(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6250412
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】多孔質セラミック音響材の製造方法及び音響構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20171211BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20171211BHJP
E04B 1/99 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/162
E04B1/99 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-10387(P2014-10387)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-138183(P2015-138183A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】592233082
【氏名又は名称】玉川窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】中島 竹壽
(72)【発明者】
【氏名】中島 且貴
【審査官】
菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−070203(JP,U)
【文献】
特開平09−016179(JP,A)
【文献】
特開2000−290083(JP,A)
【文献】
特開平08−302962(JP,A)
【文献】
特開昭60−042430(JP,A)
【文献】
実開平01−134107(JP,U)
【文献】
特開2002−193684(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0193234(US,A1)
【文献】
特開2002−062879(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01180763(EP,A2)
【文献】
特開2000−325733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
E04B 1/62− 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発泡剤である炭化珪素を含む顆粒状のタイル原料を未加圧状態で成形型内に充填する充填工程と、
前記成形型内の未加圧状態の前記タイル原料を1150℃以上の温度で焼成する焼成工程と、
入射音を拡散反射するために、拡散反射の対象とする音の周波数の波長の繰り返しを持つ凹凸で、2倍正規化標準偏差曲線において、2倍正規化標準偏差曲線が約0となる高さを有する拡散凹凸部を形成する形成工程と、
を有することを特徴とする多孔質セラミック音響材の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程では、前記タイル原料を1200℃〜1270℃の温度で焼成することを特徴とする請求項1に記載の多孔質セラミック音響材の製造方法。
【請求項3】
前記タイル原料における炭化珪素の含有量は、0.1質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質セラミック音響材の製造方法。
【請求項4】
前記タイル原料の平均粒子径は、0.5〜1mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質セラミック音響材の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質セラミック音響材の気孔率は、30%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質セラミック音響材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質セラミック音響材の製造方法により製造された多孔質セラミック音響材からなる音響部と、
該音響部の裏側に配設された壁体とを備えていることを特徴とする音響構造体。
【請求項7】
前記音響部と前記壁体との間に所定のクリアランスを設けて形成された空気層をさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載の音響構造体。
【請求項8】
前記音響部と前記壁体との間の前記クリアランスは、50mm以上であることを特徴とする請求項7に記載の音響構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音対策や室内音響制御に用いられる多孔質セラミック音響材の製造方法及び音響構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音対策として不要な反射音を制御するために、グラスウール等の鉱物繊維系の吸音材が用いられていた。ところが、このような吸音材は、含水すると吸音性能が著しく低下したり、継時的に変形したりする等、耐湿性や耐候性に問題があった。そこで、最近では、耐湿性や耐候性に優れた多孔質のセラミック吸音材が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−193684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、室内音響制御にも吸音材が用いられている。例えば、室内においては、対向する壁面で音が繰り返して反射することがあり、これは音響障害として知覚される。また、オーディオ空間等での直接音と反射音の干渉や壁面からの反射音も音響障害となり得る。このような音響障害の防止には、グラスウール等の鉱物繊維系の吸音材が用いられることが多い。
【0005】
ところが、吸音材は吸音が主目的であるため、これを多用すると室内全体の音響エネルギーが減少し、音に響きや艶がなくなる。また、ホームシアター等の空間では、臨場感が損なわれると共に立体音響効果が不自然となる要因となり得る。これは多孔質のセラミック吸音材を用いても同じである。したがって、適度に吸音して音響エネルギーをある程度維持しながら音響障害を防止できる材料が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、吸音及び拡散を同時に実現可能な音響特性を有し、かつ、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材の製造方法及び音響構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様である多孔質セラミック音響材の製造方法は、少なくとも発泡剤である炭化珪素を含む顆粒状のタイル原料を未加圧状態で成形型内に充填する充填工程と、前記成形型内の未加圧状態の前記タイル原料を1150℃以上の温度で焼成する焼成工程と
、入射音を拡散反射するために、拡散反射の対象とする音の周波数の波長の繰り返しを持つ凹凸で、2倍正規化標準偏差曲線(DNSD:Doubly Normalized Standard Deviation)において、2倍正規化標準偏差曲線が約0となる高さを有する拡散凹凸部を形成する形成工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
前記の多孔質セラミック音響材の製造方法において、前記焼成工程では、成形型内に未加圧状態(加圧していない状態)で充填したタイル原料を1150℃以上の温度で焼成する。そのため、タイル原料が溶融して軟化した状態のときに、タイル原料が発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張する。そして、焼成中にタイル原料の粒子表面同士が適度に接触・接合し、粒子間等に多くの空隙(気孔)が形成される。これにより、十分な吸音率を有する多孔質セラミック音響材が得られる。
【0009】
また、成形型内に充填したタイル原料を焼成することから、成形型によってタイル原料の発泡・膨張を適度に抑え、強度を十分に確保しながら、所望の形状の多孔質セラミック音響材が得られる。これにより、成形型の形状を変えるだけで、拡散効果を期待する周波数に合わせた拡散形状を有する、形状自由度の高い多孔質セラミック音響材が容易に得られる。また、原料としてタイル原料を用いているため、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材が得られる。
【0010】
よって、本発明の製造方法により得られる多孔質セラミック音響材は、吸音及び拡散を同時に実現することが可能となる。特に、吸音効果によって音響エネルギーを減少させながら、拡散効果によって入射音を拡散反射させることができるため、騒音対策だけでなく、それ以上に室内音響制御として有効に活用することができる。つまり、空間の音響エネルギーをある程度維持しながら、反射音を散乱させて音響障害を防止できるため、自然な響きの空間を作り出すことが可能となる。また、このような効果に加えて、耐湿性、耐候性にも優れているため、屋外への設置を含め、利用価値の高いものとなる。
【0011】
本発明の第2の態様である音響構造体は、前記の多孔質セラミック音響材の製造方法により製造された多孔質セラミック音響材からなる音響部と、該音響部の裏側に配設された壁体とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の音響構造体は、多孔質セラミック音響材からなる音響部により、吸音及び拡散を同時に実現可能であり、かつ、耐湿性、耐候性に優れたものとなる。また、音響部を構成する多孔質セラミック音響材の気孔率、形状(拡散形状)等を調整すれば、吸音効果や拡散効果を容易に制御できる。
【0013】
このように、本発明によれば、吸音及び拡散を同時に実現可能な音響特性を有し、かつ、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材の製造方法及び音響構造体を提供することができる。
【0014】
ここで、前記の多孔質セラミック音響材の製造方法において、前記焼成工程では、前記タイル原料を1150℃以上の温度で焼成する。1150℃未満の温度で焼成した場合には、タイル原料が溶融して軟化した状態でタイミング良く、タイル原料を発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張させることが困難となる。よって、得られる多孔質セラミック音響材の吸音率が低下する。
【0015】
また、前記焼成工程では、前記タイル原料を1200℃〜1270℃の温度で焼成することが好ましい。この場合には、焼成工程において、タイル原料が溶融して軟化した状態でタイミング良く、タイル原料を発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張させることができる。これにより、十分な吸音率を有する多孔質セラミック音響材が確実に得られる。
【0016】
また、前記タイル原料における炭化珪素の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。この場合には、焼成工程において、タイル原料を発泡剤である炭化珪素によって良好に発泡・膨張させることができる。なお、炭化珪素の含有量は、得ようとする多孔質セラミック音響材の特性によって調整すればよく、例えば10質量%以下とすることができる。
【0017】
また、前記タイル原料の平均粒子径は、0.5〜1mmとしてもよい。この場合には、得られる多孔質セラミック音響材の気孔率を十分に高めることができる。すなわち、得られる多孔質セラミック音響材の吸音率を十分に高めることができる。気孔率(吸音率)をより十分に高めるためには、平均粒子径が0.7〜1mmであることが好ましい。なお、平均粒子径が0.5mm未満の場合には、得られる多孔質セラミック音響材の気孔率、さらには吸音率が低下するおそれがある。一方、1mmを超える場合には、顆粒状のタイル原料を精度良く製造することが困難となるおそれがある。
【0018】
また、前記タイル原料としては、例えば、粘土、長石、陶石、石灰石、滑石等を含有する一般的なタイル用の原料を用いることができる。また、タイル原料の一部として、窯業廃土(再生原料)が含有されていてもよい。また、タイル原料には、気孔率を高めるために造孔剤を添加してもよい。造孔剤としては、焼成時に焼失する有機物(例えばコーヒーかす)等を用いることができる。
【0019】
また、前記多孔質セラミック音響材の気孔率は、30%以上であることが好ましい。この場合には、多孔質セラミック音響材の吸音率を十分に確保することができる。また、気孔率を50%以上とすれば、吸音率をさらに高めることができる。なお、多孔質セラミック音響材の気孔率は、十分な強度を確保できる程度の気孔率以下とすればよく、例えば70%以下とすることができる。
【0020】
また、前記多孔質セラミック音響材の気孔率を調整することにより、吸音率を制御することができるため、同一の意匠で音響特性の異なる多孔質セラミック音響材が得られる。このような多孔質セラミック音響材をランダムに配置することにより、拡散形状で期待される周波数より広い範囲での拡散効果を意匠上の制約を受けずに実現可能である。
【0021】
また、前記多孔質セラミック音響材には、入射音を拡散反射するための拡散凹凸部が形成されていてもよい。この場合には、拡散凹凸部によって拡散効果が十分に得られる。なお、拡散凹凸部は、多孔質セラミック音響材のうち、音が入射する部分に形成すればよい。また、拡散効果が得られる形状(拡散形状)は、拡散凹凸部に限られず、種々様々な形状を採用することができる。また、拡散効果を期待する周波数に合わせた形状を持たせることにより、低音から高音までの中庸で平坦な吸音特性を設計・実現することができる。
【0022】
また、拡散形状の設計には、対象とする周波数の波長程度の繰り返しを持つ凹凸で、DNSD(Doubly Normalized Standard Deviation)曲線において、DNSD≒0となる高さを選択する等の手法を用いることができる。そこまで厳密でなくとも、ある程度の幅と高さを持つ凸形状を採用すれば、比較的任意のデザインの拡散形状を設計することが可能である。また、騒音対策や室内音響制御において反射音(吸音されたエネルギーの残り)をある所定の方向へ反射させたい場合等は、鏡面反射角度を調整して設計すればよい。
【0023】
また、前記音響構造体は、前記音響部と前記壁体との間に所定のクリアランスを設けて形成された空気層をさらに備えていてもよい。この場合には、空気層(クリアランス)を調整することにより、特定の周波数(音域)での吸音率を制御できる。
【0024】
また、前記音響構造体において、前記音響部と前記壁体との間の前記クリアランスは、50mm以上であることが好ましい。この場合には、特に中低音域での吸音率を高めることができる。
【0025】
また、前記多孔質セラミック音響材及びそれを用いた前記音響構造体は、吸音及び拡散を同時に実現可能であり、デザインの自由性も持っているため、ホームシアター、オーディオルーム、楽器練習室等の小空間から、オーディトリアム、体育館、屋内プール等の大空間まで、室内音響内装を設計する上で大きなメリットとなる。また、耐湿性にも優れているため、屋内プール等の大空間での利用価値が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(a)〜(d)充填容器内にタイル原料を充填する工程を示す説明図である。
【
図2】(a)多孔質セラミック音響材を示す斜視図であり、(b)多孔質セラミック音響材を示す写真である。
【
図3】多孔質セラミック音響材のSEM写真であり、(a)が倍率50倍、(b)が倍率100倍である。
【
図5】音響構造体(サンプルE1〜E4、C1〜C4)の垂直入射吸音率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(実施形態1)
本実施形態では、本発明の多孔質セラミック音響材の製造方法について説明する。
【0028】
図1、
図2に示すように、多孔質セラミック音響材の製造方法は、少なくとも発泡剤である炭化珪素を含む顆粒状のタイル原料10を未加圧状態で成形型8内に充填する充填工程と、成形型8内の未加圧状態のタイル原料10を1150℃以上の温度で焼成する焼成工程とを有する。以下、これを詳説する。
【0029】
多孔質セラミック音響材1(
図2)を製造するに当たっては、その原料となるタイル原料を調合する。本実施形態で用いたタイル原料の成分及びその含有量は、窯業廃土(再生原料):約30質量%、粘土:約28質量%、長石:約36質量%、陶石:約6質量%、発泡剤(炭化珪素):0.1〜0.2質量%である。なお、窯業廃土の内訳は、朝日水簸粘土:約12質量%、信楽長石C級:約18質量%である。
【0030】
次いで、タイル原料を湿式粉砕(液体と共に粉砕混合)する。具体的には、タイル原料を水、玉石と共にボールミルへ投入し、玉石同士の衝撃によりタイル原料を粉砕する。そして、湿式粉砕後のスラリーを所定の水分となるように噴霧乾燥(スプレードライ)し、顆粒状のタイル原料を得る。なお、タイル原料の平均粒子径は、0.5〜1mm(本実施形態では0.7〜1mm)である。
【0031】
次いで、充填工程を行う。具体的には、
図1(a)に示すように、成形型8の一部である成形部81を準備する。成形部81は、最終的に得られる多孔質セラミック音響材1(
図2)が入射音を拡散反射するための拡散形状(後述する
図2に示す拡散凹凸部13)を有するように構成されている。本実施形態の成形部81は、断面略三角形状の3つの凹部811を有している。そして、
図1(b)に示すように、成形部81の開口部812から成形部81内に顆粒状のタイル原料10を擦り切れ一杯入れる。
【0032】
その後、
図1(c)に示すように、成形型8の一部である蓋部82を成形部81の開口部812に被せ、
図1(d)に示すように、成形部81が上側、蓋部82が下側となるように成形型8を裏返しにする。これにより、タイル原料10を未加圧状態(加圧しない状態)で成形型8(成形部81、蓋部82)内に充填する。なお、成形型8としては、セラミックの陶器を用いているが、セラミックの連鉢等を用いてもよい。
【0033】
次いで、焼成工程を行う。具体的には、未加圧状態のタイル原料10を充填した成形型8を焼成炉内に入れ、タイル原料10を1200〜1270℃の温度で焼成する。焼成工程では、タイル原料10が高温で加熱され、溶融して軟化した状態となる。このタイミングでタイル原料10が発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張する。これにより、焼成中にタイル原料10の粒子表面同士が適度に接触・接合し、粒子間に多くの空隙(気孔)が形成される。
【0034】
次いで、焼成体を冷却する。このとき、焼成体に体積の収縮が生じるため、焼成体と成形型8との間に隙間が形成され、焼成体を成形型8から取り外しやすくなる。その後、成形型8内から焼成体を取り出す。以上により、多孔質セラミック音響材(焼成体)1が得られる。
【0035】
図2(a)に示すように、多孔質セラミック音響材1は、略四角形板状の底部11と、底部11から上方に突出してなる断面略三角形状の3つの凸部12とを有している。多孔質セラミック音響材1の底部11の一方側(音を入射させようとする側)には、3つの凸部12が平行に所定の間隔を設けて並んで配置されていることにより、入射音を拡散反射するための拡散凹凸部13が形成されている。なお、
図2(b)は、実際の多孔質セラミック音響材を示した写真である。
【0036】
また、多孔質セラミック音響材1の気孔率は、30%以上である。本実施形態の多孔質セラミック音響材1のサンプル品2つについて気孔率を測定したところ、それぞれ51.9%、52.3%であり、平均値が52.1%であった。気孔率(見掛け気孔率)は、JIS R 2205に準拠して測定した。
【0037】
次に、本実施形態における作用効果について説明する。
本実施形態の多孔質セラミック音響材の製造方法において、焼成工程では、成形型8内に未加圧状態(加圧していない状態)で充填したタイル原料10を1150℃以上の温度で焼成する。そのため、タイル原料10が溶融して軟化した状態のときに、タイル原料10が発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張する。そして、焼成中にタイル原料10の粒子表面同士が適度に接触・接合し、粒子間等に多くの空隙(気孔)が形成される。これにより、十分な吸音率を有する多孔質セラミック音響材1が得られる。
【0038】
ここで、
図3に、多孔質セラミック音響材1のSEM写真を示す。倍率は、
図3(a)が50倍、
図3(b)が100倍である。
図3に示すSEM写真から、焼成中にタイル原料10の粒子表面同士が適度に接触・接合し、粒子間等に多くの空隙(気孔)が形成されたことがわかる。
【0039】
また、成形型8内に充填したタイル原料10を焼成することから、成形型8によってタイル原料10の発泡・膨張を適度に抑え、強度を十分に確保しながら、所望の形状の多孔質セラミック音響材1が得られる。これにより、成形型8の形状を変えるだけで、拡散効果を期待する周波数に合わせた拡散形状を有する、形状自由度の高い多孔質セラミック音響材1が容易に得られる。また、原料としてタイル原料10を用いているため、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材1が得られる。
【0040】
よって、本実施形態の製造方法により得られる多孔質セラミック音響材1は、吸音及び拡散を同時に実現することが可能となる。特に、吸音効果によって音響エネルギーを減少させながら、拡散効果によって入射音を拡散反射させることができるため、騒音対策だけでなく、それ以上に室内音響制御として有効に活用することができる。つまり、空間の音響エネルギーをある程度維持しながら、反射音を散乱させて音響障害を防止できるため、自然な響きの空間を作り出すことが可能となる。また、このような効果に加えて、耐湿性、耐候性にも優れているため、屋外への設置を含め、利用価値の高いものとなる。
【0041】
また、本実施形態において、焼成工程では、タイル原料10を1200℃〜1270℃の温度で焼成する。そのため、焼成工程において、タイル原料10が溶融して軟化した状態でタイミング良く、タイル原料10を発泡剤(炭化珪素)により発泡・膨張させることができる。これにより、十分な吸音率を有する多孔質セラミック音響材1が確実に得られる。
【0042】
また、タイル原料10における炭化珪素の含有量は、0.1質量%以上である。そのため、焼成工程において、タイル原料10を発泡剤である炭化珪素によって良好に発泡・膨張させることができる。
【0043】
また、タイル原料10の平均粒子径は、0.5〜1mmである。そのため、得られる多孔質セラミック音響材1の気孔率を十分に高めることができる。すなわち、得られる多孔質セラミック音響材1の吸音率を十分に高めることができる。なお、本実施形態では、気孔率(吸音率)をより十分に高めるために、タイル原料10の平均粒子径を0.7〜1mmとしている。
【0044】
また、多孔質セラミック音響材1の気孔率は、30%以上である。そのため、多孔質セラミック音響材1の吸音率を十分に確保することができる。なお、本実施形態では、多孔質セラミック音響材1の気孔率が50%以上であり、吸音率をさらに高めることができる。
【0045】
また、多孔質セラミック音響材1における音を入射させようとする側には、入射音を拡散反射するための拡散凹凸部13が形成されている。そのため、拡散凹凸部13によって拡散効果が十分に得られる。
【0046】
このように、本実施形態の多孔質セラミック音響材の製造方法によれば、吸音及び拡散を同時に実現可能な音響特性を有し、かつ、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材1が得られる。
【0047】
(実施形態2)
本実施形態では、本発明の音響構造体について説明する。
図4に示すように、音響構造体2は、多孔質セラミック音響材1からなる音響部21と、音響部21の裏側に配設された壁体22とを備えている。以下、これを詳説する。
【0048】
同図に示すように、音響構造体2において、音響部21の裏側(音を入射させようとする側とは反対側)には、壁体22が配設されている。すなわち、壁体22の表側には、所定のクリアランスCを形成して音響部21が配設されている。音響部21は、前述の実施形態1の製造方法により製造された多孔質セラミック音響材1により構成されている。具体的には、略四角形パネル状の多孔質セラミック音響材1を略同一平面上において縦横に敷き詰めて構成されている。
【0049】
多孔質セラミック音響材1は、拡散凹凸部13(凸部12)が音響部21の表側(音を入射させようとする側)となるように配置されている。また、多孔質セラミック音響材1の底部11は、壁体22との間に配設された支持体(図示略)により支持されている。音響部21と壁体22との間には、空気層23が形成されている。空気層23の厚み、すなわち音響部21と壁体22との間のクリアランスCは、50mm以上である。
【0050】
次に、本実施形態における作用効果について説明する。
本実施形態の音響構造体2は、多孔質セラミック音響材1からなる音響部21により、吸音及び拡散を同時に実現可能であり、かつ、耐湿性、耐候性に優れたものとなる。また、音響部21を構成する多孔質セラミック音響材1の気孔率、形状(拡散形状)等を調整すれば、吸音効果や拡散効果を容易に制御できる。
【0051】
また、本実施形態において、音響構造体2は、音響部21と壁体22との間に所定のクリアランスCを設けて形成された空気層23をさらに備えている。そのため、空気層23(クリアランスC)を調整することにより、特定の周波数(音域)での吸音率を制御できる。また、音響部21と壁体22との間のクリアランスC(空気層23の厚み)は、50mm以上である。そのため、特に中低音域での吸音率を高めることができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、吸音及び拡散を同時に実現可能な音響特性を有し、かつ、耐湿性、耐候性に優れた多孔質セラミック音響材1を用いて、音響特性の制御が可能であり、かつ、耐湿性、耐候性に優れた音響構造体2が得られる。
【0053】
なお、本実施形態では、
図4に示すように、音響構造体2の音響部21と壁体22との間に空気層23(クリアランスC)を設けたが、壁体22の表面に音響部21を貼りつけて空気層23(クリアランスC)を設けない構成とすることもできる。
【0054】
(実験例)
本実験例は、多孔質セラミック音響材及びそれを用いた音響構造体の音響特性を評価したものである。
【0055】
本実験例では、本発明の実施例として、実施形態1の製造方法により製造された拡散形状(拡散凹凸部)を有する多孔質セラミック音響材を用い、音響部と壁体との間の空気層の厚み(クリアランス)が異なる4つの音響構造体(サンプルE1〜E4)を準備した。サンプルE1〜E4のクリアランスは、それぞれ0mm、50mm、75mm、100mmである。音響構造体の構成は、実施形態2と同様である。
【0056】
また、比較例として、拡散形状(拡散凹凸部)を有していない平板状の多孔質セラミック音響材を用いた、音響部と壁体との間の空気層の厚み(クリアランス)が異なる4つの音響構造体(サンプルC1〜C4)を準備した。サンプルC1〜C4のクリアランスは、それぞれ0mm、50mm、75mm、100mmである。なお、多孔質セラミック音響材の製造方法は、成形型の形状が異なるだけで、基本的には実施形態1と同様である。また、音響構造体の構成は、実施形態2と同様である。
【0057】
音響特性の評価は、各サンプル(E1〜E4、C1〜C4)の音響構造体について、垂直入射吸音率を測定した。垂直入射吸音率の測定は、JIS A 1405に準拠して実施した。
【0058】
図5に垂直入射吸音率の測定結果を示す。同図に示すように、本発明の実施例であるサンプルE1〜E4は、中低音域(100〜500Hz)において空気層の厚み(クリアランス)が大きくなるにしたがって吸音率が高くなっている。また、500Hzをピークに高音域では、空気層の厚み(クリアランス)が大きくなっても吸音率はほぼ同じ又は少し低下する傾向が見られる。
【0059】
また、空気層の厚み(クリアランス)が同じという条件において、本発明の実施例であるサンプルE1〜E4と比較例であるサンプルC1〜C4とは、100Hzでは吸音率に差がないが、200Hz以上になるとサンプルE1〜E4の吸音率のほうが高くなり、その差も大きくなる。これは、サンプルE1〜E4の音響構造体の音響部を構成する多孔質セラミック音響材が拡散形状(拡散凹凸部)を有しているからであると考えられる。すなわち、多孔質セラミック音響材が適度に吸音しながら拡散形状によって入射音を拡散反射させていると考えられる。
【0060】
以上の結果から、本発明の多孔質セラミック音響材の製造方法により製造された多孔質セラミック音響材及びそれを用いた音響構造体は、吸音及び拡散を同時に実現可能であることがわかった。また、多孔質セラミック音響材の形状や音響構造体の構造(例えば空気層の厚み)を調整することにより、低音から高音まで優れた音響特性(吸音特性)が得られることがわかった。
【0061】
なお、本発明は、前述の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1…多孔質セラミック音響材
10…タイル原料
13…拡散凹凸部
2…音響構造体
21…音響部
22…壁体
23…空気層
8…成形型
C…クリアランス