【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0050】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
以下のように、電解液の液面の高さ、および集電端子の接続位置の高さをそれぞれ変更して、各種リチウムイオン二次電池を作製し、サイクル耐久性を評価した。
【0051】
なお、今回の実験では、電極体400の下端部BTから、正極集電端子120の接続部120aまでの高さと、負極集電端子220の接続部220aまでの高さは同一とした。
【0052】
<実施例1>
(正極板の作製)
正極活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)と、導電助材(AB)と、結着材(PVdF)とを、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2:AB:PVdF=93:4:3(質量比)となるように混合し、さらにNMP中で混練することにより正極合材スラリーを得た。次いでダイコーターを用いて、正極合材スラリーを長尺帯状のAl箔(集電芯材)の両主面上に塗工、乾燥して正極合材部100aを形成した。さらにロール圧延機を用いて、正極合材部100aを圧延することにより、正極板100を得た。正極板100は短手方向(幅方向)の片側に連続して正極非合材部100bを有するものとした。
【0053】
(負極板の作製)
負極活物質(天然黒鉛粉末)と、増粘材(CMC)と、結着材(SBR)とを、天然黒鉛:CMC:SBR=98:1:1(質量比)となるように混合し、さらに水中で混練することにより負極合材スラリーを得た。次いでダイコーターを用いて、負極合材スラリーを長尺帯状のCu箔(集電芯材)の両主面上に塗工、乾燥して負極合材部200aを形成した。さらにロール圧延機を用いて、負極合材部200aを圧延することにより、負極板200を得た。負極板200は幅方向の片側に連続して負極非合材部200bを有するものとした。
【0054】
(電解液の調製)
ECとEMCとDMCとを、EC:EMC:DMC=3:4:3(体積比)となるように混合して混合溶媒を得た。次いで、この混合溶媒にLiPF
6(1.0mol/L)を溶解させることにより電解液を調製した。この電解液の密度は、1.23g/cm
3であった。
【0055】
(組み立て)
PP/PE/PPの3層構造を有するセパレータ300を準備した。そして
図3を参照して、セパレータ300を介して正極板100と負極板200とが対向するように巻回して楕円状の巻回体を得た。次いで平板プレス機を用いて、巻回体を偏平状にプレス加工することにより、巻回型の電極体400を得た。このとき、電極体400の高さ方向の長さ寸法〔完成電池において距離(X)となるべき寸法〕は90mmとした。
【0056】
図1を参照して、筐体本体500aと、予め集電端子および外部端子が設けられた蓋体500bとを準備した。
【0057】
次に、電極体400の巻回軸AWの一方の端部から露出した正極非合材部100bを束ねるように、Al製の正極集電端子120を正極非合材部100bに溶接して電気的に接続した。同様に、巻回軸AWの他方の端部から露出した負極非合材部200bを束ねるように、Cu製の負極集電端子220を負極非合材部200bに溶接して電気的に接続した。このとき、電極体400の下端部BTから各集電端子の接続部120a,220aまでの距離(Z)は、35mmとした。
【0058】
次に、電極体400を筐体本体500aに挿入し、筐体本体500aと蓋体500bとをレーザ溶接によって接合した。さらに蓋体500bに設けられた注液孔(図示せず)から、上記で調製した電解液(142g)を注液した。注液後、電極体400の下端部BTから液面ELまでの距離(Y)は、30mmとなっていた。
【0059】
そして注液孔を封止栓によって封止することにより、角形リチウムイオン二次電池(設計容量:25Ah)を得た。
【0060】
<実施例2〜8および比較例1〜5>
表1に示すように、電解液の注液量を変更して距離(Y)を変化させるとともに、集電端子の形状(長さ寸法)および溶接位置を変更して距離(Z)を変化させることを除いては、実施例1と同条件を用いて、実施例2〜8および比較例1〜5に係る角形リチウムイオン二次電池を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
〔評価〕
上記で得た各電池の評価を以下のようにして行なった。なお以下の説明において「CC」は定電流を、「CV」は定電圧をそれぞれ示すものとする。
【0063】
(初期容量の測定)
各電池に対して、25℃環境下で、CC−CV充電(CC電流:25A、CV電圧:4.1V、総充電時間:2時間)と、CC−CV放電(CC電流:25A、CV電圧:3.0V、総放電時間:2時間)とを行なって、初期容量(放電容量)を測定した。
【0064】
(サイクル耐久試験)
0℃に設定した恒温槽内で、各電池に対して、次の[1]〜[4]の操作を順次実行することを1サイクルとする充放電サイクルを1000cyc実行した。
【0065】
[1]パルス充電(電流値:130A、時間:17秒間)
[2]休止(時間:10分間)
[3]パルス放電(電流値:130A、時間:30秒間)
[4]休止(時間:10分間)。
【0066】
そして、1000cyc実行後、初期容量と同条件でサイクル後容量を測定し、サイクル後容量を初期容量で除することにより、容量維持率を算出した。結果を表1に示す。
【0067】
<結果と考察>
(1)液面の高さの影響について
図4は、下端部BTから液面ELまでの距離(Y)と、下端部BTから上端部TPまでの距離(X)との比、すなわち電極体400のうち電解液に浸っている部分の割合を表す指標(Y/X)が、容量維持率に及ぼす影響を示すグラフである。
図4において、集電端子の接続位置の高さを表す指標(Z/X)は0.39に固定されている。
【0068】
図4から分かるように、Y/Xが0.22〜0.44である範囲では、Y/Xが小さくなる程(すなわち液面ELが低くなる程)、容量維持率が向上している。これは、電極体400において、電解液との接触体積が減少することにより、奪熱量が減少し、温度ムラが抑えられるからであると考えられる。
【0069】
しかし、Y/Xが0.11未満となると急激に容量維持率が減少している。これは、液面ELが過度に低くなることにより、液枯れの進行が早まったからであると考えられる。したがってこの結果から、Y/Xは少なくとも0.11以上であることを要する。
【0070】
(2)集電端子の接続位置の高さの影響について
図5は、下端部BTから各集電端子と電極体400との接続部120a,220aまでの距離(Z)と、下端部BTから上端部TPまでの距離(X)との比、すなわち集電端子の接続位置の高さを表す指標(Z/X)が、容量維持率に及ぼす影響を示すグラフである。
図5において、電極体のうち電解液に浸っている部分の割合を表す指標(Y/X)は0.22に固定されている。
【0071】
図5から分かるように、Z/Xが小さい程、すなわち電池1000の高さ方向において各集電端子と電極体400との接続部120a,220aが低い位置である程、容量維持率が向上している。これは、接続部120a,220aの位置が低くなることにより、電極体400の下方部分および電解液が加熱され、温度ムラが抑えられるからであると考えられる。したがって、Z/Xは小さい程好ましく、最も好ましくは0(ゼロ)である。
【0072】
またZ/Xが0.50から0.39に減少すると容量維持率が大幅に向上し、0.39を境界としてその効果は若干鈍化している。したがってZ/Xは少なくとも0.39以下であることを要する。
【0073】
(3)液面の高さおよび集電端子の接続位置の高さの相乗作用について
図6は、電極体のうち電解液に浸っている部分の割合を表す指標(Y/X)、および集電端子の接続位置の高さを表す指標(Z/X)の両方を変化させた場合における容量維持率の推移を示すグラフである。
図6中の点線は、容量維持率の推移傾向が分かりやすいように補助的に付している。
【0074】
図6から、0.11≦Y/X≦0.33であり、かつ0≦Z/X≦0.39となる領域において、容量維持率が著しく向上していることが分かる。このような結果となる理由は、液面ELの高さを低くしたことによる奪熱抑制作用と、集電端子の接続部120a,220aの高さを低くしたことによる加熱作用とが相乗するからであると考えられる。
【0075】
以上の実験結果から次の事項が実証できたといえる。
すなわち、筐体500と、筐体500に内蔵される巻回型の電極体400および電解液と、電極体400に接続される正極集電端子120および負極集電端子220と、を備え、電極体400の下端部BTは電解液に浸っており、電池の高さ方向において、電極体400の下端部BTから電極体400の上端部TPまでの距離をXとし、下端部BTから電解液の液面ELまでの距離をYとし、下端部BTから正極集電端子120と電極体400との接続部120aまでの距離、および下端部BTから負極集電端子220と電極体400との接続部220aまでの距離のうち、少なくともいずれかの距離をZとするとき、0.11≦Y/X≦0.33かつ0≦Z/X≦0.39となる関係を満たすリチウムイオン二次電池は、サイクル耐久性に優れる。
【0076】
以上のように本実施形態および実施例について説明を行なったが、今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。