端子1の構成について>
図1及び
図2において、引用符号1は本発明の電線付き端子を示す。電線付き端子1は、アルミ電線2(電線)と、このアルミ電線2の端末に配設される圧着端子3(端子金具)とを備えて構成される。また、電線付き端子1は、アルミ電線2及び圧着端子3における異種金属同士の接続部分に防食部4(封止部、防水部)を有するように構成される。尚、本実施例の電線付き端子1は、アルミ電線2の端末に圧着端子3を配設してなるものであるが、例えばアルミ電線2の中間に適宜形状の端子金具を配設してもよいものとする。
【0031】
<アルミ電線2の構成及び構造について>
図1ないし
図4において、アルミ電線2は、断面円形状で且つ曲げの力を加えた時に元の状態に戻ろうとする反力が発生するような柔軟性を有するものが採用される。アルミ電線2は、導体5と、樹脂被覆6とを備えて構成される。
【0032】
導体5は、断面円形状の複数本の素線(符号省略)を撚り合わせて形成される。この素線は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。すなわち、導体5は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製のものである。導体5は、所定の導体断面積を有する。そして、この導体断面積の部分がアルミ電線2の電線長の分だけ存在する。アルミニウム材は、比重が2.70g/cm
3であり、後述する銅材の比重が8.96g/cm
3であることから、アルミ電線2は軽量であって長尺な車載用電線として使用されれば燃費効率の向上等に有効である。
【0033】
尚、アルミニウム材は、電気化学反応における標準電極電位が−1.676Vであり、また、後述する銅材の標準電極電位は+0.340Vである。これらの電位差は大きなものであり、そのためアルミニウム材と銅材との間に水分が浸入して滞留してしまうと、アルミニウム、銅、及び電解質水溶液により電池が形成される。そして、この電池の陽極になる方、すなわち導体5の方に異種金属接触腐食(ガルバニック腐食、電食)が発生してしまうことになる。このようなことから、電食を防ぐための防食部4が必要になるのは勿論である。
【0034】
樹脂被覆6は、所謂絶縁体であって、絶縁性を有する樹脂材料を導体5の外側に押出成形することにより断面円形状に形成される。上記樹脂材料としては、公知の様々な種類のものが採用可能である。例えば、ポリ塩化ビニル樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの高分子材料から適宜選択される。
【0035】
以上のようなアルミ電線2は、この端末において樹脂被覆6が所定長さ分だけ除去されて導体露出部7が形成される。
【0036】
<圧着端子3の構造について>
図1ないし
図4において、圧着端子3は、雌形の端子金具であって、母材が銅製又は銅合金製の金属板をプレス加工することにより、例えば図示形状に形成される(雄形の端子金具であってもよいものとする)。尚、特に図示しないが、上記母材の表面にメッキが施されるものとする。メッキは、異種金属接触部分になる銅材とアルミニウム材との間に介在することになる。圧着端子3は、電気接触部8と、加締め部9と、これら電気接触部8及び加締め部9を連結する連結部10とを有する。
【0037】
電気接触部8は、図示しない相手端子金具との電気的な接続部分であって、断面長方形の筒形状に形成される。電気接触部8の内部には、相手端子金具のタブに対する挿入空間が形成される。また、タブが挿入されると弾性的に接触する弾性接触片11が形成される。電気接触部8における引用符号12は、後述するコネクタハウジング52のランス54に引っ掛かり係止される被係止部を示す。
【0038】
加締め部9は、アルミ電線2との電気的な接続部分であって、本実施例の端子金具は圧着端子3であることから、圧着により接続可能な部分に形成される。具体的には、アルミ電線2の導体露出部7を載置するための載置部13と、この載置部13に載置された導体露出部7を加締めるための一対の導体加締め片14と、導体露出部7の近傍の樹脂被覆6を加締めるための一対の被覆加締め片15とを有する部分に形成される。尚、載置部13は底板と称することもある。また、導体加締め片14はワイヤバレルと称することもある。さらに、被覆加締め片15はインシュレーションバレルと称することもある。
【0039】
一対の導体加締め片14と一対の被覆加締め片15は、端子軸方向に所定の間隔をあけて配置される。また、一対の導体加締め片14と一対の被覆加締め片15は、加締め前の形状が共に略V字状になる形状に形成される。尚、一対の導体加締め片14が導体露出部7を加締め、一対の被覆加締め片15が樹脂被覆6を加締めることから、これらは加締め対象の形状や外周長の差に合わせて異なる幅や突出長さで形成される。
【0040】
以上のような加締め部9に対し導体露出部7が圧着されると、引用符号16で示すような電線・端子接続部が形成される。電線・端子接続部16は、導体露出部7を一対の導体加締め片14にて加締めてなる導体加締め部分17と、この導体加締め部分17の周辺の非加締め部分18と、導体露出部7の近傍の樹脂被覆6を一対の被覆加締め片15にて加締めてなる被覆加締め部分19とを含んで形成される。
【0041】
連結部10は、端子軸方向に所定長さでのびる略樋形状に形成される。連結部10の端子軸方向一端には、電気接触部8が連成される。また、連結部10の端子軸方向他端には、加締め部9が連成される。
【0042】
<防食部4について>
図1及び
図2において、防食部4は、電食を防止するため電線・端子接続部16を水密に覆う部分として形成される。具体的には、図中の矢印を上下・左右・前後と定義すると、加締め部9の上側(導体加締め部分17及び非加締め部分18の上側)、加締め部9の下側(載置部13の下側)、加締め部9の左側・右側、加締め部9の前側(導体加締め部分17の前側)、被覆加締め部分19の後側、を覆う部分として防食部4が形成される。別な言い方をすれば、電線・端子接続部16の前後と、電線・端子接続部16の端子軸回り全周にわたって覆う部分として防食部4が形成される。防食部4は、この形成方法に特徴を有する。以下、防食部4の形成方法について、電線付き端子1の製造方法に係る説明の中で詳細にふれることにする。
【0043】
<電線付き端子1の製造方法について>
図5ないし
図7において、電線付き端子1は、次のような工程を経て製造される。すなわち、電線加工工程S1と、電線・端子接続工程S2と、防食材供給工程S3(封止材供給工程、防水材供給工程)と、防食材硬化工程S4(封止材硬化工程、防水材硬化工程)とを順に経て製造される。防食材供給工程S3と防食材硬化工程S4は、防食部4を形成するための工程(形成方法)である。
【0044】
電線加工工程S1では、アルミ電線2の端末に導体露出部7を形成することが行われる。具体的には、樹脂被覆6を所定長さ分だけ除去して導体5を露出させて導体露出部7を形成することが行われる。
【0045】
電線・端子接続工程S2では、導体露出部7の位置に圧着端子3の加締め部9を配置して、この後に圧着接続により電線・端子接続部16を形成することが行われる。圧着においては、圧着機のアンビルとクリンパとによるプレス、すなわち加締めが行われる。加締め部9に対し導体露出部7が圧着されると、導体加締め部分17と、非加締め部分18と、被覆加締め部分19とが形成される。
【0046】
防食材供給工程S3では、防食材20(封止材、防水材)を電線・端子接続部16に供給することが行われる。防食材供給工程S3では、次のような構成の防食材供給装置が使用される。防食材供給装置は、金属製ノズル21を有するディスペンサー(静電併用型ディスペンサー)と、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧を印加する電圧印加部22と、上記ディスペンサーや電圧印加部22を制御する制御部とを含んで構成される。
【0047】
防食材20は、液状の紫外線硬化性樹脂が採用される。このような防食材20は、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧が印加されると、液表面にプラスの電荷が誘起される。尚、金属製ノズル21及び圧着端子3の間に印加される電圧は、本実施例において3kV程度である。一方、圧着端子3の側には、マイナスの電荷が誘起される。
【0048】
金属製ノズル21及び圧着端子3の間に電圧が印加されると、防食材20の液の界面は電気力線の方向に静電的な力で引っ張られる。すなわち、金属製ノズル21から電線・端子接続部16に向かう方向に電荷を帯びた状態で防食材20が引き寄せられる。防食材20が引っ張られると(引き寄せられると)、この防食材20は金属製ノズル21における先端部の濡れ上がりのない状態で電線・端子接続部16に接触する。具体的には、電界が集中する部分まで連続する略糸引き状態になって接触する。
【0049】
防食材供給工程S3では、防食材20の供給にあたり金属製ノズル21を
図5及び
図6の矢印X、Y、Z方向に移動させる。防食材20は、電荷を帯びた状態で供給されることから、このような防食材20は静電気力によって電線・端子接続部16に引き寄せられ、この後に供給位置の反対側まで回り込むような状態で供給される。すなわち、上側から供給されても電線・端子接続部16の下側まで回り込むような全周にわたって防食材20が供給される。電線・端子接続部16の全周にわたって供給された防食材20は、静電気力による引き寄せの力が作用して液だれすることなくその場に留まるようになる。この他、防食材20は、非加締め部分18における導体5の素線内に浸透して留まるようにもなる。
【0050】
防食材硬化工程S4では、電線・端子接続部16の全周にわたって供給された防食材20に対し紫外線(UV光)を照射してUV硬化させることが行われる。防食材20は、液状の紫外線硬化性樹脂からなることから、例えばUVライト23の紫外線照射によるエネルギーを受けると、上記留まった状態を保持しながら短時間で硬化する。防食材20が硬化すると、電線・端子接続部16を水密に覆う防食部4の形成が完了する。すなわち、電線付き端子1の製造が完了する。
【0051】
防食部4は、上記説明から分かるように、十分な状態で形成することができる。また、防食部4は、最大幅がW1、最大高さがH1になるような形状に形成することができる。これは、防食材20が上述の如く略糸引き状態になって供給されることから、供給量を精度良く管理することが可能になり、結果、防食部4の形状が安定するからである。防食部4の形状が安定することは、以下で説明するコネクタ51の組み付けに有効である。
【0052】
<電線付き端子1の使用例について>
図8において、電線付き端子1は、ワイヤハーネスの端末に配設されるコネクタ51の一構成部品として使用される。コネクタ51は、一対の電線付き端子1の他に、絶縁性を有するコネクタハウジング52を備えて構成される。
【0053】
図8及び
図9において、コネクタハウジング52は、樹脂成形品であって矩形の箱形状に形成される。コネクタハウジング52の内部には、一対の端子収容室53が形成される。端子収容室53は、コネクタハウジング52の前面から後面までを貫通するように形成される。端子収容室53には、電線付き端子1の圧着端子3(被係止部12)を引っ掛けて係止するためのランス54が形成される。また、端子収容室53には、圧着端子3が当接するストッパ部55と、図示しない相手端子金具のタブが挿入されるタブ挿入口56とが形成される。
【0054】
端子収容室53は、コネクタハウジング52の後面において、幅がW2、高さがH2で開口するように形成される。幅W2は、防食部4の最大幅W1よりも大きく(W2>W1)、また、高さH2も防食部4の最大高さH1より大きい(H2>H1)。つまり、防食部4を有する電線付き端子1であっても、端子収容室53に対する圧着端子3の収容は問題ない。
【0055】
コネクタハウジング52の外側には、図示しない相手コネクタに対するガイドリブ57と、ロッキングアーム58とが形成される。
【0056】
<電線付き端子1のまとめ及び効果について>
以上、
図1ないし
図9を参照しながら説明してきたように、電線付き端子1は、アルミ電線2と、圧着端子3とを備えて構成される。アルミ電線2は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の導体5と、この導体5を覆う絶縁性の樹脂被覆6とを備えて構成される。アルミ電線2は、樹脂被覆6を除去して導体露出部7が形成される(電線加工工程S1)。一方、圧着端子3は、圧着部分としての加締め部9を有し、この加締め部9には、一対の導体加締め片14及び被覆加締め片15が形成される。電線付き端子1は、導体露出部7に加締め部9を圧着して電線・端子接続部16が形成される(電線・端子接続工程S2)。そして、この電線・端子接続部16を覆うようにして防食部4が形成される。防食部4は、圧着端子3と金属製ノズル21との間に電圧を印加し且つ金属製ノズル21から電荷を帯びた防食材20を電線・端子接続部16に引き寄せるような状態で供給することにより形成される(防食材供給工程S3)。また、防食部4は、電線・端子接続部16に供給された防食材20に対し紫外線を照射しUV硬化させて形成される(防食材硬化工程S4)。
【0057】
電線付き端子1によれば、防食部4の形成にあたり、静電気力によって防食材20が電線・端子接続部16に引き寄せられるようになる。また、電線・端子接続部16に供給された防食材20に対しては、静電気力による引き寄せの力が作用することから、防食材20が電線・端子接続部16に留まるようになる。
【0058】
また、電線付き端子1によれば、防食部4の形成にあたり、電荷を帯びた防食材20が静電気力によって引き寄せられて供給位置の反対側まで回り込むようになる。すなわち、電線・端子接続部16の全周にわたって防食材20が供給されるようになる。全周にわたって供給された防食材20は、静電気力による引き寄せの力が作用して液だれすることなくその場に留まるようになる。
【0059】
また、電線付き端子1によれば、防食部4の形成にあたり、紫外線硬化性樹脂からなる防食材20が採用される。防食材20は、静電気力による引き寄せの力が作用することから電線・端子接続部16に留まり、そして、留まった状態で例えばUVライト23等による紫外線の照射がなされると、この紫外線照射によるエネルギーを受けて、上記留まった状態を保持しながら硬化するようになる。
【0060】
また、電線付き端子1によれば、防食部4の形成にあたり、導体加締め部分17及びこの周辺の非加締め部分18と、被覆加締め部分19とを含んで電線・端子接続部16が形成されるようになる。すなわち、防食部4は、比較的広い範囲で形成されるようになる。
【0061】
従って、防食性の高い電線付き端子1の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【0062】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。