【実施例1】
【0050】
図1に、Si−MOSFET型ガスセンサにおける空気希釈水素濃度(C)に対するセンサ応答強度(ΔVg)の実験データをまとめたグラフ図を示す。ここで、センサ応答強度とは、しきい値電圧のシフト量の絶対値である。
【0051】
Pt−Ti−Oゲート構造のSi−MOSFET型ガスセンサでは、式(1)のLangmuir公式から0.1≦C/C
0≦10の範囲において得られる式(2)によって、センサ応答強度ΔVgをよい精度で近似することができる。
【0052】
ΔVg(V)=0.355LogC(ppm)−0.610
・・・式(2)
【0053】
表1に、式(1)のLangmuir公式のΔVgmaxおよびC
0の一例をまとめる。式(2)は、式(1)のLangmuir公式により物理現象を精度よく再現できることを示している。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すPt−Ti-Oゲート構造におけるΔVgmaxおよびC
0は、式(1)と式(2)とが0.1≦C/C
0≦10の範囲において同等であるとみなして導いたものである。表1に示す値は一例であり、具体的なPt−Ti-Oゲート構造によって変わることは言うまでもない。
【0056】
図1に示すように、空気希釈水素濃度Cに対するセンサ応答強度ΔVgの立ち上がりが急峻である点が、Pt−Ti−Oゲート構造の高感度性と高強度性を示しており、Ptゲート構造およびPdゲート構造のSi−MOSFET型ガスセンサと異なる点である。表1に示したPt−Ti−Oゲート構造のΔVgmaxおよびC
0が、他の構造のΔVgmaxおよびC
0よりも高いことが、Pt−Ti−Oゲート構造の高感度性と高強度性を支持している。
【0057】
例えば水素濃度が4%濃度(40,000ppm)で爆発濃度領域になる水素ガスの場合、4%濃度(40,000ppm)に対して25%低減された1%濃度(10,000ppm)で的確に濃度検知ができれば、爆発濃度に対する警報を出すことができる。つまり、
図1に太線で示すステップ型ガス応答SGRのように、1%濃度までは応答せず、1%濃度をしきい値として急激に立ち上がり、1%濃度以上では、一定の電圧を示す応答特性が実現できればよい。
図1に示すSGRでは、1.0Vが例示されているが、この値には任意性があり、ステップ関数は立下り型でも良いことは言うまでもない。
【0058】
もし、水素濃度が0.05%濃度(500ppm)で警告を出したければ、
図1に太線で示すステップ型ガス応答SGRの立ち上がりの水素濃度を0.05%濃度に合わせればよい。警告と警報を2点で出すには、2つのガスセンサを準備すればよく、半導体装置の場合、同一のチップに2種類のガスセンサを集積すればよい。
【0059】
一方、Si−MOSFET型ガスセンサには、これまでnMOSトランジスタが用いられてきたが、同様に、pMOSトランジスタを用いることができる。すなわち、pMOSトランジスタのゲート構造がnMOSトランジスタのゲート構造と同じであれば、Si−MOSFET型ガスセンサのしきい値電圧の制御機構および水素応答メカニズムも双極子モーメントによるセンサモデルで理解することができる(T.Usagawa 他、Japanese Journal of Applied Physics、Vol51(2012)024101-1-024101-7、およびT.Usagawa 他、Sensors
and Actuators、B160(2011)105-114参照)。これらの実験によれば、MOSトランジスタの平面構造(ゲート長やゲート幅)にはセンサ応答強度ΔVgは殆ど依存しないことが分かっており、本実施例では、ゲート構造とは、MOSトランジスタのゲート領域断面で、半導体界面までの構造を意味する。
【0060】
実施例1によるガスセンサは、
図1に示したように、所定のガス濃度において急激にセンサ応答強度ΔVgが増加するステップ型ガス応答SGRの立ち上がりを有するゲートを備えたMOSトランジスタにより構成されることを特徴とする。さらに、実施例1によるガスセンサは、しきい値電圧のドリフト現象を回避するために、nMOSトランジスタとpMOSFETとから構成されるCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor;
相補型金属−酸化膜−半導体)型であることを特徴とする。
【0061】
まず、Pt−Ti−Oゲート構造のnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのI−V特性(電流−電圧特性)を説明する。
図2は、0.1%水素照射に対するPt−Ti−Oゲート構造のnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのI−V特性(電流−電圧特性)の一例を示すグラフ図である。
図3は、室温(24℃程度)と高温(115℃)において測定されたPt−Ti−Oゲート構造のnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのI−V特性の一例を示すグラフ図である。
図2および
図3の横軸はソース−ゲート間電圧(Vgs)であり、縦軸はソース−ドレイン間電流(Ids)である。ただし、nMOSトランジスタのソース−ドレイン間電圧(Vds)は1.5Vであり、pMOSトランジスタのソース−ドレイン間電圧(Vds)は−1.5Vである。
【0062】
図2では、nMOSトランジスタのしきい値電圧およびpMOSトランジスタのしきい値電圧をそれぞれVth(n)およびVth(p)で示し、水素照射時のI−V特性の平行移動の様子を矢印で示している。また、nMOSトランジスタのしきい値電圧のシフト量およびpMOSトランジスタのしきい値電圧のシフト量をそれぞれΔVg(n)およびΔVg(p)で示す。
【0063】
図3では、nMOSトランジスタのしきい値電圧およびpMOSトランジスタのしきい値電圧をそれぞれVth(n)およびVth(p)で示し、室温(24℃程度)から高温(115℃)に変化させた時のI−V特性の平行移動の様子を矢印で示している。また、nMOSトランジスタのしきい値電圧のシフト量およびpMOSトランジスタのしきい値電圧のシフト量をそれぞれΔVth(n)およびΔVth(p)で示す。
【0064】
図2に示すように、水素照射に対して、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vth(n)およびpMOSトランジスタのしきい値電圧Vth(p)は、ともにソース−ゲート電圧(Vgs)軸で負の方向(
図2の左方向)に同じ値(ΔVg(n)=ΔVg(p))で平行移動している(同位相変化)。nMOSトランジスタのゲート構造とpMOSトランジスタのゲート構造は、I-V特性の関数型がほぼ同じとなるように、チャネル、ゲート長、およびゲート幅が設計されている。しかし、それ以外のゲート構造は同じであるので、水素照射時のこの現象は、MOSFET型ガスセンサの物理で説明することができる。
【0065】
一方、
図3に示すように、室温(24℃程度)から高温(115℃)への温度上昇では、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vth(n)はソース−ゲート電圧(Vgs)軸で負の方向(
図3の左方向)へΔVth(n)平行移動し、pMOSトランジスタのしきい値電圧Vth(p)はソース−ゲート電圧(Vgs)軸で正の方向(
図3の右方向)へΔVth(p)平行移動する(逆位相変化)。ΔVth(n)とΔVth(p)とはほぼ同じ値である。物理的には、温度が上昇するとnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタは、ともにソース−ドレイン間電流Idsは増加する。一般的に、MOS構造では、ある基準温度T0の付近におけるnMOSトランジスタのしきい値電圧VtnおよびpMOSトランジスタのしきい値電圧Vtpの温度変化は、
Vtn=Vtn0−Kn(T−T0)・・・式(3)
Vtp=Vtp0+Kp(T−T0)・・・式(4)
と表される。Vtn0およびVtp0は、基準温度T0の時のしきい値電圧であり、基準温度近傍でのKnおよびKpは、
Kn≒Kp=2〜3mV/℃・・・式(5)
である。KnおよびKpの具体的な値は、半導体材料であるSi、SiC、GaC(炭化ガリウム)、またはダイヤモンド(炭素)に依存するが、しきい値電圧Vtn,Vtpの温度特性およびKn≒Kpの関係は維持される。
【0066】
次に、
図4を用いて、触媒作用を有するゲートを備えるCMOSインバータを説明する。
図4は、触媒作用を有するゲートを備えるCMOSインバータを示す回路図である。
【0067】
触媒ゲートCMOSインバータは、エンハンスメント型pMOSトランジスタPTrからなる負荷と、エンハンスメント型nMOSトランジスタNTrからなるドライバとが相補型に配置されている(論理反転回路)。Vddは高電位、Vssは低電位、Vinは入力電位、Voutは出力電位、VtpはpMOSトランジスタのしきい値電位、VtnはnMOSトランジスタのしきい値電位である。このインバータにおいて、高電位Vddは低電位Vssよりも3〜24V程度高い電位差が設定されることが一般的である。一般には、高電位Vddは電源電圧であり、低電位Vssは接地電圧である。
【0068】
入力電位Vinが低電位Vssと同じ電位となるとき、pMOSトランジスタがオンになり、nMOSトランジスタがオフになる。このため、出力電位Voutは高電位Vddとほぼ等しくなる。また、入力電位Vinが高電位Vddと同じ電位となるとき、pMOSトランジスタがオフになり、nMOSトランジスタがオンになる。このため、出力電位Voutは低電位Vssとほぼ等しくなる。つまり、入力電位Vinと反対の電位が出力電位Voutに現れる事になる。
【0069】
次に、
図5を用いて、CMOSの動作原理を定量的に説明する。
図5は、CMOSインバータの入力電位(Vin)に対する出力電位(Vout)の論理反転特性を示すグラフ図である。nMOSトランジスタのしきい値電圧およびpMOSトランジスタのしきい値電圧をそれぞれVtnおよびVtpで示す。低電位Vssを0Vとして説明するが、これに限定されるものではない。
【0070】
CMOSインバータにおけるnMOSトランジスタの飽和領域のI−V特性は、ゲート長をLg(n)、ゲート幅をWg(n)、単位面積当たりのゲート容量をCOx(n)、nチャネル実効電子移動度をμn、特性係数をβnとすると、
Ids=βn(Vin−Vtn)
2/2・・・式(6)
βn=Wg(n)μnCOx(n)/Lg(n)・・・式(7)
と表わされる。
【0071】
CMOSインバータにおけるpMOSトランジスタの飽和領域のI−V特性は、ゲート長をLg(p)、ゲート幅をWg(p)、単位面積当たりのゲート容量をCOx(p)、pチャネル実
効正孔移動度をμp、特性係数をβpとすると、このCMOSインバータの負荷としてのpMOSトランジスタでは、
Ids=βp(Vin−Vdd−Vtp)
2/2・・・式(8)
βp=Wg(p)μpCOx(p)/Lg(p)・・・式(9)
と表される。
【0072】
式(6)と式(8)とを等しいとし、高電位Vddがしきい値入力電位Vtcよりも大きい(Vdd>Vtc)ことを考慮すると、論理反転特性のしきい値入力電位Vtcは、
Vtc=[Vdd+√(β
R)Vtn+Vtp]/(1+√(β
R))
・・・式(10)
と表わされる。absは絶対値信号であり、
β
R=βn/βp・・・式(11)
である。ゲート長Lg(n),Lg(p)、ゲート幅Wg(n),Wg(p)、および単位面積当たりのゲート容量COx(n),COx(p)は設計パラメータであり、nチャネル実効電子移動度μnおよびpチャネル実
効正孔移動度をμpが測定できれば、論理反転特性のしきい値入力電位Vtcを設計することができる。
【0073】
例えばβ
R=1、Vtp=−Vtnの時、Vtc=Vdd/2となり、対称性は最も良好になる。pMOSトランジスタおよびnMOSトランジスタはエンハンスメント型であり、pMOSトランジスタのしきい値電圧Vtpは負の値、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vtnは正の値である。
【0074】
実施例1によるガスセンサは、CMOSインバータを構成するpMOSトランジスタおよびnMOSトランジスタのそれぞれのゲートに水素ガス、水素化合物ガス、または極性分子ガスを検知する触媒金属を使用し、チャネル上のゲートがガス環境に直に接する構造となっている。
【0075】
まず、触媒ゲートCMOS型ガスセンサの動作原理について前述の
図5および
図6〜
図8を用いて説明し、続いて、触媒ゲートCMOS型ガスセンサの具体的な構造について
図9〜
図11を用いて説明する。
【0076】
実施例1による触媒ゲートCMOS型ガスセンサの動作原理を前述の
図5および
図6を用いて説明する。
図6は、CMOSインバータのセンサ応答強度(ΔVg)に対する出力電位(Vout)の論理反転特性を示すグラフ図である。
【0077】
pMOSトランジスタの触媒ゲートおよびnMOSトランジスタの触媒ゲートが水素ガス、水素化合物ガス、または極性分子ガス等の検知対象ガスに暴露されると、ガス濃度に応じて、pMOSトランジスタのしきい値電圧Vtpは負の方向へ、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vtnも負の方向にシフトする(同位相変化)。ゲート構造(触媒ゲートおよびゲート絶縁膜)を同じに設計すれば、センサ応答強度ΔVgは両者で同じになる。ゲート絶縁膜の物質および構造が同じ場合、半導体に接するゲート絶縁膜の厚さが多少変わっても触媒ゲートが同じであれば、センサ応答強度ΔVgは両者でほぼ同じになる。
【0078】
水素ガス、水素化合物ガス、または極性分子ガス等の検知対象ガスをCMOSインバータ(前述の
図4参照)のnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのそれぞれの触媒ゲートに暴露すると、ガス濃度に対応するセンサ応答強度ΔVgがCMOSインバータの触媒ゲートに実質的に印加されたことと同じになる。そして、入力電位が(Vin+ΔVg)となったように、触媒ゲートCMOSインバータは動作する。
【0079】
つまり、前述の
図5に示すように、入力電位Vinを入力設定ゲート電位(入力電位Vinの初期値)Vin(D)(Vin<Vtc)に設定し、暴露させるガス濃度を上げていくと、(Vin(D)+ΔVg)がしきい値入力電位Vtcを超えたところで、CMOSインバータを反転させることが可能になる。つまり、検知対象ガスのないCMOSインバータの初期状態(Vin=Vin(D))から、暴露させるガス濃度を上げていくと、センサ応答強度ΔVgが徐々に大きくなり、あるしきい値濃度のガス環境で出力電位Voutが反転してVout=Vss(Vss=0V)となる。前述の
図1に示すステップ型ガス応答SGRに近い応答を実現できるようになる(ここでは、上下反転しているが問題はない)。
【0080】
また、別の見方をすると、個々の触媒ゲートCMOSインバータをガス濃度が既知のガス環境に置き、入力電位Vinを低電位Vssから徐々に電位を上げて行き、CMOSインバータが反転する時の入力電位VinをVin(D)と定義すれば、触媒ゲートCMOSインバータを調整することもできる。
【0081】
つまり、所望ガスの警報または警告を出したいしきい値濃度に対応するセンサ応答強度ΔVgをセンサ応答しきい値強度ΔVgthと定義すると、入力設定ゲート電位Vin(D)は、所望ガスの警報または警告を出したいしきい値濃度においてCMOSインバータが反転する時の入力電位Vinで決まる。しきい値入力電位Vtcはガス照射のない時のCMOSインバータの特性で決まるので、既知のガス濃度でのCMOS型ガスセンサの調整時には、ΔVgth=Vtc−Vin(D)からセンサ応答しきい値強度ΔVgthを決めることができる。
【0082】
CMOS型ガスセンサを実際に設置するときには、この調整結果を用いて、CMOSインバータの入力設定ゲート電位Vin(D)を式(12)で決めればよい。
【0083】
Vin(D)=Vtc−ΔVgth・・・式(12)
この時、
図6に示すように、センサ応答強度ΔVgに対する出力電位Voutは、入力電位VinをΔVgとするCMOSインバータ(前述の
図4参照)の動作と類似の関数型になる。
【0084】
実際のCMOSインバータでは、しきい値入力電位Vtcは、入力電位Vinに対してステップ応答は厳密な意味ではできず、応答特性に傾きが生じるが、出力電位Voutが(Vdd−Vss)/2となる中点で代用することができる。
【0085】
さらに、他の設計事項もいくつか存在する。前述の
図1に示すステップ型ガス応答SGRを実現するためには、(Vtp+Vdd−Vtn)を小さくすることが必要である。また、入力設定ゲート電位Vin(D)、高電位Vdd、pMOSトランジスタのしきい値電圧Vtp、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vtn、および特性係数β
R等の設計パラメータの最適化も必要である。
【0086】
例えばnMOSトランジスタのしきい値電圧Vtnは正電圧、pMOSトランジスタのしきい値電圧Vtpは負電圧、CMOSインバータが反転していないことを保証する条件としてVin(D)<Vtc、CMOSインバータが成立する条件としてVtn<Vtp+Vddが必要である。また、以下に説明するが、β
R=1、Vtp=−Vtnの時、Vtc=Vdd/2(Vss=0)となり、対称性が最も良好なインバータ特性の時に、最も温度特性変動を抑えることができる。
【0087】
また、センサ応答しきい値強度ΔVgthを複数個設定すれば、それに対応した入力設定ゲート電位Vin(D)を設定することができるので、多重な警告を出すガスセンサが形成できる。複数個の設定に対応して、同じセンサチップを複数個用意して多重な警告を出すこともできる。また、同一チップ内に複数の触媒ゲートCMOSインバータを用意して多重な警告を出すこともできる。
【0088】
一方、触媒ゲートによるMOS構造のガスセンサに共通するセンシング原理は、しきい値電圧のシフト量を計測することには変わりはない。そのため、小さいセンサ応答しきい値強度ΔVgthを設定する低いガス濃度に対するステップ型ガス応答には工夫が必要になる。センサ応答強度ΔVgのチップ間バラツキについては、先に説明した調整を最初に行い、入力設定ゲート電位Vin(D)を決めればよい。しかし、しきい値電圧の経時変動が大きければ、小さいセンサ応答しきい値強度ΔVgthを設定する低いガス濃度ではより大きく影響を受ける。
【0089】
図6の伝達特性において、センサ応答しきい値強度ΔVgthがバラツクことに対応して、検知されるガス濃度は不確定(特性バラツキまたは特性の再現性バラツキなど)となる。しかし、Pt−Ti−Oゲート構造のガスセンサに限定すれば、前述の
図1に示すように、ガス応答強度が極めて大きいので、センサ応答しきい値強度ΔVgthの影響は小さくなる。
【0090】
また、ガス爆発を起こす可能性のあるガスに対するガスセンサでは、爆発下限界濃度の25%以下で警報(赤ランプ+音声)、爆発下限界濃度の約1%程度で警告(赤ランプ点滅)を発することがガスセンサ設置基準になっているので、この範囲でセンサ応答しきい値強度ΔVgthのバラツキがある範囲に収まっていればよい。例えば1気圧空気中では、基準値1%を3%以下で確実に検知できればよく、式(2)に従えば、1%の水素濃度と3%の水素濃度とで0.169Vの余裕があるので、十分に対応することができる。
【0091】
次に、検知ガスに由来しないMOS構造に特有なしきい値電圧の温度補償(ドリフトまたは変動)を抑えることのできるガスセンサについて説明する。
【0092】
前述の
図3に示したように、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタとでは、しきい値電圧Vtp,Vtnの温度特性が逆位相である。つまり、温度が上昇すると、式(3)、式(4)、および式(5)に示したように、pMOSトラジスタのしきい値電圧Vtpは正の方向へシフトし、nMOSトラジスタのしきい値電圧Vtnは負の方向へシフトする。さらに、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタの動作温度が同じように変化すると、式(3)および式(4)で定義される温度係数Knと温度係数Kpとはほぼ同じ値となる。
【0093】
従って、式(10)からβ
R=1、Vtn0=−Vtp0と設計した場合、論理反転特性のしきい値入力電位Vtcは温度変化に依存せず、安定した(ドリフトしない)インバータ特性を実現することができる。また、式(10)に示すように、逆位相で変化するしきい値電圧の変動はキャンセルできるので、しきい値入力電位Vtc自身の変動が抑えられて、ガス検知精度が向上する。特に、小さいセンサ応答しきい値強度ΔVgthを設定する低いガス濃度での検知精度を著しく向上させることができる。
【0094】
一方、基準温度から、水素等のガス照射や温度変化を経験した場合には、同じ触媒ゲート構造を有するnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのそれぞれのしきい値電圧の変化ΔVthN,ΔVthPは
ΔVthN=ΔVg(n)+ΔVth(n)・・・式(13)
ΔVthP=ΔVg(p)−ΔVth(p)・・・式(14)
と表される。センサ応答強度ΔVgはΔVg(n)=ΔVg(p)であり、また、ΔVth(n)≒ΔVth(p)である。
【0095】
温度によるしきい値電圧の変動は、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタとで逆位相になる。従って、温度によるしきい値電圧の変動分を除くには、nMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)との和をとり、その1/2を求めればよい。
【0096】
一方、nMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)とは同位相であるので、温度特性による変動分は、nMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)との差をとり、その1/2として求めることができる。これにより、センサ応答強度ΔVgを正確に求めることができる。
【0097】
nMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)との和をとることは、オペアンプを用いた反転加算増幅回路を用いて容易に実現することができる。
図7に、オペアンプを用いた反転加算増幅回路を説明する概略図を示す。
【0098】
まず、nMOSトランジスタ53とpMOSトランジスタ54のそれぞれの入力電圧を、ボルテージフォロワー回路を用いて反転加算増幅回路50,51の出力電圧に取り出し、加算回路部52でそれぞれの入力電圧を加算することにより、反転加算増幅回路の出力56には、式(13)と式(14)の和の電圧が出力信号として取り出せる。この和の電圧の出力信号を1/2に減算することは容易である。nMOSトランジスタのゲート構造とpMOSトランジスタのゲート構造とが同じであれば、ΔVg(n)=ΔVg(p)となるので、温度ドリフトを除去した信号(センサ応答強度ΔVg)を取り出すことができる。
【0099】
以上説明したように、しきい値電圧に関するnMOSトランジスタとpMOSトランジスタとで逆位相で変動ドリフトする信号については、その大きさが両者で同程度であれば、上記2通りの方法で除去することが可能である。例えばMOS型ガスセンサにおいてしきい値電圧に長時間のドリフト現象がある場合は、この方法による変動ドリフト成分の除去は有効である。
【0100】
次に、実施例1による触媒ゲートCMOS型水素センサのゲート構造について
図8を用いて説明する。
図8は、触媒ゲートCMOS型水素センサのゲート構造部分を拡大して示す断面模式図である。図中、水素原子励起双極子を符号6で示している。
【0101】
Si基板5上にゲート絶縁膜4(例えばSiO
2膜)が形成され、ゲート絶縁膜4上にTi改質膜2が形成されている。Ti改質膜2は、具体的には、TiO(酸化チタン)微小結晶と酸素をドープしたアモルファスTi膜が混合している膜である。その混合割合、厚さ、作製条件については、例えば特許文献1、2、3などに記載されている。
【0102】
このTi改質膜2上に(111)配向したPt結晶粒(またはPt粒、微結晶とも言う)3からなる膜が形成されている。隣り合うPt結晶粒3の間には結晶粒界1が形成され、粒界近傍領域にはTi、O、Ptが形成されている。この粒界近傍領域の表面には、さらに酸素ドープTiまたはTiOの微粒子が形成されているが、これらは必ずしも必要ではない。Pt結晶粒3およびTi改質膜2からなる領域をPt−Ti−O構造と呼び、nMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタのそれぞれのゲート電極に用いている。Pt−Ti−O構造は、例えばゲート絶縁膜4上にTiとPtとを連続的に積層して、酸素雰囲気ガス中で熱処理することにより作製される。
【0103】
次に、実施例1による触媒ゲートCMOS型水素センサのCMOSインバータの構造を
図9〜
図11を用いて説明する。
図9はCMOSインバータの平面図の一例である。
図10はCMOSインバータを構成するnMOSトランジスタの要部断面図(
図9のA−A´線に沿った要部断面図)である。
図11はCMOSインバータを構成するpMOSトランジスタの要部断面図(
図9のB−B´線に沿った要部断面図)である。
【0104】
CMOSインバータの設計の一例を説明する。CMOSインバータを構成するnMOSトランジスタとpMOSトランジスタとを対称にするため、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタにおいて、Pt−Ti−O構造のゲート電極およびゲート絶縁膜は同じである。nMOSトランジスタの実効移動度μnが250Cm
2/Vs、pMOSトランジスタの実効移動度μpが75Cm
2/Vsの場合、式(11)のβ
R=βn/βpが1となるように、nMOSトランジスタのゲート長Lg(n)は20μm、ゲート幅Wg(n)は75μm、pMOSトランジスタのゲート長Lg(p)は20μm、ゲート幅Wg(p)は250μmと設計することができる。
【0105】
nMOSトランジスタのしきい電圧Vtnは、ソース−ドレイン間電圧Vdsが3.0Vで、ソース−ドレイン間電流Idsが10μAのときの電圧と定義し、例えば1.3Vに設定した。同様に、pMOSトランジスタのしきい電圧Vtpは、ソース−ドレイン間電圧Vdsが3.0Vで、ソース−ドレイン間電流Idsが10μAのときの電圧と定義し、例えば−1.3Vとした。
【0106】
図9〜
図11に示すように、nMOSトランジスタNTrのp型のSi基板43およびpコンタクト層41に接続する制御電極29とソース電極21とは接続されており、CMOSインバータの低電位端子(前述の
図4に示すVss端子)に繋がる。また、pMOSトランジスタPTrのnウェル44およびnコンタクト層45に接続する制御電極30とソース電極31とは接続されており、CMOSインバータの高電位端子(前述の
図4に示すVdd端子)に繋がる。CMOSインバータなので、nMOSトランジスタNTrのドレイン領域27dとpMOSトランジスタPTrのドレイン領域42dとは、ドレイン電極22を介して電気的に接続され、CMOSインバータの出力端子(前述の
図4に示すVout端子)に繋がる。
【0107】
一方、nMOSトランジスタNTrのゲート電極20とpMOSトランジスタPTrのゲート電極20とは互いに接続されており、CMOSインバータの入力端子(前述の
図4に示すVout端子)に繋がる。この場合、水素ガスが暴露される領域では、PSG(リンドープガラス)24と窒化シリコン膜23との積層膜からなる保護膜が除去された開口部19が形成されている。CMOSインバータの高電位(前述の
図4に示すVdd)は、例えば3.0Vに設定される。
【0108】
次に、CMOSインバータを構成するnMOSトランジスタNTr、およびpMOSトランジスタPTrの製造方法について説明する。
【0109】
まず、nMOSトランジスタNTrの製造方法について説明する。
【0110】
p型のSi基板43の主面に、局所酸化により、局所酸化膜40を形成する。局所酸化膜40は、例えばSiO
2膜から構成され、その厚さは、例えば250nm程度である。
【0111】
次に、Si基板43の主面にn型チャネル領域47を形成するため、n型不純物(例えばリン(P))のイオン注入をドーズ量8×10
11/cm
2で行う。その後、ソース領域27sおよびドレイン領域27dを形成するため、n型不純物のイオン注入を行い、nMOSトランジスタNTrの能動層を形成する。
【0112】
次に、前処理を実施した後、Si基板43の主面にゲート絶縁膜25をウェット熱酸化法により形成する。ゲート絶縁膜25は、例えばSiO
2膜から構成され、その厚さは、例えば18nm程度である。また、このウェット熱酸化法により、ソース領域27sおよびドレイン領域27dのn型チャネル領域47の表面に、厚さ80nm程度の局所酸化膜28を形成する。
【0113】
その後、例えばリフトオフ法により、ゲート絶縁膜25上にTi膜(図示は省略)、およびPt膜からなるゲート電極20を形成する。Ti膜の厚さは、例えば5nm程度であり、Pt膜の厚さは、例えば15nm程度である。
【0114】
このとき、
図9に示すように、ゲート電極20の形成領域を規定する局所酸化膜28に合わせてソース領域27sとドレイン領域27dとは形成され、ゲート電極20は、ゲート絶縁膜25上だけでなく、局所酸化膜40の淵上を覆うように形成される。従って、ゲート電極20の端部がソース領域27sの端部上およびドレイン領域27dの端部上と重なるように、ゲート電極20は形成される。Ti膜およびゲート電極20を構成するPt膜は、例えば電子線照射蒸着法で形成する。
【0115】
次に、高純度の空気雰囲気中において、熱処理温度が400℃、熱処理時間が2時間のアニールを行うことにより、前述の
図8に示すゲート構造を形成する。
【0116】
その後、ゲート電極20上を含むSi基板43上にPSG(リンドープガラス)からなる絶縁膜26を形成する。そして、この絶縁膜26を貫通するコンタクトホールを形成し、表面処理などの工程を経る。そして、コンタクトホール内を含む絶縁膜26上にSiを含有するAl(アルミニウム)膜からなるソース電極21、ドレイン電極22、および制御電極29を形成する。ソース電極21、ドレイン電極22、および制御電極29の厚さは、例えば500nm程度である。
【0117】
図示は省略するが、ゲート電極20の引出し線およびチップを加熱するヒータとして、ソース電極21またはドレイン電極22と同じSiを含有するAl膜から構成される配線も形成する。この配線ヒータの配線幅は、例えば20μm程度であり、配線長は、例えば30,000μm程度である。
【0118】
次に、ソース電極21、ドレイン電極22、および制御電極29、ならびにチップの保護のために、保護膜をSi基板43の主面上に形成する。この保護膜は、例えばPSG(リンドープガラス)24および窒化シリコン膜23の積層膜から構成される。窒化シリコン膜24は、低温プラズマCVD法により形成され、保護膜の厚さは、例えば700nm程度である。
【0119】
最後に、ボンディングワイヤと接続するために、電極パッド(図示は省略)上にコンタクト孔46を形成し、かつ、センサ部分であるゲート電極20を露出するように開口部19を形成する。
【0120】
次に、pMOSトランジスタPTrの製造方法について説明する。pMOSトランジスタPTrの製造方法は、上述したnMOSトランジスタNTrの製造方法と同様であり、異なる部分のみ記載する。
【0121】
p型のSi基板43にnウェル44を形成した後、局所酸化を行って、局所酸化膜40を形成する。局所酸化膜40の厚さは、例えば250nm程度である。次に、Si基板43の主面にp型チャネル領域48を形成するため、p型不純物(例えばホウ素(B))のイオン注入をドーズ量3×10
12/cm
2で行う。その後、ソース領域42sおよびドレイン領域42dを形成するため、p型不純物のイオン注入を行い、pMOSトランジスタPTrの能動層を形成する。
【0122】
その後、nMOSトランジスタNTrと同様にして、ゲート絶縁膜25、ゲート電極20、ソース電極21、ドレイン電極22等を形成する。通例、PSG(リンドープガラス)の形成時に、1%水素ガスで400℃、30分の水素アニールを行い、水素ターミネーションを行っている。
【0123】
触媒ゲートCMOS型水素センサでは、応答速度および環境中の水蒸気脱離の問題のため、センサチップ温度は100℃以上に設定されている。
【0124】
実施例1では、1%水素濃度にしきい値をおいた場合、式(2)に従うセンサ応答しきい値強度ΔVgthは0.81Vとなる。センサ応答しきい値強度ΔVgthを0.81Vとすると、Vdd=3.0V、Vss=0.0Vであるので、Vtc=1.5Vとなり、入力設定ゲート電位Vin(D)は式(12)からVin(D)=0.69Vとなる。
【0125】
従って、入力設定ゲート電位Vin(D)を0.69Vに設定しておくと、触媒ゲートCMOS型水素センサは、水素濃度1%以上で、CMOSインバータは反転してVout=0.0Vを示す。さらに、水素濃度1%より低くなると、初期値Vout=3.0Vに戻る。
【0126】
この方式により、アナログ回路およびAD変換器を用いることなく、簡便に所望のしきい値水素濃度を判定することができる。
【0127】
複数個のしきい値水素濃度を設定する場合には、例えば低濃度である500ppmの水素漏れ警告レヴェル、0.5%のシステム警告レヴェルなどでは、この濃度をそのままセンサ応答しきい値強度ΔVgthに設定し、しきい値入力電位Vtcを考慮して、入力設定ゲート電位Vin(D)を式(12)から決めればよい。その場合、3種のセンサ応答しきい値強度ΔVgthがあるので、3個の触媒ゲートCMOS型水素センサが必要になる。その時には、3個のセンサチップを用意する、または同一チップ内に3個の触媒ゲートCMOS型水素センサを形成し、それぞれの触媒ゲートCMOS型水素センサで所望の入力設定ゲート電位Vin(D)を設定することもできる。
【0128】
実施例1では、しきい値電圧の温度ドリフトが、しきい値入力電位Vtcの変動を引き起こさないように、β
R=1、Vtp=−Vtnの制限をつけた例について説明した。しかし、センサ応答しきい値強度ΔVgthが大きい場合には、しきい値入力電位Vtcの変動の影響は小さいので、上記制限を付ける必要は必ずしもない。
【0129】
以下に、課題を解決するための方法と手段をまとめる。
【0130】
(1)第1の課題に対して、
触媒ゲート電極を有するCMOSインバータを導入し、CMOSインバータの入力設定ゲート電位Vin(D)をΔVgth=Vtc−Vin(D)を満足するようにする。ここで、ΔVgthは警報または警告を出したい所望のガス濃度に対応するセンサ応答しきい値強度、VtcはCMOSインバータのしきい値入力電圧である。警報または警告を出したい所望のしきい値濃度が複数ある場合には、それぞれのガス濃度に対応したセンサ応答しきい値強度ΔVgthを複数用意して、それぞれのCMOSインバータにおいて、ΔVgth=Vtc−Vin(D)を満足するように入力設定ゲート電位Vin(D)を設計する。
【0131】
(2)第2の課題に対して、
触媒ゲート電極を有するCMOSインバータを導入し、CMOSインバータの入力設定ゲート電位Vin(D)をΔVgth=Vtc−Vin(D)を満足するようにする。ここで、ΔVgthは警報または警告を出したい所望のガス濃度に対応するセンサ応答しきい値強度、VtcはCMOSインバータのしきい値入力電圧である。そして、所望のセンサ応答しきい値強度ΔVgthに応じて、入力設定ゲート電位Vin(D)を可変にできるようにする。
【0132】
(3)第3の課題に対して
CMOSインバータのしきい値入力電圧Vtcをβ
R=βn/βp=1にし、所望の基準動作温度で、nMOSトランジスタのしきい値電圧Vtn0とpMOSトランジスタのしきい値電圧Vtp0とがVtn0=−Vtp0となるようにする。また、後述する実施例3で説明する様に、同じ触媒ゲート構造を有するnMOSトランジスタとpMOSトランジスタにおいて、それぞれのセンサ応答強度の和をとり、その1/2をセンサ信号とする。
【0133】
以上、触媒ゲートCMOS型ガスセンサの動作原理の説明では、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVgは同じである場合について説明してきた。しかし、同じ触媒ゲートを用いたとしても、製造バラツキ等のために、厳密な意味では両者のセンサ応答強度ΔVgは僅かに異なる。更にはnMOSトランジスタとpMOSトランジスタの触媒ゲート構造が異なる場合、センサ応答強度ΔVgは、それぞれ異なる値を持つ。nMOSトランジスタとpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVgが異なり、それぞれのセンサ応答強度をΔVg(n)とΔVg(p)とした場合、これまで説明した内容に幾つか変更が付加される。以下、これについて説明する。
【0134】
ある水素濃度のガスが触媒ゲートCMOS型ガスセンサに暴露された場合、式(6)と式(8)は以下のように補正される。
【0135】
Ids=βn(Vin+ΔVg(n)−Vtn)
2/2・・・式(15)
Ids=βp(Vin+ΔVg(p)−Vdd−Vtp)
2/2
・・・式(16)
式(15)と式(16)のソース−ドレイン間電流Idsが等しいとおくと、式(10)の論理反転特性のしきい値入力電位Vtcを用いて、
ΔVgeff=Vtc−Vin・・・式(17)
が求まる。ただし、ΔVgeffは次式で定義される触媒ゲートCMOS型ガスセンサの実効的な水素応答強度である。
【0136】
ΔVgeff=[√(β
R)ΔVg(n)+ΔVg(p)]/
(1+√(β
R))・・・式(18)
ΔVgeffは、β
R=1なら、ΔVg(n)とΔVg(p)の平均値ΔVgavになる。
【0137】
ΔVgav=[ΔVg(n)+ΔVg(p)]/2・・・式(19)
ΔVg(n)とΔVg(p)の差分ΔVgdifを次式で定義する。
【0138】
ΔVgdif=[ΔVg(n)−ΔVg(p)]/2・・・式(20)
ΔVgeffは、一般には(β
R≠1の時も含めて)、平均値ΔVgavと差分ΔVgdifを用いて、次式で表わすこともできる。
【0139】
ΔVgeff=ΔVgav+[√(β
R)−1]ΔVgdif/
(1+√(β
R))・・・式(21)
同一水素ガス濃度をnMOSトランジスタとpMOSトランジスタに照射した時、それぞれが互いに異なるセンサ応答強度ΔVg(n)とセンサ応答強度ΔVg(p)を持つ場合を考える。この場合、nMOSトランジスタのセンサ応答しきい値強度ΔVgth(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答しきい値強度ΔVgth(p)が異なるので、センサ応答しきい値強度ΔVgthは、式(18)を用いて、新たなセンサ応答しきい値強度ΔVgeffthを次式で定義する。
【0140】
ΔVgeffth=[√(β
R)ΔVgth(n)+ΔVgth(p)]/
(1+√(β
R))・・・式(22)
この場合、CMOSインバータの入力設定ゲート電位Vin(D)は、式(12)の代わりに、
Vin(D)=Vtc−ΔVgeffth・・・式(23)
を用いる。これにより、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVgが互いに異なる値を持つ場合でも、センサ応答しきい値強度ΔVgthをΔVgeffth(式(22))で読み替えることにより、本発明を実現することができる。そのため、実施例1では、nMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)が同じ場合についてのみ説明した。
【0141】
例えば、β
Rが1の近傍であれば、実効的な水素応答強度ΔVgeffはnMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(n)とpMOSトランジスタのセンサ応答強度ΔVg(p)の平均値ΔVgavで近似でき、この平均値ΔVgavをこれまで議論したセンサ応答強度ΔVgで置き換えれば良いことになる。
【実施例4】
【0163】
前述した実施例1、2、3では、Si半導体を用いた。実施例4では、SiC半導体を用い、300〜700℃程度の高温環境で用いることのできる触媒ゲートCMOS型ガスセンサについて説明する。
【0164】
図15は、実施例4による触媒ゲートCMOS型水素センサのゲート構造部分を拡大して示す断面模式図である。触媒ゲートは改良Pt−Ti−Oゲート構造であり、改質Ti膜中のTiOx結晶部分の割合が、酸素ドープアモルファスTi部分に比べて多い構造である。
【0165】
このPt膜は、複数のPt結晶粒3から構成され、複数のPt結晶粒3間にある結晶粒界間隙7aにはOとTiとが存在し、特に、粒界3重点近傍表面を中心にTiOxナノ結晶が形成されている(改質Pt膜)。
図15には、SiCチャネル層98とゲート絶縁膜4との界面に、ゲート電圧に依存するキャリア反転層9が存在する例を示している。
【0166】
改良Pt−Ti−Oゲート構造は、例えばゲート絶縁膜(SiO
2膜)4上にTi膜を形成し、さらに、Ti膜上にPt膜を形成する。Ti膜の厚さは、例えば5nm程度であり、Pt膜の厚さは、例えば15nm程度である。その後、400℃、68日間の空気中アニールを行う。または、600℃、12時間程度の空気中アニールを行ってもよい。
【0167】
Pt−Ti−Oゲート構造を採用した改良Pt−Ti−O/SiO
2/SiC基板構造は安定である点が、Ptを直接ゲート絶縁膜4上に形成したPt/SiO
2/SiC基板構造と異なる点である。改良Pt−Ti−O/SiO
2/SiC基板構造は、400〜600℃で長時間動作させる応用には好適である。
【0168】
実施例4では、触媒ゲートCMOSインバータの回路構成は、実施例1と同じであるが、その性能は実施例1の触媒ゲートCMOS型水素センサとは異なる。
【0169】
次に、実施例4による改良Pt−Ti−Oゲート構造の触媒ゲートCMOS型水素センサについて
図16〜
図18を用いて説明する。
図16は、CMOSインバータの平面図の一例である。
図17は、CMOSインバータを構成するnMOSトランジスタの要部断面図(
図16のA−A´線に沿った要部断面図)である。
図18は、CMOSインバータを構成するpMOSトランジスタの要部断面図(
図16のB−B´線に沿った要部断面図)である。
【0170】
まず、CMOSインバータを構成するnMOSトランジスタNTrの製造方法について説明する。
【0171】
図16および
図17に示すように、n型の4H−SiC8°オフ半導体基板(2×10
18/cm
3)を準備する。この半導体基板上にホモエピタキシャル技術により、例えば10μm程度の厚さのn型の半導体層83を形成する。n型の半導体層83の電子濃度は、例えば1×10
17/cm
3である。続いて、n型の半導体層83にpウェル84を形成するために、p型不純物、例えばAl(アルミニウム)を、例えば250kVのドーズエネルギーでイオン注入する。p型不純物にはB(ホウ素)を用いてもよい。
【0172】
次に、n型の半導体層83の主面に、局所酸化により、局所酸化膜90を形成する。局所酸化膜90は、例えばSiO
2膜から構成され、その厚さは、例えば250nm程度である。
【0173】
次に、Nチャネル領域を定義するため酸化膜をマスクとして、pウェル84にn型不純物、例えばN(窒素)をイオン注入して、n型の半導体層(Vth調整nイオン注入層)87を形成する。さらに、n型不純物、例えばN(窒素)を不純物濃度が1×10
20/cm
3、n型の半導体層87の表面からの深さが200nm程度のソース領域77sとドレイン領域77dを形成する。n型不純物にはP(リン)を用いてもよい。
【0174】
次に、pウェル84の基板電位を制御するため、pコンタクト層81を形成する。具体的には、pウェル84にAl(アルミニウム)をイオン注入する。ドーズエネルギーは、例えば70keVであり、ドーズ量は、例えば5×10
14/cm
2である。イオン注入後、Ar(アルゴン)雰囲気中で、1300℃、20分のArアニールを行う。アニール処理は、各イオン注入後に個別的に行ってもよい。また、アニール処理には、1〜5分程度のフラッシュアニール法を用いてもよい。
【0175】
次に、n型の半導体層83に対して前処理を実施した後、ウェット酸化法により、ゲート絶縁膜75を形成する。ゲート絶縁膜75は、例えばSiO
2膜から構成され、その厚さは、例えば30nm程度である。ウェット酸化法では、例えば850℃、30分の熱酸化と1100℃、6時間の熱酸化を行う。このウェット酸化法により、ソース領域77sおよびドレイン領域77dのn型の半導体層87の表面にも、厚さ80nm程度の局所酸化膜78が形成される。ソース領域77sおよびドレイン領域77dでは、先のイオン注入によりn型の半導体層87の表面近傍がアモルファス状となっているので、増殖酸化により、ゲート絶縁膜75よりも厚い局所酸化膜78が形成される。
【0176】
次に、水素濃度が1%に希釈されたAr雰囲気中(Ar希釈1%水素)で、熱処理温度が800〜1000℃、熱処理時間が30分の水素アニールを行う。この場合、水素の代わりに重水素を用いれば、水素終端の保持力が向上することは、実施例1と同様である。例えば水素濃度が0.1〜3.5%の水素ガスを用いている。
【0177】
その後、例えばリフトオフ法により、ゲート絶縁膜75上にTi膜(図示は省略)およびPt膜から成るゲート電極70を形成する。Ti膜とPt膜とは連続成膜される。Ti膜の厚さは、例えば5nm程度であり、Pt膜の厚さは、例えば15nm程度である。Ti膜の厚さは、例えば2〜10nmの範囲で、Pt膜の厚さは、例えば5〜90nmの範囲で選択されることが多い。高濃度水素(例えば20〜70%)を検知する場合には、Pt膜の厚さを厚膜化、例えば90nm程度する。これは、厚膜化に伴い、低濃度領域での感度がなくなり、逆に高濃度領域で感度を持ち始めるためである。
【0178】
このとき、
図17に示すように、ゲート電極75の形成領域を規定する局所酸化膜78に合わせてソース領域77sとドレイン領域77dとは形成され、ゲート電極70は、ゲート絶縁膜75上だけでなく、局所酸化膜78の淵上を覆うように形成される。従って、ゲート電極70の端部がソース領域77sの端部上およびドレイン領域77dの端部上と重なるように、ゲート電極75は形成される。これは、実施例4では、ゲート電極70に対して自己整合的にソース領域77sおよびドレイン領域77dを形成する技術が使えないからである。Ti膜およびPt膜は、例えば電子線照射蒸着法により形成され、成膜速度は、例えば10nm/1分程度である。
【0179】
次に、高純度の空気中において、熱処理温度が400℃、熱処理期間が68日間空気雰囲気中でアニールを行う、または600℃、12時間程度空気雰囲気中でアニールを行うことにより、触媒ゲート構造を実現することができる。その後、水素または重水素の濃度が0.1〜3.5%程度の窒素雰囲気中において、熱処理温度が400〜630℃程度、熱処理時間が30分の水素アニールを実施してもよい。
【0180】
次に、ゲート電極70上を含むn型の半導体層83上にPSG(リンドープガラス)またはTEOSからなる絶縁膜76を形成する。そして、この絶縁膜76を貫通するコンタクトホールを形成し、表面処理などの工程を経る。
【0181】
次に、n型の半導体層83上にTi膜、TiN膜、およびPt膜を順次EB蒸着リフトオフ法により堆積し、これらを加工することにより、ソース電極71、ドレイン電極72、および制御電極79を形成する。Ti膜の厚さは、例えば50nm程度、TiN膜の厚さは、例えば50nm程度、Pt膜の厚さは、例えば300nm程度である。
【0182】
次に、ソース電極71、ドレイン電極72、および制御電極79、ならびにチップの保護のために、保護膜をn型の半導体層83の主面上に形成する。この保護膜は、例えばPSG(リンドープガラス)74および窒化シリコン膜73の積層膜から構成される。
【0183】
最後に、ボンディングワイヤと接続するために、電極パッド(図示は省略)上にコンタクト孔86を形成し、かつ、センサ部分であるゲート電極70を露出するように開口部99を形成する。
【0184】
次に、CMOSインバータを構成するpMOSトランジスタPTrの製造方法について説明する。なお、上述したnMOSトランジスタNTrの製造方法と同様の部分は省略する。
【0185】
図16および
図18に示すように、Pチャネル領域を定義するため酸化膜をマスクとして、n型の半導体層83にp型不純物、例えばAl(アルミニウム)をイオン注入して、p型の半導体層(Vth調整pイオン注入層)88を形成する。さらに、p型不純物、例えばAl(アルミニウム)を不純物濃度が1×10
20/cm
3、p型の半導体層88の表面からの深さが200nm程度のソース領域82sとドレイン領域82dを形成する。
【0186】
次に、n型の半導体層83の基板電位を制御するため、nコンタクト層85を形成する。具体的には、n型の半導体層83にN(窒素)をイオン注入する。ドーズエネルギーは、例えば20keVであり、ドーズ量は、例えば5×10
14/cm
2である。その後、nMOSトランジスタNTrと同様にアニール処理を行う。
【0187】
次に、nMOSトランジスタNTrと同様にして、ゲート絶縁膜75、ゲート電極70等を形成した後、ゲート電極70上を含むn型の半導体層83上にPSG(リンドープガラス)またはTEOSからなる絶縁膜76を形成する。そして、この絶縁膜76を貫通するコンタクトホールを形成し、表面処理などの工程を経る。さらに、nMOSトランジスタNTrと同様にして、n型の半導体層83上にソース電極91、ドレイン電極72、および制御電極80を形成する。
【0188】
nMOSトランジスタNTrおよびpMOSトランジスタPTrのゲート電極70の引き出し線は省略している。また、図示は省略するが、チップを加熱するヒータとして、ソース電極71,91等を構成するTi膜、TiN膜、およびPt膜からなる積層膜を用いて配線ヒータを形成してもよい。配線ヒータの配線幅は、例えば20μm程度、配線長は、例えば29,000μm程度である。
【0189】
CMOSインバータを構成するnMOSトランジスタとpMOSトランジスタとを対称にするため、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタにおいて、Pt−Ti−O構造のゲート電極およびゲート絶縁膜は同じである。nMOSトランジスタの実効移動度μnが50Cm
2/Vs、pMOSトランジスタの実効移動度μpが20Cm
2/Vsの場合、式(11)のβ
R=βn/βpが1となるように、nMOSトランジスタのゲート長Lg(n)とpMOSトランジスタのゲート長Lg(p)とは同じ10μmとし、nMOSトランジスタのゲート幅Wg(n)は200μm、pMOSトランジスタのゲート幅Wg(p)は500μmと設計することができる。
【0190】
nMOSトランジスタのしきい電圧Vtnは、ソース−ドレイン間電圧Vdsが3.0Vで、ソース−ドレイン間電流Idsが10μAのときの電圧と定義し、例えば1.3Vに設定した。同様に、pMOSトランジスタのしきい電圧Vtpは、ソース−ドレイン間電圧Vdsが−3.0Vで、ソース−ドレイン間電流Idsが10μAのときの電圧と定義し、例えば−1.3Vとした。その他の回路構成は、実施例1と同様であるので省略する。
【0191】
実施例4では、水素ガスに対する濃度依存性は、センサ動作温度が500℃の時、0.1〜10%の濃度範囲において、C0=1%でΔgmax=2.0Vであり、式(25)で近似することができる。
【0192】
すなわち、所望のしきい値濃度を1%に設定するとΔVgth=1.0Vとなるので、実施例1と同じ平面寸法のCMOSインバータで構成し、Vdd=3.0VとVss=0.0VからVtc=1.5Vとし、入力設定ゲート電位Vin(D)を式(12)からVin(D)=0.5Vに設定する。この場合、前述の
図2に示す触媒ゲートCMOSインバータは、水素ガス濃度1%以上で反転して、Vout=0.0Vを示す。さらに、水素ガス濃度1%より低くなると初期値Vout=3.0Vに戻る。
【0193】
この方式により、アナログ回路とAD変換器を用いることなく、簡便に所望のしきい値水素ガス濃度を判定できるようになり、簡便に高温での水素濃度しきい値を測定することができる。
【0194】
実施例4の触媒ゲート構造と実施例1の触媒ゲート構造とはゲート電極が異なり、それに伴い、nMOSトランジスタのしきい値電圧VtnとpMOSトランジスタのしきい値電圧Vthpにズレが生じてしまう。この場合は、実施例1のチャネル領域を形成する際のイオン注入条件、特にドーズ量を調整することにより、Vtn=−Vtp=1.3Vを実現することができる。
【0195】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0196】
実施例1〜4に説明したMOS構造以外の電界効果トランジスタを用いて、ガスセンサを構成してもよい。例えばガラス基板上に形成されるTFT(Thin Film Transistor)を用いてもよい。TFTは、これまで主に画像素子に適用されてきたが、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタとを同一基板上に作製できるので、所望のガスに対して好適な触媒ゲート構造を適用することで、ガスセンサを実現できることは言うまでもない。つまり、触媒ゲート構造が形成され、CMOSインバータに適用できるnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタが実現できればよい。
【0197】
また、実施例1〜4では、nMOSトランジスタとpMOSトランジスタとを同一チップ内に形成し、プロセス変動の影響を回避するため、互いのゲートをできるだけ近くに置いたが、これに限定されるものではない。例えばnMOSトランジスタとpMOSトランジスタとを別々のチップに作製してもよい。