【実施例】
【0014】
以下の実施例は具体的な一例を示すものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0015】
[実施例1]
図1〜
図6を参照して実施例1を説明する。
車両駆動システムは、具体的な一例として、スクータなどの小型自動二輪車等に搭載されるものであり、車両走行用のエンジン1と、エンジン1のクランク軸2に直結する電動モータ3と、エンジン1および電動モータ3の運転制御を行う制御装置4とを備えて構成される。
【0016】
エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーによってクランク軸2を回転させ、その回転力をクランク軸2を介して出力するものである。もちろん、エンジン1は、形式や排気量等は限定するものでないが、一例としてガソリンを燃料とした単気筒4サイクルの点火式レシプロエンジンを採用している。
【0017】
具体的に、エンジン1は、燃料噴射用のインジェクタ5を含む燃料噴射装置や、点火コイル6やスパークプラグを含む点火装置を備える。
燃料噴射装置は周知なもので、車両の運転状態に応じた噴射量を車両の運転状態に応じたタイミングで噴射させるものであり、制御装置4により噴射量や噴射タイミングが制御される。
【0018】
点火装置も周知なものであり、所定の点火タイミングでスパークプラグに火花放電を発生させるものである。この点火装置は、制御装置4と独立して作動するものであっても良いし、制御装置4により作動状態が制御されるものであっても良い。具体的には、後述する「間引き噴射制御」において「燃料噴射しないタイミングで火花放電を停止する」ように点火装置の作動状態が制御装置4にコントロールされるものであっても良い。
【0019】
電動モータ3は、クランク軸2に直結された永久磁石式であり、クランク軸2と一体に回転するロータ7には複数の永久磁石8が固定配置される(
図5参照)。一方、電動モータ3におけるステータ9の各スロットには、U、V、W相からなる第1巻線11と、U、V、W相からなる第2巻線12とが、それぞれ120度間隔で独立して配置されている。そして、電動モータ3は、制御装置4に内蔵されたインバータによって調整された通電電流が与えられることで回転力を発生する。
【0020】
上述した第1巻線11と第2巻線12は、切替手段13(電磁リレー等)によって、
(i)第1巻線11と第2巻線12の直列接続(
図2参照)と、
(ii)第2巻線12のみの接続(
図3参照)と、
に切替え可能に設けられている。
【0021】
第1巻線11と第2巻線12の直列接続は、
図2(c)に示すように、電動モータ3によって大きな出力トルクを発生させることができる。しかし、回転数を高めようとするとコイルインダクタンスによる逆起電力の増加によって電動モータ3の回転数の上昇が困難になる。
具体的な一例として、第1巻線11と第2巻線12を直列接続した時の電動モータ3の最大発生トルクは、ドライバビリティの低下を抑える目的(慣性マスを適正範囲に抑える目的)で、エンジン1の最大クランキングトルクの60%以下(例えば、最大クランキングトルクが1.3kgfmとなる100cc二輪車エンジンの場合は最大トルクが0.76kgfm以下、最大クランキングトルクが1.8kgfmとなる125cc二輪車用エンジンの場合は最大トルクが1.08kgfm以下)に設定されるものであり、回転数の範囲は0〜1200rpmほどである。
【0022】
一方、第2巻線12のみの接続は、逆起電力の影響を受け難くなるため、
図3(c)に示すように、電動モータ3による高速回転が可能になる。しかし、ロータ7を駆動するための発生磁束量が減ることで電動モータ3の出力トルクが小さくなる。
具体的な一例として、第2巻線12のみを接続した時の電動モータ3の最大発生トルクは、第1巻線11と第2巻線12を直列接続した時に比較すると低下するが、回転数の範囲を0〜4800rpmまで広げることができる。
【0023】
制御装置4は、切替手段13を切替制御する。
具体的に制御装置4は、エンジン1の始動時(スタータスイッチのON時、アイドリングストップ中のスロットル開度など)に、第1巻線11と第2巻線12を直列接続して電動モータ3を作動させる(
図2参照)。このとき制御装置4は、エンジン1に燃料噴射を行ってエンジン始動を実行する。
一方、制御装置4は、エンジン始動後の車両停車中に、第2巻線12のみの接続に切り替えて電動モータ3を作動させることで、エンジン1のアイドリング回転数を維持させる(
図3参照)。このとき制御装置4は、エンジン1への燃料噴射を停止する。即ち、制御装置4は、スロットル閉時のアイドリング中に燃料噴射を停止させるとともに、第2巻線12のみで電動モータ3を作動させてアイドリング回転数(例えば、1500rpm)を維持する。
【0024】
そして制御装置4は、ドライバーがスロットルを開くと(車両発進操作の一例)、燃料噴射を再開し、エンジン1の出力トルクを発生させるとともに第2巻線12のみの接続で電動モータ3を作動させて車両を発進駆動する。さらに、燃料噴射は間引きして燃料消費量を抑える。
このとき、スロットル開度の上昇に応じて電動モータ3の通電電流を大きくする、もしくはバッテリ14の電圧低下に応じて電動モータ3の通電電流を小さくし、且つ燃料噴射を増量する加速トルク調整を行っても良い。
【0025】
なお、上述した電動モータ3は、発電機(ジェネレータ)としても機能するものであり、車両の減速等に伴う回転力(タイヤから受ける回転力)やエンジン1の回転出力を受けて発電し、発電した電力で定格電圧が12Vのバッテリ14を充電するとともに、車両に搭載された各電装品へ給電を行う。具体的に車両は、電動モータ3が発電した三相交流を全波整流する三相全波整流器と、三相全波整流器の出力を所定のレギュレート電圧(例えば、14.5V)に制限するレギュレータとを搭載している。
【0026】
(実施例の効果1)
この実施例では、上述したように、エンジン1の始動時に、第1巻線11と第2巻線12を直列接続して電動モータ3を作動させるとともに、エンジン1に燃料噴射を行ってエンジン始動を実行する。
このように、第1巻線11と第2巻線12を直列接続することで、電動モータ3に大きなトルク(エンジン始動可能なトルク)を発生させることができ、クランク軸2に直結した永久磁石式の電動モータ3によってエンジン始動を実施できる。
【0027】
エンジン1の始動後の車両停車中は、エンジン1への燃料噴射を停止させるとともに、第2巻線12のみの接続に切り替えて電動モータ3を作動させることでエンジン1のアイドリング回転数を維持する。
このように、第2巻線12のみの接続で電動モータ3を作動させることで、電動モータ3の慣性マスを増加させることなく、電動モータ3の回転数をアイドリング回転数以上に高めることができる。即ち、車両停車中に、クランク軸2に直結した永久磁石式の電動モータ3によってエンジン1のアイドリング回転数を維持することができる。
【0028】
(実施例の効果2)
この実施例の制御装置4は、エンジン1の始動後で、且つスロットル開度が所定開度以上の時(加速時や登坂走行時など)、第2巻線12のみの接続で電動モータ3を作動させて、エンジン1の電動アシストを行う。
即ち、制御装置4は、エンジン1の運転中にエンジン負荷が所定値以上で、且つエンジン回転数が電動モータ3でアシスト可能な回転域(例えば、4800rpm未満)に限り、第2巻線12のみの接続による電動モータ3によって、エンジン出力をモータ出力で電動アシストする。
これにより、少ない燃料消費で大きな駆動力を発生させることができる。即ち、加速性能や登坂性能を高め、且つ燃料消費を抑えることができる。
【0029】
燃料消費を抑える技術を説明する。
制御装置4は、電動モータ3がエンジン1の電動アシストを行う際、エンジン1に対して間引き噴射制御を実施する。この間引き噴射制御は、「噴射タイミングで燃料噴射を実施しない割合(回数)」を変化させて、単位時間当たりの噴射量を減らすものであり、空燃比を乱すことなく燃料消費を抑えることができる。なお、「噴射タイミングで燃料噴射を実施しない時」は、点火作動を行うものであっても良いが、点火作動を停止して電力消費を抑えるようにしても良い。
【0030】
(実施例の効果3)
この実施例の電動モータ3は、「第1巻線11と第2巻線12を直列接続した時の巻線数(巻回数)」を「第2巻線12の巻線数(巻回数)」で割った巻線比が「4未満」に設けられる。
その理由を説明する。
エンジン1の燃料噴射を停止した状態のクランク軸2をアイドリング回転数で駆動するには、第2巻線12のみの接続の電動モータ3に「エンジン始動時(第1巻線11と第2巻線12を直列接続した電動モータ3の出力トルク)」の1/4より大きい出力トルク(例えば、100cc二輪車用エンジンの場合は0.19kgfm超、125cc二輪車用エンジンの場合は0.27kgfm超)を発生させることが必要となる。
このため、第2巻線12のみの接続の電動モータ3に、「エンジン始動時」の1/4より大きい出力トルクを発生させるために、巻線比が「4未満」に設けられる。
【0031】
上記を補足説明すると、巻線比を大きくすることは、第2巻線12の巻線数を減らすことであるため、巻線比を大きくすると、第2巻線12のみの接続時における電動モータ3の出力トルクの減少を招いてしまう。理解補助のための一例として、巻線比を3.5に設定すると「第2巻線12のみによる電動モータ3の出力トルク」は、「第1巻線11と第2巻線12を直列接続した電動モータ3の出力トルク」の約1/3.5に減少する。
【0032】
次に、
図4を参照して巻線比の設定技術を説明する。
図4は、エンジン1の運転を電動モータ3で電動アシストした際の「巻線比」と「燃費向上効果」との関係を示したものである。この
図4から読み取れるように、第2巻線12の巻線数を減らしてゆくと、巻線比3.5までは燃費向上効果が上昇するものの、巻線比3.5を超えると急激に燃費向上効果が低下する。このように、燃費向上効果を得るためにも、巻線比は4未満が適している。
【0033】
(実施例の効果4)
この実施例の電動モータ3は、「エンジン1の圧縮行程時に第2巻線12によって駆動される磁束と対向する永久磁石8」の磁力は、他の永久磁石8の磁力より強く設けられる。
具体的な一例として、
図5に示すロータ7の回転タイミングが圧縮行程であり、第2巻線12に対向する部位の永久磁石8(
図5中の符号αで示す永久磁石8)の磁力が、他の部位の永久磁石8の磁力より、強く設けられる。
【0034】
各永久磁石8に磁力の強弱を設ける手段は、もちろん限定するものではないが、理解補助の一例を示す。この実施例では、全ての永久磁石8をフェライト磁石で設けている。そして、「エンジン1の圧縮行程時に第2巻線12によって駆動される永久磁石8」を、他の永久磁石8より強着磁することで、各永久磁石8に磁力の強弱を設けている。
あるいは、各永久磁石8に磁力の強弱を設ける手段として、「エンジン1の圧縮行程時に第2巻線12によって駆動される永久磁石8」にフェライト磁石と希土類磁石(ネオジウム磁石等)を組み合わせて用いても良い。
【0035】
このように、「エンジン1の圧縮行程時に第2巻線12によって駆動される永久磁石8」の磁力を他より強く設けることで、クランク軸2の回転中(電動モータ3によるアイドリング回転中、およびエンジン1の電動アシスト中)の圧縮行程時における電動モータ3の出力トルクを大きくできる。これによって、エンジン圧縮行程時のクランク軸2の回転落ち込み(変動)を抑えることができ、車両振動を小さくすることができる。
【0036】
(実施例の効果5)
この実施例の制御装置4は、第2巻線12のみの接続に切り替えて電動モータ3を作動させる際(即ち、電動モータ3によるアイドリング回転中、およびエンジン1の電動アシスト中)、
(i)エンジン1の圧縮行程時、
(ii)エンジン1の吸気バルブの押し下げ時、
(iii)エンジン1の排気バルブの押し下げ時に、
第2巻線12の通電電流を増大させる補正制御を実施する。
【0037】
上述した「圧縮行程」、「吸気バルブの押し下げ」、「排気バルブの押し下げ」によるクランク負荷は、
図6の実線Aに示すように、クランク軸2が2回転(720度回転)する間の決まったクランク角で生じる。
そこで、制御装置4は、クランク角(図示しないクランク角センサによって検出されたクランク軸2の角度)から求められる「圧縮行程時(圧縮乗り越しトルクの発生時)」、「吸気バルブの押し下げ時(開弁トルクの発生時)」、「排気バルブの押し下げ時(開弁トルクの発生時)」に第2巻線12に与える通電電流を増大させる。
具体的に、第2巻線12の通電電流の増加制御は、
図6の実線Bに示すように、「圧縮行程時」、「吸気バルブの押し下げ時」、「排気バルブの押し下げ時」に生じるクランク負荷を打ち消すように実施される。
【0038】
このように設けることで、クランク軸2の回転中(電動モータ3によるアイドリング回転中、およびエンジン1の電動アシスト中)の「圧縮行程時」、「吸気バルブの押し下げ時」、「排気バルブの押し下げ時」に電動モータ3の出力トルクを大きくすることができる。これによって、クランク軸2の回転変動を抑えることができ、車両振動を小さくすることができる。
【0039】
なお、上述した補正制御(クランク負荷の増加変化に応じて通電電流を増加させる補正制御)に加え、クランク負荷の減少変化に応じて通電電流を減少させる補正制御を行っても良い。具体的には、エンジン1の電動アシスト中の膨張(爆発)行程時に第2巻線12の通電電流を減少させる補正制御を実施し、クランク軸2の回転変動をさらにフラット化しても良い。