【0019】
一方、加熱処理工程における照射エネルギ密度は、
1.5〜10J/cm
2の範囲内に設定される。また照射エネルギの照射時間は、50μ秒〜1m秒の範囲内に設定されることが好ましく、100μ秒〜500μ秒の範囲内に設定されることが更に好ましい。ここで、照射エネルギ密度を
1.5〜10J/cm
2の範囲内に限定したのは、
1.5J/cm
2未満であると透明基材シート上の透明導電膜の導電性が向上せず、
10J/cm
2を超えると透明基材シートがダメージを受けるとともに透明導電膜が吹き飛ぶおそれがあるからである。また、照射エネルギの照射時間を50μ秒〜1000μ秒の範囲内に限定したのは、50μ秒未満では透明基材シート上の透明導電膜の導電性が向上せず、1000μ秒を超えると透明基材シートがダメージを受けるとともに透明導電膜が吹き飛ぶおそれがあるからである。なお、上記加熱処理としては、フラッシュランプアニール処理、レーザ処理、ランプアニール処理等が挙げられる。なお、上記加熱処理における照射エネルギ密度(単位面積当りの照射エネルギ)とは、透明導電膜の単位面積に照射されるトータルのエネルギという。
【0024】
(4)透明導電膜の加熱処理
上記透明基材シート上に形成された透明導電膜の加熱処理には、フラッシュランプアニール処理を用いることが好ましい。フラッシュランプアニール処理における照射エネルギの密度及び照射時間は、透明導電性シートの初期抵抗を低下させることができるように設定される。即ち、上述したように、照射エネルギ密度は、
1.5〜10J/cm
2の範囲
内に設定される。また、照射エネルギの照射時間は、50μ秒〜1m秒の範囲内に設定されることが好ましく、100μ秒〜500μ秒の範囲に設定されることが更に好ましい。このように加熱処理として、フラッシュランプアニール処理を用いると、短時間で加熱処理を行うことができるので、透明基材シートに熱ダメージを与えない。また、照射回数は1回である必要はなく、透明導電膜や透明基材シートにダメージを与えない範囲内で2回又は3回以上照射することができる。例えば、ロール・ツー・ロール法で処理を行う場合、1パルス毎に照射位置を照射面積の1/3ずつオーバーラップするように変えながら照射することによって、照射が単位面積当りに3回行われることになり、ロール・ツー・ロール法でのフラッシュランプアニール処理のムラを低減することができる。なお、上記ロール・ツー・ロール法とは、加熱処理前の透明導電膜が形成されたロール状の透明基材シートを引出しながら透明導電膜の加熱処理を行った後、この加熱処理後の透明導電膜が形成された透明基材シートを再びロール状に巻く方法をいう。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
(なお、以下に記載の「実施例1、2及び8」はいずれも「参考例」である。)
【0027】
<実施例1>
図1に示すように、先ずエタノール(分散媒)40.0gに、平均粒径100nmのITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加し、超音波ホモジェナイザで30分間分散して、透明導電膜を形成するための塗布液を調製した(
図1(a))。次いで一方の面にポリウレタンが塗布され縦及び横がそれぞれ100mm及び300mmである長方形状のPETフィルムからなる透明基材シートをガラス基板上に固定した。次にこの透明基材シートムのポリウレタン成膜面上に上記塗布液をスロットダイコート法により塗布して塗膜を形成した後に、加熱乾燥法により乾燥して塗膜中の分散媒を除去することにより、透明基材シート上に透明導電膜を形成した(
図1(b))。ここで、上記乾燥は、エタノール(分散媒)の沸点(78℃)より53℃低い範囲内の温度に3分間保持することにより行った。次にこの透明導電膜が形成された透明基材シートについて、カレンダ処理を行った(図(c))。具体的には、透明導電膜が形成された透明基材シートに1000kg/cmのロール圧力を1m/分の送り出し速度で加えた。このカレンダ処理された透明導電膜の厚さを、蛍光X線を用いて測定したところ、透明導電膜の厚さは質量換算で400nmであった。更に透明導電膜が形成された透明基材シートを、縦及び横がそれぞれ50mmである正方形状に切り出し、この透明基材シート上に形成された透明導電膜に対して光焼成装置(Novacentrix社製のPulsForge3300)を用いて、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行うことにより(
図1(d))、透明導電性シートを作製した。ここで、フラッシュランプアニール処理における照射エネルギ密度を0.5J/cm
2とし、照射時間を1000μ秒と、照射回数を1回とした。
【0028】
<実施例2〜8>
実施例2〜8については、表1に記載した条件以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0029】
<比較例1>
フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0030】
<比較例2>
実施例1の分散媒をN,N,ジメチルホルムアミドに変更して作製した分散液を使用し、透明基材シートに塗布した塗膜を加熱乾燥法により乾燥したが、この乾燥が不十分であった、即ちN,N,ジメチルホルムアミド(分散媒)の沸点(153℃)より85℃低い範囲内の温度に3分間保持することにより不十分な乾燥を行ったこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0031】
<比較例3>
エタノール(分散媒)39.5gにポリビニルピロリドン(バインダ・分散剤)0.5gを添加し、十分に撹拌した混合液に、ITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0032】
<比較例4>
エタノール(分散媒)39.5gにSOLSPERSE 40000(日本ルーブリゾール社製の分散剤)0.5gを添加し、十分に撹拌した混合液に、ITO粒子(透明導電性粒子)10gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0033】
<比較例5及び6>
比較例5及び6については、表1に記載した条件以外は、実施例1と同様にして透明導電性シートを作製した。
【0034】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜8及び比較例1〜6の透明導電膜を、200℃まで加熱したときの質量を100質量%とするとき、更に400℃まで加熱したときの質量の減少分を測定した。また実施例1〜8及び比較例1〜6の透明導電性シートについて、各シートの状態を目視にてそれぞれ確認するとともに、各シートの透明導電膜の表面抵抗を、抵抗測定器(三菱油化(株)製、製品名:Loresta AP MCP−T400)及びPSプローブ(MCP−TP06)を用いた直流4端子法によってそれぞれ測定した。これらの結果を表1に示す。
【0035】
なお、表1には、乾燥状態と、バインダ・分散剤の有無及び種類と、照射エネルギ密度と、照射エネルギの照射時間とをそれぞれ示した。また、表1の乾燥状態において、「○」は、透明導電膜が目視観察で乾燥ムラがない状態となり、乾燥が十分であった場合を示し、「△」は、透明導電膜に分散剤が残留した状態となり、乾燥が不十分であった場合を示す。更に、表1の透明導電性シートの状態において、「良好」とは、透明導電性シートの透明導電膜が透明基材シートから剥離せず、かつ焦げやクラックが発生していない状態を示し、「剥離」とは、透明導電性シートの透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離した状態を示し、「剥離+焦げ」とは、透明導電性シートの透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、かつ透明導電膜全体が焦げたように変色した状態を示し、「クラック」とは、透明導電膜全面又は一部にクラックが発生した状態を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、比較例1では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)を行わなかったため、透明導電性シートの状態は良好であったけれども、シートの表面抵抗が1030Ω/□と大きかった。また、比較例2では、塗膜の乾燥状態が不十分であったため、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離した。また、比較例3では、ポリビニルピロリドン(バインダ・分散剤)を添加したため、透明導電膜の質量減少分が3質量%大きくなり、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、透明導電膜全体が焦げたように変色した。また、比較例4では、SOLSPERSE 40000(日本ルーブリゾール社製の分散剤)(バインダ・分散剤)を添加したため、透明導電膜の質量減少分が4質量%大きくなり、透明導電膜全体にクラックが発生した。また、比較例5では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度が0.4J/cm
2と小さかったため、透明導電性シートの状態は良好であったけれども、シートの表面抵抗が1101Ω/□と大きくなった。更に、比較例5では、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度が16J/cm
2と大きかったため、透明導電膜の一部が透明基材シートから剥離し、透明導電膜のフラッシュランプ照射部全体が焦げたように変色した。
【0038】
これらに対し、実施例1〜8では、塗膜の乾燥を十分に行い、バインダ・分散剤を全く添加せず、フラッシュランプアニール処理(加熱処理)における照射エネルギ密度及び照射時間をそれぞれ適切な範囲としたので、透明導電膜の質量減少分が2質量%以下となり、透明導電性シートの状態が良好であり、更にシートの表面抵抗が79〜189Ω/□と小さくなった。