(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、簡素な構成によって自車の前照灯による配光状態を制御し、かつ前方車両へのグレアをより低減し得る技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の配光制御装置は、(a)車両用灯具による配光状態を制御するための装置であって、(b)自車両の前方に存在する前方車両を撮像した画像に基づいて前記自車両の略中央を基準とした前記前方車両の右外縁の位置を示す角度θ1と左外縁の位置を示す角度θ2を求めるとともに、前記前方車両と前記自車両との車間距離並びに前記前方車両の見かけ上の車幅を求める前方車両検出部と、(c)前記角度θ1、θ2と前記車間距離と前記見かけ上の車幅に基づいて、前記自車両の右側前照灯による照射範囲を規定する角度α1、α2及び前記自車両の左側前照灯による照射範囲を規定する角度β1、β2を算出する照射範囲算出部と、(d)前記角度α1、α2、β1、β2に基づいて前記配光状態を制御するための配光制御信号を出力する配光制御信号出力部、を有し、(e)前記照射範囲算出部は、前記角度θ1、θ2の差である開き角(θ1−θ2)と、予め設定される係数kと、前記前方車両の車両長に相関する係数であって前記車間距離及び前記見かけ上の車幅に基づいて可変に設定される係数mと、を用いて、前記角度α1を、θ1+m(θ1−θ2)を演算して求め、前記角度β2を、θ2−m(θ1−θ2)を演算して求め、前記角度α2を、θ2−k(θ1−θ2)−m(θ1−θ2)を演算して求め、前記角度β1を、θ1+k(θ1−θ2)+m(θ1−θ2)を演算して求める、車両用灯具の配光制御装置である。
【0007】
上記構成では、自車両の略中央を基準として前方車両の左右の外縁位置(例えば、前照灯/尾灯の位置)を角度θ1,θ2として検出し、これらの角度を用いて求められる開き角である(θ1−θ2)を用いた簡単な演算を行うだけで光の照射範囲を設定することができる。このため、高価な演算装置等が不要であり、簡素な構成によって自車の前照灯による配光状態を制御し、かつ前方車両へのグレアをより低減することができる。
【0008】
上記の配光制御装置において、前記係数kが1より小さい値であることが好ましい。
【0009】
上記の配光制御装置において、前記車両検出部は、前記前方車両と前記自車両との車間距離並びに前記前方車両の見かけ上の車幅も前記画像に基づいて求めることも好ましい。
【0010】
本発明に係る一態様の車両用前照灯システムは、上記の配光制御装置とこの配光制御装置によって制御される車両用灯具を備える車両用前照灯システムである。
【0011】
上記構成によれば、簡素な構成によって自車の前照灯による配光状態を制御し、かつ車間距離によらず前方車両へのグレアをより低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す車両用前照灯システムは、配光制御装置1と車両用灯具2を含んで構成されている。配光制御装置1は、カメラ(撮像装置)11、画像処理部12、配光制御部13を含んで構成されている。
【0015】
カメラ11は、自車両の前方空間を撮像するためのものであり、車両の所定位置、例えばフロントウィンドウの中央上部に取り付けられる。このカメラ11により自車両の前方に存在する先行車または対向車(以下、まとめて「前方車両」という。)が撮像され、その画像データがカメラ11から画像処理部12へ出力される。
【0016】
画像処理部12は、カメラ11から入力される画像データに対して所定の画像処理を実行することによって、前方車両の左右それぞれのランプ(前照灯あるいは尾灯)の位置を検出する。なお、この画像処理部12は、カメラ11と一体化されていてもよい。あるいは、画像処理部12の機能は配光制御部13によって実現されてもよい。
【0017】
配光制御部13は、画像処理部12による画像処理結果を取得し、それに基づいて、車両用灯具2へ供給するための配光制御信号を生成するものであり、車両検出部21、照射範囲算出部22および配光制御信号出力部23を含んで構成されている。この配光制御部13は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムにおいて所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0018】
車両検出部21は、画像処理部12からの画像処理結果に基づいて、自車両の進行方向を基準として前方車両のランプ(前照灯または尾灯)の両端位置の相対的な位置情報を角度として検出する。具体的には、車両検出部21は、自車両の基準位置(カメラ11の設置位置に対応)から見た前方車両の右端位置を示す角度θ1と左端位置を示す角度θ2を求める。また、車両検出部21は、画像処理部12からの画像処理結果に基づいて、前方車両と自車両との車間距離と前方車両の見かけ上の車幅を検出する。なお、車両検出部21の機能は上記した画像処理部12において実現されてもよい。本実施形態では上記した画像処理部12とこの車両検出部21が「前方車両検出部」に対応する。
【0019】
照射範囲算出部22は、車両検出部21によって求められた角度θ1、θ2と車間距離並びに見かけ上の車幅に基づいて、自車両の前照灯による照射範囲を定めるためのパラメータを算出する。パラメータの詳細については後述する。
【0020】
配光制御信号出力部23は、照射範囲算出部22によって算出される上記のパラメータに基づいて、車両用灯具2による配光制御に用いるための配光制御信号を生成し、出力する。この配光制御信号を受けた車両用灯具2は、配光制御信号により定まる光の照射範囲を実現するように動作する。
【0021】
図2(A)は、車両用灯具の構成例を示す模式的な正面図である。また、
図2(B)は、車両用灯具の光学的な構成を示す模式的な側面図である。各図に示すように車両用灯具は、マトリクスLED32とその前面に配置されたレンズ33を備えており、マトリクスLED32から出射する光がレンズ33によって前方へ投影されることでハイビーム、ロービーム等が形成される。ここでは10行30列に配列された複数のLEDを備えるマトリクスLED32を想定している。マトリクスLED32に含まれる各LEDを制御して選択的に点消灯させることにより、照射範囲算出部22によって設定された照射範囲に対応した光を照射することができる。
【0022】
本実施形態の車両用前照灯システムは上記構成を備えており、次にその動作を説明する。
【0023】
図3は、車両検出部21による処理内容を説明するための図である。
図3では、自車両100と前方車両101の位置関係が模式的な平面図により示されている。
図3に示すように、自車両100の略中央から進行方向へ向かって基準軸oを設定する。また、この基準軸oと直交する方向に沿った距離を表す場合には基準軸oを挟んで右方向がプラス、左方向がマイナスと設定する。このとき、角度θ1、θ2は、それぞれ、自車両100の車幅方向のほぼ中央に配置されたカメラ11によって撮像された前方車両101の左右の各端部(本例ではランプ位置)と基準軸oとのなす角度として定義される。車両検出部21は、画像処理部12による画像処理結果に基づいてこれらの角度θ1、θ2を検出する。
【0024】
また、自車両100と前方車両101の車間距離については、前方車両のランプ位置が画像内の上下方向においてどのような位置にあるかを検出することによって求められる。具体的には、車間距離が相対的に小さい場合には前方車両のランプ両端位置が画像内の下側に近い位置となり、逆に車間距離が相対的に大きい場合には前方車両のランプ両端位置が画像内の上側に近い位置となる。したがって、画像内の上下方向の位置と実際の車間距離との関係性を予め求めたデータテーブルを参照するか、又は、所定の関係式を用いる等によって、画像から車間距離の推定値を求めることができる。また、前方車両の車幅については、左右の各ランプ位置の間の距離として求められる。すなわち、ここで求められる車幅は自車両からの見かけ上の車幅であって、実際の車幅ではない。
【0025】
なお、
図3に示すように、以下の説明においては、自車両100の車幅(本例では前照灯の相互間距離)をAと定義し、自車両100と前方車両101の車間距離をBと定義し、基準軸oから前方車両101の右端(自車両100から見た見かけ上の右端)までの距離(横ずれ量)をCと定義し、前方車両101の車幅をDと定義する。例えば本実施形態では、距離Bについては自車両100の前照灯の位置から前方車両101の尾灯(又は前照灯)の位置まで距離をもって距離Bと定義され、また、横ずれ量Cについては自車両100の略中央(基準軸o)から前方車両101の右側前照灯(自車両100から見た見かけ上の右側前照灯)までの距離をもって横ずれ量Cと定義される。
【0026】
図4は、照射範囲算出部22による処理内容を説明するための図である。自車両100の右側前照灯による光が前方車両101に照射されないように設定される光の非照射範囲の右側端と基準軸oとのなす角度をα1とし、左側端と基準軸oとのなす角度をα2とする。同様に、自車両100の左側前照灯による光が前方車両101に照射されないように設定される光の非照射範囲の右側端と基準軸oとのなす角度をβ1とし、左側端と基準軸oとのなす角度をβ2とする。照射範囲算出部22は、車両検出部21によって検出された角度θ1、θ2に基づいてこれらの角度(非照射角度)α1、α2、β1、β2を算出する。これらの角度α1、α2、β1、β2は、前方車両101が先行車であればその側面鏡、前方車両101が対向車であればその車室内をそれぞれ照射しないような値に設定される。
【0027】
まず、角度α2、β1については、角度検出部によって検出される角度θ1、θ2と、車間距離Bならびに見かけ上の車幅D’を用いてそれぞれ以下のように設定される。
α2=θ2−k(θ1−θ2)−m(θ1−θ2) ・・・(1)
β1=θ1+k(θ1−θ2)+m(θ1−θ2) ・・・(2)
【0028】
ここで、各計算式における係数kは、自車両100の右前照灯による光の照射範囲を削除する左側端と前方車両101の端部との距離Lが所望の値となり、自車両100の左前照灯による光の照射範囲を削除する右側端と前方車両101の端部との距離Qも所望の値となるようにそれぞれ設定される。また、各計算式における係数mは、車間距離Bおよび見かけ上の車幅D’に応じて決まる可変の係数であって、前方車両の車両長に対応して増減する係数である。この係数mについては、予め用意しておいたデータテーブルを参照するか、又は予め用意しておいた関係式を用いることによって求められる。具体的には、同じ車間距離Bであれば、見かけ上の車幅D’が大きいほど前方車両が実際に大きく車両長も大きいと推定され、逆に見かけ上の車幅D’が小さいほど前方車両が実際に小さく車両長も小さいと推定される。したがって、車間距離Bと車幅D’の各値に応じて推定される車両長をデータテーブルとして用意しておけばよい。係数k、mは、車間距離Bとそのときに認識した見かけ上の車幅D’の変数だといえる(D’はDから推定)。式で係数k、mを算出する場合、前方車両が遠くにいればいるほど、見かけ上の車幅の大きさはほぼ変わらなくなり、車間距離が支配的になると考えられる。また、前方車両が近くにいればいるほど、見かけ上の車幅の大きさが支配的になると考えられる。車間距離Bと車幅D’の2次元配列をもつ場合でも、上記のような関係をもっていることが好ましい。
【0029】
上記した開き角(θ1−θ2)の値は、自車両100と前方車両101の距離Bと、自車両100と前方車両101の横ずれ量Cと、前方車両101の実際の車幅Dのそれぞれの大きさに応じて変化する。このため、開き角(θ1−θ2)を用いて角度θ1、θ2を補正することで、車間距離B、横ずれ量C、車幅Dを直接的に計測しなくともこれらの大きさに応じて角度α2、β1を可変に設定し、適切な光の照射範囲を設定することが可能になる。
【0030】
具体的には、
図4に示す配置を前提にすると、自車両100の右前照灯による光の照射範囲を削除する左側端と前方車両101の端部との距離Lは以下の計算式によって表すことができる。
L=A/2+D+B×tan(α2)−C
=A/2+D+B×tan(θ2−k(θ1−θ2))−C ・・・(3)
ここで、角度θ1、θ2は以下のように表すことができる。
θ1=arctan(C/B)
θ2=arctan((C−D)/B)
【0031】
よって、これらの角度θ1、θ2を(3)式に代入し、かつLとして好ましい値(例えば0.3m)を設定すれば、(3)式に基づいて係数kを求めることができる。例えば、自車両100の車幅Aを1mに設定し、距離Bを5m〜300mの間で可変に設定し、横ずれ量Cを−1m〜+50mの間で可変に設定し、前方車両101の車幅Dを1m〜2mの間で可変に設定し、距離Lが0.3m以上となるような係数kの値をシミュレーションすると、上記の(1)式における係数kを0.7〜0.9程度、より好ましくは0.8程度の値に設定することで角度α2として妥当な値を得られる。
【0032】
同様に、
図4に示す配置を前提にすると、自車両100の左前照灯による光の照射範囲を削除する右側端と前方車両101の端部との距離Qは以下の計算式によって表すことができる。
Q=−A/2+B×tan(β1)−C
=−A/2+B×tan(θ1+k(θ1−θ2))−C ・・・(4)
ここで、上記のように角度θ1、θ2は以下のように表すことができる。
θ1=arctan(C/B)
θ2=arctan((C−D)/B)
【0033】
よって、これらの角度θ1、θ2を(4)式に代入し、かつLとして好ましい値(例えば0.3m)を設定すれば、(4)式に基づいて係数kを求めることができる。例えば、自車両100の車幅Aを1mに設定し、距離Bを5m〜300mの間で可変に設定し、横ずれ量Cを−1m〜+50mの間で可変に設定し、前方車両101の車幅Dを1m〜2mの間で可変に設定し、距離Lが0.3m以上となるような係数kの値をシミュレーションすると、上記の(2)式における係数kを0.7〜0.9程度、より好ましくは0.8程度の値に設定することで角度β1として妥当な値を得られる。
【0034】
上記と同様な考え方によれば、右側前照灯による光の非照射範囲の右側端に対応する角度α1、左側前照灯による光の非照射範囲の左側端に対応する角度β2のそれぞれについては、角度検出部21によって検出される角度θ1、θ2およびこれら角度の差である開き角(θ1−θ2)を用いてそれぞれ以下のように設定される。
α1=θ1+m(θ1−θ2) ・・・(5)
β2=θ2−m(θ1−θ2) ・・・(6)
【0035】
すなわち、角度α1については、まず、θ1の項により、自車両100の右前照灯による光の照射範囲を削除する右側端は、少なくとも自車両の車幅Aの1/2だけ前方車両101の端部から離れた位置になる。また、開き角(θ1−θ2)は、自車両と前方車両の車間距離に相関のあるパラメータとして用いることができるので、θ1の項に対してm(θ1−θ2)の項が加わることにより、車両長の大きさ(推定値)に応じて角度α1を調整することができる。同様に、角度β2については、まず、θ2の項により、自車両100の左前照灯による光の照射範囲を削除する左側端は、自車両100の車幅Aの1/2だけ前方車両101の端部から離れた位置になる。また、開き角(θ1−θ2)は、自車両と前方車両の車間距離に相関のあるパラメータとして用いることができるので、θ2の項に対してm(θ1−θ2)の項が減じられることにより、車両長の大きさ(推定値)に応じて角度β2を調整することができる。
【0036】
図5は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照しながら車両用前照灯システムの動作について説明する。
【0037】
カメラ11により自車両の前方に存在する前方車両が撮像されると(ステップS11)、カメラ11から出力される画像データに対して画像処理部12が所定の画像処理を実行する(ステップS12)。
【0038】
次に、車両検出部21は、画像処理部12による画像処理結果に基づいて、上記した角度θ1、θ2を検出する(ステップS13)。また、車両検出部21は、画像処理部による画像処理結果に基づいて前方車両と自車両との車間距離を検出する(ステップS14)。
【0039】
次に、照射範囲算出部22は、角度θ1、θ2、車間距離および見かけ上の車幅を用いて、前方車両の車両長を求める(ステップS15)。そして、照射範囲算出部22は、角度θ1、θ2と前方車両の車両長に基づいて、自車両の前照灯による光の照射範囲を設定するために必要な角度α1、α2、β1、β2のそれぞれを算出する。
【0040】
具体的には、照射範囲算出部22は、開き角(θ1−θ2)と係数mを用いて上記した計算式に基づいて角度α1を演算するとともに開き角(θ1−θ2)と係数mを用いて上記した計算式に基づいて角度β2を演算する(ステップS16)。同様に、照射範囲算出部22は、開き角(θ1−θ2)と係数k、mを用いて上記した計算式に基づいて角度α2を演算するとともに開き角(θ1−θ2)と係数k、mを用いて上記した計算式に基づいて角度β1を演算する(ステップS17)。なお、ステップS16とステップS17の順番は適宜入れ替えることができる。
【0041】
次に、配光制御信号出力部23は、照射範囲算出部22によって算出される上記の角度α1、α2、β1、β2に基づいて、車両用灯具2による配光制御に用いるための配光制御信号を生成し、出力する(ステップS18)。
【0042】
図6は、本実施形態の車両用前照灯システムによる効果を説明するための模式的な平面図である。
図6に示すように、前方車両の車両長に基づく補正項を加えることで、特に角度α2、β2によって定まる光の照射範囲を前方車両の外側(図示の例では左側)へ移動させることができる。これにより、前方車両101へのグレアを抑制することができる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0044】
例えば、上記した実施形態においてはカメラ、画像処理部および配光制御装置を含んで配光制御システムが構成されていたが、自車両に予めカメラおよび画像処理部が備わっている場合には、それらのカメラ等と配光制御装置と組み合わせて配光制御システムを構築してもよい。また、カメラと画像処理部とは一体に構成されていてもよい。また、前方車両と自車両との車間距離については、別途設けた距離センサーを用いて検出してもよい。