特許第6251618号(P6251618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミマキエンジニアリングの特許一覧

<>
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000002
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000003
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000004
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000005
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000006
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000007
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000008
  • 特許6251618-印刷装置及び印刷方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6251618
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20171211BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20171211BHJP
【FI】
   B41J2/01 129
   B41J2/01 125
   B41J2/01 123
   C09D11/30
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-61899(P2014-61899)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-96321(P2015-96321A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-211840(P2013-211840)
(32)【優先日】2013年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】関 亮文
(72)【発明者】
【氏名】野崎 和也
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 博徳
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/087886(WO,A1)
【文献】 特開2009−196352(JP,A)
【文献】 特表2007−521356(JP,A)
【文献】 特開2004−195451(JP,A)
【文献】 特開2012−218440(JP,A)
【文献】 特開平11−348245(JP,A)
【文献】 特開2014−094546(JP,A)
【文献】 特開2006−227400(JP,A)
【文献】 国際公開第03/080344(WO,A1)
【文献】 米国特許第04196247(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、
前記有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドと、
前記オーバーコート層におけるインクを硬化させる液体である硬化剤の液滴を吐出するインクジェットヘッドである硬化剤用ヘッドと
を備え、
前記オーバーコート用ヘッドは、前記硬化剤に応じて硬化する物質である硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインクのインク滴を吐出することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記オーバーコート用ヘッドは、疎水性の前記有機溶剤を含むソルベントインクのインク滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記オーバーコート用ヘッドは、透明なクリア色のインクのインク滴を吐出することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記オーバーコート用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤を含むインクのインク滴を吐出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記硬化剤用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と混合された前記硬化剤の液滴を吐出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記オーバーコート用ヘッドは、前記硬化性物質としてアクリル樹脂を含むインクのインク滴を吐出し、
前記硬化剤用ヘッドは、ポリマー系の硬化剤を含む前記硬化剤の液滴を吐出することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記有色インク用ヘッドは、予め設定された主走査方向へ移動しつつインク滴を吐出する主走査動作と、前記主走査方向と直交する副走査方向へ前記媒体に対して相対的に移動する副走査動作とを繰り返すことにより、前記媒体上の各位置へインク滴を吐出し、
前記オーバーコート用ヘッドは、前記有色インク用ヘッドと前記副走査方向における位置をずらして配設され、
前記硬化剤用ヘッドは、前記主走査方向において前記オーバーコート用ヘッドと並べて配設されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記媒体を加熱することにより、前記オーバーコート層中のインクの前記有機溶剤を揮発させて除去するヒータを更に備え、
前記有色インク用ヘッドにおいて用いる前記有色のインクは、乾燥により前記媒体に定着するインクであり、
前記ヒータは、少なくとも、前記有色インク用ヘッドにより吐出されたインク滴が前記媒体に着弾する位置である第1の着弾位置と、前記オーバーコート用ヘッドにより吐出されたインク滴が前記媒体に着弾する位置である第2の着弾位置とを加熱し、
かつ、前記第2の着弾位置の温度が、前記第1の着弾位置の温度よりも低くなるように、前記媒体を加熱することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
前記媒体を搬送することで前記オーバーコート用ヘッド及び前記硬化剤用ヘッドに対して前記媒体を移動させる媒体搬送部と、
前記媒体搬送部により前記媒体が搬送される搬送方向において前記オーバーコート用ヘッド及び前記硬化剤用ヘッドよりも下流側で前記媒体を加熱するヒータと、
前記搬送方向において前記ヒータよりも下流側で前記媒体を巻き取る媒体巻取部と
を更に備え、
前記ヒータは、前記オーバーコート層の温度がガラス転移点以上の温度になるように前記媒体を加熱し、
前記媒体巻取部は、前記オーバーコート層の温度がガラス転移点未満の温度に下がった状態の前記媒体を巻き取ることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
前記ヒータと前記媒体巻取部との間に配設され、前記媒体巻取部に巻き取られる前の前記媒体へ粉体を散布するパウダリング装置を更に備えることを特徴とする請求項9に記載の印刷装置。
【請求項11】
インクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、
有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、
前記有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドと、
前記オーバーコート層におけるインクを硬化させる液体である硬化剤の液滴を吐出するインクジェットヘッドである硬化剤用ヘッドと
を用い、
前記オーバーコート用ヘッドは、前記硬化剤に応じて硬化する物質である硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインクのインク滴を吐出することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば屋外広告等の屋外に設置される印刷物の印刷を行う場合等に、インクジェットプリンタが広く用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。また、このような印刷物においては、耐候性を高めること等を目的として、印刷された画像に重ねて、オーバーコート剤が塗布される場合がある。オーバーコート剤の塗布は、例えば、スプレー、刷毛、又はドブ漬け等による方法で行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】インターネットURL http://www.mimaki.co.jp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような方法でオーバーコート剤を塗布する場合、例えば、塗りムラが生じやすくなり、印刷の見栄えが低下する場合がある。また、例えば、画像が描かれていない余白部分にまでオーバーコート剤が塗布され、オーバーコート剤が余計に消費されやすくなる。更には、例えば、画像を描くインクジェットプリンタとは別にオーバーコード剤を塗布するための装置等が必要になり、メンテナンスに手間がかかる場合がある。
【0005】
これに対し、近年、オーバーコート剤として紫外線硬化型のクリアインクを用い、インクジェットプリンタでオーバーコート剤の塗布も行うことも行われている。このように構成すれば、例えば、塗布後のクリアインクに紫外線を照射することにより、画像を覆うオーバーコート層を硬化させ、印刷物の耐候性を高めることができる。また、インクジェットヘッドを用いることにより、塗りムラの発生を適切に抑え、クリアインクを均一に塗布することができる。また、必要な領域のみにオーバーコート剤を塗布し、オーバーコート剤の使用量を節約することもできる。更には、一台のインクジェットプリンタで画像の描画と、オーバーコート剤の塗布とを行うことができるため、メンテナンスの手間を低減できる。
【0006】
しかし、本願の発明者は、鋭意研究により、紫外線硬化型のクリアインクでオーバーコート層を形成する場合において、オーバーコート層の強度を十分に高めることが難しい場合があることを見出した。また、その原因として、紫外線硬化型のクリアインクにおいて、インクを硬化させるために必要な添加物の量や種類が多いことが、硬化後の強度に影響していることを見出した。
【0007】
そのため、インクジェット方式でオーバーコート層を形成する場合、より適切な構成のインクを用いてオーバーコート層を形成することが望まれる。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者は、インクジェット方式でオーバーコート層を形成する方法に関し、鋭意研究を行った。そして、紫外線硬化型のインクではなく、ソルベントインクのクリアインクを作成し、オーバーコート層を形成することを考えた。そして、先ず、このクリアインクとして、オーバーコート層の材料となるクリア材料を有機溶剤に溶かした構成のインクを作成し、オーバーコート層を形成した。このようにすれば、例えば、クリアインク中の余計な添加物等を適切に低減できると考えられる。
【0009】
しかし、実際に実験等を行ったところ、単にクリア材料を有機溶剤に溶かしたのみでは、様々な問題が生じる場合があることが判明した。具体的には、例えば、このような構成のクリアインクを用いる場合、十分な耐候性を有するオーバーコート層を形成するためには、単に有機溶剤を揮発除去するだけでなく、クリア材料を十分に固まらせることが必要である。
【0010】
また、オーバーコート層の耐候性を十分に高めるためには、多くの量のオーバーコート層の材料を塗布することが必要になる場合がある。そして、この場合、全てのクリア材料を十分に固まらせるために必要な時間も長くなり、例えば、インク滴の吐出によりインクの層を形成した後、例えばヒータで乾燥させるのみでは、オーバーコート層の硬さが不十分になるおそれがある。また、例えば、オーバーコート層の材料が十分に硬くなるまで待つとすれば、オーバーコート層の完成にまで多くの時間がかかることになる。また、その結果、実用的な時間内にオーバーコート層を適切に完成させることが困難になるおそれがある。
【0011】
そこで、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、単にクリア材料を有機溶剤に溶かした構成ではなく、クリアインクを硬化剤で硬化させる2液硬化型の構成により、オーバーコート層を形成することを考えた。上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)インクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドと、オーバーコート層におけるインクを硬化させる液体である硬化剤の液滴を吐出するインクジェットヘッドである硬化剤用ヘッドとを備え、オーバーコート用ヘッドは、硬化剤に応じて硬化する物質である硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインクのインク滴を吐出する。
【0013】
このように構成した場合、例えば、オーバーコート層におけるインクを硬化剤により硬化させることにより、高い耐候性を有するオーバーコート層を速やかに形成することができる。また、例えば、オーバーコート層用のインクとして紫外線硬化型インクを用いる場合と比べ、インク中の添加物等を適切に低減できる。また、これにより、オーバーコート層の強度をより適切に高めることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、インクジェット方式でオーバーコート層を形成する場合において、より適切な構成のインクを用いてオーバーコート層を形成することができる。
【0014】
ここで、オーバーコート層は、例えば、クリアインクで形成されるクリア層であり、有色インク層を覆うことで有色インク層を保護する。オーバーコート用ヘッドで用いるインクは、有機溶剤を主成分とするインクであることが好ましい。有機溶剤を主成分とするとは、例えば、有機溶剤の含有量が50重量%よりも多いことである。
【0015】
また、オーバーコート用ヘッドで用いるインク中の有機溶剤としては、例えば、消防法において定められる危険物第四類第3石油類から選ばれる有機溶剤を用いることができる。このように構成すれば、例えば、公知のソルベントインクと同様の有機溶剤を用いることにより、インク滴の吐出を安定して適切に行うことができる。また、例えば、インク中の有機溶剤の蒸発速度を抑えることにより、インクジェットヘッドのノズル付近でインクが乾燥すること等を適切に防ぐこともできる。
【0016】
また、オーバーコート用ヘッドで用いるインク中の有機溶剤としては、例えば、消防法において定められる危険物第四類第2石油類から選ばれる有機溶剤を用いることもできる。このように構成すれば、例えば、インクの塗布量が多い場合にも、インク中の有機溶剤をより短時間で揮発除去することができる。
【0017】
(構成2)オーバーコート用ヘッドは、疎水性の有機溶剤を含むソルベントインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層を適切に形成することができる。
【0018】
尚、疎水性の有機溶剤とは、例えば、非極性の有機溶剤である。疎水性の有機溶剤としては、例えば、公知のソルベントインクにおいて用いられている有機溶剤と同一又は同様の有機溶剤を好適に用いることができる。
【0019】
(構成3)オーバーコート用ヘッドは、透明なクリア色のインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層を適切に形成することができる。
【0020】
(構成4)オーバーコート用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤を含むインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層の耐候性をより適切に高めることができる。
【0021】
ここで、例えば屋外等に印刷物を設置した場合、印刷物の表面は、通常、紫外線の影響を大きく受ける。そのため、オーバーコート層の耐候性を高めるためには、紫外線吸収剤を含むインクでオーバーコート層を形成することが有効である。しかし、例えば、紫外線硬化型インクを用いてオーバーコート層を形成する場合、紫外線の照射によりインクを硬化させることが必要であるため、通常、インク中に紫外線吸収剤を含ませることができない。
【0022】
これに対し、硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインク(例えば、ソルベントインク)を用いる場合、インクを定着させるために紫外線を照射する必要はない。そのため、この場合、紫外線吸収剤を含むインクを用いることが可能である。従って、このように構成すれば、オーバーコート層が受ける紫外線の影響を適切に低減できる。また、これにより、上記のとおり、例えば、オーバーコート層の耐候性をより適切に高めることができる。
【0023】
尚、紫外線吸収剤の含有量を多くしすぎると、オーバーコート層の強度に影響が生じるおそれもある。また、紫外線吸収剤の種類によっては、紫外線の吸収により発熱をする場合もある。そして、このような発熱は、印刷物の耐候性に影響を与えるおそれもある。そのため、紫外線吸収剤の含有量は、1%程度(例えば、0.1〜3%程度、より好ましくは、0.5〜1.5%程度)とすることが好ましい。
【0024】
(構成5)硬化剤用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と混合された硬化剤の液滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、紫外線吸収剤を含むオーバーコート層を適切に形成することができる。また、これにより、オーバーコート層の耐候性をより適切に高めることができる。
【0025】
(構成6)オーバーコート用ヘッドは、硬化性物質としてアクリル樹脂を含むインクのインク滴を吐出し、硬化剤用ヘッドは、ポリマー系の硬化剤の液滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層用のインクを、硬化剤により適切に硬化させることができる。
【0026】
(構成7)有色インク用ヘッドは、予め設定された主走査方向へ移動しつつインク滴を吐出する主走査動作と、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体に対して相対的に移動する副走査動作とを繰り返すことにより、媒体上の各位置へインク滴を吐出し、オーバーコート用ヘッドは、有色インク用ヘッドと副走査方向における位置をずらして配設され、硬化剤用ヘッドは、主走査方向においてオーバーコート用ヘッドと並べて配設される。
【0027】
この場合、有色インク用ヘッドは、例えば、主走査動作の合間に、副走査動作を行う。また、オーバーコート用ヘッド及び硬化剤用ヘッドは、有色インク用ヘッドと同時に、主走査動作及び副走査動作を行う。更に、オーバーコート用ヘッド及び硬化剤用ヘッドは、有色インク用ヘッドと副走査方向における位置をずらして配設されることにより、各回の主走査動作において、有色インク用ヘッドによる主走査動作が既に完了している領域に対し、主走査動作を行う。
【0028】
このように構成すれば、例えば、有色インク層の上にオーバーコート層を適切に形成できる。また、各回の主走査動作において、オーバーコート層用のインクと、硬化剤とを適切に接触させることができる。また、これにより、オーバーコート層用のインクを適切に硬化させることができる。
【0029】
(構成8)媒体を加熱することにより、オーバーコート層中のインクの有機溶剤を揮発させて除去するヒータを更に備え、有色インク用ヘッドにおいて用いる有色のインクは、乾燥により媒体に定着するインクであり、ヒータは、少なくとも、有色インク用ヘッドにより吐出されたインク滴が媒体に着弾する位置である第1の着弾位置と、オーバーコート用ヘッドにより吐出されたインク滴が媒体に着弾する位置である第2の着弾位置とを加熱し、かつ、第2の着弾位置の温度が、第1の着弾位置の温度よりも低くなるように、媒体を加熱する。
【0030】
有色のインクとして、乾燥により媒体に定着するインクを用いる場合、インクの滲みが発生することを防ぐためには、通常、インク滴の着弾後、速やかにインクを乾燥させることが望ましい。そのため、有色のインクの着弾位置である第1の着弾位置の加熱温度は、短時間でインクを乾燥させることが可能なように、ある程度以上の高温にすることが望ましい。
【0031】
一方、本構成のように、硬化剤を用いてオーバーコート層用のインクを硬化させる場合、インク滴の着弾位置の加熱温度が高すぎると、硬化剤と十分に混ざる前にインクが乾燥するおそれがある。そして、この場合、オーバーコート層においてインクの硬化が不十分になるおそれもある。また、クリアインク等で形成されるオーバーコート層の場合、通常、単一色(クリア色等)のインクでインクの層を形成するため、滲みの問題は生じない。そのため、有色のインクと比べて、時間をかけてインクを乾燥させることもできる。
【0032】
これに対し、構成8のように構成した場合、オーバーコート層のインクの着弾位置である第2の着弾位置の加熱温度を低くすることにより、硬化剤と十分に混ざる前にインクが乾燥することを適切に防ぐことができる。また、これにより、インクを十分に硬化させ、耐候性の高いオーバーコート層をより適切に形成できる。
【0033】
尚、有色のインクとしては、例えば、ソルベントインクを好適に用いることができる。また、有色のインクとして、例えば、ラテックスインクや、ソルベントUVインク等を用いることも考えられる。
【0034】
(構成9)媒体を搬送することでオーバーコート用ヘッド及び硬化剤用ヘッドに対して媒体を移動させる媒体搬送部と、媒体搬送部により媒体が搬送される搬送方向においてオーバーコート用ヘッド及び硬化剤用ヘッドよりも下流側で媒体を加熱するヒータと、搬送方向においてヒータよりも下流側で媒体を巻き取る媒体巻取部とを更に備え、ヒータは、オーバーコート層の温度がガラス転移点以上の温度になるように媒体を加熱し、媒体巻取部は、オーバーコート層の温度がガラス転移点未満の温度に下がった状態の媒体を巻き取る。
【0035】
このヒータは、例えば、アフターヒータである。アフターヒータとは、例えば、媒体の搬送方向においてオーバーコート用ヘッド及び硬化剤用ヘッドよりも下流側に配設されるヒータであり、媒体において有色インク層及びオーバーコート層の形成が完了した領域を加熱する。また、媒体巻取部について、オーバーコート層の温度がガラス転移点未満の温度に下がった状態の媒体を巻き取るとは、例えば、媒体巻取部に巻き取られる箇所(巻き取り箇所)の温度がガラス転移点未満の温度に下がった状態の媒体を巻き取ることである。
【0036】
オーバーコート層の形成は、例えば広告等の用途の印刷物の印刷時に行うことが考えられる。また、このような用途においては、例えば、印刷後にロール状に巻き取られる媒体を好適に用いることができる。そして、このような媒体を用いる場合、オーバーコート用ヘッドから吐出するインクに含まれる有機溶剤について、巻き取り前に十分に除去することが望ましい。そのため、この場合、巻き取り前に、アフターヒータ等のヒータにより十分に媒体を加熱することが望ましい。
【0037】
また、例えばクリアインク層等のオーバーコート層を形成する場合、印刷物の耐候性を十分に高めるためには、インクの塗布量を十分に多くすることが必要になる場合ある。そして、この場合、印刷速度を低下させずにオーバーコート層中の有機溶剤を十分に除去するためには、アフターヒータでの加熱温度を高くすることが必要になる場合がある。
【0038】
しかし、本願の発明者は、鋭意研究により、巻き取り時の媒体の温度が高い場合、巻き取り後の媒体においてブロッキング等の問題が生じることを見いだした。この場合、ブロッキングとは、例えば、印刷後に媒体を重ねた場合に媒体上のインクの少なくとも一部がその上に重ねられた媒体の裏面に付着し、接着したインクを剥がす際に印刷面が剥がれる現象である。また、ブロッキングは、いわゆる裏移りが生じる状態であるとも言える。
【0039】
また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、ブロッキング等の問題について、巻き取り時のオーバーコート層の温度がガラス転移点以上の場合に生じやすいことを見い出した。また、巻き取り時のオーバーコート層の温度をガラス転移点未満にすることにより、ブロッキング等の問題を適切に抑え得ることを見い出した。そのため、このように構成すれば、例えば、印刷後にロール状に巻き取られる媒体を用いる場合においても、ブロッキング等の問題の発生を抑え、より適切にオーバーコート層を形成できる。
【0040】
尚、巻き取り時のオーバーコート層の温度については、例えば、ヒータ(アフターヒータ等)での加熱後、媒体を巻き取るまでの時間を十分に空けることで適切に温度を下げることができる。また、この場合、より具体的には、例えば、ヒータから媒体巻取部までの媒体の搬送距離を十分に空けることが考えられる。また、ヒータでの加熱後、例えば冷却用のファン等を用いて、オーバーコート層の温度を下げてもよい。
【0041】
(構成10)ヒータと媒体巻取部との間に配設され、媒体巻取部に巻き取られる前の媒体へ粉体を散布するパウダリング装置を更に備える。パウダリング装置は、例えば、オーバーコート層の温度がガラス転移点未満に下がった状態の媒体に対し、粉体を散布することが好ましい。
【0042】
本願の発明者は、更なる鋭意研究により、媒体巻取部による巻き取り位置の手前で媒体へ粉体を散布することで、より適切にブロッキング等の問題を抑え得ることを見出した。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層の形成後に、より適切に媒体を巻き取ることができる。
【0043】
尚、粉体としては、例えば、直径が10μm程度以下のパウダを好適に用いることができる。また、このようなパウダとしては、例えば、デンプンやシリカ等のパウダを好適に用いることができる。
【0044】
(構成11)インクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドとを備え、オーバーコート用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、有機溶剤とを含むインクのインク滴を吐出する。
【0045】
このように構成した場合、例えば、オーバーコート層用のインクとして紫外線硬化型インクを用いる場合と比べ、インク中の添加物等を適切に低減できる。また、これにより、オーバーコート層の強度をより適切に高めることができる。また、紫外線吸収剤を含むインクを用いることにより、オーバーコート層が受ける紫外線の影響を適切に低減できる。また、これにより、例えば、オーバーコート層の耐候性をより適切に高めることができる。
【0046】
更には、このように構成した場合、紫外線吸収剤を含むインクを用いることにより、例えば、オーバーコート層の厚さをより薄くした場合にも、高い耐候性を有するオーバーコート層を適切に形成できる。そのため、例えば硬化剤を用いる構成ではなく、乾燥によりオーバーコート層の硬度を高める場合においても、実用的な時間内にオーバーコート層を適切に完成させることができる。
【0047】
(構成12)インクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドと、オーバーコート層におけるインクを硬化させる液体である硬化剤の液滴を吐出するインクジェットヘッドである硬化剤用ヘッドとを用い、オーバーコート用ヘッドは、硬化剤に応じて硬化する物質である硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、構成1と同様の効果を得ることができる。
【0048】
(構成13)インクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層を媒体上に形成するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、有色インク層を覆うインクの層であるオーバーコート層を形成するインクジェットヘッドであるオーバーコート用ヘッドとを用い、オーバーコート用ヘッドは、紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、有機溶剤とを含むインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、構成11と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、例えば、インクジェット方式でオーバーコート層を形成する場合において、より適切な構成のインクを用いてオーバーコート層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す図である。図1(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す側面図である。図1(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図である。図1(c)は、印刷装置10により形成するインクの層の一例を示す。
図2】本例において用いるクリアインク(主剤)と、硬化剤の具体的な組成の一例を示す図である。
図3】主剤と硬化剤との混合比率を異ならせてオーバーコート層104の特性を確認した実験について説明をする図である。図3(a)は、この実験において用いた印刷条件を示す。図3(b)は、実験結果を示す表である。
図4】印刷装置10の構成の他の例について、要部の構成の一例を示す図である。
図5】アフターヒータ部36での加熱後に媒体50を巻き取る実験の結果を示す図である。図5(a)は、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離が短い場合について、媒体50の温度分布の測定結果を示す。図5(b)は、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離をより長くした場合について、媒体50の温度分布の測定結果を示す。
図6】印刷装置10の構成の更なる他の例について、要部の構成の一例を示す図である。図6(a)は、印刷装置10の全体の構成の一例を示す。図6(b)は、印刷装置10におけるパウダリング装置60の構成の一例を示す。
図7】シリアルパウダリングユニット62のより詳細な構成の一例を示す図である。図7(a)は、シリアルパウダリングユニット62の側断面図である。図7(b)は、シリアルパウダリングユニット62の上面図である。
図8】印刷装置10の構成の更なる他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す。図1(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す側面図である。図1(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図である。図1(c)は、印刷装置10により形成するインクの層の一例を示す。
【0052】
本例において、印刷装置10は、媒体(メディア)50に対してインクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、複数のインクジェットヘッド、制御部26、プラテン18、主走査駆動部20、副走査駆動部22、及びヒータ24を備える。また、複数のインクジェットヘッドとして、カラーインク用ヘッド12y、12m、12c、12k(以下、カラーインク用ヘッド12y〜kと記載する)、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16を有する。
【0053】
カラーインク用ヘッド12y〜kのそれぞれは、有色のインクにより形成されるインクの層である有色インク層102を媒体50上に形成するインクジェットヘッドである。また、本例において、カラーインク用ヘッド12y〜kのそれぞれは、YMCKの各色のインクのインク滴を吐出する。YMCKの各色のインクとしては、例えばソルベントインクを好適に用いることができる。ソルベントインクとは、例えば、有機溶剤を溶媒として用いるインクである。この有機溶剤は、例えば、疎水性の有機溶剤である。また、この有機溶剤は、揮発性有機溶剤であってよい。
【0054】
尚、有色のインクとしては、例えば、ラテックスインクや、ソルベントUVインク等を用いることも考えられる。ラテックスインクとは、例えば、ポリマー素材と溶媒とを含み、乾燥によりポリマー素材を媒体に定着させるインクである。また、ソルベントUVインクとは、例えば、紫外線硬化型の物質(モノマー又はオリゴマー等)と、溶媒である有機溶剤とを含むインクである。
【0055】
また、本例において、複数のカラーインク用ヘッド12y〜kは、印刷装置10において予め設定された主走査方向(図中のY方向)に並べて配設される。これにより、複数のカラーインク用ヘッド12y〜kは、各回の主走査動作において、媒体50上の同じ領域へインク滴を吐出する。主走査動作とは、例えば、主走査方向へ移動しつつインク滴を吐出するインクジェットヘッドの動作である。
【0056】
クリアインク用ヘッド14は、オーバーコート用ヘッドの一例であり、カラーインク用ヘッド12y〜kにより形成された有色インク層102の上に、オーバーコート層104の材料となるインク(主剤)のインク滴を吐出する。オーバーコート用ヘッドとは、例えば、有色インク層102を覆うインクの層であるオーバーコート層104を形成するインクジェットヘッドである。また、オーバーコート層104は、例えば、有色インク層102を覆うことで有色インク層102を保護するインク層である。
【0057】
また、本例において、オーバーコート層104は、クリアインクで形成されるクリア層である。また、オーバーコート層104の材料となるインクは、所定の硬化剤と混ざることで硬化するクリアインクである。この場合、クリアインクとは、例えば、無色透明のインクのことである。また、より具体的に、このインクは、例えば、硬化剤に応じて硬化する物質である硬化性物質を有機溶剤中に分散させたインクである。
【0058】
更に、本例において、オーバーコート層104の材料となるインクは、疎水性の有機溶剤を含むソルベントインクである。このインクは、有機溶剤を主成分とするインクであることが好ましい。有機溶剤を主成分とするとは、例えば、有機溶剤の含有量が50重量%よりも多いことである。
【0059】
また、本例において、クリアインク用ヘッド14は、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX方向)において、カラーインク用ヘッド12y〜kと位置をずらして配設される。そして、クリアインク用ヘッド14は、例えば、カラーインク用ヘッド12y〜kの主走査動作時において、カラーインク用ヘッド12y〜kと共に主走査方向へ移動して、主走査動作を行う。これにより、各回の主走査動作において、クリアインク用ヘッド14は、カラーインク用ヘッド12y〜kにより形成された有色インク層102の上に、クリアインクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、有色インク層102の上にオーバーコート層104を適切に形成できる。
【0060】
また、本例において、クリアインク用ヘッド14は、例えば、図中に距離Lとして示したように、副走査方向においてカラーインク用ヘッド12y〜kから離間した位置に配設される。このように構成すれば、例えば、媒体50の各位置において、有色インク層102が形成されてから、その上にクリアインクが吐出されるまでの時間(タイムラグ)を適切かつ十分に空けることができる。また、距離Lを調整することにより、このタイムラグを適切に調整できる。そのため、このように構成すれば、例えば、クリアインクを重ねる前に、有色インク層102を適切かつ十分に乾燥させることができる。また、これにより、例えば、有色インク層102を構成するインクの再溶解等を防ぎつつ、有色インク層102上にオーバーコート層104を適切に形成できる。
【0061】
硬化剤用ヘッド16は、オーバーコート層104におけるインクを硬化させる液体である硬化剤の液滴を吐出するインクジェットヘッドであり、主走査方向においてオーバーコート用ヘッドと並べて配設される。本例において、硬化剤は、オーバーコート層104の材料の主剤となるクリアインクを硬化させる薬剤である。また、クリアインク用ヘッド14の主走査動作時において、硬化剤用ヘッド16は、クリアインク用ヘッド14と共に主走査方向へ移動して、主走査動作を行う。このように構成すれば、例えば、クリアインクのインク滴と、硬化剤の液滴とを、1回の主走査動作(ワンスキャン)の中で同じ領域へ吐出することができる。また、これにより、例えば、各回の主走査動作において、クリアインクが乾燥する前に、クリアインクと、硬化剤とを適切に接触させ、クリアインクを適切に硬化させることができる。
【0062】
尚、媒体50の各領域に対し、クリアインクのインク滴の吐出と、硬化剤の液滴の吐出とを、別の主走査動作で行い、例えばクリアインクのみを先に塗布した場合、クリアインクの揮発性が高い場合等には、硬化剤と混ざる前にクリアインクが乾燥することも考えられる。そのため、本例のように、クリアインクのインク滴と、硬化剤の液滴とを1回の主走査動作の中で吐出することが特に好ましい。また、クリアインク及び硬化剤のより具体的な特徴等については、後に更に詳しく説明をする。
【0063】
制御部26は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部を制御する。プラテン18は、カラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16と対向させて媒体50を保持する台状部材である。主走査駆動部20は、カラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16に主走査動作を行わせる駆動部である。主走査駆動部20は、例えばカラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16を保持するキャリッジや、主走査方向へキャリッジを移動させるガイドレール等を有する部分であってよい。
【0064】
副走査駆動部22は、カラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16に副走査動作を行わせる駆動部である。副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動するインクジェットヘッドの動作である。副走査駆動部22は、例えば、媒体50を搬送するローラ等であってよい。
【0065】
尚、副走査駆動部22は、例えば、主走査動作の合間に、カラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16に、副走査動作を行わせる。これにより、カラーインク用ヘッド12y〜kは、主走査動作と、副走査動作とを繰り返し、媒体50上の各位置へインク滴を吐出する。また、各回の主走査動作において、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16は、有色インク用ヘッドによる主走査動作が既に完了している領域に対して主走査動作を行い、有色インク層102上にオーバーコート層104を形成する。
【0066】
ヒータ24は、媒体50を加熱することで媒体50上のインクを乾燥させる加熱手段である。本例において、ヒータ24は、プレヒータ部32、プラテンヒータ部34、及びアフターヒータ部36を有する。プレヒータ部32は、媒体50の搬送方向においてカラーインク用ヘッド12y〜kよりも上流側に配設されるヒータであり、カラーインク用ヘッド12y〜kから吐出されるインク滴が着弾する前に、媒体50の各位置を予め加熱する。プラテンヒータ部34は、カラーインク用ヘッド12y〜k、クリアインク用ヘッド14、及び硬化剤用ヘッド16と対向する位置において媒体50を加熱するヒータであり、それぞれのインクジェットヘッドから吐出されるインク滴の着弾位置において、媒体50を加熱する。これにより、ヒータ24は、例えば、少なくとも、カラーインク用ヘッド12y〜kにより吐出されたインク滴が媒体に着弾する位置である第1の着弾位置と、クリアインク用ヘッド14により吐出されたインク滴が媒体に着弾する位置である第2の着弾位置とを加熱する。また、アフターヒータ部36は、媒体50の搬送方向においてクリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16よりも下流側に配設されるヒータであり、媒体50において有色インク層102及びオーバーコート層104の形成が完了した領域を加熱する。このように構成すれば、例えば、媒体50の各位置を適切かつ十分に加熱できる。
【0067】
ここで、インクの乾燥についてより具体的に説明をすると、本例において、カラーインク用ヘッド12y〜kから吐出する有色インク、及びクリアインク用ヘッド14から吐出するクリアインクは、ソルベントインクあるため、乾燥により媒体50に定着する。そのため、ヒータ24は、媒体50を加熱することにより、有色インク層102中のインク、及びオーバーコート層104中のインクの有機溶剤を揮発させて除去する。
【0068】
そして、この場合において、有色インク層102中の有色インクについて、インクの滲みが発生することを防ぐためには、インク滴の着弾後、速やかにインクを乾燥させることが望ましい。そのため、有色のインクの着弾位置(第1の着弾位置)の加熱温度は、短時間でインクを乾燥させることが可能なように、ある程度以上の高温にすることが望ましい。
【0069】
一方、本例において、オーバーコート層104は、単一色のクリアインクを用いて形成する。そのため、オーバーコート層104について、滲みの問題は生じない。従って、オーバーコート層104については、有色のインクと比べて、時間をかけてインクを乾燥させることもできる。また、本例のように、硬化剤を用いてクリアインクを硬化させる場合、インク滴の着弾位置の加熱温度が高すぎると、硬化剤と十分に混ざる前にインクが乾燥するおそれがある。そして、この場合、オーバーコート層104においてインクの硬化が不十分になるおそれもある。
【0070】
そのため、本例において、ヒータ24は、例えば、クリアインクの着弾位置(第2の着弾位置)の温度が有色インクの着弾位置の温度よりも低くなるように、媒体50を加熱してもよい。このように構成すれば、例えば、硬化剤と十分に混ざる前にクリアインクが乾燥することを適切に防ぐことができる。また、これにより、クリアインクを十分に硬化させ、耐候性の高いオーバーコート層104をより適切に形成できる。
【0071】
以上の構成により、本例においては、例えば、クリアインクを硬化剤により硬化させることで、高い耐候性を有するオーバーコート層104を速やかに形成することができる。また、例えば、ソルベントインクのクリアインクでオーバーコート層104を形成することにより、例えば、紫外線硬化型インクを用いる場合と比べ、インク中の添加物等を適切に低減できる。また、これにより、オーバーコート層104の強度をより適切に高めることができる。そのため、本例によれば、例えば、インクジェット方式でオーバーコート層104を形成する場合において、より適切な構成のインクを用いてオーバーコート層104を形成することができる。また、これにより、例えば、有色インク層102による印刷面を適切に保護し、例えば、退色や傷等を適切に防止できる。また、無色透明のオーバーコート層104を形成することにより、光沢感を高め、画質を向上させることもできる。
【0072】
また、本例においては、オーバーコート層104を短時間で硬化させることが可能であるため、例えば、オーバーコート層104の厚さを大きくすることもできる。より具体的には、例えば、媒体50の各領域に対し、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16による主走査動作を複数回(例えば2回)行い、複数層(例えば2層)のオーバーコート層104を形成すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層104の耐候性を更に高めることができる。
【0073】
尚、この場合、形成するオーバーコート層104の総数に応じて、例えば、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16の副走査方向への長さを、カラーインク用ヘッド12y〜kよりも長くすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、1層の有色インク層102の上に、複数層のオーバーコート層104を適切に形成できる。
【0074】
また、本例においては、有色インク層102及びオーバーコート層104の両方を主走査動作により形成することにより、有色インクとクリアインクとを同時に塗布して、一の工程で、有色インク層102及びオーバーコート層104を適切に形成できる。そのため、例えば、有色インク層102の形成後、オーバーコート層104を形成するために媒体50を再セットすること等が必要ない。更には、インクジェット方式でオーバーコート層104を形成することにより、オーバーコート層104の材料の無駄塗りを防ぎ、必要な領域のみに対し、均一な厚さのオーバーコート層104を適切に形成できる。そのため、本例によれば、コストの無駄な増大を抑えつつ、高い精度のオーバーコート層104を適切に形成することもできる。
【0075】
また、上記のように、本例においては、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16と、カラーインク用ヘッド12y〜kとの間の距離Lを調整することにより、有色インク層102上にクリアインクを塗布するまでのタイムラグを設け、クリアインクを重ねる前に有色インクを十分に乾燥させている。また、これにより、有色インク層102において滲みが発生することを抑えている。
【0076】
これに対し、有色インク層102において滲みが発生することを抑えるためには、例えば、ヒータ24による加熱温度を高めること等も考えられる。より具体的には、例えば、ヒータ24におけるプレヒータ部32において十分に加熱を行うことにより、有色のインクの着弾位置(第1の着弾位置)における加熱温度を適切に高めることができる。また、この場合、例えば、クリアインクの着弾位置(第2の着弾位置)については、プレヒータ部32からの距離が遠くなるため、第1の着弾位置よりも低い温度で媒体50を加熱することもできる。そのため、このように構成した場合も、有色インクの滲みを抑えつつ、クリアインクの乾燥も防ぐことができる。
【0077】
また、この場合、例えば、プラテンヒータ部34の構成について、カラーインク用ヘッド12y〜kのみと対向させ、クリアインク用ヘッド14とは対向させないこと等も考えられる。このようにした場合、有色インクの着弾位置のみを直接加熱し、クリアインクの着弾位置については、余熱による加熱のみを行う構成となる。このように構成した場合も例えば、クリアインクの着弾位置について、有色のインクの着弾位置よりも低い温度で適切に加熱できる。
【0078】
また、オーバーコート層104をより適切に乾燥させるためには、例えば、クリアインクの塗布量に応じて、ヒータ24上を媒体50が通過する通過時間を変更することも考えられる。例えば、オーバーコート層104の耐候性を高めるためにクリアインク等の塗布量を多くする場合、高速印刷を行うために短時間でヒータ24上を媒体50に通過させると、乾燥量が不十分になるおそれもある。そのため、例えば印刷速度を可変にする方法や、ヒータ24において加熱を行う領域の長さ(副走査方向における長さ)を可変にすることで、クリアインク等の塗布量に応じて、加熱を行う時間を変更すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層104をより適切に乾燥させることができる。
【0079】
続いて、本例において用いるクリアインク及び硬化剤について、具体的な特徴等を更に詳しく説明する。オーバーコート層104においては、例えば層の材料となるインクの塗布量を多くすることにより、耐候性をより高めることができる。また、塗布量を多くする場合、インクの乾燥性が高いことが好ましい。そのため、クリアインク用ヘッド14で用いるクリアインク(主剤)中の有機溶剤としては、例えば、消防法において定められる危険物第四類第2石油類から選ばれる有機溶剤を用いることが考えられる。また、硬化剤の溶剤としても、例えば、第2石油類から選ばれる有機溶剤を用いてよい。このように構成すれば、例えば、インクの塗布量が多い場合にも、インク中の有機溶剤をより短時間で揮発除去することができる。
【0080】
また、本例において、オーバーコート層104は、上記のように、クリアインクと硬化剤とを別のノズル(別のインクジェットヘッドのノズル)から吐出し、媒体50上で混合させる2液硬化型の構成で形成する。そのため、揮発性の高い第2石油類の有機溶剤を用いる場合にも、ノズル面でクリアインク等が硬化することを防ぎつつ、媒体50上においてクリアインクを速やかに硬化させることができる。
【0081】
図2は、本例において用いるクリアインク(主剤)と、硬化剤の具体的な組成の一例を示す。図に示すように、本例において、クリアインク用ヘッド14用のインク(主剤)としては、例えば、変形アクリル系のインク等の、硬化性物質としてアクリル樹脂を含むインクを好適に用いることができる。また、硬化剤用ヘッド16用の硬化剤としては、例えば、ポリマー系の硬化剤等を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、高い耐候性を有するオーバーコート層104を、短時間で硬化させ、適切に形成することができる。
【0082】
また、オーバーコート層104は、上記の構成以外に、例えば、硬化剤により硬化する2液硬化型の他の樹脂で形成することも考えられる。また、このような樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂等を用いることが考えられる。この場合、クリアインク用ヘッド14用のインク(主剤)としては、例えば、硬化性物質としてウレタン樹脂又はエポキシ樹脂を含むインクを用いることができる。このように構成した場合も、例えば、高い耐候性を有するオーバーコート層104を、短時間で硬化させ、適切に形成することができる。
【0083】
また、第2石油類の有機溶剤を用いる場合、揮発性が高いため、2液硬化型の構成とした場合にも、ある程度の時間が経過すると、クリアインク用ヘッド14のノズル付近等でインクが乾燥し、ノズルの詰まり等が発生するおそれもある。そのため、クリアインク用ヘッド14で用いるクリアインク中の有機溶剤としては、例えば、消防法において定められる危険物第四類第3石油類から選ばれる有機溶剤を用いることも考えられる。このように構成すれば、例えば、公知のソルベントインクと同様の有機溶剤を用いることにより、インク滴の吐出を安定して適切に行うことができる。また、例えば、インク中の有機溶剤の蒸発速度を抑えることにより、クリアインク用ヘッド14のノズル付近等でインクが乾燥すること等をより適切に防ぐこともできる。
【0084】
また、オーバーコート層104の耐候性をより高めるためには、例えば屋外等に印刷物を設置する場合等を考慮し、印刷物の表面が受ける紫外線の影響を低減することが望ましい。そのため、オーバーコート層104の耐候性を高めるためには、例えば、クリアインク用ヘッド14用のインクとして、例えば、紫外線を吸収する紫外線吸収剤を含むインクを用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、オーバーコート層104の耐候性をより適切に高めることができる。
【0085】
尚、紫外線吸収剤の含有量を多くしすぎると、オーバーコート層104の強度に影響が生じるおそれもある。また、紫外線吸収剤の種類によっては、紫外線の吸収により発熱をする場合もある。そして、このような発熱は、印刷物の耐候性に影響を与えるおそれもある。そのため、紫外線吸収剤の含有量は、1%程度(例えば、0.1〜3%程度、より好ましくは、0.5〜1.5%程度)とすることが好ましい。
【0086】
また、紫外線吸収剤については、例えば、クリアインク用ヘッド14用のインクではなく、硬化液と混合してもよい。この場合、硬化剤用ヘッド16は、紫外線吸収剤と混合された硬化剤の液滴を吐出する。このように構成した場合も、例えば、紫外線吸収剤を含むオーバーコート層104を適切に形成できる。また、これにより、オーバーコート層104の耐候性をより適切に高めることができる。
【0087】
また、紫外線吸収剤を含むインクによりオーバーコート層104を形成する場合、例えば、オーバーコート層104の厚さをより薄くした場合にも、高い耐候性を有するオーバーコート層104を適切に形成できる。そのため、この場合、例えば硬化剤を用いる構成ではなく、乾燥によりオーバーコート層104の硬度を高める場合においても、実用的な時間内にオーバーコート層を適切に完成させることができる。従って、紫外線吸収剤を含むインクによりオーバーコート層104を形成する場合、2液硬化型以外の構成によりオーバーコート層104を形成することも考えられる。
【0088】
続いて、クリアインクと硬化剤との混合比率について、更に詳しく説明をする。オーバーコート層104の硬化に必要な時間を適切に短縮し、かつ、十分な耐候性等の塗膜性能を有するオーバーコート層104を適切に形成するためには、主剤であるクリアインクと、硬化剤とを適切に混合させることが必要である。これに対し、本例においては、インクジェット方式で主剤及び硬化剤を塗布する構成であるため、吐出する液適量を高い精度でコントロールすることが可能である。そのため、本例によれば、例えば、硬化に必要な時間を適切に短縮しつつ、十分な耐候性等の塗膜性能を有するオーバーコート層104を適切に形成できる。
【0089】
また、本願の発明者は、主剤であるクリアインクと硬化剤との混合比率の違いによるオーバーコート層104の硬化性(乾燥性)及び耐候性への影響について、具体的に、実験による確認を行った。そこで、以下、この実験について、説明をする。
【0090】
図3は、主剤と硬化剤との混合比率を異ならせてオーバーコート層104の特性を確認した実験について説明をする図である。図3(a)は、この実験において用いた印刷条件を示す。
【0091】
尚、印刷条件のうち、ヒータ温度におけるプレ、プリント、アフタとは、図1に示したプレヒータ部32、プラテンヒータ部34、及びアフターヒータ部36のそれぞれに対応するヒータによる加熱温度である。また、重ね塗りが2回とは、2層のインク層からなるオーバーコート層104を形成したことを示す。より具体的には、媒体(メディア)上の各位置に対し、主走査動作の往路及び復路の2回の主走査動作(スキャン)を行い、各回の主走査動作において主剤及び硬化剤を吐出することで、2層のオーバーコート層104を形成した。また、これにより、1層のインク層からなる有色インク層102に対し、約2倍の厚さのオーバーコート層104を形成した。また、より具体的に、有色インク層102の厚さは、1.5μm程度、オーバーコート層104の厚さは、3μm程度であった。
【0092】
図3(b)は、実験結果を示す表である。この実験結果において、ブロッキングとは、オーバーコート層104の乾燥性についての評価結果であり、オーバーコート層104の形成後の媒体(メディア)を重ねて放置した後、離した結果を示す。この評価においては、オーバーコート層104の乾燥(硬化)が不十分である場合、オーバーコート層104の剥がれ等が生じる。
【0093】
表に示すように、ブロッキングの評価において、荷重をかけずにメディアを重ねた場合、主剤に対する硬化剤の量が15%以下であれば、剥がれ等が生じることなく、合格となった。しかし、硬化剤の量が20%以上の場合、剥がれ等が生じ、不合格となった。また、より厳しい条件での評価を行うために、荷重をかけての評価を行ったところ、硬化剤の量が0%の場合にも不合格となり、5〜15%の場合にのみ、合格となった。
【0094】
また、実験結果において、オーバーコート層104の塗膜の状態に関し、1年相当耐候試験とは、紫外線の照射を行うことで1年間分に相当する耐候性を確認する試験である。この試験により、例えば、硬化剤が10%以下である場合、オーバーコート層104の表面に多数の凹凸が発生し、耐候性が不十分になることが確認できた。また、硬化剤の量を多くすることにより、凹凸の発生度合いが少なくなることも確認できた。そして、硬化剤の量を15以上(15〜20%)とする場合において、1年相当耐候試験に合格する耐候性が得られることが確認できた。
【0095】
以上の結果から、例えば、硬化剤が少なすぎる場合や、多すぎる場合には、オーバーコート層104の乾燥(硬化)又は耐候性が不十分になる場合があることを確認できた。これは、例えば、硬化剤が少なすぎる場合にオーバーコート層104の硬化が不十分になることや、硬化剤が多すぎる場合に反応しなかった硬化剤により悪影響が生じること等が原因であると考えられる。そのため、主剤(クリアインク)と、硬化剤との混合比率については、使用する組成等に合わせて、適宜調整することが好ましい。
【0096】
これに対し、本例においては、上記においても説明をしたように、インクジェット方式で主剤及び硬化剤を塗布する構成であるため、吐出する液適量を高い精度でコントロールすることが可能である。そのため、本例によれば、例えば、予め設定した混合比率に合わせて、オーバーコート層104を形成するための主剤及び硬化剤を適切に塗布することができる。また、これにより、耐候性の高いオーバーコート層104を短時間で適切に形成することができる。
【0097】
続いて、印刷装置10の具体的な構成に関し、図1等に示した構成以外の他の例を示す。図4は、印刷装置10の構成の他の例について、要部の構成の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図4に示す印刷装置10は、図1に示した印刷装置10と同一又は同様の特徴を有する。例えば、図4に示す本例の印刷装置10においても、図1(c)に示す場合と同一又は同様に、媒体50上に、有色インク層102と、オーバーコート層104とを重ねて形成する。
【0098】
また、本例において、印刷装置10は、印刷後にロール状に巻き取られる媒体50を用いる。これにより、印刷装置10は、例えば広告等の用途の印刷物に対し、オーバーコート層104を形成する。また、このような媒体50を用いるために、印刷装置10は、図1等に示した構成に対し、巻取ローラ42を更に備える。巻取ローラ42は、媒体巻取部の一例であり、媒体50の搬送方向においてアフターヒータ部36よりも下流側で媒体を巻き取る。また、この場合、アフターヒータ部36は、搬送方向においてクリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16よりも下流側で媒体50を加熱するヒータの一例である。
【0099】
また、本例において、副走査駆動部22は、例えば、巻取ローラ42を回転させ、媒体50を巻き取らせることにより、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16等に対して媒体50を移動させる。また、これにより、媒体50を搬送する媒体搬送部として巻取ローラ42を機能させる。印刷装置10は、媒体搬送部として、例えば他のローラ等を別途備えてもよい。以上のように構成すれば、例えば、印刷後にロール状に巻き取られる媒体50に対し、有色インク層102及びオーバーコート層104を適切に形成できる。
【0100】
また、本例において、アフターヒータ部36は、オーバーコート層104の温度がガラス転移点以上の温度になるように媒体50を加熱する。この場合、オーバーコート層104の温度がガラス転移点以上であるとは、例えば、硬化剤により硬化したオーバーコート層104の材料(アクリル樹脂等)の温度が、その物質のガラス転移点以上であることである。このように構成すれば、例えば、クリアインク用ヘッド14から吐出するインクに含まれる有機溶剤について、巻き取り前に十分に除去することができる。
【0101】
尚、ガラス転移点とは、例えば、非晶質の固体材料にガラス転移が起きる温度Tgと定義できる。より具体的には、例えば、低温では結晶並に堅く、流動性が実質的にない材料で形成されており、かつ、加熱するとある狭い温度範囲で急速に剛性と粘度が低下し流動性が増すような非晶質の固体材料について、このような変化が起こる温度がガラス転移点である。ガラス転移点より高温において、固体材料は、例えば、液体又はゴム状態となる。オーバーコート層104の材料について、ガラス転移点は、例えば実験等により適切に確認することができる。また、オーバーコート層104の材料として用いる物質によっては、例えば計算等で理論値を算出することも考えられる。また、本例において、ガラス転移点は、例えば70℃程度である。
【0102】
また、本例において、巻取ローラ42は、アフターヒータ部36での加熱後、例えば所定の距離以上離れた位置まで搬送された媒体50を巻き取ることにより、オーバーコート層104の温度がガラス転移点未満の温度に下がった状態の媒体50を巻き取る。このように構成すれば、例えば、巻き取り時にブロッキング等の問題が生じることを適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、印刷後にロール状に巻き取られる媒体50に対し、より適切にオーバーコート層104を形成できる。
【0103】
尚、本例においては、例えば、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離を十分に離すことにより、巻き取り時のオーバーコート層104の温度を適切に下げることができる。また、オーバーコート層104の温度を下げるためには、例えば図4中に破線で示したように、アフターヒータ部36と巻取ローラ42との間に、冷却用ファン44等を配設してもよい。このように構成すれば、例えば、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離が短い場合にも、より確実にオーバーコート層104の温度を下げることができる。
【0104】
続いて、図4に示した印刷装置10の構成に関連して本願の発明者が行った実験について、説明をする。図5は、アフターヒータ部36での加熱後に媒体50を巻き取る実験の結果を示す。図5(a)は、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離が短い場合について、媒体50の温度分布の測定結果を示す。図5(b)は、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離をより長くした場合について、媒体50の温度分布の測定結果を示す。
【0105】
尚、この実験においては、540×1080dpiの解像度で印刷を行った。また、パス数を12又は24とするマルチパス方式で印刷を行った。パス数を12とする場合、印刷速度は、3.0m/h、クリアインクの塗布量は、33cc/mになる。また、パス数を24とする場合、印刷速度は、1.5m/hになる。クリアインクの塗布量は、パス数が12の場合と同じ(33cc/m)である。そのため、パス数を24にした場合、パス数を12とする場合と比べて、媒体50の搬送速度が遅くなり、冷却のための時間をより長くすることができる。
【0106】
また、アフターヒータ部36から巻取ローラ42への媒体50の搬送は、略鉛直方向下向きへ行った。巻取ローラ42による巻き取り位置に対するアフターヒータ部36の高さHは、図5(a)に示した場合において80mm、図5(b)に示した場合において230mmである。そして、更に、図5(a)に示した場合においては、印刷のパス数を12にした。この場合、媒体50の搬送速度が速く、かつ、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離が短いため、巻き取り時の媒体50の温度がより高くなる条件である。また、図5(b)に示した場合においては、印刷のパス数を24にした。この場合、媒体50の搬送速度が遅く、かつ、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離が長いため、巻き取り時の媒体50の温度がより低くなる条件である。
【0107】
また、オーバーコート層104の材料となる主剤及び硬化剤は、図2等を用いて説明した構成の主剤及び硬化剤を使用した。その他の点については、図3を用いて説明をした実験と同一又は同様の条件を用いた。以上のような条件で印刷を行った場合、巻取ローラ42の各位置上での媒体50の温度は、図5(a)、(b)にそれぞれ示すようになる。
【0108】
尚、図5(a)、(b)のそれぞれにおいて、左側の図は、搬送される媒体50の裏面側(媒体裏側)から見える各位置について、媒体50の温度の測定結果を示す。この場合、搬送される媒体50の裏面側とは、例えば、巻取ローラ42に巻き取られる前の位置での媒体50の裏面側のことである。また、本例において、媒体50の裏面側は、媒体50において、オーバーコート層104が形成する面と反対側の面の側である。
【0109】
また、図5(a)、(b)のそれぞれにおいて、右側の図は、左側の図において隠れている部分の各位置について、媒体50の温度の測定結果を示す図である。左側の図において隠れている部分とは、例えば、媒体50の表側(媒体表側)において、媒体巻取部42に達した位置の近傍の部分である。また、本例において、媒体50の表側は、例えば、媒体50において、アフターヒータ部36と対向する側である。
【0110】
これらの位置の温度を測定した結果、図5(a)に示した場合、巻き取り位置での媒体50の少なくとも一部において、オーバーコート層104の温度がガラス転移点以上になっていた。また、その結果、巻き取り後、多数の箇所でブロッキングが発生した。そのため、この条件では、印刷後にロール状に巻き取られる媒体50に対し、適切にオーバーコート層104を形成することはできないと言える。
【0111】
また、図5(b)に示した場合、巻き取り位置での媒体50の各位置において、オーバーコート層104の温度はガラス転移点未満になっていた。また、その結果、巻き取り後、問題となるブロッキングは生じなかった。そのため、この実験により、巻き取り箇所における媒体50の温度を十分に低下させることで、ブロッキングの抑制に効果があることが確認できた。また、これにより、例えば図4を用いて説明をした構成の印刷装置10により、印刷後にロール状に巻き取られる媒体50に対し、適切にオーバーコート層104が形成可能であることがわかる。
【0112】
尚、上記においては、巻き取り時の媒体50の温度がより高くなる条件及びより低くなる条件とするために、アフターヒータ部36から巻取ローラ42までの距離、及び印刷のパスの両方を異ならせて実験を行った。しかし、これらのパラメータは、巻き取り箇所における媒体50及びオーバーコート層104の温度を調整するためのパラメータの一例である。そして、ブロッキングを抑制するために重要なのは、上記のように、巻き取り箇所におけるオーバーコート層104等の温度であると考えられる。
【0113】
そのため、例えば、アフターヒータ部36の高さHを高くした場合でも、媒体50の搬送速度が速ければ、ブロッキングが生じる場合もある。また、Hを低くした場合でも、媒体50の搬送速度が十分に遅ければ、ブロッキングを抑えることができる。より具体的に、本願の発明者が行った実験において、Hを230mmにした場合でも、印刷のパス数が12である場合には、少数の箇所でブロッキングが生じた。また、Hを80mmにした場合でも、印刷のパス数を24にすれば、ブロッキングを適切に抑えることができる。そのため、アフターヒータ部36の位置や、媒体50の搬送速度等については、その他の印刷の条件に合わせ、適宜調整することが好ましい。
【0114】
続いて、印刷装置10の具体的な構成の更なる他の例について、説明をする。図6は、印刷装置10の構成の更なる他の例について、要部の構成の一例を示す。図6(a)は、印刷装置10の全体の構成の一例を示す。図6(b)は、印刷装置10におけるパウダリング装置60の構成の一例を示す。図6に示した構成において、印刷装置10は、カラーインク用ヘッド12、クリアインク用ヘッド14、硬化剤用ヘッド16、プラテン18、プレヒータ部32、プラテンヒータ部34、アフターヒータ部36、遠赤外線ヒータ38、巻取ローラ42、冷却用ファン44、繰出ローラ46、中間ローラ48、及びパウダリング装置60を備える。
【0115】
尚、以下に説明をする点を除き、図6に示す印刷装置10は、図1から5を用いて説明をした印刷装置10と同一又は同様の特徴を有する。例えば、図6に示す本例の印刷装置10においても、図1(c)に示す場合と同一又は同様に、媒体50上に、有色インク層と、オーバーコート層とを重ねて形成する。また、以下に説明をする点を除き、図6において、図1〜5と同じ符号を付した構成は、図1〜5における構成と、同一又は同様の特徴を有する。更に、図6では図示の便宜上省略しているが、図6に示した印刷装置10も、図1等に示した印刷装置10と同様に、主走査駆動部20、副走査駆動部22、制御部26等を更に備える。
【0116】
本願の発明者は、更なる鋭意研究により、加熱後の媒体50を巻取ローラ42等の媒体巻取部で巻き取る場合について、巻き取り位置の手前で媒体50へ粉体(パウダ)を散布することで、より適切にブロッキング等の問題を抑え得ることを見出した。また、そのための具体的な構成として、例えば、図6に示した構成を考えた。
【0117】
図6に示した構成において、印刷装置10は、図4に示した場合と比べ、遠赤外線ヒータ38、繰出ローラ46、パウダリング装置60及び中間ローラ48を更に備えている。これらのうち、例えば遠赤外線ヒータ38及び繰出ローラ46については、図4に示した構成においても、同様に用いることが考えられる。
【0118】
遠赤外線ヒータ38は、媒体50と非接触の状態で媒体50を加熱するヒータであり、媒体50の印刷面の側に配設され、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16によりオーバーコート層が形成された後の媒体50を加熱する。このように構成すれば、例えば、クリアインク用ヘッド14等から吐出するインクに含まれる有機溶剤等について、巻き取り前により適切に除去することができる。
【0119】
繰出ローラ46は、印刷前の媒体50が巻かれたローラであり、媒体50の搬送方向においてカラーインク用ヘッド12よりも上流側に配設されることにより、カラーインク用ヘッド12の位置へ向けて媒体50を順次繰り出す。繰出ローラ46は、例えば、巻取ローラ42が媒体50を巻き取るのに応じて、巻き取られた量に対応する量の媒体50を順次繰り出してよい。
【0120】
また、図6に示した構成のうち、パウダリング装置60は、媒体50へ粉体を散布する装置である。パウダリング装置60は、例えば、ヒータと巻取ローラ42との間に配設され、巻取ローラ42に巻き取られる前の媒体50へ粉体を散布する。また、この場合、パウダリング装置60は、例えば、オーバーコート層104の温度がガラス転移点未満に下がった状態の媒体50に対し、粉体を散布する。
【0121】
尚、図6に示した構成において、印刷装置10は、媒体50を加熱するヒータとして、プレヒータ部32、プラテンヒータ部34、アフターヒータ部36、及び遠赤外線ヒータ38を備える。この場合、ヒータと巻取ローラ42との間とは、例えば、媒体50の搬送方向において最も下流側で媒体50を加熱するヒータと、巻取ローラ42との間のことである。
【0122】
また、パウダリング装置60は、例えば、図6(b)に示すように、シリアルパウダリングユニット62及び軸部64を有する。シリアルパウダリングユニット62は、主走査方向(Y方向)へ移動しつつ媒体50へ粉体を散布するパウダリング装置(粉体散布装置)である。シリアルパウダリングユニット62は、例えば、軸部64に沿って往復移動しつつ、粉体を散布してよい。この場合、粉体としては、例えば、直径が10μm程度以下のパウダを好適に用いることができる。また、このようなパウダとしては、例えば、デンプンやシリカ等のパウダを好適に用いることができる。シリアルパウダリングユニット62のより具体的な構成については、後に更に詳しく説明をする。軸部64は、主走査方向へのシリアルパウダリングユニット62の移動をガイドする軸である。これらの構成により、パウダリング装置60は、媒体50の各部に対し、シリアル方式で粉体を散布する。
【0123】
また、図6に示した構成において、中間ローラ48は、パウダリング装置60と対向する位置で媒体50を支えるローラであり、パウダリング装置60との間に媒体50を挟んで回転する。中間ローラ48は、例えば媒体50の移動に伴って回転する従動ローラであってよい。このように構成すれば、例えば、媒体50に対してより適切に粉体を散布できる。
【0124】
また、図6に示した構成においても、図4等に示した構成と同様に、ヒータによる加熱後の媒体50を冷却するための構成として、冷却用ファン44を用いている。そして、媒体50へ粉体を散布する場合、冷却用ファン44については、粉体の散布前に媒体50を冷却できる位置へ配設することが好ましい。
【0125】
また、媒体50への粉体の散布は、媒体50の印刷面(表面)側及び裏面側のいずれの面に対して行うことも考えられる。そして、この場合、冷却用ファン44は、例えば、媒体50において粉体を散布する面の側に配設することが好ましい。このように構成すれば、例えば、粉体の散布前に媒体50を適切に冷却できる。より具体的に、例えば、図6においては、媒体50の裏面側へ粉体を散布する場合の構成について、図示をしている。この場合、冷却用ファン44についても、媒体50の裏面側に配設することが好ましい。
【0126】
続いて、パウダリング装置60におけるシリアルパウダリングユニット62のより詳細な構成について、説明をする。図7は、シリアルパウダリングユニット62のより詳細な構成の一例を示す。図7(a)は、シリアルパウダリングユニット62の側断面図であり、粉体を散布される位置において媒体50と直交する平面によるシリアルパウダリングユニット62の断面の様子の一例を示す。図7(b)は、シリアルパウダリングユニット62の上面図であり、媒体50の側から見たシリアルパウダリングユニット62の様子の一例を示す。図示した構成において、シリアルパウダリングユニット62は、パウダ容器202、供給・攪拌ローラ204、及びパウダリングローラ206を有する。
【0127】
パウダ容器202は、媒体50へ散布する粉体を収容する容器であり、供給・攪拌ローラ204へ向けて粉体を順次供給する。パウダ容器202としては、交換可能な容器を用いることが好ましい。供給・攪拌ローラ204は、パウダ容器202から供給される粉体をパウダリングローラ206へ順次供給するローラであり、例えばパウダリングローラ206により散布されるべき粉体の減少を感知し、回転又は振動等により、粉体を順次補給する。供給・攪拌ローラ204としては、例えば、横溝、斜めスリット、又は螺旋構造を有するローラを好適に用いることができる。
【0128】
パウダリングローラ206は、媒体50へ粉体を散布するローラである。パウダリングローラ206としては、例えば、布ローラ又は毛ブラシローラ等を好適に用いることができる。この場合、毛ブラシローラとは、例えば、表面が歯ブラシのようになっているローラである。また、パウダリングローラ206は、例えば、回転や、前後振動と回転との組み合わせ等により、媒体50へ粉体を散布する。
【0129】
以上のような構成を用いた場合、例えば、オーバーコート層の形成後に、媒体50へ適切に粉体を散布できる。また、これにより、巻き取り時のブロッキング等をより適切に抑えることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、オーバーコート層の形成後に、より適切に媒体50を巻き取ることができる。
【0130】
尚、印刷後に巻き取りを行う大型の印刷物を印刷する場合、従来の構成においては、例えば、フィルムラミネート等で印刷物を保護する場合がある。これに対し、上記のように粉体を散布する場合、粉体の散布後において、例えば通常のフィルムラミネート等を行うことが困難である。しかし、上記の構成においては、粉体の散布を行う前に、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16により、オーバーコート層を形成している。そのため、フィルムラミネート等を行わなくても、印刷物を適切に保護できる。また、これにより、例えば、印刷物について、そのまま屋外や人の接触する場所に設置することもできる。更には、粉体の散布を行うことにより、例えば、指紋等の汚れを付き難くすることもできる。
【0131】
また、粉体の散布を行う場合、より具体的には、例えば、以下のような条件で粉体を散布することが特に好ましい。例えば、パウダリング装置60の動作においては、カラーインク用ヘッド12等による印刷の速度と同期させ、媒体50において印刷がされている領域の各部上について、少なくとも一回以上シリアルパウダリングユニット62が通過するようにすることが好ましい。また、各部上へのシリアルパウダリングユニット62の通過回数については、2回以上とすることが更に好ましい。
【0132】
また、カラーインク用ヘッド12等の位置と、パウダリング装置60との位置との間の副走査方向のずれ量を考慮し、そのずれ量に対応する時間の分、カラーインク用ヘッド12等の主走査動作に対し、シリアルパウダリングユニット62の動作のタイミングを遅らせて行うことが好ましい。また、例えば、過剰な粉体が媒体50に接着することで媒体50の印刷面がマット化すること等を防ぐために、シリアルパウダリングユニット62の設置位置については、媒体50上のインク中の溶媒(水を含む)の85%以上が蒸発する位置よりも後方側(媒体50の搬送方向における下流側)とすることが好ましい。この場合、
媒体50上のインク中の溶媒とは、例えば、有色インク層及びオーバーコート層中のインク中における、蒸発可能な溶媒成分のことである。また、溶媒(溶剤)の蒸発量は、例えば、媒体50上の溶媒の重量減少率に基づいて測定することができる。
【0133】
また、図6においては、上記のように、粉体の散布前に冷却用ファン44を用いて媒体50を冷却している。また、印刷装置10の構成の更なる他の例においては、冷却用ファン44を用いる構成以外に、例えば、空冷や、媒体50の裏面側に配設したヒートシンクを用いる構成等も考えられる。
【0134】
また、上記においては、媒体50の裏面側に粉体を散布する場合の構成について、説明をした。しかし、粉体の散布は、例えば、媒体50の印刷面側に対して行うことも考えられる。そこで、続いて、媒体50の印刷面側に粉体を散布する場合の構成について、説明をする。
【0135】
図8は、印刷装置10の構成の更なる他の例を示す図であり、媒体50の印刷面側に対して粉体を散布する場合について、印刷装置10の要部の構成の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図8に示す印刷装置10は、図1から7を用いて説明をした印刷装置10と同一又は同様の特徴を有する。また、以下に説明をする点を除き、図8において、図6と同じ符号を付した構成は、図6における構成と、同一又は同様の特徴を有する。
【0136】
上記のように、図8に示した構成においては、媒体50の印刷面側に対して粉体を散布する。そのため、中間ローラ48は、媒体50の印刷面側をパウダリング装置60と対向させて、媒体50を支持する。これにより、パウダリング装置60は、媒体50の印刷面側へ、粉体を散布する。また、粉体を散布する面に合わせて、図8に示した構成において、冷却用ファン44は、媒体50の印刷面側に配設される。このように構成すれば、例えば、粉体が散布される領域をより適切に冷却できる。
【0137】
以上のように構成した場合も、例えば、オーバーコート層の形成後に、媒体50へ適切に粉体を散布できる。また、これにより、巻き取り時のブロッキング等をより適切に抑えることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、オーバーコート層の形成後に、より適切に媒体50を巻き取ることができる。
【0138】
尚、印刷装置10の構成については、例えば、以下のように更に変形することも考えられる。例えば、カラーインク用ヘッド12と、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16との位置関係について、図8において破線で示すように、より離れた位置関係にすることも考えられる。また、このような位置関係は、図8に示した場合に限らず、例えば図1〜7を用いて説明をした各構成において採用することも考えられる。
【0139】
このように構成すれば、例えば、カラーインク用ヘッド12により形成される有色インク層が十分に乾燥した後に、オーバーコート層を形成できる。この場合、有色インク層が十分に乾燥した後とは、より具体的に、カラーインク用ヘッド12から吐出されたインク滴が媒体50に着弾した後に十分に時間が経過し、カラーインク用ヘッド12により描かれた画像について、クリアインク用ヘッド14及び硬化剤用ヘッド16から吐出される液体により滲みが発生しないようになることである。また、この状態は、例えば、媒体への着弾直後の状態のインクから、20%以上の溶媒が蒸発した状態であってよい。このように構成すれば、例えば、有色インク層の上にオーバーコート層をより適切に形成できる。
【0140】
また、カラーインク用ヘッド12から吐出するインクは、特定の色に限定されない。例えば、例えばYMCKインクのみでなく、例えばメタリック、白、パール、蛍光色等を用いることも考えられる。また、オーバーコート層の下に画像を描く有色インク用ヘッドとしては、必ずしもカラーインク用のインクジェットヘッド(カラーインク用ヘッド)ではなく、単色用のインクジェットヘッドを用いることも考えられる。
【0141】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、例えば印刷装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0143】
10・・・印刷装置、12y〜k・・・カラーインク用ヘッド(有色インク用ヘッド)、14・・・クリアインク用ヘッド(オーバーコート用ヘッド)、16・・・硬化剤用ヘッド、18・・・プラテン、20・・・主走査駆動部、22・・・副走査駆動部、24・・・ヒータ、26・・・制御部、32・・・プレヒータ部、34・・・プラテンヒータ部、36・・・アフターヒータ部、38・・・遠赤外線ヒータ、42・・・巻取ローラ(媒体搬送部、媒体巻取部)、44・・・冷却用ファン、46・・・繰出ローラ、48・・・中間ローラ、50・・・媒体、60・・・パウダリング装置、62・・シリアルパウダリングユニット、64・・・軸部、102・・・有色インク層、104・・・オーバーコート層、202・・・パウダ容器、204・・・供給・攪拌ローラ、206・・・パウダリングローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8