(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各棚は、前記天井板を挟んで前記凹部の上方に配置されて開口部を上方に向けた第2凹部を有しており、上下に隣り合う2つの前記棚が、下方の前記棚の前記第2凹部と上方の前記棚の前記凹部とを連通させて、上下方向に重ねて配置されていることを特徴とする請求項1記載の細胞培養装置。
上下に隣り合う2つの前記棚において、下方の前記棚の前記通気管の上端が、上方の前記棚の前記通気管の下端以上の高さ位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養装置。
前記培養槽は、前記棚の出入口を上端に有していると共に、前記上端に対して着脱可能な前記出入口の蓋体を有しており、前記各棚と前記培養槽との間には水平方向においてそれぞれ隙間が設けられており、前記各棚に、前記出入口から前記隙間に挿入した出し入れ治具が係脱可能な係止部が設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の細胞培養装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水面下で通気や攪拌を行うと、液体培地に水流が発生して細胞に強いせん断力が加わり、細胞がダメージを受けて順調に培養されなくなってしまう。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、水流による強いせん断力を培養液(液体培地)中に発生させることなく培養液中の細胞に酸素を効率よく供給することができる細胞培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載した本発明の細胞培養装置は、
培養液中の細胞に酸素を供給する細胞培養装置であって、
培養液が充填される培養槽と、
前記培養槽の下部において、酸素含有ガスを前記培養液中に導入するガス供給口と、
前記ガス供給口よりも上方の培養液中に上下方向に重ねて配置され、それぞれの開口部を下方に向けた凹部を有する複数の棚と、
を備えており、
前記各棚の前記凹部の天井板には、該天井板を貫通する通気管が、上下方向において隣り合う棚どうしで水平方向に位置をずらしてそれぞれ設けられており、
前記培養液中を浮上し前記開口部から前記凹部に進入して滞留した前記酸素含有ガスが、前記通気管の内部を下端から上端に通過して、該通気管を前記天井板に設けた前記棚の上方に隣り合う棚の前記凹部に滞留する、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載した本発明の細胞培養装置によれば、ガス供給口から導入されて培養液中を浮上する酸素含有ガスの気泡は、その直上の棚の開口部から内部に進入して凹部内に滞留する。そして、滞留した酸素含有ガスにより凹部内の培養液の液面が、その棚の天井板を貫通する通気管の下端以下に押し下げられると、通気管の下端から内部に酸素含有ガスが進入し、天井板を超えて通気管の上端に移動する。
【0010】
通気管の上端に移動した酸素含有ガスは、上方に隣り合う次の棚の開口部から内部に進入する。このとき、下の棚と上の棚とで通気管の位置が水平方向にずらしてあるので、下の棚の通気管の上端に達した酸素含有ガスは上の棚の凹部内に滞留する。
【0011】
上の棚の凹部内に滞留した酸素含有ガスにより凹部内の培養液の液面が、上の棚の天井板を貫通する通気管の下端以下に押し下げられると、通気管の下端から内部に酸素含有ガスが進入し、上の棚の天井板を超えて通気管の上端に移動する。通気管の下端から上端への酸素含有ガスの移動は、移動した酸素含有ガスの分だけ上昇する凹部内の培養液の液面が通気管の下端に達してこれを塞ぐまで続く。
【0012】
上の棚の通気管の上端に移動した酸素含有ガスは、さらに上方に隣り合う次の棚の開口部から内部に進入して凹部内に滞留する。これが繰り返されることで、各棚の内部に酸素含有ガスが連続供給される。そして、各棚の凹部内には、培養液と酸素含有ガスとの界面(培養液の液面)がそれぞれ形成され、この界面から培養液に酸素が効率よく供給される。
【0013】
一方、各棚の凹部では、下方の棚の通気管を下端から上端に向けて通過した酸素含有ガスが、下方の棚との間の培養液中を気泡となって浮上すると、凹部内の酸素含有ガスの滞留量が増加して培養液の液面低下が発生する。また、各棚の凹部では、酸素含有ガスの滞留量が増加して酸素含有ガスが通気管を下端から上端に向けて通過し上方の棚の凹部に移動すると、凹部内の酸素含有ガスの滞留量が減少して培養液の液面上昇が発生する。しかし、培養液の液面の上昇や低下によって凹部内の培養液に水流が継続的に発生することはない。
【0014】
よって、培養槽の培養液中において、酸素含有ガスとの界面を各棚の凹部内にそれぞれ形成して培養液中の細胞に酸素を効率よく供給することができ、その際、細胞にせん断力を加える原因となる水流が凹部内の培養液に継続的に発生するのを抑制することができる。即ち、水流による強いせん断力を培養液中で発生させることなく培養液中の細胞に酸素を効率よく供給することができる。
【0015】
また、請求項2に記載した本発明の細胞培養装置は、請求項1に記載した本発明の細胞培養装置において、前記各棚は、前記天井板を挟んで前記凹部の上方に配置されて開口部を上方に向けた第2凹部を有しており、上下に隣り合う2つの前記棚が、下方の前記棚の前記第2凹部と上方の前記棚の前記凹部とを連通させて、上下方向に重ねて配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載した本発明の細胞培養装置によれば、上下に隣り合う2つの棚において、上側の棚の開口部を下方に向けた凹部内における、酸素含有ガスとの界面から下側の部分に位置する培養液の層が、この凹部と連通する下側の棚の開口部を下方に向けた第2凹部内の培養液の層に連なることになる。
【0017】
したがって、細胞が壁に付着しやすいものである場合、細胞を培養する際には各棚の第2凹部に細胞を先に接種し、培養した細胞を回収する際には、培養槽から培養液を回収した後、各棚の第2凹部内に残った培養液から細胞を回収することで、細胞の接種や回収を確実に行うことができる。
【0018】
さらに、請求項3に記載した本発明の細胞培養装置は、請求項1又は2に記載した本発明の細胞培養装置において、上下に隣り合う2つの前記棚において、下方の前記棚の前記通気管の上端が、上方の前記棚の前記通気管の下端以上の高さ位置に配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載した本発明の細胞培養装置によれば、請求項1又は2に記載した本発明の細胞培養装置において、上方の棚の凹部内における培養液の液面は通気管の下端に位置する際に最も高い位置となる。これに対し、下方の棚の通気管の上端は常にそれと同じ高さ位置かそれよりも高い位置に存在する。
【0020】
したがって、下方の棚の通気管を移動した酸素含有ガスが上方の棚の凹部内に進入する際に培養液中を気泡となって浮上することがない。よって、細胞にせん断力を加える原因となる水流が凹部内の培養液に発生するのを、より一層防止することができる。
【0021】
また、請求項4に記載した本発明の細胞培養装置は、請求項1、2又は3に記載した本発明の細胞培養装置において、前記培養槽は、前記棚の出入口を上端に有していると共に、前記上端に対して着脱可能な前記出入口の蓋体を有しており、前記各棚と前記水槽との間に水平方向においてそれぞれ隙間が設けられており、前記各棚に、前記出入口から前記隙間に挿入した出し入れ治具が係脱可能な係止部が設けられていることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載した本発明の細胞培養装置によれば、請求項1、2又は3に記載した本発明の細胞培養装置において、各棚が培養槽の出入口を通して培養槽に出し入れ可能となり、しかも、その出し入れを、棚と培養槽との隙間に挿入した出し入れ治具を棚の係止部に係止させて行うことができる。
【0023】
このため、無菌状態において、培養槽に対する培養液の供給や回収を行いつつ、培養槽に対する棚の出し入れを行うことで、細胞培養を全自動で行える細菌培養装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水流による強いせん断力を培養液(液体培地)中に発生させることなく培養液中の細胞に酸素を効率よく供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る細胞培養装置の概略構成を示す断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の細胞培養装置1は、有底の矩形筒状の培養槽10の内部に、平面視矩形の複数の棚20,20,…を上下方向に重ねて収容して構成されている。
【0028】
前記培養槽10は、上端に出入口11aを有する槽本体11と、槽本体11の上端に着脱可能な出入口11aの蓋体13とを有している。槽本体11は、槽本体11内に培養液15を導入する培地流入口11bを下部側面に有しており、また、槽本体11内の培養液15をオーバーフローさせて槽外に排出する培地流出口11cを、上部側面の蓋体13と干渉しない箇所に有している。
【0029】
培養液15は、動物細胞や植物細胞、酸素を必要とする好気性微生物細胞(以下、「細胞」と総称する。)の液体培地とするものである。そして、培地流入口11bから培養液15の導入を継続し、培地流出口11cからオーバーフローした培養液15を回収することで、槽本体11の培養液15を入れ替えることができる。また、培地流入口11bから培養液15を槽外に排出することで、槽本体11から培養液15を回収することができる。
【0030】
また、槽本体11は、槽本体11内の培養液15中に空気17(
図4(b)参照、請求項中の酸素含有ガスに相当)を導入する空気流入口11d(請求項中のガス供給口に相当)を下部側面に有しており、この空気流入口11dには、除菌フィルタ30を通過した除菌後の空気が供給される。さらに、槽本体11は、棚20の外周部が載置される載置片11eを、培地流入口11bや空気流入口11dが開口する下部内壁の直上の四隅に有している。
【0031】
蓋体13は、除菌フィルタ40を介して培養槽10の外部と連通した空気流出口13aを有している。蓋体13を槽本体11の上端に取付装着することで、出入口11aは蓋体13により密閉される。槽本体11内の培地流出口11cの上方に滞留する空気は、空気流出口13aから除菌フィルタ40を介して培養槽10の外部に放出される。
【0032】
図2(a)は
図1の各棚20の平面図、(b)は同縦断面図である。各棚20は、
図2(b)に示すように、上下方向中間の仕切板21(請求項中の天井板に相当)を挟んでその下方に凹部23を、上方に第2凹部25をそれぞれ有している。凹部23の開口部23aは上下方向下方に向けて開放されており、第2凹部25の開口部25aは上下方向上方に向けて開放されている。
【0033】
また、各棚20は、仕切板21を貫通して凹部23と第2凹部25とを連通する通気管27を有している。
図2(a)に示すように、通気管27は、仕切板21の長手方向一端寄りに、長手方向と直交する向きに等間隔で3つ配置されている。
図2(b)に示すように、各通気管27の下端27aは凹部23の開口部23aよりも上方に位置しており、通気管27の上端27bは第2凹部25の開口部25aよりも上方に位置している。
【0034】
さらに、各棚20は、
図2(a)に示すように、四隅にL字状の脚片29をそれぞれ有している。各脚片29は、
図2(b)に示すように、凹部23の開口部23aから下方に一部突出しており、
図1に示すように複数の棚20を重ね合わせた状態で、下方の棚20の上部四隅に嵌合される。この嵌合により、上下に重ねた2つの棚20,20が水平方向にずれないように位置決めされる。
【0035】
また、一番下段の棚20の各脚片29は、槽本体11の四隅の各載置片11eにそれぞれ載置され、これにより、一番下段の棚20が培地流入口11bや空気流入口11dの上方に位置決めされる。
【0036】
なお、
図1に示すように重ねた上下の2つの棚20,20において、下方の棚20の各通気管27の上端27bは、上方の棚20の各通気管27の下端27aと同じ高さに配置される。また、各棚20と槽本体11の内壁との間には、隙間19がそれぞれ形成される。
【0037】
以上に説明した培養槽10(槽本体11、蓋体13)や棚20は、例えば、通常の蒸気滅菌条件である121℃、2気圧で変質しないガラス、金属、シリコンゴム等で構成するのが望ましい。あるいは、蒸気滅菌以外の滅菌手段を用いる場合は、滅菌手段であるガンマ線、電子線、過酢酸、オゾン等の照射で変質しない材料で構成するのが好ましい。なお、培養槽10の要部を透明材料で構成すれば、槽内の様子を槽外から確認できるのでさらに好ましい。
【0038】
また、棚20は、槽本体11内の培養液15中に静置することから、培養液15中で浮力を上回る重力が作用する比重(重量)の材料で構成するのが好ましい。
【0039】
次に、上述した第1実施形態の細胞培養装置1で細胞培養を行う際の手順を、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0040】
まず、
図3(a)に示すように、無菌環境下において、滅菌済の棚20の第2凹部25に細胞50を接種して培養液15を充填する。そして、この状態の棚20を、
図3(b),(c)に示すように、滅菌された槽本体11に出入口11aから1つずつ入れて重ねていく。このとき、棚20は、滅菌された一対の出し入れ治具60,60を用いて出入口11aから槽本体11の内部に水平状態を保ったままの姿勢で設置される。
【0041】
詳しくは、各出し入れ治具60,60の下端のL字状に折り曲げた係止部61,61を、棚20の長手方向両側における2つの脚片29,29間の下縁部分(請求項中の係止部に相当)にそれぞれ係止し、槽本体11の内壁との隙間19を利用して出し入れ治具60により槽本体11の上方から内部に棚20を順次降ろす。
【0042】
そして、出し入れ治具60を棚20から外して槽本体11の内壁との隙間19に沿って引き上げ、次の棚20を係止して再び槽本体11内に降ろし、既に設置した棚20に重ねて設置する。これを繰り返すことで、本実施形態では、4つの棚20を槽本体11内に重ねて設置する。
【0043】
なお、通気管27が棚20の長手方向における一方の端部側と他方の端部側とに交互に配置されるよう、各棚20の向きを水平面内で180度ずつ変えて設置する。また、最初の棚20は各脚片29を槽本体11の四隅の載置片11eの上に載置し、2つ目以降の棚20は、各脚片29を槽本体11内の一番上段に設置された棚20の第2凹部25の四隅に係合させる。
【0044】
次に、
図4(a)に示すように、槽本体11の出入口11aを蓋体13で塞ぎ、培地流出口11cに液面が達するまで培地流入口11bから槽本体11内に培養液15を充填する。そして、培養液15の充填を終了した後、
図4(b)に示すように、空気流入口11dから除菌後の空気17を槽本体11の培養液15中に導入する。
【0045】
導入された空気17の気泡は、まず、一番下段の棚20の開口部23aから内部に進入して凹部23内の上部に滞留する。そして、滞留した空気17により凹部23内の培養液15の液面が、その棚20の仕切板21を貫通する通気管27の下端27a以下に押し下げられると、下端27aから通気管27の内部に空気17が進入し、仕切板21を超えて通気管27の上端27bに移動する。
【0046】
通気管27の上端27bに移動した空気17は、上方に隣り合う次の棚20の凹部23内に進入する。このとき、下の棚20と上の棚20とで通気管27の位置が水平方向にずらしてあるので、下の棚20の通気管27の上端27bに達した空気17は上の棚20の凹部23内の上部に滞留する。
【0047】
上の棚20の凹部23内の上部に滞留した空気17により凹部23内の培養液15の液面が、上の棚20の仕切板21を貫通する通気管27の下端27a以下に押し下げられると、下端27aから通気管27の内部に空気17が進入し、上の棚20の仕切板21を超えて通気管27の上端27bに移動する。通気管27の下端27aから上端27bへの空気17の移動は、移動した空気17の分だけ上昇する凹部23内の培養液15の液面が通気管27の下端27aに達してこれを塞ぐまで続く。
【0048】
上の棚20の通気管27の上端27bに移動した空気17は、さらに上方に隣り合う次の棚20の凹部23内に進入して凹部23内の上部に滞留する。これが各棚20で順次繰り返されることで、各棚20の凹部23内の上部に空気17がそれぞれ連続供給される。
【0049】
そして、各棚20の凹部23内の上部に空気17が滞留して培養液15との界面を形成し、この界面から培養液15中に取り込まれた酸素が細胞50に供給されて細胞50が培養される。
【0050】
なお、一番上段の棚20の凹部23から通気管27を経て槽本体11の培養液15の液面上の空間に移動した空気17は、蓋体13の空気流出口13a及び除菌フィルタ40を介して培養槽10の外部に放出される。
【0051】
培養槽10で培養された細胞50の回収は、例えば、無菌環境下において以下の手順で行うことができる。まず、空気流入口11dからの除菌後の空気17の導入を停止して、槽本体11内の培養液15を培地流入口11bから培養槽10の外部に排出する。そして、蓋体13を取り外して槽本体11の出入口11aから一対の出し入れ治具60,60を槽本体11の内壁と棚20との隙間19に挿入し、一番上段の棚20に係止部61,61を係止して、出し入れ治具60,60により一番上段の棚20を引き上げる。
【0052】
以後、各棚20を上側から順に槽本体11の出入口11aから出し入れ治具60,60を用いて取り出し、各棚20の第2凹部25の培養液15と共に、細胞50を回収する。
【0053】
なお、以上の手順による細胞50の回収や、先に説明した、第2凹部25に細胞50を接種し培養液15を充填した各棚20の槽本体11への設置、また、必要に応じた培養液15の入れ替え等を、出し入れ治具60,60等を操作する不図示のアクチュエータ等を利用してそれぞれ自動で行うことで、細胞50の培養を全自動化してもよい。
【0054】
このように構成された本実施形態の細胞培養装置1によれば、各棚20の凹部23内に空気17が供給される際には、各棚20において、下方の棚20の通気管27を下端27aから上端27bに向けて通過した空気17が、下方の棚20との間の培養液15中を気泡となって浮上し、凹部23内の空気17の滞留量が増加するので、凹部23内の培養液15の液面低下が発生する。また、凹部23内の空気17の滞留量が増加すると、空気17が通気管27を下端27aから上端27bに向けて通過して上方の棚20の凹部23に移動し、凹部23内の空気17の貯留量が減少するので、凹部23内の培養液15の液面が上昇する。しかし、培養液15の液面の上昇や低下によって、凹部23内の培養液15に水流が継続的に発生することはない。
【0055】
よって、培養槽10の培養液15中において、空気17との界面を各棚20の凹部23内にそれぞれ形成して培養液15中の細胞50に酸素を効率よく供給することができ、その際、細胞50にせん断力を加える原因となる水流が凹部23内の培養液15に継続的に発生するのを抑制することができる。即ち、水流による強いせん断力を培養液15中で発生させることなく培養液15中の細胞50に酸素を効率よく供給することができる。
【0056】
そして、本実施形態の細胞培養装置1では、各棚20の仕切板21の上方に、開口部25aを上方に向けた第2凹部25を設け、上下に隣り合う2つの棚20,20において、下の棚20の第2凹部25と上の棚20の凹部23とを連通させる構成とした。
【0057】
このため、上下に隣り合う2つの棚20,20において、上の棚20の凹部23内における、空気17との界面から下側の部分に位置する培養液15の層が、この凹部23と連通する下の棚20の第2凹部25内の培養液15の層に連なることになる。
【0058】
したがって、細胞50が壁に付着しやすいものである場合、細胞50を培養する際には各棚20,20の第2凹部25に細胞50を先に接種し、培養した細胞50を回収する際には、培養槽10から培養液15を回収した後、各棚20の第2凹部25内に残った培養液15から細胞50を回収することで、細胞50の接種や回収を確実に行うことができる。
【0059】
次に、本発明の第2実施形態に係る細胞培養装置について説明する。
図5は第2実施形態に係る細胞培養装置の概略構成を示す断面図である。
【0060】
図5に示すように、本実施形態の細胞培養装置1Aは、培養槽10の槽本体11内に重ねて配置する各棚20Aの構成を第1実施形態とは異ならせている。
【0061】
図6(a)は
図5の各棚20Aの平面図、(b)は同縦断面図である。各棚20Aは、
図6(a)に示すように、
図1乃至
図4に示す第1実施形態の棚20の第2凹部25を省略し、棚20Aの上端を凹部23の平坦な天井板21A(請求項中の天井板に相当)とした構成としている。そして、天井板21Aを貫通する通気管27の上端27bを、天井板21Aの上面と同じ位置に配置している。
【0062】
また、本実施形態の棚20Aは、第1実施形態の棚20の各脚片29に代えて、
図6(a)に示すように、凹部23の開口部23aの四隅に矩形の支持片29Aを、天井板21Aと平行にそれぞれ取り付けている。この支持片29Aは、下の棚20に重ねて棚20を配置した際に、下の棚20に対して凹部23の周壁の板厚分を超えて水平方向にずれても、下の棚20の天井板21Aの四隅に当接する。これにより、下の棚20に重ねた棚20が下の棚20の天井板21Aの外側に脱落するのを防止することができる。
【0063】
次に、上述した第2実施形態の細胞培養装置1Aで細胞培養を行う際の手順を、
図7乃至
図9を参照して説明する。
【0064】
まず、
図7(a)に示すように、無菌環境下において、培地流入口11bから槽本体11内に培養液15を棚20Aの高さ分程度充填して細胞50を接種し、この状態で、
図7(b)に示すように、出入口11aから槽本体11内に降ろした滅菌済の棚20Aを培養液15に静かに沈め、四隅の支持片29Aを槽本体11の四隅の載置片11eの上に載置する。
【0065】
次に、
図8(a)に示すように、培地流入口11bから槽本体11内に培養液15を棚20Aの高さ分程度さらに充填し、必要に応じて細胞50をさらに接種する。そして、この状態で、
図8(b)に示すように、出入口11aから槽本体11内に降ろした滅菌済の棚20Aを培養液15に静かに沈め、四隅の支持片29Aを設置済の棚20Aの天井板21Aの四隅の上に載置する。
【0066】
以後、同様の手順を繰り返して、
図9(a)に示すように、槽本体11の培養液15に4つ目の棚20Aを静かに沈めて、設置済の3段目の棚20Aに重ねて配置したら、培地流入口11bから槽本体11内に残りの培養液15を充填して、4段の棚20Aを培養液15中に全て沈める。
【0067】
以上の手順は、第1実施形態の場合と同様に、棚20Aの長手方向両側における2つの支持片29A,29A間の下縁部分(請求項中の係止部に相当)に係止部61をそれぞれ係止した一対の出し入れ治具60,60を用いて行ってもよい。
【0068】
そして、槽本体11の出入口11aを蓋体13で塞いだ後、
図9(b)に示すように、空気流入口11dから除菌後の空気17を槽本体11の培養液15中に導入する。
【0069】
導入された空気17の気泡は、まず、一番下段の棚20Aの開口部23aから内部に進入して凹部23内の上部に滞留する。そして、滞留した空気17により凹部23内の培養液15の液面が、その棚20Aの天井板21Aを貫通する通気管27の下端27a以下に押し下げられると、下端27aから通気管27の内部に空気17が進入し、天井板21Aを超えて通気管27の上端27bに移動する。
【0070】
通気管27の上端27bに移動した空気17は、上方に隣り合う次の棚20Aの凹部23内に進入する。このとき、下の棚20Aと上の棚20Aとで通気管27の位置が水平方向にずらしてあるので、下の棚20Aの通気管27の上端27bに達した空気17は上の棚20Aの凹部23内の上部に滞留する。
【0071】
上の棚20Aの凹部23内の上部に滞留した空気17により凹部23内の培養液15の液面が、上の棚20の天井板21Aを貫通する通気管27の下端27a以下に押し下げられると、下端27aから通気管27の内部に空気17が進入し、上の棚20Aの天井板21Aを超えて通気管27の上端27bに移動する。通気管27の下端27aから上端27bへの空気17の移動は、移動した空気17の分だけ上昇する凹部23内の培養液15の液面が通気管27の下端27aに達してこれを塞ぐまで続く。
【0072】
上の棚20Aの通気管27の上端27bに移動した空気17は、さらに上方に隣り合う次の棚20Aの凹部23内に進入して凹部23内の上部に滞留する。これが各棚20Aで順次繰り返されることで、各棚20Aの凹部23内の上部に空気17がそれぞれ連続供給される。
【0073】
そして、各棚20Aの凹部23内の上部に空気17が滞留して培養液15との界面を形成し、この界面から培養液15中に取り込まれた酸素が細胞50に供給されて細胞50が培養される。
【0074】
このように構成された本実施形態の細胞培養装置1Aでも、培養した細胞50の回収に関する点を除いて、第1実施形態の細胞培養装置1と同様の効果を得ることができる。
【0075】
なお、上述した第2実施形態の細胞培養装置1Aでは、通気管27の上端27bを、天井板21Aの上面と同じ位置に配置した。しかし、例えば
図10の断面図に示す第2実施形態の変形例に係る細胞培養装置の棚20Bのように、上下に隣り合う2つの棚20B,20Bにおいて、下の棚20Bの通気管27の上端27bを、上の棚20Bの通気管27の下端27aよりも上方に位置させてもよい。
【0076】
このように構成すれば、上の棚20Bの凹部23内の上部に滞留した空気17中に、下の棚20Bの通気管27の上端27bが位置することになる。したがって、下の棚20Bの通気管27を下端27aから上端27bに移動した空気17が、上の棚20Bの凹部23内の上部に滞留した空気17中に直接放出され、その下の培養液15中に気泡となって放出されることがなくなる。これにより、培養液15中に空気17の気泡が放出されることで水流が生じるのを防ぎ、培養液15中の細胞50をせん断力からより一層保護することができる。
【0077】
また、
図10に示す通気管27の構成は、第1実施形態の細胞培養装置1の棚20に設けた通気管27にも適用可能である。
【0078】
さらに、上述した第1及び第2実施形態やその変形例の細胞培養装置1,1Aでは、細胞50の培養中、必要に応じて、培地流入口11bから培養液15を槽本体11内に流入させて、オーバーフローした培養液15を培地流出口11cから培養槽10の外部に排出させることで、培養液15の入れ替えを行ってもよい。
【実施例】
【0079】
本発明の細胞培養装置による細菌への酸素供給能力を検証するため、実施例と比較例の各細胞培養装置を用いて実験を行った。ここで、実施例には、
図5に示す構造の細胞培養装置を用い、比較例には、培養槽内に何も配置しない細胞培養装置を用いた。なお、いずれも培養槽の容積は13リットルとし、培養液の代わりに培養槽に充填した水は9リットルとした。
【0080】
そして、培養槽下部の気体流入口から培養槽内にアルゴンガスを供給し、槽内の酸素をパージした後、1リットル/分の流量で気体流入口から空気を槽内の水に供給した場合の、槽内の気相(水に溶解せず蓋体で閉じた培養槽上部の出入口付近に滞留した排ガス)の酸素濃度の経時変化を、実施例と比較例とのそれぞれについて、ガスクロマトグラフによって計測した。その結果を示すのが、
図11のグラフである。
【0081】
図11を見てもわかるように、排ガス中の酸素濃度は、実施例も比較例も同様の経過を経て飽和酸素濃度に近づいており、供給開始後20分が経過した辺りでは、酸素が水にほとんど溶解せず排ガスの酸素濃度がほぼ飽和状態となった。
【0082】
そこで、上述の条件で培養槽に空気を20分間供給した時点での、以下の(a)乃至(c)の各項目、
(a)空気供給開始後20分間に気体流入口から供給した積算酸素量、
(b)排ガス中に残留した酸素量、
(c)培養槽上部の気体流出口から流出した気体中の積算酸素量、
を、ガスクロマトグラフによって計測した。
【0083】
上述した(a)乃至(c)の各計測結果と、(a)−(b)−(c)の計算によって求めた培養槽内の水に溶解した酸素量とを、実施例と比較例とのそれぞれについて示したのが下記の表である。これを見ると明らかなように、実施例でも比較例でも、水に溶解した酸素量は誤差程度の違いでほとんど変わりがないことが判った。
【0084】
【表1】
【0085】
そして、比較例の培養槽内では、空気の供給により水中に発生した気泡が槽上部に浮上するのに伴い、水面付近と槽底部付近とでUターンする環状の水流が発生したが、実施例の培養槽内では、槽内に配置した棚が気泡の浮上を遮り棚の凹部内に滞留させるため、水中に環状の水流は発生しなかった。
【0086】
このため、水流によるせん断力が細胞に加わる比較例の培養槽に代えて、水流が発生せずせん断力が細胞に加わらない実施例の培養槽を用いても、細胞に酸素を同等の効率で供給できることが分かった。