(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に屋内配線では、銅導体を用いた平形ケーブル、すなわちVVF(600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル)が使用されており、電気的な接続部分には、専用の銅端子が設けられる。この銅端子に対応するように配線器具側も銅端子が設けられる。尚、差込コネクタを用いての接続も一般的である。差込コネクタは、この構成として銅製のバネ端子(下記特許文献1参照)を有する。差込コネクタに対し銅導体が差し込まれると、銅導体は銅製のバネ端子からの押し付け力を受けながら摺動するようになり接続される。
【0003】
ところで、近年の銅価格高騰や軽量化の観点から、アルミ導体を構成に含むアルミ電線が普及しはじめているが、アルミ導体の接続を行う場合には、酸化皮膜、クリープとストレスリラクゼーションなどの問題から、電気接続性の経年劣化を起こしてしまうことが一般的に知られている(
図3にはアルミの接続劣化過程が概略図示される)。
【0004】
アルミ導体との接続に一般的な銅端子を介在させて行うと、アルミと銅の熱膨張係数の違いによる接続部分でのクリープとストレスリラクゼーションの促進や、異種金属間での電解腐食という問題が懸念される。
【0005】
そこで、上記問題点を解決するため、下記特許文献2には次のような提案が開示されている。すなわち、圧着端子の圧着部内面にセレーションを設け、このセレーションにてクリープとストレスリラクゼーションによる接続劣化を抑制する、という技術が提案開示されている。また、下記特許文献3には、銅端子にアルミをメッキして、電解腐食を防止するという技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の上記圧着端子は銅又は銅合金であり、特許文献3の端子は、銅端子に単にメッキを施しただけのものであることから、アルミ導体と銅端子との接続にあっては、必ずしも適した提案であるとは言えない。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、軽量化及びコストダウンが可能であるとともに、電気的な接続箇所において銅導体の接続と遜色のないようにすることが可能な平形ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の本発明は、導体及び絶縁体を備えてなる絶縁線心を複数本並べ、該複数本並んだ状態の絶縁線心をシースにて一括して覆うことによりなる平形ケーブルにおいて、前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金のアルミ単線と、該アルミ単線の周囲に設けられる銅又は銅合金製の銅クラッドとからな
り、且つ、前記導体の直径は2.0mmであり、且つ、前記銅クラッドの厚みは、前記導体の前記直径に対し4.5%〜10%になる90μm〜200μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された本発明によれば、複数本並ぶ絶縁線心の導体構造として、アルミ単線の周囲に銅クラッドを設ける構造を採用することから、従来の銅導体の場合と比べても遜色のない電気的な接続を実現することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、導体構造としてアルミ単線を含むことから、軽量化及びコストダウンを図ることができるという効果も奏する。本発明の平形ケーブルは、アルミと銅のそれぞれの利点を生かした導体構造を採用することから、屋内配線において有用であると言える。
【0013】
また、本発明によれば、銅クラッドの厚みを
90μm以上にしたのは、外傷深さを考慮したからである。具体的には、例えば差込コネクタのバネ端子のような接続相手との摺動により生じる擦れ等の外傷を考慮したからである。本発明のような厚みの設定により、擦れ等の外傷が生じてもアルミ単線の露出を防止することができるという効果を奏する。従って、本発明によれば、アルミと銅の熱膨張係数の違いによる接続部分でのクリープとストレスリラクゼーションの促進を防止したり、異種金属間での電解腐食を防止したりすることができるという効果を奏する。また、銅クラッドの厚みを200μm以下にしたのは、軽量化と経済性とを考慮したからである。その結果、軽量化及びコストダウンを図ることができるという効果も奏する。
【0014】
また、本発明によれば、導体の直径に対し銅クラッドの厚みを
4.5%以上にしたのは、外傷深さを考慮したからである。具体的には、例えば差込コネクタのバネ端子のような接続相手との摺動により生じる擦れ等の外傷を考慮したからである。本発明のような厚みの設定により、擦れや外傷が生じてもアルミ単線の露出を防止することができるという効果を奏する。従って、本発明によれば、アルミと銅の熱膨張係数の違いによる接続部分でのクリープとストレスリラクゼーションの促進を防止したり、異種金属間での電解腐食を防止したりすることができるという効果を奏する。また、銅クラッドの厚みを10%以下にしたのは、軽量化と経済性とを考慮したからである。その結果、軽量化及びコストダウンを図ることができるという効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら一実施形態を説明する。
図1は本発明の平形ケーブルを示す図であり、(a)は端面図、(b)は斜視図である。
【0017】
図1において、引用符号1は本発明の平形ケーブルに相当するビニル絶縁ビニルシースケーブルを示す(以下、単にVVF1と略記する)。VVF1は、屋内配線で一般的に用いられてきた従来のVVF、すなわち銅導体を構成に含む「平形の600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル」を代替することができるものであって、2本の絶縁線心2と、この絶縁線心2を一括して覆うシース3とを備えて構成される(絶縁線心2の線心数は一例であり、3心や4心であってもよいものとする)。
【0018】
VVF1は、以下の説明から分かるようになるが、従来のVVFと比べて軽量化及びコストダウンを図ることができるとともに、電気的な接続箇所において銅導体の接続と遜色のないようにすることができる。
【0019】
絶縁線心2は、導電性を有する導体4と、絶縁性を有する絶縁体5とを備えて構成される。絶縁線心2は、従来のVVFを構成する絶縁線(図示省略)に対し、可撓性及び機械的強度等が同じになるように、又は、それ以上になるように構成される。絶縁線心2は、従来のVVFと異なり、導体4が次のように構成される。すなわち、アルミ単線6と、銅クラッド7とを備えて構成される。
【0020】
アルミ単線6は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の断面円形状の単線であって、本形態においては、可撓性や機械的強度等を考慮してアルミニウム合金製のものが採用される。アルミ単線6は、アルミニウムを材料とすることから、従来のVVFの銅導体と比べて軽量であるのは勿論である。具体的には、銅の比重が8.9であるのに対しアルミニウムは2.7であることから、約1/3であり軽量である。
【0021】
銅クラッド7は、アルミ単線6の周囲に設けられる銅又は銅合金製の金属被覆部分であって、一定の厚みとなる層の状態で設けられる。銅クラッド7は、アルミ単線6の酸化物を除去した状態で外表面に密着するように設けられる。銅クラッド7の厚みに関しては、後述するものとする。
【0022】
導体4は、アルミ単線6がアルミニウムを材料としてなることから、従来のVVFの銅導体と同等の許容電流が得られるように直径(外径)が設定される。本形態においては、直径1.6mmの銅導体と同等の許容電流が得られるように、導体4の直径が2.0mmで設定される。尚、銅導体は上記の直径1.6mmの他、2.0mm、2.6mmが一般的に知られることから、このような寸法に応じて導体4の直径が設定されるものとする。
【0023】
絶縁体5は、絶縁性を有する樹脂材料を導体4の外表面に押出成形することにより形成される。上記樹脂材料はビニルであり、本形態においては、従来のVVFを構成する絶縁線心の絶縁体と同じ厚みや状態に形成される(樹脂材料は上記ビニルに限らないものとする)。
【0024】
尚、絶縁線心2は、上記構成、構造、及び材料であることから、CCAA線(Copper Clad Aluminum Alloy wire)と呼ぶことができる。
【0025】
シース3は、上記の如く、2本の絶縁線心2を一括して覆う被覆部分として形成される。また、シース3は、絶縁性を有する樹脂材料を2本並んだ状態の絶縁線心2の外表面に押出成形することにより形成される。シース3は、2本の絶縁線心2を並べ一括して覆うことから、断面長円形状に形成される。上記樹脂材料はビニルであり、本形態においては、従来のVVFを構成するシースと同じ厚みや状態に形成される(樹脂材料は上記ビニルに限らないものとする)。
【0026】
尚、以上のようなVVF1は、絶縁線心2を構成に含むことから、CCAA−VVFと呼ぶことができる。
【0027】
本形態のVVF1の特徴をまとめると、特許請求の範囲に記載された内容とは別に、「絶縁線心2を構成する導体4がアルミニウム又はアルミニウム合金のアルミ単線6と、このアルミ単線6の周囲に設けられる銅又は銅合金製の銅クラッド7とからなり、且つ、絶縁線心2を構成する絶縁体5がビニルからなり、且つ、絶縁線心2を複数本一括して覆うシース3がビニルからなる」ことを特徴にすることもできる。
【0028】
VVF1は、この端末のシース3が所定長さで除去されると、
図1(b)に示す如く、2本の絶縁線心2が露出する。また、露出した2本の絶縁線心2も端末の絶縁体5が所定長さで除去されると、導体4が露出する。露出した導体4は、電気的な接続部分8となる。具体的には、図示しない銅製の圧着スリーブ(リングスリーブ。銅端子の一種)が取り付けられるような電気的な接続部分8となる。又は、公知の差込コネクタに差し込まれるような電気的な接続部分8となる。
【0029】
ここで、銅クラッド7の厚みに関して説明をすると、本形態においては、銅クラッド7の厚みが50μ
m〜200μ
mとなるように設定される(導体4の直径は上記の如く2.0mmで設定される)。その理由としては、例えば接続相手との摺動により生じる擦れ等の外傷深さを考慮したからである。
【0030】
図2はコネクタ種類と外傷深さの関係を示すグラフである。グラフの縦軸は、外傷深さ(単位はμm)を示し、横軸はコネクタ種類を示す。コネクタは、公知の差込コネクタであり、図中に示す如くA〜Hまでの8種類が用いられる(具体的なコネクタ構造の説明は省略するものとする)。外傷深さは、差込コネクタに対し導体4を差し込み、銅製のバネ端子に導体4の外表面が摺動した時に生じる(虞のある)擦れ等の傷深さが該当し、最大(max)と最小(min)で示す。以下、外傷深さを測定した結果を説明する。
【0031】
<コネクタA>コネクタAに導体4を差し込んだ時の外傷深さ(導体4の外表面である銅クラッド7に生じる虞のある傷の深さ)は、最大で55μm、最小で35μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも35μm必要であることが分かる。
【0032】
<コネクタB>コネクタBに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で75μm、最小で48μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも48μm必要であることが分かる。
【0033】
<コネクタC>コネクタCに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で63μm、最小で35μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも35μm必要であることが分かる。
【0034】
<コネクタD>コネクタDに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で73μm、最小で43μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも43μm必要であることが分かる。
【0035】
<コネクタE>コネクタEに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で70μm、最小で43μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも43μm必要であることが分かる。
【0036】
<コネクタF>コネクタFに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で38μm、最小で28μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも28μm必要であることが分かる。
【0037】
<コネクタG>コネクタGに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で85μm、最小で25μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも25μm必要であることが分かる。
【0038】
<コネクタH>コネクタHに導体4を差し込んだ時の外傷深さは、最大で83μm、最小で48μmであった。従って、銅クラッド7の厚みが最低でも48μm必要であることが分かる。
【0039】
以上、外傷が生じても銅クラッド7の内側のアルミ単線6を露出させないようにするには、外傷深さを最小(min)ベースで考えるとすると、銅クラッド7の厚みが50μm以上に設定されることが好ましいと言える。また、より確実に外傷深さを最大(max)ベースで考えるとすると、銅クラッド7の厚みが86μm以上や、余裕を持たせて90μm以上に設定されることが好ましいと言える。
【0040】
この他、軽量化と経済性とを考慮すれば、銅クラッド7の厚みが200μm以下に設定されることが好ましいと言える。尚、ここでは導体4の直径を2.0mmに設定し、銅クラッド7の厚みを50μ
m〜200μ
mに設定することから、これを読み替えて、導体4の直径に対し銅クラッド7の厚みを2.5%〜10%に設定する、としてもよいものとする。
【0041】
VVF1に関し、この端末の電気的な接続部分8に図示しない銅製の圧着スリーブを取り付けて、JIS C 2086銅線用裸圧着スリーブで用いられるヒートサイクル試験を行ったところ、表1に示す如くの結果が得られた。
【0042】
表1において、25サイクル(cyc)目と、125サイクル(cyc)目の結果をそれぞれ示す。具体的には、圧着スリーブ(リングスリーブ)による接続部の温度(℃)と、外気温からの温度の上昇値(℃)との結果を実施例1〜9で示す。尚、外気温は、25サイクル目が20.8℃、125サイクル目が22.7℃であった。また、電流値は、25サイクル目及び125サイクル目ともに26.0Aであった。
【0044】
試験結果の判断としては、温度上昇が25サイクル目で50℃以下、125サイクル目で50サイクル目の接続部の温度に対し+8℃である(尚、試験結果から分かるが、+8℃に該当しない結果であることから、表1では50サイクル目の温度は省略するものとする)。
【0045】
<実施例1>実施例1は、25サイクル目の接続部の温度が67.0℃、温度の上昇値が46.2℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が66.9℃、温度の上昇値が44.2℃であった。実施例1の試験結果は良好であると言える。
【0046】
<実施例2>実施例2は、25サイクル目の接続部の温度が69.4℃、温度の上昇値が48.6℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が68.8℃、温度の上昇値が46.1℃であった。実施例2の試験結果も良好であると言える。
【0047】
<実施例3>実施例3は、25サイクル目の接続部の温度が60.2℃、温度の上昇値が39.4℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が62.4℃、温度の上昇値が39.7℃であった。実施例3の試験結果も良好であると言える。
【0048】
<実施例4>実施例4は、25サイクル目の接続部の温度が59.8℃、温度の上昇値が39.0℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が61.2℃、温度の上昇値が38.5℃であった。実施例4の試験結果も良好であると言える。
【0049】
<実施例5>実施例5は、25サイクル目の接続部の温度が62.7℃、温度の上昇値が41.9℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が62.1℃、温度の上昇値が39.4℃であった。実施例5の試験結果も良好であると言える。
【0050】
<実施例6>実施例6は、25サイクル目の接続部の温度が65.4℃、温度の上昇値が44.6℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が61.8℃、温度の上昇値が39.1℃であった。実施例6の試験結果も良好であると言える。
【0051】
<実施例7>実施例7は、25サイクル目の接続部の温度が58.3℃、温度の上昇値が37.5℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が57.0℃、温度の上昇値が34.3℃であった。実施例7の試験結果も良好であると言える。
【0052】
<実施例8>実施例8は、25サイクル目の接続部の温度が63.1℃、温度の上昇値が42.3℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が62.8℃、温度の上昇値が40.1℃であった。実施例8の試験結果も良好であると言える。
【0053】
<実施例9>実施例9は、25サイクル目の接続部の温度が62.0℃、温度の上昇値が41.2℃であった。また、125サイクル目の接続部の温度が61.9℃、温度の上昇値が39.2℃であった。実施例9の試験結果も良好であると言える。
【0054】
以上、
図1、
図2、及び表1を参照しながら説明してきたように、VVF1によれば、導体4の構造としてアルミ単線6の周囲に銅クラッド7を設ける構造を採用することから、従来の銅導体の場合と比べても遜色のない電気的な接続を実現することができるという効果を奏する。
【0055】
また、VVF1によれば、導体4の構造としてアルミ単線6を含むことから、軽量化及びコストダウンを図ることができるという効果も奏する。VVF1は、アルミと銅のそれぞれの利点を生かした導体構造を採用することから、屋内配線において有用であると言える。
【0056】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。