(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ノズルに連通する連通孔を有する流路基板と、圧力室となる空間を有する圧力室基板と、が少なくとも積層され、電極に挟まれて前記圧力室に圧力を加える能動部を有するアクチュエーターを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板は、前記空間のうち前記能動部に対応する領域に位置する第一の空間と、該第一の空間より前記ノズルに近く位置して前記第一の空間と連通する第二の空間と、を有し、
前記連通孔は、前記第二の空間と隣接し、前記第一の空間と隣接しておらず、
前記第二の空間において前記連通孔と対向する流路面の少なくとも一部は、前記第一の空間から離れるほど前記連通孔に近付く傾斜面であり、
前記傾斜面の前記流路基板側の縁部は、前記連通孔において前記第一の空間とは反対側に位置する縁部よりも前記第一の空間の近くに位置している、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
ノズルに連通する連通孔を有する流路基板と、圧力室となる空間を有する圧力室基板と、が少なくとも積層され、電極に挟まれて前記圧力室に圧力を加える能動部を有するアクチュエーターを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板は、前記空間のうち前記能動部に対応する領域に位置する第一の空間と、前記第一の空間より前記ノズルから遠くに位置して前記第一の空間と連通する第三の空間と、を有し、
前記流路基板は、前記圧力室に供給する液体を貯留する共通液室に連通する第二の連通孔を有し、
前記第二の連通孔は、前記第三の空間と隣接し、前記第一の空間と隣接しておらず、
前記第三の空間において前記第二の連通孔と対向する流路面の少なくとも一部は、前記第一の空間から離れるほど前記第二の連通孔に近付く傾斜面であり、
前記傾斜面の前記流路基板側の縁部は、前記第二の連通孔において前記第一の空間とは反対側に位置する縁部よりも前記第一の空間から遠くに位置している、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷物等の出力物の高画質化が求められる近年、ノズルの高密度化が進んでいる。しかし、ノズルが高密度となるほど、圧力室同士を仕切る隔壁等が薄くなり、圧力室を形成する構造の剛性が低下することが考えられる。この剛性が低下すると、隣接するノズルからの液体吐出に影響するクロストークと呼ばれる現象を発生させる可能性があり、インク滴の着弾位置が制御し難くなって印字品質が低下する可能性がある。なお、このような問題は、インクジェットヘッドに限らず、種々の液体吐出ヘッド及び液体吐出装置(液体噴射装置)にも同様に存在する。
【0005】
以上を鑑み、本発明の目的の一つは、圧力室の構造的強度を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の一つを達成するため、本発明は、ノズルに連通する連通孔を有する流路基板と、圧力室となる空間を有する圧力室基板と、が少なくとも積層され、電極に挟まれて前記圧力室に圧力を加える能動部を有するアクチュエーターを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板は、前記空間のうち前記能動部に対応する領域に位置する第一の空間と、該第一の空間より前記ノズルに近く位置して前記第一の空間と連通する第二の空間と、を有し、
前記連通孔は、前記第二の空間と隣接し、前記第一の空間と隣接しておらず、
前記第二の空間において前記連通孔と対向する流路面の少なくとも一部は、前記第一の空間から離れるほど前記連通孔に近付く傾斜面であり、
前記傾斜面の前記流路基板側の縁部は、前記連通孔において前記第一の空間とは反対側に位置する縁部よりも前記第一の空間の近くに位置している、態様を有する
。
【0007】
さらに、本発明は、前記液体吐出ヘッドを備えた、インクジェットプリンター等の液体吐出装置の態様を有する。
【0008】
上記流路基板の連通孔はアクチュエーターの能動部に対応する領域に位置する第一の空間と隣接していないので、流路基板において第一の空間と隣接する部位の剛性を高めることができ、アクチュエーターの能動部からの力を受け易い圧力室隔壁等の剛性を高めることができる。従って、上記態様は、圧力室の構造的強度を向上させることが可能な液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置を提供することができる。
【0009】
ここで、流路基板と圧力室基板とは、接した状態で積層されてもよいし、別の部材を介して積層されてもよい。
【0010】
さらに、本発明は、ノズルに連通する連通孔を有する流路基板と、圧力室となる空間を有する圧力室基板と、が少なくとも積層され、電極に挟まれて前記圧力室に圧力を加える能動部を有するアクチュエーターを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室基板は、前記空間のうち前記能動部に対応する領域に位置する第一の空間と、前記第一の空間より前記ノズルから遠くに位置して前記第一の空間と連通する第三の空間と、を有し、
前記流路基板は、前記圧力室に供給する液体を貯留する共通液室に連通する第二の連通孔を有し、
前記第二の連通孔は、前記第三の空間と隣接し、前記第一の空間と隣接しておらず、
前記第三の空間において前記第二の連通孔と対向する流路面の少なくとも一部は、前記第一の空間から離れるほど前記第二の連通孔に近付く傾斜面であり、
前記傾斜面の前記流路基板側の縁部は、前記第二の連通孔において前記第一の空間とは反対側に位置する縁部よりも前記第一の空間から遠くに位置している、態様を有する
。
【0011】
さらに、本発明は、前記液体吐出ヘッドを備えた、インクジェットプリンター等の液体吐出装置の態様を有する。
【0012】
上記流路基板の第二の連通孔はアクチュエーターの能動部に対応する領域に位置する第一の空間と隣接していないので、流路基板において第一の空間と隣接する部位の剛性を高めることができ、アクチュエーターの能動部からの力を受け易い圧力室隔壁等の剛性を高めることができる。従って、上記態様は、圧力室の構造的強度をさらに向上させることが可能な液体吐出ヘッド
、及び、液体吐出装置を提供することができる。
【0013】
前記第三の空間は、前記第一の空間を挟んで前記第二の空間とは反対側となる位置でなくてもよいが、前記第一の空間を挟んで前記第二の空間とは反対側に位置してもよい。この態様は、圧力室の構造的強度をさらに向上させた液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0014】
前記圧力室は、平面視において略矩形状に形成されてもよいが、平面視において略楕円状に形成されてもよい。この態様は、圧力室の長大化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0017】
(1)液体吐出ヘッドの構成例:
図1は液体吐出ヘッド(液体噴射ヘッド)の一例であるインクジェット式記録ヘッド1を圧力室12の幅方向D3(
図4参照。)に対する垂直面で断面視した図、
図2は
図1のB部分を拡大した図、
図3は流路基板30のノズルプレート側面30bの要部を例示する斜視図、
図4は圧力室基板10の振動板側面10aから便宜上、振動板16を剥がして圧力室基板10の要部を例示する平面図、
図5(a)〜(c)は
図2の線A1の位置において記録ヘッド1の要部を圧力室12の長手方向D2に対する垂直面で断面視した図、
図6(a),(b)は
図2の線A2,A3の位置において記録ヘッド1の要部を圧力室12の長手方向D2に対する垂直面で断面視した図、である。
図3においては、幅方向D3中央側の個別流路壁34の図示を省略している。
図4においては、アクチュエーター2の能動部4の位置を二点鎖線で示している。
【0018】
上記図中、符号D1は、圧電素子3、基板10,30,50、ケースヘッド70、及び、ノズルプレート80の厚み方向を示している。符号D2は、圧力室12の長手方向を示し、例えば、流路基板30の個別流路35の向きとされる。符号D3は、圧力室12の幅方向を示し、例えば、圧力室12の併設方向とされる。各方向D1,D2,D3は、互いに直交するものとするが、互いに交わっていれば直交していなくてもよい。分かり易く示すため、各方向D1,D2,D3の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。
【0019】
なお、本明細書で説明する位置関係は、発明を説明するための例示に過ぎず、発明を限定するものではない。従って、圧力室の下以外の位置、例えば、上、左、右、等に流路基板が配置されることも、本発明に含まれる。また、方向や位置等の同一、直交、等は、厳密な同一、直交、等のみを意味するのではなく、製造時等に生じる誤差等も含む意味である。更に、接すること、及び、接合することは、間に接着剤等の介在するものが有ることと、間に介在するものが無いこととの両方を含む。
【0020】
記録ヘッド1に例示される本技術の液体吐出ヘッドは、ノズル81に連通する連通孔31を有する流路基板30と、圧力室12となる空間を有する圧力室基板10と、が少なくとも積層され、電極21,22に挟まれて圧力室12に圧力を加える能動部4を有するアクチュエーター2を備えている。圧力室基板10は、前記空間のうち能動部4に対応する領域に位置する第一の空間S1と、第一の空間S1よりノズル81に近く位置して第一の空間S1と繋がった第二の空間S2と、を有している。連通孔31は、第二の空間S2と隣接し、第一の空間S1と隣接していない。本液体吐出ヘッドは、連通孔31と能動部4とを重ならないようにオフセットさせることにより圧力室隔壁11等の構造的強度を確保している。
図7に示す記録装置200に例示される液体吐出装置(液体噴射装置)は、上述のような液体吐出ヘッドを備える。
【0021】
ここで、流路基板30と圧力室基板10が積層されることには、両基板30,10が接した状態で互いに接合されること、及び、両基板30,10とは異なる間部材を挟んで両基板30,10が配置されること、が含まれる。両基板30,10が少なくとも積層されることには、両基板30,10だけが積層されること、並びに、ノズルプレート80等の一以上の別部材及び両基板30,10が積層されること、が含まれる。
連通孔31と第二の空間S2とが隣接することには、連通孔31と第二の空間S2とが直接、接していること、間接部材を介して連通孔31と第二の空間S2とが配置されること、のいずれも含まれる。
アクチュエーター2には、圧電素子、発熱により圧力室内に気泡を発生させる発熱素子、等が含まれる。
【0022】
図1,2に示す記録ヘッド1は、圧電アクチュエーター2が設けられた圧力室基板10、流路基板30、保護基板50、ケースヘッド70、ノズルプレート80、等を備える。
【0023】
図2等に示す圧力室基板10は、各ノズル81に対応した個別の圧力室12を形成し、振動板側面10aに振動板16が設けられ、流路基板側面10bに流路基板30が接合されている。
図2等に示す圧力室基板10は、圧力室12となる空間S1,S2,S3を有している。圧力室基板10と流路基板30とは、例えば接着剤で接合される。振動板16は圧力室12の圧電素子3側の壁を構成し、流路基板30の圧力室基板側面30aは圧力室12の流路基板30側の壁を構成している。
図4等に示す圧力室12は、圧力室基板10に対する平面視で長尺な略四角形状に形成され、隔壁11を介して幅方向D3へ並べられている。ノズルの高密度化が求められる近年、圧力室12同士を仕切る隔壁11が薄くなってきている。隔壁11が薄くなると、圧力室12の構造的強度が低下する可能性がある。
圧力室基板10の材料には、シリコン基板、ステンレス鋼(SUS)といった金属、セラミック、ガラス、合成樹脂、等を用いることができる。一例を挙げると、圧力室基板10は、特に限定されないが膜厚が例えば数百μm程度と比較的厚く剛性の高いシリコン単結晶基板等から形成することができる。複数の隔壁11によって区画された圧力室12は、例えば、KOH水溶液等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)等によって形成することができる。
【0024】
図2等に示すアクチュエーター2は、振動板16と圧電素子3を含む。
振動板16の材料には、酸化シリコン(SiOx)、金属酸化物、セラミック、合成樹脂、等を用いることができる。振動板は、分離されない圧力室基板の表面を変性する等して圧力室基板と一体に形成されてもよいし、圧力室基板に接合されて積層されてもよい。また、振動板は、複数の膜で構成されてもよい。一例を挙げると、シリコン製の圧力室基板上に酸化シリコン膜といった弾性膜を形成し、この弾性膜上に酸化ジルコニウム(ZrOx)といった絶縁膜を形成し、特に限定されないが厚みが例えば数百nm〜数μm程度の振動板を弾性膜と絶縁膜を含む積層膜で構成してもよい。弾性膜は、例えば、圧力室基板用のシリコンウェハを1000〜1200℃程度の拡散炉で熱酸化する等によって圧力室基板上に形成することができる。絶縁膜は、例えば、スパッタ法といった気相法等によりジルコニウム(Zr)層を弾性膜上に形成した後にジルコニウム層を500〜1200℃程度の拡散炉で熱酸化する等によって形成することができる。
【0025】
図2に示す圧電素子3は、圧電体層23と、圧電体層23の圧力室12側に設けられた下電極(第一電極)21と、圧電体層23の他方側に設けられた上電極(第二電極)22とを有し、振動板16上に設けられている。電極21,22の一方は、共通電極にされてもよい。
図2にはフレキシブル基板等といった接続配線66に下電極21が例えば個別電極として接続されていることが示され、上電極22が例えば共通電極として接地される。両電極は、Pt(白金)、Au(金)、Ir(イリジウム)、Ti(チタン)、これらの金属の導電性酸化物、等の一種以上の材料を用いることができ、特に限定されないが厚みを例えば数nm〜数百nm程度にすることができる。下電極と上電極の少なくとも一方には、金属等といった導電性材料のリード電極が接続されてもよい。圧電体層23は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛、化学量論比でPb(Zrx,Ti1-x)O3)といった鉛系ペロブスカイト型酸化物、非鉛系ペロブスカイト型酸化物、といった強誘電体材料等を用いることができ、特に限定されないが厚みを例えば数百nm〜数μm程度にすることができる。
下電極21や上電極22やリード電極は、例えば、スパッタ法といった気相法等によって振動板上に電極膜を形成してパターニングする等によって形成することができる。圧電体層23は、スピンコート法といった液相法や気相法等によって下電極上に圧電体前駆体膜を形成し焼成等によって結晶化させてパターニングする等によって形成することができる。
【0026】
圧電素子3の中で動く部分となる能動部4は、両電極21,22で圧電体層23が挟まれた領域となる。
図2の例では、長手方向D2において圧力室12の両端部よりも内側となる長手方向能動端4a,4bの間にある部分の圧電素子3が能動部4であり、この能動部4の外側が非能動部である。長手方向D2における能動部4の右側(ノズル81側)の能動端4aは上電極22及び圧電体層23の端部であり、下電極21は能動端4aからさらに右側へ延びている。長手方向D2における能動部4の左側(共通液室37側)の能動端4bは、両電極21,22及び圧電体層23の端部である。
図5(a)は、幅方向D3において圧力室12の両端部よりも内側となる幅方向能動端4c,4dの間の振動板16上に能動部4が設けられた例を示している。
【0027】
図5(b),(c)の例では、幅方向D3において圧力室12の両端部よりも内側となる幅方向能動端4c,4dの間にある部分の圧電素子3が能動部4であり、この能動部4の外側が非能動部である。
図5(b)には、幅方向能動端4c,4dが上電極22及び圧電体層23の端部であり、下電極21が能動端4c,4dからさらに外側へ延びている例を示している。図示していないが上電極が幅方向D3へ繋がった共通上電極構造の圧電素子の場合、幅方向D3において圧電体層が存在する範囲内で下電極の端部が幅方向能動端となる。
図5(c)には、幅方向能動端4c,4dが上電極22の端部であり、下電極21及び圧電体層23が能動端4c,4dからさらに外側へ延びている例を示している。共通上電極構造の場合、下電極の端部が幅方向能動端となる。
【0028】
図2,4,5(a)等に示すように、圧力室基板10において能動部4に対応する領域に位置する空間を第一の空間S1とする。この第一の空間S1は、圧力室基板10に形成された空間のうち平面視で能動部4と重なる部分であり、圧力室基板10に対して能動部4を厚み方向D1へ投影した部分にある空間である。能動部4からの圧力は、直接、第一の空間S1に加えられる。
【0029】
圧力室基板10において長手方向能動端4aから長手方向D2のノズル81側には、第一の空間S1と繋がった第二の空間S2が形成されている。この第二の空間S2は、第一の空間S1よりもノズル81の近くに位置し、流路基板30の第一の連通孔31と隣接している。第二の空間S2において連通孔31と対向する対向流路面の少なくとも一部(第二空間傾斜面13a)は、第一の空間S1から離れるほど連通孔31に近付くように傾斜している。
図2には、前記対向流路面に傾斜していない第二空間非傾斜面13bが形成されていることが示されている。この非傾斜面13bは無くてもよく、前記対向流路面の全てが傾斜面13aで構成されてもよい。傾斜面13aは、平面のみならず、曲面でもよい。
図2に示す傾斜面13aの流路基板30側の縁部13a1は、連通孔31において第一の空間S1とは反対側に位置する縁部31aよりも第一の空間S1の近くに位置している。
【0030】
圧力室基板10において長手方向能動端4bから長手方向D2の共通液室37側には、第一の空間S1と繋がった第三の空間S3が形成されている。第三の空間S3は、第一の空間S1を挟んで第二の空間S2とは反対側に位置し、第二の空間S2から離れている。この第三の空間S3は、第一の空間S1よりも共通液室37の近くに位置し、流路基板30の第二の連通孔32と隣接している。連通孔32と第三の空間S3とが隣接することには、連通孔32と第三の空間S3とが接していること、間接部材を介して連通孔32と第三の空間S3とが配置されること、のいずれも含まれる。第三の空間S3において連通孔32と対向する対向流路面の少なくとも一部(第三空間傾斜面14a)は、第一の空間S1から離れるほど連通孔32に近付くように傾斜している。
図2には、前記対向流路面に傾斜していない第三空間非傾斜面14bが形成されていることが示されている。この非傾斜面14bは無くてもよく、前記対向流路面の全てが傾斜面14aで構成されてもよい。傾斜面14aは、平面のみならず、曲面でもよい。
図2に示す傾斜面14aの流路基板30側の縁部14a1は、連通孔32において第一の空間S1とは反対側に位置する縁部32aよりも第一の空間S1から遠くに位置している。
【0031】
なお、第一の空間S1から第一の連通孔31にかけて第二の空間S2の分、圧力室12の長手方向D2へ液体F1が移動することになる。このことから、第二空間傾斜面13aが無く、第二の空間S2が略直方体形状であると、第二の空間S2に液体F1の滞留が生じ易くなり、第二の空間S2で液体F1の流れが妨げられたり気泡が滞留し易くなったりする。また、第二の連通孔32から第一の空間S1にかけて第三の空間S3の分、圧力室12の長手方向D2へ液体F1が移動する。このことから、第三空間傾斜面14aが無く、第三の空間S3が略直方体形状であると、第三の空間S3に液体F1の滞留が生じ易くなり、第三の空間S3で液体F1の流れが妨げられたり気泡が滞留し易くなったりする。
以上のことから、第二の空間S2に傾斜面13aを設け、第三の空間S3に傾斜面14aを設けると、上述した問題を抑制することができる。
【0032】
しかし、ステンレス鋼といった金属板のパンチング加工により圧力室基板を形成する場合、傾斜面13a,14aを形成するのは容易ではない。圧力室基板10をシリコン基板から形成するのであれば、異方性エッチングによって傾斜面13a,14aを容易に形成することができる。
【0033】
図2,3等に示す流路基板30は、各ノズル81に対応した個別の連通孔31,32、圧力室12に供給するインクといった液体F1を貯留する共通液室37、等の液体流路を有している。流路基板30の圧力室基板側面30aには、圧力室基板10及びケースヘッド70が接合されている。流路基板30とケースヘッド70とは、例えば接着剤で接合される。流路基板30のノズルプレート側面30bには、ノズルプレート80が接合されている。流路基板30とノズルプレート80とは、例えば接着剤で接合される。
流路基板30の材料には、シリコン基板、ステンレス鋼といった金属、セラミック、ガラス、合成樹脂、等を用いることができる。一例を挙げると、流路基板30は、特に限定されないが比較的厚く剛性の高いシリコン単結晶基板等から形成することができる。連通孔31,32や共通液室37等の液体流路は、例えば、KOH水溶液等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)等によって形成することができる。
【0034】
第一の連通孔31は、圧力室基板10の第二の空間S2とノズルプレート80のノズル81との間に位置し、第二の空間S2と隣接して該第二の空間S2とノズル81とを連通させている。一方、連通孔31は、第一の空間S1と隣接していない。連通孔31と第一の空間S1とが隣接していないため、第一の空間S1の液体F1は、連通孔31に直接流入することはなく、第二の空間S2に流入してから連通孔31へ移動することになる。
図2の線A2の位置において長手方向D2に対する垂直断面の例を
図6(a)に示したように、長手方向能動端4aに対応する位置において圧力室12の直下にある流路基板30は中実であり、連通孔31は能動端4aから長手方向D2のノズル81側に位置している。
【0035】
第二の連通孔32は、圧力室基板10の第三の空間S3と流路基板30の共通液室37との間に位置し、第三の空間S3と隣接して該第三の空間S3と共通液室37とを連通させている。一方、連通孔32は、第一の空間S1と隣接していない。連通孔32と第一の空間S1とが隣接していないため、連通孔32の液体F1は、第一の空間S1に直接流入することはなく、第三の空間S3に流入してから第一の空間S1へ移動することになる。
図2の線A3の位置において長手方向D2に対する垂直断面の例を
図6(b)に示したように、長手方向能動端4bに対応する位置において圧力室12の直下にある流路基板30は中実であり、連通孔32は能動端4bから長手方向D2の共通液室37側に位置している。
【0036】
共通液室37への液体F1の流入孔38は、ケースヘッド70に形成される共通液室72と繋がる共通流路であり、共通液室72,37を連通させる。共通液室72,37は、リザーバーとも呼ばれる。流入孔38の形状には、
図3に例示するスリット状、円形、楕円形、多角形、等が含まれる。流入孔38の数は、一つでもよいし、二以上でもよい。圧力室の長手方向D2において流入孔38から第二の連通孔32側にはノズルプレート側面30bから凹んだハーフエッチング部33が形成され、液体F1を圧力室の長手方向D2へ流す個別流路35を形成する流路壁34がハーフエッチング部33からノズルプレート80側へ延出している。流入孔38から共通液室37に流入した液体F1は、個別の供給口36から流路35に入り、連通孔32を経て圧力室基板10の第三の空間S3に入る。
【0037】
図2等に示す保護基板50は、能動部4に対向する領域に空間形成部52を有し、圧電素子3が形成された圧力室基板10上に接合されている。保護基板50と圧電素子3が設けられた圧力室基板10とは、例えば接着剤で接合される。空間形成部52は、能動部4の運動を阻害しない程度の空間を有する。保護基板50の材料には、シリコン基板、ステンレス鋼といった金属、セラミック、ガラス、合成樹脂、等を用いることができる。一例を挙げると、保護基板50は、特に限定されないが膜厚が例えば数百μm程度と比較的厚く剛性の高いシリコン単結晶基板等から形成することができる。
【0038】
図1等に示すケースヘッド70は、保護基板50に対向する領域に位置する空間形成部71、接続配線66を通す隙間74、等を有し、圧力室12に供給する液体F1を貯留する共通液室72を形成し、流路基板30に接合されている。空間形成部71は、保護基板50が入る空間を有する。共通液室72は、液体導入部73から流入した液体F1を貯留する。流路基板30の圧力室基板側面30aは、圧力室12の壁の一部を構成するとともに、共通液室72の壁の一部も構成する。ケースヘッド70の材料には、ガラス、セラミック、ステンレス鋼といった金属、合成樹脂、シリコン基板、等を用いることができる。
【0039】
図1に示す駆動回路65は、接続配線66を介して圧電素子3を駆動する。駆動回路65には、回路基板、半導体集積回路(IC)、等を用いることができる。接続配線66には、フレキシブル基板等を用いることができる。
【0040】
図2等に示すノズルプレート80は、厚み方向D1へ貫通したノズル81を複数有し、流路基板30に接合されている。ノズルプレート80の材料には、ステンレス鋼といった金属、ガラス、セラミック、合成樹脂、シリコン基板、等を用いることができる。一例を挙げると、ノズルプレート80は、特に限定されないが厚みが例えば0.01〜1mm程度のガラスセラミック等から形成することができる。
【0041】
本記録ヘッド1は、図示しない外部液体供給手段と接続した液体導入部73からインクといった液体F1を取り込み、共通液室72から流入孔38、共通液室37、個別流路35、第二の連通孔32、第三の空間S3、第一の空間S1、第二の空間S2、及び、第一の連通孔31を通ってノズル開口(ノズル81)に至るまで内部を液体F1で満たす。駆動回路65からの記録信号に従い、圧力室12毎に下電極21と上電極22との間に電圧を印加すると、能動部4にある圧電体層23、下電極21及び振動板16の変形により圧力室12内に圧力が加えられ、ノズル開口(ノズル81)からインク滴といった液滴が吐出する。
【0042】
(2)液体吐出ヘッドの作用及び効果:
次に、記録ヘッド1の作用及び効果を説明する。
図9は、比較例に係る記録ヘッド901の要部を圧力室12の幅方向D3に対する垂直面で断面視している。
図10(a),(b)は
図9の線A92,A93の位置において記録ヘッド901の要部を圧力室12の長手方向D2に対する垂直面で断面視している。
図9,10に示す構成要素には、
図1〜6で示した構成要素に対応する符号を付している。
【0043】
記録ヘッド901において、第一の連通孔31は、長手方向能動端4aの直下にあり、能動部4に対応する領域の空間S91と隣接し、この空間S91とノズル81とを連通させている。
図10(a)に示すように、長手方向能動端4aに対応する位置において流路基板30の連通孔31の壁が隔壁11を支持することになるので、能動部4が圧力室12側へ膨らんで圧力室12に圧力を加えるとき、
図10(a)の二点鎖線で示すように隔壁11が変形し易くなっている。隔壁11が変形すると、幅方向D3において隣接する圧力室12に圧力変動が生じ、隣接するノズルからの液体吐出に影響するクロストークと呼ばれる現象が発生する可能性があり、液滴の着弾位置が制御し難くなって印字品質が低下する可能性がある。
【0044】
また、記録ヘッド901の第二の連通孔32は、長手方向能動端4bの直下にあり、能動部4に対応する領域の空間S91と隣接し、この空間S91と共通液室37とを連通させている。
図10(b)に示すように、長手方向能動端4bに対応する位置において流路基板30の連通孔32の壁が隔壁11を支持することになるので、能動部4が圧力室12側へ膨らんで圧力室12に圧力を加えるとき、
図10(b)の二点鎖線で示すように隔壁11が変形し易くなっている。このことからも、クロストーク現象が発生する可能性があり、印字品質が低下する可能性がある。
【0045】
一方、
図2で示した記録ヘッド1の第一の連通孔31は、長手方向能動端4aから長手方向D2のノズル81側に位置している。
図6(a)で示したように、長手方向能動端4aに対応する位置において流路基板30の中実部分が隔壁11を支持することができるので、能動部4が圧力室12側へ膨らんで圧力室12に圧力を加えるとき、隔壁11が変形し難く、クロストーク現象が発生し難くなっている。このように、本技術は、流路基板30において第一の空間S1と隣接する部位の剛性を高めることができ、能動部4からの力を受け易い圧力室隔壁11等の剛性を高めることができ、圧力室12の構造的強度、ひいては印字品質を向上させることが可能となる。
【0046】
また、記録ヘッド1の第二の連通孔32は、長手方向能動端4bから長手方向D2の共通液室37側に位置している。
図6(b)で示したように、長手方向能動端4bに対応する位置において流路基板30の中実部分が隔壁11を支持することができるので、能動部4が圧力室12側へ膨らんで圧力室12に圧力を加えるとき、隔壁11が変形し難く、クロストーク現象が発生し難くなっている。このことからも、本技術は、流路基板30において第一の空間S1と隣接する部位の剛性を高めることができ、圧力室12の構造的強度、ひいては印字品質を向上させることが可能となる。
【0047】
なお、
図9に示す記録ヘッド901のように、圧力室12において第一の連通孔31と繋がった端部913が略直方体形状であると、端部913に液体の滞留が生じ易くなり、端部913で液体の流れが妨げられたり気泡が滞留し易くなったりする。また、
図9に示すように、圧力室12において第二の連通孔32と繋がった端部914が略直方体形状であると、端部914に液体の滞留が生じ易くなり、端部914で液体の流れが妨げられたり気泡が滞留し易くなったりする。
【0048】
一方、
図2で示した記録ヘッド1は、第二の空間S2において第一の連通孔31と対向する流路面に第二空間傾斜面13aがあるので、第二の空間S2に液体の滞留が生じ難く、第二の空間S2で液体が円滑に流れ、第二の空間S2に気泡が滞留し難い。また、
図2で示したように、第三の空間S3において第二の連通孔32と対向する流路面に第三空間傾斜面14aがあるので、第三の空間S3に液体の滞留が生じ難く、第三の空間S3で液体が円滑に流れ、第三の空間S3に気泡が滞留し難い。
【0049】
さらに、第二空間傾斜面13aの流路基板30側の縁部13a1が第一の連通孔31の内側に位置するので、この点でも、第二の空間S2に液体、ひいては気泡の滞留が生じ難い。また、第三空間傾斜面14aの流路基板30側の縁部14a1が第二の連通孔32の外側に位置するので、この点でも、第三の空間S3に気泡の滞留が生じ難い。
【0050】
(3)液体吐出装置:
図7は、上述した記録ヘッド1を有するインクジェット式の記録装置(液体吐出装置)200の外観を示している。記録ヘッド1を記録ヘッドユニット211,212に組み込むと、記録装置200を製造することができる。
図7に示す記録装置200は、記録ヘッドユニット211,212のそれぞれに、記録ヘッド1が設けられ、外部インク供給手段であるインクカートリッジ221,222が着脱可能に設けられている。記録ヘッドユニット211,212を搭載したキャリッジ203は、装置本体204に取り付けられたキャリッジ軸205に沿って往復移動可能に設けられている。駆動モーター206の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト207を介してキャリッジ203に伝達されると、キャリッジ203がキャリッジ軸205に沿って移動する。図示しない給紙ローラー等により給紙される記録シート290は、プラテン208上に搬送され、インクカートリッジ221,222から供給され記録ヘッド1から吐出するインク(液体)により印刷がなされる。
【0051】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、流体吐出ヘッドから吐出される液体は、染料等が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等の流体が含まれる。このような流体には、インク、液晶、等が含まれる。液体吐出ヘッドは、プリンターといった画像記録装置の他、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置、有機ELディスプレー等の電極の製造装置、バイオチップ製造装置、等に搭載可能である。
圧力室に液体を供給する共通液室は、ケースヘッドのような別部材に無く流路基板のみに設けられてもよいし、流路基板に無くケースヘッドのような別部材のみに設けられてもよい。この別部材には、圧力室基板等も含まれる。
保護基板は、省略されてもよく、ケースヘッドと一体化されてもよい。
ノズルプレートは、流路基板と一体化されてもよい。
【0052】
第二の空間S2と第三の空間S3とは、ともに第一の空間S1から圧力室の幅方向D3の外側の同じ側となる位置に設けられる等、第一の空間S1を挟まない位置に設けられてもよい。
なお、圧力室基板10に傾斜面13a,14aが無くても、本発明の基本的な作用及び効果を奏する。また、圧力室基板10に第三の空間S3が無くても、本発明の基本的な作用及び効果を奏する。
【0053】
圧力室の形状は、平面視略四角状のみならず、平面視において略楕円状や略多角形状等でもよい。略楕円は、真円を含む楕円、卵形、直線部分を有する長円、これらに類似する形、等を含む。
【0054】
図8は、平面視において略オーバル状(略楕円状)に形成された圧力室12Aを形成する変形例の圧力室基板10の要部を示す平面図である。この圧力室12Aを形成する圧力室基板10の流路基板側面には、連通孔31,32等を有する流路基板が接合されている。第一の連通孔31は、第二の空間S2と隣接して該第二の空間S2とノズルとを連通させ、第一の空間S1と隣接していない。第二の連通孔32は、第三の空間S3と隣接して該第三の空間S3と流路基板の共通液室とを連通させ、第一の空間S1と隣接していない。共通液室からの液体は、第二の連通孔32から、第三の空間S3、第一の空間S1、第二の空間S2、及び、第一の連通孔31を通ってノズルへ流れる。
【0055】
圧力室の幅方向D3において、
図8に示す圧力室12Aの最大幅W2は、
図4で示した平面視略四角形状の圧力室12の幅W1と比べて広くされている。圧力室の長手方向D2において、略オーバル状の圧力室12Aの長さL2は、略四角形状の圧力室12の長さL1よりも短くされている。これにより、長手方向に圧力室が長大化することが抑制される。
また、略オーバル状の圧力室12Aの最大幅W2が略四角形状の圧力室12の幅W1よりも広いことにより、より少ない面積の能動部4で同等の変位を得ることができ、より少ない面積の能動部4で圧力室に同等の圧力を加えることができる。その結果として、圧力室の長大化が抑制される。
【0056】
さらに、隣接する4個の圧力室12Aの間に圧力室12Aを配置することにより、圧力室基板10に対して単位面積当たりの圧力室12Aの数を増やす(圧力室12Aを高密度化する)ことができる。また、このような配置の圧力室12Aを仕切る隔壁11の厚みT2は、
図4で示した略四角形状の圧力室12を仕切る隔壁11の厚みT1よりも厚くすることができる。その結果として、本変形例は、能動部4からの力を受け易い圧力室隔壁11等の剛性をさらに高めることができ、圧力室12の構造的強度、ひいては印字品質をさらに向上させることが可能となる。
【0057】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、圧力室の構造的強度を向上させることが可能な液体吐出ヘッドの技術等を提供することができる。むろん、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる技術等でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。