特許第6249996号(P6249996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社仲田コーティングの特許一覧

特許6249996ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法
<>
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000006
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000007
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000008
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000009
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000010
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000011
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000012
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000013
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000014
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000015
  • 特許6249996-ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249996
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/60 20060101AFI20171211BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20171211BHJP
   C08G 18/58 20060101ALI20171211BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   C08G18/60
   C08J11/16
   C08G18/58
   C08G18/80
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-132359(P2015-132359)
(22)【出願日】2015年7月1日
(65)【公開番号】特開2017-14386(P2017-14386A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年5月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000150512
【氏名又は名称】株式会社仲田コーティング
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100184479
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】松野 竹己
(72)【発明者】
【氏名】北川 勝治
(72)【発明者】
【氏名】花園 操
(72)【発明者】
【氏名】東 学
(72)【発明者】
【氏名】瓢 勝一
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/079717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/60
C08G 18/58
C08G 18/80
C08J 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記イミド基含有化合物100重量部に対して、前記エポキシ化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、前記ブロック型イソシアネート化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、
前記ブロック型イソシアネート化合物が、100〜180℃の温度範囲の加熱でブロック剤を解離し、
かつ、120℃×60分の加熱条件で硬化させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となることを特徴とするポリイミド樹脂組成物。
【請求項2】
120℃×60分の条件で加熱後、200℃、60分の追加条件で加熱させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、250℃以上の値であるポリイミド樹脂となることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記イミド基含有化合物が、当該イミド基含有化合物を赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、
波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、
波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、
波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ化合物が、フェノールノボラック型エポキシであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
溶媒をさらに含んでおり、当該溶媒が、N−メチルピロリドンと、メタノール、イソパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、水の少なくとも一つと、の混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
粘度安定剤を含んでおり、当該粘度安定剤が、オルトギ酸エステル化合物、フィチン酸化合物、ダクロ化合物、およびEDTAの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物を10〜100重量部と、100〜180℃の温度範囲の加熱でブロック剤を解離するブロック型イソシアネート化合物を10〜100重量部と、を含み、かつ、120℃×60分の加熱条件で硬化させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となるポリイミド樹脂組成物の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするポリイミド樹脂組成物の製造方法。
(1)ポリイミド成形品を切断し、所定大きさとする準備工程
(2)前記所定大きさのポリイミド成形品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解させ、粗製イミド基含有化合物とする工程
(3)前記粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
(4)前記イミド基含有化合物と、前記エポキシ化合物と、前記ブロック型イソシアネート化合物と、を混合し、ポリイミド樹脂組成物とする工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂組成物およびその製造方法に関する。特に、モータコイルに用いられるエナメル線の含浸用のポリイミド樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドフィルムに代表されるポリイミド成形品は、優れた耐薬品性を有することから、各種溶剤に不溶であって、かつ、融点が高いことから、ポリスチレン等の熱可塑性プラスチックのように、溶融して再利用することが困難であった。
そのため、ポリイミド成形品等を廃棄処分する場合、高価であるものの、大部分は埋め立て処分されるか、あるいは焼却処分がなされており、リサイクル性や環境特性に乏しいという問題が見られた。
【0003】
そこで、廃棄すべきポリイミド成形品を化学的に加水分解して、ポリイミド樹脂等をリサイクルする方法が各種提案されている。
例えば、芳香族ポリイミド成形品を、所定濃度のアルカリ共存下、所定温度条件で完全に加水分解して、原材料である芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを得ることが提案されている(特許文献1参照)。
より具体的には、ポリイミド単位に対して、4〜4.8倍のアルカリ共存下、150〜230℃で加水分解して、原材料である芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを得て、さらにそれらのアルカリ水溶液および酸水溶液を活性炭処理した後、相当量の酸およびアルカリを投入して、芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを析出させて、分離回収するポリイミドの処理方法である。
【0004】
また、ポリイミド成形品をリサイクルして、部分的に加水分解するとともに、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、所定吸収ピークを有する特定構造のイミド基含有化合物とすることにより、低温硬化可能であって、かつ溶解性や密着性に優れた、特定構造を有するイミド基含有化合物を得る旨が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらにまた、ポリイミド成形品をリサイクルして、部分的に加水分解するとともに、所定の赤外吸収ピークを有する特定構造のイミド基含有化合物と、溶媒と、粘度安定剤と、を含むイミド基含有化合物溶液とすることにより、溶液状態であっても、粘度の上昇を低く抑えられるイミド基含有化合物溶液が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−81154号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第5627735号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第5697805号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリイミド成形品の再生方法等は、基本的に、完全に加水分解させて、芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを析出させて、それらを分離回収し、ポリイミド原料や残った金属材料を得ることを目的としていた。
したがって、ポリイミド成形品を部分的に加水分解して、所定構造のイミド基含有化合物を得て、ひいては、それを用いて、エポキシ化合物やイソシアネート化合物と組み合わせ、かつ、エポキシ化合物の硬化剤を配合しない場合であっても、120℃、60分程度の加熱条件で、熱硬化可能な樹脂組成物が得られるという意図は全くなかった。
【0008】
また、特許文献2や特許文献3は、所定のイミド基含有化合物に対して、エポキシ樹脂やウレタン樹脂を配合しても良い旨の記載はなされているが、所定構造のイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、イソシアネート化合物とを所定割合で組み合わせることにより、それらが所定反応を生じて、優れた耐熱性(10%重量減少温度が200℃以上と高い点。)や、各種被着体に対して、優れた密着性が得られることまでは見出せていなかった。
さらに、特許文献2や特許文献3に記載されたイミド基含有化合物と、ウレタン樹脂と、を配合したとしても、ウレタン樹脂は基本的に反応しないため、得られるポリイミド樹脂の耐熱性が低くなりやすいばかりか、各種下地、例えば、エナメル線のポリアミドエナメル樹脂被覆に対する固着力が低くなりやすいという問題が見られた。
その上、特許文献2や特許文献3に記載されたイミド基含有化合物は、溶媒として、基本的にN−メチルピロリドンのみを使用しているため、各種下地に対する固着力が低下するという問題が見られた。すなわち、イミド樹脂被覆溶液に、上述したエナメル線を含浸させた場合に、下地としての樹脂被覆を膨潤させてしまい、固着力がさらに低下するという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなる特定構造のイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を所定割合で配合するとともに、エポキシ化合物の硬化剤(アミン硬化剤等)を別途配合することなく、低温加熱条件であっても、優れた耐熱性を有し、かつ、一液硬化性樹脂組成物として、各種下地に対して強固に接着するポリイミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明によれば、一液硬化性樹脂組成物として、優れた硬化潜在性を有するとともに、120℃、60分程度の低温加熱条件で硬化可能であって、各種下地に対する接着性に優れたポリイミド樹脂組成物、および、そのようなポリイミド樹脂組成物の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を含むポリイミド樹脂組成物であって、イミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、100〜180℃の温度範囲の加熱でブロック剤を解離するブロック型イソシアネート化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、かつ、120℃×60分の条件で加熱させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となることを特徴とするポリイミド樹脂組成物である。
このようにイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を所定割合で配合することにより、エポキシ化合物の硬化剤(アミン硬化剤等)を別途配合することなく、あるいは、最大限少なくした場合にも、一液硬化性樹脂組成物として、優れた硬化潜在性を有するとともに、低温加熱条件で硬化可能であって、さらには、各種下地に対する接着性に優れたポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
すなわち、室温保管条件で、3月以上のシェルフライフを有し、かつ、120℃程度、60分程度の低温硬化条件であっても、高い熱分解温度(10重量%減少温度)を有するとともに、さらには、各種下地に対して、良好な接着性を示すポリイミド樹脂組成物を得ることができる。
なお、後述するように、イミド基含有化合物およびエポキシ化合物の組み合わせのみ、すなわち、ブロック型イソシアネート化合物を併用しない場合には、赤外分光スペクトルチャートのピーク変化や固着力測定等から、120℃、60分程度の加熱条件では、エポキシ化合物等の硬化が極めて不十分であることが判明している。
また、イミド基含有化合物およびブロック型イソシアネート化合物の組み合わせのみ、すなわち、エポキシ化合物を併用しない場合には、赤外分光スペクトルチャートのピーク変化から、120℃、60分程度の加熱条件であれば、それなりに反応するものの、各種下地に対する密着力(固着力)が極めて低く、実用性に乏しいことが判明している。
その他、所定構造のイミド基含有化合物を含み、加熱条件によるが、それが反応して、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂となることから、本発明において、所定構造のイミド基含有化合物を含む樹脂組成物を、ポリイミド樹脂組成物と称するものとする。
【0011】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、120℃×60分の条件で加熱後、200℃、60分の追加条件で加熱させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、250℃以上の値であるポリイミド樹脂となることが好ましい。
また、所定温度で追加加熱することにより、主成分を、ポリイミド樹脂と変化させることができるため、より優れた機械的特性や電気特性、さらには、耐紫外線特性等を発揮することができる。
【0012】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、イミド基含有化合物が、当該イミド基含有化合物を赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有することを特徴とするが好ましい。
このようなイミド基含有化合物であれば、エポキシ化合物やブロック型イソシアネート化合物を所定配合した場合に、低温加熱であっても、確実に反応させることができる。
【0013】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、エポキシ化合物が、フェノールノボラック型エポキシであることが好ましい。
このように特定のエポキシ樹脂を用いることによって、低温硬化させた場合に、各種下地に対して、良好な接着性を示すことができるとともに、硬化させた場合の熱分解温度やガラス転移点の低下を抑制することができる。
【0014】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、ブロック型イソシアネート化合物が、110〜120℃の加熱温度でブロック剤を解離することを特徴とすることが好ましい。
このようなブロック型イソシアネート化合物を用いることにより、室温付近では、相当の潜在性を維持できることから、一液型の樹脂組成物とすることができる。
一方、所定温度で低温硬化させた場合に、イミド基含有化合物と、エポキシ化合物やブロック型イソシアネート化合物と、120℃程度の低温加熱条件であっても、確実に反応させることができる。
【0015】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、溶媒をさらに含んでおり、当該溶媒が、N−メチルピロリドンと、メタノール、イソパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、水の少なくとも一つと、の混合物であることが好ましい。
このようにN−メチルピロリドンと、所定溶媒とを含んでなる混合溶媒とすることにより、エナメル材料やエポキシ材料等が予め適用されたコイル等の電子部品であっても、溶媒がN−メチルピロリドン単独の場合と比較して、格段に、コイル等の電子部品における被覆材料に対する膨潤を抑制することができる。
【0016】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物を構成するにあたり、粘度安定剤を含んでおり、当該粘度安定剤が、オルトギ酸エステル化合物、フィチン酸化合物、ダクロ化合物、およびEDTAの少なくとも一つであることが好ましい。
このように粘度安定剤を含むことにより、保管時のポリイミド樹脂組成物の粘度上昇を効率的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明の別の態様は、ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物に対して、エポキシ化合物と、100〜180℃の温度範囲の加熱でブロック剤を解離するブロック型イソシアネート化合物と、を配合し、かつ、120℃×60分の条件で硬化させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となるポリイミド樹脂組成物の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするポリイミド樹脂組成物の製造方法である。
(1)ポリイミド成形品を切断し、所定大きさとする準備工程
(2)所定大きさのポリイミド成形品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解させ、粗製イミド基含有化合物とする工程
(3)粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
(4)イミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物を10〜100重量部と、ブロック型イソシアネート化合物を10〜100重量部と、を配合してポリイミド樹脂組成物とする工程。
このようにイミド基含有化合物等を、所定配合比率で配合組成することにより、低温硬化であっても、高い熱分解温度を有するとともに、各種下地に対して、良好な接着性を示すポリイミド樹脂組成物を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)の硬化前における赤外分光スペクトルチャートである。
図2図2は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を120℃、60分の加熱条件で硬化させた場合の赤外分光スペクトルチャート(FT−IRチャート)である。
図3図3は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を120℃×60分の条件で加熱後、200℃、60分の追加条件で加熱させた場合のFT−IRチャートである。
図4図4は、イミド基含有化合物のFT−IRチャートである。
図5図5(a)〜(b)は、エポキシ化合物/ブロック型イソシアネート化合物の組み合わせ(重量比:50/50)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートである。
図6図6(a)〜(b)は、イミド基含有化合物/エポキシ化合物の組み合わせ(重量比:30/70)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートである。
図7図7(a)〜(b)は、イミド基含有化合物/ブロック型イソシアネート化合物の組み合わせ(重量比:50/25)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートである。
図8図8は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を120℃、60分の加熱条件で硬化させた場合のTG−DTA曲線である。
図9図9は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を120℃、60分の条件で加熱後、200℃、60分の追加条件で加熱させた場合のTG−DTA曲線である。
図10図10は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を所定コイルに適用し、120℃、60分の加熱条件で硬化させた場合における、測定温度の固着力への影響を示す図である。
図11図11は、ポリイミド樹脂組成物(実施例1)を所定コイルに適用し、加熱条件(温度、時間)を変えて硬化させた場合における固着力の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物と、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を含むポリイミド樹脂組成物であって、イミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を10〜100重量部の範囲内の値とし、かつ、120℃×60分の条件で加熱させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となることを特徴とするポリイミド樹脂組成物である。
【0020】
なお、図1に、当該ポリイミド樹脂組成物の所定加熱前(但し、室温、7日間の条件で、風乾)のFT−IRチャートの一例を示す。
同様に、図2に、当該ポリイミド樹脂組成物の所定加熱後(120℃、60分)のFT−IRチャートを示す。
同様に、図3に、当該ポリイミド樹脂組成物の追加加熱後(120℃、60分加熱後、200℃、60分加熱、以下同様である。)のFT−IRチャートを示す。
さらに同様に、図4に、イミド基含有化合物単体の所定加熱前のFT−IRチャートを示す。
【0021】
また、図5(a)〜(b)に、エポキシ化合物/ブロック型イソシアネート化合物の組み合わせ(重量比:50/50)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートを示す。
そして、図5(a)中の波数2270、1686cm-1等のピーク(IS1、IS2等)が、ブロック型イソシアネート化合物に帰属し、波数913cm-1等のピーク(EP1)が、エポキシ化合物に帰属すると言えるが、図5(b)中で、これらのピーク高さが相対的に低くなっていたり、あるいは識別できないことから、エポキシ化合物におけるエポキシ基と、ブロック型イソシアネート化合物におけるイソシアネート基との間の反応が生じていると言える。
【0022】
また、同様に、図6(a)〜(b)に、イミド基含有化合物/エポキシ化合物の組み合わせ(重量比:30/70)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートを示す。
そして、図6(a)中の端数913cm-1等のピーク(EP1´)が、エポキシ化合物に帰属すると言えるが、図6(b)中で、かかるピークが実質的に見えないことから、エポキシ化合物におけるエポキシ基と、イミド基含有化合物における所定官能基との間の反応が生じていると言える。
【0023】
さらに、同様に、図7(a)〜(b)に、イミド基含有化合物/ブロック型イソシアネート化合物の組み合わせ(重量比:50/25)における、所定加熱後および追加加熱後のそれぞれのFT−IRチャートを示す。
そして、図7(a)と、図7(b)との対比にて、それなりにピーク高さ等が変化していることから、イミド基含有化合物における所定官能基と、ブロック型イソシアネート化合物におけるイソシアネート基との間の反応が生じていると言える。
【0024】
1.イミド基含有化合物
(1)ポリイミド成形品
部分的に加水分解して、所定のイミド基含有化合物とするにあたり、その原材料として、従来産業廃棄物等として処理されていたポリイミド成形品(リサイクル品)が幅広く対象となる。
したがって、好適なポリイミド成形品として、例えば、ポリイミド製フィルム、ポリイミド塗膜、ポリイミド製レジスト、ポリイミド製電気部品筐体、ポリイミド製電子部品材料、ポリイミド製容器、ポリイミド製機械部品、ポリイミド製自動車部品等が挙げられる。
さらには、ポリイミドフィルム表面に金属回路パターンが形成された回路基板やTABテープ等の複合積層体であっても、本発明のイミド基含有化合物を製造する際の原材料としてのポリイミド成形品として使用することができる。
その他、リサイクル処理が省略でき、かつ、品質や反応性がより安定化することから、製造直後に加水分解して、イミド基含有化合物を得るために、わざわざ製造したポリイミドフィルムやポリイミド樹脂を含む、未使用のポリイミド成形品(非リサイクル品)であっても好適である。
【0025】
(2)部分的加水分解物
また、所定のイミド基含有化合物は、図4に、その赤外分光スペクトルチャートの一例を示すように、所定構造を有するポリイミド成形品の部分的加水分解物である。
すなわち、一例であるが、所定大きさのポリイミド成形品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で部分的に加水分解して得られるイミド基含有化合物であって、下式(1)で示される所定構造を有するイミド基含有化合物が対象である。
したがって、炭素原子からなる分子内等に、少なくともイミド基、アミド基、およびカルボキシル基、さらにはカルボニル基等を有することによって、相対的に低温硬化が可能であって、かつ、各種有機溶剤に対する良好な溶解性や、各種下地に対する良好な密着性を示すイミド基含有化合物とすることができる。
【0026】
【化1】
【0027】
(式(1)中、記号Xは、アルカリ金属(リチウム/Li、ナトリウム/Na、カリウム/K、ルビジウム/Rb、又はセシウム/Ce)であり、添字nおよびlは、ポリイミド構造の両側に位置するポリアミド酸構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.1〜0.8の範囲内の値であり、添字mは、ポリイミド構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.2〜0.9の範囲内の値である。)
【0028】
また、イミド基含有化合物の分子末端については、下式(2)で示されるような所定構造を有すると推定されている。
すなわち、記号Aで示されるように、ポリアミド酸構造と、記号Bで示されるように、ポリアミド酸およびアルカリ石鹸構造の混合物と、記号Cで示されるように、アルカリ石鹸構造と、がそれぞれ単独又は組み合わせられて、分子末端構造をなしているものと推定されている。
したがって、このような分子末端とすることによって、さらに低温硬化可能であって、かつ、各種有機溶剤に対する溶解性や密着性にさらに優れたイミド基含有化合物とすることができる。
【0029】
【化2】
【0030】
但し、イミド基含有化合物は、炭素原子からなる一分子内に、必ずしもイミド基、アミド基、およびカルボキシル基を同時に含む必要はなく、下式(3)−1で示されるイミド基を有するポイリミドと、下式(3)−2で示されるアミド基を有するポリアミド酸と、および下式(3)−3で示されるカルボキシル基を有するカルボン酸化合物と、の混合物であっても良い。
【0031】
【化3】
【0032】
(3)赤外分光スペクトルチャート
また、所定のイミド基含有化合物は、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、図4に示すように、波数1375cm-1あるいはその近傍に、イミド基に由来した吸収ピーク(ピークA)を有することを特徴とする。
この理由は、このようにイミド基を分子内に有することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができ、ひいては、熱硬化処理によって高分子量化してポリイミド樹脂となった場合に、所定の耐熱性を発揮できるためである。
【0033】
なお、所定のイミド基含有化合物におけるイミド基量(ピーク高さ)は、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるが、熱硬化してなるポリイミドの赤外分光スペクトルチャートのイミド基量(ピーク高さ)を100とした時に、10〜50の範囲とすることが好ましく、15〜45の範囲がより好ましく、20〜40の範囲がさらに好ましいことが判明している。
その他、所定のイミド基含有化合物は、図4に示すように、波数1770cm-あるいはその近傍に、イミド基に由来した吸収ピーク(ピークF)を有するので、上述した吸収ピーク(ピークA)とともに、イミド基を有するか否かの参考にすることができる。
【0034】
また、所定のイミド基含有化合物は、図4に示すように、波数1600cm-あるいはその近傍に、アミド基に由来した吸収ピーク(ピークB)を有することを特徴とする。
この理由は、このようにアミド基を分子内に有することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とできるためである。
【0035】
また、所定のイミド基含有化合物は、図4に示すように、波数1413cm-1あるいはその近傍に、カルボキシル基に由来した吸収ピーク(ピークC)を有することを特徴とする。
この理由は、このようにカルボキシル基を分子内に有することによって、良好な溶解性や密着性を有するイミド基含有化合物とできるためである。
また、所定のイミド基含有化合物は、図4に示すように、波数1710cm-1あるいはその近傍に、カルボニル基に由来した吸収ピーク(ピークE)を有することが好ましい。
この理由は、このようにカルボニル基を分子内に有することによって、より良好な溶解性を有するイミド基含有化合物とできるためである。
【0036】
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光スペクトルチャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピーク(ピークD)の高さをS1とし、イミド基に由来した波数1375cm-1の吸収ピーク(ピークA)の高さをS2としたときに、S1/S2の比率を2〜10の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにイミド基の存在割合を規定することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S2の比率を3〜8の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S2の比率を5〜7の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光スペクトルチャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピーク(ピークD)の高さをS1とし、アミド基に由来した波数1600cm-1の吸収ピーク(ピークB)の高さをS3としたときに、S1/S3の比率を2〜20の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにアミド基の存在割合を規定することによって、所定有機溶剤に対する溶解性や密着性がさらに優れたイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S3の比率を5〜15の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S3の比率を7〜12の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0038】
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光スペクトルチャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピーク(ピークD)の高さをS1とし、カルボキシル基に由来した波数1413cm-1の吸収ピーク(ピークC)の高さをS4としたときに、S1/S4の比率を8〜30の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにカルボキシル基の存在割合を規定することによって、所定有機溶剤に対する溶解性や密着性がさらに優れたイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S4の比率を10〜25の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S4の比率を13〜20の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
(4)平均重量分子量
また、所定のイミド基含有化合物の平均重量分子量を1,000〜100,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような平均重量分子量とすることによって、所定の低温硬化性が得られるとともに、有機溶剤に対する良好な溶解性が得られるためである。
したがって、イミド基含有化合物の平均重量分子量を3,000〜60,000の範囲内の値とすることがより好ましく、5,000〜30,000の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるイミド基含有化合物の平均重量分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって、ポリスチレン換算分子量として、測定することができる。
【0040】
(5)粒状
また、イミド基含有化合物は、溶解前には粒状であって、その平均粒径を0.1〜500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように構成することによって、取り扱い性が良好になるとともに、所定溶媒に対する溶解性がさらに優れたイミド基含有化合物とできるためである。
したがって、イミド基含有化合物の平均粒径を5〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、10〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、イミド基含有化合物の平均粒径は、JIS Z8901に準じて、測定することができる。
【0041】
2.エポキシ化合物
(1)種類
エポキシ化合物の種類については、特に制限されるものでないが、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、多官能エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、高分子エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物等の少なくとも一つであることが好ましい。
特に、フェノールノボラック型エポキシ化合物やクレゾールノボラック型エポキシ化合物であれば、環構造であって、かつ、多官能であることから、より良好な耐熱性が得られ、好ましいエポキシ化合物と言える。
【0042】
(2)配合量
また、ポリイミド樹脂組成物におけるエポキシ化合物の配合量を、イミド基含有化合物100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、エポキシ化合物の配合量が過度に少なくなると、各種下地に対する密着性や、エナメルコイルに対する固着力が著しく低下するためであり、一方、エポキシ化合物の配合量が過度に多くなると、耐熱性や低温硬化性が乏しくなる場合があるためである。
したがって、エポキシ化合物の配合量を、イミド基含有化合物100重量部に対して、20〜80重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、30〜70重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0043】
3.ブロック型イソシアネート化合物
(1)種類
ブロック型イソシアネート化合物の種類については、特に制限されるものでないが、ジメチルピラゾール、ジメチルマロネート、メチルエチルケトシメン、カプロラクタム等の少なくとも一つのブロック剤を有するイソシアネート化合物であることが好ましい。
より具体的には、ジメチルピラゾールブロックのヘキサジイソシアネートビュレット、ジメチルピラゾールブロックのヘキサジイソシアネートトリマー、ジメチルピラゾールブロックのピリジンジイソシアネート、ジメチルピラゾールブロックのピリジンジイソシアネートトリマー、ジメチルマロネートブロックのヘキサジイソシアネートビュレット、メチルエチルケトシメンブロックのヘキサジイソシアネートビュレット、カプロラクタムブロックのヘキサジイソシアネートビュレット等の少なくとも一つが挙げられる。
この理由は、所定のブロック剤を有するイソシアネート化合物であれば、耐候性に優れているとともに、所定温度でブロック剤が解離し、その後速やかに、ポリイミドやエポキシ等が有するヒドロキシ基やアミノ基と反応することができ、ひいては、硬化潜在性に優れた一液型のポリイミド樹脂組成物とできるためである。
したがって、ブロック型イソシアネート化合物において、ブロック剤の解離温度を100〜180℃の温度範囲内の値とすることが好ましく、105〜130℃の温度範囲内の値とすることがより好ましく、110〜120℃の温度範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0044】
(2)配合量
また、ポリイミド樹脂組成物におけるブロック型イソシアネート化合物の配合量を、イミド基含有化合物100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、ブロック型イソシアネート化合物の配合量が過度に少なくなると、各種下地に対する密着性や、エナメルコイルに対する固着力が著しく低下するためである。一方、ブロック型イソシアネート化合物の配合量が過度に多くなると、硬化潜在性が低下したり、耐熱性や機械的特性が乏しくなったりする場合があるためである。
したがって、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を、イミド基含有化合物100重量部に対して、20〜80重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、30〜70重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0045】
4.溶媒
(1)種類
また、ポリイミド樹脂組成物を均一に作成するとともに、安定溶液とするために、所定の有機溶剤を使用することが好ましい。
このような有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルジグライム、メチルトリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、トルエン、エチルアセテート、ブチルアセテート、セロソルブ、メチルエチルケトン(MEK)、アニソール等の少なくとも一つが挙げられる。
特に、N−メチルピロリドンと、メタノール、イソパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、水の少なくとも一つと、の混合物(NMP/その他溶媒の重量比率=80/20等)であれば、モータコイルに用いられるエナメル線の樹脂被覆を膨潤させることなく、ポリイミド樹脂組成物を均一かつ強固に含浸させることができることから、良好な溶媒である。
【0046】
(2)配合量
また、溶媒を配合し、ポリイミド樹脂組成物溶液とした場合、その全体量(100重量%)に対して、溶媒の配合量を、50〜99重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる溶媒の配合量を所定範囲に調整することによって、取り扱いが容易になるばかりか、塗布乾燥が容易になって、さらには、他の配合成分、例えば、熱可塑性樹脂成分、熱硬化性樹脂成分、光硬化性樹脂成分、金属材料、セラミック材料等を均一かつ迅速に配合することができるためである。
より具体的には、かかる溶媒の配合量が50重量%未満の値になると、イミド基含有化合物の溶解性が不十分となって、取り扱い性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる溶媒の配合量が99重量%を超えた値になると、粘度が過度に低下し、所定膜厚でかつ均一なポリイミド樹脂膜を形成するのが困難となったり、沈殿物が生じやすくなったりする場合があるためである。
したがって、溶媒の配合量を、ポリイミド樹脂組成物溶液の全体量に対して、55〜90重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、60〜80重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0047】
(3)粘度
また、ポリイミド樹脂組成物溶液の粘度を10〜50,000mPa・sec(測定温度:25℃、以下同様である。)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、ポリイミド樹脂組成物溶液の粘度を所定範囲に制限することによって、取り扱いが容易になるばかりか、良好な貯蔵安定性が得られ、かつ、塗布性が向上し、さらには、他の配合成分、例えば、熱可塑性樹脂成分、熱硬化性樹脂成分、光硬化性樹脂成分、金属材料、セラミック材料等を均一かつ迅速に配合することができるためである。
したがって、ポリイミド樹脂組成物溶液の粘度を、20〜10,000mPa・secの範囲内の値とすることがより好ましく、30〜5,000mPa・secの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0048】
5.粘度安定剤
また、ポリイミド樹脂組成物、特に、イミド基含有化合物溶液は、不可避的な金属イオンを含んでおり、所定のカルボキシル基や水酸基に由来した疑似架橋状態となる場合がある。
そうした場合に、所定の粘度安定剤を添加しても良く、あるいは、疑似架橋状態となる前に、それを防止するために、オルトギ酸エステル化合物(オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル等)、フィチン酸化合物、ダクロ化合物、あるいはEDTA等の少なくとも一つを添加することが好ましい。
よって、所定の粘度安定剤を配合することによって、カルボキシル基や水酸基に由来した疑似架橋の原因となると思われる金属イオンを捕捉してキレート化させ、疑似架橋状態となって粘度測定不可のイミド基含有化合物溶液を、低粘度(100〜100000mPsec、測定温度20℃)であって、塗布可能な状態とすることができる。
したがって、所定の粘度安定剤の配合量としては、イミド基含有化合物(疑似架橋状態前)100重量部あたり、0.01〜10重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜7重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜5重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
6.添加剤
また、ポリイミド樹脂組成物溶液中に、当該水溶液の安定性を向上させたり、イミド基含有化合物の分散性を向上させたり、塗布する基材への濡れ性を向上させたり、さらには、得られた塗膜の表面平滑性を調整するために、上記粘度安定剤とは異なる、所定の界面活性剤を配合することが好ましい。
このような界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等があるが、具体的には、アンモニウム塩系界面活性剤、アミン塩系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
また、界面活性剤を配合する場合、その配合量を、通常、ポリイミド樹脂組成物溶液の全体量(100重量%)に対して、0.005〜10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる界面活性剤の配合量が、0.005重量%未満の値になると、添加効果が発現しない場合があるためであり、かかる界面活性剤の配合量が、10重量%を超えると、得られるポリイミド樹脂膜の耐熱性や機械的強度が低下する場合があるためである。
したがって、界面活性剤の種類にもよるが、その配合量を、ポリイミド樹脂組成物溶液の全体量に対して、0.01〜5重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.05〜1重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
7.低温硬化性
(1)一次加熱
また、ポリイミド樹脂組成物の低温硬化性に関し、例えば、120℃、60分の加熱条件で一次加熱させて、硬化させ、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値である所定樹脂(主成分はポリアミドイミド樹脂)となることを特徴とする。
すなわち、このような低温条件で一次加熱することによって、図2に示すように、所定構造のポリアミドイミド樹脂となり、図8に示すように、10%重量減少温度が200℃を超え、高い耐熱性や機械的強度を得ることができるためである。
逆に言えば、例えば、ポリイミド樹脂組成物が、エポキシ化合物の硬化剤を別途含まない場合であっても、120℃、60分の加熱条件で硬化させた場合に、図2に示すように、主成分がポリアミドイミド樹脂になり、図8に示す熱特性(TG−DTA曲線)を有するとともに、図11に示すように、ヘリカルコイルにおける固着力(室温測定)で、70N/4cm以上の値になることが好ましい。
【0051】
なお、図10に、ポリイミド樹脂組成物を所定コイルに適用し、120℃、60分の加熱条件で硬化させた場合における、測定温度(100〜250℃)の固着力への影響を示す。ラインAが、本願発明の実施例1に相当し、ラインBが、汎用品(H社のコイル含浸用樹脂塗料)の特性を示している。
かかるラインAから、本願発明のポリイミド樹脂組成物は、測定温度によって、ヘリカルコイル試験における固着力に関してピーク値を示すものの、広範囲の測定温度において、高い固着力を示すことが理解される。
それに対して、汎用品のラインBから、いずれの測定温度(100〜250℃)においても、低いヘリカルコイル試験の固着力しか示さないことが理解される。
よって、従来の汎用品であるコイル含浸用樹脂塗料と比較して、本願発明のポリイミド樹脂組成物によれば、使用温度範囲が広く、かつ、ヘリカルコイルにおいて、高い固着力が得られると言うことができる。
【0052】
(2)二次加熱
また、200℃、60分で二次加熱(追加加熱)した場合、すなわち、120℃×60分で一次加熱した後、200℃、60分で二次加熱した場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、250℃以上の値となるポリイミド樹脂となることが好ましい。
すなわち、このような追加加熱によって、図3に示すように、所定構造のポリイミド樹脂となることにより、図9に示すように、10%重量減少温度が250℃を超え、より高い耐熱性や機械的強度を得ることができるためである。
【0053】
8.用途
本発明のポリイミド樹脂組成物の用途については、特に制限されるものではないが、例えば、耐熱塗料や電気絶縁材料等が挙げられる。
したがって、モータコイルに用いられるエナメル線(特に、ポリアミドエナメル線)の含浸用のポリイミド樹脂組成物等に好適である。
また、所定温度で熱硬化させることにより、良好な耐熱性等を有するポリイミドフィルム、耐熱性電気部品筐体、耐熱性電子部品材料、耐熱性回路基板、耐熱性容器、耐熱性機械部品、耐熱性自動車部品等を製造する際の原材料とすることができる。
さらには、本発明のポリイミド樹脂組成物は、紫外線吸収性に優れており、例えば、厚さ8〜20μm程度の薄膜塗膜であっても、300〜400nmの波長の紫外線を99%以上、より好ましくは、99.9%以上カットすることが判明している。
すなわち、本発明のポリイミド樹脂組成物、およびそれから得られる塗膜は、薄膜であっても耐候性が極めて優れていることから、全天候型の紫外線吸収塗料としても好適に使用することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、ポリイミド成形品を部分的に加水分解してなるイミド基含有化合物に対して、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を配合し、かつ、120℃×60分の条件で硬化させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値となるポリイミド樹脂組成物の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするポリイミド樹脂組成物の製造方法である。
(1)ポリイミド成形品を切断し、所定大きさとする準備工程
(2)所定大きさのポリイミド成形品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解させ、粗製イミド基含有化合物とする工程
(3)粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
(4)イミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物を10〜100重量部と、ブロック型イソシアネート化合物を10〜100重量部と、を配合し、ポリイミド樹脂組成物とする工程。
【0055】
1.工程(1)
工程(1)は、ポリイミド成形品を切断し、所定大きさとする準備工程である。
したがって、ポリイミド成形品を、切削装置、粉砕装置、分級装置等を用いて、産業廃棄物等としてのポリイミド成形品を切断したり、分級したりして、その最大幅や平均粒径を予め調整することが好ましい。
すなわち、より均一かつ迅速に部分的な加水分解が可能となるように、カッター、ナイフ、チョッパー、シュレッダー、ボールミル、粉砕装置、ふるい、パンチングメタル、サイクロン等を用いて、産業廃棄物等としてのポリイミド成形品を切断したり、分級したりして、その最大幅や平均粒径を予め調整することが好ましい。
より具体的には、ポリイミド成形品を短冊状に調整する場合、その平均幅を10mm以下、より好ましくは1〜5mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、ポリイミド成形品を粒状に調整する場合、その平均粒径を10mm以下、より好ましくは1〜5mmの範囲内の値としたりすることが好ましい。
そして、さらに最大幅や平均粒径を揃えるべく、ドライアイス等を用いて冷却しながら、パンチングメタルやふるい等を備えた樹脂用粉砕機に投入して粉砕し、小片状あるいは粒状のポリイミド粉砕品とすることが好ましい。
【0056】
2.工程(2)
次いで、工程(2)は、所定大きさのポリイミド成形品を、少なくとも水および塩基性化合物の存在下に、40〜100℃の温度条件、より好ましくは50〜80℃の温度条件で部分的に加水分解し、粗製イミド基含有化合物とする工程である。
したがって、少なくとも水および塩基性化合物の存在下に、所定温度下、例えば、常圧で、1〜48時間の条件で、ポリイミド成形品を加水分解することが好ましい。
ここで、塩基性化合物としては、水酸化物イオンを発生させる化合物を意味するが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0057】
なお、上述したように、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおけるイミド基に由来した吸収ピーク、アミド基に由来した吸収ピーク、カルボキシル基に由来した吸収ピーク等の有りなしや、それぞれのピーク高さ、さらには、ベンゼン環に由来した吸収ピークとの相対高さ比等が所定範囲内の数値であることを確認することによって、ポリイミド成形品が、部分的に加水分解されて、所望の粗製イミド基含有化合物が得られているか否かを確認することができる。
【0058】
3.工程(3)
次いで、工程(3)は、粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光スペクトルチャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程である。
したがって、例えば、酸処理(塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、有機酸処理等)、水洗、アルカリ処理(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム処理等)、水洗、および乾燥の一連工程を1〜10回繰り返して行い、粗製イミド基含有化合物を精製し、不純物が除去されたイミド基含有化合物(粒状)とすることが好ましい。
そして、粗製イミド基含有化合物中に残留する酸成分やアルカリ成分の影響、例えば、耐熱性や金属腐食等への影響を効果的に避けるべく、酸処理に、弱酸であるリン酸を使用することがより好ましく、アルカリ処理として、水酸化カリウムを使用することがより好ましい。
その上、粗製イミド基含有化合物を精製し、乾燥させた後、粒度を揃えるために、ふるいを用いて、イミド基含有化合物を所定粒径ごとに分級することが好ましい。
【0059】
なお、粗製イミド基含有化合物が十分に精製されたか否かにつき、塩素、硫黄、リン、アルミニウム、マグネシウム等の元素(あるいは元素イオン)が所定量以下であることを、イオンクロマトグラフやX線光電子分光法(XPS)を用いて定量することによって、確認することができる。
より具体的には、例えば、塩素イオンが、100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であることを、イオンクロマトグラフ元素分析によって定量し、粗製イミド基含有化合物の精製度合いを確認することができる。
【0060】
4.工程(4)
最後に、工程(4)において、工程(3)で得られたイミド基含有化合物を、溶媒に溶解させて、イミド基含有化合物溶液とする。
この際、溶媒として、NMPを主成分とする混合溶媒を用いても良いが、最初は、溶媒として、NMP単独を用い、公知の撹拌装置の少なくとも一つを用いて均一溶液とした後に、次いで、その他の混合溶媒となる成分を、希釈剤として、配合することが実務的である。
そして、イミド基含有化合物溶液を作成した段階で、粘度安定剤として、所定量のフィチン酸やオルトギ酸トリエチル等を配合することが好適である。
次いで、得られたイミド基含有化合物溶液に含まれるイミド基含有化合物100重量部に対して、エポキシ化合物を10〜100重量部と、ブロック型イソシアネート化合物を10〜100重量部と、をそれぞれ配合し、ポリイミド樹脂組成物とする。
より具体的には、プロペラミキサー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、ボールミル、ジェットミル、振動ミル、三本ロール等の公知の撹拌装置の少なくとも一つを用いて、均一になるまで撹拌し、本願のポリイミド樹脂組成物溶液とすることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例にもとづき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0062】
[実施例1]
1.ポリイミド樹脂組成物溶液の製造
(1)工程1
ポリイミド成形品としてのカプトンフィルム(カプトン−100Hが主体であるが、他のカプトンフィルムの混合品、東レ・デュポン(株)製)を、チョッパーを用いて、幅10mm以下の短冊状に切断した。
次いで、ドライアイスを添加して冷却しながら、直径3mmのパンチングメタルを備えた樹脂用粉砕機(型番P−1314、株式会社ホーライ)に投入して、当該パンチングメタルを通過するポリイミド成形品(平均粒径:約3mm)を、部分的に加水分解する対象としてのポリイミド粉砕品とした。
【0063】
(2)工程2
次いで、撹拌装置付きの1000ml容器内に、得られたポリイミド粉砕品5gと、イオン交換水400gと、塩基性物質として、水酸化カリウム2gと、を収容した。
次いで、容器内の温度を50℃に加温した後、収容物を撹拌しながら、24時間の条件で、加水分解処理を行い、粗製イミド基含有化合物を含む溶液を得た。
【0064】
(3)工程3
次いで、粗製イミド基含有化合物を含む溶液につき、酸処理(リン酸)、水洗、アルカリ処理、および水洗の一連工程を、5回繰り返して行い、粗製イミド基含有化合物を精製して、粒状のイミド基含有化合物(平均粒径:5μm)とした。
なお、粒状のイミド基含有化合物中に、カリウムが約0.2重量%、Siが約0.02重量%、Caが約0.02重量%、Feが0.005重量%、それぞれ含まれていることを、定量分析によって、確認した。
【0065】
(4)工程4
次いで、撹拌装置付きの容器内に、300gのNMPを収容した後、100gの粒状(平均粒径:0.3mm)のイミド基含有化合物を投入し、撹拌機を用いて均一なイミド基含有化合物溶液となるまで撹拌した。
次いで、イミド基含有化合物溶液の希釈剤として、100gのMEKを追加配合し、さらに、粘度安定剤として、オルトギ酸トリエチルを8.2g投入した。
次いで、エポキシ化合物として、50gのフェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON、N−770)と、ブロック型イソシアネート化合物として、50gのジメチルピラゾールブロック型のヘキサジイソシアネート(GSIクレオス社製、品番7961)と、をそれぞれ投入し、最終的に、混合溶媒(NMP/MEK=80/20)を所定量追加配合して、固形分濃度が25重量%となるように調整し、均一なポリイミド樹脂組成物溶液とした。
【0066】
2.ポリイミド樹脂組成物およびポリイミド樹脂組成物溶液の評価
(1)低温硬化性(評価1)
直径1mmのポリアミドエナメル線を席回し、内径5mm、長さ4cmのヘリカルコイルを複数本準備した。
次いで、得られたポリイミド樹脂組成物溶液中に、準備した複数本のヘリカルコイルを順次に浸漬し、厚さ10μの被膜を形成した。
次いで、ポリイミド樹脂組成物溶液中に浸漬したヘリカルコイルを120℃、60分の加熱条件で、硬化させ、室温まで冷却した後、ヘリカルコイル試験として、曲げ試験機を用いて所定条件で湾曲させ、被膜が破壊される際の曲げ強度を測定し、それを固着力(N/4cm)として、下記基準値に準じて評価した。
◎:固着力が100(N/4cm)以上である。
○:固着力が60(N/4cm)以上である。
△:固着力が10(N/4cm)以上である。
×:固着力が10(N/4cm)未満である。
なお、図11に、加熱温度を変えた場合のヘリカルコイルにおける固着力(N/4cm)を示しており、ラインAが、60分加熱した場合に該当し、ラインBが、30分加熱した場合に該当する。
【0067】
(2)耐熱性(評価2)
JIS K 7120に準拠して、熱天秤(メトラー社製、TG−DTA分析装置)を用い、100ml/分の窒素気流中で、30〜500℃まで加熱(昇温速度10℃/分)し、図8に示すように、TG−DTA曲線を得た。そして、TG−DTA曲線のうち、TG曲線をもとに、以下の基準で、ポリイミド膜の耐熱性評価を行った。
◎:10%重量減少温度が250℃以上である。
○:10%重量減少温度が200℃以上である。
△:10%重量減少温度が150℃以上である。
×:10%重量減少温度が150℃未満である。
【0068】
(3)密着性(評価3)
JIS K 5600に準拠して、碁盤目試験を実施し、PETフィルム(東レ製、ルミラー50)およびアルミニウム板(厚さ:1mm)に対する密着性を評価した。
◎:両被着体に対して、残留碁盤目100個/100個である。
○:両被着体に対して、残留碁盤目95個以上/100個である。
△:両被着体に対して、残留碁盤目90個以上/100個である。
×:少なくとも一つの被着体に対して、残留碁盤目90個未満/100個である。
【0069】
[実施例2]
実施例2では、イミド基含有化合物100gに対して、エポキシ化合物の配合量を25g、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を25gとしたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0070】
[実施例3]
実施例3では、イミド基含有化合物100gに対して、エポキシ化合物の配合量を75g、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を75gとしたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0071】
[実施例4]
実施例4では、イミド基含有化合物100gに対して、エポキシ化合物の配合量を75g、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を25gとしたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0072】
[実施例5]
実施例5では、ポリイミド成形品の種類を、カプトンH(東レ・デュポン(株)製)に変えるとともに、加水分解時間を36時間に変更して、ポリイミド成形品の加水分解の程度を変えて、イミド基含有化合物を得たほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0073】
[実施例6]
実施例6では、ポリイミド成形品の種類を、カプトンEN(東レ・デュポン(株)製)に変えるとともに、加水分解時間を12時間に短縮して、ポリイミド成形品の加水分解の程度を変えて、イミド基含有化合物を得たほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0074】
[実施例7]
実施例7では、エポキシ化合物の種類をクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON、N−670)に変えたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
【0075】
[実施例8]
実施例8では、ブロック型イソシアネート化合物として、二種類のブロック型イソシアネート化合物の混合物に変えたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
すなわち、ブロック型イソシアネート化合物として、25gのジメチルピラゾールブロック型のヘキサジイソシアネート(GSIクレオス社製、品番7961)と、25gのジメチルピラゾールブロック型のイソピリジンイソシアネート(GSIクレオス社製、品番7951)の混合物(配合量比=50:50)に変えて、評価した。
【0076】
[比較例1]
比較例1では、エポキシ化合物およびブロック型イソシアネート化合物を配合しなかったほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
かかる評価結果から判断すると、エポキシ化合物やブロック型イソシアネート化合物が含まれていないためと思料するが、低温硬化性や密着性等の評価、さらには、耐熱性の評価においても、実施例1等の評価結果と比較して、劣る傾向が見られた。
【0077】
[比較例2]
比較例2では、ブロック型イソシアネート化合物を配合しなかったほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
かかる評価結果から判断すると、ブロック型イソシアネート化合物が含まれていないためと思料するが、低温硬化性や密着性等の評価において、実施例1等の評価結果と比較して、劣る傾向が見られた。
逆に言えば、所定のイミド基含有化合物と、エポキシ化合物のみとの組み合わせであっては、良好な低温硬化性等が得られないと言える。
【0078】
[比較例3]
比較例3では、イミド基含有化合物100gに対して、エポキシ化合物の配合量を5g、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を45gとしたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
かかる評価結果から判断すると、エポキシ化合物の配合量が少なすぎるためと思料するが、特に密着性の評価において、実施例1等の評価結果と比較して、劣る傾向が見られた。
【0079】
[比較例4]
比較例4では、イミド基含有化合物100gに対して、エポキシ化合物の配合量を75g、ブロック型イソシアネート化合物の配合量を3gとしたほかは、実施例1と同様に、ポリイミド樹脂組成物溶液を作成し、低温硬化性等について評価した。
かかる評価結果から判断すると、ブロック型イソシアネート化合物の配合量が少なすぎるためと思料するが、低温硬化性や密着性の評価において、実施例1等の評価結果と比較して、劣る傾向が見られた。
【0080】
【表1】
評価1:低温硬化性
評価2:耐熱性(TG−DTA)
評価3:密着性(碁盤目試験)
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上の説明の通り、本発明によれば、産業廃棄物等としてのポリイミド成形品を部分的に加水分解し、赤外分光スペクトルチャートにおいて、所定吸収ピークを有する特定構造のイミド基含有化合物を得た後、エポキシ化合物と、ブロック型イソシアネート化合物と、を所定割合で配合し、ポリイミド樹脂組成物とすることにより、エポキシ化合物の硬化剤を別途配合しない場合であっても、120℃×60分の条件で加熱させた場合に、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、200℃以上の値になるともに、各種下地に対して、良好な接着性を示すポリアミドイミド樹脂を主成分として含んでなるポリイミド樹脂組成物を得ることができるようになった。
【0082】
また、得られたポリイミド樹脂組成物において、より高い耐熱性や機械的強度等を得たい場合には、例えば、120℃×60分の条件で一次加熱させた後、200℃、60分の条件で二次加熱させることにより、JIS K 7120に準拠して、熱天秤で測定される10重量%減少温度が、250℃以上の値を有するポリイミド樹脂を主成分として含むことができるようになった。
【0083】
さらに言えば、得られたポリイミド樹脂組成物は、溶液状態であっても硬化潜在性に優れており、粘度増加(初期値の約5倍以内)から判断して、室温保管条件で、3月以上のシェルフライフを有し、さらには、40℃保管条件であっても、3月以上のシェルフライフを有することが確認された。
【0084】
よって、得られたポリイミド樹脂組成物は、エポキシ化合物の硬化剤を別途配合しない場合であっても、耐熱性や密着性等に優れたポリイミドフィルムやポリイミド塗料、さらには、耐熱性電気部品筐体、耐熱性電子部品材料、耐熱性容器、耐熱性機械部品、耐熱性自動車部品等の各種ポリイミド成形品の用途について、それぞれ好適に使用することが期待される。
特に、120℃、60分程度の低温硬化が可能であるため、各種顔料や染料を配合したとしても、それらが熱分解しないことから、従来不可能であった、カラーポリイミド樹脂とすることが可能になった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11