(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252176
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】ガス分析計
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20171218BHJP
【FI】
G01N21/3504
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-444(P2014-444)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-129653(P2015-129653A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】東 亮一
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 幸造
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和裕
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0002234(US,A1)
【文献】
特表2010−513875(JP,A)
【文献】
特表2005−501233(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0241622(US,A1)
【文献】
特開2000−275173(JP,A)
【文献】
特開2010−243269(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0084180(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01J 3/00− 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティリングダウン分光法をもとにサンプルガス中の異なる特定の複数種類のガス濃度を同時に測定するガス分析計であって、
前記サンプルガスを流通するガスセルと、
前記ガスセル内で前記異なる特定の複数種類のガスの吸収が観測できるように、光電場が共鳴して存在するように設けられた複数の光共振器と、
前記異なる特定の複数種類のガスの吸収に共鳴する波長でそれぞれ発光する複数のレーザ素子と、
前記複数のレーザ素子の発光波長に対してそれぞれ感度を有し、前記異なる特定の複数種類のガスの吸収を検出する複数の光検出器と、
を備え、
前記複数の光共振器のそれぞれは、前記複数のレーザ素子のそれぞれの発光波長帯域において高反射率を有する複数枚のミラーからなり、前記複数のレーザ素子からのレーザ光がそれぞれ結合されるように配置されることを特徴とするガス分析計。
【請求項2】
各光共振器を構成する前記複数枚のミラーのうちの少なくとも1枚のミラーは、圧電素子を介して前記ガスセルに接続され、前記圧電素子への電圧印加によって前記複数枚のミラーが形成する光共振器の共振器長を可変設定することを特徴とする請求項1に記載のガス分析計。
【請求項3】
各共振器を構成する前記複数枚のミラーは、ガスセルの壁面の一部を形成し、前記ガスセルの内部ガスと外部ガスとを隔絶することを特徴とする請求項1に記載のガス分析計。
【請求項4】
前記異なる特定の複数種類のガスは、炭素12同位体のメタンガスおよび炭素13同位体のメタンガスであり、
炭素12同位体のメタンガスに対する分析波長は、1.6μm帯であり、
炭素13同位体のメタンガスに対する分析波長は、3.2μm帯であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のガス分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同一のサンプルガス中に含まれる異なる複数種類のガス成分を同時、かつ、高感度に検出することができるガス分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガス分析計としては、例えば、特許文献1に記載された水分分析器がある。この水分分析器は、天然ガス中の水分を検出するものであり、天然ガスを封入し、案内する吸収セルと、吸収セル内の天然ガスの圧力を減少させるように構成された圧力制御装置と、吸収セル内の天然ガスを通って光を透過するように構成された発光装置と、天然ガスを通って透過され、吸収セルを出る光の強度を検出するように構成された光検出器とを備える。そして、この水分分析器は、キャビティリングダウン分光法を含む各種吸収分光法あるいは蛍光分光法により微量の水分を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−40937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたものは、水分の検出波長をターゲットとした1組のキャビティに1波長レーザ光を共振器に結合する構成であるため、水分に加えて他の種類のガスを検出することは難しい。すなわち、特許文献1に記載されたものでは、異なる複数種類のガスを検出することは困難であるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、同一のサンプルガス中に含まれる異なる複数種類のガス成分を同時、かつ、高感度に検出することができるガス分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるガス分析計は、キャビティリングダウン分光法をもとにサンプルガス中の異なる特定の複数種類のガス濃度を同時に測定するガス分析計であって、前記サンプルガスを流通するガスセルと、前記ガスセル内で前記異なる特定の複数種類のガスの吸収が観測できるように、光電場が共鳴して存在するように設けられた複数の光共振器と、前記異なる特定の複数種類のガスの吸収に共鳴する波長でそれぞれ発光する複数のレーザ素子と、前記複数のレーザ素子の発光波長に対してそれぞれ感度を有し、前記異なる特定の複数種類のガスの吸収を検出する複数の光検出器と、を備え、前記複数の光共振器のそれぞれは、前記複数のレーザ素子のそれぞれの発光波長帯域において高反射率を有する複数枚のミラーからなり、前記複数のレーザ素子からのレーザ光がそれぞれ結合されるように配置されることを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかるガス分析計は、上記の発明において、各光共振器を構成する前記複数枚のミラーのうちの少なくとも1枚のミラーは、圧電素子を介して前記ガスセルに接続され、前記圧電素子への電圧印加によって前記複数枚のミラーが形成する光共振器の共振器長を可変設定することを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかるガス分析計は、上記の発明において、各共振器を構成する前記複数枚のミラーは、ガスセルの壁面の一部を形成し、前記ガスセルの内部ガスと外部ガスとを隔絶することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるガス分析計は、上記の発明において、前記異なる特定の複数種類のガスは、炭素12同位体のメタンガスおよび炭素13同位体のメタンガスであり、炭素12同位体のメタンガスに対する分析波長は、1.6μm帯であり、炭素13同位体のメタンガスに対する分析波長は、3.2μm帯であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ガスセル内で異なる特定の複数種類のガスの吸収が観測できるように、光電場が共鳴して存在するように複数の光共振器が設けられるので、各光共振器を用いて、同一のサンプルガス中に含まれる異なる複数種類のガス成分を同時、かつ、高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、この発明の実施の形態1であるガス分析計の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、この発明の実施の形態2であるガス分析計の全体構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、この発明の実施例であるガス分析計の全体構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、波長1.6μm帯でのメタンガス
12CH
4の吸収線とメタンガス
13CH
4の吸収線における検出感度を示す図である。
【
図5】
図5は、波長1.6μm帯と波長3.2μm帯でのメタンガスの吸収強度の違いを示す図である。
【
図6】
図6は、メタンガス
12CH
4を波長1.6μm帯の吸収線で測定し、メタンガス
13CH
4を波長3.2μm帯の吸収線で測定した場合における検出感度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1であるガス分析計1の全体構成を示す模式図である。ガス分析計1は、ガスセル2を有する。ガス濃度測定対象の複数のガス成分G1,G2を含むサンプルガスは、ガスセル2の一端側部に設けられたサンプルガス入口2aからガスセル2に流入し、ガスセル2の他端側部に設けられたサンプルガス出口2bから流出する。なお、ガスセル2には、ガスセル2内のガス温度を測定する温度計3およびガスセル2内のガス圧力を測定する圧力計4が設けられる。
【0014】
ミラーM1〜M6は、ガスセル2の壁面の一部として形成され、ガスセル2内の内部ガスとガスセル2外の外部ガスとを隔絶するように設けられる。ミラーM1〜M3およびミラーM4〜M6は、キャビティリングダウン分光法による複数種類のガス濃度の同時測定に用いられる三角形状の進行波型光共振器である光共振器C1,C2をそれぞれ形成する。ミラーM1,M2はガスセル2の一端両側に設けられ、ミラーM3はガスセル2の他端に設けられる。また、ミラーM4,M5はガスセル2の他端両側に設けられ、ミラーM6は、ガスセル2の一端に設けられる。
【0015】
レーザ素子11およびレーザ素子12は、それぞれガス成分G1,G2の特定の吸収線に共鳴するような波長λ1,λ2でそれぞれ発光する。レーザ素子11から発光されたレーザ光は、ミラーM1を介して光共振器C1で共鳴する。そして、光共振器C1を構成するミラーM2を介して一部のレーザ光が透過して光検出器21に入力される。光検出器21は、光共振器C1から透過した波長λ1の光強度を検出する。
【0016】
一方、レーザ素子12から発光されたレーザ光は、ミラーM4を介して光共振器C2で共鳴する。そして、光共振器C2を構成するミラーM5を介して一部のレーザ光が透過して光検出器22に入力される。光検出器22は、光共振器C2から透過した波長λ2の光強度を検出する。
【0017】
なお、ミラーM1〜M3,M4〜M6は、それぞれ波長λ1,λ2を含む波長帯域で高い反射率を有する。また、光共振器C1,C2のミラーM3,M6は、凹面鏡であり、安定共振条件を満足させるようにしている。このため、他のミラーM1,M2,M4,M5は、必ずしも凹面鏡とする必要はなく、平面鏡でもよい。
【0018】
なお、レーザ素子11,12は、単一波長で発光する波長可変レーザ素子を適用することができる。たとえば、DFBレーザ、DBRレーザ、あるいはVCSELを用いることができる。また、各レーザ素子11,12は、図示しない電流制御手段や温度制御手段によって電流と温度とが制御され、それぞれガス成分G1,G2の特定の吸収線近傍の波長に制御される。
【0019】
上述したガス分析計1を用いて、サンプルガスに含まれる特定のガス成分G1,G2のガス濃度が、キャビティリングダウン分光法によって測定される。キャビティリングダウン分光法では、光共振器に入力された光パルスのエネルギーは、リングダウン現象により特定の減衰時間で減衰しながら光検出器で捕えられる。この減衰時間をリングダウン時間と呼ぶ。リングダウン時間は、ガスセル2内のガス成分が光を吸収すれば短くなり、光を吸収しなければ長くなる。すなわち、リングダウン時間の長短によって測定対象のガス成分の濃度を測定することができる。このリングダウン時間は、光の強度に影響を受けないため、精度の高い濃度測定を行うことができる。
【0020】
この実施の形態1では、同一のガスセル2内で、キャビティリングダウン分光法をもとにサンプルガス中の異なる特定の複数種類のガス濃度を同時に測定することができるため、特定の複数種類のガス濃度を異なるガスセルで測定する場合に生じうる異なるガスセル中のガス温度やガス圧力の違いを排除することができる。このため、キャビティリングダウン分光法による測定精度の向上に加えて、同時測定による測定精度の向上を図ることができる。
【0021】
(実施の形態2)
つぎに、この発明の実施の形態2について説明する。
図2は、この発明の実施の形態2であるガス分析計1aの全体構成を示す模式図である。この実施の形態2では、実施の形態1のミラーM3,M6に対応するミラーM3a,M6aをそれぞれ圧電素子31,32を介してガスセル2に接続される。具体的に、ミラーM3a,M6aの裏面に圧電素子31,32が取り付けられる。そして、ミラーM3a,M6aは、ガスセル2の内部に設けられる。
【0022】
圧電素子31,32は、印加電圧によってその長さが可変となる。すなわち、圧電素子31,32に対する印加電圧を変化させることによって、ミラーM3a,M6aをガスセル2の軸方向に移動させることができる。この結果、光共振器C1,C2の共振器長を制御することができる。
【0023】
キャビティリングダウン分光法では、レーザ波長と、光共振器の共振器長とが共鳴条件を満足する必要がある。このため、レーザ素子11,12のレーザ波長と共振器長との一方、あるいは双方を制御する必要があるが、圧電素子31,32は、共振器長を制御するために用いられる。
【0024】
(実施例)
つぎに、実施の形態1に対応する実施例について説明する。この実施例では、異なる特定の複数種類のガス成分として、炭素12同位体のメタンガス
12CH
4と炭素13同位体のメタンガス
13CH
4との2種類のガス成分のガス濃度を測定する。
【0025】
図3は、この発明の実施例であるガス分析計1bの全体構成を示す模式図である。このガス分析計1bは、ガス分析計1と同じ構成である。ただし、具体的なレーザ素子11として波長3.2μmDFBレーザを用いる。波長3.2μmDFBレーザは、メタンガス
13CH
4を分析するために設けられ、メタンガス
13CH
4の吸収線に合わせて発光する。ミラーM1〜M3は、この吸収線の波長で共鳴するように高反射率で制作された共振器C1を構成している。この共振器C1からの透過光は、光検出器21としてのInAs光起電力素子で検出され、キャビティリングダウン分光法によって、メタンガス
13CH
4の吸収からメタンガス
13CH
4の濃度が測定される。
【0026】
具体的なレーザ素子12として波長1.6μmDFBレーザを用いる。波長1.6μmDFBレーザは、メタンガス
12CH
4を分析するために設けられ、メタンガス
12CH
4の吸収線に合わせて発光する。ミラーM4〜M6は、この吸収線の波長で共鳴するように高反射率で制作された光共振器C2を構成している。この光共振器C2からの透過光は、光検出器22としてのInGaAsフォトダイオードで検出され、キャビティリングダウン分光法によって、メタンガス
12CH
4の吸収からメタンガス
12CH
4の濃度が測定される。
【0027】
従来、大気中に2ppm程度含まれるメタンガスのキャビティリングダウン分光法による同位体比分析は、専ら、波長1.6μm帯に含まれるメタンガス
12CH
4およびメタンガス
13CH
4の吸収線を用いて行われていた。
図4に示すように、メタンガス
12CH
4について、キャビティリングダウン分光法で十分な感度で観測されていたが、メタンガス
13CH
4は、その天然存在比が
12CH
4の100分の1程度しかないため、検出感度が不足であった。
【0028】
ここで、
図5に示すように、波長3.2μm帯のメタンガスCH
4の吸収強度は、波長1.6μm帯のメタンガスCH
4の吸収強度の100倍以上である。そこで、
図4に示した、従来の波長1.6μm帯でのメタンガス
12CH
4の吸収線とメタンガス
13CH
4の吸収線とを用いた測定ではなく、
図6に示すように、波長1.6μm帯でのメタンガス
12CH
4の吸収線と波長3.2μm帯でのメタンガス
13CH
4の吸収線とを用いた測定を行う。これにより、メタンガス
13CH
4の大気存在比が小さい分を、波長3.2μm帯での吸収強度の増加によって補うことができ、メタンガス
13CH
4の検出感度を、波長1.6μm帯でのメタンガス
12CH
4の検出感度と同程度にすることができる。これにより、メタンガス
12CH
4とメタンガス
13CH
4との同位体比分析を精度高く行うことができる。
【0029】
しかも、この実施例では、同一サンプルガスを同一ガスセルで同時測定するようにしているので、異なるガスセルで分析する場合に生じうる異なるガスセル中のガス温度やガス圧力の違いを排除することがき、一層、精度の高い分析を行うことができる。
【0030】
なお、上述した実施の形態1,2および実施例において、光共振器C1,C2は、光路がガスセル2の中心軸に垂直でガスセル2の中央を通る横断面に対して対称構造とするミラー配置とすることが好ましい。また、光共振器C1,C2は、進行波型共振器に限らず、ファブリーペロー型光共振器を用いてもよい。この場合、たとえば、ミラーM1,M5およびミラーM4,M2を光共振器とすればよい。
【0031】
また、上述した実施の形態1,2および変形例で示したガス分析計は、半導体製造分野におけるプロセスガス中の微量ガス成分の測定や、大気環境中の微量ガス成分、特にメタンガスの測定に適している。その他、青果貯蔵、青果熟成、生化学、大気汚染、防災、植物育成用、化学用分析、石油精製プラント、石油化学プラント、ガス発生プラント、環境用、理化学各種実験用などの分析計としても有用である。
【符号の説明】
【0032】
1,1a,1b ガス分析計
1,11,12 レーザ素子
2 ガスセル
2a サンプルガス入口
2b サンプルガス出口
3 温度計
4 圧力計
21,22 光検出器
31,32 圧電素子
C1,C2 光共振器
G1,G2 ガス成分
M1〜M6,M3a,M6a ミラー
λ1,λ2 波長