(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
[ボックス柱の組立て構造]
高層建築に用いられるボックス柱は、外周を構成する4枚のスキンプレートの角部を溶接して形成された角型鋼管柱の内部にダイヤフラムが溶接固定された構造を有する。
本発明では、ダイヤフラムとスキンプレートの溶接を、全てガスシールドアーク溶接(GMAW)で行うために、ボックス柱の外周を構成する4面のうち、一面には、ダイヤフラムに対向する位置に貫通孔が形成されたスキンプレート(孔開きスキンプレート)を用い、他の3面には、そのような貫通孔が形成されていないスキンプレートを用いる。
【0018】
そして、先に、貫通孔が形成されていない3枚のスキンプレートと、四角形のダイヤフラムの3箇所の外周端面とを、それぞれの溶接部がボックス柱の内側になるようにGMAWにより溶接して、断面コの字状に組立てた後、孔開きスキンプレートを残りの1面に配置して外側から貫通孔を通してダイヤフラムとのGMAWを行って、ボックス柱が溶接組立される。
【0019】
図1は、溶接組立されたボックス柱を示し、スキンプレート1a〜1cと孔開きスキンプレート2が断面角型に配置されるとともに、内部にダイヤフラム3a、3bが配置され(
図2、3参照)されて、それらが前記のように溶接組立される。
スキンプレート1a〜1cとダイヤフラム3a、3bは、
図1には示されていないが、ボックス柱の内側でGMAWを用いて溶接される。孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3a、3bは、孔あきスキンプレート2の貫通孔5の側面とダイヤフラムの上端面によって形成された開先をGMAWにより溶接され、溶接金属5a、5bが形成される。
また、各スキンプレート間で形成される角部には、サブマージアーク溶接(SAW)やGMAWなどによって溶接されて、溶接金属4a〜4dが形成される。
【0020】
孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3で形成される溶接継手は、いずれもダイヤフラムの端面が表面に出ない構造とされる。その断面構造を
図2(a)、(b)に示す。
図2(a)に示す継手構造は、ダイヤフラム3の高さをスキンプレート2の下面までとしたもので、スキンプレート2の貫通孔側面7とダイヤフラム3の端面8で形成される開先(
図5参照)内をGMAWによる多層盛溶接によって溶接金属5を形成した例である。
【0021】
また、
図2(b)に示す継手構造は、ダイヤフラム3の高さをスキンプレート2の貫通穴の途中までとしたもので、スキンプレート2の貫通孔側面7とダイヤフラム3の端面とで形成される開先内を、GMAWによる多層盛溶接によって溶接金属5を形成した例である。
【0022】
孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3の間で形成された溶接金属5は、スキンプレートの連続性を確保するために、鋼材の引張強さと同等以上の引張強さを有することが望ましい。また、多層盛溶接で形成される溶接金属の厚みも同様に重要であり、少なくともスキンプレートの板厚の1/3以上の厚みで、且つ2層以上の溶接金属層を必要とする。そうでないとダイヤフラムの板厚方向に対する十分な引張強さを確保することができない。
【0023】
本発明では、ダイヤフラムとスキンプレートの溶接に大入熱のエレクトロスラグ溶接を用いないで溶接組立ができるようになり、溶接部の靭性低下を引き起こすことなく、スキンプレートに780MPa以上の高強度鋼板を用いてボックス柱を構成することができる。
また、本発明の構造のボックス柱では、分割スキンプレートを用いないで、一枚構成のスキンプレートを用いているため、スキンプレートの連続性が確保でき、ダイヤフラムにはスキンプレートよりも強度の低い鋼板が使用できる。
前記スキンプレートに引張強さが780MPa以上の鋼板を用いる場合には、ダイヤフラムとしては、スキンプレートに用いる鋼板の引張強さをSP(MPa)として、0.65SP以上0.9SP以下の引張強さの鋼板を用いても、ボックス柱として必要な強度を確保することができる。
【0024】
好ましい鋼板の強度の組み合わせとしては、スキンプレートに780MPa級の鋼板を使用する場合は、ダイヤフラムとしてはTS690MPa級やTS540MPa級の鋼板が例示でき、スキンプレートにさらに高強度の950MPa級の鋼板を使用する場合は、ダイヤフラムとしては780MPa級や590MPa級の鋼板が例示できる。
【0025】
[ボックス柱の製造方法]
次に、以上の構造を有するボックス柱の製造方法について説明する。
ボックス柱の溶接組立に当たっては、外周の3面を構成するスキンプレート1a〜1c及び残り1面を構成する孔開きスキンプレート2と、一辺がボックス柱の外周面に露出しない矩形のダイヤフラム3a、3bが準備される。孔開きスキンプレート2のダイヤフラムと対向する位置には、ガス切断などの方法によってスリット状の貫通孔6a、6bが形成される。
【0026】
貫通孔6は、ダイヤフラム端面全体を溶接するために、ダイヤフラム3と同程度の幅と長さを有することが好ましいが、多少のずれは許容される。
例えば、貫通孔6の幅は、(ダイヤフラムの板厚−2mm)〜(ダイヤフラムの板厚+1mm)の範囲で形成され、その長さは、(ダイヤフラムの一辺の長さの70%)〜(ダイヤフラムの一辺の長さ)に形成されていれば、必要な接合強度は確保することができる。なお、貫通孔は、板面に対して垂直に形成されていてもよいし、外表面に向けて拡がるように形成されていてもよいので、上記の貫通孔の範囲は、ダイヤフラム側の大きさを示している。
【0027】
以上のようなスキンプレートとダイヤフラムを用いたボックス柱の組立ては、次のような手順で行われる。
まず、ボックス柱の外周を構成する3枚のスキンプレート1a〜1cとボックス柱の内部に固着される2枚のダイヤフラム2a〜2cの溶接組立が行われる。
この組立てでは、スキンプレート1aと1c及びスキンプレート1bと1cが仮溶接され、スキンプレートの中間に、ダイヤフラム2a、2bが配置されて、3辺でスキンプレート1a〜1cと本溶接されて、
図3に示される断面コの字状に組み付けられる。
【0028】
溶接手順は特に限定されず、ダイヤフラムとスキンプレートの溶接の姿勢も、立向溶接でも横向溶接でもよく、組み付けの進行に従って、順次転回しながら同一姿勢を保持して溶接してもよいし、各溶接姿勢を組み合わせて転回しないで溶接してもよい。
すなわち、水平に置かれたスキンプレート1cと縦に置かれたダイヤフラム3の溶接を横向き溶接で行った後、スキンプレート1a、1bとダイヤフラムの溶接も、順次転回しながら横向溶接で行ってもよい。
また、スキンプレート1cとダイヤフラム3の溶接を横向溶接で行った後、転回せずにスキンプレート1a、1bとダイヤフラム3の溶接を立向溶接で行ってもよい。
ダイヤフラムとスキンプレートの溶接は、全てガスシールドアーク溶接で行われるが、片面溶接でも、両面溶接でもよい。通常、横向溶接では両面溶接で行い、立向溶接では片面溶接で行われる。
【0029】
以上のように、3面のスキンプレートとダイヤフラムの溶接を行った後、孔開きスキンプレート2を用いたダイヤフラムとの最後の1面の溶接が行われる。
孔開きスキンプレート2を、必要に応じて、スキンプレート2a、2bに仮付けし、貫通孔6を通して、外側から孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3の溶接を行う。
孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3で形成される溶接継手は、ダイヤフラムの端面8が表面に出ない構造とされる。開先の詳細を
図5(a)、(b)に示す。
【0030】
図5(a)に示す開先は、ダイヤフラム3の高さを孔開きスキンプレート2の下面までとした例であり、先に、ダイヤフラム3の上端部に裏当金10を仮付けしておき、次いで、孔開きスキンプレートを裏当金10上にセットして、孔あきスキンプレート2の貫通孔6の側面7とダイヤフラムの上端面8によって開先を形成する。
【0031】
また、
図5(b)に示す開先は、ダイヤフラム3の高さを孔開きスキンプレート2の貫通孔6の途中までとしたもので、ダイヤフラム3の上端面8には開先の一部を形成する切欠きが形成され、ダイヤフラム3の切欠きとその両側に位置する貫通孔の側面7との間にもそれぞれ開先が形成される例である。
この例でも、ダイヤフラム3の上端部に裏当金10を仮付けしておき、次いで、孔開きスキンプレート2を裏当金10上にセットして同様に開先を形成する。
【0032】
以上により形成された開先内をGMAWによる多層盛溶接によって、
図2に示すように溶接金属5を形成する。また、多層盛溶接に当たっては、前述のように溶接金属表面とダイヤフラムの端面8との間に2層以上の溶接金属層を形成する。
なお、
図5(a)、(b)では、孔開きスキンプレート2とダイヤフラム3の間に隙間がなく配置された例を示しているが、溶接時に埋めることができる程度の間隔は許容される。また、
図5(a)では貫通孔6の側面7とダイヤフラム3の端面8の角部が重ならないよう配置された例を示しているが、ダイヤフラムの端部に重なっていても、2mm以下の範囲であれば、ダイヤフラムの端部まで溶け込ませることができるので特に問題はない。
【0033】
以上のようにして、ダイヤフラム3とスキンプレート1あるいは孔開きスキンプレート2との溶接が行われた後、スキンプレートとスキンプレートが当接する角部の開先9c、9d、及び、スキンプレートと孔開きスキンプレートが当接する角部の開先9a、9bの溶接を、SAWあるいはGMAWで行ってボックス柱が製造される。
なお、角部の溶接を最後にまとめて行う例で説明したが、角部の開先のうち、開先9c、9dは、
図3のように組み付けした後に先に溶接する手順でもよい。
【0034】
続いて、ボックス柱のスキンプレートとダイヤスラムとのGMAWに使用するフラックス入りワイヤについて説明する。
ボックス柱の溶接組立をフラックス入りワイヤを用いてGMAWする場合において、予熱を省略して、あるいは、予熱を簡略化して溶接することが好ましい。スキンプレートにTS780MPa以上の鋼板を使用する場合には、溶接割れを防止するために予熱は必須となる。
そこで、TS780MPa以上の鋼板を使用した場合でも予熱を省略して、あるいは、予熱を簡略化して溶接することができるフラックス入りワイヤについて検討した結果、フラックス中の金属弗化物量を適正な範囲に管理されたワイヤを使用することが有効であることを見出した。
【0035】
以下、そのようなフラックス入りワイヤを構成する個々の要件の限定理由について説明する。
フラックス入りワイヤは、形態的には、鋼製外皮とその内部に挿入された粉体などよりなるが、成分的には、弗化物、金属酸化物、金属炭酸塩のフラックス成分と、それ以外の合金成分よりなる。
そこで、まず、鋼製外皮の内部に挿入されるフラックス成分について説明する。以下の説明で、%はワイヤ全重量に対する質量%を意味している。
【0036】
(金属弗化物:2.0〜7.0%)
金属弗化物は、合計で2.0〜7.0%ワイヤ中に添加する。金属弗化物として、CaF
2、BaF
2、SrF
2、MgF
2、LiFのうちの1種または2種以上を必要に応じて添加するが、CaF
2を主成分とするのが好ましい。
【0037】
金属弗化物を上記の範囲で含有させることで、引張強さ780MPa以上の高強度鋼の溶接において、溶接金属の拡散性水素量を微量にして、耐低温割れ性を劇的に改善し、そのような引張強さを有する高強度鋼の溶接の際にも、予熱を省略あるいは簡略化して溶接することを可能にする。また、金属弗化物は溶接金属の酸素量を低減させることに有効であり、それによって溶接金属の靭性も向上させることが可能である。
【0038】
これらの効果を得るには、金属弗化物を2.0%以上含有させる必要がある。含有量が2.0%未満では、十分な効果を得ることができず、また、7.0%を超えると、溶接ヒュームが過剰生成することでシールドガスによるシールド効果が低下し、大気が巻き込まれることや、スラグの過剰生成による巻き込みが発生するため、溶接作業性が著しく劣化し、好ましくない。より靱性を向上させるために金属弗化物の下限を3.3%又は3.7%としてもよく、溶接作業性の劣化を抑制するために、上限を5.8%、5.6%又は5.4%としてもよい。
【0039】
金属弗化物が拡散性水素を低減する理由については、金属弗化物が溶接アークにより分解し、生成されたフッ素が水素と結合してHFガスとして大気中に散逸したか、あるいは、そのまま溶接金属中に水素がHFとして固定されたためと考えられる。
【0040】
なお、金属弗化物として、靭性を向上する効果の面からは、CaF
2、BaF
2、SrF
2、MgF
2のいずれでも用いることができるが、溶接作業性の面からCaF
2を主成分として含むことが望ましい。さらに、アーク安定性確保、スパッタ抑制などの溶接作業性を優先する場合には、金属弗化物の合計量αを3.3%以上とし、合計量αに対するCaF
2の含有量[CaF
2]の比([CaF
2]/α)が0.90以上とするのが好ましい。
【0041】
(金属酸化物:0.3〜1.2%)
スラグ形成剤として、Ti酸化物(TiO
2)、Si酸化物(SiO
2)、Zr酸化物(ZrO
2)、Mg酸化物(MgO)、Al酸化物(Al
2O
3)のうち1種または2種以上からなる金属酸化物を添加する。ここれらは溶接ビード形状を良好に維持するために添加される。その適正な効果を得るためには、0.3%以上添加する必要がある。しかし、金属酸化物の含有量が1.2%を超えて添加されると、溶接金属の酸素量が増加し、靭性を劣化させるため好ましくない。
【0042】
これら金属酸化物の含有量は、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、MgO、Al
2O
3の合計量に加え、フラックスの造粒に使用されるバインダーなどに含まれる金属酸化物も合計した含有量とする。また、金属酸化物の添加による靭性の劣化を極力抑制するために、金属酸化物の含有量の上限を1.0%、0.8%としてもよい。
【0043】
上記の金属弗化物と金属酸化物とのそれぞれの含有量に加え、質量%で表される金属酸化物の合計含有量βに対する金属弗化物の合計含有量αの比(α/β)の値が2.0以上20.0以下を満たすようにする必要がある。
α/βの値が2.0未満では、拡散性水素を低減させる効果を得ることができず、20.0を超えると、ビード形状が良好に維持できなくなる。必要に応じて、α/βの下限を3.5又は4.0としてもよく、その上限を14.0、13.0又は12.0としてもよい。
【0044】
(CaO:0.15%以下)
また、本発明においては、フラックスにCaOは添加しないことが好ましい。しかしながら、フラックスの原料にCaOが含有されている場合がある。その場合、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaOを0.15%以下に制限する。0.15%以下に制限すれば、本発明の効果は得られる。CaOは、大気に触れることで、CaOHに変化するため、溶接金属の拡散性水素を増加させる。また、CaOは、溶融プールの塩基度を高めることで、溶接金属の酸素を低減する効果があるが、本発明では酸化物を粒内変態の核生成サイトとして利用することで組織を微細化し、靱性を向上させているため、CaOと金属弗化物とを複合添加すると過剰に溶接金属の酸素が低減されることで低温靱性が低下するため好ましくない。
【0045】
(金属炭酸塩の1種または2種以上:0.60%未満)
アーク安定性作用とアーク集中性を高める目的で、CaCO
3、MgCO
3、SrCO
3、BaCO
3の金属炭酸塩の1種または2種以上を、必要に応じて添加することができる。含有量が多くなるとアークの集中性が強すぎてスパッタ発生量が多くなるので、上限は合計量で0.60%未満とする。その効果を十分に発揮させるには合計量で0.1〜0.5%含有させるのが好ましい。
【0046】
続いて、弗化物、金属酸化物、金属炭酸塩以外の化学成分について記載する。これらは、鋼製外皮自体に含まれる分と鋼製外皮の内部に挿入されるフラックスに含まれる合金成分を合わせたものである。
(C:0.04〜0.12%)
Cは、強度を向上させる元素であり、溶接金属の引張強さを780MPa以上とするためには、0.04%以上含有させる必要がある。
溶接ワイヤ中のC含有量は多いほど溶接金属中のC含有量も増加し、溶接金属の強度を高めるので好ましい。しかし、多くなり過ぎると溶接金属の靱性が劣化するとともに、高温割れ、低温割れ共に感受性が高まるので、C含有量の上限を0.12%とする。また、安定して靭性を確保するには、Cの上限を、0.09%、0.08%又は0.07%としてもよい。
【0047】
(Si:0.2〜1.0%)
Siは、脱酸元素であり、溶接金属のO量を低減して清浄度を高めるために、0.2%以上含有させる。ただし、1.0%を超えて含有させると溶接金属の靱性を劣化させるため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Siの上限は、0.8%、0.7%又は、0.6%としてもよい。
【0048】
(Mn:1.0〜2.5%)
Mnは、溶接金属の焼入性を確保して強度を高めるために1.0%以上含有させる。一方、2.5%を超えて含有させると、粒界脆化感受性が増加して溶接金属の靱性が劣化するため、これを上限とする。より安定して溶接金属の強度を高めるためには、Mnの下限を1.2%、1.4%又は1.6%としてもよい。
【0049】
(P:0.02%以下)
Pは不純物元素であり、耐溶接割れ性、及び靱性を劣化させるため極力低減する必要があるが、これら悪影響が許容できる範囲として、P含有量は0.02%以下とする。
(S:0.02%以下)
Sも不純物元素であり、溶接金属中に過大に存在すると靱性と延性とをともに劣化させるため、極力低減することが好ましい。靱性、延性への悪影響が許容できる範囲として、S含有量は0.02%以下とする。
【0050】
(Al:0.005〜0.050%)
Alは脱酸元素であり、Siと同様、溶接金属中のO低減、清浄度向上に効果があり、0.005%以上含有させる。一方、0.050%を超えて含有させると、窒化物や酸化物を形成して、溶接金属の靱性を阻害するため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を向上する効果を十分に得るには、Alの下限を0.0015%としてもよい。また、溶接金属の靭性を向上する効果を十分に得るにはAlの下限を0.002%又は0.003%としてもよく、また、粗大酸化物の生成抑制のため、Alの上限を、0.045%または0.040%としてもよい。
【0051】
(Ni:1.5〜3.5%)
Niは固溶靱化(固溶により靭性を高める作用)により組織、成分によらず靱性を向上できる唯一の元素であり、特に、引張強さが780MPa以上の高強度の溶接金属で靱性を高めるのに有効な元素である。必要な固溶靱化効果を得るためにはNiは1.5%以上含有させる必要がある。
Ni含有量が多いほど靱性を向上する上で有利であるが、含有量が3.5%を超えると耐溶接割れ性が低下するため、これを上限とする。なお、Niの効果が確実に靱性向上に寄与するためには、Niの下限を1.7%または2.0%とするのがよい。
【0052】
(Mo:0.3〜1.0%)
Moは、焼入性向上元素であり、かつ微細炭化物を形成して、析出強化による引張強さの確保に有効である。また、Moは、多層盛溶接で再熱を受けた際の強度低下を抑制し、靱性の劣化も抑制する効果を持つ。ボックス柱の溶接は多層盛溶接で行われるが、多層盛溶接では、後続の溶接パスから、その前のパスで形成された溶接金属が再熱を受けることで溶接金属に軟化が生じるが、780MPa級の強度レベルでは、溶接金属の組織がベイナイト主体となるため、その軟化の程度が大きく、溶接金属の強度を安定的に確保するのが難しい。さらに、その再熱によってセメンタイトが粗大化するため靭性も劣化する。Moは、多層盛溶接で再熱を受けた際に微細炭化物を形成することによって強度低下を抑制し、さらにセメンタイトの粗大化も抑制するため、靱性の劣化も抑制する効果を持つ。
【0053】
これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.3%含有させる必要がある。一方、1.0%を超えて含有させると、析出物が粗大化するようになり、溶接金属の靭性が劣化するため、これを上限とする。再熱による強度低下をより抑制することで安定的に強度を確保し、かつ靱性の劣化抑制を両立するためには、Moの下限を0.4%、0.5%または、0.6%超含有させてもよい。
【0054】
(Ti:0〜0.10%)
Tiも、Alと同様に、脱酸元素として有効な元素であり、溶接金属中のO量を低減させる効果がある。また、固溶Nを固定して、Nの靭性への悪影響を緩和するためにも有効である。Ti含有量の下限は0%とするが、これら効果を発揮させるためには、Ti含有量の下限を0.01%としてもよい。ただし、フラックス入りワイヤ中のTi含有量が0.10%を超えて過剰になると、粗大な酸化物の形成に起因した靭性劣化、及び過度な析出強化による靭性劣化が生じる可能性が大きくなる。このため、Tiを含有させる場合のTi含有量の上限は0.10%とする。また、Tiによる靭性劣化をより抑制するためにTiの上限を0.08%、0.06%又は0.05%としてもよい。
【0055】
(B:0〜0.01%)
Bは、溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、固溶Nの靭性に対する悪影響を減じる効果があり、また、焼入性を高めて強度向上に寄与する効果もある。これらの効果を得るためには0.0010%以上含有させることが好ましい。一方、含有量が0.0100%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe
23(C、B)
6等のB化合物を形成して靭性を逆に劣化させるため、これを上限とする。また、Bによる靱性劣化をより抑制するためにはBの上限を0.009%、又は0.008%としてもよい。
【0056】
本発明で用いるワイヤとしては、以上の化学成分を含有させたワイヤとしてもよいが、さらに、溶接する鋼板の強度レベルや求める靭性の程度に応じて、以下に説明するCu、Cr、V、Nb、Mgの一種または二種以上を含有させたワイヤとすることもできる。
【0057】
(Cu:0〜1.0%)
Cuは、ワイヤの外皮表面のめっき、および、フラックスに単体または合金として添加され、溶接金属の強度と靭性を向上させることができる。含有量が1.0%を超えると靭性が低下するため、Cuを含有させる場合は1.0%以下とする。Cu添加の効果を十分に得るためには、0.1%以上含有させることが好ましい。
なお、Cuの含有量については、外皮自体やフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面に銅めっきされる場合にはその分も含む。
【0058】
(Cr:0〜0.6%)
Crは、焼入性を高めることにより高強度化に有効な元素である。含有量が0.6%を超えると、ベイナイト組織を不均一に硬化させ、靱性を劣化させるため、Crを含有させる場合は0.6%以下とする。Cr添加の効果を得るためには0.1%以上含有させるのが好ましい。
【0059】
(V:0〜0.20%)
Vは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。含有量が0.20%を超えると炭化物が析出することで、硬化し、靭性を劣化させるため、Vを含有させる場合は、0.20%以下とする。V添加の効果を十分に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。
【0060】
(Nb:0〜0.10%)
Nbは微細炭化物を形成して、析出強化により引張強さ確保に有効である。含有量が0.1%を超えると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため、Nbを含有させる場合は0.10%以下とする。Nb添加の効果を十分に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。
【0061】
(Mg:0〜0.70%)
Mgは脱酸元素であり、溶接金属中のO低減、清浄度向上に効果がある。一方、0.70%を超えるとスパッタが大幅に増加するため、Mgを添加する場合は、0.70%以下とする。Mg添加の効果を十分に発揮するために0.10%以上含有させることが好ましい。
【0062】
(Ceq:0.55〜0.90%)
本発明のフラックス入りワイヤでは、合金成分あるいは金属脱酸成分として以上のように各元素を含有するが、溶接金属の引張強さを確保するために、下記(式a)で表される日本溶接協会(WES)で定める炭素当量Ceqが0.55〜0.90%となるように、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Vの含有量をさらに調整する必要がある。
Ceq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14
・・・(式a)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。含有していない元素は0%とする。
【0063】
Ceqは、その値が高い程、溶接金属が硬化するため引張強さが向上するが、一方で靭性が低下し、また溶接割れ感受性が高くなるため低温割れ抑制の対策が必要となる。このCeqの値が0.55%未満では、溶接金属において目的とする強度780MPaを満たせず、Ceqの値が0.90%を超えると、溶接金属の引張強さが過剰となり、溶接金属の靭性が低下する。そのため、Ceqの範囲は、0.50〜0.90%とする。
【0064】
(TE:2.7〜4.4%)
さらに、溶接金属の靭性を確保するために、(式b)で定義されるTE(Crを含有しない場合は、Crを0%として計算する。)が2.7〜4.4%である必要がある。
TE=[Mn]/2+[Ni]+3×[Cr] ・・・(式b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
【0065】
780MPa級の溶接金属では、組織がベイナイト主体であり、その低温靭性を確保するために、γ粒内の酸化物を変態の核生成サイトとして粒内変態をさせることで微細な組織を得るようにするのが好ましい。Mn、Ni、Crは主に固溶した状態で溶接金属中に存在し、粒内変態に最適な焼入性を得ることによって溶接金属の靱性を確保する作用を有する。
その効果を確実に得るには、TEが2.7%以上であることが必要である。2.7%より低いと焼入性が低下することで粗大な粒界フェライトが生成し、靭性が劣化する場合が生じる。一方で、TEが4.4%を超えると焼入性が過度に向上するため、粒内変態が起こらず、粗大なベイナイト組織または粗大なマルテンサイト組織となるため靱性が劣化する。より優れた強度靱性バランスが確保できる範囲として、下限を3.0%又は3.1%、上限を4.2%又は4.0%とするのが好ましい。
【0066】
なお、以上の合金成分あるいは金属脱酸成分として含有される元素の含有量には、それらの元素が弗化物、金属酸化物、金属炭酸塩として含有される場合の含有量は含めない。
また、それらの元素は必ずしも純物質(不可避不純物の含有は可)である必要はなく、Cu−Ni等の合金の形態で含有されていても何ら問題はない。また、それらの元素は鋼製外皮中に含有されていても、フラックスとして含有されていても、その効果は同じであるため、鋼製外皮とフラックスの何れでも含有することが可能である。
【0067】
本発明では、以上のような材料構成のフラックス入りワイヤを用いることにより予熱の省略や簡略化ができるようになるが、ワイヤ形態としては、鋼製外皮にスリット状の継目がないシームレスワイヤとするのが好ましい。
溶接時に溶接部に侵入する水素は、溶接金属内及び鋼材側に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。十分に溶接部の清浄性、ガスシールドの条件が管理された溶接の下では、ワイヤ中に主として水分で含有される水素が、溶接継ぎ手の拡散性水素の主要因となる。このため、鋼製外皮をシームレスの管とし、ワイヤ製造後から使用するまでの間、フラックスへの大気中の水素の侵入を抑制することが望ましい。
【0068】
以上説明したボックス柱の溶接組立に当たり、ダイヤフラム3とスキンプレート1あるいは孔開きスキンプレート2との溶接は、GMAWによる多層盛溶接によって行われる。
溶接条件としては、使用する鋼板の強度に応じて推奨されている条件を用いることができ、使用するシールドガスの種類も一般的に多用されている、100vol%の炭酸ガスやArと3〜20vol%CO
2の混合ガスを用いることができる。
また、角部の開先の溶接は、SAWあるいはGMAWによって行われるが、同様に、使用する鋼板の強度に応じて推奨されている条件を用いることができる。
【0069】
以下に、本発明の態様を実施例により具体的に説明する。これらの実施例は、本発明の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
鋼帯を、長手方向に送りながら成形ロールにより成形してオープン管とし、この成形の途中のオープン管の開口部からオープン管内にフラックスを供給し、次いで成形後の開口部の相対するエッジ面を突合わせシーム溶接してオープン管を継目無し管とし、このように造管することで得られたフラックス入りワイヤを伸線し、この伸線作業の途中でフラックス入りワイヤに焼鈍を加えることにより、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。試作後、フラックス入りワイヤの表面には潤滑剤を塗布した。
【0071】
試作したフラックス入りワイヤの化学成分の分析は以下のように行った。まず、充填されたフラックスをフラックス入りワイヤから取り出し、フラックス入りワイヤを鋼製外皮とフラックスとに分けた。鋼製外皮の化学成分は、化学分析によって各金属成分の含有量を測定することにより求められた。フラックスは、先ずX線回折、及び蛍光X線分析によって構成物および成分についての定量評価が行われた。この後、浮遊選鉱、及び磁力選鉱などの選鉱法を用いてフラックスをスラグ分と合金分とに分離し、それぞれの化学成分を、化学分析、及びガス分析などを行うことで分析した。
試作したフラックス入りワイヤの成分組成を[表1]、及び[表2]に示す。なお、[表2]に記載された化学成分は、弗化物、金属酸化物、および金属炭酸塩の化学成分を含まない。
【0072】
次に、上述したフラックス入りワイヤを用いて溶接を実施した。溶接は、板厚が20mmの母材11を、ルートギャップ16mm、及び開先角度20°で突き合わせ、裏当金12を用いて、[表3]に示す溶接条件で、上述したフラックス入りワイヤを用いて溶接を実施して、
図6に示す試験体を作製した。なお、母材11及び裏当金12としてはJIS G3106−2008に規定されたSM490Aを使用したが、母材の開先面及び裏当金の表面には、試験を行うフラックス入りワイヤを用いて、2層以上、かつ余盛高さ3mm以上のバタリングを実施した。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
【表2-1】
【0076】
【表2-2】
【0077】
【表3】
【0078】
得られた溶接金属3から、
図6に示すように、JIS Z3111−2005(溶着金属の引張及び衝撃試験方法)に準拠したA1号引張試験片(丸棒)(径=12.5mm)15とシャルピー試験片(Vノッチ試験片)14とを採取し、機械特性試験を行って、溶着金属の引張強さ及びシャルピー吸収エネルギーを測定し、次の基準で評価した。
・引張強さ:室温で引張強さ780MPa以上の試料を合格とした。
・靭性:0℃でのシャルピー衝撃試験で、吸収エネルギーが70J以上の試料を合格とした。
得られた機械特性の評価結果を[表4]に示す。
【0079】
拡散性水素量の測定は、JIS Z3118−2007(鋼溶接部の水素量測定方法)に準拠したガスクロマトグラフ法によって実施した(拡散性水素試験)。
溶接条件を[表3]に、結果を[表4]に示す。測定した拡散性水素量の評価基準は以下の通りとした。
・拡散水素量:1.0ml/100g未満(極低水素水準)を合格とした。
【0080】
耐低温割れ性の評価は、JIS Z3158(y形溶接割れ試験方法)に準拠した方法で試験を行うことにより実施した。y形溶接割れ試験体には、[表5]のスキンプレートに使用するS1〜S3の鋼板を使用した。S1〜S3の鋼板をy型に開先加工し、ルート間隔が1mmとなるように溶接にて組立てることでy形溶接割れ試験体を作製した。次いで、温度0℃かつ湿度60%の一定雰囲気管理下の溶接場所において、[表3]の溶接条件にて試験溶接を実施して、試験体を得た。この溶接された試験体の断面観察を行って割れ率を測定し、この測定結果に基づいて、フラックス入りワイヤの耐低温割れ性を評価した。耐低温割れ性の評価は以下の通りとした。
・耐低温割れ性:y形溶接割れ試験で、断面割れが溶接部にて生じなかった試料(断面割れ率が0である試料)を合格とした。
【0081】
得られたy形溶接割れ試験結果を[表4]に示す。拡散性水素が1.0ml/ml未満のものは、非常に低温の条件である0℃にて予熱を行うことなく試験溶接を実施した場合でも、y形溶接割れ試験にて作製された試験体のすべての断面において、断面割れ無し(断面割れが発生していないこと)であり、極めて高い耐低温割れ性が証明された。
【0082】
次にBOX柱の実構造物における溶接継手の機械特性を評価するため、[表4]の機械特性の評価において、総合判定で合格であったフラックス入りワイヤについて、[表5]の孔空きのスキンプレートとダイヤフラムの鋼板を、
図5の(a)、(b)のような開先形状になるようにT字型に組立て、
図2の(a)、(b)に示す要領で溶接を実施し、
図7、8に示すような溶接継手を作製した。継手作製に使用したフラックス入りワイヤ、スキンプレート、ダイヤフラム、溶接条件を[表6]に示す。
また、比較として、[表4]の機械特性の評価において、耐低温割れ性で不合格になったB01、引張強度が不合格となったB07、0℃のシャルピー吸収エネルギーが不合格となったB15のフラックス入りワイヤについて、上記記載要領と同様に溶接継手を作製した。
【0083】
得られた溶接継手から、溶接継手引張試験片を
図9、10に示すように継手引張試験片の中央に溶接部を含み、かつスキンプレートの全厚となるように採取した。またシャルピー試験片(Vノッチ試験片)を
図11、12に示すように、スキンプレートの表層から採取し、ノッチ位置は溶接金属の幅中央とした。これら試験片を用いて機械特性試験を行って、溶接継手の引張強さ、及びシャルピー吸収エネルギーを測定し、次の基準で評価した。
・継手引張強さ:室温で引張強さ780MPa以上の試料を合格とした。
・靭性:0℃でのシャルピー衝撃試験で、吸収エネルギーが70J以上の試料を合格とした。
得られた機械特性の評価結果を[表6]に示す。
【0084】
[表6]の試験結果に示されるように、溶接金属層がスキンプレートの板厚の1/3以上であり、かつ2層以上のものについて、継手引張強度とシャルピー吸収エネルギーを満足した。一方、溶接金属層がスキンプレートの板厚の1/3未満または、1層であるものは機械特性を満足しなかった。
また、[表4]のフラックス入りワイヤの機械特性の評価において、拡散性水素が高く、耐低温割れ性で不合格になったB01、引張強度が不合格となったB07、0℃のシャルピー吸収エネルギーが不合格となったB15についても、B01は溶接金属内に低温割れが発生し、B07は継手引張強度を満足せず、B15はシャルピー吸収エネルギーを満足せず、[表4]の機械特性の評価結果と同様に不合格となった。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6-1】
【0088】
【表6-2】