【文献】
SU,Minglue et al.,Effect of inner-layer thermal conductivity on flux enhancement of dual-layer hollow fiber membranes in direct contact membrane distillation,Journal of Membrane Science,2010年,Vol.364,P.278-289
【文献】
M.Qtaishat,Preparation and characterization of novel hydrophobic/hydrophilic polyetherimide composite membranes,Journal of Membrane Science,2009年,Vol327,264-273
【文献】
M.Khayet,Design of novel direct contact membrane distillation membranes,Desalination,2006年,Vol.192,105-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膜蒸留の複合混合マトリックス親水性/疎水性膜を製造する方法であって、前記複合混合マトリックス親水性/疎水性膜は少なくとも親水性層及び疎水性層を有し、前記方法は、
(a)ポリスルホン及びポリエーテルスルホンからなる群から選択されるポリマーを、所定量の不溶性無機ナノ粒子、及び非溶媒添加物と共に溶媒中に分散させて、ポリマー―無機溶液を形成する工程と、
(b)フッ化表面変性高分子をポリマー―無機溶液に加えて、ポリマー―無機ナノ粒子―フッ化表面変性高分子ブレンドを形成する工程と、
(c)前記ポリマー―無機ナノ粒子―フッ化表面変性高分子ブレンドをキャストし、前記溶媒を所定の時間、室温で蒸発させて、キャストフィルムを形成する工程と、
(d)溶媒の蒸発を制御するカバーでキャストフィルムを覆って、無機ナノ粒子の底層での沈殿、及びフッ化表面変性高分子の空気/ポリマー界面への移動により多くの時間を許容する工程と、
(e)工程(c)で得られた前記キャストフィルムを水中に浸漬してゲル化する工程とを含み、
前記無機ナノ粒子が酸化銅、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミニウム、鉄、及び炭化ケイ素からなる群から選択される、方法。
【背景技術】
【0002】
以下の引用は、本明細書において更なる背景情報のために提供し、従ってこれらは引用により含まれる。
【0003】
Khayet,M.、膜及び膜蒸留の理論的モデリング:レビュー、Advances in Colloid and Interface Science、164、56〜88、2011。
【0004】
Khayet,M.、Matsuura,T.、膜蒸留:原理及び応用、Elsevier、アムステルダム(オランダ)2011。
【0005】
Qtaishat,M.R.、Khayet,M.,及びMatsuura,T.、膜蒸留のための複合膜、及び関連する製造方法。米国特許出願公開第2011/0031100号明細書。
【0006】
膜蒸留(MD)は、過去数十年にわたって研究者の注目を集めている新生の物理的分離技術である(Khayet、2011)。MDは、微多孔質膜が暖かい溶液を、液体又は気体のいずれかを含むより冷たいチャンバーから分離する物理的な支持体として作用する、熱駆動プロセスである。このプロセスは非等温であるため、蒸気分子は高い蒸気圧の膜側(すなわち暖かい膜側)から低い蒸気圧の膜側へと膜孔を通って移動する。これは、以下の異なる構成、すなわち直接接触膜蒸留(DCMD)、エアギャップ膜蒸留(AGMD)、スイープガス膜蒸留(SGMD)、及び真空膜蒸留(VMD)(Khayet、2011)により確立することができる。
【0007】
MD膜の重要な要件は、孔が濡れてはならず、蒸気だけが孔に存在するということである。この要件は、MDに用いることができる材料の選択を制限する。特に、MD膜は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の疎水性材料に限られている。これらの膜は、精密濾過、及び限外濾過の目的のために製造されたが、これらの疎水的な性質のため、MDの研究において使用されてきた(Khayet、2011)。
【0008】
MDは、他の分離プロセスと比較して、いくつかの利点を有する。これらの利点は、主に、不揮発性溶質の最高100%の排除、従来の蒸留より低い操作温度、従来の圧力駆動膜分離プロセス、例えば逆浸透(RO)より低い操作圧力、及び従来の蒸留プロセスと比較して減少した蒸気空間である。全てのこれらの利点にもかかわらず、MDプロセスは、未だ大規模プラントに商業化されていない。1つの理由は、比較的低いMD流束、及びMD膜の耐久性を減少させる膜の濡れである。認められるように、この短所はMD膜の不十分な設計から生じる。
【0009】
最近出版された書籍(Khayet、及びMatsuura、2011)において、高透過流束DCMD膜の要件が述べられた。DCMDのための疎水性/親水性複合膜は、米国特許出願第12/629,703号明細書(Qtaishat、Khayet、及びMatsuura、2011)においても述べられた。この出願において、このタイプの膜は、高透過流束DCMD膜の全ての要件を満たすことが明らかにされた(Qtaishat、Khayet、及びMatsuura、2011)。疎水性/親水性膜は、単一のキャスティング工程での相転換法によって調製される。親水性のベースポリマーは、疎水性表面変性高分子(SMM)とブレンドされる。キャスティング工程の間、SMMはより低い表面エネルギーを有するため、SMMは空気/ポリマー界面に移動する(Qtaishat、Khayet、及びMatsuura、2011)。従って、膜上層が疎水性になり、一方底層は親水性に保たれる。DCMDに用いるための高い透過流束、及び耐久性のある膜に対する必要性が残っている。
【0010】
この背景情報は、開示される教示のより良い理解のために提供する。上記に開示したいかなる情報も、本発明に対する先行技術を構成することを承認したものとして解釈されない。
【発明を実施するための形態】
【0039】
別途定義しない限り、本明細書において用いる全ての専門的、及び科学的用語は、本発明に属する当業者によって一般に理解されるものと同様の意味を有する。
【0040】
本明細書、及び特許請求の範囲において用いるように、別途文脈がはっきり記述しない限り、単数形の形(原文中「a」、「an」、及び「the」)は複数形の引用を含む。本明細書で用いる用語「含む」(原文中「comprising」)は、続くリストが包括的でなく、並びに任意の他の更なる適切な項目、例えば一つ以上の更なる特徴、構成要素、及び/又は成分を必要に応じて含んでもよく、含まなくてもよいことを意味することが理解される。
【0041】
図3は、開示された教示に従い、例示的な膜蒸留系を示す。系の中心部は、2つの円筒状チャンバーから構成されるステンレススチールセルである。チャンバーの1つはそのジャケットを通して加熱システムに接続され、液体供給物の温度を制御する。他のチャンバーは冷却装置に接続され、透過物の温度を制御する。膜は、2つのチャンバー(供給側、及び透過側)の間に置く。熱い供給溶液は膜の疎水性上層と接触させ、冷たい透過物溶液は膜の親水性部分と接触している。有効膜面積は2.75x10
−3m
2である。定常状態に達したあと、それぞれのチャンバー内部で、±0.1℃の精度を有するデジタルメーターに接続した一対のセンサーによってバルク供給物、及び透過物の温度を測定する。供給物、及び透過物の液体を、セルの内部で段階的マグネティックスターラーによって撹拌する。DCMD流束は、所定の期間で透過物チャンバー内に集まった凝縮物を測定することによって、あらゆる場合において算出される。実験は、最初に純水について行い、膜の水蒸気透過性を決定する。その後、0.5Mの塩化ナトリウムの水溶液を供給物として使用する。
【0042】
図1は、開示された教示に従う例示的な複合混合マトリックス膜を示す。示すように、膜は親水性/疎水性膜である。これは親水性層、及び疎水性層を有する。親水性層は、親水性ポリマー、及び高熱伝導性の無機ナノ粒子を有する。疎水性層は、フッ化表面変性高分子(SMM)を有する。
【0043】
一般に、MDに用いる膜は高い透過流束を許容すべきである。良く知られているように、MD膜は、良好な熱安定性、及び供給溶液に対する優れた耐化学性とともに、多孔性、及び疎水性でなければならない。DCMD膜に必要な特徴は、以下の通りである。
[高い液体侵入圧力(LEP)]
【0044】
これは、液体供給溶液が膜の疎水力に打ち勝って膜孔に浸透するまでに、液体供給溶液に適用しなければならない最小限の静水圧である。LEPはそれぞれの膜に特徴的であり、LEPが高い場合、膜孔の濡れを防止する。高いLEPは、高い疎水性(すなわち大きい水接触角)、及び小さい最大孔径を有する膜物質を使用して達成してもよい。しかしながら、最大孔径が減少するにつれて、膜の平均孔径は減少し、膜の透過性は低くなる。
[高い透過性]
【0045】
透過流束は、膜孔径、及び多孔性の増加、並びに膜厚、及び孔ねじれの減少に伴い「増加する」。換言すれば、高い透過性を得るために、膜輸送を支配する表面層はできるだけ薄く、並びに表面層の表面多孔性、及び孔径はできるだけ大きくなければならない。しかしながら、所定の実験的なDCMD条件について、水蒸気分子の平均自由行程に等しい臨界的な孔径が存在することをここで述べられなければならない。DCMDプロセスにおいて、空気は常に大気圧付近の圧力値で膜孔内にトラップされる。従って、孔径が水蒸気分子の平均自由行程と同等である場合、水蒸気の分子は互いに衝突し、空気分子の中に拡散する。この場合、蒸気輸送は、複合型クヌーセン/分子拡散流れを経て起こる。一方では、孔径が水蒸気分子の平均自由行程より小さい場合、分子―孔壁衝突が支配的になり、クヌーセン型の流れがDCMDにおける物質輸送の原因となる。所定の実験的な条件に対して、クヌーセン機構に基づいて算出したDCMD流束は、複合型クヌーセン/分子拡散機構に基づくものより高いという点に留意すべきである。
【0046】
クヌーセン型の流れが起こり、複合型クヌーセン/分子拡散流束が物質移動の原因となるより大きい孔径を有する膜のDCMD透過流束と比較して、より高いDCMD透過流束に至るよう、特定の操作条件の下、水蒸気分子に対応する平均自由行程より小さい孔径を有する膜を使用することがより好ましい。従って、膜がクヌーセン型の流れの下で機能することができるよう、適切な膜孔径の選択に対して注意を払い、水蒸気分子の平均自由行程の値を考慮しなければならない。
[疎水性層の低い熱伝導率]
【0047】
MDにおいて、伝導による熱損失は、膜の孔、及び疎水性マトリックスの両者を通じて起こる。伝導性熱損失は、より薄い膜層でより大きい。以下のものを用いることにより、さまざまな可能性を適用して、伝導性熱損失が減少する場合がある。
【0048】
i)低い熱伝導率を有する疎水性層の膜物質。疎水性ポリマーのほとんどは、少なくとも同じ桁で類似する熱伝導率を有するため、これがMDプロセスの改善を必ずしも保証するというわけではない。
【0049】
ii)膜孔内に入り込む気体の伝導性熱伝導係数は、膜マトリックスの伝導性熱伝導係数より小さい桁であるので、高い多孔性を有する膜層。蒸発に利用できる表面積は多孔性の増加によって強化されるため、この可能性は高い透過性の必要性と並列である。
【0050】
iii)より厚い膜層。しかしながら、薄い膜に伴う高い物質移動の要件と、より厚い膜を使用して得られる膜を通した低い伝導性熱伝導との間に不一致がある。
[親水性層の高い熱伝導性]
【0051】
親水性副層物質の熱伝導率の増加は、DCMD透過流束を増加させ得る。
【0052】
親水性層の熱伝導率は、できるだけ高くあるべきである。その理由は、疎水性層全体の温度勾配(
図1)が、親水性層の熱伝導率の増加によってより急になるからであり、その結果、下式(3)で定義される温度分極化係数(TPC)も増加する。
【0054】
したがって、物質移動の原因となる非常に薄い疎水性層、及び温度分極効果を減少させる高熱伝導性の厚い親水性層を有する、複合混合マトリックス多孔質疎水性/親水性膜が必要である。これは、高い浸透性、及び耐久性のある膜を達成するための、全ての上記の条件を満たす比較的単純な解となるようである。
[膜蒸留において混合マトリックス膜を使用する重要性の理論的背景]
【0055】
調査すべき系は、熱い純水(以下、供給側という)、及び冷たい純水(以下、透過側という)の間に維持された複合混合マトリックス疎水性/親水性膜から成る。膜の疎水性面を熱い供給水と接触させつつ、膜の親水性層は親水性層の孔に浸透する冷水と接触するよう保つ。これに反して、適用した膜間圧が膜の水の液体侵入圧力(LEP)を超えない限り、疎水性層の孔は乾燥に保たれる。この条件の下、疎水性層の孔の両方の末端に形成した液/液界面が
図1のように見られる。
【0056】
疎水性層の孔を通じて確立する温度低下は、DCMDプロセスの駆動力となる蒸気圧差を作る。この場合、熱い供給側で蒸発が起こり、水蒸気が疎水性層の孔を通って輸送されたあと、疎水性層と親水性層との間の境界に形成した気/液界面において凝縮が起こる。
【0057】
開示した系において、質量及び熱の移動の両者は膜全体で同時に起こる。従って、膜表面の温度は、溶液のバルク相の温度とは異なり、駆動力の減少、及び結果的にDCMD透過流束の減少につながる。これは、温度分極効果と呼ばれている。
【0058】
膜内の熱伝導は、熱い供給液/気界面で水の蒸発のために必要な潜熱、並びに膜の疎水性上層の気体の入った孔、膜の親水性副層の液体の入った孔、及び膜のマトリックス全体(すなわち疎水性、及び親水性ポリマー層)を通じた伝導によって移動した熱を含む。それに加えて、熱伝導は、供給及び透過側の両方において隣接する液相を通じて起こる。したがって、以下の式を適用できる。
【0063】
定常状態において、熱流束は、DCMD系全体にわたって同じでなければならない。
【0065】
ここでQはそれぞれの相を通じた熱流束であり、hは熱伝導係数であり、J
wは透過流束であり、ΔH
vは蒸発の潜熱であり、Tは絶対温度である。添字b、f、p、m、及びsは、それぞれバルク溶液、供給物、透過物、膜の疎水性上層、及びその親水性副層に関する。疎水性上層を通じた熱伝導は添字tで示し、一方親水性副層を通して移動する熱伝導は添字sで示す。
【0066】
一方、温度分極係数(θ)は、次のように定義できる。
【0068】
従って、上記の式から、熱流束は以下のように書くことができる。
【0072】
その結果、DCMDプロセスについての全体の熱伝導係数(U)は次のように書ける。
【0074】
また、温度分極係数θは、次のように表せる。
【0076】
ここで、hは熱い供給相、親水性副層、及び冷たい浸透相について有効な全体の熱伝導係数である。
【0078】
式10、及び11は次のように変形できる。
【0080】
ここでθ
f、θ
s、及びθ
pはそれぞれ供給、親水性副層、及び透過相に対応する温度分極係数であり、以下のように式(13〜15)で定義される。
【0084】
DCMDプロセスは、膜を通じた物質移動、並びに膜、及び隣接する液体層によって形成した複合系を通じた熱伝導によって制御される。両機構は、相互に関係づけられる。原則として、以下の6つの可能性が発生する場合がある。
【0085】
1)供給物、親水性副層、及び透過物を通じた熱伝導が非常に大きい場合、膜表面の温度はバルク相の対応する温度に近づく。これは、温度分極係数θ
f、θ
s、及びθ
p(式13〜15を参照)、並びに全体の温度分極係数(θ)は、1に近づくことを意味する(式12を参照)。
【0086】
2)供給物、親水性副層、及び透過物の熱伝導係数が小さい場合、膜表面の温度、及びバルク相に対応する温度の差は大きい。これは、温度分極係数(θ)がゼロに近づくことを意味する(式10を参照)。この場合、温度分極効果は非常に重要であり、隣接する層の熱抵抗がDCMDプロセスを制御する。
【0087】
3)透過物、及び親水性副層の熱伝導係数が、供給物の熱伝導係数と比較して非常に大きい場合、透過側膜表面の温度(T
s,p)は、バルク相に対応する温度(T
b,p)と類似する。膜の疎水性上層(T
m,p)、及びその親水性副層(T
s,p)もまた非常に類似となる。これは、透過物、及び親水性副層の温度分極係数(θ
s、及びθ
p)が1に近づくことを意味する(式14、及び15を参照)。この場合、式12は、全体の温度分極係数が供給側における温度分極係数(θ
f)に類似することを示す。
【0088】
4)供給物、及び親水性副層側の熱伝導係数が非常に大きい場合、供給側の膜表面の温度(T
m,f)はバルク相の温度(T
b,f)と非常に類似となり、膜の疎水性上層の温度(T
m,p)、及び膜の親水性副層の温度(T
s,p)もまた非常に類似となる。式13、及び14から、供給物の温度分極係数(θ
f)、及び親水性副層の温度分極係数は、1に近づく。この場合、透過側の温度分極係数(θ
p)は重要であり、全体の温度分極係数(θ)と類似する。
【0089】
5)供給物、及び透過物による熱伝導が非常に大きい場合、膜表面の温度はバルク相の対応する温度に近づく。これは、温度分極係数、θ
f及びθ
p(式13、及び14を参照)が1に近づくこと、また、親水性副層の温度分極係数(θ
s)が重要であり、全体の温度分極係数(θ)と類似することを意味する(式12を参照)。
【0090】
6)熱伝導係数が一つの層において非常に大きく、一方その他の2つの層の熱伝導係数が小さい場合、熱伝導係数が大きい層の温度分極係数は1に近づき、他の2つの層の温度分極係数は、式12に従い全体の温度分極係数(θ)の値を制御する。
【0091】
最後の可能性は、膜設計者が変更することができる唯一の可能性である。すなわち、親水性副層の伝導による熱伝導の増加、すなわちh
sの増加である。高熱伝導性の親水性副層の調製された複合混合マトリックス膜は、膜副層の熱抵抗が著しく減少するので、高い透過流束の結果を説明するこの可能性を満たす場合がある。その結果、副層の温度分極ファクター(θ
s)は、1に近づく。
[複合混合マトリックス膜]
【0092】
本発明の複合混合マトリックス膜は、親水性層、及び疎水性層を含む。疎水性層はその孔内への水の浸透を防止し、比較的薄く、それによって物質移動に対する抵抗を最小化する。
【0093】
複合膜は、熱力学原理に従って膜形成の間、空気―フィルム表面に移動して両親媒性構造(疎水性/親水性/疎水性)を形成するフッ化表面変性高分子(SMM)を使用して調製する。これらの膜の調製において使用するSMMは、ポリウレタン化学を使用して合成し、フッ化末端基によって調製したオリゴマーフルオロポリマーである。特に、SMMは、ポリ(ウレタンプロピレングリコール)、及びポリ(ウレアジメチルシロキサンウレタン)からなる群から選択される。
【0094】
親水性膜相のバルクは、ポリマー材料を、高熱伝導性の無機ナノ粒子とブレンドすることによって調製する。この親水性相は、SMMとブレンドするべきである。適切な親水性ポリマーは、熱可塑性ポリマーである。特に、それらは限定されないがポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、及び酢酸セルロースを含む。適切な混合マトリックスナノ粒子は、限定されないが窒化ホウ素、酸化銅、窒化アルミニウム、アルミニウム、鉄、及び炭化ケイ素を含む。
[複合混合マトリックス膜の製造]
【0095】
本発明の有利な実施形態によれば、本発明の複合混合マトリックス膜は、溶媒/非溶媒中に溶解した所定量の親水性ポリマー及び疎水性SMMの混合物を含むポリマードープ溶液が調製される単一のキャスティング工程で、相転換法を用いて製造する。次いで、無機ナノ粒子はポリマードープ溶液に分散させ、ポリマー/無機ナノ粒子ドープブレンドを形成する。次にこのブレンドをガラスプレート上にキャストし、室温で蒸発させるが、ガラスカバーを用いてキャストフィルムを覆うことによって、溶媒の蒸発を制御する。制御された溶媒の蒸発の間、疎水性SMMは、より低い表面エネルギーを有するため、空気/ポリマー界面(すなわち上層)に移動する。一方で、無機ナノ粒子は、親水性層の底に沈殿してその熱伝導率を上げている。代替の方法を用いて、複合混合マトリックス膜を調製することができるが、しかし、SMMの表面への移動、及び無機ナノ粒子の沈殿は本発明の膜の調製に重要であり、相転換法は現在知られている最も単純で最も安価な方法である。
【0096】
相転換は、ポリマーが液体から固体の状態へと変化するプロセスである。相転換を達成する多くの方法が存在する。その中に、乾―湿相転換技術、及び熱誘起相分離(TIPS)が、膜の工業生産において最も一般的に用いられる。乾―湿相転換技術は、ロブ(Loeb)、及びスリラーヤン(Sourirajan)によって、彼らの海水淡水化のための最初の酢酸セルロース膜の開発において適用された。従って、この方法は多くの場合ロブ―スリラーヤン(Loeb―Sourirajan)法と呼ばれる。
【0097】
ロブ―スリラーヤン法によれば、高分子溶液は、ポリマー、溶媒、及び時々非溶媒をも混合することによって調製する。次に溶液を、ドクターブレードで適切な表面上にキャストして、所定の厚み(50〜250μm)にする。部分的な溶媒の蒸発の後、キャストフィルムをしばしばゲル化媒体と呼ばれる非溶媒媒体の浴槽中に浸漬する。一連の2つの溶解工程、すなわち溶媒の蒸発、及びゲル化浴槽中での溶媒/非溶媒の交換によって、高分子膜の固化が起こる。強い溶解力、及び高揮発性の溶媒を選択することが望ましい。溶媒の蒸発による脱溶媒和の最初の工程の間、固体ポリマーの薄いスキン層が、溶媒の損失によって、キャストフィルムの上に容易に形成する。続く溶媒/非溶媒交換プロセスにおいて、非溶媒は薄い固体層を通って高分子溶液の膜の中に拡散するとともに、溶媒は外に拡散する。
【0098】
その過程のいくつかの点において、溶液膜中の溶媒の含有量は、溶媒がもはや1つの相中にポリマーを保つことができないほど低くなる。相分離はこの点で起こり、他の連続する液相中に分散した1つの液相の液滴を形成する。相分離の点、並びに分散した液滴のサイズ、及び数は、溶媒及び非溶媒、並びに高分子溶液組成物の性質に依存する。液滴の数、及びサイズの制御は、最終的に多孔性基質の構造を制御する。
【0099】
最初の蒸発工程の間に形成する固体ポリマーの薄い層は、膜の選択性、及び透過流束を支配する一番上のスキン層になり、一方、溶媒/非溶媒抽出工程の間に形成する多孔質構造は、有利な特徴である機械的強度を提供する多孔性の副層になる。したがって、得られる膜は、インテグラルスキンの非対称の膜である。
[混合マトリックス膜の特徴]
【0100】
高い親水性層の熱伝導率を有する複合混合マトリックス膜が示された。この新しいタイプの膜は、分散した無機ナノ粒子を用いずに調製した複合高分子膜より高い透過流束を示す。更に、複合混合マトリックス膜の機械的強度のような機械的特性は、複合高分子膜より非常に良好であった。それらはまた、市販の単一疎水性層の膜より低い濡れ傾向を有する。
[複合混合マトリックス膜の用途]
【0101】
本発明の複合混合マトリックス膜は、特に直接接触膜蒸留(DCMD)において有用である。
【0102】
提唱した複合混合マトリックス膜は海水淡水化、廃水処理、食品加工、及び医薬品の濃縮等に使用することができる。
【実施例】
【0103】
本明細書において開示する本発明のより良好な理解を得るために、以下の膜の例を記載する。これらの例は、単に説明を目的とすることを理解すべきである。従って、それは、いかなる形であれ本発明の範囲を制限しない。
[膜の例:直接接触膜蒸留による脱塩のための複合混合マトリックス膜の調製、及び特性評価]
【0104】
酸化銅、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミニウム、鉄、及び炭化ケイ素を含む異なるタイプの無機ナノ粒子を使用した、異なる複合混合マトリックス膜を調製した。さらに、複合混合マトリックス膜の調製において、異なる親水性ポリマーのタイプ、及び濃度を使用した。無機ナノ粒子の使用が膜モルホロジー、及びMDにおける膜の脱塩性能に及ぼす効果を明らかに確認した。
【0105】
調製した複合混合マトリックス膜のモルホロジー、機械的特性、及びDCMD性能を、異なる特性評価技術を用いて調査し、無機ナノ粒子の分散を用いずに調製した複合膜と比較した。複合混合マトリックス膜は、DCMDによる脱塩における実用的用途のための、より良好な機械的特性、及び性能を示した。
[実験]
[物質]
【0106】
この実験において使用した全ての化学物質、及び化学情報検索サービス(CAS)番号を表1にまとめる。使用したポリスルホン(PS)、及びポリエーテルスルホン(PES)の平均分子量(M
w)はそれぞれ、79000g/mol、及び30800g/molであった。
【表1】
[SMMの合成]
【0107】
SMMを二段階溶液重合法(Qtaishat、Khayet、及びMatsuura、2011)を使用して合成した。この例では、最初の重合工程を所定の組成物の溶液中で行い、溶媒としてDMAcを使用し、MDIとPDMS又はDPSとの反応によってプレポリマーとしてポリ尿素を形成した。第2の重合工程において、プレポリマーをBALの添加によって末端キャップし、結果として
図2に示す構造を有するSMMの溶液とした。SMMの組成物は、2MDI:1PDMS:2BAL、又は3MDI:2DPS:2BALであり、合成したSMMは、以下nSMM1、及びSMM2と称する。
[SMMの特性評価]
【0108】
ASTM D3761の標準方法を使用してnSMM1のフッ素含有量の元素分析を行った。正確な質量(10〜50mg)のサンプルを、酸素フラスコ燃焼容器(酸素燃焼カロリメーター、Gallenkamp)に入れた。熱加水分解の後、フッ素(イオン)を、イオンクロマトグラフィ(イオンクロマトグラフ、Dionex DX1000)で測定した。
【0109】
合成したSMMのガラス転移温度(T
g)を示差走査カロリメーターで測定し、合成したSMMの重量平均分子量をゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定した。
[膜の調製]
【0110】
複合混合マトリックス膜を、相転換法による単一のキャスティング工程で調製した。エタノールを非溶媒添加物として用いた。所定量のPS又はPESを、NMP/エタノール混合物中に溶解し、nSMM1をPS溶液に1.5、又は2質量%の一定の濃度まで加えた。得られた混合物を少なくとも48時間、室温でオービタルシェーカーで撹拌し、5質量%の無機ナノ粒子をポリマー溶液に加え、溶液を更に24時間撹拌した。得られた溶液は無機ナノ粒子が懸濁したポリマー―無機分散であった。溶液中のPS及びPESの濃度は、12〜14質量%の範囲で変化させた。エタノール濃度は10質量%であった。室温でキャスティングロッドを使用して、高分子溶液を滑らかなガラスプレートにキャストし、0.25mmの厚さにした。フィルムの底に無機ナノ粒子を沈殿させ、SMMを一番上の空気/ポリマー界面に移動させるために、得られたキャストフィルムを所定の時間、室温で蒸発させた。溶媒の蒸発を妨げるが、SMMが空気/ポリマー界面に移動し、かつ無機ナノ粒子をキャストフィルムの底に沈殿させることを可能にする2mmの置換手段を有するカバーを用いてキャストフィルムを覆うことによって、溶媒の蒸発体積を制御した。次に、キャストフィルムをガラスプレートと共に、室温で、水道水に1時間浸漬した。ゲル化の間、膜が自発的にガラスプレートから剥離することが観察された。次に全ての膜を3日間、周囲条件で乾燥させた。表2に、調製した膜、それらの構成物質、及び調製条件を示す。
【表2】
[膜の特性評価]
[1.走査電子顕微鏡検査(SEM)]
【0111】
SMMをブレンドしたPEI膜の断面を、走査電子顕微鏡検査(SEM)(JSM―6400 JEOL、日本)によって分析した。膜を細かく切り(3mm幅、及び10mm長)、その後液体窒素リザーバーに5秒間浸漬した。断片を液体窒素中に保ちつつ、それらを両末端から引いて2つの断片に破断した。断片の1つを、炭素ペーストを有し使用前に金で被覆した金属プレートの上に載せた。最後に破断部分の膜の断面をSEMによって調べた。
[2.X線光電子分光検査(XPS)]
【0112】
それぞれのSMMをブレンドした膜の表面の元素組成を、X線光電子分光法(XPS、Kratos Axis HS X線光電子分光計、Manchester、英国)によって決定した。それぞれの膜を、膜の無作為な位置から1cm
2のサンプルに切った。励起のため単色化したAlK
αX線照射を使用し、3チャネルの検出器を有する180°半球体のアナライザを使用した。X線銃は、15kV、及び20mAで操作した。アナライザチャンバーの圧力は、1.33x10
−4〜1.33x10
−5Paであった。分析領域のサイズは、約1mm
2であった。全ての膜サンプルの上面、及び底面の両方におけるフッ素含有量を分析した。
[3.機械的試験]
【0113】
引張試験を、ASTM D638M(標準)に従い、室温で、インストロンダイナモメーター モデル4301で行った。試験は、破壊時において50ml/minのクロスヘッドスピードで行った。少なくとも3回の測定を膜サンプルごとに行い、この調査において平均値を報告する。膜の機械的特性は、ヤング率、最大強度、及び破断点におけるパーセント伸びに関して与えられる。
[直接接触膜蒸留実験]
【0114】
調製した複合混合マトリックスを、
図3に示し、また他の文献(Khayet、及びMatsuura、2011)に詳述されている直接接触膜蒸留(DCMD)の構成によって試験した。
[結果及び考察]
[複合混合マトリックス膜の特性評価]
【0115】
混合マトリックス膜の断面SEM画像を
図4に示す。認められるように、全ての膜は上面により密度の高い構造を有する非対称の構造であるが、底面の構造は混合マトリックスナノ粒子の存在、及びそのタイプに応じて変化する。混合マトリックスナノ粒子を有しない膜(
図4のMC3)において、間のスポンジの様な層によって遮られた水平方向のミクロボイドが形成した。しかしながら、混合マトリックスナノ粒子を複合膜の高分子溶液に加えた場合、マクロボイドは膜の底に到達しており垂直であった(
図4のMC5は顕著な例外である)。例えば、酸化銅の場合(
図4のMC4、及びMC8)、垂直方向に成長した小さなマクロボイドが、垂直なスポンジの様なポリマー層によって分離され、類似の傾向はMC16、及びMC22において得られた。窒化ホウ素を分散ナノ粒子として用いた場合(
図4のMC5、及びMC9)、注目すべきことに指のような構造が中間部分で不規則になり、大きいマクロボイドが底に形成され、類似の傾向はMC14、及びMC21において得られた。最後に、窒化アルミニウムの場合(
図4のMC6、及びMC10)、注目すべきことに親水性層において異なる位置に形成されたポリマー核があった。
【0116】
図5は、MC17を例にとり、混合マトリックス膜の上面、及び底面のSEM画像を示す。画像は、上面の孔径は、底面の孔径より小さい桁であることを示した。量的に、上面の孔径は約20nmの範囲であり、一方で底面の孔径は約1.6μmであった。
【0117】
複合混合マトリックス膜の機械的特性を表3にまとめ、また、変形挙動の例を
図6に示す。同じポリマーPSをドープ中の同じ濃度で使用した場合(MC3、MC4、MC5、MC6)、複合混合マトリックス膜(MC4、MC5、MC6)のヤング率、最大強度、及び破断点におけるパーセント伸びは、非混合マトリックス膜MC3のそれらより高かった(
図6aを参照)。類似して、ドープ中の12質量%のPSを使用した場合、機械的特性はドープ中の混合マトリックスナノ粒子の分散によって改善した。複合混合マトリックス膜MC2は、非混合マトリックス膜MC1より良好な機械的パラメータを示した(表3、及び
図6bを参照)。膜MC7、及びMC8を比較すると、ポリマーPESについて同じ挙動が観察された(表3、及び
図6cを参照)。しかしながら、PS膜の機械的特性は、PES膜のそれらより良好である。
【表3】
[膜の性能]
【0118】
図7〜11は、調製した複合混合マトリックス膜のDCMD流束を示す。
図7a、8a、及び9aは、蒸留水を供給物として使用した場合のDCMD流束「対」供給物及び浸透溶液の平均温度(T
m)を示し、一方
図7b、8b、及び9bは、0.5MのNaCl水溶液を供給物として使用した場合の同じ膜のDCMD流束を示す。しかしながら、
図11、及び12において、平均温度が、蒸留水及び0.5MのNaCl溶液のDCMD流束、並びに分離係数に及ぼす影響を示す。
【0119】
図に示すように、全ての膜は、T
mの上昇と共にDCMD流束の指数関数的な増加を示す。これは、アントワンの式に従って、温度の上昇と共に蒸気圧が指数関数的に増加することに起因する。
【0120】
無機ナノ粒子の添加を考慮する場合、注目すべきことにDCMD透過流束が劇的に増加した。例えば、同じDCMD操作条件の下、酸化銅を加えた場合、12質量%のPS膜について、透過流束が50%増加した(
図7aを参照)。
図8aにおいて、類似して、酸化銅、及び窒化ホウ素を無機ナノ粒子として加えた場合、14質量%のPS膜について、透過流束が200%増加した。PESをベース親水性ポリマーとして使用した場合、この傾向は更に確認された。
図9aは、酸化銅を加えた場合、14質量%のPES膜の透過流束が120%増加したことを示す。
【0121】
最も著しい結果は、鉄、アルミニウム、及び炭化ケイ素をナノ粒子として使用した
図10、及び11に示すものであり、その理由は、報告した流束データが
図7〜9に示したものより大きい桁であったからである。しかしながら、ナノ粒子のタイプがこの傾向の原因であるとは考えていない。原因は、膜の調製の節においての前に詳述したカバーを使用してMC11、12、16、及び18を準備したため、製造技術の違いである。
【0122】
結論として、用意した全ての複合混合マトリックス膜は、複合高分子膜より高い透過流束を示した。更に、試験した全ての膜は、99.9%より高い塩(NaCl)の排除率を示した。
[結論]
【0123】
この例は、親水性層の熱伝導率を上昇させることが複合疎水性/親水性膜のDCMD透過流束の劇的な増加につながるという主張に、証明を提供する。これは、複合混合マトリックス疎水性/親水性膜のキャストに使用するポリマードープ内に無機ナノ粒子を分散させることによって増加した親水性層の熱伝導率に起因する。
【0124】
複合混合マトリックス膜は、ナノ粒子を用いずに調製した複合疎水性/親水性膜より良好な機械的特性を示す。
【0125】
調製した複合混合マトリックス膜は、将来の膜蒸留(MD)プロセスの開発、及び商業化において、鍵となる役割を果たす予定である。
【0126】
本発明に対する他の変形、及びバリエーションは、ここまでの開示、及び教示から当業者にとって明らかである。したがって、本発明の特定の実施形態のみが本明細書において具体的に開示されてはいるが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、多数の変形が実施形態に対してなされてもよいことは明らかである。