特許第6252242号(P6252242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6252242-透明導電性シートの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252242
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】透明導電性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20171218BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20171218BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   H01B13/00 503B
   H01B13/00 503C
   B05D5/12 B
   B05D3/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-36795(P2014-36795)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-162355(P2015-162355A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 愛
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−206722(JP,A)
【文献】 特開2012−212547(JP,A)
【文献】 特開2009−224071(JP,A)
【文献】 特開2012−221075(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B05D 3/02
B05D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材シート上に透明導電性粒子と、乾燥によって除去可能な分散媒とを含むけれども、乾燥後も残留し加熱によってガスを発生するバインダ及び分散剤を含まない塗布液を塗布して透明導電膜を形成する工程と、
前記透明導電膜を照射エネルギ密度1.5〜10J/cm2で加熱処理することにより前記透明導電性膜の表面抵抗を79〜122Ω/□と小さくする工程と、
前記加熱処理する前に、前記分散媒を除去するように乾燥させる工程と、
前記透明基材シートのうち乾燥した透明導電膜表面に離型処理の施されたカバーフィルムを重ね合せた状態でロールプレス機にて加圧した後に前記カバーフィルムを前記透明導電膜表面から剥離するカレンダ処理を行う工程と
を含み、
前記乾燥工程が前記分散媒の沸点より5〜80℃低い範囲内の温度に0.5〜10分間保持する工程であり、
前記透明導電膜は、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下である透明導電性シートの製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理がフラッシュランプアニール処理である請求項1記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項3】
前記透明導電性粒子がITO粒子である請求項1記載の透明導電性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCD(Liquid Display)、PDP(Plasma Display Panel)、有機EL(Electro Luminescence)、タッチパネル等の表示装置に用いられる透明導電膜が透明基材シート上に形成された透明導電性シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCD、PDP、有機EL、タッチパネル等の表示装置には、透明導電膜が用いられており、この透明導電膜は、ITO(Indium Tin Oxide)等からなる透明導電材料によって構成されることが多い。このような透明導電膜は、従来、スパッタリング法などでガラス基板上に形成されていたが、近年、デバイスの軽量化やフレキシブル化が求められ、PET(PolyEthylene Terephthalate)やPEN(PolyEthylene Naphthalate)等の樹脂性の透明基材シート上への成膜用途が増加してきた(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
この特許文献1に示された透明導電フィルムは、基体と、この基体上に設けられた透明導電体とを備える。上記基体は、高エネルギー線及び可視光に対して透明な材料で構成されるものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム等が挙げられる。また透明導電体は導電性粒子及びバインダを含有し、導電性粒子の平均粒径は60nm以下である。このように構成された透明導電フィルムでは、十分な光線透過率やヘイズ値を確実に実現できる。また上記透明導電フィルムを製造するには、先ずITO粉末をエタノールに分散した混合液を、ガラス基板に貼付けられた基体にバーコート法で塗布し、乾燥後、混合液が塗布された基材をガラス基板から剥す。次に基材の混合液の塗布面にPETフィルムを重ね併せ、ロールプレス機にてロール圧力10MPaかつ送り出し速度5m/minで圧力を加える。更にPETフィルムを剥がすことにより、基材上にITO粉膜(透明導電体)が形成される。
【0004】
一方、上記特許文献2に示された透明導電性シートの製造方法は、透明基板と、この透明基板の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートを製造する方法である。具体的には、透明基板の上に透明導電性粒子を含む塗布液を塗布して透明導電膜を形成した後、透明導電膜のみを選択的に加熱処理する。また上記加熱処理は、ランプアニール処理、熱風表層アニール処理及びフラッシュランプアニール処理からなる群から選ばれる一種により行われる。このように構成された透明導電性シートの製造方法によって得られた透明導電性シートは、良好な導電性と透明性を兼ね備えているので、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池などの透明電極に応用することができる。また、基板にダメージを与えず、PETフィルムなどの合成樹脂製のフレキシブルな基板上に透明導電膜を形成し、良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電性シートが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−66711号公報(請求項1及び4、段落[0014]、[0089])
【特許文献2】特開2010−146757号公報(請求項1及び2、段落[0010])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の特許文献1に示された透明導電フィルムでは、基体上に設けられた透明導電体の表面抵抗が1000Ω/□以上と未だ高い不具合があった。また、上記従来の特許文献2に示された透明導電性シートの製造方法では、乾燥工程が明記されておらず、乾燥工程が不十分であると、フラッシュランプアニールによる加熱処理工程で、ガスが発生し、透明導電膜に剥離或いはクラックが生じるおそれがあった。
【0007】
本発明の第1の目的は、塗布液の乾燥を十分に行い、かつ所定の照射エネルギで加熱処理を行うことにより、加熱処理工程でガスが発生せず、透明導電膜に剥離やクラックが生じず、結果として透明導電膜の導電性を向上できる、透明導電性シートの製造方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、塗布液にバインダや分散剤を含有させないことにより、バインダや分散剤による導電性の低下を防止し、熱処理時における分散媒の熱分解で剥離やクラックの発生を抑制し、透明導電膜の透明性を損なわない、透明導電性シートの製造方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、短時間で加熱処理を行うことにより、透明基材シートへの熱ダメージを与えない、透明導電性シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、透明基材シート上に透明導電性粒子と、乾燥によって除去可能な分散媒とを含むけれども、乾燥後も残留し加熱によってガスを発生するバインダ及び分散剤を含まない塗布液を塗布して透明導電膜を形成する工程と、透明導電膜を照射エネルギ密度1.5〜10J/cm2で加熱処理することにより透明導電性膜の表面抵抗を79〜122Ω/□と小さくする工程と、上記加熱処理する前に、分散媒を除去するように乾燥させる工程と、透明基材シートのうち乾燥した透明導電膜表面に離型処理の施されたカバーフィルムを重ね合せた状態でロールプレス機にて加圧した後にカバーフィルムを透明導電膜表面から剥離するカレンダ処理を行う工程とを含み、上記乾燥工程が上記分散媒の沸点より5〜80℃低い範囲内の温度に0.5〜10分間保持する工程であり、上記透明導電膜は、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下である透明導電性シートの製造方法である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に加熱処理がフラッシュランプアニール処理であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に透明導電性粒子がITO粒子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の透明導電性シートの製造方法では、透明基材シート上に塗布した塗布液を加熱処理する前に分散媒を除去するように十分に乾燥させた後に、透明導電膜を所定の照射エネルギ密度で加熱処理するので、加熱処理工程におけるガスの発生、透明導電膜の剥離及び透明導電膜へのクラックの発生を抑制できる。この結果、透明導電膜の導電性を向上できる。また透明導電膜が、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下であるので、塗布液にバインダや分散剤が全く或いは殆ど含まれていない。この結果、加熱処理工程におけるバインダや分散剤の気化によるガスの発生を防止できるとともに、加熱処理工程におけるバインダや分散剤の分解した残渣による透明導電膜の透明性の低下や透明導電膜の剥離を防止できる。なお、本明細書において、『分散媒』は乾燥によって除去可能な液体成分であり、『分散剤』は乾燥後も残留する成分であるという意味に用いられる。
【0013】
また、本発明の第1の観点の透明導電性シートの製造方法では、乾燥を分散媒の沸点より低い所定の温度範囲内に所定時間保持して行うので、塗布液中の分散媒を完全に除去できる。この結果、加熱処理工程におけるガスの発生、透明導電膜の剥離及び透明導電膜へのクラックの発生をより効果的に抑制できる。この結果、透明導電膜の導電性をより効果的に向上できる。
【0014】
本発明の第2の観点の透明導電性シートの製造方法では、加熱処理がフラッシュランプアニール処理であるので、短時間で加熱処理を行うことができる。この結果、透明基材シートに熱ダメージを与えない。
【0015】
本発明の第3の観点の透明導電性シートの製造方法では、透明導電性粒子がITO粒子であるので、透明基材シート上に透明性に優れかつ導電性が良好である透明導電膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明実施形態の透明導電性シートの製造手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本発明の透明導電性シートは、透明基材シート上に透明導電性粒子と分散媒とを含む塗布液を塗布して透明導電膜を形成する工程と、透明導電膜を所定の照射エネルギ密度で加熱処理する工程と、上記加熱処理する前に分散媒を除去するように乾燥させる工程とを含む。上記透明基材シートは、PET(PolyEthylene Terephthalate)、PEN(PolyEthylene Naphthalate)、ナイロン等により形成され、これらのシートの厚さは10〜250μmの範囲内に設定されることが好ましい。ここで、上記シートの厚さを10〜250μmの範囲内に限定したのは、10μm未満では塗布やカレンダ等の加工中にたるみが生じるなどハンドリングが困難になり、250μmを超えると膜の透明性が低下してしまうからである。また透明導電性粒子としては、ITO粒子、AZO粒子、ATO粒子等が挙げられ、これらの粒子の平均粒径は5〜200nmの範囲内に設定されることが好ましい。ここで、上記透明導電性粒子の平均粒径を5〜200nmの範囲内に限定したのは、5nm未満では粒界の散乱が大きくなって膜の導電性が低下してしまい、200nmを超えると粒子による光の散乱が大きくなって膜が白濁してしまうからである。また、透明導電性粒子として、ITO粒子を用いると、透明基材シート上に透明性に優れかつ導電性が良好である透明導電膜を形成できる。更に分散媒としては、水や、アルコール系、ケトン系、アミン系、アミド系又はこれらの2種以上の混合溶液が挙げられる。なお、上記透明導電性粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−950)を用いて測定した粒径であり、体積基準平均粒径である。
【0018】
一方、上記透明導電膜は、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。ここで、上記透明導電膜の質量の減少分を2質量%以下に限定したのは、2質量%を超えるとフラッシュランプアニール時に発生したガスにより、透明導電膜にクラックや剥離が生じてしまうからである。また上記乾燥工程は分散媒の沸点より5〜80℃低い範囲内の温度に0.5〜10分間保持する工程である。ここで、乾燥工程における温度を分散媒の沸点より5〜80℃低い範囲内の温度に限定したのは、5℃未満では分散媒の沸騰など急激な乾燥により、透明導電膜が不均一になってしまい、80℃を超えると乾燥が遅く、分散媒が膜中に残留し易くなるからである。また、乾燥工程で分散媒の沸点より低い温度に保持する時間を0.5〜10分間の範囲内に限定したのは、0.5分未満では分散媒が乾燥しきらず、膜中に残留する懸念があり、10分を超えると製造のタクトタイム上、時間が掛かり過ぎるからである。
【0019】
一方、加熱処理工程における照射エネルギ密度は、1.5〜10J/cm2範囲内に設定される。また照射エネルギの照射時間は、50μ秒〜1m秒の範囲内に設定されることが好ましく、100μ秒〜500μ秒の範囲内に設定されることが更に好ましい。ここで、照射エネルギ密度を1.5〜10J/cm2の範囲内に限定したのは、1.5J/cm2未満であると透明基材シート上の透明導電膜の導電性が向上せず、10J/cm2を超えると透明基材シートがダメージを受けるとともに透明導電膜が吹き飛ぶおそれがあるからである。また、照射エネルギの照射時間を50μ秒〜1000μ秒の範囲内に限定したのは、50μ秒未満では透明基材シート上の透明導電膜の導電性が向上せず、1000μ秒を超えると透明基材シートがダメージを受けるとともに透明導電膜が吹き飛ぶおそれがあるからである。なお、上記加熱処理としては、フラッシュランプアニール処理、レーザ処理、ランプアニール処理等が挙げられる。なお、上記加熱処理における照射エネルギ密度(単位面積当りの照射エネルギ)とは、透明導電膜の単位面積に照射されるトータルのエネルギという。
【0020】
次に具体的な透明導電性シートの製造方法を図1に基づいて説明する。
【0021】
(1)塗布液の調製(図1(a))
先ず透明導電粉末を、分散媒100質量%に対して1〜70質量%、好ましくは20〜50質量%の割合となるように混合し、ミキサーで攪拌することにより、透明導電膜を形成するための塗布液を調製する。ここで、透明導電性粉末を分散媒100質量%に対して1〜70質量%の範囲内に限定したのは、1質量%未満では導電膜に十分な厚さの膜を形成するのが困難となり、70質量%を超えると分散液の粘度が高く、塗布が困難となるからである。また必要に応じて上記塗布液をホモジェナイザやビーズミル粉砕機等に入れて、この塗布液中のITO粉末を粉砕処理することが好ましい。ここで、上記塗布液には、バインダや分散剤など、乾燥後も膜中に残留し、加熱によってガスが発生し得る成分は添加されない。このことは、上記透明導電膜が、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下、好ましくは1質量%以下であるという特性から判断可能である。
【0022】
(2)透明導電膜の形成(図1(b))
先ず透明導電膜を形成するための透明基材シートとして、一方又は両方の面にポリウレタンが塗布されるなど、透明導電膜との密着性を向上する加工を施してあることが好ましい。次にこの透明基材シートのPET等のフィルム上に上記塗布液を塗布して塗膜を形成した後に、乾燥することにより塗膜中の分散媒を除去する。ここで、塗布液の塗布方法としては、バーコート法、ダイコート法(スロットダイコート法等)、ドクターブレード法等が挙げられ、乾燥方法としては、風乾法、真空乾燥法、加熱乾燥法等が挙げられる。なお、上記乾燥が不十分であると、加熱処理工程で、ガスが発生し、透明導電膜が剥離したり、或いは透明導電膜にクラックが生じてしまうため、十分に行う必要がある。このため、上述したように、分散媒の沸点より5〜80℃低い範囲内の温度に0.5〜10分間保持することにより、上記塗膜を乾燥させて透明導電膜を形成する。
【0023】
(3)カレンダ処理(図1(c))
上記塗膜の乾燥により形成された透明導電膜に対してカレンダ処理を施すことが好ましい。これは、カレンダ処理を施すことによって、透明導電性粒子が高充填化され、透明導電膜の導電性及び光学特性が向上するからである。透明導電膜の光学特性については、特に粒子間空隙による散乱光が減少することにより、光散乱強度を表す値であるヘイズ値が著しく減少し、透明導電膜の透明性が高くなる。またカレンダ処理は、透明導電膜が形成された透明基材シートをガラス基板から剥離し、透明基材シートのうち透明導電膜表面に離型処理の施されたカバーフィルムを重ね合せ、この状態でロールプレス機にてロール圧力を100〜2000kg/cmとし、送り出し速度を0.1〜50m/分とする条件で加圧した後に、カバーフィルムを透明基材シートの透明導電膜表面から剥離する。これにより透明基材シート上に透明導電膜が形成される。
【0024】
(4)透明導電膜の加熱処理
上記透明基材シート上に形成された透明導電膜の加熱処理には、フラッシュランプアニール処理を用いることが好ましい。フラッシュランプアニール処理における照射エネルギの密度及び照射時間は、透明導電性シートの初期抵抗を低下させることができるように設定される。即ち、上述したように、照射エネルギ密度は、1.5〜10J/cm2の範囲内に設定される。また、照射エネルギの照射時間は、50μ秒〜1m秒の範囲内に設定されることが好ましく、100μ秒〜500μ秒の範囲に設定されることが更に好ましい。このように加熱処理として、フラッシュランプアニール処理を用いると、短時間で加熱処理を行うことができるので、透明基材シートに熱ダメージを与えない。また、照射回数は1回である必要はなく、透明導電膜や透明基材シートにダメージを与えない範囲内で2回又は3回以上照射することができる。例えば、ロール・ツー・ロール法で処理を行う場合、1パルス毎に照射位置を照射面積の1/3ずつオーバーラップするように変えながら照射することによって、照射が単位面積当りに3回行われることになり、ロール・ツー・ロール法でのフラッシュランプアニール処理のムラを低減することができる。なお、上記ロール・ツー・ロール法とは、加熱処理前の透明導電膜が形成されたロール状の透明基材シートを引出しながら透明導電膜の加熱処理を行った後、この加熱処理後の透明導電膜が形成された透明基材シートを再びロール状に巻く方法をいう。
【0025】
上述のように、透明基材シート上に塗布した透明導電膜を加熱処理する前に分散媒を除去するように十分に乾燥させた後に、透明導電膜を所定の照射エネルギ密度で加熱処理するので、加熱処理工程におけるガスの発生、透明導電膜の剥離及び透明導電膜へのクラックの発生を抑制できる。この結果、透明導電膜の導電性を向上できる。また透明導電膜が、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分が2質量%以下であるので、塗布液にバインダや分散剤が全く或いは殆ど含まれていない。この結果、加熱処理工程におけるバインダや分散剤の気化によるガスの発生を防止できるとともに、加熱処理工程におけるバインダや分散剤の分解した残渣による透明導電膜の透明性の低下や透明導電膜の剥離を防止できる。更に、乾燥を分散媒の沸点より低い所定の温度範囲内に所定時間保持して行うと、塗布液中の分散媒を完全に除去できる。この結果、加熱処理工程におけるガスの発生、透明導電膜の剥離及び透明導電膜へのクラックの発生をより効果的に抑制できる。この結果、透明導電膜の導電性をより効果的に向上できる。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。(なお、以下に記載の「実施例1、2及び8」はいずれも「参考例」である。)
【0027】
<実施例1>
図1に示すように、先ずエタノール(分散媒)40.0gに、平均粒径100nmのITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加し、超音波ホモジェナイザで30分間分散して、透明導電膜を形成するための塗布液を調製した(図1(a))。次いで一方の面にポリウレタンが塗布され縦及び横がそれぞれ100mm及び300mmである長方形状のPETフィルムからなる透明基材シートをガラス基板上に固定した。次にこの透明基材シートムのポリウレタン成膜面上に上記塗布液をスロットダイコート法により塗布して塗膜を形成した後に、加熱乾燥法により乾燥して塗膜中の分散媒を除去することにより、透明基材シート上に透明導電膜を形成した(図1(b))。ここで、上記乾燥は、エタノール(分散媒)の沸点(78℃)より53℃低い範囲内の温度に3分間保持することにより行った。次にこの透明導電膜が形成された透明基材シートについて、カレンダ処理を行った(図(c))。具体的には、透明導電膜が形成された透明基材シートに1000kg/cmのロール圧力を1m/分の送り出し速度で加えた。このカレンダ処理された透明導電膜の厚さを、蛍光X線を用いて測定したところ、透明導電膜の厚さは質量換算で400nmであった。更に透明導電膜が形成された透明基材シートを、縦及び横がそれぞれ50mmである正方形状に切り出し、この透明基材シート上に形成された透明導電膜に対して光焼成装置(Novacentrix社製のPulsForge3300)を用いて、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行うことにより(図1(d))、透明導電性シートを作製した。ここで、フラッシュランプアニール処理における照射エネルギ密度を0.5J/cm2とし、照射時間を1000μ秒と、照射回数を1回とした。
【0028】
<実施例2〜8>
実施例2〜8については、表1に記載した条件以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0029】
<比較例1>
フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0030】
<比較例2>
実施例1の分散媒をN,N,ジメチルホルムアミドに変更して作製した分散液を使用し、透明基材シートに塗布した塗膜を加熱乾燥法により乾燥したが、この乾燥が不十分であった、即ちN,N,ジメチルホルムアミド(分散媒)の沸点(153℃)より85℃低い範囲内の温度に3分間保持することにより不十分な乾燥を行ったこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0031】
<比較例3>
エタノール(分散媒)39.5gにポリビニルピロリドン(バインダ・分散剤)0.5gを添加し、十分に撹拌した混合液に、ITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0032】
<比較例4>
エタノール(分散媒)39.5gにSOLSPERSE 40000(日本ルーブリゾール社製の分散剤)0.5gを添加し、十分に撹拌した混合液に、ITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0033】
<比較例5及び6>
比較例5及び6については、表1に記載した条件以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0034】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜8及び比較例1〜6の透明導電膜を、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分を測定した。また実施例1〜8及び比較例1〜6の透明導電性シートについて、各シートの状態を目視にてそれぞれ確認するとともに、各シートの透明導電膜の表面抵抗を、抵抗測定器(三菱油化(株)製、製品名:Loresta AP MCP−T400)及びPSプローブ(MCP−TP06)を用いた直流4端子法によってそれぞれ測定した。これらの結果を表1に示す。
【0035】
なお、表1には、乾燥状態と、バインダ・分散剤の有無及び種類と、照射エネルギ密度と、照射エネルギの照射時間とをそれぞれ示した。また、表1の乾燥状態において、「○」は、透明導電膜が目視観察で乾燥ムラがない状態となり、乾燥が十分であった場合を示し、「△」は、透明導電膜に分散剤が残留した状態となり、乾燥が不十分であった場合を示す。更に、表1の透明導電性シートの状態において、「良好」とは、透明導電性シートの透明導電膜が透明基材シートから剥離せず、かつ焦げやクラックが発生していない状態を示し、「剥離」とは、透明導電性シートの透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離した状態を示し、「剥離+焦げ」とは、透明導電性シートの透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、かつ透明導電膜全体が焦げたように変色した状態を示し、「クラック」とは、透明導電膜全面又は一部にクラックが発生した状態を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、比較例1では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行わなかったため、透明導電性シートの状態は良好であったけれども、シートの表面抵抗が1030Ω/□と大きかった。また、比較例2では、塗膜の乾燥状態が不十分であったため、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離した。また、比較例3では、ポリビニルピロリドン(バインダ・分散剤)を添加したため、透明導電膜の質量減少分が3質量%大きくなり、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、透明導電膜全体が焦げたように変色した。また、比較例4では、SOLSPERSE 40000(日本ルーブリゾール社製の分散剤)(バインダ・分散剤)を添加したため、透明導電膜の質量減少分が4質量%大きくなり、透明導電膜全体にクラックが発生した。また、比較例5では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度が0.4J/cm2と小さかったため、透明導電性シートの状態は良好であったけれども、シートの表面抵抗が1101Ω/□と大きくなった。更に、比較例5では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度が16J/cm2と大きかったため、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、透明導電膜のフラッシュランプ照射部全体が焦げたように変色した。
【0038】
これらに対し、実施例1〜8では、塗膜の乾燥を十分に行い、バインダ・分散剤を全く添加せず、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度及び照射時間をそれぞれ適切な範囲としたので、透明導電膜の質量減少分が2質量%以下となり、透明導電性シートの状態が良好であり、更にシートの表面抵抗が79〜189Ω/□と小さくなった。
図1