(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切替手段(21、22)は、前記空気加熱用熱交換器(17)と前記熱媒体加熱用熱交換器(15)との間で前記熱媒体が循環する状態と循環しない状態とを切り替えるようになっており、
前記制御手段(70)は、前記電池用熱授受部(20)と前記熱媒体加熱用熱交換器(15)との間で前記熱媒体が循環しており、かつ前記電池の温度(Tb)が電池温度閾値(Tbh)以下である場合、前記空気加熱用熱交換器(17)と前記熱媒体加熱用熱交換器(15)との間で前記熱媒体が循環しない状態になるように前記切替手段(21、22
)を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用熱管理システム。
前記制御手段(70)は、前記電池の温度(Tb)が電池暖機目標温度(Tbo)に到達し、かつ前記電池の蓄電残量(SOC)が第2蓄電残量閾値(SOC2)よりも小さい場合、前記エンジン用熱授受部(18)と前記熱媒体加熱用熱交換器(15)との間で前記熱媒体が循環する状態になるように前記切替手段(21、22)を制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用熱管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一実施形態について図に基づいて説明する。
図1に示す車両用熱管理システム10は、車両が備える各種機器や車室内を適切な温度に調整するために用いられる。本実施形態では、熱管理システム10を、エンジン(内燃機関)および走行用電動モータ(モータージェネレータ)から車両走行用駆動力を得るハイブリッド自動車に適用している。
【0019】
本実施形態のハイブリッド自動車は、車両停車時に外部電源(商用電源)から供給された電力を、車両に搭載された電池(車載バッテリ)に充電可能なプラグインハイブリッド自動車として構成されている。電池としては、例えばリチウムイオン電池を用いることができる。
【0020】
エンジンから出力される駆動力は、車両走行用駆動力として用いられるのみならず、発電機を作動させるためにも用いられる。そして、発電機にて発電された電力および外部電源から供給された電力を電池に蓄わえることができる。電池は、減速時や降坂時に走行用電動モータにて回生された電力(回生エネルギ)を蓄えることもできる。
【0021】
電池に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、熱管理システム10を構成する電動式構成機器をはじめとする各種車載機器に供給される。
【0022】
プラグインハイブリッド自動車は、車両走行開始前の車両停車時に外部電源から電池に充電しておくことによって、走行開始時のように電池の蓄電残量SOCが予め定めた走行用基準残量以上になっているときにはEV走行モードとなる。EV走行モードは、走行用電動モータが出力する駆動力によって車両を走行させる走行モードである。
【0023】
一方、車両走行中に電池の蓄電残量SOCが走行用基準残量よりも低くなっているときにはHV走行モードとなる。HV走行モードは、主にエンジン61が出力する駆動力によって車両を走行させる走行モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際には走行用電動モータを作動させてエンジン61を補助する。
【0024】
本実施形態のプラグインハイブリッド自動車では、このようにEV走行モードとHV走行モードとを切り替えることによって、車両走行用の駆動力をエンジン61のみから得る通常の車両に対してエンジン61の燃料消費量を抑制して、車両燃費を向上させている。EV走行モードとHV走行モードとの切り替えは、駆動力制御装置(図示せず)によって制御される。
【0025】
図1に示すように、熱管理システム10は、第1ポンプ11、第2ポンプ12、ラジエータ13、冷却水冷却器14、冷却水加熱器15、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19、電池温調用熱交換器20、第1切替弁21および第2切替弁22を備えている。
【0026】
第1ポンプ11および第2ポンプ12は、冷却水(熱媒体)を吸入して吐出する電動ポンプである。冷却水は、熱媒体としての流体である。本実施形態では、冷却水として、少なくともエチレングリコール、ジメチルポリシロキサンもしくはナノ流体を含む液体、または不凍液体が用いられている。
【0027】
ラジエータ13、冷却水冷却器14、冷却水加熱器15、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20は、冷却水が流通する冷却水流通機器(熱媒体流通機器)である。
【0028】
ラジエータ13は、冷却水と車室外空気(以下、外気と言う。)とを熱交換(顕熱交換)させる冷却水外気熱交換器(熱媒体外気熱交換器)である。ラジエータ13に外気温以上の温度の冷却水を流すことにより、冷却水から外気に放熱させることが可能である。ラジエータ13に外気温以下の冷却水を流すことにより、外気から冷却水に吸熱させることが可能である。換言すれば、ラジエータ13は、冷却水から外気に放熱させる放熱器としての機能、および外気から冷却水に吸熱させる吸熱器としての機能を発揮できる。
【0029】
ラジエータ13は、冷却水が流通する流路を有し、冷却水冷却器14や冷却水加熱器15で温度調整された冷却水との間で熱授受が行われる熱授受機器である。
【0030】
室外送風機30は、ラジエータ13へ外気を送風する電動送風機(外気送風機)である。ラジエータ13および室外送風機30は車両の最前部に配置されている。このため、車両の走行時にはラジエータ13に走行風を当てることができる。
【0031】
冷却水冷却器14および冷却水加熱器15は、冷却水を熱交換させて冷却水の温度を調整する冷却水温度調整用熱交換器(熱媒体温度調整用熱交換器)である。冷却水冷却器14は、冷却水を冷却する冷却水冷却用熱交換器(熱媒体冷却用熱交換器)である。冷却水加熱器15は、冷却水を加熱する冷却水加熱用熱交換器(熱媒体加熱用熱交換器)である。
【0032】
冷却水冷却器14は、冷凍サイクル31の低圧側冷媒と冷却水とを熱交換させることによって冷却水から低圧側冷媒に吸熱させる低圧側熱交換器(熱媒体用吸熱器)である。冷却水冷却器14は、冷凍サイクル31の蒸発器を構成している。
【0033】
冷凍サイクル31は、圧縮機32、冷却水加熱器15、膨張弁33、冷却水冷却器14および内部熱交換器34を備える蒸気圧縮式冷凍機である。本実施形態の冷凍サイクル31では、冷媒としてフロン系冷媒を用いており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。
【0034】
圧縮機32は、電池から供給される電力によって駆動される電動圧縮機であり、冷凍サイクル31の冷媒を吸入して圧縮して吐出する。
【0035】
冷却水加熱器15は、圧縮機32から吐出された高圧側冷媒と冷却水とを熱交換させることによって高圧側冷媒を凝縮(潜熱変化)させる凝縮器である。
【0036】
膨張弁33は、冷却水加熱器15から流出した液相冷媒を減圧膨張させる減圧手段である。膨張弁33は、冷却水加熱器15出口側冷媒の温度および圧力に基づいて冷却水加熱器15出口側冷媒の過熱度を検出する感温部33aを有し、
冷却水加熱器15出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように機械的機構によって絞り通路面積を調整する温度式膨張弁である。
【0037】
冷却水冷却器14は、膨張弁33で減圧膨張された低圧冷媒と冷却水とを熱交換させることによって低圧冷媒を蒸発(潜熱変化)させる蒸発器である。冷却水冷却器14で蒸発した気相冷媒は圧縮機32に吸入されて圧縮される。
【0038】
内部熱交換器34は、冷却水加熱器15から流出した冷媒と、冷却水冷却器14から流出した冷媒とを熱交換させる熱交換器である。
【0039】
冷凍サイクル31は、冷却水を冷却する冷却水冷却器14と、冷却水を加熱する冷却水加熱器15とを有する冷却水冷却加熱手段(熱媒体冷却加熱手段)である。換言すれば、冷凍サイクル31は、冷却水冷却器14で低温冷却水を作り出す低温冷却水発生手段(低温熱媒体発生手段)であるとともに、冷却水加熱器15で高温冷却水を作り出す高温冷却水発生手段(高温熱媒体発生手段)である。
【0040】
ラジエータ13では外気によって冷却水を冷却するのに対し、冷却水冷却器14では冷凍サイクル31の低圧冷媒によって冷却水を冷却する。このため、冷却水冷却器14で冷却された冷却水の温度を、ラジエータ13で冷却された冷却水の温度に比べて低くできる。具体的には、ラジエータ13では冷却水を外気の温度よりも低い温度まで冷却できないのに対し、冷却水冷却器14では冷却水を外気の温度よりも低い温度まで冷却できる。
【0041】
クーラコア16およびヒータコア17は、冷却水冷却器14および冷却水加熱器15で温度調整された冷却水と車室内への送風空気とを熱交換させて送風空気の温度を調整する熱媒体空気熱交換器である。
【0042】
クーラコア16は、冷却水と車室内への送風空気とを熱交換(顕熱交換)させて車室内への送風空気を冷却する空気冷却用熱交換器である。ヒータコア17は、車室内への送風空気と冷却水とを熱交換(顕熱交換)させて車室内への送風空気を加熱する空気加熱用熱交換器である。
【0043】
冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20は、冷却水が流通する流路を有し、冷却水との間で熱授受が行われる熱授受機器(温度調整対象機器)である。
【0044】
冷却水冷却水熱交換器18は、車両用熱管理システム10の冷却水(第1ポンプ11または第2ポンプ12によって循環される冷却水)と、エンジン冷却回路60の冷却水(エンジン用熱媒体)とを熱交換する熱交換器(熱媒体熱媒体熱交換器)である。
【0045】
冷却水冷却水熱交換器18は、第1ポンプ11または第2ポンプ12によって循環される冷却水とエンジン61との間で熱授受が行われるエンジン用熱授受部を構成している。
【0046】
インバータ19は、電池から供給された直流電力を交流電圧に変換して走行用電動モータに出力する電力変換装置である。インバータ19は、作動に伴って発熱する発熱機器である。インバータ19の発熱量は、車両の走行状況によって変化するようになっている。インバータ19の冷却水流路は、発熱機器と冷却水との間で熱授受が行われる機器用熱授受部を構成している。
【0047】
電池温調用熱交換器20は、電池への送風経路に配置され、送風空気と冷却水とを熱交換する熱交換器(熱媒体空気熱交換器)である。電池温調用熱交換器20は、電池と冷却水との間で熱授受が行われる電池用熱授受部を構成している。
【0048】
第1ポンプ11は、第1ポンプ用流路41に配置されている。第1ポンプ用流路41において第1ポンプ11の吐出側には、冷却水冷却器14が配置されている。
【0049】
第2ポンプ12は、第2ポンプ用流路42に配置されている。第2ポンプ用流路42において第2ポンプ12の吐出側には、冷却水加熱器15が配置されている。
【0050】
ラジエータ13は、ラジエータ用流路43に配置されている。クーラコア16は、クーラコア用流路44に配置されている。ヒータコア17は、ヒータコア用流路45に配置されている。
【0051】
冷却水冷却水熱交換器18は、冷却水冷却水熱交換器用流路46に配置されている。インバータ19は、インバータ用流路47に配置されている。電池温調用熱交換器20は、電池熱交換用流路48に配置されている。
【0052】
ラジエータ用流路43には、リザーブタンク43aが接続されている。リザーブタンク43aは、冷却水を貯留する大気開放式の容器(熱媒体貯留手段)である。したがって、リザーブタンク43aに蓄えている冷却水の液面における圧力は大気圧になる。
【0053】
リザーブタンク43aに蓄えている冷却水の液面における圧力が所定圧力(大気圧とは異なる圧力)になるようにリザーブタンク43aが構成されていてもよい。
【0054】
リザーブタンク43aに余剰冷却水を貯留しておくことによって、各流路を循環する冷却水の液量の低下を抑制することができる。リザーブタンク43aは、冷却水中に混入した気泡を気液分離する機能を有している。
【0055】
第1ポンプ用流路41、第2ポンプ用流路42、ラジエータ用流路43、クーラコア用流路44、ヒータコア用流路45、冷却水冷却水熱交換器用流路46、インバータ用流路47および電池熱交換用流路48は、第1切替弁21および第2切替弁22に接続されている。第1切替弁21および第2切替弁22は、冷却水の流れ(冷却水循環状態)を切り替える切替手段である。
【0056】
第1切替弁21は、冷却水の入口として第1入口21aおよび第2入口21bを有し、冷却水の出口として第1出口21c、第2出口21d、第3出口21e、第4出口21f、第5出口21gおよび第6出口21hを有している。
【0057】
第2切替弁22は、冷却水の出口として第1出口22aおよび第2出口22bを有し、冷却水の入口として第1入口22c、第2入口22d、第3入口22e、第4入口22f、第5入口22gおよび第6入口22hを有している。
【0058】
第1切替弁21の第1入口21aには、第1ポンプ用流路41の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第1入口21aには、冷却水冷却器14の冷却水出口側が接続されている。
【0059】
第1切替弁21の第2入口21bには、第2ポンプ用流路42の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第2入口21bには、冷却水加熱器15の冷却水出口側が接続されている。
【0060】
第1切替弁21の第1出口21cには、ラジエータ用流路43の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第1出口21cにはラジエータ13の冷却水入口側が接続されている。
【0061】
第1切替弁21の第2出口21dには、クーラコア用流路44の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第2出口21dにはクーラコア16の冷却水入口側が接続されている。
【0062】
第1切替弁21の第3出口21eには、ヒータコア用流路45の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第3出口21eにはヒータコア17の冷却水入口側が接続されている。
【0063】
第1切替弁21の第4出口21fには、冷却水冷却水熱交換器用流路46の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第4出口21fには冷却水冷却水熱交換器18の冷却水入口側が接続されている。
【0064】
第1切替弁21の第5出口21gには、インバータ用流路47の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第5出口21gにはインバータ19の冷却水入口側が接続されている。
【0065】
第1切替弁21の第6出口21hには、電池熱交換用流路48の一端が接続されている。換言すれば、第1切替弁21の第
6出口21
hには電池温調用熱交換器20の冷却水入口側が接続されている。
【0066】
第2切替弁22の第1出口22aには、第1ポンプ用流路41の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第1出口22aには、第1ポンプ11の冷却水吸入側が接続されている。
【0067】
第2切替弁22の第2出口22bには、第2ポンプ用流路42の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第2出口22bには、第2ポンプ12の冷却水吸入側が接続されている。
【0068】
第2切替弁22の第1入口22cには、ラジエータ用流路43の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第1入口22cにはラジエータ13の冷却水出口側が接続されている。
【0069】
第2切替弁22の第2入口22dには、クーラコア用流路44の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第2入口22dにはクーラコア16の冷却水出口側が接続されている。
【0070】
第2切替弁22の第3入口22eには、ヒータコア用流路45の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第3入口22eにはヒータコア17の冷却水出口側が接続されている。
【0071】
第2切替弁22の第4入口22fには、冷却水冷却水熱交換器用流路46の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第4入口22fには冷却水冷却水熱交換器18の冷却水出口側が接続されている。
【0072】
第2切替弁22の第5入口22gには、インバータ用流路47の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第5入口22gにはインバータ19の冷却水出口側が接続されている。
【0073】
第2切替弁22の第6入口22hには、電池熱交換用流路48の他端が接続されている。換言すれば、第2切替弁22の第
6入口22
hには電池温調用熱交換器20の冷却水出口側が接続されている。
【0074】
第1切替弁21および第2切替弁22は、各入口と各出口との連通状態を任意または選択的に切り替え可能な構造になっている。
【0075】
具体的には、第1切替弁21は、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のそれぞれについて、第1ポンプ11から吐出された冷却水が流入する状態と、第2ポンプ12から吐出された冷却水が流入する状態と、第1ポンプ11から吐出された冷却水および第2ポンプ12から吐出された冷却水が流入しない状態とを切り替える。
【0076】
第2切替弁22は、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のそれぞれについて、第1ポンプ11へ冷却水が流出する状態と、第2ポンプ12へ冷却水が流出する状態と、第1ポンプ11および第2ポンプ12へ冷却水が流出しない状態とを切り替える。
【0077】
第1切替弁21および第2切替弁22は、弁開度を調整可能になっている。これにより、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20を流れる冷却水の流量を調整できる。
【0078】
すなわち、第1切替弁21および第2切替弁22は、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のそれぞれに対して、冷却水の流量を調整する流量調整手段である。
【0079】
第1切替弁21は、第1ポンプ11から吐出された冷却水と、第2ポンプ12から吐出された冷却水とを任意の流量割合で混合して、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20に流入させることが可能になっている。
【0080】
すなわち、第1切替弁21および第2切替弁22は、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のそれぞれに対して、冷却水冷却器14で冷却された冷却水と、冷却水加熱器15で加熱された冷却水との流量割合を調整する流量割合調整手段である。
【0081】
クーラコア16およびヒータコア17は、車両用空調装置の室内空調ユニット50のケース51に収容されている。
【0082】
ケース51は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケース51内の空気流れ最上流側には、内外気切替箱52が配置されている。内外気切替箱52は、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する内外気導入手段である。
【0083】
内外気切替箱52には、ケース51内に内気を導入させる内気吸込口52aおよび外気を導入させる外気吸込口52bが形成されている。内外気切替箱52の内部には、内外気切替ドア53が配置されている。
【0084】
内外気切替ドア53は、ケース51内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる風量割合変更手段である。具体的には、内外気切替ドア53は、内気吸込口52aおよび外気吸込口52bの開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる。内外気切替ドア53は、電動アクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0085】
内外気切替箱52の空気流れ下流側には、室内送風機54(ブロワ)が配置されている。室内送風機54は、内外気切替箱52を介して吸入した空気(内気および外気)を車室内へ向けて送風する送風手段である。室内送風機54は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機である。
【0086】
ケース51内において室内送風機54の空気流れ下流側には、クーラコア16、ヒータコア17および補助ヒータ56が配置されている。補助ヒータ56は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、このPTC素子に電力が供給されることによって発熱して空気を加熱するPTCヒータ(電気ヒータ)である。
【0087】
ケース51の内部においてクーラコア16の空気流れ下流側部位には、ヒータコアバイパス通路51aが形成されている。ヒータコアバイパス通路51aは、クーラコア16を通過した空気を、ヒータコア17および補助ヒータ56を通過させずに流す空気通路である。
【0088】
ケース51の内部においてクーラコア16とヒータコア17との間には、エアミックスドア55が配置されている。
【0089】
エアミックスドア55は、ヒータコア17および補助ヒータ56へ流入させる空気と、ヒータコアバイパス通路51aへ流入させる空気との風量割合を連続的に変化させる風量割合調整手段である。エアミックスドア55は、回動可能な板状ドアや、スライド可能なドア等であり、電動アクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0090】
ヒータコア17および補助ヒータ56を通過する空気とヒータコアバイパス通路51aを通過する空気との風量割合によって、車室内へ吹き出される吹出空気の温度が変化する。したがって、エアミックスドア55は、車室内へ吹き出される吹出空気の温度を調整する温度調整手段である。
【0091】
ケース51の空気流れ最下流部には、空調対象空間である車室内へ送風空気を吹き出す吹出口51bが配置されている。この吹出口51bとしては、具体的には、デフロスタ吹出口、フェイス吹出口およびフット吹出口が設けられている。
【0092】
デフロスタ吹出口は、車両前面窓ガラスの内側の面に向けて空調風を吹き出す。フェイス吹出口は、乗員の上半身に向けて空調風を吹き出す。フット吹出口は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。
【0093】
吹出口51bの空気流れ上流側には、吹出口モードドア(図示せず)が配置されている。吹出口モードドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替手段である。吹出口モードドアは、電動アクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0094】
吹出口モードドアによって切り替えられる吹出口モードとしては、例えば、フェイスモード、バイレベルモード、フットモードおよびフットデフロスタモードがある。
【0095】
フェイスモードは、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。
【0096】
フットモードは、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。フットデフロスタモードは、フット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出す吹出口モードである。
【0097】
エンジン冷却回路60は、エンジン61を冷却するための冷却水循環回路である。エンジン冷却回路60は、冷却水が循環する循環流路62を有している。循環流路62には、エンジン61、エンジン用ポンプ63、エンジン用ラジエータ64および冷却水冷却水熱交換器18が配置されている。
【0098】
エンジン用ポンプ63は、冷却水を吸入して吐出する電動ポンプである。エンジン用ポンプ63は、エンジン61から出力される動力によって駆動される機械式ポンプであってもよい。
【0099】
エンジン用ラジエータ64は、冷却水と外気とを熱交換することによって冷却水の熱を外気に放熱させる放熱用熱交換器(熱媒体空気熱交換器)である。
【0100】
循環流路62には、ラジエータバイパス流路65が接続されている。ラジエータバイパス流路65は、冷却水がエンジン用ラジエータ64をバイパスして流れる流路である。
【0101】
ラジエータバイパス流路65と循環流路62との接続部にはサーモスタット66が配置されている。サーモスタット66は、温度によって体積変化するサーモワックス(感温部材)によって弁体を変位させて冷却水流路を開閉する機械的機構で構成される冷却水温度応動弁である。
【0102】
具体的には、サーモスタット66は、冷却水の温度が所定温度を上回っている場合(例えば80℃以上)、ラジエータバイパス流路65を閉じ、冷却水の温度が所定温度を下回っている場合(例えば80℃未満)、ラジエータバイパス流路65を開ける。
【0103】
循環流路62には、エンジン補機用流路67が接続されている。エンジン補機用流路67は、冷却水が冷却水冷却水熱交換器18と並列に流れる流路である。エンジン補機用流路67にはエンジン補機68が配置されている。エンジン補機68は、オイル熱交換器、EGRクーラ、スロットルクーラ、ターボクーラ、エンジン補助モータ等である。オイル熱交換器は、エンジンオイルまたはトランスミッションオイルと冷却水とを熱交換してオイルの温度を調整する熱交換器である。
【0104】
EGRクーラは、エンジンの排気ガスの一部を吸気側に還流させてスロットルバルブで発生するポンピングロスを低減させるEGR(排気ガス再循環)装置を構成する熱交換器であって、還流ガスと冷却水とを熱交換させて還流ガスの温度を調整する熱交換器である。
【0105】
スロットルクーラは、スロットルバルブを冷却するためにスロットル内部に設けたウォータジャケットである。
【0106】
ターボクーラはターボチャージャで発生する熱と冷却水とを熱交換させてターボチャージャを冷却するための冷却器である。
【0107】
エンジン補助モータは、エンジン停止中でもエンジンベルトを回せるようにするための大型モータであり、エンジンベルトで駆動される圧縮機やウォータポンプなどをエンジンの駆動力が無い状態でも作動させたり、エンジンの始動時に利用される。
【0108】
エンジン用ラジエータ64にはエンジン用リザーブタンク64aが接続されている。エンジン用リザーブタンク64aの構造および機能は、上述のリザーブタンク43aと同様である。
【0109】
次に、熱管理システム10の電気制御部を
図2に基づいて説明する。制御装置70は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する制御手段である。
【0110】
制御装置70によって制御される制御対象機器は、第1ポンプ11、第2ポンプ12、第1切替弁21、第2切替弁22、室外送風機30、圧縮機32、室内送風機54、ケース51の内部に配置された各種ドア(内外気切替ドア53、エアミックスドア55、吹出口モードドア等)を駆動する電動アクチュエータ、およびインバータ19等である。
【0111】
制御装置70は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。
【0112】
本実施形態では、制御装置70のうち、第1ポンプ11および第2ポンプ12の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)をポンプ制御手段70aとする。ポンプ制御手段70aは、各冷却水流通機器を流れる冷却水の流量を制御する流量制御手段(熱媒体流量調整手段)である。
【0113】
本実施形態では、制御装置70のうち、第1切替弁21および第2切替弁22の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を切替弁制御手段70bとする。切替弁制御手段70bは、各冷却水流通機器を流れる冷却水の流量を調整する流量調整手段(熱媒体流量調整手段)である。
【0114】
本実施形態では、制御装置70のうち、室外送風機30の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を室外送風機制御手段70c(外気送風機制御手段)とする。室外送風機制御手段70cは、ラジエータ13を流れる外気の流量を制御するラジエータ用調整手段(外気流量調整手段)である。
【0115】
本実施形態では、制御装置70のうち、圧縮機32の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を圧縮機制御手段70dとする。圧縮機制御手段70dは、圧縮機32から吐出される冷媒の流量を制御する冷媒流量調整手段である。
【0116】
本実施形態では、制御装置70のうち、室内送風機54の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を室内送風機制御手段70eとする。室内送風機54および室内送風機制御手段70eは、車室内へ吹き出される送風空気の風量を制御する風量制御手段である。
【0117】
本実施形態では、制御装置70のうち、ケース51の内部に配置された各種ドア(内外気切替ドア53、エアミックスドア55、吹出口モードドア等)の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を空調切替制御手段70fとする。
【0118】
エアミックスドア55および空調切替制御手段70fは、クーラコア16で冷却された送風空気のうちヒータコア17を流れる送風空気とヒータコア17を迂回して流れる送風空気との風量割合を調整する風量割合調整手段である。
【0119】
内外気切替ドア53および空調切替制御手段70fは、車室内へ吹き出される送風空気のうち内気と外気との割合を調整する内外気割合調整手段である。
【0120】
本実施形態では、制御装置70のうち、補助ヒータ56の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を補助ヒータ制御手段70g(電気ヒータ制御手段)とする。
【0121】
本実施形態では、制御装置70のうち、インバータ19の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)をインバータ制御手段70h(発熱機器制御手段)とする。
【0122】
上述の各制御手段70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g、70hを制御装置70に対して別体で構成してもよい。
【0123】
制御装置70の入力側には、内気温度センサ71、内気湿度センサ72、外気温度センサ73、日射センサ74、第1水温センサ75、第2水温センサ76、ラジエータ水温センサ77、クーラコア温度センサ78、ヒータコア温度センサ79、エンジン水温センサ80、インバータ温度センサ81、電池温度センサ82、冷媒温度センサ83、84および冷媒圧力センサ85、86等のセンサ群の検出信号が入力される。
【0124】
内気温度センサ71は、内気の温度(車室内温度)を検出する検出手段(内気温度検出手段)である。内気湿度センサ72は、内気の湿度を検出する検出手段(内気湿度検出手段)である。
【0125】
外気温度センサ73は、外気の温度(車室外温度)を検出する検出手段(外気温度検出手段)である。日射センサ74は、車室内の日射量を検出する検出手段(日射量検出手段)である。
【0126】
第1水温センサ75は、第1ポンプ用流路41を流れる冷却水の温度(例えば第1ポンプ11に吸入される冷却水の温度)を検出する検出手段(第1熱媒体温度検出手段)である。
【0127】
第2水温センサ76は、第2ポンプ用流路42を流れる冷却水の温度(例えば第2ポンプ12に吸入される冷却水の温度)を検出する検出手段(第2熱媒体温度検出手段)である。
【0128】
ラジエータ水温センサ77は、ラジエータ用流路43を流れる冷却水の温度(例えばラジエータ13から流出した冷却水の温度)を検出する検出手段(機器側熱媒体温度検出手段)である。
【0129】
クーラコア温度センサ78は、クーラコア16の表面温度を検出する検出手段(クーラコア温度検出手段)である。クーラコア温度センサ78は、例えば、クーラコア16の熱交換フィンの温度を検出するフィンサーミスタや、クーラコア16を流れる冷却水の温度を検出する水温センサ等である。
【0130】
ヒータコア温度センサ79は、ヒータコア17の表面温度を検出する検出手段(ヒータコア温度検出手段)である。ヒータコア温度センサ79は、例えば、ヒータコア17の熱交換フィンの温度を検出するフィンサーミスタや、ヒータコア17を流れる冷却水の温度を検出する水温センサ等である。
【0131】
エンジン水温センサ80は、エンジン冷却回路60を循環する冷却水の温度(例えばエンジン61の内部を流れる冷却水の温度)を検出する検出手段(エンジン熱媒体温度検出手段)である。
【0132】
インバータ温度センサ81は、インバータ用流路47を流れる冷却水の温度(例えばインバータ19から流出した冷却水の温度)を検出する検出手段(機器側熱媒体温度検出手段)である。
【0133】
電池温度センサ82は、電池熱交換用流路48を流れる冷却水の温度(例えば電池温調用熱交換器20に流入する冷却水の温度)を検出する検出手段(機器側熱媒体温度検出手段)である。電池温度センサ82は、温度バラツキのある電池パック内において特定の部位の温度(電池代表温度)を検出する検出手段(電池代表温度検出手段)であってもよい。
【0134】
冷媒温度センサ83、84は、圧縮機32から吐出された冷媒の温度を検出する吐出側冷媒温度センサ83、および圧縮機32に吸入される冷媒の温度を検出する吸入側冷媒温度センサ84である。
【0135】
冷媒圧力センサ85、86は、圧縮機32から吐出された冷媒の圧力を検出する吐出側冷媒圧力センサ85、および圧縮機32に吸入される冷媒の圧力を検出する吸入側冷媒温度センサ86である。
【0136】
制御装置70の入力側には、操作パネル88に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。例えば、操作パネル88は、車室内前部の計器盤付近に配置されている。
【0137】
操作パネル88に設けられた各種空調操作スイッチは、エアコンスイッチ、オートスイッチ、室内送風機52の風量設定スイッチ、車室内温度設定スイッチ、空調停止スイッチ等である。
【0138】
エアコンスイッチは、冷房または除湿の作動・停止(オン・オフ)を切り替えるスイッチである。オートスイッチは、空調の自動制御を設定または解除するスイッチである。車室内温度設定スイッチは、乗員の操作によって車室内目標温度を設定する目標温度設定手段である。空調停止スイッチは、空調を停止させるスイッチである。
【0139】
操作パネル88に設けられた各種空調操作スイッチは、クーラコア16で送風空気を冷却する冷却要求、およびヒータコア17で送風空気を加熱する加熱要求を行う空調要求手段である。
【0140】
次に、上記構成における作動を説明する。制御装置70が第1ポンプ11、第2ポンプ12、圧縮機32、第1切替弁21および第2切替弁22等の作動を制御することによって、種々の作動モードに切り替えられる。
【0141】
例えば、第1ポンプ11によって吸入されて吐出された冷却水が、冷却水冷却器14と、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のうち少なくとも1つの機器との間で循環する第1冷却水回路(第1熱媒体回路)が形成され、第2ポンプ12によって吸入されて吐出された冷却水が、冷却水加熱器15と、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のうち少なくとも1つの機器との間で循環する第2冷却水回路(第2熱媒体回路)が形成される。
【0142】
ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20のそれぞれについて、第1冷却水回路に接続される場合と、第2冷却水回路に接続される場合とを状況に応じて切り替えることによって、ラジエータ13、クーラコア16、ヒータコア17、冷却水冷却水熱交換器18、インバータ19および電池温調用熱交換器20を状況に応じて適切な温度に調整できる。
【0143】
ラジエータ13が第1冷却水回路に接続された場合、冷凍サイクル31のヒートポンプ運転を行うことができる。すなわち、第1冷却水回路では、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がラジエータ13を流れるので、ラジエータ13で冷却水が外気から吸熱する。
【0144】
そして、ラジエータ13にて外気から吸熱した冷却水は、冷却水冷却器14で冷凍サイクル31の冷媒と熱交換して放熱する。したがって、冷却水冷却器14では、冷凍サイクル31の冷媒が冷却水を介して外気から吸熱する。
【0145】
冷却水冷却器14にて外気から吸熱した冷媒は、冷却水加熱器15にて第2冷却水回路の冷却水と熱交換して放熱する。したがって、外気の熱を汲み上げるヒートポンプ運転を実現できる。
【0146】
ラジエータ13が第2冷却水回路に接続された場合、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がラジエータ13を流れるので、ラジエータ13で冷却水の熱を外気に放熱できる。
【0147】
クーラコア16が第1冷却水回路に接続された場合、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がクーラコア16を流れるので、クーラコア16で車室内への送風空気を冷却できる。すなわち車室内を冷房できる。
【0148】
ヒータコア17が第2冷却水回路に接続された場合、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がヒータコア17を流れるので、ヒータコア17で車室内への送風空気を加熱できる。すなわち車室内を暖房できる。
【0149】
冷却水冷却水熱交換器18が第1冷却水回路に接続された場合、冷却水冷却器14で冷却された冷却水が冷却水冷却水熱交換器18を流れるのでエンジン冷却水を冷却できる。換言すれば、冷却水冷却水熱交換器18で第1冷却水回路の冷却水がエンジン冷却水から吸熱できるので、エンジン61の廃熱を汲み上げるヒートポンプ運転を実現できる。
【0150】
冷却水冷却水熱交換器18が第2冷却水回路に接続された場合、冷却水加熱器15で加熱された冷却水が冷却水冷却水熱交換器18を流れるのでエンジン冷却水を加熱できる。したがって、エンジン61を加熱(暖機)できる。
【0151】
インバータ19が第1冷却水回路に接続された場合、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がインバータ19を流れるのでインバータ19を冷却できる。換言すれば、インバータ19の廃熱を汲み上げるヒートポンプ運転を実現できる。
【0152】
インバータ19が第2冷却水回路に接続された場合、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がインバータ19を流れるのでインバータ19を加熱(暖機)できる。
【0153】
電池温調用熱交換器20が第1冷却水回路に接続された場合、冷却水冷却器14で冷却された冷却水が電池温調用熱交換器20を流れるので電池を冷却できる。換言すれば、電池の廃熱を汲み上げるヒートポンプ運転を実現できる。
【0154】
電池温調用熱交換器20が第2冷却水回路に接続された場合、冷却水加熱器15で加熱された冷却水が電池温調用熱交換器20を流れるので電池を加熱(暖機)できる。
【0155】
図3に示すように、電池は低温になると入出力特性が悪化し、高温になると劣化が加速するため、電池の入出力特性を最大限活用するには、ある温度範囲(一般に10〜40℃)に電池の温度を管理する必要がある。
【0156】
この適正温度範囲を外れると、電池出力が低下することによって運転快適性が悪化したり、電池の入力特性が悪化することによって回生エネルギを十分に回収できなくなってEV走行距離が悪化したりする。
【0157】
一般的には、電池の温度が−10℃まで低下しても市街地走行ができるように電池が設計されている。
【0158】
図4に示すように、電池の蓄電残量SOCが高い(満充電に近い)場合、出力は大きくなるが、入力(回生)は小さくなるという特性がある。これとは逆に、電池の蓄電残量SOCが低い場合は、出力は小さくなるが、入力(回生)は大きくなるという特性がある。
【0159】
このように、電池の入出力特性は、電池温度および蓄電残量SOCに関係があるため、EV走行時は電池温度を高め(一般的に10℃以上)に制御することで、EV走行に必要な電池出力と入力特性(回生エネルギ)を確保する必要がある。
【0160】
一方、エンジン走行(HV走行)時は、出力はエンジン61と電池からの合計出力となり、回生はEV走行時と同様に電池の入力特性(回生)に依存する。一般的に、HV走行時は電池の蓄電残量SOCが20〜30%程度と低めに制御されるため、EV走行時に比べて低めの電池温度(一般的に0℃以上)でも十分に対応できる。
【0161】
電池を加熱(暖機)するために必要な熱量は、冷凍サイクル31によって供給される。冷凍サイクル31は、外気から吸熱するヒートポンプ運転によって加熱能力を発揮する。そのため、
図5に示すように、冷凍サイクル31の加熱能力は、外気温度が低温になるにつれて低下していく。一方、車室内暖房に必要な加熱能力は、外気温度が低温になるほど大きくなる。
【0162】
そこで、冷凍サイクル31は、一般的に外気温度が−20℃のときの加熱能力が暖房必要能力と一致するように設計されている。したがって、冷凍サイクル31は、外気温度が−20℃以上の場合、暖房以外に熱を供給して電池を加熱(暖機)することが可能となる。
【0163】
冬期においては、車室内の暖房、電池の暖機およびエンジン61の暖機を行う必要がある。ハイブリッド自動車は、電池の蓄電残量SOCがある限りEV走行を基本とし走行する。HV走行時においては、電池が冷えており入出力特性が確保できていない場合は、走行用電動モータを用いたHV走行ができず、走行用電動モータを用いないエンジン走行となるので燃費が大幅に悪化する。
【0164】
このため、燃費の悪化を抑制するために、電池の暖機をエンジン61の暖機よりも優先して行う必要がある。
【0165】
車室内の暖房は、乗員の空調要求に基づいて行われる。そのため、空調快適性確保のために、車室内の暖房を、電池の暖機およびエンジン61の暖機よりも最優先で行う必要がある。
【0166】
ただし、電池が冷え切っており、車両の安全(公道を走れるレベルでの走行性能)が確保できない場合に限り、車室内の暖房よりも電池の暖機を優先する必要がある。
【0167】
このような車室内の暖房、電池の暖機およびエンジン61の暖機の優先順位が満足されるように、制御装置70は、
図6のフローチャートに示す制御処理を実行する。
【0168】
ハイブリッド自動車では電池が非常に大きいため、電池を暖機するためのエネルギも大きくなる。このため、電池暖機に使用するエネルギよりも、電池入力特性向上による回生エネルギの方が少ないと、EV走行距離が悪化するという問題が発生するため、電池暖機を過不足なく適切に行う必要がある。
【0169】
回生エネルギは、走行距離や走行時間が長い方が増加する傾向にあるため、電池暖機後のEV走行可能距離が長いほど電池を十分に暖機して電池入力特性を向上するのが好ましい。
【0170】
そこで、ステップS100〜S120において、電池の暖機目標温度を決定する。ステップS100では、電池の蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っているか否かを判定する。第1蓄電残量閾値SOC1は、電池暖機後のEV走行可能距離に関連する値であり、蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っている場合、電池暖機後のEV走行可能距離が長いと判断でき、蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っていない場合、電池暖機後のEV走行可能距離が短いと判断できる。
【0171】
図7に示すように、第1蓄電残量閾値SOC1は、暖機前の電池温度に応じて決定される。すなわち、暖機前の電池温度が低いほど、電池暖機に費やされるエネルギが増加することから、暖機前の電池温度が低いほど第1蓄電残量閾値SOC1を大きな値にする。
【0172】
ステップS100において蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っていないと判定された場合、ステップS110へ進んで電池暖機目標温度TboをHV走行用電池暖機目標温度Tbo1(例えば0℃)に決定する。
【0173】
一方、蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っていると判定された場合、ステップS120へ進んで電池暖機目標温度TboをEV走行用電池暖機目標温度Tbo2(例えば10℃)に決定する。
【0174】
EV走行用電池暖機目標温度Tbo2は、HV走行用電池暖機目標温度Tbo1よりも高い温度である。
【0175】
これにより、電池暖気後のEV走行距離が長いと判断できる場合は、電池暖機目標温度Tboが高めの温度Tbo2(例えば10℃)となり、電池暖気後のEV走行距離が短いと判断できる場合は、電池暖機目標温度Tboが低めの温度Tbo1(例えば0℃)となる。
【0176】
ステップS130では、電池温度Tbが電池温度閾値Tbhを上回っているか否かを判定する。電池温度Tbは、例えば、温度バラツキのある電池パック内において特定の部位に設けられた電池温度センサ(図示せず)で検出された温度(電池代表温度)である。
【0177】
電池温度閾値Tbhは、EV走行で市街地走行ができなくなる電池温度(一般的に−10℃)以下に設定されている。
【0178】
電池温度Tbが電池温度閾値Tbhを下回っている場合、十分な電池出力を確保できず安全な走行ができないため、電池を最優先で暖機する必要があると判断できる。
【0179】
電池温度Tbが電池温度閾値Tbhを上回っている場合、安全な走行をするために必要な電池出力をある程度確保できるため、電池の暖機よりも車室内の暖房を優先する必要があると判断できる。
【0180】
上述した通り、冷凍サイクル31は、一般的に外気温度が−20℃のときの加熱能力が空調要求能力と一致するように設計されている。そのため、外気温度が−10℃である場合、暖房必要能力に対して冷凍サイクル31の加熱能力に余力があるので、車室内の暖房と電池の暖機とを同時に実施する能力がある。
【0181】
そこで、ステップS130において電池温度Tbが電池温度閾値Tbhを上回っていないと判定した場合、ステップS140へ進んで電池暖機を行い、電池温度Tbが電池温度閾値Tbhを上回っていると判定した場合、ステップS150へ進んで空調暖房および電池暖機を行う。
【0182】
ステップS140で電池暖機を行う場合、
図8に示すように、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がラジエータ19を循環し、冷却水加熱器15で加熱された冷却水が電池温調用熱交換器20を循環するので、冷凍サイクル31のヒートポンプ運転によって、外気の熱が汲み上げられて電池が加熱(暖機)される。
【0183】
ステップS150で空調暖房および電池暖機を行う場合、
図9に示すように、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がラジエータ19を循環し、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がヒータコア17および電池温調用熱交換器20を循環するので、冷凍サイクル31のヒートポンプ運転によって、外気の熱が汲み上げられて車室内が暖房されるとともに電池が加熱(暖機)される。
【0184】
ステップS160では、電池温度Tbが電池暖機目標温度Tboを上回っているか否かを判定する。電池温度Tbが電池暖機目標温度Tboを上回っていないと判定した場合、電池の暖機が不十分であると判断できるので、ステップS130へ戻って、電池暖機を継続する。
【0185】
電池温度Tbが電池暖機目標温度Tboを上回っていると判定した場合、電池が十分に暖機されたと判断できるので、ステップS170へ進む。
【0186】
ステップS170では、エンジン61の暖機を開始するタイミングについて判断する。エンジン61を暖機する目的は、エンジン61が冷間状態にあるときにエンジン61の吸気部や燃焼室の温度を上げることによって余分な燃料を使用しないようにすること(増燃量低減)、およびフリクションの低減である。
【0187】
したがって、エンジン走行(HV走行)が開始される直前までにエンジン61の暖機が完了すればよいので、EV走行可能距離からエンジン走行(HV走行)開始までの時間を逆算してエンジン61の暖機を開始すればよい。
【0188】
そこで、ステップS170では、蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2を上回っているか否かを判定する。第2蓄電残量閾値SOC2は、エンジン暖機後のEV走行可能距離に関連する値であり、蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2を上回っている場合、エンジン暖機後のEV走行可能距離が長いと判断でき、蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2を上回っていない場合、エンジン暖機後のEV走行可能距離が短いと判断できる。
【0189】
図10に示すように、第2蓄電残量閾値SOC2は、暖機前のエンジン冷却水温度(エンジン61の温度に関連する温度)に応じて決定される。すなわち、暖機前のエンジン冷却水温度が低いほど、エンジン暖機に費やされるエネルギが増加してエンジン暖機後のEV走行可能距離が短くなることから、暖機前のエンジン冷却水温度が低いほど第2蓄電残量閾値SOC2を大きな値にする。
【0190】
ステップS170において蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2を上回っていると判定した場合、エンジン61の暖機を開始するタイミングではないと判断できるので、ステップS170へ戻る。
【0191】
一方、ステップS170において蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2を上回っていないと判定した場合、エンジン61の暖機を開始するタイミングであると判断できるので、ステップS180へ進む。
【0192】
ステップS180では、エンジン水温Teが目標エンジン水温Teoを上回っているか否かを判定する。目標エンジン水温Teoは、例えば40℃に設定されている。すなわち、エンジン61の燃焼効率向上やフリクションロス低減のため、一般的にエンジン水温を40℃以上にする必要がある。
【0193】
したがって、エンジン水温Teが目標エンジン水温Teoを上回っていない場合、エンジン61の暖機が必要であると判断でき、エンジン水温Teが目標エンジン水温Teoを上回っている場合、エンジン61の暖機が必要ないと判断できる。
【0194】
ステップS180においてエンジン水温Teが目標エンジン水温Teoを上回っていないと判定した場合、ステップS190へ進んで空調暖房およびエンジン暖機を行い、ステップS180へ戻る。これにより、エンジン水温Teが目標エンジン水温Teoに到達するまで、空調暖房およびエンジン暖機が行われる。
【0195】
ステップS180においてエンジン水温Teが目標エンジン水温Teoを上回っている判定した場合、ステップS200へ進んで空調暖房を行う。すなわち、エンジン水温Teが目標エンジン水温Teoに到達したら、電池の暖機およびエンジン61の暖機は必要なく、車室内の暖房だけが必要となる。
【0196】
ステップS190で空調暖房およびエンジン暖機を行う場合、
図11に示すように、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がラジエータ19を循環し、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がヒータコア17および冷却水冷却水熱交換器18を循環するので、冷凍サイクル31のヒートポンプ運転によって、外気の熱が汲み上げられて車室内が暖房されるとともにエンジン61が加熱(暖機)される。
【0197】
ステップS200で空調暖房を行う場合、
図12に示すように、冷却水冷却器14で冷却された冷却水がラジエータ19を循環し、冷却水加熱器15で加熱された冷却水がヒータコア17を循環するので、冷凍サイクル31のヒートポンプ運転によって、外気の熱が汲み上げられて車室内が暖房される。
【0198】
ステップS200で空調暖房を行う場合、冷却水冷却水熱交換器18をヒータコア17と接続して、エンジン61の廃熱で車室内が暖房されるようにしてもよい。
【0199】
ステップS200で空調暖房を行う場合、電池の暖機およびエンジン61の暖機は必要なく、車室内の暖房だけが必要となる。そのため、冷凍サイクル31は、最大加熱能力を発揮する必要はなく、車室内の暖房に必要な加熱能力が発揮されるように制御される。
【0200】
図13は、上述の制御における走行距離と蓄電残量SOCとの関係の例を示しているとともに、冷凍サイクル31の加熱能力の推移と加熱能力の利用先(電池暖機、車室内暖房およびエンジン暖機のいずれに利用されるか)の例を示している。
【0201】
このように、電池暖機、車室内暖房およびエンジン暖機を、状況に応じた優先順位で順次行うことによって、走行安全性や空調快適性を確保しつつ、冷凍サイクル31の最大加熱能力を小さくすることができる。
【0202】
本実施形態では、制御装置70は、電池およびエンジン61の両方を暖機する必要が有る場合、電池温調用熱交換器20と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環し、且つ冷却水冷却水熱交換器18と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環しない電池暖機状態になるように第1切替弁21および第2切替弁22を制御し、電池暖機状態において電池の温度Tbが電池暖機目標温度Tboを上回った場合、冷却水冷却水熱交換器18と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環し、且つ電池温調用熱交換器20と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環しないエンジン暖機状態になるように第1切替弁21および第2切替弁22を制御する。
【0203】
これによると、電池およびエンジン61の両方を暖機する必要が有る場合、電池の暖機がエンジン61の暖機よりも先に実施される。このため、電池の暖機とエンジン61の暖機とを同時に実施する場合と比較して、冷凍サイクル31の必要加熱能力を低減できる。
【0204】
しかも、電池の暖機が優先されることによって、電池の入出力特性を速やかに確保できるので、走行用電動モータの稼働率を高めることができ、ひいてはエンジン61の燃費を向上できる。
【0205】
本実施形態では、ステップS100〜S120で説明したように、制御装置70は、電池の蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1よりも大きい場合、電池の蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1よりも小さい場合と比較して電池暖機目標温度Tboを大きな値にする。
【0206】
これにより、電池暖機後に走行用電動モータで走行できる距離が長くて回生エネルギが多くなることが期待できる場合、暖機後の電池の温度を高くして電池入力特性を向上できる。そのため、走行用電動モータの稼働率を一層高めて、エンジン61の燃費を一層向上できる。
【0207】
本実施形態では、ステップS100(
図7)で説明したように、制御装置70は、電池の温度Tbが低いほど、第1蓄電残量閾値SOC1を大きな値に決定する。これにより、暖機前の電池の温度Tbが低い場合に、電池を暖機するために費やされるエネルギが多くなりすぎることを抑制できる。
【0208】
本実施形態では、ステップS130、S140で説明したように、制御装置70は、電池温調用熱交換器20と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環しており、かつ電池の温度Tbが電池温度閾値Tbh以下である場合、ヒータコア17と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環しない状態になるように第1切替弁21および第2切替弁22を制御する。
【0209】
これによると、電池の温度Tbが低いために電池の出力特性が低下している場合、車室内の暖房よりも電池の暖機を優先して行うことができる。このため、走行用電動モータの出力を確保しつつ、冷凍サイクル31の必要加熱能力を低減できる。
【0210】
本実施形態では、ステップS160〜S190で説明したように、制御装置70は、電池の温度Tbが電池暖機目標温度Tboに到達し、かつ電池の蓄電残量SOCが第2蓄電残量閾値SOC2よりも小さい場合、冷却水冷却水熱交換器18と冷却水加熱器15との間で冷却水が循環する状態になるように第1切替弁21および第2切替弁22を制御する。
【0211】
これにより、電池の暖機が完了し、かつ走行用電動モータで走行できる距離が短い場合にエンジン61の暖機を開始することができるので、エンジン61の暖機が必要以上に早く開始されてエネルギが無駄に消費されることを抑制できる。
【0212】
本実施形態では、ステップS170(
図10)で説明したように、制御装置70は、エンジン61の温度Teが低いほど、第2蓄電残量閾値SOC2を大きな値に決定する。これにより、エンジン61を暖機するために必要な時間が長いほど、エンジン61の暖機を早く開始することができるので、エンジン61の暖機を適切なタイミングで開始できる。
【0213】
本実施形態において、インバータ19と冷却水冷却用熱交換器14との間で冷却水が循環するようにすれば、インバータ19の廃熱を冷凍サイクル31のヒートポンプ運転によって汲み上げてエンジン61の暖機に利用できるので、冷凍サイクル31の必要加熱能力を低減できる。
【0214】
(他の実施形態)
上記実施形態を、例えば以下のように種々変形可能である。
【0215】
(1)上記各実施形態では、温度調整対象機器を温度調整するための熱媒体として冷却水を用いているが、油などの各種媒体を熱媒体として用いてもよい。
【0216】
熱媒体として、ナノ流体を用いてもよい。ナノ流体とは、粒子径がナノメートルオーダーのナノ粒子が混入された流体のことである。ナノ粒子を熱媒体に混入させることで、エチレングリコールを用いた冷却水(いわゆる不凍液)のように凝固点を低下させる作用効果に加えて、次のような作用効果を得ることができる。
【0217】
すなわち、特定の温度帯での熱伝導率を向上させる作用効果、熱媒体の熱容量を増加させる作用効果、金属配管の防食効果やゴム配管の劣化を防止する作用効果、および極低温での熱媒体の流動性を高める作用効果を得ることができる。
【0218】
このような作用効果は、ナノ粒子の粒子構成、粒子形状、配合比率、付加物質によって様々に変化する。
【0219】
これによると、熱伝導率を向上させることができるので、エチレングリコールを用いた冷却水と比較して少ない量の熱媒体であっても同等の冷却効率を得ることが可能になる。
【0220】
また、熱媒体の熱容量を増加させることができるので、熱媒体自体の蓄冷熱量(顕熱による蓄冷熱)を増加させることができる。
【0221】
蓄冷熱量を増加させることにより、圧縮機32を作動させない状態であっても、ある程度の時間は蓄冷熱を利用した機器の冷却、加熱の温調が実施できるため、車両用熱管理システムの省動力化が可能になる。
【0222】
ナノ粒子のアスペクト比は50以上であるのが好ましい。十分な熱伝導率を得ることができるからである。なお、アスペクト比は、ナノ粒子の縦×横の比率を表す形状指標である。
【0223】
ナノ粒子としては、Au、Ag、CuおよびCのいずれかを含むものを用いることができる。具体的には、ナノ粒子の構成原子として、Auナノ粒子、Agナノワイヤー、CNT(カーボンナノチューブ)、グラフェン、グラファイトコアシェル型ナノ粒子(上記原子を囲むようにカーボンナノチューブ等の構造体があるような粒子体)、およびAuナノ粒子含有CNTなどを用いることができる。
【0224】
(2)上記各実施形態の冷凍サイクル31では、冷媒としてフロン系冷媒を用いているが、冷媒の種類はこれに限定されるものではなく、二酸化炭素等の自然冷媒や炭化水素系冷媒等を用いてもよい。
【0225】
また、上記各実施形態の冷凍サイクル31は、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成しているが、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超える超臨界冷凍サイクルを構成していてもよい。
【0226】
(3)上記実施形態では、ステップS100において、暖機前の電池温度が低いほど第1蓄電残量閾値SOC1を大きな値にするが、カーナビゲーションシステムで設定されたルート計画や過去の走行パターンに基づいて第1蓄電残量閾値SOC1を決定するようにしてもよい。
【0227】
具体的には、カーナビゲーションシステムで設定されたルート計画や過去の走行パターンを学習し、下り坂や発進・停止が多く回生エネルギが多く期待できる場合は第1蓄電残量閾値SOC1を低めの値に決定し、高速道路など一定車速で走行する頻度が高い場合は第1蓄電残量閾値SOC1を高めの値に決定すればよい。
【0228】
これにより、期待される回生エネルギの量に応じて、暖機後の電池の温度を調整でき、ひいて電池入力特性を調整できる。
【0229】
(4)上記実施形態では、ステップS100において、蓄電残量SOCが第1蓄電残量閾値SOC1を上回っているか否かによって、電池暖機後のEV走行可能距離が長いか否かを判断するが、車両のモニターに表示されるEV走行距離やEV走行時間に基づいて、電池暖機後のEV走行可能距離が長いか否かを判断してもよい。
【0230】
(5)上記実施形態では、ステップS160において、暖機前のエンジン冷却水温度が低いほど第2蓄電残量閾値SOC2を大きな値にするが、カーナビゲーションシステムで設定されたルート計画や過去の走行パターンに基づいて第2蓄電残量閾値SOC2を決定するようにしてもよい。
【0231】
具体的には、カーナビゲーションシステムで設定されたルート計画や過去の走行パターンを学習し、インバータ19等の発熱機器の廃熱が多く見込める場合は第2蓄電残量閾値SOC2を低めの値に決定し、インバータ19等の発熱機器の廃熱が多く見込めない場合は第2蓄電残量閾値SOC2を高めの値に決定すればよい。
【0232】
これにより、期待される機器廃熱量に応じて、エンジン61の暖機を開始するタイミングを調整できる。
【0233】
また、カーナビゲーションシステムで設定されたルート計画から、エンジン61が暖機される前に目的地に到着すると判断できる場合は、エンジン61の暖機を実施しないようにしてもよい。
【0234】
(6)上記実施形態では、ステップS160において、蓄電残量SOCに基づいて、エンジン61の暖機を開始するタイミングを判断するが、車両のモニターに表示されるEV走行距離やEV走行時間に基づいて、エンジン61の暖機を開始するタイミングを判断してもよい。
【0235】
(7)上記実施形態において、冷凍サイクル31の加熱能力が要求能力に対して不足する場合、インバータ19等の発熱機器を冷却水冷却器14に接続して、冷凍サイクル31がインバータ19等の発熱機器の廃熱を吸熱するようにしてもよい。これにより、冷凍サイクル31の吸熱量を増やして加熱能力を増やすことができる。
【0236】
さらに、制御装置70が、インバータ19等の発熱機器の作動効率を意図的に低下させることによって、インバータ19等の発熱機器の発熱量(廃熱量)を増やすようにしてもよい。
【0237】
(8)上記実施形態では、第1ポンプ11または第2ポンプ12から吐出された冷却水が、冷却水冷却水熱交換器18を介してエンジン冷却回路60のエンジン冷却水と熱交換するようになっているが、第1ポンプ11または第2ポンプ12から吐出された冷却水が流路切替弁を介してエンジン冷却回路60を循環するようになっていてもよい。
【0238】
この実施形態では、エンジン61の冷却水流路は、エンジン61と冷却水との間で熱授受が行われるエンジン用熱授受部を構成している。
【0239】
流路切替弁は、第1ポンプ11または第2ポンプ12から吐出された冷却水がエンジン冷却回路60を循環する場合と循環しない場合とを切り替える切替手段である。
【0240】
(9)上記実施形態において、車両の走行状況によって発熱量が変化する発熱機器としてインバータ19を備えているが、インバータ19の他に種々の発熱機器を備えていてもよい。車両の走行状況によって発熱量が変化する発熱機器の他の例としては、走行用電動モータや各種エンジン機器などが挙げられる。
【0241】
各種エンジン機器としては、ターボチャージャ、インタークーラ、EGRクーラ、CVTウォーマ、CVTクーラ、排気熱回収器などが挙げられる。
【0242】
ターボチャージャは、エンジンの吸入空気(吸気)を過給する過給機である。インタークーラは、ターボチャージャで圧縮されて高温になった過給吸気と冷却水とを熱交換して過給吸気を冷却する吸気冷却器(吸気熱媒体熱交換器)である。
【0243】
EGRクーラは、エンジンの吸気側に戻されるエンジン排気ガス(排気)と冷却水とを熱交換して排気を冷却する排気冷却水熱交換器(排気熱媒体熱交換器)である。
【0244】
CVTウォーマは、CVT(無段変速機)を潤滑する潤滑油(CVTオイル)と冷却水とを熱交換してCVTオイルを加熱する潤滑油冷却水熱交換器(潤滑油熱媒体熱交換器)である。
【0245】
CVTクーラは、CVTオイルと冷却水とを熱交換してCVTオイルを冷却する潤滑油冷却水熱交換器(潤滑油熱媒体熱交換器)である。
【0246】
排気熱回収器は、排気と冷却水とを熱交換して冷却水に排気の熱を吸熱させる排気冷却水熱交換器(排気熱媒体熱交換器)である。