特許第6252156号(P6252156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252156
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20171218BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   B41J2/14 501
   B41J2/16 503
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-258607(P2013-258607)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-112848(P2015-112848A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】高松 光
(72)【発明者】
【氏名】深谷 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】丸林 純
【審査官】 小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−066797(JP,A)
【文献】 特開2002−307687(JP,A)
【文献】 特開昭61−025853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり
前記第1の溝は、該第1の溝の縁部から前記圧力室の出口側の開口部の縁部までの最短距離が50μm以上であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1の溝は、前記圧力室の列方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1の溝は、前記圧力室の列間に対応する部位に、2本以上が前記圧力室の列に沿って延びるように設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり、
前記第1の溝は、前記圧力室の列間に対応する部位に、2本以上が前記圧力室の列に沿って延びるように設けられていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1の溝の溝幅をB、前記第1の溝の深さをC、前記ノズルプレートの厚みをDとしたとき、B>D−Cであることを特徴とする請求項3又は4記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
隣接する前記第1の溝間を連結する連結溝を有することを特徴とする請求項3、4又は5記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記第1の溝は、前記ノズルプレートの端部で該ノズルプレートの外部に連通していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記第1の溝は、テーパー状に形成された側壁面を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり、
前記第1の溝は、テーパー状に形成された側壁面を有していることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記接着剤に、粒径1μm〜3μmの粒子が混入されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記ヘッドチップは、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面にパリレン膜が被覆処理されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記ノズルプレートは樹脂製であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、ノズルが高密度になっても、接着剤のノズルへの流れ込みを抑制できると共に、ノズルプレートの接着面がヘッドチップから浮き上がることによる隙間の発生を抑制できるようにしたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体が吐出されるノズルを有するノズルプレートがヘッドチップの端面に接着剤を用いて接着されたインクジェットヘッドは、ノズルが高密度、多列になるに従って、ノズルプレートとヘッドチップとの接着時に、ノズルに接着剤が流れ込んでノズル詰りを起こしたり、ノズルプレートとヘッドチップとの間が密着しないで隙間が生じたりすることが問題となっている。
【0003】
ノズル詰りの問題は、ノズルが高密度になるに従ってヘッドチップに設けられる圧力室の密度が上がり、圧力室の開口幅が狭くなってきていることが影響している。また、圧力室の数の増加に伴ってヘッドチップサイズが大きくなってきており、接着剤を全体に均一に塗布することが難しくなって、部分的に塗布量が多くなる箇所が発生し易くなっていることも影響していると考えられる。
【0004】
一方、隙間が生じる問題は、ノズルプレートが接着されるヘッドチップの端面が凸凹になっていることが主な原因である。この凸凹は、ヘッドチップの端面に部分的な凸部が形成されることによって発生する。このような部分的な凸部は、ゴミ等の微小な異物の付着によっても発生するが、特にヘッドチップの表面にインクから電極部材を保護するためのパリレン膜が被覆処理されているものに多く見られる。一般にパリレン膜は、電極部材の表面を含むヘッドチップの表面に亘って被覆されるため、ノズルプレートと接着される端面にも形成されている。このようなパリレン膜は、パリレンの異常成長による1〜10μmの突起状の異物を生じさせる場合があることが知られており、この突起状の異物がノズルプレートと接着される端面に生じると、ノズルプレートをヘッドチップ表面から浮き上がらせ、ヘッドチップとの間に隙間を生じさせてしまう。
【0005】
ノズルプレートとヘッドチップとの間に生じた隙間は、ノズルプレートの端部からヘッドチップとの間に接着剤を注ぎ足して隙間を埋めることで解消することができ、さほど問題とはならない。しかし、多列のノズル列の列間に隙間が生じていると、ノズルプレートの端部から接着剤を注ぎ足しても、ノズル列を越える際に圧力室内やノズル内に流れ込んでしまい、ノズル列間の隙間まで接着剤を到達させることが極めて困難である。
【0006】
図15は、ノズル列間のヘッドチップの端面に凸部が発生しているインクジェットヘッドをノズルプレートの表面から見た状態を示している。図中、100は圧力室、200はノズル、300は凸部である。このようにヘッドチップの端面に凸部300が発生していると、ノズルプレートとヘッドチップとの間で凸部300の周囲に隙間400が形成されてしまう。隙間400には接着剤が毛管力によって流入できず、接着剤不足となってそのまま空隙となって残ってしまう。
【0007】
このような隙間400が図示するように隣接する圧力室300、300の両方に差しかかると、圧力室300、300同士をリーク(連通)させてしまうおそれがある。このようなリークが発生すると、圧力室300内のインクを安定吐出させることができず、吐出不良を招く原因となる。ノズル200が高密度になるほど、隣接する圧力室300、300の間隔が密になるため、このような隙間400によってリークが発生する問題は顕著となる。
【0008】
従来、ノズルプレートの接着面に、ノズルを取り囲むように接着剤逃げ溝を形成することによって、余分な接着剤がノズルに侵入することを防止するようにした技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−307687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1記載のように、ノズルプレートに接着剤逃げ溝を形成することで、余剰接着剤のノズル内への流れ込みを抑制することができる。しかし、本発明者が検討したところ、ノズルを取り囲むように接着剤逃げ溝を形成しても、ノズルの高密度化が進むにつれて十分に対応しきれなくなることがわかった。
【0011】
すなわち、ノズルの高密度化に伴って圧力室が高密度化し、ノズル列方向に隣り合うノズル間の間隔も極めて狭小となる。このため、ノズル列方向に隣り合うノズル間に溝を形成することは極めて困難である。
【0012】
また、単にノズルを取り囲むように接着剤逃げ溝を形成しても、ノズルプレートの浮き上がりによって発生した隙間が圧力室同士をリークさせてしまう問題を解消することはできない。
【0013】
そこで、本発明は、ノズルが高密度になっても接着剤のノズルへの流れ込みを抑制できると共に、ノズルプレートが接着されるヘッドチップの端面に生じた凸部によって、圧力室の列間に隙間が生じて圧力室同士をリークさせしてしまう問題を抑制できるインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
1.複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり
前記第1の溝は、該第1の溝の縁部から前記圧力室の出口側の開口部の縁部までの最短距離が50μm以上であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【0017】
2.前記第1の溝は、前記圧力室の列方向に複数に分割されていることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
【0018】
3.前記第1の溝は、前記圧力室の列間に対応する部位に、2本以上が前記圧力室の列に沿って延びるように設けられていることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
【0019】
4.複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり、
前記第1の溝は、前記圧力室の列間に対応する部位に、2本以上が前記圧力室の列に沿って延びるように設けられていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【0020】
5.前記第1の溝の溝幅をB、前記第1の溝の深さをC、前記ノズルプレートの厚みをDとしたとき、B>D−Cであることを特徴とする前記3又は4記載のインクジェットヘッド。
【0021】
6.隣接する前記第1の溝間を連結する連結溝を有することを特徴とする前記3、4又は5記載のインクジェットヘッド。
【0022】
7.前記第1の溝は、前記ノズルプレートの端部で該ノズルプレートの外部に連通していることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0023】
8.前記第1の溝は、テーパー状に形成された側壁面を有していることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0024】
9.複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、前記ヘッドチップの前記圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ヘッドチップとの接着面の前記圧力室の列間に対応する部位に、該圧力室の列に沿って形成された第1の溝を有し、
前記第1の溝の深さの値が、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面の粗さの値以上であり、
前記第1の溝は、テーパー状に形成された側壁面を有していることを特徴とするインクジェットヘッド。
【0025】
10.前記接着剤に、粒径1μm〜3μmの粒子が混入されていることを特徴とする前記1〜のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0026】
11.前記ヘッドチップは、前記ノズルプレートが接着された前記ヘッドチップの前記端面にパリレン膜が被覆処理されていることを特徴とする前記1〜10のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
12.前記ノズルプレートは樹脂製であることを特徴とする前記1〜11のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ノズルが高密度になっても接着剤のノズルへの流れ込みを抑制できると共に、ノズルプレートが接着されるヘッドチップの端面に生じた凸部によって、圧力室の列間に隙間が生じて圧力室同士をリークさせてしまう問題を抑制できるインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るインクジェットヘッドの第1の実施形態を示し、ノズルプレートとヘッドチップとの接着面で左右に展開して示す斜視図
図2図1に示すインクジェットヘッドを(ii)−(ii)線に沿って切断した際の切断端面を示す端面図
図3】ノズルプレートの部分背面図
図4】溝とチャネル間のリークを説明するノズルプレートの部分背面図
図5】ノズルプレートの背面図
図6】ノズルプレートの部分断面図
図7】(a)〜(c)はそれぞれ溝の断面形状を説明する図
図8】インクジェットヘッドの部分端面図
図9】本発明に係るインクジェットヘッドの第2の実施形態を示し、ノズルプレートとヘッドチップとの接着面で左右に展開して示す斜視図
図10図9に示すインクジェットヘッドを(x)−(x)線に沿って切断した際の切断端面を示す端面図
図11図10と同じ切断端面を示す端面図
図12】ノズルプレートの部分背面図
図13】ノズルプレートの背面図
図14】6列のノズル列を有するノズルプレートの背面図
図15】凸部によって隣接する圧力室間にリークが発生した状態を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの第1の実施形態を示し、ノズルプレートとヘッドチップとの接着面で左右に展開して示す斜視図、図2は、図1に示すインクジェットヘッドを (ii)−(ii)線に沿って切断した際の切断端面を示す端面図、図3図4は、ノズルプレートの部分背面図、図5は溝の他の態様を示すノズルプレートの背面図、図6はノズルプレートの部分断面図である。なお、図1図2において接着剤は図示省略している。
【0031】
図中、1はヘッドチップ、2はノズルプレートである。
【0032】
ヘッドチップ1は六面体形状を呈しており、圧力室であるチャネル11が複数並設されている。隣接するチャネル11、11間の隔壁は、少なくとも一部にPZT等の圧電素子を含んでおり、圧力付与手段として機能する駆動壁12となっている。1つの駆動壁12は、隣接するチャネル11、11で共用されている。チャネル11と駆動壁12は交互となるように並設され、1列のチャネル列を構成している。ヘッドチップ1には、このチャネル列が図中の上下方向に2列(第1列、第2列)に並設されている。
【0033】
なお、図3に示すように、ヘッドチップ1の各チャネル11の深さEは、150μm〜450μmとされ、また、第1列と第2列のチャネル列間の最短距離Fは、400μm〜1500μmとされている。
【0034】
各チャネル11は、ノズルプレート2が接着されるヘッドチップ1の端面1aに開口して出口側の開口部11aを形成している。他端は、端面1aと相反するヘッドチップ1の端面に開口して入口側の開口部(図示せず)を形成している。ヘッドチップ1の端面1aと相反する端面側にはインクマニホールド(図示せず)が設けられ、各チャネル11の入口側の開口部に共通にインクが供給されるようになっている。
【0035】
チャネル11内に臨んでいる駆動壁12の表面には、それぞれ駆動電極(図示せず)が形成されている。ヘッドチップ1の端面1aと相反する端面に設けられる配線基板(図示せず)上の配線を介して、駆動壁12を挟む一対の駆動電極に所定電圧の駆動信号が印加されると、駆動壁12はチャネル11の容積を膨張又は収縮させるようにせん断変形し、チャネル11内のインクに吐出のための圧力を付与するように動作する。
【0036】
ここでは、チャネル11内の駆動電極をインクから保護するために、表面にパリレン膜3が被覆形成されたヘッドチップ1を示している。パリレン膜3は、パラキシリレン及びその誘導体からなる樹脂被膜であり、固体のジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を蒸着源とする気相合成法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)により形成される。すなわち、ジパラキシリレンダイマーが気化、熱分解して発生したパラキシリレンラジカルが、ヘッドチップ1の表面に吸着して重合反応し、被膜を形成する。パリレン膜には、種々のパリレン膜があり、必要な性能等に応じて、各種のパリレン膜やそれら種々のパリレン膜を複数積層したような多層構成のパリレン膜等を適用することもできる。パリレン膜3の膜厚は、一般に1μm〜10μmとされ、ノズルプレート2が接着される前のヘッドチップ1の表面に被覆形成される。
【0037】
ノズルプレート2には、ヘッドチップ1の各チャネル11に対応するようにノズル21が形成されている。すなわち、ノズルプレート2も2列のノズル列を有している。ノズルプレート2はヘッドチップ1の端面1aに接着剤によって接着されている。なお、本実施形態ではヘッドチップ1にパリレン膜3が被覆形成されているため、ノズルプレート2が接着されたヘッドチップ1の端面1aとは、該端面1aに成膜されているパリレン膜3の表面のことを指す。
【0038】
ノズルプレート2の厚みD(図6参照)は、一般に20μm〜300μmとされる。
【0039】
ノズルプレート2の背面であるヘッドチップ1との接着面2aには、ヘッドチップ1の端面1aに配列される2つのチャネル列(第1列、第2列)の間に対応する部位に、1本の溝(第1の溝)22が形成されている。
【0040】
この溝22は、ヘッドチップ1とノズルプレート2との間に塗布された接着剤の余剰分を受け入れるいわゆるグルーガードとして機能することができる。溝22は、各チャネル列のチャネル11と重ならないように、所定幅、所定深さでチャネル列方向(図3の左右方向)に沿って直線状に延びるように形成されている。
【0041】
ノズルプレート2の溝22の深さの値C(図6参照)は、このノズルプレート2が接着されたヘッドチップ1の端面1aの粗さYpの値以上である。ここで、端面1aの粗さYpの値とは、ヘッドチップ1のチャネル11の開口部11aを除く端面1a全面の表面粗さ(谷部からの山部の高さ)を3次元測定し、その山部の平均高さから最も高い山頂までの高さを測定した値である。測定には、例えば形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス:VK−X100)を用いることができる。
【0042】
このノズルプレート2との接着面であるヘッドチップ1の端面1aに凸部3aが生じていると、端面1aの粗さYpの値は大きくなる。このような凸部3aが2つのチャネル列(第1列、第2列)の間に発生し、ノズルプレート2がヘッドチップ1から部分的に浮き上がって隙間が生じると、ノズルプレート2の端部から接着剤を注ぎ足しても隙間を埋めることが困難となって、従来では隙間が残存し易いものであった。しかし、本発明によれば、2つのチャネル列の間の部位に配置される溝22の深さの値Cが、端面1aの粗さYpの値以上であることにより、図2に示すように、この部位に発生した凸部3aを溝22内に収容することができる。これにより、この凸部3aによってノズルプレート2が部分的に浮き上がることはなく、ノズルプレート2の浮き上がりによる隙間の発生を抑制できる。
【0043】
通常、パリレン膜3を成膜した際のヘッドチップ1の端面1aの粗さYpの値は10μm以上になることがほとんどないため、溝22の深さの値Cを10μm以上ノズルプレート2の厚みD未満となるように形成しておけば、溝22が配置される部位に発生した凸部3aを溝22内に完全に収容することができる。
【0044】
溝22は、いずれのチャネル列のチャネル11の開口部11aにも重なることはなく、該開口部11aの縁部11bから距離をおいて配置されることにより、図2に示すように溝22とチャネル列との間に接着領域S1、S1が形成される。このため、溝22がチャネル11とリークしてしまうことはない。なお、図3中にチャネル11が配置される部位を破線で示した。
【0045】
この接着領域S1、S1は、図3に示すように、溝22の開口側(接着面2a側)の縁部22aからチャネル11の開口部11aの縁部11bまでの最短距離Aだけの幅を有している。溝22は、この最短距離Aが50μm以上となるように配置されることが好ましい。最短距離Aが50μm未満となって溝22とチャネル11とが近接すると、この溝22とチャネル11との間で毛管力による接着剤の流動が起きにくくなり、図4に示すように、溝22とチャネル11との間で接着剤がない空気部Xが生じ易くなって、溝22とチャネル11との間でリークが発生してしまうおそれがある。しかし、最短距離Aを50μm以上とすることにより、接着領域S1、S1を、溝22とチャネル11との間を接着剤によって封止するのに十分な広さとすることができる。このため、接着領域不足に起因するチャネル11の封止不良が発生するおそれはない。
【0046】
溝22は余剰接着剤を受け入れるグルーガードとして機能するため、ノズル21への接着剤の流れ込みを抑制することができる。溝22は、ヘッドチップ1の2つのチャネル列の間に配置されるため、チャネル11が高密度になって同一チャネル列内で隣り合うチャネル11、11間の間隔が密になっても、余剰接着剤を十分に受け入れることができるだけの容積を持つ溝22を形成することができる。
【0047】
溝22の開口側の溝幅B(図3図6参照)は可及的に大きくすることが好ましい。好ましくは、上記最短距離Aを50μm以上確保し且つ溝幅Bを可及的に大きく形成することである。溝22を広幅にすることができ、それだけ大量の余剰接着剤を受け入れることができると同時に、凸部3aを収容し得る領域も広くとることができるため、凸部3aによるノズルプレート2の浮き上がりを抑制する効果を高めることができる。
【0048】
溝22は、チャネル列方向に沿って直線状に延び、少なくともノズル列の一方端部のノズル21から他方端部のノズル21に亘る長さで形成されればよいが、図1図3に示すように、溝22の端部22bをノズルプレート2の端部で外部に連通させることが好ましい。これにより、溝22の端部22bはノズルプレート2のノズル列方向と交差する端面2bに開口し、溝22内が外気と連通するため、溝22内の空気を端部22bから逃がすことができるようになり、余剰接着剤を流入させ易くすることができる。
【0049】
ここでは溝22の両方の端部22b、22bをそれぞれノズルプレート2の端面2bから外部に連通させているが、溝22の少なくともいずれか一方の端部22bがノズルプレート2の端面2bから外部に連通していればよい。
【0050】
また、溝22は、チャネル列方向に沿って連続した1本の溝とするものに限らず、図5に示すように、チャネル列方向に複数の溝22、22・・・に分割されていてもよい。図5はノズルプレート2を接着面2a側から見た背面図であり、複数の溝22、22・・・、及び、溝23の部位を斜線で示している。また、チャネル11が配置される部位を破線で示した。
【0051】
複数の溝22、22・・・は、2つのチャネル列の間に、該チャネル列方向に沿って配列されている。隣接する溝22、22の間には、該溝22、22・・・を境にして図中上下に分断される接着面2a、2aを連結する連結部221、221・・・がそれぞれ形成されている。この連結部221、221・・・の表面もヘッドチップ1との接着面である。連結部221、221・・・の幅は、溝22に比べて十分に細幅に形成されている。
【0052】
このノズルプレート2によれば、上記効果に加え、複数の連結部221、221・・・が形成されているため、図1図3に示したものに比べて、溝22によってノズルプレート2が過度に屈撓してしまうことを防止することができ、取り扱い性が向上する効果が得られる。また、複数の連結部221、221・・・の表面もヘッドチップ1との接着面となるため、ノズルプレート2の接着強度も向上する。
【0053】
本発明において、溝22は、図6に示すように、開口側(接着面2a側)の縁部22a、22aから溝22の底面22dに向かうに従って溝幅が狭くなるテーパー状に形成された側壁面22c、22cを有していることが好ましい。このようにテーパー状の側壁面22c、22cを有することにより、縁部22aを挟んで接着面2aと側壁面22c、22cとがなす角度θが90°未満の比較的鈍角になるため、ヘッドチップ1とノズルプレート2との間の余剰接着剤を縁部22a、22aから溝22内に流入させ易くでき、余剰接着剤の受け入れ効果をより高めることができる。
【0054】
この角度θは、特に限定されるものではないが、110°〜150°とすることが好ましい。
【0055】
溝22内のテーパー状の側壁面22cは、縁部22aを挟んで接着面2aと隣接する部分にあればよい。従って、図7(a)に示すように、テーパー状の側壁面22c、22cよりも更に底面22d側は、必ずしもテーパー状に形成されていなくてもよい。
【0056】
また、余剰接着剤の受け入れ効果を高める観点からは、テーパー状の側壁面22cは溝22の両側壁面に形成されることが好ましいが、図7(b)に示すように、溝22のいずれか一方の側壁面のみにテーパー状の側壁面22cが形成されているものであってもよい。
【0057】
更に、テーパー状の側壁面22cよりも底面22d側は、図7(c)に示すように、テーパー部分よりも溝幅が拡大した形状となるように形成してもよい。
【0058】
なお、図1図3図5に示したように、ノズルプレート2には溝22の他に、各チャネル列の外側の部位にもそれぞれ1本ずつの溝(第2の溝)23、23が形成されている。この溝23も、ヘッドチップ1とノズルプレート2との間に塗布された接着剤の余剰分を受け入れるいわゆるグルーガードとして機能することができ、本発明において好ましい態様である。溝23は、チャネル11の開口部11aに重なることはなく、該開口部11aの縁部11bから距離をおいて配置され、所定幅、所定深さでチャネル列方向に沿って直線状に延びるように形成されている。
【0059】
溝23の深さは、溝22と同様に凸部を受け入れることができるようにするため、溝22の深さと同一とすることが好ましく、また、溝23の開口側の縁部23aからヘッドチップ1のチャネル11の開口部11aの縁部11bまでの最短距離A’(図3参照)も、この間に充分な接着領域S2、S2を確保してチャネル11の周囲の封止を確実にできるようにする観点から、50μm以上であることが好ましい。
【0060】
この溝23も、余剰接着剤の受け入れを容易にするために、その両方の端部23b、23bのうちの少なくともいずれか一方がノズルプレート2の端面2bに開口し、外部に連通していることが好ましく、また、図6図7(a)〜(c)に示した溝22と同様に、余剰接着剤を流入し易くするためにテーパー状の側壁面を有していることも好ましい。
【0061】
また、溝23は、図8に示すように、ノズルプレート2のノズル列方向に沿う端面2cにかけて切り欠くように形成することもできる。これにより、溝23の領域を広くとることができる。ノズルプレート2の端面2c側の端部は薄肉となるため、図示するように撓みながらヘッドチップ1の端面1aに接着される。この場合、溝23よりもノズル21側には接着領域S2が確保されるため、チャネル11の周囲の封止に影響はない。
【0062】
ノズルプレート材料は、適宜公知の材料を用いることができるが、溝加工が容易である点で樹脂製であることが好ましい。樹脂としては、一般にポリイミドを用いることができる。
【0063】
ノズルプレート2に溝加工する方法は特に問わず、レーザー加工、エッチング加工等の適宜公知の方法を採用することができる。
【0064】
ヘッドチップ1とノズルプレート2との接着に用いられる接着剤は特に問わず、熱硬化型接着剤、常温硬化型接着剤のいずれを用いることもできる。接着剤中には、ヘッドチップ1の端面1aの微小な凸凹を吸収できるようにするために、粒径1μm〜3μmの粒子が混入されていてもよい。粒子は金属粒子、樹脂粒子のいずれでもよい。なお、粒径は体積平均粒径で定義される。
【0065】
(第2の実施形態)
図9は、本発明に係るインクジェットヘッドの第2の実施形態を示し、ノズルプレートとヘッドチップとの接着面で左右に展開して示す斜視図、図10は、図9に示すインクジェットヘッドを (x)−(x)線に沿って切断した際の切断端面を示す端面図、図11は、図10と同じ切断端面を示す端面図、図12は、ノズルプレートの部分背面図である。図1図2と同一符号の部位は同一構成であるため、これらの説明は図1図2の説明部分を援用し、ここでは省略する。なお、図9図11において接着剤は図示省略している。
【0066】
このノズルプレート2は、ヘッドチップ1との接着面2aに設けられる第1の溝が2本の並列する溝22、22によって形成されている点で第1の実施形態とは相違している。
【0067】
これら2本の溝22、22も、ヘッドチップ1とノズルプレート2との間に塗布された接着剤の余剰分を受け入れるいわゆるグルーガードとして機能することができ、所定幅、所定深さでチャネル列方向に沿って直線状に延び、且つ、平行に形成されている。いずれの溝22、22も、チャネル列のチャネル11の開口部11aにも重なることはなく、該開口部11aの縁部11bから距離をおいて配置されることにより、チャネル列との間に接着領域S1、S1を形成している。各溝22、22の深さCの値も、ノズルプレート2が接着されるヘッドチップ1の端面1aの粗さYpの値以上である。
【0068】
このノズルプレート2では、凸部3aが溝22、22内に位置している場合、図10に示すように、凸部3aを溝22内に受け入れることができる。このため、図2の場合と同様に、この凸部3aによってノズルプレート2が浮き上がることを防止でき、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、万一、ノズルプレート2の溝22、22間に凸部3aが位置している場合でも、以下に説明するように、ノズル21と溝22とがリークしてしまう問題はない。
【0070】
すなわち、ノズルプレート2は、溝22、22に沿って直線状の薄肉部2e、2eが形成されるため、この薄肉部2e、2eに沿って容易に撓むことができる。このため、溝22、22間に凸部3aが位置している場合、図11に示すように、凸部3aと接触する溝22、22間のノズルプレート部分2dのみが薄肉部2e、2eに沿って撓み、ヘッドチップ1から浮き上がるように持ち上げられる。しかし、各溝22、22とチャネル列との間の接着領域S1、S1はノズルプレート部分2dの浮き上がりに全く影響を受けることなく、ヘッドチップ1に密着することができる。従って、溝22とチャネル11がリークしてしまう問題はない。
【0071】
このようにチャネル列間に複数本の溝22を設けることにより、広幅の溝を1本だけ設ける場合に比べてノズルプレート2の強度低下を抑えることができる。また、薄肉部2eも細幅となるため、広幅の溝を1本だけ設ける場合に比べてノズルプレート2の取り扱い性も向上する。しかも、広幅の溝を1本だけ設ける場合に比べて、チャネル列間でのノズルプレート2の接着面積を大きくできるため、接着強度の低下を抑えることができる。更に、広幅の溝を形成するよりも溝加工が容易となる。
【0072】
図12に示すように、溝22の開口側(接着面2a側)の外側(チャネル列側)の縁部22aからチャネル11の開口部11aの縁部11bまでの最短距離Aも、第1の実施形態と同様の理由から50μm以上であることが好ましい。なお、図12中にチャネル11が配置される部位を破線で示した。
【0073】
この溝22、22も、余剰接着剤の受け入れを容易にするために、その端部22b、22bの少なくともいずれか一方がノズルプレート2の端面2bに開口し、外部に連通していることが好ましい。
【0074】
また、図13に示すように、並列する溝22、22同士を連結溝222によって連結してもよい。図13はノズルプレート2を接着面2a側から見た背面図であり、溝22、22、連結溝222、及び、溝23の部位を斜線で示している。また、チャネル11が配置される部位を破線で示した。
【0075】
連結溝222は、2本の溝22、22間を繋げるように、溝22と同一幅、同一深さで、チャネル列方向に間隔をおいて複数形成されている。これにより、隣接する連結溝222、222間に、溝によって囲まれた独立した島状のノズルプレート部分2dが形成されている。
【0076】
このノズルプレート2によれば、上記効果に加え、2本の溝22、22間のノズルプレート部分2dが島状に形成されているため、溝22、22間で凸部3aと接触しても、該凸部3aと接触している島状のノズルプレート部分2dのみがヘッドチップ1から浮き上がるだけで済み、他の島状のノズルプレート部分2dはヘッドチップ1に密着する。従って、ノズルプレート2の接着強度を向上させることができる。
【0077】
また、この溝22、22、連結溝222も、第1の実施形態に示した溝22の側壁面22cと同様のテーパー状の側壁面を有していることも好ましい。その形状は、図6図7に示した形状と同様のものを適用することができる。
【0078】
溝22、22は、図示する2本に限らず、チャネル列間のスペースに応じて、3本以上となるように形成してもよい。それだけ余剰接着剤の受け入れ量を多くできる。
【0079】
このようにノズルプレート2に複数本の溝22を形成する場合、該溝22の溝幅をB、ノズルプレート2の厚みをD、溝22の深さをCとしたとき、B>D−Cの条件を満たすことが好ましい。溝22の溝幅に対して薄肉部2eが十分に薄くなるため、溝22、22間のノズルプレート部分2dを薄肉部2e、2eの部位でより撓み易くすることができ、溝22、22とチャネル列との間の封止をより確実にすることができる。
【0080】
(その他の実施形態)
以上説明したインクジェットヘッドは、ヘッドチップ1の表面にパリレン膜3を被覆形成したが、本発明においてパリレン膜3は必ずしも設けられなくてもよい。パリレン膜3を被覆しない場合でも、端面1aにゴミ等の異物が付着したり、ヘッドチップ1を切り出した際の切断面が粗面となることによって、端面1aに上記凸部3aと同様の凸部が発生してノズルプレート2が浮き上がるおそれがあり、本発明を適用することによって上記同様の効果を得ることができる。
【0081】
また、以上説明したインクジェットヘッドは2列のチャネル列(2列のノズル列)を有するものを例示したが、本発明に係るインクジェットヘッドは3列以上のチャネル列(ノズル列)を有するものであってもよい。従って、図14に示すように、例えばノズル列が6列となるインクジェットヘッドとすることもできる。図14では、各ノズル列間に第1の実施形態に示した溝22をそれぞれ形成したが、第2の実施形態に示した複数の溝24を形成してもよいことはもちろんである。
【0082】
以上の説明では、ヘッドチップ1の全てのチャネル11がインクを吐出する駆動チャネルであるものを例示したが、1列のチャネル列は、インクを吐出する駆動チャネルとインクを吐出しないダミーチャネルとが交互に配置されるものであってもよい。
【0083】
更に、以上の説明では、隣り合うチャネル11、11間の駆動壁12を変形させてインクを吐出させるようにしたヘッドチップ1を有するものを例示したが、本発明は、複数の圧力室が配列された圧力室の列が複数並設されたヘッドチップと、このヘッドチップの圧力室の出口側の開口部が配置された端面に、接着剤によって接着されたノズルプレートとを有するインクジェットヘッドであればよい。例えば、圧力室の一壁面が振動板によって構成され、該振動板を圧電材料によって振動させてインクを吐出するようにしたヘッドチップを有するものであってもよく、また、圧力室内にヒーターを備え、このヒーターのよって圧力室内のインクに気泡を発生させ、この気泡の破裂作用によってインクを吐出するようにしたヘッドチップを有するものであってもよい。
【実施例】
【0084】
以下に示す仕様のヘッドチップ及びノズルプレートを用意した。ヘッドチップは、図1と同様の六面体形状であり、チャネルと駆動壁とを交互に配置して1列のチャネル列を形成し、駆動壁をせん断変形させてチャネル内のインクをノズルから吐出させるヘッドチップである。ノズルプレートはポリイミド製とし、各チャネルに対応する位置にそれぞれノズルを形成した。
【0085】
<ヘッドチップ>
チャネル幅:60μm
チャネル深さE:200μm
L長さ(チャネルの吐出方向の長さ):1.5mm
チャネルピッチ:127μm
チャネル列数:2列
チャネル列間の距離F:928μm
チャネル数/列:592個
【0086】
<ノズルプレート>
厚みD:75μm
ノズルの出口径:22μm
【0087】
(実施例1、2及び比較例1、2)
表1に示す実施例1、2及び比較例1、2について、ヘッドチップの接着面に同一のエポキシ系接着剤を同一厚みとなるように塗布した後、ノズルプレートを接着したインクジェットヘッドをそれぞれ10個ずつ得た。
【0088】
なお、各ヘッドチップの表面には、ノズルプレートを接着する前にパリレン膜を厚さ10μmで成膜した。パリレン膜の成膜後、各ヘッドチップについて、ノズルプレートとの接着面の全面の表面粗さを、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス:VK−X100)を用いて3次元測定し、該接着面の粗さYpを求めたところ、全てのヘッドチップで6μm〜10μmの範囲に収まっていた。
【0089】
比較例1のインクジェットヘッド以外、ノズルプレートにはチャネル列間に対向する部位に、図1と同様に1本のみの溝をそれぞれ形成した。溝の仕様を表1に示す。
【0090】
なお、ノズルプレートのディメンジョン(NPディメンジョン)は、A:溝の縁部からチャネルの出口側の開口部の縁部までの最短距離、B:溝幅、C:溝の深さ、D:ノズルプレートの厚みである(いずれも単位:μm)。
【0091】
実施例1、2及び比較例1、2の各インクジェットヘッドについて、接着剤によるノズル詰りと、異物(凸部)によるチャネル同士のリークとを検査し、不良発生率を1ヘッドチップ当たりの不良ノズル数によって評価した。その結果を表1に示す。
【0092】
ノズル詰りは、各インクジェットヘッドのノズルを顕微鏡で目視検査して判断した。
【0093】
また、異物によるリークは、顕微鏡でノズルプレートとヘッドチップとの間の隙間(気泡)の有無を目視検査し、隙間有りの場合に隙間がチャネル同士を連通させているか否かを判別し、連通させている場合にリーク有りと判断した。
【表1】
【0094】
表1から、溝を全く形成しない比較例1に対し、溝を形成した実施例1、2では、接着剤のノズルへの流れ込みによるノズル詰りの発生は減少した。
【0095】
また、溝を全く形成しない比較例1及び深さCが粗さYp未満となる溝を形成した比較例2に対し、深さが粗さYp以上となる溝を形成した実施例1、2では、いずれも異物によるリークの不良発生率が低下しており、本発明による効果が実証された。
【0096】
(実施例2〜6)
上記した実施例2の他に、この実施例2におけるNPディメンジョン中のAのみを表2に示すように変化させた実施例3〜6のインクジェットヘッドを、それぞれ実施例2と同様に10個ずつ得た。
【0097】
なお、実施例3〜6の各ヘッドチップの表面にも、ノズルプレートを接着する前にパリレン膜を厚さ10μmで成膜した。パリレン膜の成膜後、各ヘッドチップについて、ノズルプレートとの接着面の全面の表面粗さを、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス:VK−X100)を用いて3次元測定し、該接着面の粗さYpを求めたところ、全てのヘッドチップで6μm〜10μmの範囲に収まっていた。
【0098】
実施例2〜6において、上記同様にノズル詰りと異物によるリークに加え、ノズルプレートに形成された溝とチャネル間のリークを検査し、同様に不良発生率を1ヘッドチップ当たりの不良ノズル数によって評価した。その結果を表2に示す。
【0099】
溝とチャネル間のリークは、顕微鏡で溝とチャネルとの間の気泡の有無を目視検査し、気泡有りの場合に気泡が溝とチャネルとを連通させているか否かを判別し、連通させている場合にリーク有りと判断した。
【表2】
【0100】
表2から、実施例3〜6も、ノズル詰りの発生及び異物によるリークの不良発生率は低くなっているが、A (溝の縁部からチャネルの出口側の開口部の縁部までの最短距離)を50μm以上にした実施例4〜6では、溝とチャネル間のリークの発生は見られなかった。
【0101】
(実施例7〜12)
表3に示す実施例7〜12について、ヘッドチップの接着面に同一のエポキシ系接着剤を同一厚みとなるように塗布した後、ノズルプレートを接着したインクジェットヘッドをそれぞれ10個ずつ得た。ノズルプレートにはチャネル列間に対向する部位に、図9と同様に平行な2本の溝をそれぞれ形成した。溝の仕様を表3に示す。
【0102】
なお、各ヘッドチップの表面にも、ノズルプレートを接着する前にパリレン膜を厚さ10μmで成膜した。パリレン膜の成膜後、各ヘッドチップについて、ノズルプレートとの接着面の全面の表面粗さを、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス:VK−X100)を用いて3次元測定し、該接着面の粗さYpを求めたところ、全てのヘッドチップで6μm〜10μmの範囲に収まっていた。
【0103】
実施例7〜12の各インクジェットヘッドについて、上記と同様にしてノズル詰りと、異物によるリークと、溝とチャネル間のリークとを検査し、不良発生率を1ヘッドチップ当たりの不良ノズル数によって評価した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3から、実施例7〜12も、ノズル詰り及び異物によるリークの不良発生率は低くなっているが、B+C−D>0を満たす実施例10〜12では、これを満たさない実施例7〜9に比較して、異物によるリークの不良発生率がより低下した。
【0106】
また、実施例7〜12のいずれも、A(溝の縁部からチャネルの出口側の開口部の縁部までの最短距離) が50μm以上であることにより、溝とチャネル間のリークの発生は見られなかった。
【符号の説明】
【0107】
1:ヘッドチップ
1a:端面
11:チャネル(圧力室)
11a:出口側の開口部
11b:縁部
12:駆動壁
2:ノズルプレート
2a:接着面
2b、2c:端面
2d:ノズルプレート部分
2e:薄肉部
21:ノズル
22:溝(第1の溝)
221:連結部
222:連結溝
22a:縁部
22b:端部
22c:側壁面
22d:底面
23:溝(第2の溝)
23a:縁部
3:パリレン膜
3a:凸部
S1、S2:接着領域
X:空気部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15