(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る焼結磁石の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態においてR−Fe−B系の焼結磁石は、原料となる合金の作製(ステップS1)、粗粉砕(ステップS2)、微粉砕(ステップS3)、磁場中成形(ステップS4)、焼結(ステップS5)、寸法矯正(ステップS6)、時効熱処理(ステップS7)、表面処理(ステップS8)、検査(ステップS9)、及び着磁(ステップS10)の工程を経ることによって製造される。
【0012】
原料合金の作製は、真空又は不活性ガス雰囲気中においてストリップキャスティング法又はその他の溶解法によって行われる(ステップS1)。本実施形態に係る焼結磁石はNd
2Fe
14Bを主相とし、この中のNdに対して粒界拡散処理等を用いてDyやTb、Pr等を添加している。Ndに上記希土類金属を添加することによって焼結磁石の保持力を向上させることができる。
【0013】
作製された原料合金はジョークラッシャー又はブラウンミル等を用いて粒径数百μm程度になるまで粗粉砕される(ステップS2)。粗粉砕された合金はジェットミル等によって粒径3〜5μm程度にまで微粉砕される(ステップS3)。微粉砕工程においては、特に粒径を3〜4μmにすると保磁力を高くすることができるため好ましい。
【0014】
次に微粉砕された磁性材料を磁場中で成形し、圧粉体を得る(ステップS4)。圧粉体は平行磁界成形法や直交磁界成形法などの種々の方法を用いて行なうことができる。なお、本実施形態において原料合金の作製から磁場中成形までの工程を包括して圧粉体成形と称する。
【0015】
磁場中で成形された圧粉体は真空又はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼結され、R−Fe−B系焼結磁石が得られる(ステップS5)。焼結温度は圧粉体の材料組成や粉砕方法、粒径によって前後するが、1100℃程度で行われる。
【0016】
図2(A−1)〜(A−4)は本発明の実施形態1に係る焼結磁石の製造方法の説明に供する概念図、
図2(B)は寸法矯正の際に可動する上型の時間に伴う移動速度の変化を示す断面図である。寸法矯正工程では概して
図2(A−1)〜(A−4)に示すようにプレス装置を用いて金型である上金型13と下金型14によってワークWにプレス成形を行い、焼結工程で変形した焼結磁石の寸法矯正を例えば620℃〜1000℃で
図2(B)に示すように行う(ステップS6)。詳細は以下に行う。
【0017】
寸法矯正後には真空又は不活性ガス雰囲気中で時効熱処理を行って焼結磁石の保磁力を調整する(ステップS7)。時効熱処理は一般的に900℃程度及び500℃程度の2段階にて行う。このように焼結磁石の寸法矯正は時効熱処理よりも高い温度にて実施される場合がある。そのため、時効熱処理の前に、焼結磁石の寸法矯正を実施するのが好ましい。熱処理を行う温度は磁石の組織を変えるおそれがあり、磁石特性に影響を与える可能性があるためである。
【0018】
時効熱処理後には焼結磁石の錆びや腐食を防止するためにNiめっきなどによって表面処理を行う(ステップS8)。表面処理が終わったら、磁気特性や外観、及び寸法などの検査を行い(ステップS9)、最後にパルス磁界や静的磁界を印加して着磁することによって焼結磁石が製造される(ステップS10)。
【0019】
次に本実施形態に係る焼結磁石の製造方法における寸法矯正工程を具現化した寸法矯正装置について詳述する。
図3は実施形態1に係る焼結磁石の製造方法に係る寸法矯正工程にて使用する寸法矯正装置を示す断面図、
図4は同寸法矯正装置を示す側面図、
図5は同寸法矯正装置中の格納容器の内部を示す平面図である。
【0020】
焼結磁石の寸法矯正装置は、相対的に近接離間可能な上スライド201およびボルスタ202を備えるプレス装置本体200と、プレス装置本体200に取り付け及び取り外しが可能なダイセット100とを有する。ダイセット100は、上ダイ11と、上ダイ11に対向して配置される下ダイ12と、上ダイ11と下ダイ12の位置合わせを行なう調節機構40と、ワークW(寸法矯正加工の対象となる焼結磁石)の寸法を矯正する矯正金型が設けられ下ダイ11に載置される格納容器20と、上スライド201や格納容器20の動作などを制御する制御部(不図示)と、焼結磁石の寸法矯正に必要な情報を記憶した記憶部(不図示)と、を有する。
【0021】
格納容器20は、焼結磁石を加熱する加熱装置21と、焼結磁石の移動作業の際に用いるグローブ22と、格納容器20の室内を真空等にするための配管ダクト23と、寸法矯正後の焼結磁石を冷却する冷却プレート24と、冷却プレート24に冷却水などを循環させる冷却パイプ25と、ワークである焼結磁石の形状を測定する測定部26と、を有する。
【0022】
プレス装置本体200は、
図3における上下方向に相対的に近接離間可能な上スライド201とボルスタ202とを有する。図示例では、上スライド201が油圧によってボルスタ202に対して近接離間移動する。上スライド201は、ダイセット100の上ダイ11を着脱自在に固定する連結ピン17を有し、ボルスタ202は、ダイセット100の下ダイ12を着脱自在に固定する連結ピン17を有する。ボルスタ202には、寸法を矯正した後の焼結磁石を矯正金型から取り出すノックアウトバー203が昇降自在に設けられている。
【0023】
矯正金型は上金型13、下金型14、外周金型15から構成される。ノックアウトバー203及び下金型14によってワークWを取り出すノックアウト機構が構成される。図中符合204は、ノックアウトバー203を昇降駆動する油圧シリンダを示している。
【0024】
ダイセット100は、上ダイ11を連結ピン17によって上スライド201に固定し、下ダイ12を連結ピン17によってボルスタ202に固定することによって、プレス装置本体200に固定される。上ダイ11は、プレス装置本体200の上スライド201の動作に連動する。
【0025】
調節機構40は、下ダイ12に設けられたガイディングロッド41と、上ダイ12に設けられたガイディングロッド41をスライド移動自在に保持するガイディングシリンダ42と、を有する。ガイディングロッド41がガイディングシリンダ内を摺動することによって、上ダイ11と下ダイ12との位置合わせが行なわれる。本実施形態において、上ダイ11が下ダイ12から最も離間した場合でもガイディングロッド41はガイディングシリンダ42から外れることはなく、これによって位置精度が確保される。
【0026】
また、上ダイ11及び下ダイ12は連結ピン17によってプレス装置本体200に固定される。そのため、連結ピン17の取り外しのみによって
図4の破線に示すようにダイセット100のプレス装置本体200への取り付け及び取り外しを容易に行うことができる。
【0027】
格納容器20は加工対象となる焼結磁石を真空又は低酸素雰囲気において加工するために下ダイ12に載置されている。配管ダクト23は室内を真空又は低酸素雰囲気に形成するために真空ポンプ(不図示)に接続されている。配管経路の途中にはバルブ(不図示)が設けられ、格納容器内を真空にした後にバルブによって経路を切り替えることによって窒素ガス等の不活性ガスを格納容器内に充填することができる。室内の酸素濃度はNd−Fe−Bの焼結磁石において10ppm以下、NdにDyやTb、Pr等の金属を添加した場合は1ppm以下とすることが望ましい。Ndに比べてDyやTb、Prの方が酸化されやすいためである。
【0028】
格納容器内部には真空状態を保持した状態で上ダイ11及び下ダイ12に取り付けられた矯正金型が
図3における上下方向から格納容器内部に挿通している。下ダイ12からは下金型14が固定治具16によって固定されて設置され、上ダイ11には上金型13が下金型14と同様に固定治具16によって固定されて設置されている。上金型13は、固定治具16によって固定されることによって上スライド201の動きに連動し、また、上スライド201の移動速度は、可変に構成されている。つまり、本実施形態では上金型13が、加圧成形における移動型に相当する。また、
図3において下金型14の上には加工対象となる焼結磁石を包囲する外周金型15が下金型14先端の鍔形状と係合することによって下金型14に取り付けられる。
【0029】
また、格納容器20には外部から投入された焼結磁石を下金型上に載置し、寸法矯正後に次のワークWとの取替えを行う磁石投入取り外し機構が設けられている。
【0030】
本実施形態において磁石投入取り外し機構は
図4における格納容器側面から内部空間に手の形に成形されたグローブ22が設けられることによって構成される。グローブ22は例えば天然ゴム等の材料から構成されており、伸縮性に優れ、焼結磁石の速やかな投入及び取り外しを可能にする。グローブ22による作業は作業者が怪我をしないように予めプレス装置本体200を停止させてから行う。
【0031】
また、格納容器20には
図4に示すように、格納容器20の側壁の一つの上部が傾斜面に形成されることによって作業者が内部の様子を容易に視認できるように構成されている。
【0032】
加熱装置21はヒーター等から構成され、上金型13、下金型14、及び外周金型15の付近に設けられ、上金型13が上下にスライド移動できるように中空状に形成されている。加熱装置21の構成は特に限定されることはないが、電熱ヒーターや遠赤外線ヒーター等を挙げることができる。
【0033】
また、冷却プレート24は格納容器内部に配置される。冷却プレート24の内部にはウォータージャケットが形成され、冷却パイプ25から導かれた水が冷却プレート24を冷却することによって、冷却プレート24に載置されたワークWを強制冷却する。従来は加熱後のワークを自然に冷却させていたが、冷却プレート24を使用することによって冷却時間を短縮し、加工時間の低減に寄与できる。
【0034】
測定部26は、本実施形態においてCCDカメラから構成されるが、これに限定されない。測定部26は、格納容器20の側面に取り付けられ、寸法矯正前の焼結磁石の形状を撮影する。制御部は、撮影した画像を画層解析し、高さ方向において焼結磁石の寸法矯正に必要な焼結磁石の変形量(寸法矯正量と呼ぶ)を算出して上金型13の移動を制御する際に使用する。このように焼結磁石の形状を測定して移動速度を決定することによって、磁石の割れや欠けの防止とサイクルタイムの短縮とを両立させることができる。
【0035】
制御部は、CPUやMPUなどから構成され、上スライド201の移動や加熱装置21の動作、格納容器20内の真空引き等の動作の制御や、上記した測定部26による撮影結果からの寸法矯正量の算出等を行う。記憶部は、上金型13によってワークWを加圧成形する際の上金型13の移動速度を決定するに当たり、移動速度の変化に伴って焼結磁石に割れや欠けがどの程度発生するかがデータベース化されて登録されている。加圧成形の際に磁石に発生する割れや欠けは、金型の移動速度以外にも磁石の原材料や前工程の状況によっても成形速度領域や成形温度領域が異なるため、データベースは磁石の種類ごとに構築されている。
【0036】
次に本実施形態に係る焼結磁石の製造方法の寸法矯正工程について説明する。
図6は移動型の移動速度を決定して寸法矯正を行う流れを示すフローチャートである。まずワークWを格納容器内の金型14へ載置する(ステップS21)と同時に金型14に載置したワークW以外にも磁石を格納容器内に収容しておく。
【0037】
次に格納容器20を密閉し、格納容器20に対して真空引き、又は不活性ガスの充填を行う。そして、ワークWである焼結磁石の寸法を測定部26を用いて計測し(ステップS22)、制御部によって焼結磁石の寸法矯正量を計算する(ステップS23)。次に、計測した磁石の形状に基づいて、成形速度と割れについての相関が記載された記憶部のデータベースを参照し、制御部によってワークWである焼結磁石に割れや欠けが発生しないような上金型13の移動速度を決定する(ステップS24)。移動速度を決定する際において、センサによって測定した金型13の加圧変形量が少なければ、成形中の移動速度v2を速くしても磁石に割れや欠けは発生しにくいため、寸法矯正量に合わせて移動速度v2は上昇させることができる。このように構成することによってサイクルタイムを短くすることができる。
【0038】
そして、加熱装置21を制御して金型13、14、15及びワークWを約620℃〜1000℃に加熱する。ワークWの温度が設定温度に達したら、温度を保持した状態で上スライド201を下降させる。上スライド201の下降に伴って上金型13が下降する。なお、外周金型15は焼結磁石の変形を考慮して焼結磁石を加圧していないが、側面の寸法矯正を行う場合には加圧するように構成してもよい。
【0039】
その際に、上金型13は、ワークWである焼結磁石と接触するまで(
図2(B)における区間Δt1)においては第1速度v1で移動する。上金型13は、制御部によってワー
クである焼結磁石に接触するまでに移動速度v1から、焼結磁石に割れ等が生じない移動速度v2にまで減速される。
【0040】
上金型13がワークWに接触するまではタクトタイムの制約上、できるだけ上金型13を迅速に移動させたいものの、上金型13がひとたびワークWと接触すれば上金型13の移動速度によってはワークWへの加圧速度が大きすぎて、塑性変形する前に磁石の端部が割れたり、欠けたりする現象が生じてしまう。
【0041】
そのため、本実施形態では可動する上金型13の移動速度を一定にせず、ワークWとの接触前は上金型13を速度v1で移動させてワークWに接触するまでに速度v2に減速させる。そして、加圧成形を行っている最中は速度v2以下にて寸法矯正を行い(
図2(B)の区間Δt2、
図6のステップS25)、寸法矯正後は速度をv2以下からv1にまで
可及的速やかに上昇させる(
図2(B)の区間Δt3)。
【0042】
このように上金型13の移動速度を変化させることによって、焼結磁石に割れや欠けが発生することを防止すると共にサイクルタイムを短縮させることもできる。また、金型13が磁石から離れてしまえば、割れや欠けを考慮する必要がないため、v2より速く、v1と同程度の速度まで移動速度を再び上昇させることによってサイクルタイムを短くする事ができる。なお、
図2(B)の区間Δt1における金型13の減速、区間Δt3におけ
る金型13の加速はタクトタイムとの関係上、できるだけ短時間で行う事が好ましい。また、移動速度v2は、
図6のフローチャートのステップS24で求めたものである。
【0043】
成形中の焼結磁石の寸法矯正が終わったら、ノックアウト機構によってワークWを取り出し、プレス装置200を停止させてグローブ22に手を挿入する。そして、成形後の焼結磁石を下金型14から移動させて冷却プレート24に載置し、冷却ノズル25を用いて冷却する(ステップS26)。グローブ22によるワークW(焼結磁石)の移動が完了したら、手をグローブ22から抜いてプレス装置本体200を再び起動させる。
【0044】
制御部は、全ての焼結磁石の寸法矯正が終わったかを判断する(ステップS27)。全ての磁石の寸法矯正が終わっていない場合(ステップS27:NO)、グローブ22を用いて寸法矯正されていない磁石を下金型14に新たに設置して、全ての焼結磁石の寸法矯正が完了するまで
図6のステップS21からS26を繰り返す。
【0045】
なお、設定温度の保持は格納容器内に不活性ガスを充填した場合には格納容器内のガスを循環させることによって行ってもよい。プレス加工にて付加する圧力は焼結磁石の加熱によって磁石の降伏応力が低下することを考慮しつつ、降伏応力に達しない圧力で加圧する。
【0046】
また、加熱温度は例えば620℃以上であり、焼結磁石中の組織が変化する焼結温度である1000℃以下において行う。なお、620℃〜1000℃の範囲の中であっても、焼結磁石自身の熱変形や酸化の促進を防止することを考慮して800℃以下で実施することがより好ましい。全てのワークWの寸法矯正が終了したら(ステップS27:YES)格納容器20を開放し、加工済みワークWを取り出す。
【0047】
次に本実施形態の作用効果について説明する。寸法矯正装置に投入された焼結磁石は本工程の前工程である焼結工程において数百度又は1000度程度に加熱されて熱変形した状態となっている。このように熱変形により焼結磁石に生じた歪を平面度等の所定の寸法精度を満たすようにするために、従来は焼結磁石に多くの機械加工代を設けることによって対応している。しかし、これでは焼結磁石に含まれるDyやTb等のいわゆる希土類金属を多く研削してしまうこととなり、材料歩留まりが悪い。
【0048】
これに対して本実施形態においては、加熱装置21を用いて格納容器内を加熱し、焼結磁石の組織が変化しないように焼結温度を超えない温度にまで加熱した状態で焼結磁石に加圧成形を行なっている。焼結磁石は室温等の温度状態においては脆く、プレス加工に耐えることは困難であるが、本実施形態においては焼結磁石が変性しない程度にまで加熱した状態で加圧成形を行なっている。そのため、焼結磁石を破壊させることなく加圧成形することによって焼結磁石の寸法を矯正することができる。
【0049】
このように焼結磁石を温間で加圧成形して寸法を矯正することによって、焼結磁石の機械加工代を削減でき、材料歩留まりを向上させることができる。
【0050】
また、加圧成形を行う上金型13を、ワークWである焼結磁石に速度v1で移動させて、接触するまでに速度v1よりも遅い速度v2に減速させて焼結磁石の寸法矯正を行う。このように構成することによって、加圧成形の際に焼結磁石に発生しうる割れや欠けの防止とサイクルタイムの短縮とを両立できる。
【0051】
また、測定部26によって磁石の形状を測定し、当該測定結果に応じて金型13の移動速度v2を調整することによって磁石の割れや欠けを防止しつつもサイクルタイムをさらに短縮できる。
【0052】
また、センサによって測定した金型13の加圧変形量が少なければ、成形中の移動速度v2を速くしても磁石に割れや欠けは発生しにくいため、加圧変形量に合わせて移動速度v2を上昇させることによってサイクルタイムをさらに短くすることができる。
【0053】
また、金型13が磁石から離れてしまえば、割れや欠けを考慮する必要がないため、v2より速く、v1と同程度の速度まで上金型13の移動速度(第3速度)を再び上昇させることによってサイクルタイムをより短くする事ができる。
【0054】
また、格納容器内は真空ポンプによって真空又は不活性ガスが充填された状態となっているため、焼結磁石の磁石特性が低下することを防止できる。なお、粒界拡散処理によるDyやPr等の添加は寸法矯正の実施後に行ってもよい。また、
図1における時効熱処理の後には成形する磁石の形状に応じて従来の研削加工、又は機械加工を行ってもよい。その場合であっても本実施形態に係る寸法矯正を実施することによって材料歩留まりを向上させることができる。
【0055】
また、従来のホットプレスのような温間でプレス加工を行う装置は、上スライドとボルスタとの位置合わせ調節機構が設けられていない。そのため、寸法矯正の際には外周金型に上下の金型を嵌合させた状態で成形を行う必要があり、金型設置のためのいわゆる段取り作業が必要となる。
【0056】
これに対して本実施形態に係る焼結磁石の寸法矯正装置は、ガイディングロッド41とガイディングシリンダ42を有する調節機構40によって上ダイ11と下ダイ12とのスライド精度を向上させることができる。そのため、従来のホットプレス装置のように金型を設置する段取り作業を行う必要がなく、ワークの交換のみで連続プレス加工ができ、加工時間を短縮し、作業性を向上させることができる。
【0057】
また、ダイセット100は、連結ピン17の取り外しによって
図5の破線に示すようにプレス装置本体200から容易に取り外すことができる。そのため、ダイセット100の内部に位置する格納容器20のメンテナンスがプレス装置本体200の外で行うことができ、プレス装置本体200は別の用途に使用することもできる。
【0058】
また、下金型14を可動させてワークWを抜き出すように構成することによって、格納容器20から金型ごと抜き出すことなくワークWを取り出すことができる。また、上金型13と下金型14で挟み込みながら抜き出すことで、ワーク角部に欠け破損が生じることを防止できる。
【0059】
また、格納容器20にはグローブ22を設け、グローブ22を介してワークWの投入、取り出しができるよう構成したため、格納容器20を開放せずに金型13、14、15にワークWの投入及び取り出しを行うことができる。
【0060】
また、格納容器20には冷却プレート24を配置してプレス加工された焼結磁石を強制的に冷却するように構成したため、自然冷却に比べてワークWを格納容器20からより早く取り出すことができる。また、ワークWのみ冷却し、金型13、14、15は冷却されないため、金型13、14、15をプレス加工に必要な温度に昇温させる時間を短縮でき、より短時間で次のワークWを加工できる。
【0061】
また、焼結磁石は降伏応力に満たない圧力にて加圧成形されるよう構成したため、加熱による降伏応力の変化を考慮しつつ、焼結磁石が破断しないように寸法矯正を行うことができる。
【0062】
(実施形態2)
図7は実施形態2に係る寸法矯正装置を示す側面図、
図8は同寸法矯正装置中の格納容器の内部を示す平面図、
図9はワークである焼結磁石を金型上に載置する位置決め固定治具について示す平面図、
図10は焼結磁石を下金型に位置決めする様子の説明に供する説明図である。なお、符号は実施形態1と共通する構成は同一符号とし、実施形態2に係る寸法矯正装置は、基本的に実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0063】
実施形態1では格納容器20の側壁の1つにグローブ22の形状が設けられ、金型13、14、15へ手動でワークWの取り付け及び取り外しを行う実施形態について説明したが、これに限定されない。焼結磁石の金型13、14、15への設置は
図8に示すようなロータリーテーブル27を使用することによって自動で行ってもよい。
【0064】
本実施形態においてロータリーテーブル27はロータリーテーブル27を設置する設置台(不図示)の上に回転可能に設置され、設置台は格納容器20の側面から延びるバー(不図示)等によって支持されている。ロータリーテーブル27にはワークWを挟持して下金型14の設置位置に位置決めして載置する位置決め固定治具27A〜27Gが7箇所設けられている。位置決め固定治具27A〜27Gは、ワークWを保持した状態から下金型14にワークWを載置するためにワークWの保持及び解除を行う押さえピン29と押さえピン29の移動空間を構成する駆動シリンダ31が設けられている。固定治具27A〜27Gのいずれかに載置されたワークWは、駆動シリンダ31によって押さえピン29をワークWから離れる方向に移動させることによって下金型14への設置が行われる。また、加圧成形後のワークWは、ノックアウト機構及び下金型14によって上方に押し上げられた状態において、駆動シリンダ31を動作させて押さえピン29によってワークWを押し付けることによってワークWがロータリーテーブル上に保持される。
【0065】
実施形態2に係る焼結磁石の寸法矯正は以下のように行う。まず、ワークWをロータリーテーブル27の位置決め固定治具27A〜27Gに所定数、例えば7個ワークWをセットする。次に格納容器20を密閉し、真空引き又は不活性ガスの充填を行い、押さえピン29によるワークWの保持を解除して金型14にワークWを設置する。
【0066】
その後、実施形態1の
図6と同様に、磁石の寸法計測、寸法矯正量の計算、成形速度の決定を行い、金型13、14、15及びワークWを加熱して所定の温度まで昇温させ、温度が保持された状態において(温間)プレス加工を行う。加工後、ワークWはノックアウトバー203及び金型14によって取り出され、加工されたワークWはロータリーテーブル27の冷却ノズル25がセットされた位置決め固定治具27Gにて冷却ガスが噴射されることによって冷却される。そして、ロータリーテーブル27の位置決め固定治具27A〜27Gの押さえピン29によってワークを保持した状態において、ロータリーテーブル27を回転させて次のワークWの保持を解除して金型14にセットする。
【0067】
以降は、
図6の磁石の設置(ステップS21)から加圧成形後の磁石の除去・冷却(ステップS26)までの工程を繰り返し、全てのワークWの加工が終了したら(ステップS27:YES)格納容器20を開放し、加工されたワークWを取り出す。
【0068】
以上、説明したように実施形態2に係る焼結磁石の製造方法によれば、ロータリーテーブル26を使用して自動でワークWを金型内に投入及び取り外しができるように構成している。そのため、実施形態1と同様に格納容器20を開放せずに金型13、14、15にワークWの投入及び取り外しを行うことができ、作業性を向上させることができる。このように構成することによって作業者を必要とせずに自動的に投入された焼結磁石の取り外し及び交換作業を格納容器内で行うことができる。
【0069】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲において種々の変更が可能である。実施形態1において測定部26はCCDカメラによって構成すると説明したが、これに限定されない。上記以外にもレーザーを発信するユニットと発信したレーザーを受信するユニットをワークである焼結磁石を挟んで対向する格納容器20の側面に取り付けて磁石の形状を測定してもよい。
【0070】
また、CCDカメラやレーザーによる検出は非接触であるが、格納容器20の側面にレール(固定レール)を取り付けて、当該レールの先端から移動可能な第1レールを取り付け、さらにそこから第1レールと直交方向に移動可能な第2レールを取り付ける。そして、第2レールの先端に接触針(プローブ)を取り付けて、焼結磁石の平面を第1レール、第2レールの移動によって走査し、高さ方向の変位を接触針の変位によって検出する。このように接触針を用いて接触的に磁石形状の測定を行うことによって、高さ方向の寸法矯正量だけでなく、磁石を平面視した際の面積をも考慮して寸法矯正量を測定でき、上金型13の移動速度を精密に決定することができる。
【0071】
また、実施形態1,2において焼結磁石の寸法矯正を行うために移動する金型は上金型13であったが、下金型14が移動しても、上金型13及び下金型14が共に移動してもよい。
【0072】
(実験例1)
次に本実施形態に係る焼結磁石の製造方法において。寸法矯正工程時に行うプレス加工の成形温度に関する実験を行ったので説明する。
【0073】
本実験では実際の製品とほぼ同等の焼結磁石の試験片(厚さ3.8mm、断面の長さが6mm×6mm)に
図3と同様に上スライド、ボルスタ、及び外周金型を用いて磁石試験片を固定し、加圧しながら温度を室温から上昇させ、試験片の変形量を測定した。本実験例1に係る焼結磁石の金属はFe70%、Nd22%、B0.4%、Dy2.5%、Pr2.5%から構成される。表1は本実験例1に係る焼結磁石試験片を加温、加圧させていった場合の成形温度と変形率(%)の表、
図11は表1をグラフ化したものである。
【0075】
表1及び
図11より、本実験例1に係るR−Fe−B系焼結磁石は620度より塑性変形が起こることがわかった。以上より、620℃以上であればプレス加工で焼結磁石の寸法矯正が行えることになるが、上記R−Fe−B系焼結磁石の焼結温度は1000℃となっている。620℃以上であっても成形温度が焼結温度を超えると焼結磁石の組織や磁気特性が変化してしまうため、上記実施形態に係る寸法矯正工程は620℃から焼結温度を超えない1000℃の範囲において行うことが好ましいことがわかった。また、この場合に磁石にプレス加工を行って、磁石が塑性変形する降伏応力は表1より36MPa〜262MPaになることがわかった。
【0076】
(実験例2)
次に上記焼結磁石の製造方法によって製造した焼結磁石の寸法精度に関して、焼結磁石の反り量を確認したので説明する。
【0077】
本実験では実際の製品とほぼ同等の焼結磁石の試験片(厚さ4mm、断面の長さが8mm×28mm)を720℃に加熱して温間プレス成形を実施し、上記実施形態に係る方法を実施する前後でのNd焼結磁石試験片の反り量を確認した。試験片の温度は直接測定することができないため、型表面の温度から換算して結果を算出した。
図12は試験片の一端部から水平方向に離間した際の焼結磁石の反り量の実験結果を示すものであり、
図13は上記実施形態に係る方法の実施前後での焼結磁石の反り量をヒストグラムで示したものである。
【0078】
図12からもわかるように、上記実施形態に係る方法の実施前後では焼結磁石試験片の反り量の幅を0.093mmから0.027mmと実施前の30%程度にまで抑制できたことがわかった。また、
図13からわかるように、上記実施形態に係る方法実施後の試験片の反り量はいずれも上限規格を下回っているため、別途研削等を行う必要がないことがわかった。
【0079】
このように上記実施形態に係る焼結磁石の製造方法を実施することによって焼結磁石に必要な機械加工代を削減し、DyやTb等の希土類金属の材料歩留まりを向上できることが確認できた。