(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、送電線を延線するために送電線が金車を通過する際に、送電線が凸条の部分で金車に当接するため、最外周の素線の外周面に設けられた凸条が損傷を受けることが予想される。したがって、特許文献1に記載の技術では、送電線の延線の際に、送電線の風圧特性が悪化する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、風圧特性を改善するとともに、金車を通過する際に最外層の素線が損傷することを抑制した送電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、
長手方向に延伸する中心部と、
前記中心部の外側に設けられ螺旋状に撚り合わせられる複数の素線と、
を有し、
前記素線は、
長手方向に延伸する帯部と、
前記帯部の短手方向の一端側に前記帯部の長手方向に連続して設けられ前記帯部の外周面に沿って短手方向に突出する第1凸部と、
前記帯部の短手方向の他端側に前記帯部の長手方向に連続して設けられ前記帯部の内周面に沿って前記帯部の前記第1凸部と反対側に突出する第2凸部と、
を有し、
隣り合う2つの前記素線のうち、一方の前記素線の前記第1凸部および前記帯部は、他方の前記素線の前記第2凸部および前記帯部に対して嵌合し、
前記一方の素線の内周面から前記第1凸部の外周面の先端までの高さは、前記他方の素線の内周面から前記帯部の外周面までの高さと異なる
送電線が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、
前記一方の素線の内周面から前記第1凸部の外周面の先端までの高さは、前記他方の素線の内周面から前記帯部の外周面までの高さよりも低い
第1の態様に記載の送電線が提供される。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、
前記複数の素線は、
内周面から前記第1凸部の外周面の先端までの高さが、前記内周面から前記帯部の外周面までの高さよりも低い第1素線と、
内周面から前記第1凸部の外周面の先端までの高さが、前記内周面から前記帯部の外周面までの高さよりも高い第2素線と、
を有する
第1の態様に記載の送電線が提供される。
【0010】
本発明の第4の態様によれば、
前記複数の素線は、複数の前記第1素線を有し、
前記複数の第1素線のそれぞれにおける前記帯部の外周面と前記第1凸部の外周面の先端との差は、前記第2素線に近づくにつれて縮小する
第3の態様に記載の送電線が提供される。
【0011】
本発明の第5の態様によれば、
前記複数の素線は、複数の前記第2素線を有し、
前記複数の第2素線のそれぞれにおける前記帯部の外周面と前記第1凸部の外周面の先端との差は、前記第1素線に近づくにつれて縮小する
第3または第4の態様に記載の送電線が提供される。
【0012】
本発明の第6の態様によれば、
前記複数の素線のうち少なくとも1つの前記素線の内周面から外周面までの高さは、他の前記素線の内周面から外周面までの高さよりも低い
第1〜第5の態様のいずれかに記載の送電線が提供される。
【0013】
本発明の第7の態様によれば、
前記複数の素線のうち少なくとも1つの前記素線の内周面から外周面までの高さは、他の前記素線の内周面から外周面までの高さよりも高い
第1〜第6の態様のいずれかに記載の送電線が提供される。
【0014】
本発明の第8の態様によれば、
前記一方の素線と前記他方の素線との間の外周側に形成される段差は、全体の直径の0.5%以上4.0%以下である
第1〜第7の態様のいずれかに記載の送電線が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、風圧特性を改善するとともに、金車を通過する際に最外層の素線が損傷することを抑制した送電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の第1実施形態>
(1)送電線の構造
本発明の第1実施形態に係る送電線について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る送電線10の軸方向と直交する断面図である。
【0018】
本実施形態に係る送電線10は、架空電線として用いられるよう構成され、例えば、中心部100と、中心部100の周囲に設けられる外部撚線層200と、を有する。以下、詳細を説明する。
【0019】
(中心部)
図1に示されているように、送電線10の中心には、中心部100が設けられる。中心部100は、例えば、中心に設けられる第1芯線120と、第1芯線120の外周を覆うように撚り合わせられる第2芯線140と、を有する。第2芯線140は、例えば6本設けられ、第1芯線120を中心に対称に配置される。
【0020】
中心部100は、例えば、鋼線(高強度鋼線を含む)からなる芯線、インバーからなる芯線、およびカーボンコンポジットからなる芯線の少なくともいずれか一つにより構成される。なお、「カーボンコンポジット」とは、複数本集合させたカーボンファイバー(炭素繊維)を樹脂で固めることにより形成される。なお、中心部100の芯線の外周には、腐食を抑制するためにアルミニウム(Al)等が被覆されていてもよい。
【0021】
中心部100と後述する外部撚線層200との間には、例えば防食グリスが充填される。これにより、中心部100の腐食が抑制される。
【0022】
(外部撚線層)
送電線10は、中心部100の外側に設けられ、複数の素線(300,400)が撚り合わせられる外部撚線層200を有する。素線(300,400)は、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、若しくは導電性樹脂により形成され、または金属線および導電性樹脂線を撚り合わせることにより形成される。
【0023】
送電線10には、外部撚線層200は複数層設けられる。例えば、送電線10は、中心部100の外周に接する第1の外部撚線層220と、第1の外部撚線層220の外側に設けられる第2の外部撚線層240と、を有する。
【0024】
第1の外部撚線層220は、螺旋状に撚り合される複数の素線300を有する。素線300の断面は、中心部100の中心側から外周に向けて拡張され、例えば扇方形である。これにより、第1の外部撚線層220において、素線300が密に充填される。
【0025】
第2の外部撚線層240は、螺旋状に撚り合わせられる複数の素線400を有する。第2の外部撚線層240は、送電線10の最外層に位置するため、外部から、直接、風を受ける。このため、第2の外部撚線層240の断面形状は、送電線10の風圧特性に影響を与える。
【0026】
(第2の外部撚線層の素線形状)
ここで、
図2(a)および(b)を用い、第2の外部撚線層240の素線400の形状について説明する。以下において「長手方向」とは、送電線10が延伸する方向のことをいい、後述する「短手方向」とは、長手方向に垂直な方向のことをいう。また、「内周面」とは、中心部100側の面のことをいい、「外周面」とは、内周面と反対側の面のこという。また、断面における「高さ」とは、送電線10の径方向の距離のことを意味する。
【0027】
図2(a)に示されているように、第2の外部撚線層240の素線400は、3つの部分に分けられ、例えば、帯状に長手方向に延伸する帯部420と、第1凸部440と、第2凸部460と、を有する。
【0028】
第1凸部440は、帯部420の短手方向の一端側に帯部420の長手方向に連続して設けられ、帯部420の外周面に沿って短手方向に突出する。帯部420および第1凸部440の外周面は、第1凸部440の先端に行くにしたがって径方向の内側または外側に滑らかに傾斜している。本実施形態では、例えば、帯部420および第1凸部440の外周面は、径方向の内側に傾斜している。なお、帯部420および第1凸部440の外周面が傾斜し始める位置は、帯部420および第1凸部440の接続位置、または当該接続位置よりも第2凸部460側であることが好ましく、帯部420および第1凸部440の外周面は、緩やかな円弧形状であることがさらに好ましい。
【0029】
第2凸部460は、帯部420の短手方向の他端側に帯部420の長手方向に連続して設けられ、帯部420の内周面に沿って帯部420の第1凸部440と反対側に突出する。帯部420および第2凸部460の内周面は、第1の外部撚線層220の外周面に沿って設けられる。
【0030】
図2(b)には、隣り合う2つの素線400a,400bが示されている。
図2(b)に示されているように、隣り合う2つの素線400a,400bのうち、一方の素線400aの第1凸部440aおよび帯部420aは、他方の素線400bの第2凸部460bおよび帯部420bに対して嵌合する。図示されていない他の隣り合う2つの素線400も、素線400a,400bと同様にして互いに嵌合する。
【0031】
例えば、一方の素線400aの第1凸部440aは、他方の素線400bの帯部420bの側面と接する。また、一方の素線400aの帯部420aの側面は、他方の素線400bの第2凸部460bと接する。これにより、第2の外部撚線層240において、素線400が密に充填される。
【0032】
また、一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの内周面までの高さh3は、他方の素線400bの内周面から第2凸部460bの外周面までの高さと等しい。これにより、複数の素線400が嵌合したときに、第2の外部撚線層240の内周面は段差なく形成される。複数の素線400によって形成される内周面は、中心部100の中心を中心軸とする円柱の側面に相当する曲面を形成する。これにより、第2の外部撚線層240は中心部100側の第1の外部撚線層220に対して滑らかに接する。したがって、送電線10に対して外部から応力が加わった際に中心部102側に伝達する応力が均一化される。
【0033】
また、第1凸部440aの外周面は径方向の内側または外側に傾斜しているため、一方の素線400aの内周面(帯部420aの内周面に相当する曲面の位置)から第1凸部440aの外周面の先端までの高さh1は、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さh2と異なる。すなわち、一方の素線400aの第1凸部440aの外周面と、他方の素線400bの帯部420bの外周面と、の間には、素線400a,400bの撚り合せ方向に沿って段差d(=|h2−h1|)が形成されている。
【0034】
本実施形態では、一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの外周面の先端までの高さh1は、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さh2よりも低い。
【0035】
また、一方の素線400aと他方の素線400bとの間の外周側に形成される段差dは、送電線10全体の直径Dの0.5%以上4.0%以下である。なお、送電線10の直径Dとは、第2の外部撚線層240の外周の高さが平均となる位置における送電線10の直径、すなわち第2の外部撚線層240の高さが(h1+h2)/2となる位置における送電線10の直径のことをいう。例えば第2の外部撚線層240の外周面が緩やかな円弧形状である場合、送電線10の直径Dは、第2の外部撚線層240の円弧形状の外周面の中点の位置における送電線10の直径である。本実施形態の送電線10の風に対する抗力係数は、段差dが上記範囲内であることにより、最外層の素線の断面が扇方形である送電線10の抗力係数よりも小さくなる。
【0036】
なお、最外層の外部撚線層の素線の断面が扇方形であり直径Dが等しい送電線における外部撚線層の断面積に対する、本実施形態の送電線における外部撚線層200の断面積の比率は、例えば99%以上である。すなわち、本実施形態の送電線10における外部撚線層200の抵抗は、最外層の外部撚線層の素線の断面積が扇方形である送電線における外部撚線層の抵抗と比べて、1.01倍以下程度である。本実施形態では、このように第2の外部撚線層240の素線の形状を扇方形に近い形状にして送電線10を低損失化させた状態であっても、風圧特性を改善することができる。
【0037】
さらに、第2の外部撚線層240の最も外側の表面には、粗面化処理が施されてもよい。粗面化処理は、例えばサンドブラスト処理である。これにより、送電線10からの反射が抑制される。
【0038】
また、第2の外部撚線層240の最も外側の表面には、低明度化処理が施されてもよい。低明度化処理とは、例えば送電線10の表面に暗色系の薄膜層を形成する処理のことである。これにより、周囲の環境に対して送電線10を目立たなくさせることができる。
【0039】
また、第2の外部撚線層240の最も外側の表面には、親水化処理が施されてもよい。親水化処理は例えばベーマイト処理である。これにより、送電線10の最も外側の表面に水滴が発生することを抑制することにより、送電線10からのコロナ放電が抑制される。
【0040】
以上のように、低弛度増容量電線である送電線10が構成される。
【0041】
送電線10の具体的な寸法としては、送電線10が
図1のような構成である場合、例えば中心部100の芯線の直径は1mm以上5mm以下であり、中心部100の直径は3mm以上15mm以下である。また、一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの外周面の先端までの高さh1は1.4mm以上8.5mm以下であり、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さh2は1.5mm以上10mm以下である。一方の素線400aと他方の素線400bとの間の外周側に形成される段差dは0.1mm以上1.5以下であり、好ましくは0.1mm以上1.2mm以下である。
【0042】
一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの内周面までの高さh3は、例えば他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さh2の1/3倍以上2/3倍以下であり、好ましくは1/2倍である。
【0043】
第1凸部440の周方向の長さは、例えば帯部420の周方向の長さの1/5倍以上1/2倍以下であり、好ましくは1/3倍であり、第2凸部460の周方向の長さは、例えば帯部420の周方向の長さの1/5倍以上1/2倍以下であり、好ましくは1/3倍である。
【0044】
第2の外部撚線層240の素線400の本数は10本以上30本以下である。また、送電線10の直径Dは、5mm以上60mm以下、好ましくは10mm以上40mm以下である。
【0045】
(2)送電線の製造方法
次に、本実施形態に係る送電線10の製造方法について説明する。
【0046】
まず、所定本数の芯線を形成し、1本の芯線を第1芯線120として中心に配置し、第1芯線120の外周を覆うように6本の芯線を第2芯線140として撚り合わせることにより、中心部100を形成する。
【0047】
次に、断面が扇方形である複数の素線300を形成し、中心部100の外周を覆うように、複数の素線300を撚り合わせることにより、第1の外部撚線層220を形成する。
【0048】
次に、上述のように帯部420、第1凸部440および第2凸部460を有する複数の素線400を、例えば帯部420、第1凸部440および第2凸部460に相当する開口を有する金型を用い成型する。この金型には、素線400の内周面から第1凸部440の外周面の先端までの高さが、素線400の内周面から帯部の外周面までの高さよりも低くなるように開口が形成されている。
【0049】
次に、第1の外部撚線層220の外周を覆うように複数の素線400を撚り合わせる。このとき、隣り合う2つの素線400a,400bのうち、一方の素線400aの第1凸部440aおよび帯部420aを、他方の素線400bの第2凸部460bおよび帯部420bに対して嵌合させていく。これにより、第2の外部撚線層240を形成する。
【0050】
第2の外部撚線層240を形成した後、第2の外部撚線層240の最も外側の表面にサンドブラスト処理を施してもよい。これにより、表面を粗面化させる。また、サンドブラスト処理が施された第2の外部撚線層240の表面に、親水化処理を施してもよい。
【0051】
以上により、本実施形態に係る送電線10が製造される。
【0052】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態やその変形例によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0053】
(a)本実施形態によれば、送電線10の最外層における第2の外部撚線層240は、複数の素線400を有する。一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの外周面の先端までの高さh1は、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さh2と異なる。これにより、送電線の風圧特性を改善することができる。
【0054】
ここで、最外層の素線の断面が円形である素線を有する従来の送電線よりも低損失化させるため、最外層の素線の断面が扇方形である送電線が用いられることがある。最外層の素線の断面が扇方形である送電線では、送電線の形状が円柱に近くなる。このように断面が円柱に近い送電線では、送電線に短手方向から風が吹きつけられると、送電線の表面から剥離した気流は、そのまま流れ去る。このため、送電線の風下側の伴流が大きくなり、送電線の風下側と風上側とで送電線が風から受ける抗力に差が生じ、送電線の風圧荷重が増加する。すなわち、送電線の抗力係数が大きくなる。具体的には、風速40m/sにおける風圧特性が円柱の風圧特性に近くなり、抗力係数がおよそ1.2程度となる。一方で、最外層の素線の断面が円形である従来の送電線の風速40m/sにおける抗力係数がおよそ1.0である。したがって、最外層の素線の断面が扇方形である送電線の風圧特性は、従来の送電線の風圧特性よりも劣っていた。
【0055】
これに対して、本実施形態によれば、一方の素線400aの第1凸部440aの外周面は径方向の内側または外側に傾斜している。隣り合う素線400によって送電線10の外周には螺旋状の段差dが形成される。この送電線10に側方から風が吹きつけられると、送電線10の表面を風下側に流れ、送電線10に形成された段差で気流の混合が生じる。送電線10の段差から一端剥離した気流は、再び送電線10の風下側の表面に再付着する。送電線10付近における気流がこのような現象を繰り返すことにより、送電線10の表面から気流が剥離する剥離点は送電線10の風下側に移動する。これにより、送電線の風下側の伴流が小さくなり、風圧抵抗が低減する。このように、本実施形態によれば、送電線10の風圧特性を改善することができる。
【0056】
(b)本実施形態によれば、第1凸部440は、帯部420の外周面に沿って設けられる。送電線10の最外層である第2の外部撚線層240には、滑らかな外周面が形成される。これにより、送電線10が金車を通過する際に送電線10の最外層の素線400が損傷することを抑制することができる。
【0057】
ここで、近年では、風圧特性を改善するため、最外層の素線の断面形状が扇方形ではない送電線が開示されている。例えば、特許文献1には、最外周の素線の外周面に設けられた凸条を有する送電線が記載されている。
【0058】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、送電線を延線するために送電線が金車を通過する際に、送電線が凸条の部分で金車に当接するため、最外周の素線の外周面に設けられた凸条が損傷(潰れ等)を受けることが予想される。したがって、特許文献1に記載の技術では、凸条が損傷することによって、送電線の延線の際に、送電線の風圧特性が悪化する可能性がある。
【0059】
これに対して、本実施形態によれば、送電線10を延線するために送電線10が金車を通過する際に、第2の外部撚線層240の外周面が滑らかに金車に当接する。これにより、特許文献1に係る技術と比較して、送電線10の最外層の素線400が損傷することを抑制することができる。したがって、送電線10の最外層の素線400の損傷を抑制することにより送電線の風圧特性が悪化することを抑制することができる。
【0060】
(c)本実施形態によれば、第2の外部撚線層240における隣り合う2つの素線400のうち、一方の素線400aの第1凸部440aおよび帯部420aは、他方の素線400bの第2凸部460bおよび帯部420bに対して嵌合する。他方の素線400bの第2凸部460bは、一方の素線400aの第1凸部440aによって送電線10の径方向への移動が規制される。これにより、第2の外部撚線層240における素線400が径方向にずれることが抑制される。
【0061】
(d)本実施形態によれば、一方の素線400aと他方の素線400bとの間の外周側に形成される段差dは、送電線10の直径Dの0.5%以上4.0%以下である。ここで、送電線10の風に対する抗力係数は、段差dに対して下に凸の関係を有する。言い換えれば、送電線10の風に対する抗力係数が所定の値以下であるためには、段差dが所定の範囲内に限られる。本実施形態では、送電線10の外周に形成される段差dが上記範囲内であることにより、送電線10の風に対する抗力係数が、最外層の素線の断面積が円形である送電線10の抗力係数よりも小さくなる。
【0062】
(e)本実施形態によれば、第2の外部撚線層240を形成する複数の素線400は、全て同じ金型で成型される。これにより、容易に風圧特性を改善した送電線10を製造することができる。
【0063】
<本発明の第2実施形態>
図3を用い、本発明の第2実施形態について説明する。
図3は、本実施形態に係る送電線12の軸方向と直交する断面図である。
【0064】
本実施形態は、第2の外部撚線層の構成が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明し、第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
(1)送電線の構造
図3に示されているように、第2の外部撚線層242における複数の素線402は、例えば二種類の素線を有し、最外周に形成される段差の傾斜方向が周方向で変化するよう構成される。
【0066】
具体的には、複数の素線402は、内周面から第1凸部442aの外周面の先端までの高さが内周面から帯部422aの外周面までの高さよりも低い第1素線402aと、内周面から第1凸部442bの外周面の先端までの高さが内周面から帯部422bまでの高さよりも高い第2素線402bと、を有する。
【0067】
第1素線402aは、例えば複数設けられる。複数の第1素線402aのそれぞれにおける帯部422aの外周面と第1凸部442aの外周面の先端との差は、第2素線402bに近づくにつれて縮小する。
【0068】
第2素線402bは、例えば複数設けられる。複数の第2素線402bのそれぞれにおける帯部422bの外周面と第1凸部442bの外周面の先端との差は、第1素線402aに近づくにつれて縮小する。
【0069】
本実施形態では、内周面から第1凸部442cの外周面の先端までの高さが内周面から帯部422cの外周面までの高さと等しい基準素線402cが、中心部100を中心として対称な位置に2箇所設けられる。基準素線402cを基準として短手方向の一方の側に、第1素線402aが設けられ、基準素線402cを基準として短手方向の他方の側に、第2素線402bが設けられる。
【0070】
(2)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、第1素線402aでは、第1凸部442aの先端が帯部422aよりも低く、第2素線402bでは、第1凸部442bの先端が帯部422bよりも高い。上述の第1実施形態では、送電線10が金車を通過するとき、送電線10の段差の傾斜方向に沿って周方向に回転し易くなることが考えられる。これに対して、本実施形態では、最外周に形成される段差の傾斜方向が周方向で変化するよう構成されることにより、送電線12が金車を通過する際に、周方向のいずれか一方向だけに送電線12が回転することを抑制することができる。
【0071】
<本発明の第3実施形態>
図4を用い、本発明の第3実施形態について説明する。
図4は、本実施形態に係る送電線14の軸方向と直交する断面図である。
【0072】
本実施形態は、第2の外部撚線層の構成が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明し、第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0073】
(1)送電線の構造
図4に示されているように、第2の外部撚線層244における複数の素線404のうち少なくとも1つの素線404bの内周面から外周面までの高さは、他の素線404aの内周面から外周面までの高さよりも低い。
【0074】
(2)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、送電線14の側方から風が吹きつけられた際に、素線404bの位置で気流の混合が生じうる。したがって、本実施形態の送電線14の風圧特性を、第1実施形態の送電線10の風圧特性よりもさらに改善することができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、降雨により送電線14に水滴が付着したときに、送電線14の外周面を水滴が流れ落ちることを素線404bで止めることができる。ここで、円柱状の送電線では、降雨により送電線に水滴が付着したとき、送電線の鉛直下方には水滴が鋭利形状で残存しうる。このため、コロナ騒音が増加する可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、降雨時の水滴を、他の素線404aと異なる高さを有する素線404bで止めることにより、コロナ騒音を低減することができる。
【0076】
<本発明の第4実施形態>
図5を用い、本発明の第4実施形態について説明する。
図5は、本実施形態に係る送電線16の軸方向と直交する断面図である。
【0077】
本実施形態は、第2の外部撚線層の構成が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明し、第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0078】
(1)送電線の構造
図5に示されているように、第2の外部撚線層246における複数の素線406のうち少なくとも1つの素線406bの内周面から外周面までの高さは、他の素線406aの内周面から外周面までの高さよりも高い。
【0079】
(2)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、第3実施形態と同様にして、送電線16の風圧特性を、第1実施形態の送電線10の風圧特性よりもさらに改善することができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、第3実施形態と同様にして、降雨時の水滴を素線406bで止めることにより、コロナ騒音を低減することができる。
【0081】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0082】
上述の実施形態では、中心部100が第1芯線120および第2芯線140の2層からなり、合計6本の芯線を有する場合について説明したが、中心部は3層以上から構成されていてもよい。
【0083】
また、上述の実施形態では、送電線10は、第1の外部撚線層220および第2の外部撚線層240からなる2層の外部撚線層200を有する場合について説明したが、送電線は1層の外部撚線層だけを有していても良く、また送電線は3層以上の外部撚線層を有していても良い。
【0084】
また、上述の実施形態では、一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの外周面の先端までの高さは、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さよりも低い場合について説明したが、一方の素線400aの内周面から第1凸部440aの外周面の先端までの高さは、他方の素線400bの内周面から帯部420bの外周面までの高さよりも高くてもよい。
【実施例】
【0085】
次に、本発明に係る実施例について比較例と共に説明する。
【0086】
(送電線の製造)
本発明に係る送電線として、以下の表1のように、比較例1および実施例1〜17に係る送電線を製造した。なお、表1において、「段差比率」とは、送電線の直径Dに対する、隣接する素線の外周側に形成される段差dの比率(d/D×100)のことである。「外部撚線断面積比」とは、外部撚線層の素線の断面が扇方形であり直径Dが等しい送電線における外部撚線層の断面積(すなわち中心部を除いた送電線の断面積)を100%としたときの、それぞれの実施例における外部撚線層の断面積の比率(%)である。また、実施例1〜16における「送電線の直径D」とは、送電線の第2の外部撚線層の外周の高さが平均となる位置における直径のことである。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示されているように、比較例1として、外部撚線層の素線の断面が扇方形である送電線を形成した。なお、比較例1では、送電線の直径Dを28.5mmとし、最外層の素線の本数を12本とし、中心部の芯線を亜鉛メッキ鋼により形成した。なお、外部撚線断面積比は、扇方形の素線が隙間なく充填されていると仮定して、100%とした。
【0089】
一方、本発明の実施例として、以下のように実施例1〜17の送電線を形成した。
実施例1〜16では、送電線の直径Dを21.8mmまたは28.5mmとし、第2の外部撚線層の素線の本数は12本または28本とし、段差比率を0.1〜5.0%とし、外部撚線面積比を99.3〜99.7%とした。また、実施例1〜16では、中心部の芯線を亜鉛メッキ鋼により形成した。
なお、実施例1〜8については、比較例1における外部撚線層の断面積を100%として外部撚線断面積を算出し、実施例9〜16については、外部撚線層の素線の断面が扇方形であり直径Dが21.8mmである送電線における外部撚線層の断面積を100%として外部撚線断面積比を算出した。
【0090】
なお、実施例1〜8、および実施例9〜16のそれぞれにおいて、共通する1つの金型を用い、12本または28本の第2の外部撚線層の素線を形成した。
【0091】
また、実施例1〜16の送電線において、上述のように外部撚線面積比を、99.3%以上としたため、実施例1〜16における第2の外部撚線層の素線の形状は、扇方形に近い状態とした。したがって、実施例1〜16において、第2の外部撚線層に段差が形成されていることによる送電線の損失は小さい。
【0092】
(評価)
表1に示されているように、これらの実施例1〜16および比較例1に対して、風速40m/sのときの送電線の風に対する抗力係数を評価した。なお、表1中の「抗力係数」とは、風速40m/sのときの送電線の風に対する抗力係数を示している。
【0093】
図6は、実施例の送電線における段差比率に対する抗力係数を示す図であり、表1における「段差比率」に対する「抗力係数」をグラフ化したものである。
図6に示されているように、実施例の送電線の抗力係数は、第2の外部撚線層に段差dを設けることにより、比較例の送電線の抗力係数(1.16)よりも減少している。すなわち、実施例1〜16では、第2の外部撚線層に段差を設けることにより、風圧特性が最外層の素線の断面が扇方形である比較例1よりも改善されている。
【0094】
また、
図6に示されているように、実施例では、送電線の風に対する抗力係数は、段差比率に対して下に凸の関係を有している。最外層の素線の断面が円形である送電線の抗力係数がおよそ1.0であることから、送電線の抗力係数が1.0以下であることが好ましい。送電線の抗力係数が1.0以下となる可能性がある段差比率の範囲は、0.5%以上4.0%以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5%以上4.0%以下であり、最適には2.0%である。
【0095】
さらに、実施例1〜16の送電線について、総距離が約200mである共通の線路において、線路の中央に設けられた鉄塔に金車を設置して、送電線の延線作業を行う評価を行った。その結果、実施例1〜16の送電線には、金車に接触することによる損傷等は見られなかった。
【0096】
以上のように、本発明によれば、風圧特性を改善するとともに、金車を通過する際に最外層の素線が損傷することを抑制した送電線を提供することができる。