特許第6250220号(P6250220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6250220
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20171211BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20171211BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20171211BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20171211BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20171211BHJP
   C09D 5/36 20060101ALI20171211BHJP
   C09D 101/14 20060101ALI20171211BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20171211BHJP
   C09D 169/00 20060101ALI20171211BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20171211BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20171211BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20171211BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B05D1/36 B
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 302T
   B05D7/24 302V
   B05D7/24 302E
   B05D7/24 303C
   B05D3/02 Z
   B05D7/02
   B05D5/06 101A
   C09D5/36
   C09D101/14
   C09D133/00
   C09D169/00
   C09D175/04
   B32B27/20 A
   B32B27/26
   B32B27/28
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-156456(P2017-156456)
(22)【出願日】2017年8月14日
【審査請求日】2017年8月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-160998(P2016-160998)
(32)【優先日】2016年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591163720
【氏名又は名称】エーエスペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100126789
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】今瀬 智宏
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/099150(WO,A1)
【文献】 特開2001−149858(JP,A)
【文献】 国際公開第(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第(EP,A2)
【文献】 特開2012−170910(JP,A)
【文献】 特開2005−205262(JP,A)
【文献】 特開2012−45478(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/013853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜B05D7/26
B32B1/00〜B32B43/00
C09D1/00〜C09D201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、未乾燥の下塗り塗膜を形成する、下塗り塗膜形成工程、
得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の上塗り塗膜を形成する、上塗り塗膜形成工程、および
得られた未乾燥の下塗り塗膜および未乾燥の上塗り塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、
を包含する、塗膜形成方法であって、
前記下塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)を含み、
前記上塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)、イソシアネート化合物(D2)、着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)を含み、
前記下塗り塗膜の明度L1と前記上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lが9.0以下である、
複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記下塗り塗料組成物において
アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)およびイソシアネート化合物(D1)の樹脂固形分比率は、
アクリル樹脂(A1)15〜46質量%、
セルロース樹脂(B1)5〜25質量%、
ポリオール樹脂(C1)19〜30質量%、および
イソシアネート化合物(D1)25〜40質量%、
であり、および、
前記着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)の合計顔料濃度(PWC)は、3〜30%である、
請求項1記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記上塗り塗料組成物において
アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)およびイソシアネート化合物(D2)の樹脂固形分比率は、
アクリル樹脂(A2)15〜50質量%、
セルロース樹脂(B2)20〜40質量%、および
イソシアネート化合物(D2)20〜40質量%、
であり、および、
前記着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)の合計顔料濃度(PWC)は、3〜30%である、
請求項1または2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記アクリル樹脂(A1)およびアクリル樹脂(A2)の平均分子量は、それぞれ、2,000〜11,000である、請求項1〜3いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記セルロース樹脂(B1)およびセルロース樹脂(B2)は、それぞれ独立して、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、セルロースアセテートおよびセルロースアセテートプロピオネートからなる群から選択される1種またはそれ以上である、請求項1〜4いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記ポリオール樹脂(C1)は、水酸基当量が320〜2000であるポリカーボネートジオールである、請求項1〜5いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項7】
前記乾燥工程が、70〜120℃の条件下で行われる、請求項1〜6いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項8】
前記被塗物が、樹脂成形物である、請求項1〜7いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項9】
前記上塗り塗膜の上に、クリヤー塗膜を設けないことを特徴とする、請求項1〜8いずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特な意匠を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの工業製品の中でも、例えば小型であるため表面積が小さい自動二輪車においては、誘目性が高い、独特の意匠性を有する外観が求められる。誘目性が高い塗膜の1つとして、金属調光沢を有する表面外観が挙げられる。このような誘目性の高い表面外観は、小型化が追求される傾向がある家電製品などにおいても同様に求められている。
【0003】
金属調光沢を有する表面外観を設ける手段として、一般に、金属めっき処理、金属蒸着処理などが挙げられる。一方で、例えば軽量化が求められる自動車車体、自動二輪車、そして一部の家電製品などにおいては、従来は鋼板で作成された部材を樹脂部材に変更することによって、製品の軽量化が図られている。ここで、樹脂部材に対して金属めっき処理、金属蒸着処理などの処理を行う場合は、設備投資費用が比較的高額となるという課題がある。
【0004】
塗料組成物を塗装する手段によって金属調光沢を有する塗膜を設ける手法についても検討がなされている。このような塗装手段は、既存の塗装設備を用いて行うことが可能であるため、より簡便であり、設備投資の面においても安価であるという利点がある。
【0005】
特開2016−077998号公報(特許文献1)には、被塗物に、光輝性顔料分散体を塗装し、加熱乾燥させることを含んでなる塗膜形成方法において、光輝性顔料分散体が、水、有機溶剤(A)、光輝性顔料(B)および粘性調整剤(C)を含み、上記水を、水、有機溶剤(A)、光輝性顔料(B)および粘性調整剤(C)の合計量100質量部を基準として50〜90質量部含有し、上記有機溶剤(A)が、20℃の水に1質量%以上溶解し、温度20℃にて1mLの該有機溶剤(A)が90%以上蒸発するのに必要な時間が250秒以上であり、水と有機溶剤(A)とを質量比で75/20で混合させた液体を、温度20℃にて、B型粘度計でローター回転速度60rpmでの粘度が100mPa・sとなるように調整したときの、ブリキ板に対する接触角が3〜40°であることを特徴とする塗膜形成方法、が記載される(請求項1)。この塗膜形成方法により、金属調光沢に優れた金属調塗膜を形成することができると記載されている。一方で特許文献1の塗膜形成方法では、光輝性顔料分散体による塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装することを想定した方法である(請求項2など)。トップクリヤー塗料を塗装することによって、金属調塗膜によって呈される金属様の質感が損なわれる傾向がある。
【0006】
特開2006−095522号公報(特許文献2)には、鱗片状光輝性顔料を含んでなる水性ベースコート塗料の塗装方法であって、塗料中の固形分が20〜40重量%になるように調整された水性ベースコート塗料(A1)を乾燥膜厚で1〜15μmとなるように被塗物に塗装した後、未硬化の塗膜の上に、塗料中の固形分が2〜15重量%になるように調整された水性ベースコート塗料(A2)を乾燥膜厚で0.1〜5μmとなるように塗装することを特徴とする水性ベースコート塗料の塗装方法が記載される(請求項1)。この塗装方法もまた、トップクリヤー塗料を塗装することを想定した塗装方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−077998号公報
【特許文献2】特開2006−095522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、例えば自動二輪車の外側面に、独特な意匠を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、未乾燥の下塗り塗膜を形成する、下塗り塗膜形成工程、
得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の上塗り塗膜を形成する、上塗り塗膜形成工程、および
得られた未乾燥の下塗り塗膜および未乾燥の上塗り塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、
を包含する、塗膜形成方法であって、
上記下塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)を含み、
上記上塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)、イソシアネート化合物(D2)、着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)を含み、
上記下塗り塗膜の明度L1と上記上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lが9.0以下である、
複層塗膜形成方法。
[2]
上記下塗り塗料組成物において
アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)およびイソシアネート化合物(D1)の樹脂固形分比率は、
アクリル樹脂(A1)15〜46質量%、
セルロース樹脂(B1)5〜25質量%、
ポリオール樹脂(C1)19〜30質量%、および
イソシアネート化合物(D1)25〜40質量%、
であり、および、
上記着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)の合計顔料濃度(PWC)は、3〜30%である、
態様が挙げられる。
[3]
上記上塗り塗料組成物において
アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)およびイソシアネート化合物(D2)の樹脂固形分比率は、
アクリル樹脂(A2)15〜50質量%、
セルロース樹脂(B2)20〜40質量%、および
イソシアネート化合物(D2)20〜40質量%、
であり、および、
上記着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)の合計顔料濃度(PWC)は、3〜30%である、
態様が挙げられる。
[4]
上記アクリル樹脂(A1)およびアクリル樹脂(A2)の平均分子量は、それぞれ、2,000〜11,000である態様が挙げられる。
[5]
上記セルロース樹脂(B1)およびセルロース樹脂(B2)は、それぞれ独立して、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、セルロースアセテートおよびセルロースアセテートプロピオネートからなる群から選択される1種またはそれ以上である態様が挙げられる。
[6]
上記ポリオール樹脂(C1)は、水酸基当量が320〜2000であるポリカーボネートジオールである態様が挙げられる。
[7]
上記乾燥工程が、70〜120℃の条件下で行われる態様が挙げられる。
[8]
上記被塗物が樹脂成形物である態様が挙げられる。
[9]
上記上塗り塗膜の上に、クリヤー塗膜を設けないことを特徴とする態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によって形成される複層塗膜は、この複層塗膜自体が耐摩耗性に優れているという特徴を有する。そのため、複層塗膜の上にクリヤー塗膜を設ける必要がない。これにより、金属様の質感を有する金属調塗膜を設けることができる。本発明の方法はさらに、上記複層塗膜を、ウェットオンウェット塗装により形成することができる利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず本発明に至った経緯を説明する。本発明においては、塗料組成物の塗装によって、まるで金属そのもののような質感を呈する金属調光沢の塗膜を設ける手段を確立することを課題とした。この課題を達成するため、本発明者らは、最表層に一般的に設けられるクリヤー塗膜を設けることなく、金属調光沢を有する塗膜を形成する手段を検討することとした。クリヤー塗膜が最表層に設けられることによって、いわゆるむき出しの金属そのものといった質感が損なわれるためである。
【0012】
一方で、クリヤー塗膜を最表層に設けないことによって、得られる塗膜の耐摩耗性が低下する問題が生じた。クリヤー塗膜は一般に、耐摩耗性に優れた塗膜である。このようなクリヤー塗膜を設けない設計においては、金属調光沢を有する塗膜自体が、優れた耐摩耗性を有することが必要となる。耐摩耗性を向上させる手段として、例えば、塗膜形成樹脂の架橋密度を高める手段などが挙げられる。しかしながら、塗膜形成樹脂の架橋密度を高めるためには、一般に、反応部分を多く有する、比較的低分子量の塗膜形成樹脂を用いる必要がある。このような塗膜形成樹脂を用いることによって、光輝性顔料の配向性が大きく変化してしまい、所望の金属調光沢を有する塗膜を形成することが困難となることが、本発明者らの実験によって判明した。
【0013】
本発明者らは、金属調光沢を有する一方で、耐摩耗性に優れ、クリヤー塗膜を設ける必要がない塗膜を開発することを課題とし、開発を行った。この中で、金属調光沢を有する塗膜として、それぞれが光輝性顔料を含む2種類の塗膜を積層することによって複層塗膜を形成すること、そして、光輝性顔料を含む2種類の塗膜において、下方側の塗膜にのみポリオール樹脂を含めることによって、得られる複層塗膜において耐摩耗性を確保しつつ、良好な金属調光沢を有する塗膜を形成することが可能となった。
【0014】
なお本明細書において、金属調光沢を有する塗膜とは、塗膜表面が金属光沢質感を有しており、塗膜表面の目視観察において光輝性顔料由来の粒子感を明確かつ強く認識することがない外観を有する塗膜を意味する。
【0015】
本発明の複層塗膜形成方法は、以下の工程を包含する:
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、未乾燥の下塗り塗膜を形成する、下塗り塗膜形成工程、
得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の上塗り塗膜を形成する、上塗り塗膜形成工程、および
得られた未乾燥の下塗り塗膜および未乾燥の上塗り塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程。
本発明においては、上記工程で用いる下塗り塗料組成物として、アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)を含む下塗り塗料組成物を用いる。
また、上記工程で用いる上塗り塗料組成物として、アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)、イソシアネート化合物(D2)、着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)を含む上塗り塗料組成物を用いる。
【0016】
被塗物
本発明の方法における被塗物として、各種樹脂成形物、各種金属(例えば、鉄、鋼、ステンレス、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属およびこれらの合金など)、木、ガラスなどが挙げられる。上記樹脂成形物は、発泡体であってもよい。本発明の方法において好適に用いることができる被塗物として、例えば各種樹脂成形物、より具体的には、ポリエチレン樹脂、EVA樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)、塩化ビニル樹脂、スチロール樹脂、ポリエステル樹脂(PET樹脂、PBT樹脂などを含む)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)などの樹脂の成形物;および、有機−無機ハイブリッド材など;が挙げられる。
【0017】
上記金属は鋼板形態であってもよく、そしてこれらの鋼板は、必要に応じて、化成処理が施された後に電着塗膜が形成された状態であってもよい。化成処理として、例えば、リン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理、クロム酸化成処理などが挙げられる。また電着塗膜として、カチオン電着塗料組成物またはアニオン電着塗料組成物を用いた電着塗装によって得られる電着塗膜が挙げられる。
【0018】
上記樹脂成形物は、必要に応じて、有機溶媒を用いた蒸気洗浄が行われていてもよく、または中性洗剤を用いた洗浄が行われていてもよい。さらに、必要に応じたプライマー塗装が施されていてもよい。
【0019】
上記被塗物は、各種工業製品を構成する部材であってもよい。このような部材として、例えば、自動二輪車、自動車、トラック、バスなどの車体および部品、家電製品の各種筺体などを挙げることができる。
【0020】
下塗り塗料組成物
本発明において用いられる下塗り塗料組成物は、アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)を含む。
【0021】
アクリル樹脂(A1)
下塗り塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(A1)は、塗膜形成樹脂である。アクリル樹脂(A1)が含まれることによって、得られる下塗り塗膜に、密着性、耐水性などの良好な塗膜性能が付与される。下塗り塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(A1)は、活性水素基含有モノマー(a)および他のモノマー(b)を共重合することによって調製することができる。
【0022】
活性水素基含有モノマー(a)として、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマーなどが挙げられる。
水酸基含有モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、これら水酸基含有(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの反応物、および、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化物などが挙げられる。さらに、上記多価アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した反応物を用いることもできる。
カルボキシル基含有モノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸などの、カルボキシル基含有モノマー、および、マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチルなどのジカルボン酸モノエステルモノマーなどが挙げられる。
アミノ基含有モノマーとして、例えば、アリルアミン、p−ビニルアニリンなどが挙げられる。
これらの活性水素基含有モノマー(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタアクリレート」を意味する。
【0023】
他のモノマー(b)として、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n、iまたはt−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;
(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの脂環基含有モノマー;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;
アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルアミドモノマー;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのその他のアミド基含有モノマー;
(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマー;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;
などを挙げることができる。これらの他のモノマー(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記他のモノマー(b)のうち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが好ましく用いられる。
【0025】
活性水素基含有モノマー(a)および他のモノマー(b)の重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合方法として、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状−懸濁二段重合法などを用いることができる。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく用いることができる。溶液重合法として、例えば、上記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、例えば80〜200℃の温度で撹拌しながら加熱する方法などが挙げられる。
【0026】
上記アクリル樹脂(A1)は、数平均分子量が1,000〜15,000であるのが好ましい。数平均分子量が1,000未満である場合は、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがある。一方で、数平均分子量が15,000を超える場合は、樹脂成分の粘度が高くなり、塗料組成物の調製において多量の溶剤が必要となるおそれがある。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。アクリル樹脂(A1)は、数平均分子量が2,000〜11,000であるのがより好ましく、2,000〜9,000であるのがさらに好ましい。
【0027】
上記アクリル樹脂(A1)は、固形分水酸基価が30〜250mgKOH/gであるのが好ましい。固形分水酸基価が30mgKOH/g未満である場合は、イソシアネート化合物(D1)との反応性が低下し、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがあり、また塗膜密着性が劣るおそれがある。一方で固形分水酸基価が250mgKOH/gを超える場合は、得られる複層塗膜の耐水性が劣るおそれがある。アクリル樹脂(A1)の固形分水酸基価は40〜170mgKOH/gであるのがより好ましい。
【0028】
上記アクリル樹脂(A1)は、固形分酸価が2〜50mgKOH/gであるのが好ましい。固形分酸価が2mgKOH/g未満である場合は、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがある。一方で固形分酸価が50mgKOH/gを超える場合は、得られる複層塗膜の耐水性が劣るおそれがある。アクリル樹脂(A1)の固形分酸価は5〜20mgKOH/gであるのがより好ましい。
【0029】
アクリル樹脂(A1)として、市販されるアクリル樹脂を用いてもよい。このようなアクリル樹脂の具体例として、DIC社製の商品名「アクリディック」シリーズ、三菱レイヨン社製の商品名「ダイヤナール」シリーズ、日立化成工業社製の商品名「ヒタロイド」シリーズなどが挙げられる。
【0030】
上記下塗り塗料組成物中に含まれるアクリル樹脂(A1)の量は、下塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して15〜46質量%であるのが好ましい。ここで、下塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分とは、アクリル樹脂(A1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、そして必要に応じたセルロース樹脂(B1)などの樹脂成分の固形分を意味する。アクリル樹脂(A1)の量が15質量%以上であることによって、良好な塗膜密着性および耐候性が得られる利点がある。アクリル樹脂(A1)の量が46質量%以下であることによって、良好な塗装作業性を確保することができる利点がある。
【0031】
上記アクリル樹脂(A1)は、着色顔料(E1)などの顔料を分散させた顔料分散ペーストを調製する際において、顔料分散を助力する樹脂として用いることもできる。そして、上記アクリル樹脂(A1)を顔料分散ペーストの調製において用いる場合は、上述の「下塗り塗料組成物中に含まれるアクリル樹脂(A1)の量」は、顔料分散ペーストの調製において用いたアクリル樹脂(A1)の量も含むものとする。
【0032】
セルロース樹脂(B1)
下塗り塗料組成物はセルロース樹脂(B1)を含む。セルロース樹脂(B1)として、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートからなる群から選ばれた一つ以上のセルロース樹脂を挙げることができる。樹脂との溶解性、粘性の発現等の観点からセルロースアセテートブチレートであることが更に好ましく、ASTM−D−817に記載された測定法によるアセチル化度が1〜34重量%、ブチリル化度が16〜60重量%、ASTM−D−1343に記載された測定法による粘度が0.005〜20秒の範囲に入るものが特に好ましい。粘度が0.005秒未満の場合は、FF性が低下する場合がある。粘度が0.01〜5秒の範囲に入るものが更に好ましい。
【0033】
上記セルロースアセテートブチレートの一例としては、イーストマンケミカルプロダクト社の、例えば、CAB−551−0.01(粘度=0.01秒、ブチリル基含有量=53%)、CAB−531−1(粘度=1.90秒、ブチリル基含有量=50%)、CAB−500−1(粘度=1.00秒、ブチリル基含有量=51%)、CAB−500−5(粘度=5.00秒、ブチリル基含有量=51%)、CAB−553−0.4(粘度=0.30秒、ブチリル基含有量=46%)、CAB−381−0.1(粘度=0.10秒、ブチリル基含有量=38%)、CAB−381−0.5(粘度=0.50秒、ブチリル基含有量=38%)、CAB−381−2(粘度=2.00秒、ブチリル基含有量=38%)、CAB−321−0.1(粘度=0.10秒、ブチリル基含有量=31.2%)、CAB−171−15S(粘度=15.00秒、ブチリル基含有量=17%)等が挙げられる。なお、上記セルロースアセテートブチレートは、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0034】
上記ニトロセルロースとしては、粘度が1秒以上のもの、特に2〜10秒のものが好ましい。上記ニトロセルロースの粘度が1秒未満の場合は、光輝性顔料のフリップフロップ性が低下するおそれがある。一方で、粘度が10秒を超える場合は、塗料用組成物の粘度が高くなり過ぎ、塗装作業性が低下するおそれがある。なお、ここでの粘度は、JIS K6703に従って測定した値である。
【0035】
上記ニトロセルロースとしては、例えば、旭化成工業株式会社製の商品名、HIG1/16(粘度=1.0〜1.5秒:固形分25.0%にて測定)、HIG1/8(粘度=2.0〜2.9秒:固形分25.0%にて測定)、HIG1/4(粘度=3.0〜6.0秒:固形分25.0%にて測定)、HIG1/2(粘度=3.0〜4.9秒:固形分20.0%にて測定)、HIG1(粘度=6.0〜8.0秒:固形分20.0%にて測定)、HIG2(粘度=1.5〜2.5秒:固形分12.2%にて測定)、HIG7(粘度=6.0〜7.9秒:固形分12.2%にて測定)を挙げることができる。なお、ニトロセルロースは、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0036】
上記下塗り塗料組成物中におけるセルロース樹脂(B1)の量は、下塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して5〜25質量%であるのが好ましい。セルロース樹脂(B1)の量が上記範囲内であることによって、良好な塗装作業性を確保することができる利点がある。
【0037】
ポリオール樹脂(C1)
上記下塗り塗料組成物に含まれるポリオール樹脂(C1)は、塗膜形成樹脂である。下塗り塗料組成物にポリオール樹脂(C1)が含まれることによって、得られる複層塗膜の耐摩耗性が向上することとなる。ポリオール樹脂(C1)の具体例として、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが挙げられる。本発明においては、ポリオール樹脂(C1)としてポリカーボネートジオールを用いるのが好ましい。ポリカーボネートジオールは、その樹脂骨格としてカーボネート基を有することから、高い凝集エネルギーを有している。そのため、塗膜の強靱性を向上させることができる。さらに、下塗り塗料組成物の塗膜形成樹脂として、アクリル樹脂(A1)に加えてポリカーボネートジオールを用いることによって、架橋密度が高く架橋間分子量が小さい網目構造と大きい網目構造との両方を塗膜中に形成させることができる。これにより、塗膜に耐摩耗性を付与し、そして同時に塗膜としての優れた物性を得ることができる。さらに、耐候性、耐水性などの点からも、ポリカーボネートジオールを用いるのが好ましい。
【0038】
上記ポリカーボネートジオールは、具体的には、下記一般式(1)で示される。
【0039】
【化1】
【0040】
上記式(1)中、Rの構造は、上記ポリカーボネートジオールの製造に使用されるジオール成分によって決定される。上記ジオール成分としては、炭素数が2〜10、好ましくは4〜8の2価のアルコールを挙げることができる。具体的には、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族系;1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式系;p−キシレンジオール、p−テトラクロロキシレンジオール等の芳香族系;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジオールをあげることができる。これらのジオールは、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。上記ポリカーボネートジオールは、上記ジオールをホスゲン等のカルボニル化剤と反応させることによって得ることができる。
【0041】
上記ポリカーボネートジオールは、上記一般式(1)中のRが直鎖アルキル基であることが好ましい。Rが直鎖アルキル基であるポリカーボネートジオールは、下記一般式(2)で示される。
【0042】
【化2】
【0043】
上記式(2)中、n=2〜40、m=2〜20である。なかでも、耐久性および硬度を維持しつつ耐摩耗性を得るという観点からみて、1,6−ヘキサンジオールを含有するジオール成分とカルボニル化剤とを重縮合させてなるものが好ましい。
【0044】
特に好ましいものとして、1,6−ヘキサンジオールを必須ジオール成分としてジオール成分を2種以上組合せて使用するものであって、1,6−ヘキサンジオールと1,5−ペンタンジオールの組合せ、1,6−ヘキサンジオールと1,4−ブタンジオールの組合せまたは1,6−ヘキサンジオールと1,4−ジメチロールシクロヘキサンの組合せ等のジオール成分とカルボニル化剤とを重縮合させて得られるポリカーボネートジオールを挙げることができる。
【0045】
なかでも、上記1,6−ヘキサンジオールと1,5−ペンタンジオールの組合せであって、1,6−ヘキサンジオール/1,5−ペンタンジオール=80/20〜20/80(モル比)のものが好ましい。このように、2種またはそれ以上を併用したものは、耐摩耗性が良好である点で好ましい。
【0046】
上記カルボニル化剤としては、例えば、通常用いられるアルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリルカーボネートおよびホスゲン等の1種または2種以上を組合せて使用することができる。これらのうち好ましいものとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネートをあげることができる。
【0047】
上記ポリカーボネートジオールは、水酸基当量が320〜2000であることが好ましい。水酸基当量が320未満では、架橋密度が大きくなり過ぎて耐摩耗性が悪くなるおそれがある。水酸基当量が2000を超えると、耐汚染性や耐水性が悪くなるおそれがある。上記水酸基当量は、より好ましくは350〜1000である。
【0048】
上記ポリカーボネートジオールとしては、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、旭化成ケミカルズ社製のT−5650J、T−5651、T−5652(ジオール成分:1,6−ヘキサンジオールおよび1,5−ペンタンジオール)、T−4671(ジオール成分:1,6−ヘキサンジオールおよび1,4−ブタンジオール);宇部興産社製のETERNACOLL UM−90(1/1,1/3)(ジオール成分:1,6−ヘキサンジオールおよび1,4−ジメチロールシクロヘキサン)等を挙げることができる。
【0049】
上記下塗り塗料組成物中に含まれるポリオール樹脂(C1)の量は、下塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して19〜30質量%であるのが好ましい。ポリオール樹脂(C1)の量が19質量%以上であることによって、良好な耐摩耗性を確保することができる利点がある。ポリオール樹脂(C1)の量が30質量%以下であることによって、良好な物性を有する塗膜形成に必要とされる十分な架橋性を確保することができる利点がある。
【0050】
イソシアネート化合物(D1)
本発明における下塗り塗料組成物は、イソシアネート化合物(D1)を含む。イソシアネート化合物(D1)は、アクリル樹脂、ポリオール樹脂、セルロース樹脂などの塗膜形成樹脂が有する活性水素基(例えば、水酸基、アミノ基など)と反応して架橋構造を形成する架橋剤として用いられる。イソシアネート化合物(D1)として、脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族または芳香族の、ジイソシアネート、ジイソシアネートの二量体、ジイソシアネートの三量体(好ましくはイソシアヌレート型イソシアネート(いわゆるイソシアヌレート))など多官能イソシアネート化合物を用いることができる。このようなイソシアネート化合物はいわゆるアシンメトリー型のものであってもよい。
【0051】
ジイソシアネートとして、例えば、5〜24個、好ましくは6〜18個の炭素原子を含むジイソシアネートなどが挙げられる。このようなジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート−(1,11)、リジンエステルジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−および1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート:IPDI)、4,4’−ジイソシアナトジシクロメタン、ω,ω’−ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、シクロヘキシル−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,5−ジメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5−トリメチル−2,4−ビス(ω−イソシアナトエチル)−ベンゼン、1,3,5−トリメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリエチル‐2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネートなどが挙げられる。また、2,4−ジイソシアナトトルエンおよび/または2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,4−ジイソシアナトイソプロピルベンゼンのような芳香族ジイソシアネートも用いることができる。
上記イソシアヌレート型イソシアネートとしては上述したジイソシアネートの三量体を挙げることができる。
なお、このようなイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
イソシアネート化合物(D1)として、ブロックイソシアネートを用いることもできる。ブロックイソシアネートは、上記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基を、ブロック剤でブロックすることによって、調製することができる。ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。ブロック剤としては、ε−カプロラクタム、ブチルセロソルブなどの一般的に使用されるものを用いることができる。
【0053】
上記下塗り塗料組成物中に含まれるイソシアネート化合物(D1)の量は、下塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して25〜40質量%であるのが好ましい。イソシアネート化合物(D1)の量が25質量%以上であることによって、良好な物性を有する塗膜形成に必要とされる十分な架橋性を確保することができる利点がある。イソシアネート化合物(D1)の量が40質量%以下であることによって、塗膜の良好な耐水性を確保することができる利点がある。
【0054】
上記下塗り塗料組成物は、必要に応じてさらにメラミン樹脂を架橋剤として含んでもよい。メラミン樹脂としては、例えば、メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等のアルキルエーテル化メラミンを挙げることができる。メラミン樹脂を含む場合の含有量は、下塗り塗料組成物の樹脂固形分に対して40質量%以下であるのが好ましい。
【0055】
着色顔料(E1)
下塗り塗料組成物中に含まれる着色顔料(E1)は、下記する上塗り塗料組成物によって得られる上塗り塗膜との明度差を一定範囲内とするために用いられる。着色顔料(E1)として、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、黄色酸化鉄などの無機着色顔料;そして、種々の有機着色顔料、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アゾレッド、アゾイエロー、アゾオレンジなどのアゾ系顔料;キナクリドンレッド、シンカシャレッド、シンカシャマゼンタなどのキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンマルーンなどのペリレン系顔料;カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、アントラキノンレッド、ジケトピロロピロールなど、が挙げられる。
【0056】
下塗り塗料組成物の着色顔料(E1)の量は、顔料質量濃度(塗料に含まれる顔料の質量/(塗料に含まれるすべての顔料の質量と塗膜形成成分の固形分質量の和)、PWC)として0.01〜30%であるのが好ましく、0.05〜20%であるのがより好ましい。
【0057】
光輝性顔料(F1)
下塗り塗料組成物中に含まれる光輝性顔料(F1)は、光を反射する顔料であり、得られる複層塗膜に金属調外観を与える成分である。光輝性顔料(F1)として、例えば、平均粒子径(D50)が2〜50μmであり、かつ厚さが0.1〜5μmである鱗片状顔料が挙げられる。また、平均粒径が10〜35μmの範囲のものが、光輝感に優れており、さらに好適に用いられる。
【0058】
光輝性顔料(F1)の具体例として、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムおよびこれらの合金などの金属製光輝性顔料、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。これらの光輝性顔料は無着色のものであってよく、また着色されたものであってもよい。これらの光輝性顔料はまた、無機酸化物コーティングされたものであってもよく、樹脂コーティングされたものであってもよい。光輝性顔料(F1)として、アルミニウム顔料が好ましく用いられる。
【0059】
なお本明細書中において、平均粒子径は、体積平均粒子径D50を意味する。体積平均粒子径D50は、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて測定することができる。
【0060】
金属調光沢を有する塗膜を設ける場合における、下塗り塗料組成物の光輝性顔料(F1)の含有量は、明度、彩度および光線透過率の観点から、光輝顔料質量濃度(PWC)として一般に23.0%以下であるのが好ましく、0.01〜20%であるのが好ましい。
【0061】
下塗り塗料組成物中に含まれる着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)の総量は、顔料質量濃度(PWC)として3〜30%であるのが好ましい。上記顔料質量濃度が3%以上であることによって、塗膜の良好な隠ぺい性を確保することができる。また上記顔料質量濃度が30%以下であることによって、塗膜の良好な密着性を確保することができる。
【0062】
その他の成分
上記下塗り塗料組成物は、必要に応じて硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒として、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテートなどの有機スズ化合物硬化触媒などが挙げられる。硬化触媒を含む場合の含有量は、下塗り塗料組成物中の樹脂固形分に対して0.005〜0.05質量%であるのが好ましい。
【0063】
上記下塗り塗料組成物は、必要に応じて、各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤としては、例えば、有機溶剤、タレ止め・沈降防止剤、硬化触媒(有機金属触媒)、色分れ防止剤、分散剤、消泡・ワキ防止剤、粘性調整剤(増粘剤)、レベリング剤、ツヤ消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、造膜助剤などを挙げることができる。タレ止め・沈降防止剤としては、例えば「ディスパロン6900−10X」(商品名、脂肪酸アマイド、楠本化成社製)などを好ましく用いることができる。レベリング剤としては、例えば「ミキレベリングMKコンク」(商品名、共栄社化学社製)などを好ましく用いることができる。
【0064】
上記下塗り塗料組成物は、必要に応じて、上記以外の塗膜形成性樹脂を含有することができる。その他の塗膜形成性樹脂としては、特に限定されるものではなく、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0065】
下塗り塗料組成物の調製
本発明における下塗り塗料組成物は、上記成分を混合し撹拌することによって調製することができる。塗料組成物の調製方法は、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ニーダーまたはロールなどを用いた混練混合手段、または、サンドグラインドミルまたはディスパーなどを用いた分散混合手段などの、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。
【0066】
下塗り塗料組成物の形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)のいずれであってもよい。有機溶剤としては、溶剤型塗料において通常用いられるものを含むことができる。このような溶剤として、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200(何れもエクソン化学社製)、トルエン、キシレン、メトキシブチルアセテート、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上塗り塗料組成物
本発明において用いられる上塗り塗料組成物は、アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)、イソシアネート化合物(D2)、着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)を含む。
【0068】
上塗り塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(A2)として、上記アクリル樹脂(A1)を好適に用いることができる。上塗り塗料組成物中に含まれるアクリル樹脂(A2)の量は、上塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して15〜50質量%であるのが好ましい。ここで、上塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分とは、アクリル樹脂(A2)、イソシアネート化合物(D2)、そして必要に応じたセルロース樹脂(B2)などの樹脂成分の固形分を意味する。アクリル樹脂(A2)の量が15質量%以上であることによって、良好な塗膜密着性および耐候性が得られる利点がある。アクリル樹脂(A2)の量が50質量%以下であることによって、良好な塗装作業性を確保することができる利点がある。
【0069】
上記アクリル樹脂(A2)の量について、上述したアクリル樹脂(A1)と同様に、アクリル樹脂(A2)を顔料分散ペーストの調製において用いる場合は、上述の「上塗り塗料組成物中に含まれるアクリル樹脂(A2)」は、顔料分散ペーストの調製において用いたアクリル樹脂(A2)の量も含むものとする。
【0070】
上塗り塗料組成物に含まれるセルロース樹脂(B2)として、上記セルロース樹脂(B1)を好適に用いることができる。上塗り塗料組成物に含まれるセルロース樹脂(B2)の量は、上塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して20〜40質量%であるのが好ましい。セルロース樹脂(B2)の量が20質量%以上であることによって、光輝性顔料(F2)の配向性を向上させ、優れた金属調光沢を有する塗膜を形成することができる。セルロース樹脂(B2)の量が40質量%以下であることによって、良好な塗装作業性を確保することができる利点がある。上塗り塗料組成物に含まれるセルロース樹脂(B2)の量は、上塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して25〜40質量%であるのがより好ましい。
【0071】
上塗り塗料組成物に含まれるイソシアネート化合物(D2)として、上記イソシアネート化合物(D1)を好適に用いることができる。上塗り塗料組成物に含まれるイソシアネート化合物(D2)の量は、上塗り塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して20〜40質量%であるのが好ましい。イソシアネート化合物(D2)の量が20質量%以上であることによって、良好な物性を有する塗膜形成に必要とされる十分な架橋性を確保することができる利点がある。イソシアネート化合物(D2)の量が40質量%以下であることによって、塗膜の良好な耐水性を確保することができる利点がある。
【0072】
上塗り塗料組成物に含まれる着色顔料(E2)として、上記着色顔料(E1)を好適に用いることができる。上塗り塗料組成物中に含まれる着色顔料(E2)の含有量は、顔料質量濃度(PWC)として0.01〜30%であるが好ましく、0.05〜20%であるのがより好ましい。
【0073】
上塗り塗料組成物に含まれる光輝性顔料(F2)として、上記光輝性顔料(F1)を好適に用いることができる。上塗り塗料組成物中に含まれる光輝性顔料(F2)の含有量は、明度、彩度および光線透過率の観点から、光輝顔料質量濃度(PWC)として一般に23.0%以下であるのが好ましく、0.01〜20%であるのが好ましい。
【0074】
上塗り塗料組成物中に含まれる着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)の総量は、顔料質量濃度(PWC)として3〜30%であるのが好ましい。上記顔料質量濃度が3%以上であることによって、塗膜の良好な隠ぺい性を確保することができる。また上記顔料質量濃度が30%以下であることによって、塗膜の良好な密着性を確保することができる。
【0075】
本発明における上塗り塗料組成物は、上記下塗り塗料組成物と同様の方法によって調製することができる。本発明における上塗り塗料組成物は、上記下塗り塗料組成物と同様にその他の成分を含んでもよい。また、上塗り塗料組成物の形態は、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)のいずれであってもよい。
【0076】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、下記工程を包含する:
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、未乾燥の下塗り塗膜を形成する、下塗り塗膜形成工程、
得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の上塗り塗膜を形成する、上塗り塗膜形成工程、および
得られた未乾燥の下塗り塗膜および未乾燥の上塗り塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程。
【0077】
上記下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター、静電塗装などの一般に用いられている塗装方法などを挙げることができる。この中でも、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーターが好ましい。これらは被塗物の用途および形状に応じて適宜選択することができる。
【0078】
上記下塗り塗料組成物により形成される下塗り塗膜の乾燥膜厚は、10〜40μmであるのが好ましい。乾燥膜厚が10μm未満である場合は、耐摩耗性、隠ぺい性が劣るおそれがある。乾燥膜厚が40μmを超えると、塗装時において、ワキ、タレ、混層等の不具合が生じるおそれがある。乾燥膜厚は15〜30μmであるのがより好ましい。
【0079】
上記上塗り塗料組成物により形成される上塗り塗膜の乾燥膜厚は、10〜30μmであるのが好ましい。乾燥膜厚が10μm未満である場合は、隠ぺい性が劣るおそれがある。乾燥膜厚が30μmを超えると、塗装時において、ワキ、タレ、混層等の不具合が生じるおそれがある。乾燥膜厚は10〜20μmであるのがより好ましい。
【0080】
上記下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物の塗装後における乾燥温度は、60〜160℃であるのが好ましい。乾燥温度が60℃未満であると、十分な架橋が得られないおそれがある。また乾燥温度が160℃を超えると、塗膜が脆くなるおそれがある。上記下限は70℃であるのがより好ましく、上記上限は120℃であるのがより好ましい。乾燥時間は、例えば5〜60分の範囲において、乾燥温度に依存して適宜選択することができる。例えば乾燥温度が70℃〜120℃である場合は、20〜30分(被塗物温度測定)であるのが好ましい。
【0081】
本発明の方法においては、下塗り塗料組成物を塗装した後、得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装する方法である。一方で、本発明の方法において、必要に応じて、下塗り塗料組成物を塗装した後、下塗り塗膜を乾燥させ、次いで上塗り塗料組成物を塗装してもよい。
【0082】
本発明の方法においては、上記下塗り塗膜の明度L1と、上記上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lが9.0以下であることを条件とする。本明細書において、明度L1およびL2は、JIS Z8729に準拠した明度を意味する。本明細書における明度は、被測定物の色を表すのに用いられる指標である「L*a*b*表色系」(CIE 1976)において、「L*値」として規定される明度である。明度(L*値)は、上述の通り、その数値が増加するに従って被測定物質の白色度が増すことを意味し、その数値が低下するに従って被測定物質の黒色度が増すことを意味する。
【0083】
なお、L*a*b*表色系(CIE 1976)において、a*値およびb*値は、クロマティクネス指数と呼ばれ、色度を示す指標である。
a*値は、0を基準とし、数値がマイナス(−)になる場合、被測定物質の緑色度が増すことを意味し、数値がプラス(+)になる場合、被測定物質の赤色度が増すことを意味する。
b*値は、0を基準とし、数値がマイナス(−)になる場合、被測定物質の青色度が増すことを意味し、数値がプラス(+)になる場合、被測定物質の黄色度が増すことを意味する。
a*値およびb*値がともに0の場合は、無彩色を意味する。
【0084】
明度(L*値)は、例えば、色彩色差計CR−400(ミノルタ社製、拡散照明垂直受光方式色差計)を用いて測定することができる。
【0085】
本明細書において、下塗り塗膜の明度L1は、下記方法で調製する下塗り塗膜を用いて行われる。必要に応じて脱脂処理などを行った樹脂板に、下塗り塗料組成物を、乾燥膜厚が15〜20μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間加熱乾燥させて、下塗り塗膜を作成する。本明細書において、下塗り塗膜の明度L1の測定において用いられる下塗り塗膜とは、上述のように、下塗り塗膜を有する塗装板を意味し、下塗り塗膜の上には別の塗膜が存在しない状態を意味する。
【0086】
上塗り塗膜の明度L2は、下記方法で調製する上塗り塗膜を用いて行われる。必要に応じて脱脂処理などを行った樹脂板に、下塗り塗料組成物を乾燥膜厚が15〜20μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間加熱乾燥させて、単独下塗り塗膜を作成する。次いで、上塗り塗料組成物を、乾燥膜厚が10〜15μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間加熱乾燥させて、上塗り塗膜を作成する。本明細書において、上塗り塗膜の明度L2の測定において用いられる上塗り塗膜とは、上述のように、下塗り塗膜および上塗り塗膜を有する塗装板を意味し、上塗り塗膜の上には別の塗膜が存在しない状態を意味する。
【0087】
本発明の方法において、上記下塗り塗膜の明度L1と、上記上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lが9.0以下であることによって、複層塗膜が呈する質感を損なうことなく、塗膜全体としての耐摩耗性を向上させることができる。上記明度差△Lは8.8以下であるのがより好ましい。なお本発明において、明度差△Lの調整は、下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物において用いられる着色顔料および光輝性顔料の種類および量を調節することによって行うことができる。
【0088】
本発明の方法においてはさらに、下塗り塗膜のa*値と、上塗り塗膜のa*値との差である△aが1以下であり、下塗り塗膜のb*値と、上塗り塗膜のb*値との差である△bが1以下であるのが好ましい。これらの条件を満たす場合は、下塗り塗膜の色相と上塗り塗膜の色相とが一致または類似する状態である。これにより、下塗り塗料組成物を塗装した後、加熱乾燥させることなく、上塗り塗料組成物を塗装する際に、これらの塗料組成物を例えば同一の塗装ブース内であって塗装器具が極めて近い条件で塗装した場合であっても、上塗り塗膜中に混入した、下塗り塗料組成物のダストに由来する色ムラが視認されないといった利点がある。これにより、塗装設備投資を削減することができ、また塗装工程をより短縮することもできる利点がある。
【0089】
下塗り塗膜および上塗り塗膜のa*値およびb*値の測定は、それぞれ、上記明度L1およびL2の測定に用いた下塗り塗膜および上塗り塗膜が用いられる。
【0090】
本発明の方法によって形成される複層塗膜は、この複層塗膜自体が優れた耐摩耗性を有するため、この複層塗膜の上にクリヤー塗膜を設ける必要がないという利点がある。従来の複層塗膜形成方法においては、光輝性顔料を含むメタリック塗料組成物を塗装し、次いで、ウェットオンウェットでクリヤー塗料組成物を塗装する方法が一般的であった。しかしながらこのような塗装方法においては、未硬化のメタリック塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗装するため、クリヤー塗料組成物の塗装時において、未硬化のメタリック塗膜中に含まれる光輝性顔料の配向性が乱されてしまう。これに対して本発明においては、メタリック塗膜上にクリヤー塗膜を設ける必要がないため、上記のような光輝性顔料の配置の乱れを回避することができる。
【0091】
本発明の方法によって形成される複層塗膜はさらに、この複層塗膜の上にクリヤー塗膜を設ける必要がないことから、むき出しの金属そのものといった質感を有する塗膜を、塗装によって、被塗物上に設けることができるという特徴がある。このように本発明の方法によって、独特な意匠を有する塗膜を塗装により形成することができる。
【0092】
本発明の方法においては、例えば光輝性顔料を含む2種類の塗膜からなる複層塗膜の形成において、下方側の塗膜にのみポリオール樹脂を含め、そして上方側の塗膜にはポリオール樹脂を含めないことによって、得られる複層塗膜において、耐摩耗性を確保しつつ、良好な金属調光沢を有する塗膜を形成することが可能となったことを特徴の1つとする。本発明の方法によって、優れた耐摩耗性を有する、金属調光沢を有する独特の意匠である複層塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0093】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0094】
製造例1 アクリル樹脂1の製造
窒素同入管、攪拌機、温度調節機、滴下ロートおよびデカンターを備えた冷却管を取り付け1Lの反応容器にキシレン41部、酢酸ブチル21部を仕込み、温度を120℃にした。次に、アクリルモノマーとして、メタクリル酸メチル27.0部、メタクリル酸1.0部、メタクリル酸ブチル41.0部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7.0部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2部を滴下ロートに仕込みモノマー溶液とした。反応容器内を120℃に保持しながら3時間かけてこのモノマー溶液を滴下した。滴下後さらに1時間120℃で保持した。得られたアクリル樹脂1は数平均分子量8400、固形分水酸基価40mgKOH/g、 固形分酸価6.4mgKOH/g、固形分濃度は55%であった。
【0095】
製造例2 アクリル樹脂2の製造
モノマーを、スチレン20.0部、2−エチルヘキシルアクリレート13.0部、2−エチルヘキシルメタクリレート26.0部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート39.0部、メタクリル酸1.0部にした以外は製造例1と同様に作成した。得られたアクリル樹脂2は数平均分子量2520、固形分水酸基価170mgKOH/g、固形分酸価7.4mgKOH/g、固形分濃度は70%であった。
【0096】
製造例3 下塗り塗装組成物1の製造
ステンレス容器に製造例1のアクリル樹脂1を16部、CAB−531−1(イーストマンケミカルジャパン株式会社製、セルロースアセテートブチレート、粘度=1.0秒、ブチリル基含有量=50%)10部、メチルエチルケトン35部、酢酸ブチル5部、アルミペーストF.Z−7610(東洋アルミニウム社製、有効成分55%)8部、FW−200分散ペースト(予め、製造例1のアクリル樹脂1 49部に、トルエン24部、酢酸ブチル24部、COLOR BLACK FW200(オリオンエンジニアドカーボン社製黒顔料)3部を粒度5μm以下となるように顔料分散したペースト)14部、デュラノールT5651(旭化成ケミカルズ社製ポリカーボネートジオール、数平均分子量1000、水酸基価110mgKOH/g、有効成分96%以上)11部、TVS#Tin Lau(日東化成社製、硬化触媒、ジブチル錫ジラウレート)0.02部、ディスパロン6900−10X(楠本化成社製、タレ止め・沈降防止剤、脂肪酸アマイド、有効成分10%)4部、ディスパロン4200−10(楠本化成社製、タレ止め・沈降防止剤、酸化ポリエチレン、有効成分10%)4部、トルエン29部を秤量し、卓上攪拌機で撹拌し、その後、イソシアネート樹脂デュラネート24A−100(旭化成ケミカルズ社製、HDIビウレット型、有効成分100%)18部を加えて撹拌を行い、ガンメタ系の溶剤型メタリックベース下塗り塗料組成物1を得た。
【0097】
製造例4〜10 下塗り塗装組成物2〜8の製造
各成分の量を、下記表に示す量に変更したこと以外は、製造例3と同様にして、下塗り塗料組成物2〜8を製造した。
なお、下記表に示されるCAB−381−2はセルロース樹脂(イーストマンケミカルジャパン株式会社製、セルロースアセテートブチレート、粘度=2.0秒、ブチリル基含有量=38%)であり、ポリオール樹脂2はデュラノールT−5650J(旭化成ケミカルズ社製ポリカーボネートジオール、数平均分子量800、水酸基価140mgKOH/g、有効成分96%以上)である。
【0098】
製造例11〜17 上塗り塗料組成物1〜7の製造
各成分量を、下記表に示す量に変更したこと以外は、製造例3と同様にして、上塗り塗料組成物1〜7を製造した。
【0099】
実施例1 複層塗膜の形成
ABS板の表面を、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂した。その表面に、製造例3で得られた下塗り塗料組成物1を15μmあるいは30μmの乾燥膜厚になるようにエアースプレーを用いて塗装して未乾燥の下塗り塗膜を形成した。続けて室温3分のインターバルを置いて、下塗り塗膜が未乾燥の状態で、製造例11で得られた上塗り塗料組成物1を、10μmあるいは20μmの乾燥膜厚になるようにエアースプレーを用いてウェットオンウェット塗装をして未乾燥の上塗り塗膜を形成した。10分間室温で放置した後、70℃で30分間乾燥させて(強制乾燥)、所定の乾燥膜厚の複層塗膜を得た。乾燥塗膜は25μm(下塗り塗膜15μm、上塗り塗膜10μm)および50μm(下塗り塗膜30μm、上塗り塗膜20μm)の2種類を得た。
【0100】
実施例2
室温で3分インターバルを置いた後、得られた未乾燥の下塗り塗膜を70℃で30分間乾燥(強制乾燥)させた後に、上塗り塗料組成物1を塗装したこと以外は、実施例1と同様にして塗装を行い、複層塗膜を得た。
【0101】
実施例3〜6
下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物の種類を、表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複層膜を得た。
【0102】
比較例1
下塗り塗料組成物を塗装しないこと以外は、実施例1と同様にして塗膜を得た。
【0103】
比較例2
上塗り塗料組成物を塗装しないこと以外は、実施例1と同様にして塗膜を得た。
【0104】
比較例3〜8
下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物の種類を表6に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして複層膜を得た。
【0105】
上記実施例および比較例において、下塗り塗膜の明度L1と上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lの測定は、以下の通り行った。
下塗り塗膜の明度L1は、下記方法で調製する下塗り塗膜を用いて行われる。必要に応じて脱脂処理などを行った樹脂板に、下塗り塗料組成物を、乾燥膜厚が15〜20μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間加熱乾燥させて、明度L1測定用の下塗り塗膜を得た。得られた塗膜の明度L1を測定した。
次いで、得られた下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、乾燥膜厚が10〜15μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間加熱乾燥させて、明度L2測定用の上塗り塗膜を得た。得られた塗膜の明度L2を測定した。
上記明度L1およびL2の測定は、色彩色差計CR−400(ミノルタ社製、拡散照明垂直受光方式色差計)を用いて測定した。
【0106】
上記実施例および比較例によって得られた複層塗膜(25μm、50μm)について、下記評価を行った。評価結果を表5および表6に示す。
【0107】
光輝感
金属調メタリック塗膜を、ハイライト部で見た場合の光輝感を目視で評価した。
結果は下記の判断基準で示す。B以上の光輝感で良好な金属調外観を有する。

A:光輝性顔料の粒子間が抑えられ、緻密性のある光輝感が顕著にあり
B:光輝性顔料の粒子間が抑えられ、緻密性のある光輝感が少しあり
C:光輝性顔料の粒子間が目立ち、緻密性のある光輝感なし
【0108】
金属光沢質感
得られたメタリック塗膜を、ハイライト部で見た場合の金属光沢質感を目視で評価した。

○:アルミ箔のように金属が表面に出ているような光沢質感を有する
×:金属光沢質感がない
【0109】
耐摩耗性
JIS K 5600−5−8の基準に従い、500g荷重、摩耗輪はCS−10を用いて、素地露出までの回転数を評価した。耐摩耗性基準として、素地露出まで2500回転以上とした。
【0110】
ダストなじみ性
上塗り塗装後の下塗りのダストによる色ムラの状態を下記基準に基づき、目視評価した。

A:異常なし
B:色ムラがわずかに認められる
C:色ムラが顕著に認められる
【0111】
促進耐候性
JIS B 7753記載のサンシャインカーボンアーク灯式に従い、促進耐候性を実施した。試験時間1500時間後の塗膜の光沢値を、試験前の光沢値に対する変化率(光沢保持率)で評価した。60°光沢値の光沢保持率80%以上が合格である。
【0112】
耐水性
JIS K 5600−6−2の基準に従い、40℃×120時間水に浸漬させた後、下記基準に基づき、目視評価した。

A:全く異常なし
B:色、光沢の変化がある
C:ブリスター、はがれ、ワレが見られる
【0113】
二次密着性
耐水性を評価した塗板を基材に達するようにカッターナイフで直交する縦横11本ずつの平行線を1mm幅で引いて100個のます目ができるようにカットし、セロハン粘着テープを貼り、密着させそれを剥がした。
1つのます目において50%以上剥がれたものの数をXとし、下記式
(100−X)/100
により求めた。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
上記表3および4中の各成分の詳細は以下の通りである。
アクリディックA−859B:アクリル樹脂、固形分濃度75質量%、固形分水酸基価130mgKOH/g、数平均分子量2,100、DIC社製
BYK161:アミン系分散剤、ビックケミー・ジャパン社製
BYK110:分散剤、ビックケミー・ジャパン社製
カーボンブラック:MA−100(三菱化学社製)
ソルベッソ100:高沸点芳香族溶剤、エクソンモービル社製
ポリエステル樹脂1:下記手順により調製したポリエステル樹脂
エポキシ樹脂:エピコート#872(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形分濃度75質量%、エポキシ当量650g/eq、三菱化学社製)
BYK392:アクリル系表面調整剤、ビックケミー・ジャパン社製
BYK354:アクリル系表面調整剤、ビックケミー・ジャパン社製
イソシアネート:イソシアヌレート型イソシアネート樹脂、コロネートHXLV(固形分濃度100質量%、日本ポリウレタン社製、HDIのイソシアヌレート体(3量体)のキシレン溶液(固形分濃度75%)
【0119】
ポリエステル樹脂1の製造
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた2Lの反応容器に、イソフタル酸15.6部、ヘキサヒドロ無水フタル酸21.8部、ネオペンチルグリコール15.2部、トリメチロールプロパン18.0部、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル6.1部、カージュラーE(シェル社製 バーサティック酸グリシジルエステル)7.9部、ε−カプロラクトン15.4部を仕込み、昇温した。反応により生成する水をキシレンと共沸させて除去した。還流開始より約2時間をかけて温度を190℃にし、カルボン酸相当の酸価が8になるまで撹拌と脱水を継続し、反応を終了した。さらにキシレン16部を加えた。得られたポリエステル樹脂1は数平均分子量1,500(GPC測定によるポリスチレン換算値)、固形分水酸基価230mgKOH/g、固形分酸価8mgKOH/g、固形分濃度は80%であった。
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
*比較例4:上塗りがクリヤーであるため、下塗りの明度値がそのまま明度差△Lとなる。
【0122】
実施例1〜6に示されるように、本発明の方法によって調製した複層塗膜(金属調メタリック塗色)は、いずれも、良好な光輝感および金属光沢質感を有していることが確認された。そしてこれらの複層塗膜はさらに、良好な耐摩耗性、そして促進耐候性、耐水性、および耐水性試験後の二次密着に優れることが確認された。
【0123】
比較例1は、下塗り塗膜を設けない例である。この例によって得られた塗膜は、耐摩耗性が低下した。
比較例2は、上塗り塗膜を設けない例である。この例によって得られた塗膜は、光輝感および金属光沢質感を有しておらず、また、促進耐候性も低下した。
比較例3は、明度差(△L)が15.0である例である。この場合は、ダストなじみ性が低下した。
比較例4は、上塗り塗料組成物として透明クリヤー塗料組成物を用いた例である。この場合は、金属光沢質感およびダストなじみ性が低下した。
比較例5は、上塗り塗料組成物中に光輝性顔料が含まれる一方でセルロース樹脂が含まれない例である。この例によって得られた複層塗膜は、光輝感および金属光沢質感を有しないことが確認された。
比較例6は下塗り塗料組成物中にポリオール樹脂を配合していない例である。この場合は、耐摩耗性が低下することが確認された。
比較例7は特許第5324715号記載の下塗り塗料組成物1の顔料を、光輝性顔料であるアルミニウム顔料へ置き換え、特許第5324715号記載の上塗り塗料組成物1の顔料を、光輝性顔料であるアルミニウム顔料へ置き換えた例である(「下塗り8」および「上塗り6」を使用)。この例によって得られた複層塗膜は、光輝感および金属光沢質感を有しておらず、また、耐摩耗性も劣ることが確認された。
比較例8は特許第5324715号記載の下塗り塗料組成物1の顔料を、光輝性顔料であるアルミニウム顔料へ置き換え、特許第5324715号記載の上塗り塗料組成物1の顔料を、光輝性顔料であるアルミニウム顔料へ置き換え、さらにセルロース樹脂を配合した例である(「下塗り8」および「上塗り7」を使用)。この例によって得られた複層塗膜は、光輝感および金属光沢質感を有しておらず、また、耐摩耗性も劣ることが確認された。
上記比較例7および8で参照した、特許第5324715号記載の塗料組成物の樹脂組成は、本発明における塗料組成物の樹脂組成とは異なる。このため、アルミニウム顔料の良好な配向性を得ることができず、光輝感および金属光沢質感が得られなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の方法によって形成される複層塗膜は、この複層塗膜自体が耐摩耗性に優れているという特徴を有する。そのため、複層塗膜の上にクリヤー塗膜を設ける必要がなく、独特の意匠(金属調光沢を有する金属調塗膜)を提供することができる。本発明の方法はさらに、上記複層塗膜を、ウェットオンウェット塗装により形成することができる利点も有する。
【要約】
【課題】 独特な意匠を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】 被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、未乾燥の下塗り塗膜を形成する、下塗り塗膜形成工程;得られた未乾燥の下塗り塗膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の上塗り塗膜を形成する、上塗り塗膜形成工程、および;得られた未乾燥の下塗り塗膜および未乾燥の上塗り塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程;を包含する、塗膜形成方法であって、下塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A1)、セルロース樹脂(B1)、ポリオール樹脂(C1)、イソシアネート化合物(D1)、着色顔料(E1)および光輝性顔料(F1)を含み、上塗り塗料組成物が、アクリル樹脂(A2)、セルロース樹脂(B2)、イソシアネート化合物(D2)、着色顔料(E2)および光輝性顔料(F2)を含み、下塗り塗膜の明度L1と上塗り塗膜の明度L2との明度差△Lが9.0以下である、複層塗膜形成方法。
【選択図】 なし