特許第6251999号(P6251999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6251999
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】接着継手の破断予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20171218BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   G06F17/50 612J
   G01N3/00 Q
   G06F17/50 680Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-143281(P2013-143281)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-18306(P2015-18306A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】上田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−032477(JP,A)
【文献】 特開2013−109443(JP,A)
【文献】 特開2008−077431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G01N 3/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限要素法を用いて、接着剤を介して接着された一対の部材を有する接着継手の破断を予測する際に、
前記接着継手の結合部を、前記接着剤によって構成される接着部、及び、前記接着剤に接触している前記部材の部位によって構成される接着界面部として定義し、
前記接着剤の破断は予め特定される前記接着剤自体が破断するときにおける前記接着剤にかかる応力である前記接着部の破断判定値に、前記有限要素法によって解析される前記接着部の応力が達したか否かで判定し、且つ、
前記接着剤と前記部材との界面における破断は予め特定される前記接着界面部が破断するときにおける前記接着界面部の応力である前記接着界面部の破断判定値に、前記有限要素法によって解析される前記接着界面部の応力が達したか否かで判定することを特徴とし、
前記部材は、前記接着界面部、及び、該接着界面部以外の部位からなり、
前記部材の前記接着界面部以外の部位は、シェル要素でメッシュ分割され、
前記接着部及び前記接着界面部は、それぞれ、厚さ方向に分割されていないシート状の要素でメッシュ分割されている
接着継手の破断予測方法。
【請求項2】
接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析の結果から、前記接着部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力と、前記接着界面部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力とを算出し、算出したこれらの値をそれぞれ前記接着部の破断判定値及び前記接着界面部の破断判定値として用いることを特徴とする、請求項1に記載の接着継手の破断予測方法。
【請求項3】
接着継手の引張試験を模擬した前記有限要素法解析では、前記接着剤及び前記一対の部材のすべてが六面体要素でメッシュ分割されることを特徴とする、請求項に記載の接着継手の破断予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有限要素法解析(Finite Element Method解析)を用いた接着継手の破断予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部材の組み立てには、スポット溶接が広く用いられている。自動車の衝突変形時には、スポット溶接部が破断し部材性能が変化する場合があるため、スポット溶接部破断を考慮した衝突解析を行うことが望まれている。
【0003】
一方、スポット溶接部破断を低減し、部材の剛性を向上させることを目的として、部材のフランジ部に接着剤を塗布する方法が用いられることがある。この接着剤には構造用の接着剤が用いられ、塗布後に熱処理を施して硬化させた状態で使用される。なお、接着剤とスポット溶接とをあわせてウエルドボンドと呼ばれている。
【0004】
接着剤が使用されている自動車部材の衝突解析を行って部材の衝突形態を予測するためには、構造部材及び接着剤の両方を考慮した解析を行う必要がある。このような解析に関する技術として、例えば特許文献1及び特許文献2には、2枚の被着材を接着剤で接着した接着継手構造を、各被着材をシェル要素、接着剤をビーム要素としてモデル化する有限要素解析モデルの作成方法が開示されている。また、特許文献3には、接着部材を介して2つの構造部材が接着された構造体について、規模の増大を抑制しながら解析モデルを生成する方法が開示されている。また、特許文献4には、2枚の被着材を接着剤で接着した接着構造を、各被着材をシェル要素、接着剤をビーム要素としてモデル化する有限要素解析モデルによる接着剤特性の計算方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−52329号公報
【特許文献2】特開2008−108242号公報
【特許文献3】特開2009−3529号公報
【特許文献4】特開2009−99132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に開示されている技術によれば、接着剤を考慮した解析を行うことが可能と考えられる。しかしながら、これらの技術では、接着剤と構造部材との界面で生じる破断(例えば、接着剤を介して鋼板を接着した場合であれば、接着剤と鋼板母材との界面(例えば、接着剤とめっき層との界面、めっき層と鋼板母材との界面、又は、めっき層自体)で生じる破断。以下において、これらの破断を「界面破断」ということがある。)を予測することはできない。ウエルドボンドでは界面破断が生じる場合があるにもかかわらず、特許文献1〜4に開示されている技術では界面破断を予測することはできないため、接着継手の強度を適切に予測できないという問題があった。また、特許文献1〜4に開示されている技術では、接着部にビーム要素を用いてモデル化しているため、解析精度を高め難いという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、界面破断を考慮した高精度の解析を行うことが可能な、接着継手の破断予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有限要素法を用いて、接着剤を介して接着された一対の部材を有する接着継手の破断を予測する際に、接着継手の結合部を、接着剤によって構成される接着部、及び、接着剤に接触している部材の部位によって構成される接着界面部として定義し、接着剤の破断は接着部で判定し、且つ、接着剤と部材との界面における破断は接着界面部で判定することを特徴とする、接着継手の破断予測方法である。
【0009】
ここに、本発明において、「接着剤の破断は接着部で判定」とは、例えば、接着剤自体が破断するサンプルを用いて予め特定される、接着剤自体が破断する時における接着剤の応力(以下において、「接着部の破断判定値」という。)に、有限要素解析中における接着部の応力が達したか否かを判定することによって、接着剤が破断したか否かを判定することをいう。また、本発明において、「接着剤と部材との界面における破断は接着界面部で判定」とは、例えば、界面破断が生じるサンプルを用いて予め特定される、接着界面部が破断する時における接着界面部の応力(以下において、「接着界面部の破断判定値」という。)に、有限要素解析中における接着界面部の応力が達したか否かを判定することによって、界面破断が生じたか否かを判定することをいう。
【0010】
また、上記本発明において、上記部材は、上記接着界面部、及び、該接着界面部以外の部位からなり、部材の接着界面部以外の部位は、シェル要素でメッシュ分割され、接着部及び接着界面部は、それぞれ、厚さ方向に分割されていないシート状の要素でメッシュ分割されることが好ましい。
【0011】
ここに、本発明において、「部材の接着界面部以外の部位」とは、部材の接着界面部をA、部材のうち接着界面部以外の部位をBとするとき、Bを意味する。また、本発明において、「厚さ方向に分割されていないシート状の要素」とは、例えば、粘着要素を意味する。なお、当該要素はソルバによって名称が異なり、接着要素等の他の名称で呼ばれることもある。以下の説明では、「厚さ方向に分割されていないシート状の要素」を「粘着要素」という。
【0012】
また、上記本発明において、接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析の結果から、接着部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力と、接着界面部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力とを算出し、算出したこれらの値を破断判定値として用いることが好ましい。
【0013】
ここに、本発明において、接着継手が引張せん断継手の場合には、接着部における破断限界のせん断応力と、接着界面部における破断限界のせん断応力とを算出し、算出したこれら値を破断判定値として用いる。また、本発明において、接着継手がはく離継手の場合には、接着部における破断限界の主応力と、接着界面部における破断限界の主応力とを算出し、算出したこれらの値を破断判定値として用いる。また、本発明において、接着継手が、引張せん断継手の破断形態とはく離継手の破断形態とを組み合わせた形態で破断する場合には、接着部における破断限界の主応力及びせん断応力と、接着界面部における破断限界の主応力及びせん断応力とを算出し、算出したこれらの値を破断判定値として用いる。
【0014】
また、接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析の結果から、接着部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力と、接着界面部における破断限界の主応力及び/又はせん断応力とを算出し、算出したこれらの値を破断判定値として用いる上記本発明において、接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析では、接着剤及び一対の部材のすべてが六面体要素でメッシュ分割されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接着部のみならず接着界面部を含むモデルを用いて有限要素法により解析を行うので、接着剤自体の破断のみならず、界面破断をも考慮しながら、接着継手の破断予測を行うことができる。界面破断を考慮しない従来技術では、吸収エネルギーを過大に見積もってしまう結果、実際に生じる現象を予測できないことがあるが、本発明では界面破断も考慮するので、従来よりも破断予測の精度を高めることが可能になる。したがって、本発明によれば、界面破断を考慮した高精度の解析を行うことが可能な、接着継手の破断予測方法を提供することができる。
【0016】
また、本発明において、接着部及び接着界面部を粘着要素でメッシュ分割し、これ以外をシェル要素でメッシュ分割することにより、計算負荷を低減しつつ、破断予測の精度を高めることが可能になる。また、本発明において、接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析により算出した破断限界の主応力及び/又はせん断応力を破断判定値として用いたり、接着継手の引張試験を模擬した有限要素法解析においてすべてを六面体要素でメッシュ分割したりすることにより、破断予測の精度を高めやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】接着継手の解析モデルを説明する図である。図1(a)は引張せん断継手の解析モデルを説明する図であり、図1(b)ははく離継手の解析モデルを説明する図である。
図2】結合部及びその近傍を説明する図である。
図3】引張試験を模擬した接着継手の解析モデルを説明する図である。図3(a)は引張せん断継手の解析モデルを説明する図であり、図3(b)ははく離継手の解析モデルを説明する図である。
図4】せん断応力τの破断判定値の算出方法を説明する図である。図4(a)はせん断応力τの分布例を示す図であり、図4(b)は解析結果の荷重及びせん断応力τの履歴の例を説明する図である。
図5】主応力σの破断判定値の算出方法を説明する図である。図5(a)は主応力σの分布例を示す図であり、図5(b)は解析結果の荷重及び主応力σの履歴の例を説明する図である。
図6】継手引張試験モデルに本発明を適用した場合の結果を説明する図である。
図7】ハット部材軸圧潰試験モデルに本発明を適用する場合の解析モデルを説明する図である。
図8】ハット部材軸圧潰試験モデルに本発明を適用した場合の結果を説明する図である。図8(a)は吸収エネルギーの予測結果を説明する図であり、図8(b)は最大荷重の予測結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、引張せん断継手、はく離継手、及び、ハット部材の破断を予測する際に本発明を適用した場合について主に例示するが、本発明はこれらの形態に限定されない。
【0019】
図1は、本発明で用いる接着継手の解析モデルの形態例を示す図である。図1(a)には、一対の板状部材が接着剤によって接合されている引張せん断継手の解析モデルを示しており、図1(b)には、一対のL字形部材が接着剤によって接合されているはく離継手の解析モデルを示している。また、図2は、引張せん断継手の接合部及びその近傍を説明する図である。なお、図2では、符号の一部の記載を省略している。
【0020】
図1及び図2に示したように、本発明では、接着剤を接着部として定義し、且つ、接着剤を介して接着される部材を、接着界面部及びシェル部として定義する。図2に示したように、継手の結合部1は、接着部2と、該接着部2に接触している部材3の一部である接着界面部3aと、部材3の他の一部であるシェル部3bと、接着部2に接触している部材4の一部である接着界面部4aと、部材4の他の一部であるシェル部4bと、を有し、接着部2、接着界面部3a、シェル部3b、接着界面部4a、及び、シェル部4bは、それぞれ、複数の要素にメッシュ分割されている。接着部2は一対の接着界面部3a、4aの間に充填されて、接着界面部3a、4aと接触しており、接着界面部3a、4aの外側には一対のシェル部3b、4bが配置されている。すなわち、結合部1は、部材3の側から順に、シェル部3b、接着界面部3a、接着部2、接着界面部4a、及び、シェル部4bの5層構造となっている。結合部1において、接着部2は接着継手の接着剤に相当し、接着界面部3a、4aは例えば鋼板母材の表面に形成されているめっき層に相当し、シェル部3b、4bは例えば鋼板母材に相当する。なお、図2には引張せん断継手の結合部及びその近傍を示したが、本発明が適用される接着継手の結合部は、図2に示したような5層構造でモデル化する。
【0021】
本発明において、接着部2、接着界面部3a、4a、及び、シェル部3b、4bには、有限要素法解析で使用可能な各種要素(例えば、六面体要素やシェル要素等。)を適宜用いることができる。ただし、計算時間を短縮しやすい形態にしつつ、高精度の解析を可能にする等の観点からは、接着部2及び接着界面部3a、4aには「粘着要素」を用いることが好ましく、シェル部3b、4bには「シェル要素」を用いることが好ましい。なお、粘着要素は、アスペクト比の制限がなく、要素に発生する応力で破断判定が可能等の特徴を有している。以下、接着部2及び接着界面部3a、4aに「粘着要素」を用い、シェル部3b、4bに「シェル要素」を用いる形態について、説明する。
【0022】
接着部2及び接着界面部3a、4aに「粘着要素」を用い、シェル部3b、4bに「シェル要素」を用いる場合、粘着要素及びシェル要素のそれぞれを、平面方向(図2の紙面上下方向と90°の角度を有する方向)にメッシュ分割し、メッシュ分割された各要素に材料特性値を入力する。接着界面部3a、4a、及び、シェル部3b、4bをメッシュ分割した各要素に入力する材料特性値には、例えば、ヤング率や応力−ひずみ曲線等が含まれ、接着部2をメッシュ分割した各要素には、接着剤の材料特性値を入力する。
【0023】
本発明において、接着剤が破断したか否かの判定は、接着部2の応力が破断判定値に達したか否かを判定することによって行い、界面破断が生じたか否かの判定は、接着界面部3a、4aの応力が破断判定値に達したか否かを判定することによって行う。それゆえ、本発明で接着継手の破断を予測するためには、破断判定値を予め特定しておく必要があり、図1に示した解析モデルを用いた有限要素法解析を行う前に、接着部2の破断判定値、及び、接着界面部3a、4aの破断判定値を予め決定する。
破断判定値の特定方法の一例を、以下に説明する。
【0024】
図3は、破断判定値を特定するための有限要素法解析で用いる解析モデルの形態例を示す図である。図3(a)には、一対の板状部材が接着剤によって接合されている引張せん断継手の解析モデルを示しており、図3(b)には、一対のL字形部材が接着剤によって接合されているはく離継手の解析モデルを示している。図3に示した解析モデルでは、継手のすべてを六面体要素でメッシュ分割している点が、図1に示した解析モデルと異なっている。
【0025】
図4は、引張せん断継手におけるせん断応力τの破断判定値の算出方法を説明する図である。図4(a)は、図3(a)に示した解析モデルを用いた有限要素法解析が実施されている引張せん断継手の、せん断応力τの分布例を示す図であり、図4(b)は、図3(a)に示した解析モデルを用いた有限要素法解析を実施した引張せん断継手の、荷重及びせん断応力τの履歴の例を示す図である。図3(a)に示した解析モデルの各要素に材料特性値を入力して有限要素法解析を行うと、図4(a)に示したようなせん断応力分布が得られ、図4(b)に示したような荷重及びせん断応力の履歴が得られる。引張せん断継手における破断判定値、すなわち、せん断応力τの破断判定値を特定する際には、このような有限要素法解析に加えて、有限要素法解析で用いた材料特性値を物性値として有する材料で実際に引張せん断継手を作製し、実際に作製した引張せん断継手に対して引張試験を行う。実際に引張試験を行うことによって、界面破断が生じる前に接着剤が破断した時の最大荷重(以下において、「凝集破断の最大荷重」という。)、及び、接着剤が破断する前に界面破断が生じた時の最大荷重(以下において、「界面破断の最大荷重」という。)を把握する。そして、実際の引張試験における凝集破断の最大荷重及び界面破断の最大荷重を把握したら、この最大荷重を図4(b)に当てはめる。具体的には、実際の引張試験における凝集破断の最大荷重に対応する変位を図4(b)の関係から特定することにより、有限要素法解析で凝集破断が生じる時の破断変位を特定し、当該破断変位に達した時のせん断応力を、引張せん断継手で凝集破断が生じる時の破断判定値(=接着部の破断判定値)とする。同様に、実際の引張試験における界面破断の最大荷重に対応する変位を図4(b)の関係から特定することにより、有限要素法解析で界面破断が生じる時の破断変位を特定し、当該破断変位に達した時のせん断応力を、引張せん断継手で界面破断が生じる時の破断判定値(=接着界面部の破断判定値)とする。
【0026】
図5は、はく離継手における主応力σの破断判定値の算出方法を説明する図である。図5(a)は、図3(b)に示した解析モデルを用いた有限要素法解析が実施されているはく離継手の、主応力σの分布例を示す図であり、図5(b)は、図3(b)に示した解析モデルを用いた有限要素法解析を実施したはく離継手の、荷重及び主応力σの履歴の例を示す図である。図3(b)に示した解析モデルの各要素に材料特性値を入力して有限要素法解析を行うと、図5(a)に示したような主応力分布が得られ、図5(b)に示したような荷重及び主応力の履歴が得られる。はく離継手における破断判定値、すなわち、主応力σの破断判定値を特定する際には、このような有限要素法解析に加えて、有限要素法解析で用いた材料特性値を物性値として有する材料で実際にはく離継手を作製し、実際に作製したはく離継手に対して引張試験を行う。実際に引張試験を行うことによって、凝集破断の最大荷重、及び、界面破断の最大荷重を把握する。そして、実際の引張試験における凝集破断の最大荷重及び界面破断の最大荷重を把握したら、この最大荷重を図5(b)に当てはめる。具体的には、実際の引張試験における凝集破断の最大荷重に対応する変位を図5(b)の関係から特定することにより、有限要素法解析で凝集破断が生じる時の破断変位を特定し、当該破断変位に達した時の主応力を、はく離継手で凝集破断が生じる時の破断判定値(=接着部の破断判定値)とする。同様に、実際の引張試験における界面破断の最大荷重に対応する変位を図5(b)の関係から特定することにより、有限要素法解析で界面破断が生じる時の破断変位を特定し、当該破断変位に達した時の主応力を、はく離継手で界面破断が生じる時の破断判定値(=接着界面部の破断判定値)とする。
【0027】
例えばこのような過程を経ることにより、引張せん断継手における接着部の破断判定値及び引張せん断継手における接着界面部の破断判定値(せん断応力τの破断判定値)や、はく離継手における接着部の破断判定値及びはく離継手の接着界面部における破断判定値(主応力σの破断判定値)を特定することができる。このようにして破断判定値を特定したら、その値を、図1に示した解析モデルを用いた有限要素法解析に適用する。そして、図1に示した解析モデルを用いた有限要素法解析において、接着部の応力が接着部の破断判定値に達する前に、接着界面部の応力が接着界面部の破断判定値に達した場合には、当該継手は界面破断が生じたと予測することができ、接着界面部の破断判定値に達した時の荷重が当該継手の最大荷重であると予測することができる。また、接着界面部の応力が接着界面部の破断判定値に達する前に、接着部の応力が接着部の破断判定値に達した場合には、当該継手は凝集破断が生じたと予測することができ、接着部の破断判定値に達した時の荷重が当該継手の最大荷重であると予測することができる。そして、荷重と変位との関係から、吸収エネルギーを予測することができる。
【実施例】
【0028】
<実施例1>
引張強さ980MPa級鋼板2種類(鋼種Aと鋼種B)及び接着剤を用いて、一対の鋼種Aを接着剤で接合することにより引張せん断継手及びはく離継手を作製し、一対の鋼種Bを接着剤で接合することにより引張せん断継手及びはく離継手を作製した。作製した4種類の継手を引張試験に供し、はく離形態及び最大荷重を特定した。
また、作製した4種類の継手を図1に示した形態で模擬した解析モデルを作成し、それぞれの解析モデルについて引張試験を模擬した有限要素法解析を行うことにより、4種類の継手の破断形態及び最大荷重を予測した。破断形態の結果を表1に、最大荷重の結果を図6に、それぞれ示す。表1及び図6において、「試験結果」は実際に引張試験を行った結果を意味し、「解析結果」は本発明による有限要素法解析の結果を意味する。また、表1において、「凝集」は凝集破断を意味し、「界面」は界面破断を意味している。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示したように、本発明によれば、すべての継手について、破断形態を正確に予測することができた。また、図6に示したように、すべての継手において、解析結果の最大荷重と試験結果の最大荷重との誤差は10%以内に収まっていた。すなわち、本発明によれば、界面破断を考慮した高精度の解析を行うことが可能であった。
【0031】
<実施例2>
自動車部材を模擬したハット部材の軸圧潰試験モデルに本発明を適用することにより、100mm圧潰した時の吸収エネルギー(EA)及び最大荷重を予測した。また、本発明により吸収エネルギー及び最大荷重を予測したハット部材を実際に作製し、作製したハット部材について軸圧潰試験を行うことにより、吸収エネルギー及び最大荷重を特定した。ハット部材軸圧潰試験の解析モデルを図7に、吸収エネルギーの結果を図8(a)に、最大荷重の結果を図8(b)に、それぞれ示す。なお、本発明によりハット部材の吸収エネルギーや最大荷重を予測する際には、接着部及び接着界面部の破断判定値として、主応力を用いた。また、本発明による解析や軸圧潰試験では、接着剤を使用することなくスポット溶接のみで鋼板を接合した形態、並びに、接着剤及びスポット溶接によって鋼板を接合した形態の両方について、解析や試験を実施した。図8(a)及び図8(b)において、「スポットのみ」は前者の形態の結果であることを意味し、「ウエルドボンド」は後者の形態の結果であることを意味している。
【0032】
図8(a)及び図8(b)に示したように、本発明によれば、いずれの形態においても吸収エネルギー及び最大荷重を高精度に予測することができた。すなわち、界面破断を考慮する本発明によれば、吸収エネルギー及び最大荷重を高精度に予測可能であることが分かった。
【0033】
以上、本発明を、引張せん断継手、はく離継手、及び、ハット部材に適用した場合について説明したが、本発明を適用可能な部材の形態はこれらに限定されない。本発明は、せん断応力と主応力とが複合的に生じる接着継手に対しても適用することができる。本発明を、引張せん断継手や、はく離継手や、ハット部材に適用する場合、粘着要素(接着部、接着界面部)の破断判定値は下記式(1)で表される。これに対し、本発明を、せん断応力と主応力とが複合的に生じる接着継手に対して適用する場合、粘着要素(接着部、接着界面部)の破断判定値は下記式(2)で表すことができる。
【0034】
【数1】
式(1)及び下記式(2)において、σは主応力、τ及びτはせん断応力であり、CRは破断判定値を意味する。
【0035】
【数2】
【0036】
また、本発明に関する上記説明では、破断判定値としてせん断応力や主応力を用いる形態について言及したが、本発明は当該形態に限定されない。せん断応力とせん断ひずみとの間には所定の関係式が成立し、主応力と主ひずみとの間にも所定の関係式が成立する。それゆえ、破断判定値としてせん断ひずみや主ひずみを用いたとしても、界面破断を考慮した高精度の解析を行うことが可能な、接着継手の破断予測方法を提供することができる。
【0037】
また、本発明は、界面破断を考慮した高精度の解析を行うことを課題としたため、接着部に加えて接着界面部を用いた解析モデルを用いて有限要素解析を行うが、界面破断を考慮する必要がない場合には、接着界面部を用いないほかは上記本発明と同様の方法で、破断を予測することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…結合部
2…接着部
3、4…部材
3a、4a…接着界面部
3b、4b…シェル部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8