(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6251811
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】床付き義歯の製作装置
(51)【国際特許分類】
A61C 13/14 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
A61C13/14 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-540092(P2016-540092)
(86)(22)【出願日】2015年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2015063153
(87)【国際公開番号】WO2016178286
(87)【国際公開日】20161110
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】599133299
【氏名又は名称】寺岡 文雄
(73)【特許権者】
【識別番号】516175571
【氏名又は名称】株式会社カム・ネッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 文雄
【審査官】
立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−085423(JP,A)
【文献】
実開昭57−048911(JP,U)
【文献】
特開平02−036858(JP,A)
【文献】
特開昭61−076331(JP,A)
【文献】
特表昭62−500498(JP,A)
【文献】
特開平07−031632(JP,A)
【文献】
特開平09−206316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側が開放面であるトレイ状の本体側フラスコ(F1)と、下面側が開放面であるトレイ状のカバー側フラスコ(F2)とからなり、本体側フラスコ(F1)とカバー側フラスコ(F2)の開放面同士が相対して、床付き義歯の製作装置に用い、前記本体側フラスコ(F1)と前記カバー側フラスコ(F2)の外面を均等に加熱するフラスコ(F)であって、
前記本体側フラスコ(F1)は金属製であり、前記カバー側フラスコ(F2)は樹脂または繊維強化樹脂製であり、
前記本体側フラスコ(F1)は、その上面側の凹み部分に、埋没用の石膏充填層(g1)を介して、別途作製の蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)を設置する使い方をするものであり、
一方、前記のカバー側フラスコ(F2)は、前記の蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)を、その上方側から、埋没用の石膏充填層(g2)を介して覆う使い方をするものであるフラスコ(F)。
【請求項2】
請求項1に記載のフラスコ(F)とともに床付き義歯の製作装置に用いる逆止弁手段(V)であって、
当該製作装置のフラスコ(F)内にセットされた蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)の蝋を除去する流蝋操作により生じた空隙への餅状レジン(R)の供給と逆流防止の機能を有し、かつ、
フラスコ(F)の内部に挿入配置する入出路を有する逆止弁手段(V)。
【請求項3】
請求項2に記載の逆止弁手段(V)であって、ボール(V2)により流路が開閉される逆止弁機構を有することを特徴とする逆止弁手段(V)。
【請求項4】
フラスコを備える床付き義歯の製作装置であって、
フラスコが請求項1に記載のフラスコ(F)であることを特徴とする床付き義歯の製作装置。
【請求項5】
逆止弁手段を備える床付き義歯の製作装置であって、
逆止弁手段が請求項2または請求項3に記載の逆止弁手段(V)であることを特徴とする床付き義歯の製作装置。
【請求項6】
請求項5記載の床付き義歯の製作装置であって、
請求項2に記載の入出路が、請求項1に記載の本体側フラスコ(F1)と請求項1に記載のカバー側フラスコ(F2)の互いに合わさる面のいずれかに溝が、または互いに合わさる双方の面の相対する位置に溝が、掘られていることを特徴とする床付き義歯の製作装置。
【請求項7】
床付き義歯の製造方法であって、
(1)上面側が開放面であるトレイ状の金属製本体側フラスコ(F1)の上面側の凹み部分に、埋没用の石膏を流し込んで石膏充填層(g1)を作るステップと、
(2)当該石膏充填層(g1)に別途作製の蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)を押し込んで設置するステップと、
(3)設置された当該石膏模型(G)の上に埋没用の石膏を流し込んで石膏充填層(g2)で石膏模型(G)を覆うステップと、
(4)下面側が開放面であるトレイ状の樹脂製カバー側フラスコ(F2)を前記石膏充填層(g2)にかぶせてフラスコ(F)を組み立てるステップと、
(5)前記ステップ(2)で設置された石膏模型(G)の蝋義歯(WD)の蝋を除去するために前記フラスコ(F)を加熱するステップと、
(6)前記ステップ(5)で蝋が除去された空間に餅状レジン(R)を供給し、逆流を防止するステップと、
(7)前記フラスコ(F)の周囲から熱を加えて餅状レジン(R)を重合させるステップと、
を有する床付き義歯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体側フラスコ(下側フラスコ)とカバー側フラスコ(上側フラスコ)との組み合わせからなるハイブリッド型のフラスコを用いた床付き義歯の製作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(はじめに)
「床付き義歯」の製作手法、製作材料、製作装置に関しては、歯科医療の現場および関連分野において種々様々の工夫がなされており、また相当数の特許出願がなされており、さらにはこの分野の専門誌にも説明記事が掲載されている。
【0003】
(特許文献1)
特開平7−31632(特許第3293250号)には、マイクロ波重合法でアクリル系樹脂床の義歯を作製する注入式の繊維強化プラスチック(FRP)製の歯科用フラスコにおいて、フラスコが上輪(上側フラスコ)および下輪(下側フラスコ)から構成されており、フラスコ上輪のほぼ中央部に石膏供給用くり抜き部を設け、くり抜き部には上輪と下輪とを締め付けた後に固定可能な蓋を設け、フラスコ上輪の枠部に樹脂注入口を設けたことを特徴とする歯科用フラスコが示されている。
【0004】
(特許文献2)
特開平9−206316には、上盆(上側フラスコ)が「金属製の上盆1と樹脂製の上盆4」とからなり、中盆2(中間フラスコ)が「金属製の中盆」からなり、下盆3(下側フラスコ)が「底部にマイクロ波を透過させるための貫通孔が穿設されているか又はその貫通孔が樹脂で封塞されている金属製の下盆」とからなる義歯床用レジン重合用フラスコが示されている。
【0005】
(特許文献3)
特開平7−80006(特許第3287372号)には、マイクロ波重合法でアクリル系樹脂床の義歯を作製する注入式の繊維強化プラスチック(FRP)製の歯科用フラスコにおいて、フラスコが上輪(上側フラスコ)および下輪(下側フラスコ)から構成されており、フラスコ上輪のほぼ中央部に石膏供給用くり抜き部を設け、そのくり抜き部の外周に凸状の枠部を設け、その枠部に樹脂注入口を固定できることを特徴とする歯科用繊維強化プラスチック製フラスコが示されている。
【0006】
(特許文献4)
特開2008−73229の発明は、レジン床義歯作製時に用いられる技工用加圧重合器に関するものである。この文献には、重合器の過加圧を防ぐための圧力制御弁につき記載があり、逆止弁内蔵型カプラ(オスとメス2つのカプラによって配管接続された重合器(圧力釜)の安全弁)についても言及がある。ただし、そのカプラは、操作ミス等によりカプラが外れたときに圧力容器や配管通路から圧縮空気が抜けないようにするためのものである。
【0007】
(特許文献5)
特開2008−167810の発明は、合成樹脂製義歯床の製造方法において用いられる脱蝋方法にかかるものである。その段落0047にはリリーフ弁53として逆止弁を使用することが好ましい旨の記載があり、またリリーフ弁に代えて小口径穴排出ノズルを用いることができる旨の記載がある。なお、この文献におけるリリーフ弁や逆止弁は、脱蝋時の水蒸気を逃がすためのものである。
【0008】
(特許文献6)
特開平11−253464の発明は、ガスインジェクションによる義歯作成法にかかるものであって、型内部に義歯床用樹脂組成物を注入し、その型内でその重合反応を完結させるものである。
その段落0011(補正前と補正後)には、あご(顎)の型に合わせて作った石膏型(下方にスプルーを植立し、上方にベントを付与したもの)の中に樹脂組成物を注入し、その重合を進行させる途中で、餅状の粘稠な樹脂組成物(義歯床)内部に不活性ガスを注入し、これを保圧することについての記載がある。
その段落0013の実施例1には、逆流防止弁の付いた注射筒を用いてアルゴンガスをゴム栓を通してスプルー部分から樹脂組成物の内部に注入し、そのまま保圧した状態でフラスコを50℃の水浴中に浸漬した後、室温に徐冷したとの記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−31632(特許第3293250号)
【特許文献2】特開平9−206316
【特許文献3】特開平7−80006(特許第3287372号)
【特許文献4】特開2008−73229
【特許文献5】特開2008−167810
【特許文献6】特開平11−253464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(特許文献1〜3について)
特許文献1〜3に記載の発明は上述の如くであり、それらの発明の構成のうち部分的な工夫点については今日においても採用されているが、当時に比し、要請が一段と厳しくなっている今日においては、この分野におけるさらなる技術発展が望まれる。
【0011】
(特許文献4、5について)
特許文献4、5には、義歯または義歯床に関連して「逆止弁」に関しての言及があるが、圧力容器ないし加圧器の安全弁にかかるものであり、本願発明との関係を見い出し難い。
【0012】
(特許文献6について)
特許文献6においては、その特許請求の範囲やその段落0013の実施例1のように、樹脂粉末と液状ビニルモノマーとの粉液混合物を加圧注入器にてフラスコ内の型に圧入し、その注入部を保栓してから所定時間を経過した後に、逆流防止弁付きの注射筒を用いてアルゴンガスを前記のゴム栓を通してスプルー部分から樹脂組成物の内部に注入し、そのまま保圧した状態でフラスコを50℃の水浴内に浸漬した後、室温に徐冷している。
この特許文献6には、上記のように「ガス注入による保圧」につき記載があるものの、その技術思想は本願発明とは基本的に相違している。
【0013】
(本発明の目的)
−1−
義歯を利用している患者は極めて多く、また年齢が高くなるほど義歯の装着率も増加する。公表されている2011年の歯科疾患実体調査によれば、65歳以上の部分床義歯装着者の割合は43%、65歳以上の全部床義歯装着者の割合は26%であるとの報告があり、併せると65歳以上の人の約70%が部分床義歯または全部床義歯のうちのどちらかを装着していることになる。
患者が快適な日常生活を送るためには、口内に装着したときの適合精度が良く、従って違和感のない床付き義歯を提供することが強く要請される。
−2−
本発明は、このような背景下において、従来においては実施も提案もされていない「床付き義歯の製作装置」を提供することにより、この分野における技術の豊富化を図り、上記の要請に応えることを目的とするものである。
−3−
本発明のコンセプトは、本体側のフラスコおよびカバー側のフラスコについての材質上の工夫と、両フラスコで形成される空隙への餅状レジンの供給手段についての工夫とにより、複雑かつ高価な重合装置を使用しないにもかかわらず、患者が装着したときの適合性のすぐれた床付き義歯を製作することのできる装置を提供することにある。
なお、本発明の目的物を「装置」と表現しているが、その「装置」はシステムまたはキットに近いニュアンスを含んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の床付き義歯の製作装置は、
上面側が開放面であるトレイ状の本体側フラスコ(F1)と、下面側が開放面であるトレイ状のカバー側フラスコ(F2)との組み合わせからなるハイブリッド型のフラスコ(F)からなるものであること、
ここで、前記の本体側フラスコ(F1)は熱伝導率の大きい素材である金属で構成され、前記のカバー側フラスコ(F2)は熱伝導率の小さい素材である樹脂または繊維強化樹脂で構成されていること、
前記の本体側フラスコ(F1)は、その上面側の凹み部分に、埋没用の石膏充填層(g1)を介して、別途作製の蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)を設置する使い方をするものであり、一方、前記のカバー側フラスコ(F2)は、前記の蝋義歯(WD)付きの石膏模型(G)を、その上方側から、埋没用の石膏充填層(g2)を介して覆う使い方をするものであること、
さらに、前記の状態から蝋を除去する流蝋操作により生じた空隙への餅状レジン(R)の供給と保圧と逆流防止との3機能を発揮させるための部材として、前記のハイブリッド型のフラスコ(F)の内部に挿入配置する入出路付きの逆止弁手段(V)を備えていること、
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製作装置を用いて床付き義歯を製作すれば、従来に比し、より確実にかつより短時間に、しかも装着時の適合性の良い床付き義歯を患者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本体側フラスコ(F1)とカバー側フラスコ(F2)との組み合わせからなる本発明のハイブリッド型のフラスコ(F)の使用状態を示した説明図である
【
図2】フラスコ(F)内に餅状レジン(R)の供給するための逆止弁手段(V)の構成と作用を示すための説明図である。
【
図3】
図1のハイブリッド型のフラスコ(F)を用いたときのフラスコ(F)内の片面加熱状態を示した説明図である。
【
図4】本発明の床付き義歯の製作装置のうち、ハイブリッド型のフラスコ(F)を開いたときの本体側フラスコ(F1)およびカバー側フラスコ(F2)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ハイブリッド型のフラスコ(F))
−1−
本発明におけるハイブリッド型のフラスコ(F)は、上面側が開放面であるトレイ状の本体側フラスコ(F1)と、下面側が開放面であるトレイ状のカバー側フラスコ(F2)との組み合わせからなる。
−2−
ここで、前記の本体側フラスコ(F1)は熱伝導率の大きい素材である金属で構成される。
アルミニウムまたはアルミニウム合金は、軽くかつ錆びにくい上、その熱伝導率が極めて大きいので(たとえばアルミウムの熱伝導率は236W/mK)、本発明の本体側フラスコ(F1)の材質として特に好ましいものである。
なお、本体側フラスコ(F1)として、たとえば黄銅(真鍮)製のものを用いることも可能である。部分床義歯のうち義歯数が少ない部分床義歯の場合には、フラスコも小さくて済むので、黄銅製であってもそれほど重くはならないからである。
ちなみに、他の汎用の金属の熱伝導率(W/mK)は、スズが50〜70程度、鉄が70〜80程度、ニッケルが90程度、亜鉛が120程度である。
−3−
一方、前記のカバー側フラスコ(F2)は、熱伝導率の小さい素材である樹脂または繊維強化樹脂(つまりFRP)で構成される。樹脂とFRPとを対比したときには、強度が格段に大きいFRPが、本発明の目的に最適である。
FRPの熱伝導率は、たとえば0.26W/mKであり、上記のアルミニウムの熱伝導率のおおよそ1/900にすぎない。
【0019】
(本体側フラスコ(F1)およびカバー側フラスコ(F2)の使い方と役割)
−1−
義歯製作の工程においては、口腔内の型を取ってから(印象を採得してから)、その印象に基いて石膏模型(G)を作製し、ついでその石膏模型(G)に対してワックスを盛り付けることにより、義歯の原型である蝋義歯つまりワックスデンチャー(WD)を作製する。
−2−
そして、このワックスデンチャー(WD)付きの石膏模型(G)を本体側フラスコ(F1)の上面側の凹み部分に置き、隙間の部位に石膏(g2)を塗り付けていく操作を数回行って、上記の石膏模型(G)上に形成されているワックスデンチャー(WD)を石膏(g2)の層で覆うと共に、その上からカバー側フラスコ(F2)をかぶせる。
−3−
このようにして、ワックスデンチャー(WD)を上下から包む石膏(g1),(g2)が硬化してから、全体を横にして加熱することにより、ワックスデンチャー(WD)を液化させて流し去る操作を行う。
この流蝋操作により、ワックスデンチャー(WD)が占めていた部位は空洞になるので、次に、そこに別途作製しておいた餅状レジン(アクリルポリマーの粉体とアクリルモノマーの液との混合物)を充填して、加熱重合を行う。
このときの加熱は、本体側フラスコ(F1)からの加熱による重合がすみやかに進むようにしなければならないため、何らかの特別の工夫を要するわけである。
−4−
そこで、本発明においては、上述のように、本体側フラスコ(F1)としては熱伝導率が極めて大きい金属製のものを用い、一方カバー側フラスコ(F2)としては熱伝導率が小さい樹脂または繊維強化樹脂を用いるという特別の工夫を講じたのである。
−5−
上記のように、本体側フラスコ(F1)は熱伝導率が大きく、一方カバー側フラスコ(F2)は熱伝導率が小さいので、それらの組み合わせからなるハイブリッド型のフラスコ(F)に餅状レジン(R)を充填したものを本体側フラスコ(F1)から加熱したときには、次のような特別な作用効果が奏される。
1:熱伝導率の大きい本体側フラスコ(F1)の側からは、
図3の上向きの太い矢印のように、加熱が効率的になされて重合がすみやかに進行し
、義歯の粘膜面からの重合が進行して、義歯の適合性(模型表面と義歯粘膜面との適合性)が向上する。
2:一方
、熱伝導率の小さいカバー側フラスコ(F1)の側からは、
図3の下向きの細い矢印のように、加熱がゆっくりと進むので、重合収縮の補填が行われると共に餅状レジン(R)の注入圧が保たれる。
3:その結果、義歯の粘膜面から重合が開始して、義歯の適合性(模型表面と義歯粘膜面との適合性)が向上する。
【0020】
(入出路付きの逆止弁手段(V))
−1−
本発明の製作装置にあっては、さらに、前記の状態から蝋を除去する流蝋操作により生じた空隙への餅状レジン(R)の供給と保圧と逆流防止の3機能を発揮させるための部材として、前記のハイブリッド型のフラスコ(F)内部に向けて外部から挿入配置する入出路付きの逆止弁手段(V)を備えている。
この入出路付きの逆止弁手段(V)は、本体側フラスコ(F1)の石膏からの熱によるスプルー部の重合を遅らせるため、熱伝導率の小さい素材で構成されていることが好ましい。
−2−
逆止弁手段(V)としては、たとえば、流れの方向によってボールが流路の入口を塞いだり流路の入口から離れたりするボール弁をはじめとする種々の機構のものを使用できる。ボール弁の場合のボールの材質は、プラスチックス、ガラス、金属など任意である。
−3−
逆止弁手段(V)の他の例は、扉形の弁(薄片状の弁が一方側からの流れを阻止するが、反対方向からの流れについては弁が開くタイプのもの)、切れ込み付きの三角帽子型の弁(帽子の外側から帽子の頂点に向かう流れは阻止するが、帽子の広口の方から帽子の内部を通って帽子の頂点に向かう流れは通すもの)などである。
−4−
上に例示した逆止弁手段(V)の中では、構造のシンプルさ、流路の傾斜など使用状態条件に依存しない確実さなどを総合勘案すると、ボール弁タイプのものが使いやすいということができる。
−5−
なお、上に述べた逆止弁手段(V)は、1回の使用で使い捨てにするのが通常である。−6−
上記の入出路付きの逆止弁手段(V)の入出路はチューブ状とするのが通常であるが、餅状レジン(R)の送路となるものであるので、熱伝導率が小さくかつ適度の柔軟性を有することが望ましく、たとえば樹脂やエラストマーで構成される。(熱伝導率が小さいと、逆止弁内の餅状レジンの重合が遅くなり,その重合収縮を補填できることになる。)
樹脂の例はポリオレフィンやポリ塩化ビニルなどであり、エラストマーの例は天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴムなどである。
【0021】
(ボール弁を用いた場合の逆止弁手段(V)の原理)
−1−
逆止弁手段(V)として「ボール弁」機構を採用した場合の原理を、
図2の(a)と(b)に示す。
−2−
図2(a)における符号の意味は次の通りである。
(v1)は、チューブ状の入出路である。
(v2)は、ボール弁のボールである。
(v3)は、図面上では点線で描いてあるが、1本の棒からなるストッパーである。1本の棒でも、十分にストッパーとしての役割を果たす。
入出路(v1)の内側に示した太線は、短管状の内挿チューブ(v4)である。この内挿チューブ(v4)は、チューブ状の入出路(v1)である管路の内径を狭める役割を果たす部材である。
−3−
図2(a)においては、入出路(v1)のチューブ内を矢印付き太線のように右側から左側に送られてきた餅状レジン(R)の流れは、ボール(v2)を棒状のストッパー(v3)に向けて押し付けるので、ボール(v2)は短管状の内挿チューブ(v4)の先端側から左方に押しやられ、その短管状の内挿チューブ(v4)の先端側との間に隙間が生じる。
その結果、
図2(a)の円弧状の矢印のような流路が開かれ、餅状レジン(R)は
図2(a)のように流れはじめる。
−4−
図2(b)は餅状レジン(R)がフラスコ内の空隙部を埋め、
図2(b)の左側の部位の圧力が高まった場合である。このときには、入出路(v1)の管内に白抜き矢印のようにボール(v2)を図の右側に押しやる力が働く結果、ボール(v2)は短管状の内挿チューブ(v4)の左端の開口部を塞ぐようになり、餅状レジン(R)の供給が自動的に止まる。
【0022】
(注入圧力と内部圧力)
−1−
逆止弁手段(V)を設けなかった場合の実験では、注入圧力を0.35MPa程度に設定したときには、内部圧力は3.5〜4.0MPa程度となり、注入圧力を0.40MPa程度に設定した場合には内部圧力は4.3〜5.0MPa程度となる。
除重後の内部圧力は一気に2.0MPa程度に低下し、その後も下がって、除重後60分後には1MPa程度になる。
【0023】
(逆止弁の影響)
−3−
しかるに、逆止弁手段(V)を設けた場合の実験では、注入圧力を0.35MPa程度に設定したときには、内部圧力は4.3MPa程度の一定値になり、除重後の内部圧力はゆっくりと3.5MPa程度になった。低下率は約20%にとどまる。
【0024】
(ハイブリッドフラスコの効果)
−4−
餅状レジンを注入したハイブリッドフラスコを沸騰水中に浸漬した場合、約6分後に、金属フラスコに埋没されている石膏模型の温度重合が開始する70℃付近に達するが、FRP製のカバー側フラスコに充填した石膏の温度はまだ34℃程度であり、差し引き約36℃の温度差が生じた。これは、金属とFRPの熱伝導率の違いによって生じたもので、模型側からの重合が開始することがわかり、作製した義歯の適合性を向上させる要因のひとつである。
【0025】
−5−
餅状レジンを注入したハイブリッドフラスコを沸騰水中に20分間浸漬した場合、義歯床と模型との間隙(適合性)は平均して100μm程度であり、一般の重合システムや重合方法と比べて、義歯床と模型との間隙は1/2〜1/4程度であり、適合性は優れていた。
製作した義歯の適合性の向上は、熱伝導率の異なるカバー側フラスコ(F2)と本体側フラスコ(F1)とを組み合わせたハイブリッドフラスコ(F)と逆止弁手段(V)との相乗効果に起因している。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の床付き義歯の製作装置は、全部床義歯または部分床義歯を必要とする患者、歯科医、歯科技工士、歯科衛生士などの関係者にとって、そして患者の家族にとっても、極めて有用である。
【符号の説明】
【0027】
(F)……ハイブリッド型のフラスコ
(F1)…本体側フラスコ
(F2)…カバー側フラスコ
(G)……石膏模型
(WD)……蝋義歯(ワックスデンチャー)
(V)……逆止弁手段
(R)……餅状レジン
(g1)…石膏
(g2)…石膏
(v1)…(チューブ状の)入出路
(v2)…(ボール弁の)ボール
(v3)…ストッパー
(v4)…内挿チューブ
(U)……U字溝