特許第6252240号(P6252240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6252240印刷システム、濃度補正方法及び補正要否判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252240
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】印刷システム、濃度補正方法及び補正要否判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/205 20060101AFI20171218BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20171218BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20171218BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20171218BHJP
   B41J 29/393 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   B41J2/205
   B41J2/01 451
   B41J2/21
   B41J2/52
   B41J29/393 107
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-36403(P2014-36403)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160352(P2015-160352A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164633
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(72)【発明者】
【氏名】保井 勝至
【審査官】 小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−237725(JP,A)
【文献】 特開2013−022881(JP,A)
【文献】 特開2013−220574(JP,A)
【文献】 特開2009−190324(JP,A)
【文献】 特開2009−241564(JP,A)
【文献】 特開2013−039826(JP,A)
【文献】 特開2006−224419(JP,A)
【文献】 特開2000−127461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
B41J 2/52
B41J 29/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷に係る画像データに基づいて印刷用データを形成するコンピューターと、前記コンピューターから出力される前記印刷用データに基づいて媒体に印刷画像を形成する液体噴射装置とを備え、
前記液体噴射装置は、
ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射可能な液体噴射部と、前記液体噴射部から噴射された前記液滴により前記媒体に形成されたパターンの濃度を測定可能な濃度測定器とを備え、予め設定された一部のドットで少なくとも一つのパターンにより構成される判定チャートを前記液体噴射部が形成するとともに、前記濃度測定器が前記判定チャートにおける前記パターンの濃度を測定し、
前記コンピューターは、前記濃度測定器が前記判定チャートから得た濃度測定結果に基づいて前記画像データの濃度補正の要否を判定する
印刷システム。
【請求項2】
前記液体噴射装置は、前記画像データについて濃度補正が必要である旨の判定結果に基づいて前記液体噴射部が前記一部のドットとは別の他のドットの補正チャートを媒体に形成し、これらの補正チャートの濃度を前記濃度測定器が測定し、その濃度測定結果を出力する
請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記液体噴射部は、前記媒体の搬送方向に対して交差する走査方向に移動するものであり、前記一部のドットの判定チャートの形成の際及び前記他のドットの補正チャートの形成の際、これらのチャートを構成する各パターンを前記走査方向に沿うように形成する
請求項2に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記液体噴射部は、ドットサイズ及び色の異なる複数種の液滴を噴出するものであり、
前記一部のドットの判定チャートは各色の判定パターンを含み、
前記他のドットの補正チャートは、各ドットについて各色の補正パターンを含む
請求項2または請求項3に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記コンピューターは、前記印刷画像の印刷解像度の種別に対応して、その印刷画像を形成するために用いるドットの組を異ならせているものであり、
前記一部のドットの判定チャートは、印刷の際に設定される前記印刷解像度に対応するドットの組の判定パターンを含む
請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷システム。
【請求項6】
ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射する液体噴射部により予め設定された一部のドットを用いて判定チャートを形成する工程と、
前記判定チャートの濃度を測定する工程と、
前記判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定する工程と、
前記判定チャートの濃度と前記基準値との差の絶対値が前記許容値よりも大きいとき、前記他のドットについて補正チャートを形成する工程と、
前記他のドットについての前記補正チャートの濃度を測定する工程と、
前記一部のドットの前記判定チャートに係る濃度測定結果と前記他のドットの前記補正チャートに係る濃度測定結果に基づいて、印刷に係る画像データを補正する工程とを含む
濃度補正方法。
【請求項7】
印刷に係る画像データに基づいて印刷用データを形成するコンピューターと、前記コンピューターから出力される前記印刷用データに基づいて媒体に印刷画像を形成する液体噴射装置とを備え、前記液体噴射装置は、ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射可能な液体噴射部と、前記液体噴射部から噴射された前記液滴により前記媒体に形成されたパターンの濃度を測定可能な濃度測定器とを有する印刷システムに組み込まれ、
前記印刷システムの液体噴射部に、予め設定された一部のドットを用いて媒体に判定チャートを形成させる手順と、
前記印刷システムの前記濃度測定器に、前記判定チャートの濃度を測定させる手順と、
前記印刷システムの前記コンピューターに、前記判定チャートの濃度測定結果に基づいて、前記判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定させる手順とを含む
補正要否判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に形成される印刷画像の濃度を補正する機能を有する印刷システム、濃度補正方法及び補正要否判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷に係る画像データに基づいて印刷用データを形成するコンピューターと、コンピューターから出力される印刷用データに基づいて用紙やシート等の媒体に画像を形成する液体噴射装置と、を備える印刷システムが知られている。そして、こうした印刷システムにおける液体噴射装置の一種として、ドットサイズの異なる複数種のインク滴を媒体に噴射して印刷を行うインクジェット式のプリンターが広く知られている。
【0003】
この種のプリンターでは、長期使用によるノズルの目詰り等の物理的要因や温度及び湿度等の環境要因によって液体噴射ヘッドから吐出するインク滴の液量が変化することがあり、これによって媒体に形成される印刷画像の濃さ(以下、「濃度」という。)が変化することがある。そこで、印刷画像の濃度を適正な基準に調整するために、印刷システムには濃度を補正する濃度補正機能が設けられている。
【0004】
濃度補正は、例えば、特許文献1に示されるように、次のように行われる。
すなわち、ドットの種別毎に補正用のパターンを印刷し、それぞれの補正用のパターンについて濃度を測定する。そして、ドットの種別毎に、補正用のパターンの濃度と予め設定された基準値とを比較して、その差を求めて補正する。これにより、基準値からの濃度のずれが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−220574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような濃度補正には一定時間以上の時間を要するため、濃度補正の時間を短くしたいという要望がある。このようなことから、プリンターの使用に際して行われる濃度補正について、そのうちの何回かでも濃度補正に要する時間が短縮されることが好ましい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体噴射装置の使用の際に行われる濃度補正について、濃度補正に要する時間を短縮することができる印刷システム、濃度補正方法及び補正要否判定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る印刷システムは、印刷に係る画像データに基づいて印刷用データを形成するコンピューターと、前記コンピューターから出力される前記印刷用データに基づいて媒体に印刷画像を形成する液体噴射装置とを備え、前記液体噴射装置は、ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射可能な液体噴射部と、前記液体噴射部から噴射された前記液滴により前記媒体に形成されたパターンの濃度を測定可能な濃度測定器とを備え、予め設定された一部のドットで少なくとも一つのパターンにより構成される判定チャートを前記液体噴射部が形成するとともに、前記濃度測定器が前記判定チャートにおける前記パターンの濃度を測定し、前記コンピューターは、前記濃度測定器が前記判定チャートから得た濃度測定結果に基づいて前記画像データの濃度補正の要否を判定する。
【0009】
従来では、このような印刷用データの元になる画像データの濃度補正の要否について判定を行わず、濃度補正の処理の要求に基づいて、ドットの種別毎に補正パターンを形成し、各補正パターンの濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う。これに対し、上記構成では、まず、一部のドットについての判定チャート(一または複数のパターンにより構成されるもの)を形成し、その判定チャートにより濃度補正の要否についての判定を行う。このため、従来では、濃度補正を行う必要がないときでもドットの種別毎に行っていた一連の処理のうちの一部分について、その処理を省略することができる。これにより、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0010】
本発明の印刷システムにおいて、前記液体噴射装置は、前記画像データについて濃度補正が必要である旨の判定結果に基づいて前記液体噴射部が前記一部のドットとは別の他のドットの補正チャートを媒体に形成し、これらの補正チャートの濃度を前記濃度測定器が測定し、その濃度測定結果を出力する。
【0011】
この構成を逆に言えば、濃度補正が必要でない場合には、一部のドットとは別の他のドットについては補正チャートを形成せず、また、補正チャートの濃度の測定も行わないことになる。このため、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0012】
本発明の印刷システムにおいて、前記液体噴射部は、前記媒体の搬送方向に対して交差する走査方向に移動するものであり、前記一部のドットの判定チャートの形成の際及び前記他のドットの補正チャートの形成の際、これらのチャートを構成する各パターンを前記走査方向に沿うように形成する。
【0013】
この構成では、一部のドットの判定チャートの形成の際及び他のドットの補正チャートの形成の際、これらのチャートを構成する各パターンを液体噴射部の走査方向に沿うように形成する。このため、各ドットのパターンを媒体の搬送方向に沿って形成する場合に比べて、パターンの形成時間を短縮することができる。よって、濃度補正に要する時間を短縮することができる。
【0014】
本発明の印刷システムにおいて、前記液体噴射部は、ドットサイズ及び色の異なる複数種の液滴を噴出するものであり、前記一部のドットの判定チャートは各色の判定パターンを含み、前記他のドットの補正チャートは、各ドットについて各色の補正パターンを含む。
【0015】
この構成によれば、色の異なる複数種のドットを用いて印刷画像を形成する場合(所謂、カラー印刷)において、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
本発明の印刷システムにおいて、前記コンピューターは、前記印刷画像の印刷解像度の種別に対応して、その印刷画像を形成するために用いるドットの組を異ならせているものであり、前記一部のドットの判定チャートは、印刷の際に設定される前記印刷解像度に対応するドットの組の判定パターンを含む。
【0016】
この構成では、印刷解像度の種別に対応してドットの組を異ならせる印刷システムにおいて、所定の印刷解像度に対応するドットの組を用いて濃度補正の要否を判定する。すなわち、他の印刷解像度に対応するドットの組については、濃度補正の要否の判定の際に、その判定チャートを形成しない。このため、従来では、濃度補正を行う必要がないときでも行っていた他の印刷解像度に対応するドットの組についての一連の処理について、その処理を省略することができる。これにより、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0017】
本発明の濃度補正方法は、ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射する液体噴射部により予め設定された一部のドットを用いて判定チャートを形成する工程と、前記判定チャートの濃度を測定する工程と、前記判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定する工程と、前記判定チャートの濃度と前記基準値との差の絶対値が前記許容値よりも大きいとき、前記他のドットについて補正チャートを形成する工程と、前記他のドットについての前記補正チャートの濃度を測定する工程と、前記一部のドットの前記判定チャートに係る濃度測定結果と前記他のドットの前記補正チャートに係る濃度測定結果に基づいて印刷に係る画像データを補正する工程とを含む。
【0018】
この構成では、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う前に、まず、一部のドットについての判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定する。
【0019】
このため、従来の方法、すなわち、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う場合に各ドットについて補正パターンを形成し、各補正パターンの濃度を測定し、濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う従来の方法に比べて、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0020】
本発明の補正要否判定プログラムは、印刷に係る画像データに基づいて印刷用データを形成するコンピューターと、前記コンピューターから出力される前記印刷用データに基づいて媒体に印刷画像を形成する液体噴射装置とを備え、前記液体噴射装置は、ドットサイズが異なる複数種の液滴を媒体に噴射可能な液体噴射部と、前記液体噴射部から噴射された前記液滴により前記媒体に形成されたパターンの濃度を測定可能な濃度測定器とを有する印刷システムに組み込まれ、前記印刷システムの液体噴射部に、予め設定された一部のドットを用いて媒体に判定チャートを形成させる手順と、前記印刷システムの前記濃度測定器に、前記判定チャートの濃度を測定させる手順と、前記印刷システムの前記コンピューターに、前記判定チャートの濃度測定結果に基づいて、前記判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定させる手順とを含む。
【0021】
この構成では、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う前に、まず、コンピューターに、一部のドットの判定チャートの濃度測定結果に基づいて、判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定させる。
【0022】
このため、従来のプログラム、すなわち、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う場合に、印刷システムに、各ドットについて補正パターンを形成させ、各補正パターンの濃度を測定させ、濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う従来のプログラムに比べて、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】印刷システムの斜視図。
図2】印刷処理のフローチャート。
図3】印刷解像度に対応するドットの種別を示すテーブル。
図4図4(a)〜図4(h)は、階調値と補正階調値との関係を示す補正階調テーブル。
図5】ブラックについて、階調値と、各ドットのドット生成数と、相対ドット数との関係を示すドット生成数テーブル。
図6】ブラックについて、階調値と各ドットのドット生成数との関係を図示したグラフ。
図7】濃度補正処理のフローチャート。
図8】判定チャートの一例を示す図。
図9】判定パターン作成用のグラフ。
図10】ドットに関する補正階調値を導出する方法を説明する図。
図11】各ドットについて、階調値と、ドットに関する補正階調値との関係を示すテーブル。
図12】各ドットについて、ドット生成数と補正ドット生成数との関係を示すテーブル。
図13】補正階調テーブルの作成方法を説明する図であり、図13(a)はドット生成数テーブル、図13(b)は補正後のドット生成数を示すテーブル、図13(c)は補正階調テーブル。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る印刷システムの一実施形態について、図面に従って説明する。
図1に示すように、印刷システム1は、PC(personal computer)、携帯電話、携帯端末等のコンピューター10と、液体噴射装置としてのインクジェット式のプリンター11とを備える。
【0025】
コンピューター10は、印刷プログラムと、濃度補正プログラムとを記憶し、所定操作に基づいてこれらのプログラムを実行する。
例えば、使用者が印刷を行う際にコンピューター10のインターフェイスに対して行う所定操作に基づいて、コンピューター10が印刷プログラムを実行する。
【0026】
また、使用者が印刷された画像について濃度補正を行う際にコンピューター10のインターフェイスに対して行う所定操作に基づいて、コンピューター10が濃度補正プログラムを実行する。
【0027】
印刷プログラムは、印刷に係る画像データに基づいてプリンター11により印刷可能な印刷用の画像データすなわち印刷用データを形成する。
濃度補正プログラムは、画像データの補正が必要であるか否かについて判定する補正要否判定プログラムと、プリンター11から出力される濃度測定結果に基づいて印刷に係る画像データを補正する画像補正プログラムとを含む。
【0028】
プリンター11は、コンピューター10から有線または無線により送信される印刷用データに基づいて媒体としての記録用紙Pに画像(以下、記録用紙Pに形成された画像を「印刷画像」という。)を形成する。
【0029】
なお、インクジェット式のプリンター11の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は各図中に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。「前後方向」とは、記録用紙Pが送り出される方向であり、「左右方向」は後述の「走査方向」に沿う方向であり、「上下方向」は「前後方向」及び「左右方向」に垂直な方向を示す。
【0030】
プリンター11は、略矩形箱状をなす本体フレーム12を備えている。本体フレーム12内の下部には、その左右方向に沿って延びる矩形板状の支持台13が設けられている。支持台13上には、本体フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、紙送り機構により記録用紙Pが後方側から給送される。
【0031】
本体フレーム12内における支持台13の上方には、この支持台13の左右方向に沿って延びるガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、このガイド軸15の軸線方向である左右方向に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。キャリッジ16はガイド軸15に沿う走査方向(左右方向)に往復移動可能に支持されている。
【0032】
キャリッジ16上には、内部に液体としての複数色のインクが互いに隔絶された状態で収容されたインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。なお、本実施形態では、インクカートリッジ20には、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタ、グレー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトグレーの8色のインクが収容されている。
【0033】
本体フレーム12の後壁内面には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aには駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されている。両プーリー17a,17b間には無端状のタイミングベルト19が掛装されている。キャリッジ16は、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト19を介して走査方向に移動する。
【0034】
キャリッジ16の下部には、記録用紙Pに対してインク滴(液滴の一例)を噴射する液体噴射部としての複数の記録ヘッド21が、支持台13上に給送される記録用紙Pと対向するように支持されている。
【0035】
また、キャリッジ16の下部には、記録用紙Pに形成された印刷画像の濃度を測定する濃度測定器22が記録用紙Pと対向するように支持されている。濃度測定器22は、例えば、投光素子と受光素子とを備える反射センサーとして構成される。
【0036】
また、プリンター11の制御部30は、各記録ヘッド21にそれぞれ備えられた圧電素子を制御することにより、記録ヘッド21から吐出するインク滴のインク量を制御する。具体的には、圧電素子に印加する電圧波形を制御して、インク量が異なる複数種のドットを構成する。この実施形態では、大、中、小の3種類のドットを構成する。更に、制御部30は、印刷画像の印刷解像度に応じて、3種類の大、中、小のドットそれぞれについて、インク量を異ならせている。
【0037】
例えば、プリンター11の制御部30は、インク量が異なる小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1を形成する。また、制御部30は、この3種のドットとは別の、小ドットS2、中ドットM2、大ドットL2を形成する。ここで、小ドットS1と小ドットS2の量、中ドットM1と中ドットM2の量、大ドットL1と大ドットL2の量はそれぞれ異なる。
【0038】
そして、低印刷解像度の印刷画像を形成する際には小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1を用いる。中印刷解像度の印刷画像を形成する際には、小ドットS2、中ドットM2、大ドットL2を用いる。高印刷解像度の印刷画像を形成する際には、小ドットS2のみを用いる。
【0039】
また、制御部30は、キャリッジモーター18の駆動制御により、キャリッジ16を走査方向に移動させる。更に、制御部30は、紙送り機構の駆動により、記録用紙Pを前方(搬送方向)に搬送する。
【0040】
上記プリンター11は次のように記録用紙Pに印刷画像を形成する。
プリンター11は、コンピューター10から印刷用データを取得する。そして、プリンター11は、キャリッジ16及び記録用紙Pを所定の位置に移動し、インクカートリッジ20内のインクを各記録ヘッド21へと供給し、圧電素子を駆動して各記録ヘッド21から各インクを記録用紙Pに噴射する。この操作を繰り返すことにより記録用紙Pに、印刷用データに対応する印刷画像を形成する。
【0041】
図2図6を参照して、画像データに基づいて印刷用データを形成する処理(以下、「印刷処理」という。)について説明する。
この印刷処理は、コンピューター10によって行われる。具体的には、コンピューター10が印刷プログラムを実行することで、印刷処理が実行されることになる。以下、コンピューター10が実行する各ステップについて説明する。
【0042】
ステップS110では、コンピューター10が画像データ及び印刷設定データを取得する。
印刷設定データには、印刷において使用する記録用紙Pのサイズ、印刷に係る印刷画像の精細度を示す印刷解像度等の情報が含まれる。印刷解像度は、プリンター11を使用する使用者によって設定される設定値である。例えば、印刷解像度として、3種類の解像度が用意される(図3参照)。コンピューター10は、選択された印刷解像度によって、印刷画像を形成するために用いるドットの組を決定する。
【0043】
図3に、各印刷解像度に対応するドットの組の一例を示す。
この例では、720dpi×720dpi(dots per inch)の印刷解像度では、小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1の組が用いられる。
【0044】
720dpi×1440dpiの印刷解像度では、小ドットS2、中ドットM2、大ドットL2の組が用いられる。
2880dpi×1440dpiの印刷解像度では、小ドットS2が用いられる。すなわち、高印刷解像度の印刷では、中印刷解像度の印刷の際に用いられる小ドットS2のみを用いて印刷画像を形成する。
【0045】
ステップS120では、コンピューター10は解像度変換処理を実行する。解像度変換処理では、元の画像データを、選択された印刷解像度の画像データに変換する。
ステップS130では、コンピューター10は色変換処理を実行する。色変換処理では、ステップS120により処理された画像データについて、印刷可能な色により構成される画像データに変換する。例えば、RGBで構成される画像データを上記8色で構成される画像データに変換する。
【0046】
ステップS140では、コンピューター10は、ステップS130により処理された画像データについて、使用に係るドットの種別毎及びインクの色毎に、補正階調テーブル(図4参照)に基づいて階調値を補正する。このような階調値の補正は次の理由による。
【0047】
ステップS130の処理によって構成された画像データに対して所定の処理(ステップS150以降の処理)を行って印刷を行った場合、使用期間や使用環境(例えば、温度及び湿度の変化)によって、基準の所定濃度からずれる場合がある。例えば、プリンター11の長期の使用により記録ヘッド21のノズルに目詰りが生じている場合には、基準値からその濃度(濃淡)がずれる場合がある。また、高温環境下では、インクに含まれる溶剤が揮発し易くなるため、このような環境下で形成される印刷画像は、常温環境下で形成される印刷画像とは、その濃度(濃淡)が異なることがある。
【0048】
このような場合の対策として、この印刷システム1には、印刷に係る印刷画像の濃度を補正する処理(以下、「濃度補正処理」という。)が用意されている。濃度補正処理は、画像データに含まれる階調値を補正することにより印刷画像の濃度を基準値に近づけるものである。濃度補正処理では、ドットの種別毎及びインクの色毎に、補正階調テーブルを作成する。ステップS140の処理では、濃度補正処理によって作成された補正階調テーブルを用いて、階調値を補正する。
【0049】
ステップS150では、コンピューター10は低階調化処理を実行する。低階調化処理では、ステップS140により処理された画像データを低階調の画像データに変換する。例えば、高階調の画像データを、図5のドット生成数テーブルを用いて、3種類のドット(小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1)を構成要素とする低階調の画像データに変換する。これにより、小ドットS1により構成される第1画像データ、中ドットM1により構成される第2画像データ、及び大ドットL1により構成される第3画像データが形成される。
【0050】
ステップS160では、コンピューター10は、ステップS150により処理された画像データをディザリング処理する。ディザリング処理は、第1〜第3画像データそれぞれについて実行される。ディザリング処理により、印刷画像において各インクの中間色が疑似的に表現されるようになる。
【0051】
ステップS170では、コンピューター10は、ステップS160により処理された画像データをラスタライズ処理する。ラスタライズ処理により、画像データが印刷用の画像データすなわち印刷用データに変換される。
【0052】
次に、印刷処理において用いられる各種テーブルについて説明する。
図4に、上記ステップS140において用いられる補正階調テーブルの一例を示す。
補正階調テーブルは、ドットの種別毎及びインクの色毎に設けられる。図4には、所定のドット(例えば、中ドットM1)の各インクについて、その補正階調テーブルを示す。
【0053】
図4(a)はブラック色のインクの、図4(b)はシアン色のインクの、図4(c)はマゼンタ色のインクの、図4(d)はイエロー色のインクの、図4(e)はライトシアン色のインクの、図4(f)はライトマゼンタ色のインクの、図4(g)はグレー色のインクの、図4(h)はライトグレー色のインクの補正階調テーブルを示す。
【0054】
例えば、ステップS140では、次のように階調値が補正される。
ブラックでは、図4(a)のテーブルを参照して、画像データの階調値が149である画素に対して139が設定される。同様に、画像データの階調値が150である画素に対して140が設定される。階調値が151である画素に対して141が設定される。
【0055】
図5は、上記ステップS150の低階調化処理の際に用いられるドット生成数テーブルである。
ドット生成数テーブルは、印刷解像度の種別毎に構成されている。本実施形態の印刷システム1は、低印刷解像度用、中印刷解像度用、高印刷解像度用それぞれのドット生成数テーブルを有する。
【0056】
ドット生成数テーブルは、画像データの各階調値と各ドットのドット生成数とを対応付けしたものである。具体的には、所定の階調値iは、小ドットS1のドット生成数Sd1(i)と、中ドットM1のドット生成数Md1(i)と、大ドットL1のドット生成数Ld1(i)とにより構成されるデータ組に対応付けられている。
【0057】
また、ドット生成数テーブルは、各階調値に対応付けられた相対ドット数R1を有する。相対ドット数R1は、階調値におけるインクの相対量を示す。
具体的には、相対ドット数R1は、小ドットS1の相対液量とドット生成数との乗算値と、中ドットM1の相対液量とドット生成数との乗算値と、大ドットL1の相対液量とドット生成数との乗算値との和によって算出される。小ドットS1の相対液量は、大ドットL1の相対液量を1としたときの相対量であり、0よりも大きくかつ1よりも小さい値に設定される。中ドットM1の相対液量は、大ドットL1の相対液量を1としたときの相対量であり、小ドットS1の相対液量よりも大きくかつ1よりも小さい値に設定される。このようにして定義される相対ドット数R1は後述する濃度補正処理において用いられる。
【0058】
図6は、図5のドット生成数テーブルを図示化したグラフである。
図6の、実線は小ドットS1のドット生成数を示し、破線は中ドットM1のドット生成数を示し、一点鎖線は大ドットL1のドット生成数を示す。
【0059】
図6に示すように、階調値が高くなるにつれて、大ドットL1のドット生成数Ld1が大きくなるように設定されている。また、階調値の中間領域では、他のドットに比べて中ドットM1のドット生成数Md1の割合が大きくなるように設定されている。また、階調値が低領域では、他のドットに比べて小ドットS1のドット生成数Sd1の割合が大きくなるように設定され、階調値が0に近づくにつれて、小ドットS1のドット生成数Sd1が小さくなるように設定されている。
【0060】
次に、濃度補正処理について説明する。
この濃度補正処理は、コンピューター10によって行われる。具体的には、コンピューター10が濃度補正プログラムを実行することで、濃度補正処理が実行されることになる。下記のステップS210〜ステップS230の処理が補正要否判定プログラムに該当し、下記のステップS240〜ステップS280の処理が画像補正プログラムに該当する。
【0061】
図7に、濃度補正処理のフローチャートを示す。
ステップS210では、コンピューター10は、プリンター11に所定の判定チャートを形成させる。
【0062】
判定チャートは、選択された印刷解像度で用いるドット(小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1)のうちの一部のドット(例えば、中ドットM1)で形成される各色の判定パターンにより、構成される(図8参照)。すなわち、判定チャートは、各色の判定パターンの組である。これらの判定パターンは、走査方向に沿って配置されている。また、各判定パターンは、一端から他端に向かって所定の階調数(例えば、256階調)に対応して濃度が変化する模様(グラデーション模様)の印刷画像として、形成される。なお、後述の補正パターンも判定パターンと同様の形態で形成される。すなわち、補正パターンは、走査方向に沿って配置され、グラデーション模様の印刷画像として形成される。
【0063】
図8に、判定チャートの一例を示す。
図8に示す判定チャートは、中ドットM1により形成される各色の判定パターンにより構成されている。
【0064】
判定パターンK(M1)はブラックのインクで、判定パターンC(M1)はシアンのインクで、判定パターンM(M1)はマゼンタのインクで、判定パターンY(M1)はイエローのインクでそれぞれ形成されている。また、判定パターンLC(M1)はライトシアンのインクで、判定パターンLM(M1)はライトマゼンタのインクで、判定パターンG(M1)はグレーのインクで、判定パターンLG(M1)はライトグレーのインクでそれぞれ形成されている。
【0065】
図9に、判定パターンを作成する際に用いられるグラフを示す。このグラフは、判定パターン用の階調値とドット生成数との関係を示す。図9に示されるように、ドット生成数は、判定パターン用の階調値に比例して増大する。また、判定パターン用の階調値の最大値に対してドット生成数の最大値が対応するように設定されている。判定パターンを作成する際には、判定パターン用の階調値に応じて、キャリッジ16を移動させつつドット生成数に対応する数のインク滴を吐出する。これにより、図8に示される判定チャートが形成される。
【0066】
ステップS220では、コンピューター10は、プリンター11の制御部30を通じて濃度測定器22に、判定チャートの各判定パターンについてその濃度を測定させる。そして、プリンター11から濃度測定結果を取得する。この濃度測定結果には、各色の判定パターンについての濃度(実測濃度)が含まれている。
【0067】
ステップS230では、コンピューター10は、濃度測定器22が得た濃度測定結果に基づいて画像データの濃度補正の要否を判定する。
具体的には、階調値毎に、判定パターンの濃度(実測濃度)とその判定パターンに対応する基準値との差の絶対値を算出する。そして、階調値毎に、判定パターンについて、両者の差の絶対値が許容値以下にあるか否かを判定する。全ての階調値において、両者の差の絶対値が許容値以下にあるとき(図10参照。図10の2点鎖線LAによって囲まれる範囲内にあるとき)、その判定パターンが許容値以下である旨判定する。そして、各判定パターンについて、両者の差の絶対値が許容値以下にあるか否かを判定する。全ての判定パターンについて、両者の差の絶対値が許容値以下にあるとき、その判定チャートについて、基準値からの濃度のずれが許容範囲内である旨の判定をして、濃度補正処理を終了する。
【0068】
一方、ステップS230において、判定パターンの濃度(実測濃度)と基準値との差の絶対値が許容値以下ではない判定パターンがあるとき(すなわち、いずれかの判定パターンにおいて、その差の絶対値が許容値よりも大きいとき)は、次のステップに移行する。
【0069】
ステップS240では、補正チャートを形成する。
補正チャートは、判定パターンの作成で用いたドット(中ドットM1)とは別の他のドットを用いて形成される。また、各チャートは、各色の補正パターンにより構成される。
【0070】
具体的には、補正チャートには、小ドットS1により形成される各色の補正パターン、大ドットL1により形成される各色の補正パターン、小ドットS2により形成される各色の補正パターン、中ドットM2により形成される各色の補正パターン、大ドットL2により形成される各色の補正パターンが含まれる。各補正パターンは、判定パターンと同じ方法により形成される。
【0071】
ステップS250では、コンピューター10は、プリンター11の制御部30を通じて濃度測定器22に、ステップS240で印刷した各補正パターンについてその濃度を測定させる。そして、プリンター11から濃度測定結果を取得する。この濃度測定結果には、各色の補正パターンについての濃度(実測濃度)が含まれている。
【0072】
ステップS260では、各ドットの各色について、各判定パターンの濃度測定結果及び各補正パターンの濃度測定結果に基づいて、ドットに関する補正階調値を導出する。補正階調値の求め方を次に示す。
【0073】
図10は、所定のドット(例えば、中ドットM1、ブラック)に関する補正階調値の求め方を示す図である。
図10に示す実線LRが実測濃度を示し、破線LBが基準線(各階調値の基準値により構成される線)を示す。実測濃度の線は、濃度測定器22の出力値を所定の換算式により換算して得られる。この換算式では、実測濃度が「0〜1」の範囲内の値をとるように、かつ濃度が高い程「0」に近づくように、また濃度が低い程「1」に近づくように、濃度測定器22の出力値を換算する。図10に示す2点鎖線LAは、各階調値の許容値(実測濃度と基準値との差の絶対値に対する許容値)により構成される線である。2点鎖線LAに囲まれる範囲は、各階調値において、判定パターンの濃度(実測濃度)と基準値との差の絶対値が許容値以下となる領域を示す。
【0074】
ドットに関する補正階調値は、次のように求められる。
階調値127に対する基準値が127(XD)として設定されている場合において、階調値127に対する実測濃度が127(XR)であるとき、127(XD)と127(XR)との差を補正するべく、実測濃度の曲線上において127(XD)に対応する階調値127(K)を取得する。そして、階調値127(K)を階調値127の補正階調値とする。
【0075】
図11は、中ドットM1のブラックについて、小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1に関する補正階調値を示したテーブルである。
図11に示す各値は次のように定義される。
(a)t−Sd1(0)〜t−Sd1(255)は、小ドットS1に関する補正階調値を示す。
(b)t−Md1(0)〜t−Md1(255)は、中ドットM1に関する補正階調値を示す。
(c)t−Ld1(0)〜t−Ld1(255)は、大ドットL1に関する補正階調値を示す。図11のようなドットに関する補正階調値のテーブルは、各ドット、各色に対して作成される。
【0076】
ステップS270では、ステップS260において得られたドットに関する補正階調値を、所定の換算式Xを用いて、補正ドット生成数に換算する。
図12に、ブラックについて、小ドットS1、中ドットM1、大ドットL1の補正ドット生成数を示すテーブル(補正ドット生成数テーブル)を示す。図12に示すテーブルは、図11に示すテーブルに対応するものである。図11の階調値は上記換算式Xを用いて図12のドット生成数に換算される。同様に、図11のドットに関する補正階調値は、同じ換算式Xを用いて補正ドット生成数に換算される。換算式Xとしては、例えば、比例関数が用いられる。
【0077】
図12に示す各値は次のように定義されるものである。
(a)d−Sd1(0)〜d−Sd1(255)は、小ドットS1に関する補正ドット生成数を示す。
(b)d−Md1(0)〜d−Md1(255)は、中ドットM1に関する補正ドット生成数を示す。
(c)d−Ld1(0)〜d−Ld1(255)は、大ドットL1に関する補正ドット生成数を示す。このような補正ドット生成数テーブルは、各ドット、各色に対して作成される。
【0078】
ステップS280では、ステップS270において得られた補正ドット生成数と、上記に示したドット生成数テーブルとに基づいて、画像データの階調値に関する補正階調値を導出する。
【0079】
図13を参照して、画像データの階調値に関する補正階調値の求め方を説明する。
上記に示したように、画像データの階調値の低階調化処理のために、画像データの階調値は、各ドットのドット生成数の組に対応付けられている(図5参照)。画像データの階調値に関する補正階調値を導出する際は、この画像データの階調値に対応付けられているドット生成数を、上記ステップS270で導出した補正ドット生成数によって補正し、この補正値に基づいて補正階調値を導き出す。以下に、階調値160を例に挙げて、補正階調値の導出方法を説明する。
【0080】
図13(a)は、画像データの低階調化処理に用いられるドット生成数テーブル(図5のテーブルと同じ)である。階調値160は、小ドットS1のドット生成数Sd1(160)、中ドットM1のドット生成数Md1(160)、大ドットL1のドット生成数Ld1(160)の組が対応付けられている。この各ドット生成数は、図12に示す補正ドット生成数のテーブルを用いて補正される。
【0081】
具体的には、図13(b)に示されるように補正される。
(a)小ドットS1のドット生成数Sd1(160)が1632である場合、1487に補正される。
(b)中ドットM1のドット生成数Md1(160)が1632である場合、1451に補正される。
(c)大ドットL1のドット生成数Ld1(160)が209である場合、203に補正される。
【0082】
また、これらの補正ドット生成数に基づいて相対ドット数R1(160)(この例では、1429.3)が算出される。そして、図13(a)に示すドット生成数テーブルにおける相対ドット数R1のうちで、この算出に係る相対ドット数R1に最も近い値を選択し、この選択に係る相対ドットに対応する階調値を読み取る。この例では、相対ドット数R1(151)=1426.8が補正の算出に係る相対ドット数R1(160)の値に最も近いため、この相対ドット数R1に対応する階調値、すなわち「151」が選択される。そして、図13(c)に示すように、この値「151」が、階調値160の補正階調値として設定される。
【0083】
以上に説明した濃度補正処理には次の特徴がある。
上記濃度補正処理では、補正階調テーブルに示すように、画像データの階調値の値を変更する。すなわち、補正階調テーブルの構成については補正しない。このため、この濃度補正処理では、各階調値における各ドットのドット生成数の割合(バランス)は維持される。
【0084】
次に、濃度補正プログラムの一部である補正要否判定プログラムについて説明する。
補正要否判定プログラムは、少なくとも次の第1手順〜第3手順を含む。
・第1手順では、補正要否判定プログラムは、制御部30を介して記録ヘッド21に、予め設定された一部のドットを用いて記録用紙Pに判定パターンを形成させる。
・第2手順では、補正要否判定プログラムは、制御部30を介して濃度測定器22に、判定パターンの濃度を測定させる。
・第3手順は、補正要否判定プログラムは、コンピューター10に、判定パターンの濃度測定結果に基づいて、判定パターンの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定させる。
【0085】
上記第1手順〜第3手順により、上記濃度補正処理のステップS210〜ステップS230が実行される。このため、これらの手順により、印刷に係る画像データについて濃度の要否判定が可能となる。
【0086】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)上記印刷システム1は、予め設定された一部のドットで判定チャートを形成して、判定チャートの濃度を濃度測定器22によって測定し、その濃度測定結果に基づいて印刷に係る画像データについての濃度補正の要否を判定する。
【0087】
従来では、このような印刷用データの元になる画像データの濃度補正の要否について判定を行わず、濃度補正の処理の要求に基づいて、ドットの種別毎に補正パターンを形成し、各補正パターンの濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う。これに対し、上記構成では、まず、一部のドットについての判定チャートを形成し、その判定チャートにより濃度補正の要否についての判定を行う。このため、従来では、濃度補正を行う必要がないときでもドットの種別毎に行っていた一連の処理のうちの一部分の処理について、その処理を省略することができる。これにより、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0088】
このように一部のドットに基づいて、画像データの濃度補正の要否についての判定が可能であるのは、次の理由による。
印刷画像の濃度(濃淡)が変化する一要因として、記録ヘッド21のノズルの長期にわたる使用によるノズルの目詰りやプリンター11の使用環境の変化(温度及び湿度等の環境変化)等が挙げられる。これらの要因により、記録ヘッド21のノズルから吐出されるインク滴の液量が変化し、印刷画像の濃度変化が生じる。印刷画像の濃度変化は、インク滴の液量の変化に帰着するものであるため、ドットの種別(大、中、小)に関係なく、またインクの色に関係なく、略一律に生じると考えられる。このため、一部のドットの判定パターンの濃度と基準値とのずれ(実測濃度と基準値との差の絶対値)が小さく、そのずれが許容範囲内であるときには、他のドットについても同様の結果になる可能性が高い。このような理由から、一部のドットに基づいて、画像データの濃度補正の要否についての判定が可能となっている。
【0089】
(2)上記印刷システム1において、プリンター11は、画像データについて濃度補正が必要である旨の判定結果に基づいて記録ヘッド21が一部のドットとは別の他のドットの補正チャートを記録用紙Pに形成し、これらの補正チャートの濃度を濃度測定器22が測定し、その濃度測定結果を出力する。
【0090】
この構成を逆に言えば、濃度補正が必要でない場合には一部のドットとは別の他のドットについては補正チャートを形成せず、また、補正チャートの濃度の測定も行わないことになる。このため、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0091】
(3)上記印刷システム1において、記録ヘッド21(液体噴射部)は、一部のドットの判定チャートの形成の際及び他のドットの補正チャートの形成の際、これらのチャートを構成する各パターンを走査方向に沿うように形成する。
【0092】
この構成では、一部のドットの判定チャートの形成の際及び他のドットの補正チャートの形成の際、これらのチャートを構成する各パターンを記録ヘッド21の走査方向に沿うように形成する。このため、各ドットのパターンを記録用紙Pの搬送方向に沿って形成する場合に比べて、パターンの形成時間を短縮することができる。これによって、濃度補正に要する時間を短縮することができる。
【0093】
(4)上記印刷システム1において、一部のドットの判定チャートは各色の判定パターンを含む。他のドットの補正チャートは、各ドットについて各色の補正パターンを含む。
この構成によれば、色の異なる複数種のドットを用いて印刷画像を形成する場合(所謂、カラー印刷)において、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0094】
(5)上記濃度補正方法は、少なくとも次の第1工程〜第6工程を含む。
第1工程(ステップS210に対応する工程)では、ドットサイズが異なる複数種のインク滴を記録用紙Pに噴射する記録ヘッド21により予め設定された一部のドットを用いて判定チャートを形成する。
【0095】
第2工程(ステップS220に対応する工程)では、判定チャートの濃度を測定する。
第3工程(ステップS230に対応する工程)では、判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定する。
【0096】
第4工程(ステップS240に対応する工程)では、判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値よりも大きいとき、他のドットについて補正チャートを形成する。
第5工程(ステップS250に対応する工程)では、他のドットについての補正チャートの濃度を測定する。
【0097】
第6工程(ステップS260〜ステップS280に対応する工程)では、一部のドットの判定チャートに係る濃度測定結果と他のドットの補正チャートに係る濃度測定結果に基づいて、印刷に係る画像データを補正する。
【0098】
この構成では、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う前に、まず、一部のドットの判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定する。
このため、従来の方法、すなわち、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う場合に各ドットについて補正パターンを形成し、各補正パターンの濃度を測定し、濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う従来の方法に比べて、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0099】
(6)補正要否判定プログラムは、上記に示した第1手順〜第3手順を含む。
この構成では、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う前に、まず、コンピューター10に、一部のドットの判定チャートの濃度測定結果に基づいて、判定チャートの濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下であるか否かを判定させる。
【0100】
このため、従来のプログラム、すなわち、印刷に係る画像データについて濃度補正を行う場合に、印刷システム1に、各ドットについて補正パターンを形成させ、各補正パターンの濃度を測定させ、濃度測定結果に基づいて濃度補正を行う従来のプログラムに比べて、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0101】
(第2実施形態)
第1実施形態では、濃度補正処理において、濃度補正の要否を判定する際に用いる判定チャートは、各種のドットのうちの一部のドットで形成されるものである。これに対して、第2実施形態では、判定チャートを次のように構成される。
【0102】
第2実施形態の判定チャートは、印刷の際に設定された印刷解像度について、この印刷解像度の印刷画像の形成に用いられるドットの組の各ドットを用いて形成されるものであり、各ドットの各色についての判定パターンにより構成される。
【0103】
具体的には、濃度補正処理のステップS210において、1440dpi×1440dpiが選択されたとすると、この印刷解像度の印刷画像の形成に用いられる小ドットS2、中ドットM2、大ドットL2それぞれの各色について、判定パターン(本実施例では、3ドット×8色=24パターン)が形成される。なお、濃度補正処理のステップS220以降の処理は第1実施形態と同様である。
【0104】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)上記印刷システム1において、判定チャートは、印刷の際に設定される印刷解像度に対応するドットの組について、その組の各ドットの判定パターンにより構成されている。
【0105】
この構成では、印刷解像度の種別に対応してドットの組を異ならせる印刷システム1において、所定の印刷解像度に対応するドットの組を用いて濃度補正の要否を判定する。すなわち、他の印刷解像度に対応するドットの組については、濃度補正の要否の判定の際に、その判定チャートを形成しない。このため、従来では、濃度補正を行う必要がないときでも行っていた他の印刷解像度に対応するドットの組についての一連の処理について、その処理を省略することができる。これにより、濃度補正に要する時間(平均時間)を短縮することができる。
【0106】
なお、この構成の場合、この構成の場合、第1実施形態に比べて、濃度補正の要否を判定するための判定パターンが多い。
これは、小ドットS1と中ドットM1と大ドットL1とは液量が異なることから、プリンター11の長期(例えば、数か月または数年にわたる使用)には各ドットの液量の変化もそれぞれ異なるようになることを鑑み、選択された印刷解像度の印刷画像を形成する際に使用する全てのドットについて、その判定を行う。これにより、濃度補正の要否の判定の精度を向上させる。
【0107】
(変形例)
なお、実施態様は上記に示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。
【0108】
・上記実施形態では、濃度補正処理において、全ての判定パターンについて実測濃度と基準値との差の絶対値が許容値以下のときは、濃度補正の必要性がないと判定して、濃度補正処理を終了する(ステップS230)。この終了のとき、次の処理を加えてもよい。濃度補正処理を終了することに先立って、使用者に対し濃度補正の必要性がない旨を液晶モニター等の表示器により表示する。これにより、使用者は、印刷画像の濃度に関しての情報を得ることができる。
【0109】
・上記実施形態では、濃度補正処理において、所定のドット(中ドットM1)について各色の判定パターンを形成して、その濃度を測定することにより、濃度補正の要否を判定する。これに対して、所定色のドットだけを用いて濃度補正の要否の判定を行うように構成してもよい。所定の色かつ所定のドットの判定パターンで濃度補正の要否の判定を行う場合は、実施形態の場合よりも濃度補正に要する時間を更に短縮することができる。
【0110】
・上記実施形態では、濃度補正処理において判定パターンを形成するとき、いずれのドットを使用するかについて特に規定していないが、例えば、最も使用頻度の高いドット(例えば、中ドットM1のブラック)を用いるように構成してもよい。濃度補正処理において使用頻度の低いドットを用いて判定パターンを形成する場合、濃度補正の必要性がないと判定したときでも、使用頻度の高い他のドットについては濃度補正の必要性が高くなっている場合があるからである。このため、この構成によれば、濃度補正の必要性が高いにも拘わらず濃度補正を行わない旨の判定をする事態の発生を抑制することができる。
【0111】
・上記実施形態では、圧電素子を有するプリンター11を備える印刷システムについて説明したが、インクジェット式のプリンターを備える印刷システムであれば、その印刷システムに上記実施形態及びその変形例に係る技術を適用することができる。例えば、サーマル式のプリンターを備える印刷システムにもこれら技術を適用可能することができる。
【符号の説明】
【0112】
1…印刷システム、10…コンピューター、11…プリンター、12…本体フレーム、13…支持台、14…モーター、15…ガイド軸、16…キャリッジ、17a…駆動プーリー、17b…従動プーリー、18…キャリッジモーター、19…タイミングベルト、20…インクカートリッジ、21…記録ヘッド、22…濃度測定器、30…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13