特許第6252593号(P6252593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6252593非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252593
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20171218BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20171218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20171218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171218BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171218BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171218BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 A
   H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-538891(P2015-538891)
(86)(22)【出願日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2014004812
(87)【国際公開番号】WO2015045340
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-203347(P2013-203347)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】滝尻 学
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】長田 かおる
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/101138(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/147179(WO,A1)
【文献】 特開2011−192395(JP,A)
【文献】 特開2011−054560(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196615(WO,A1)
【文献】 Jaephil Cho et al.,High-Performance ZrO2-Coated LiNiO2 Cathode Material,Electrochemical and Solid-State Letters,米国,The Electrochemical Society,2001年 8月14日,Volume 4, Issue 10,pp. A159-A161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 10/05−10/0587
The ECS Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、遷移金属として少なくともNiを含有するリチウム含有遷移金属酸化物において、該リチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するNi元素の割合が89モル%以上であり、かつ前記リチウム含有遷移金属酸化物の表面にジルコニウム化合物が存在する非水電解質二次電池用正極活物質を用いた正極と、負極と、アジポニトリルが含有された非水電解液と、を備えた非水電解質二次電池
【請求項2】
前記リチウム含有遷移金属酸化物が、一般式:LiNi1−x(ただし、0.9≦a≦1.2、0.89≦x、MはCo、Mn、Alから選択される少なくとも1種の元素)で表わされる、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ジルコニウム化合物が、酸化ジルコニウムである、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウム含有遷移金属酸化物が、4.15V(vsLi/Li)以上の電位で相転移が生じる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一形態は、非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
更に最近では、非水電解質二次電池は電動工具や電気自動車等の動力用電源としても注目されており、さらなる用途拡大が見込まれている。こうした動力用電源では、長時間使用可能な高容量化と高い出力特性の両立が求められる。
【0004】
ここで、電池の高出力化を達成する手法として、例えば特許文献1には、結晶中Liサ
イトのLi席占有率とメタルサイトのメタル席占有率を規定したニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムが提案されている。しかし、特許文献1の正極活物質では、高出力化が不十分であり、更なる改善が必要である。
【0005】
一方、特許文献2には、一般式:LiNi1−x−yCo(ただし、EはMn、Al、Tiの群から選ばれる1種以上の元素、0.10≦x≦0.20、0.02≦y≦0.10)で示される組成の1次粒子をZrとLiの酸化物で接合し、不活性ガス雰囲気下で750℃に昇温したときの示唆熱減量を規定することにより、高容量と熱安定性を両立することが提案されている。しかし、特許文献2には高出力化に関する記載がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−218122号公報
【特許文献2】特開平11−219706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高容量と高出力化を両立した非水電解質二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、非水電解質二次電池用正極活物質において、層状構造を有し、遷移金属として少なくともNiを含有するリチウム含有遷移金属酸化物において、該リチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するNi元素の割合が89モル%以上であり、かつ前記リチウム含有遷移金属酸化物の表面にジルコニウム化合物を存在させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質によれば、高容量を維持したまま、出力特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る三電極式試験セルの概略構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池を、各種実験例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実験例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の一例を示すために例示したものであり、本発明をこれらの実験例のいずれかに限定することを意図するものではない。本発明は、これらの実験例に示したものに対して、特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく、種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0012】
〔第1実験例〕
(実験例1)
〔正極の作製〕
LiNi0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム100gに酸化ジルコニウムZrO(平均粒子径:1μm)を0.64g投入し混合することにより、表面にジルコニウム化合物が均一に存在するニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを得た。尚、上記ジルコニウム化合物の量は、上記ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムのリチウム以外の金属元素の総モル量に対して、ジルコニウム元素換算で、0.5モル%であった。
【0013】
次に、上記正極活物質100質量部に、炭素導電剤としてのアセチレンブラック1質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン0.9質量部とを混合し、更に、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えることにより正極スラリーを調製した。次に、該正極スラリーを、アルミニウムからなる正極集電体の両面に塗布、乾燥した。最後に、所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて圧延し、更に、正極集電体に正極リードを取り付けることにより、正極を作製した。
【0014】
[三電極式試験セルの作製]
図1に示すような三電極式試験セル10を作製した。この際、上記正極を作用極11として用いる一方、負極となる対極12及び参照極13にそれぞれ金属リチウムを用いた。また、非水電解液14として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを30:30:40の体積比で混合させた混合溶媒に、LiPFを1.0モル/リットルの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用いた。このようにして作製したセルを実験例1の電池と称する。
【0015】
(実験例2)
LiNi0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物を存在させなかったこと以外は、上記実験例1と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例2の電池と称する。
【0016】
(実験例3)
LiNi0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いたこと以外は、上記実験例1と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例3の電池と称する。
【0017】
(実験例4)
LiNi0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いたことと、該ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物を存在させなかったこと以外は、上記実験例1と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例4の電池とする。
【0018】
(実験例5)
LiNi0.82Co0.15Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いたこと以外は、上記実験例1と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例5の電池と称する。
【0019】
(実験例6)
LiNi0.82Co0.15Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いたことと、該ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物を存在させなかったこと以外は、上記実験例1と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例6の電池と称する。
【0020】
(実験)
〔定格容量の測定〕
上述のようにして作製された実験例1〜6の電池を、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2.5V(vs.Li/Li)まで定電流放電を行った。このときの放電容量を測定し、上記実験例1〜6の各電池の定格容量とした。そして、実験例6の電池の定格容量を100%とした場合に対する、実験例1〜5の電池の定格容量の相対値を求めた。その結果を表1に示した。
【0021】
〔出力値の測定〕
次に、上記実験例1〜6の電池を、0.2mA/cmの電流密度で上記定格容量の50%まで(即ち、充電深度SOCが50%となるまで)充電させた後、それぞれ25℃との条件の下で、開回路電圧から0.08mA/cm、0.4mA/cm、0.8mA/cm、1.6mA/cmの各電流値でそれぞれ10秒間放電を行い、10秒後の電圧を各電流値に対してプロットして、上記実験例1〜6の各電池における電流−電圧直線を求めた。そして、求めた各電流−電圧直線より、放電終止電圧が2.5Vでの電流値Ipを求め、下記の式(1)により25℃での出力値を算出した。
出力値=Ip×2.5・・・式(1)
【0022】
そして、実験例1、3、5の電池の出力値は、実験例1、3、5とニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの組成がそれぞれ同じで、該ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在していない実験例2、4、6の電池における出力値をそれぞれ100%とした場合に対する相対値を求めた。その結果を表2に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
上記表1から明らかなように、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在する場合、Ni元素の割合が89%以上の実験例1、3の電池は、Ni元素の割合が82%の実験例5の電池に比べて、定格容量が向上している。また、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在していない場合も、Ni元素の割合が89%以上の実験例2、4の電池は、Ni元素の割合が82%の実験例6の電池に比べて、定格容量が向上している。このことから、Ni元素の割合を上げていくと定格容量が向上することがわかる。
【0026】
一方で、上記表2から明らかなように、Ni元素の割合が89%以上の場合、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在している実験例1、3の電池の出力値は、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在していない実験例2、4の電池の出力値に比べて大きくなっている。しかしながら、上記実験例1、3と同じようにニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在していても、Ni元素の割合が82%の場合には、実験例5の電池の出力値は、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物が存在していない実験例6の電池の出力値に比べて小さくなっている。このことから、上記した出力値の向上の効果は、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、かつリチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物を存在させた構成により得られる効果であることがわかる。
【0027】
このような結果が得られた理由は定かではないが、以下に述べるとおりのものと考えられる。Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物は、LiサイトのLi量が0.25〜0.4の範囲で結晶構造が変化(相転移)して単斜晶と六方晶が共存する状態となる。そして、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物では、この相転移がLi基準で4.15V〜4.2Vと高い電位で生じるため、リチウム遷移金属酸化物表面にZr化合物が存在すると、非水電解液と相互作用して、リチウム含有遷移金属酸化物の表面において高いイオン透過性を兼ね備えた良質な被膜を形成する。その結果、出力が高くなる。一方、Zrが存在しない場合は、生じる被膜がイオン透過性の低いものとなり、この被膜が抵抗となるため、出力が低下する。Ni元素の割合が89%未満の場合は、相転移しないか、相転移領域の電位が低く、4.15V未満であるため、高いイオン透過性を兼ね備えた良質な被膜を形成できない。従って、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、かつリチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物を存在させることで、高容量と高出力化の両立が可能となる。
【0028】
実験例1、3、5では、リチウム含有遷移金属酸化物がニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの場合について述べたが、リチウム含有遷移金属酸化物としては、Ni元素の割合が89%以上であればよく、同様の効果を奏する。なお、本発明においてNi元素の割合が89%以上とは、リチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するNi元素の割合が89モル%以上のことである。
【0029】
なお、Ni比率を高めていくと充放電に伴う活物質の構造劣化に伴う出力低下が大きくなり、上記の良質な被膜の効果が十分に得られなくなる。このため、Ni元素の割合は、89%〜98% 、好ましくは89〜95%、さらに好ましくは89〜91%である。
【0030】
〔第2実験例〕
(実験例7)
〔正極活物質の合成〕
Ni0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物100gに対してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物のリチウム以外の金属元素の総モル量に対してリチウム元素が1.025の割合になるように水酸化リチウムリチウムを混合し、さらにニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物のリチウム以外の金属元素の総モル量に対してジルコニウム元素換算で0.5モル%となるように酸化ジルコニウムを混合した。混合後、酸素雰囲気下で18時間焼成することで、表面にジルコニウム化合物が存在するLiNi0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを得た。
【0031】
[三電極式試験セルの作製]
上記で得られた正極活物質を用いたことと、非水電解液として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを30:30:40の体積比で混合させた混合溶媒に、LiPFを1.0モル/リットルの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%、アジポニトリルを0.5質量%溶解させたものを用いたこと以外は、上記実験例1と同様にして三電極式試験セルを作製した。このようにして作製したセルを実験例7の電池と称する。
【0032】
(実験例8)
非水電解液にアジポニトリルを溶解しなかったこと以外は、上記実験例7と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例8の電池と称する。
【0033】
(実験例9)
LiNi0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物を存在させなかったこと以外は、上記実験例7と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例9の電池と称する。
【0034】
(実験例10)
LiNi0.89Co0.08Al0.03で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にZr化合物を存在させなかったことと、非水電解液にアジポニトリルを溶解しなかったこと以外は、上記実験例7と同様にしてセルを作製した。作製したセルを実験例10の電池と称する。
【0035】
(実験)
上述のようにして作製された実験例7〜10の電池を、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2.5V(vs.Li/Li)まで定電流放電を行った。
【0036】
〔抵抗値の測定〕
次に、上記実験例7〜10の電池について、25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で放電し、放電開始0.1秒後の電位と放電開始直前の電位より、下記の式(2)を用いて、抵抗値を算出した。
抵抗値=(放電開始直前の電位−放電開始0.1秒後の電位)/(放電電流密度×電極面積)・・・式(2)
【0037】
なお、実験例7〜10の各電池の抵抗値は、実験例10の電池の抵抗値を100%とした場合に対する相対値で示した。その結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
上記表3から明らかなように、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在している実験例7、8は、実験例9、10に比べて抵抗値が低く、出力特性に優れていることがわかる。また、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在しているがアジポニトリルが添加されていない実験例8は、それらのどちらも備えていない実験例10に比べて抵抗値が低減しているが、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在していないがアジポニトリルが添加されている実験例9は、それらのどちらも備えていない実験例10に比べて抵抗値が大きく増加している。しかしながら、両者が兼ね備わった実験例7の電池では、Zr化合物のみの実験例8よりも抵抗値が低くなっている。このことから、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物を存在させた正極活物質を用い、さらに非水電解液中にアジポニトリル化合物を含有することで、より高出力化が可能となることがわかる。
【0040】
また、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在していない場合には、非水電解液にアジポニトリルを含む実験例9の電池は、アジポニトリルを含まない実験例10の電池に比べて大きく抵抗が増加している。しかしながら、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在している場合には、非水電解液にアジポニトリルを含む実験例7の電池は、アジポニトリルを含まない実験例8の電池に比べて抵抗は増加せずに減少している。このことから、アジポニトリルの添加による抵抗値の低減効果は、Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、かつリチウム含有遷移金属酸化物の表面にZr化合物が存在する場合の特有の効果であることがわかる。
【0041】
このような結果が得られた理由は定かではないが、以下に述べるとおりのものと考えられる。Ni元素の割合が89%以上のリチウム含有遷移金属酸化物で生じる4.15V〜4.2Vの相転移領域で、非水電解質中に存在するニトリル化合物のCN結合が、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在するジルコニウムと反応することで、より電子伝導性とイオン透過性を兼ね備えた良質な被膜が形成されたと考えられる。よって、本発明の構成のリチウム含有遷移金属酸化物を用いた非水電解質二次電池においては、非水電解液中にニトリル化合物を含有することがより好ましい。
【0042】
なお、実験例7では、ニトリル化合物がアジポニトリルの場合について述べたが、ニトリル化合物としては、CN結合を含んでいればよく、炭素数に制限はない。このようなニトリル化合物であれば、同様の効果を奏する。より好ましくは、ジニトリル化合物であり、さらに好ましくは、アジポニトリル、スクシノニトリル、ピメロニトリルなどが挙げられる。
【0043】
本発明の一形態は、一般式:LiNi1−x(ただし、0.9≦a≦1.2、0.89≦x、MはCo、Mn、Alから選択される少なくとも1種の元素)で表わされるリチウム含有遷移金属酸化の表面にジルコニウム化合物を存在させることが好ましい。好ましくは、0.89≦x≦1、より好ましくは0.89≦x≦0.98 、さらに好ましくは0.89≦x≦0.95、さらに好ましくは0.89≦x≦0.91である。
【0044】
上記のジルコニウム化合物は、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在すればよく、化合物の状態は特に規定されない。このため、酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩、塩化物、ケイ化物、ケイ酸塩、タングステン酸塩、リン酸塩、炭酸塩でもよい。具体的には、ZrO、Zr(OH)、ZrS、Zr(SO・4HO、ZrN、Zr(NOO・2HO、ZrCl、ZrCl、ZrSi、ZrSiO、Zr(WO、ZrO(HPO・nHO、ZrOCO・ZrO・nHOなどが挙げられる。また、Zrの状態は、有機塩でもよく、具体的には、Zr(C1123COO)O、Zr(OC、Zr(OCなどが挙げられる。
【0045】
上記ジルコニウム化合物の平均粒子径は1nm以上5000nm以下であることが好ましい。ジルコニウム化合物の平均粒子径が5000nmを超えると、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の粒径に対するジルコニウムの化合物の粒径が大きくなり過ぎるために、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面がジルコニウムの化合物によって緻密に覆われなくなる。したがって、リチウム含有遷移金属酸化物粒子と非水電解質が直に触れる面積が大きくなるため、イオン透過性の高い被膜の形成が出来ず、出力特性が低下する。
【0046】
一方、ジルコニウムの化合物の平均粒子径が1nm未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面をジルコニウムの化合物によって緻密に覆われ過ぎるため、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面におけるリチウムイオンの吸蔵,放出性能が低下して、出力特性が低下する。このようなことを考慮すれば、ジルコニウムの化合物の平均粒径は、10nm以上3000nm以下であることが、より好ましい。
【0047】
上記ジルコニウムをリチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在させる方法に特に制限はなく、具体的には、リチウム化合物、遷移金属酸化物と一緒にジルコウム化合物を混合して焼成する方法、リチウム含有遷移金属酸化物を分散した溶液に、ジルコニウム塩を溶解した水溶液を混合する方法、正極スラリー作製時にジルコニウム化合物を投入する方法などが挙げられる。プロセス面を考慮した場合、リチウム化合物、遷移金属酸化物と一緒にジルコニウム化合物を混合して焼成する方法や正極スラリー作製時にジルコニウム化合物を投入する方法がより好ましい。
【0048】
リチウム含有遷移金属酸化物におけるリチウムを除く金属の総モル量に対するジルコニウム元素の割合は、0.001モル%以上2.0モル%以下であることが好ましい。該割合が0.001モル%未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在するジルコニウムの効果が十分に発揮されないことがある一方、該割合が2.0モル%を超えると、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面におけるリチウムイオン透過性が低くなって、出力特性が低下することがある。
【0049】
なお、上述のリチウム含有遷移金属酸化物は、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、バナジウム、鉄、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、錫、タングステン、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種をさらに含んでいても良く、その中でもアルミニウムを含んでいることが好ましい。好ましく用いられるリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiNi0.9Co0.1、LiNi0.9Mn0.1、LiNi0.9Co0.05Mn0.05、LiNi0.90Co0.05Al0.05等が挙げられる。より好ましくは、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムやニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムが挙げられる。また、リチウム含有遷移金属酸化物は、酸素の一部がフッ素などにより置換されたものでもよい。
【0050】
上記のリチウム酸化物のうち、特に、一般式:LiNiCoAl(ただし、0.9≦a≦1.2、0.89≦x≦1、0<y+z≦0.11、0<y、0<z) が好ましい。さらに好ましくは0.89≦x≦0.98 、さらに好ましくは、0.89≦x≦0.95、より好ましくは、0.89≦x≦0.91である。
【0051】
(その他の事項)
(1)非水電解質の溶媒は特に限定するものではなく、非水電解質二次電池に従来から用いられてきた溶媒を使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物や、プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物や、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物や、ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物や、ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を用いることができる。特に、これらのHの一部がFにより置換されている溶媒が好ましく用いられる。また、これらを単独又は複数組み合わせて使用することができ、特に環状カーボネートと鎖状カーボネートとを組み合わせた溶媒や、さらにこれらに少量のニトリルを含む化合物やエーテルを含む化合物が組み合わされた溶媒が好ましい。
【0052】
また、非水電解質の非水系溶媒としてイオン性液体を用いることもでき、この場合、カチオン種、アニオン種については特に限定されるものではないが、低粘度、電気化学的安定性、疎水性の観点から、カチオンとしては、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンを、アニオンとしては、フッ素含有イミド系アニオンを用いた組合せが特に好ましい。
【0053】
更に、上記の非水電解質に用いる溶質としても、従来から非水電解質二次電池において一般に使用されている公知のリチウム塩を用いることができる。そして、このようなリチウム塩としては、P、B、F、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩を用いることができ、具体的には、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CSO、LiAsF、LiClO等のリチウム塩及びこれらの混合物を用いることができる。特に、非水電解質二次電池における高率充放電特性を高めるためには、LiPFを用いることが好ましい。
【0054】
また、溶質としては、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。このオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩としては、LiBOB〔リチウムビスオキサラトボレート〕の他、中心原子にC2−が配位したアニオンを有するリチウム塩、例えば、Li[M(C](式中、Mは遷移金属,周期律表のIII
b族,IVb族,Vb族から選択される元素、Rはハロゲン、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基から選択される基、xは正の整数、yは0又は正の整数である。)で表わされるものを用いることができる。具体的には、Li[P(C]等がある。但し、高温環境下においても負極の表面に安定な被膜を形成するためには、LiBOBを用いることが最も好ましい。尚、上記溶質は、単独で用いるのみならず、2種以上を混合して用いても良い。また、溶質の濃度は特に限定されないが、非水電解液1リットル当り0.8〜1.7モルであることが望ましい。更に、大電電流での放電を必要とする用途では、上記溶質の濃度が非水電解液1リットル当たり1.0〜1.6モルであることが望ましい。
【0055】
(2)負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵,放出できるものでれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、リチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属酸化物等を用いることができる。なお、材料コストの観点からは、負極活物質に炭素材料を用いることが好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズピッチ系炭素繊維(MCF)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、ハードカーボン等を用いることがきる。特に、高率充放電特性を向上させる観点からは、負極活物質として、黒鉛材料を低結晶性炭素で被覆した炭素材料を用いることが好ましい。
【0056】
(3)セパレータとしては、従来から用いられてきたセパレータを用いることができる。具体的には、ポリエチレンからなるセパレータのみならず、ポリエチレンの表面にポリプロピレンからなる層が形成されたものや、ポリエチレンのセパレータの表面にアラミド系の樹脂等が塗布されたものを用いても良い。
【0057】
(4)正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーを含む層を形成することができる。該フィラーとしても、従来から用いられてきたチタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。また、上記フィラー層の形成は、正極、負極、或いはセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成する方法や、フィラーで形成したシートを、正極、負極、或いはセパレータに貼り付ける方法等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の一形態は、例えば携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン等の移動情報端末の駆動電源や、電気自動車、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源や、蓄電関連の電源に展開が期待できる。
【符号の説明】
【0059】
10 三電極式試験セル
11 作用極
12 対極
13 参照極
14 非水電解液
図1