(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、前記式(I)で示される脂環族ジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合する請求項1〜2のいずれか1項に記載の共重合ポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
工程1:芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、前記式(I)で示される脂環族ジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを反応触媒を使用し0.08MPa以上の加圧下でエステル化反応またはエステル交換反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応生成物にリン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物を加えて重縮合反応させる工程
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の共重合ポリエステルとは、共重合ポリエステルを構成する繰り返し単位において、共重合ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分100モル%とした場合に、ジオール成分が下記式(I)で表される脂環族ジオール成分10〜40モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノール成分50〜90モル%を含む共重合ポリエステルであって、固有粘度が0.50〜1.00dL/g、ガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする共重合ポリエステルである。またその共重合ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、前記式(I)で示される脂環族ジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合することによって得られる。
【0009】
芳香族ジカルボン酸成分とは、エステル基を形成するようなエステル化反応またはエステル交換反応によりポリエステルを形成しうる化合物全般を表し、具体的には、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル成形性誘導体から重縮合を表す。前記の芳香族ジカルボン酸としては具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル−4,4’−ジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を表す。あるいはこれらの芳香族ジカルボン酸において置換基が4,4’−の位置に限定されず、2,4’−、3,4’−、2,5’−、2,2’−、3,3’−などの位置にある芳香族ジカルボン酸であってもよい。また、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体とは、芳香族ジカルボン酸の炭素数1〜6個のジアルキルエステル、炭素数6〜10個のジアリールエステル、ジ酸ハライドを表す。より具体的にはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジ−n−プロピルエステル、ジ−iso−プロピルエステル、ジ−n−ブチルエステル、ジ−sec−ブチルエステル、ジ−tert−ブチルエステル、ジペンチルエステル、ジヘキシルエステル、ジフェニルエステル、ジベンジルエステル、ジナフチルエステル、芳香族ジカルボン酸ジクロライド、芳香族ジカルボン酸ジブロマイド、芳香族ジカルボン酸ジアイオダイド等を挙げることができる。その炭素数1〜6個のジアルキルエステルや炭素数6〜10個のジアリールエステルは更にその水素原子の1個または2個以上がハロゲン原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アセチル基等のアルキルカルボニル基、ベンゾイル基等のアリールカルボニル基で置換されているものであっても良い。芳香族ジカルボン酸成分としてこれらの化合物のいずれか1種または2種であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸成分としてこのようなジカルボン酸成分を採用することにより、ガラス転移温度が90℃ないしは90℃を超える所定の温度以上である共重合ポリエステルを得ることができる。
【0010】
また本発明の効果を奏するにあたって影響のない範囲内で他の脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分が共重合されていても良い。具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、パーヒドロナフタレンジカルボン酸(デカリンジカルボン酸)、ダイマー酸、シクロブテンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらは無水物や誘導体であってもよい。これらのジカルボン酸成分はいずれか1種または2種を用いることがより好ましい。好ましくはこれらの化合物は全芳香族ジカルボン酸成分に対する共重合率が0〜20モル%、より好ましくは3〜15モル%であることである。更に1〜5モル%の範囲でトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリカルバリル酸等の分子内に3以上のカルボキシル基を有する化合物が共重合されていても良い。
【0011】
また、本発明においては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、下記式(I)の脂環族ジオール、すなわちトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール(以下「TCDM」と略記する。)が、共重合ポリエステルを構成する全芳香族ジカルボン酸成分を100モル%とすることを基準として10〜40モル%、かつ1,4−シクロヘキサンジメタノールが共重合ポリエステルを構成する全芳香族ジカルボン酸成分を100モル%とすることを基準として60〜90モル%共重合された繰り返し単位を有する共重合ポリエステルであることを特徴とする。
【0013】
このトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールの具体例としては、ジメタノール部分のトリシクロデカン基への結合する位置により各種の構造異性体があり、一例として下記式(1a)〜(1c)で表されるような各種構造異性体を採用する事ができる。本発明においては、芳香族ポリエステルを構成する脂環族ジオール成分としてこのようなトリシクロデカンジメタノール化合物成分を採用することにより、ガラス転移温度が90℃ないしは90℃を超える所定の温度以上である共重合ポリエステルを得ることができる。本発明におけるトリシクロデカンジメタノール化合物は下記式(1a)〜(1c)(式中環を構成する炭素原子は置換基を有していてもよい)で示されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−3,8−、3,9−および4,8−ジメタノール類から選択された少なくとも1種のトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類を含むジオール成分を好ましく挙げることができる。またジメタノール部分が他の位置に結合している構造異性体によるトリシクロデカンジメタノールが共重合されていても良い。
【0015】
さらに本発明の共重合ポリエステルに用いられているジオール成分には、前記式(I)で表される少なくとも1種のトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類が含まれている。上記式(I)中に示される2つのヒドロキシメチル基はトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン環を構成する何れの炭素原子(橋頭位または非橋頭位の炭素原子)に結合していてもよい。例えば、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン環をノルボルナン環とシクロペンタン環とに分けた場合、2つのヒドロキシメチル基がともにノルボルナン環側の炭素原子に結合していてもよく、2つのヒドロキシメチル基がともにシクロペンタン環側の炭素原子に結合していてもよい。また、一方のヒドロキシメチル基がノルボルナン環側の炭素原子に結合し、他方のヒドロキシメチル基がシクロペンタン環側の炭素原子に結合していてもよい。この最後の組合せの例の具体的化合物が上記(1a)〜(1c)で表される化合物の例に該当する。これらの位置異性体は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、式(1a)〜(1c)で表されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類にはエンド体とエキソ体とが存在し得るが、本発明ではこれらの一方または混合物の何れをも使用できる。
【0016】
上記式(I)において、環を構成する炭素原子(橋頭位または非橋頭位の炭素原子)は、前記2つのヒドロキシメチル基に加えて、他の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル基などのアルキル基(例えば、C1−10のアルキル基、好ましくはC1−4のアルキル基);シクロペンチル、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル、ナフチル基などのアリール基;メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基などのアルコキシ基(例えば、C1−4のアルコキシ基);メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(例えば、C1−4のアルコキシ−カルボニル基);アセチル、プロピオニル、ブチリル、ベンゾイル基などのアシル基;ヒドロキシル基;カルボキシル基;ニトロ基;置換または無置換アミノ基;ハロゲン原子;オキソ基などが挙げられる。
【0017】
上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類の中でも、前記式(1a)〜(1c)で表されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−3,8−ジメタノール類、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−3,9−ジメタノール類およびトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−4,8−ジメタノール類が好ましい。なお、式(1a)〜(1c)において、環を構成する炭素原子が有していてもよい置換基は前記と同様である。上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類は公知の方法により得ることができる。例えば、ヒドロキシルメチルシクロペンタジエン2分子をディールス・アルダー反応により付加環化反応させ、更に水素添加により不飽和結合を飽和結合にする製造方法を挙げることができる。あるいは市販されている当該化合物を使用しても良い。本発明では、上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール類から1種の化合物のみを選択して使用してもよく、ジメタノール部分の置換基の位置の異なる複数の化合物を併用してもよい。このようなトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン−4,8−ジメタノール成分を10〜40モル%とすることにより、耐衝撃性に優れ、透明性にも優れた共重合ポリエステルを得ることができる。
【0018】
また本発明においては、1,4−シクロヘキサンジメタノールが、共重合ポリエステルを構成する全芳香族ジカルボン酸成分を100モル%とすることを基準として、ジオール成分中60〜90モル%共重合された共重合ポリエステルであることを特徴とする。この1,4−シクロヘキサンジメタノールにおいても、構造異性体としてトランス体とシス体の2種が存在するが、これらの割合を表すTrans/Cis比率は、好ましくは、耐衝撃性に優れた共重合ポリエステルとする観点からTrans/Cis比率が60/40〜90/10の範囲内である場合が好ましい。より好ましくは65/35〜85/15であり、更に好ましくは67/30〜80/20であることである。このようなシクロヘキサンジメタノール成分を50〜90モル%モル%とすることにより耐衝撃性に優れ、透明性にも優れた共重合ポリエステルとすることができる。
【0019】
さらに本発明において、更に上記のトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分以外に他のジオール成分が共重合されていても良い。好ましくは炭素数2〜20のジオール成分が挙げられ、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ノナメチレングリコール、デカメチレングリコール、ウンデカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、トリデカメチレングリコール、テトラデカメチレングリコール、ペンタデカメチレングリコール、ヘキサデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラペンチレングリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,1−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、p−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、p−(3−ヒドロキシプロキシ)ベンゼン、4,4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−(3−ヒドロキシプロポキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−γ−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン、ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸、ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸、ビス(4’−γ−ヒドロキシプロポキシフェニル)スルホン酸、ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)スルホン酸、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物を挙げることができる。上記の2種以外の他のジオール成分としてこれらの化合物のいずれか1種または2種であることがより好ましい。更に分子内に3以上のヒドロキシル基を有するペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)メタン等の化合物が、前芳香族ジカルボン酸成分を100%とした場合に、1〜3モル%の割合で共重合されていても良い。
【0020】
さらに本発明においては、上記のジカルボン酸成分、ジオール成分、分子内に3以上のカルボキシル基を有する化合物、分子内に3以上のヒドロキシ基を有する化合物、以外の化合物成分、すなわち必要に応じて、ヒドロキシカルボン酸を共重合してもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、酒席酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸を共重合する場合、全カルボン酸成分中におけるヒドロキシカルボン酸の共重合量は20モル%以下とすることが好ましい。また、共重合ポリエステルには、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコールを共重合してもよい。
【0021】
さらに本発明の共重合ポリエステルにおいては、固有粘度が0.50〜1.00dL/g、ガラス転移温度が90℃以上である必要がある。ガラス転移温度90℃未満の場合には、本発明の共重合ポリエステルの用途に対して要求される耐熱性の観点から好ましくない場合がある。固有粘度が0.50dL/g未満の場合には、本発明の共重合ポリエステルを用いて得られる各種成形品の機械強度が十分でなく、また優れた耐衝撃性を発揮することができず、好ましくない場合がある。固有粘度が1.00dL/gを超える場合には、共重合ポリエステルの溶融粘度が高くなり過ぎて、薄肉の部品成形性に劣るので好ましくない場合がある。固有粘度のより好ましい範囲は0.60〜0.90dL/gであり、更により好ましい範囲は0.62〜0.85dL/gである。固有粘度を上昇させるには、通常のポリエステルの製造工程において行われているように、重縮合温度を上げる、反応槽内の減圧度をより真空に近い方に調整する、重縮合時間を長くする、溶融している溶融粘度の高い共重合ポリエステルに対して表面積が多くなるような効率の良い撹拌を行う等の方法を溶融重合の条件として採用することや、固相重合を行う事によって達成することができる。また、本発明の共重合ポリエステルにおいてガラス転移温度が90℃未満の場合には、耐熱性が十分でない場合があり、熱湯消毒等100℃近辺あるいは100℃以上の環境下に置かれることがある食品容器材料や医療用材料の用途として好ましくない場合がある。上述した芳香族ジカルボン酸、2種のジオール成分の種類、共重合率の数値を達成し、上述した充分に高い固有粘度値も達成することにより、このガラス転移温度を達成することができる。ガラス転移温度のより好ましい範囲は91℃以上であり、更により好ましい範囲は91〜120℃である。
【0022】
次に本発明の共重合ポリエステルの製造方法に係る発明について説明する。前記共重合ポリエステルを製造するに当たっては、上記芳香族ジカルボン酸成分に対応する芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体、前記式(I)で表される脂環族ジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールとエステル交換反応触媒を使用して、エステル交換反応を行い次いで重縮合反応を行う方法、またはエステル化反応を行い次いで重縮合反応を行う方法が好ましく挙げることができる。そのエステル交換反応をさせるためにエステル交換反応触媒を用いるが、該エステル交換反応触媒は、エステル交換反応性の観点から、マンガン化合物、チタン化合物、スズ化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、又は、整色剤として使用することも有効なコバルト化合物が好ましいが、食品安全性を考慮した場合、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物を用いるのが特に好ましい。具体的には、これらの金属元素を含む酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、次亜塩素酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、過リン酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、過ハロゲン酸化合物、水素化物、炭化物、窒化物、硫化物、またはアルコキサイドが好ましく用いることができる。これらの化合物群をエステル交換反応触媒として採用することにより、上記の3種の化合物のエステル交換反応が150℃〜230℃の温度下、後述するような適度な圧力下により効率的に進行する点で好ましい。また、これら触媒を用いる場合には、それぞれの化合物を単独で用いても良いし、2種以上の化合物を併用しても良い。
【0023】
上述のカルシウム化合物については、そのカルシウム化合物に由来するカルシウム元素含有量の合計が共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たり10〜50mmol%となるように用いることが好ましい。Ca元素の含有量が50mmol%を超えると触媒残渣による析出粒子の影響によって成形した際に白化現象がみられ、透明性がそこなわれる場合がある。逆にCa元素の含有量が10mmol%未満ではエステル交換反応が不十分になるばかりか、その後の重合反応も遅くなる。好ましくは含有量が15〜40mmol%となるように用いることであり、より好ましくは18〜35mmol%となるように用いることである。上述のマグネシウム化合物についてもカルシウム化合物と同様に、そのマグネシウム化合物に由来するマグネシウム元素含有量の合計が共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たり45〜100mmol%となるように用いることが好ましい。Mg元素の含有量が100mmol%を超えると触媒残さによる析出粒子の影響によって成形した際に白化現象がみられ、透明性がそこなわれる場合がある。逆にMg元素の含有量が45mmol%未満ではエステル交換反応が不十分になるばかりか、その後の重合反応も遅くなる。好ましくは含有量は47〜90mmol%となるように用いることであり、より好ましくは50〜80mmol%となるように用いることである。
【0024】
エステル交換反応後に反応器内に添加する安定剤はリン化合物が好ましく、本発明において使用するリン化合物としては、リン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系、ホスフィンオキサイド系、亜ホスホン酸系、亜ホスフィン酸系、ホスフィン系から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、いずれか1種または2種であることがより好ましい。より具体的には、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジペンチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジヘプチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニルホスフェート、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノペンチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、モノフェニルホスフェート、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリペンチル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸トリヘプチル、亜リン酸トリオクチル、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロピルホスフィン酸、ブチルホスフィン酸、ペンチルホスフィン酸、ヘキシルホスフィン酸、ヘプチルホスフィン酸、オクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジペンチルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジヘプチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ホスホノ酢酸、ホスホノ酢酸トリメチル(メトキシカルボニルメチルホスホン酸ジメチル)、ホスホノ酢酸トリエチル(エトキシカルボニルメチルホスホン酸ジエチル)、ホスホノ酢酸トリプロピル(エトキシカルボニルメチルホスホン酸ジブチル)、ホスホノ酢酸トリブチル(ブトキシカルボニルメチルホスホン酸ジブチル)などの各種の有機、無機リン化合物が挙げられるが、エステル交換反応触媒の失活効果や成形品の着色を抑える点では、ホスホノ酢酸トリエチルを用いることが好ましい。上述のリン化合物については、上記のリン化合物に由来するリン元素の含有量の合計が、共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸のモル数に対して8.0〜180mmol%含有するように用いることが好ましい。より好ましくは10〜150mmol%、更に好ましくは15〜100mmol%含有するように用いることである。そのリン化合物に由来するP元素の含有量が下限値未満であるとポリエステルの色調が低下しやすくなり、また逆に該P元素の含有量が上限値を超えると重縮合反応が進行しにくくなるため好ましくない。
【0025】
以上の事項を総合し、本発明の共重合ポリエステルの製造方法にあっては、エステル交換反応触媒としてマグネシウム化合物およびカルシウム化合物を用い、またこれらとは別にリン化合物を用いることが好ましい。更にこれらの化合物に由来するマグネシウム元素、カルシウム元素、およびリン元素の共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たりの含有量が以下の数式(1)〜(3)を満たすことが好ましい。
10 ≦ Ca ≦ 50mmol% (1)
45 ≦ Mg ≦ 100mmol% (2)
0 <P/(Ca+Mg)≦ 1.2 (3)
[上記数式(1)〜(3)において、Ca,Mg,およびPは、それぞれ共重合ポリエステルの製造工程で用いるカルシウム化合物、マグネシウム化合物、およびリン化合物に由来するカルシウム元素、マグネシウム元素、およびリン元素の共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たりの含有量を表す。]
【0026】
上記の数式(3)の数値が0以下であるとポリエステルの色調が低下しやすくなり、また逆にこの数値が1.2を超えると重縮合反応が進行しにくくなるため好ましくない。好ましくはこの数式P/(Ca+Mg)の示す数値範囲は0.01〜1.0以下、より好ましくは0.05〜0.8以下である。
【0027】
本発明の製造方法において重合触媒成分として用いられる重合触媒としては、スズ化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物等を挙げることができるが、食品安全性や反応性の観点からゲルマニウムおよびチタン化合物を用いることが好ましい。具体的には、スズ化合物としては、酢酸スズ、酸化スズ、モノブチルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズオキサイド、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸を挙げることができる。アンチモン化合物としては、アンチモンの酸化物、アンチモンカルボン酸、アンチモンアルコキシドなどが挙げられ、具体的には、アンチモンの酸化物として、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン等が挙げられ、アンチモンカルボン酸として、酢酸アンチモン、シュウ酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリウム等が挙げられ、アンチモンアルコキシドとして、アンチモントリ−n−ブトキシド、アンチモントリエトキシド等が挙げられる。
【0028】
また、チタン化合物としては、酢酸チタン、フタル酸チタン、イソフタル酸チタン、トリメリット酸チタン、ヘミメリット酸チタン、トリメシン酸チタン、ピロメリット酸チタン、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラノルマルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンテトラアルコラート(テトラアルキルチタネート)、テトラフェニルチタネート、テトラナフチルチタネート等のチタンアリールオキサイドを挙げることができ、これら以外のチタン錯体化合物として、ヘキサメチルジチタネート、ヘキサエチルジチタネート、ヘキサプロピルジチタネート、ヘキサブチルジチタネート、ヘキサフェニルジチタネート、オクタメチルトリチタネート、オクタエチルトリチタネート、オクタプロピルトリチタネート、オクタブチルトリチタネート、オクタフェニルトリチタネート、ヘキサアルコキシジチタネート、オクタアルキルトリチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマーなどのチタンアルコキシドのオリゴマー物、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンテトラキスアセチルアセトナート錯体、チタンテトラキス(2,4−ヘキサンジオナト)錯体、チタンテトラキス(3,5−ヘプタンジオナト)錯体、チタンジメトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジエトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジノルマルプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジブトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジヒドロキシビスグリコレート、チタンジヒドロキシビスラクテート、チタンジヒドロキシビス(2−ヒドロキシプロピオネート)、乳酸チタン、チタンオクタンジオレート、チタンジメトキシビストリエタノールアミネート、チタンジエトキシビストリエタノールアミネート、チタンジブトキシビストリエタノールアミネートなどが挙げられる。中でも多価カルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸および/または多価アルコールをキレート剤とするチタン錯体であることが、ポリマーの熱安定性、色調および口金まわりの堆積物の少なさの観点から好ましい。チタン化合物のキレート剤としては、乳酸、クエン酸、マンニトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラメトキシド、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラプロポキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、ゲルマニウムテトラペンタキシド、ゲルマニウムテトラヘキソキシドを挙げることができる。
【0029】
上述のゲルマニウム化合物については、上記のゲルマニウム化合物に由来するゲルマニウム元素の含有量の合計が、共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸のモル数に対して30〜100mmol%含有するように用いることが好ましい。より好ましくは40〜90mmol%、更に好ましくは50〜80mmol%含有するように用いることである。そのゲルマニウム化合物に由来するGe元素の含有量が下限値未満であると重合反応が進行しにくくなるため好ましくない。Ge元素の含有量が上限値を超えると重縮合反応中に副反応が生じ共重合ポリエステル色調が悪化したり、ポリエステル中の異物として成形性に問題が生じる場合がある。また、上述のチタン化合物については、上記のチタン化合物に由来するチタン元素の含有量の合計が、共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸に対して1.0〜5.0mmol%含有するように用いることが好ましい。より好ましくは1.5〜4.5mmol%、更に好ましくは2.0〜4.0mmol%含有するように用いることである。そのチタン化合物に由来するTi元素の含有量が下限値以下であると重合反応が進行しにくくなり、また上限値を超えると副反応を促進させ、特にポリエステルの色調が低下するため好ましくない。
【0030】
以上のことから本発明の共重合ポリエステルの製造方法においては下記式(4)〜(5)を満たすように製造することが好ましい。
30 ≦ Ge ≦ 100mmol% (4)
1 ≦ Ti ≦ 5mmol% (5)
[上記数式(4)〜(5)において、GeおよびTiは、それぞれ共重合ポリエステルの製造工程で用いるゲルマニウム化合物およびチタン化合物に由来するゲルマニウム元素およびチタン元素の共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たりの含有量を表す。]
【0031】
本発明における上記組成の共重合ポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることが好ましい態様の1つである。
工程1:芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、前記式(I)で示される脂環族ジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールをエステル交換反応触媒を使用し0.08MPa以上の加圧下でエステル交換反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応生成物にリン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物を加えて重縮合反応させる工程
【0032】
本発明の工程1における製造方法においては、上記の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよび前記式(I)で示される脂環族ジオールを上記のエステル交換反応触媒の存在下で加圧反応せしめることにより製造される。反応温度は150℃以上とし、反応の進行とともに昇温するのが好ましい。この場合の上限は235℃程度である。この加圧反応の際には、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。なお、この工程1における反応槽は縦型反応槽、横型反応槽のいずれであっても構わず、その他通常のポリエステルの製造工程で用いられる製造設備を使用することができる。
【0033】
本発明の工程1の製造方法において、反応槽の内圧は、大気圧に加えて更に0.08MPa以上、2.00MPa以下の圧力を加え加圧するのが好ましい。より好ましくは0.08MPa以上、1.50MPa以下の圧力を加えることであり、更に好ましくは0.08〜0.80MPaの圧力を加えることである。加圧分の内圧が0.08MPaを下回ると、芳香族ジカルボン酸成分を100モル%としたときの、上記式(I)で表した脂環式ジオール化合物を10〜40モル%反応させる場合に反応速度が遅くなるばかりか、1,4−シクロヘキサンジメタノールが昇華しエステル交換反応率が80%を下回ってしまい、結果として工程2での重合反応が進行しないことがある。反応内圧(加圧分)が2.00MPa以上だと反応の際に副生したメタノールを反応系外へ効率よく排出できず、結果として反応温度が低くなることによって反応時間も長くなってしまい生産効率が下がってしまう場合がある。
【0034】
本発明の工程1の製造方法において、エステル交換反応率は80%以上が好ましい。反応率が80%を下回ると、上記工程2での反応の際、未反応の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体や1,4−シクロヘキサンジメタノールが昇華してしまい、反応系内(反応槽内)の減圧度に悪影響を及ぼすとともに、重合反応が進行しないことがある。そこで我々は上述したようにエステル交換反応を常圧ではなく窒素を用いた加圧反応を行うことによって、短時間でかつエステル交換反応率が高い共重合芳香族ポリエステルを製造する方法を見出すに至った。
【0035】
上記の特許文献1および2等で開示されている従来技術においては、芳香族ジカルボン酸とCHDMやCBDOとを常圧反応により製造しているが、本発明においては、工程1で反応した反応率の高いモノマーないしオリゴマーを用いて共重合芳香族ポリエステルの分子量を効率的に増大させることが大きな特徴となっている。該製造方法を採用することにより、従来技術で得られていた共重合芳香族ポリエステルの抱えていた特性が大幅に改善され高品質な共重合芳香族ポリエステルを経済的に、かつ効率的に安定して製造できるようになった。
【0036】
本発明により得られる工程2終了後の共重合芳香族ポリエステルの固有粘度は機械的強度、成形性の点から0.50〜1.00dL/gが好ましい。固有粘度が0.50dL/g未満では機械的強度に劣り、1.00dL/gを超える場合には溶融時の流動性が低下して成形加工性に劣るので好ましくない。固有粘度のより好ましい範囲は0.60〜0.90dL/gであり、更により好ましい範囲は0.62〜0.85dL/gである。
【0037】
本発明により得られる共重合ポリエステルのガラス転移温度は90℃以上が好ましい。ガラス転移温度が90℃未満では成形品の耐熱性に劣り好ましくなかったり、食品用途や医療用途の容器として用いる際に適していない場合がある。詳細な理由は上述のとおりである。なおガラス転移温度をこの値の範囲にするためには共重合ポリエステルを製造する際に式(I)および1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合率によってこのガラス転移温度の値の範囲を達成することができる。ガラス転移温度のより好ましい範囲は91℃以上であり、更により好ましい範囲は91〜120℃である。
【0038】
本発明により得られる共重合ポリエステルのノッチ付きシャルピー衝撃値は、成形品の物性の点から7kJ/m
2以上が好ましい。このシャルピー衝撃値が7kJ/m
2未満下であれば、成形品の衝撃性が劣り好ましくない。なお、シャルピー衝撃値をこの値の範囲にするためには、共重合共重合ポリエステルを製造する際に、上記式(I)および1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合率それぞれ10〜40モル%および60〜90モル%の範囲に調整するによって、シャルピー衝撃値の範囲を達成することができる。
【0039】
本発明により得られる共重合ポリエステルの荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度は、成形品の物性の点から70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。荷重たわみ温度が70℃以下であれば、成形品の耐熱性に劣り好ましくない。なお、荷重たわみ温度をこの値の範囲にするためには、共重合共重合ポリエステルを製造する際に、上記式(I)の共重合率を10〜40モル%の範囲に調整することによってこの荷重たわみ温度の値の範囲を達成することができる。
【0040】
本発明における共重合ポリエステルから形成された成形品は、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。更には90%以上であることが好ましい。全光線透過率が85%より低いと、視認性に劣るためシートや成形品として使用することは困難である。なお、全光線透過率をこの値の範囲にするためには上記式(I)および1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合率をそれぞれ10〜40モル%および50〜90モル%の範囲に調整するによって、透過率の値の範囲を達成することができる。より好ましくは、更に使用するエステル交換反応触媒、及びリン化合物を下記式(1)〜(5)を満たす様に用いることである。
10 ≦ Ca ≦ 50mmol% (1)
45 ≦ Mg ≦ 100mmol% (2)
0 <P/(Ca+Mg)≦ 1.2 (3)
30 ≦ Ge ≦ 100mmol% (4)
1 ≦ Ti ≦ 5mmol% (5)
[上記数式(1)〜(5)において、Ca,Mg,P,GeおよびTiは、それぞれ共重合ポリエステルの製造工程で用いるカルシウム化合物、マグネシウム化合物、リン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物に由来するカルシウム元素、マグネシウム元素、リン元素、ゲルマニウム元素およびチタン元素の共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸成分のモル数当たりの含有量を表す。]
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた共重合ポリエチレンナフタレートの諸物性の測定は以下の方法により実施した。
【0042】
1)1,4−シクロヘキサンジメタノール中のTrans/Cis比率
反応に仕込む前のCHDM0.15gをアセトニトリル5mlに溶解させたのち、0.45μmのメンブランフィルターで不溶物を除去して液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS:島津製作所製、LC−10)にて測定した。使用したカラムは同社製のULTRON VX−ODS 250L×4.6mmI.D.×2本、STR−ODS−II 150L×4.0mm I.D.で、使用温度は50℃とした。
【0043】
2)固有粘度(IV)測定
常法に従って、溶媒であるオルトクロロフェノール中、35℃で測定した。
【0044】
3)ガラス転移温度(Tg)測定
25℃で24時間減圧乾燥した共重合芳香族ポリエステルを示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した。測定試料はアルミニウム製パン(TA Instruments社製)に約10mg計量し、窒素雰囲気下で測定した。
【0045】
4)共重合率算出
本発明により得られた共重合ポリエステル中の共重合率は、日本電子製JEOLA−600を用いて600MHzの
13C−NMRスペクトルを測定し、70〜75ppm付近に観測された上記式(I)に帰属する総メチレン基のピーク面積をA、1,4−シクロヘキサンジメタノールに帰属するメチレン基の総ピーク面積をB、その他成分に帰属するメチレン基の総ピーク面積をCとしたとき、式(I)の共重合率は、A/(A+B+C)×100で算出した。1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合率は、B/(A+B+C)×100で算出した。同様に、
1H−NMRと
13C−NMRのスペクトルからジカルボン酸成分の官能基の帰属を行った。
【0046】
5)共重合ポリエステル中の元素含有量
本発明により得られた共重合ポリエステルを蛍光X線(理学製、Rataflex RU200)により測定した。
【0047】
6)荷重たわみ温度測定
本発明により得られた共重合ポリエステルをISO 75の方法に従い測定を行った。
【0048】
7)シャルピー衝撃強さ
本発明により得られた共重合ポリエステルをISO 179の方法に従い測定を行った。
【0049】
8)全光線透過率
本発明により得られた共重合ポリエステルを射出成形により1mm厚の成形品に成形し、その成形品を日本電色(株)製HDH−300Aを用いて測定した。
【0050】
[実施例1]
ジカルボン酸成分として、テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)を68重量部、ジオールとしてエチレングリコールを18重量部、Trans/Cis比率が68/32の1,4−シクロヘキサンジメタノールを61重量部、さらにはトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール(TCDM)を9重量部、エステル交換反応触媒として酢酸カルシウム一水塩をジカルボン酸成分(DMT)のモル数に対して総量として20ミリモル%、酢酸マグネシウム四水塩をジカルボン酸のモル数に対して総量として50ミリモル%加え、0.08MPaの加圧下で反応温度が235℃となるように昇温しながらエステル交換反応を行った。反応温度が235℃になった時点で10分かけて系内を常圧に戻しさらに20分間反応を保持した。20分後に非晶性二酸化ゲルマニウムをジカルボン酸のモル数に対して総量として60ミリモル%、チタンテトラブトキシドをジカルボン酸のモル数に対して総量として2ミリモル%加え、さらに15分後にホスホノ酢酸トリエチル(以下、TEPAと称することがある)をジカルボン酸のモル数に対して総量として20ミリモル%加えて反応させた。反応温度が240℃に到達した時点で反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)まで50分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度285まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。重縮合反応開始から180分間が経過した時点で重縮合反応を終了して共重合ポリエステルを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0051】
[実施例2]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0052】
[実施例3]
1,4−シクロヘキサンジメタノールを52重量部、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールを18重量部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0053】
[実施例4]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は実施例3と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0054】
[実施例5]
1,4−シクロヘキサンジメタノールを46重量部、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールを27重量部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0055】
[実施例6]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は実施例5と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0056】
[実施例7]
1,4−シクロヘキサンジメタノールを39重量部、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールを35重量部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0057】
[実施例8]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は実施例7と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0058】
[比較例1]
1,4−シクロヘキサンジメタノールを33重量部、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノールを44重量部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0059】
[比較例2]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は比較例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0060】
[比較例3]
ジカルボン酸として、テレフタル酸ジメチルエステルを89重量部、ジオールとしてエチレングリコールを39重量部、Trans/Cis比率が68/32の1,4−シクロヘキサンジメタノールを57重量部、エステル交換反応触媒として酢酸カルシウム一水和塩をジカルボン酸のモル数に対して総量として20ミリモル%、酢酸マグネシウム四水塩をジカルボン酸のモル数に対して総量として50ミリモル%加え反応温度が220℃となるように昇温しながら常圧でエステル交換反応を行った。反応温度が220℃になった時点でさらに反応を20分間保持した。15分後に非晶性二酸化ゲルマニウムをジカルボン酸のモル数に対して総量として35ミリモル%加え、さらに5分後にリン酸トリメチルをジカルボン酸のモル数に対して総量として100ミリモル%加えて反応させた。反応温度が245℃に到達した時点で反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)まで50分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度285℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。
重縮合反応開始から180分間が経過した時点で重縮合反応を終了して共重合ポリエステルを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0061】
[比較例4]
1,4−シクロヘキサンジメタノールのTrans/Cis比率を75/25に変更した以外は比較例3と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0062】
[比較例5]
エチレングリコールを65重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノールを0重量部に変更した以外は比較例3と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、共重合率、さらには成形品の荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強さ、全光線透過率を評価し、その結果を表1〜表3に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】