特許第6252816号(P6252816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252816
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20171218BHJP
   H02M 7/483 20070101ALI20171218BHJP
   H02M 5/293 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   H02M7/12 A
   H02M7/483
   H02M5/293 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-545094(P2016-545094)
(86)(22)【出願日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2014072112
(87)【国際公開番号】WO2016030933
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】王 啓臣
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−55797(JP,A)
【文献】 特開2013−110829(JP,A)
【文献】 特開2007−143349(JP,A)
【文献】 特開2011−120376(JP,A)
【文献】 特開2009−148078(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 5/293
H02M 7/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体スイッチング素子のスイッチング動作により、電源から供給される電力を変換して負荷に供給する電力変換装置であって、第1,第2の半導体スイッチング素子同士が接続された第1の接続点と、第3,第4の半導体スイッチング素子同士が接続された第2の接続点と、を有し、前記第1の接続点に加わる交流電圧の一方の極性における前記第1の接続点の電位変動パターンと前記第2の接続点の電位変動パターンとが異なる電力変換装置において、
前記第1の接続点及び前記第2の接続点の電位変動を抑制する電位変動抑制部を備え、
前記電位変動抑制部は、
前記交流電圧の一方及び他方の極性における前記第1の接続点の電位変動により前記第1の接続点から寄生キャパシタンスを介して接地点に流れる第1の漏洩電流を、前記第1の接続点に接続されたリアクトルと第1の接地コンデンサとを介して流れる第1の補償電流により打ち消して前記第1の接続点の電位変動を抑制し、かつ、
前記交流電圧の他方の極性における前記第2の接続点の電位変動により前記第2の接続点から寄生キャパシタンスを介して接地点に流れる第2の漏洩電流を、前記リアクトルと第2の接地コンデンサとを介して流れる第2の補償電流により打ち消して前記第2の接続点の電位変動を抑制することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電力変換装置において、
前記第2の接続点は、2個の半導体スイッチング素子が逆直列に接続された双方向スイッチ内の前記2個の半導体スイッチング素子同士の接続点であり、前記双方向スイッチを構成する一方の半導体スイッチング素子に前記第1の接続点が接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記リアクトルは、一端が前記第1の接続点に接続され、他端に補助巻線の一端が接続された主巻線と、前記主巻線とは誘起電圧が逆極性となる前記補助巻線とを備え、
前記補助巻線の他端を前記第1の接地コンデンサに接続し、かつ、スイッチを介して前記第1の接地コンデンサに接続すると共に、
前記スイッチは、前記第1の接続点に加わる交流電圧の一方の極性では開き、他方の極性では閉じるように構成されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載した電力変換装置において、
前記スイッチは、前記補助巻線の誘起電圧の極性に応じて開閉動作する半導体スイッチング素子であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記第1〜第4の半導体スイッチング素子は、交流電圧を直流電圧に変換するためにスイッチング動作することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記第1〜第4の半導体スイッチング素子は、直流電圧を交流電圧に変換するためにスイッチング動作することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載した電力変換装置において、
前記第1〜第4の半導体スイッチング素子は、交流電圧を交流電圧に変換するためにスイッチング動作することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置のスイッチング動作に伴う雑音端子電圧を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、交流電圧を直流電圧に変換する第1のコンバータと直流電圧を交流電圧に変換する第2のコンバータとを備えたダブルコンバータの回路図である。
図5において、単相交流電源1の両端はEMI(Electro Magnetic Interference)フィルタ21を介して交流入力端子R1,S1に接続されている。交流入力端子R1,S1と接地点との間には、接地コンデンサ30が接続され、交流入力端子R1,S1の間には、コンデンサ33が接続されている。
【0003】
交流入力端子R1は、リアクトル60を介して、半導体スイッチング素子50,51同士の接続点であるA点に接続される。
スイッチング素子50,51の直列回路には、コンデンサ31,32の直列回路及びスイッチング素子52,53の直列回路がそれぞれ並列に接続され、コンデンサ31,32同士の接続点は交流入力端子S1に接続されている。スイッチング素子52,53同士の接続点をB点とすると、B点と交流入力端子S1との間には、リアクトル61とコンデンサ34とが直列に接続されている。また、コンデンサ34の両端にはEMIフィルタ22が接続され、その両端には負荷7が接続されている。更に、コンデンサ34の両端と接地点との間には、接地コンデンサ35が接続される。
【0004】
図5では、全てのスイッチング素子50〜53にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使用した場合を示しているが、IGBTの代わりにMOSFET(Metal-Oxide-Silicon Field Effect Transistor)が用いられる場合もあり、また、スイッチング素子50に代えてダイオードを用いる場合もある。
このダブルコンバータにおいては、第1のコンバータを構成するスイッチング素子50,51のオンオフ動作により、交流電圧を直流電圧に変換してコンデンサ31,32を充電すると共に、第2のコンバータを構成するスイッチング素子52,53のオンオフ動作により、直流電圧を交流電圧に変換して負荷7に供給している。
【0005】
ここで、スイッチング素子50〜53のスイッチング動作に伴い、スイッチング素子同士の接続点であるA点,B点の電位は、高い周波数で変動する。
図6に示すように、回路内の各部、例えば、A点,B点と接地点との間には寄生キャパシタンス40,41が存在する。このため、A点,B点の電位変動に伴い、寄生キャパシタンス40と接地コンデンサ30を介した高周波漏洩電流I、または、寄生キャパシタンス41と接地コンデンサ35を介した高周波漏洩電流Iが回路内を循環することにより、コモンモードノイズに起因する雑音端子電圧が発生する。
【0006】
この種の電力変換装置では、高効率化、小型化を図るために高いスイッチング周波数で動作することが要求される場合があり、例えば、数百[kHz]という高周波数でスイッチングする場合もある。このような高いスイッチング周波数のもとでは、スイッチング動作に伴う電位の時間変化率(dv/dt)が大きくなり、高周波漏洩電流が大きくなるため、結果的に雑音端子電圧も大きくなる傾向にある。
【0007】
EMIフィルタ21,22は、交流電源1を共有する外部機器に対して、スイッチング動作によるノイズを除去するためのコモンモードノイズフィルタとして機能している。従って、EMIフィルタ21,22を大容量化することにより、雑音端子電圧の低減効果を高めることができるが、部品や装置の大型化、コスト増加を招くという問題がある。
【0008】
雑音端子電圧の抜本的な低減方法は、図6に示したような寄生キャパシタンス40,41を極小化することである。このため、従来から部品の配置や配線ルートなど、様々な工夫が行われているが、いずれも限界があり、寄生キャパシタンスを完全になくすことは極めて困難である。
【0009】
雑音端子電圧を低減する従来技術の一例として、特許文献1に記載された発明が知られている。
図7は、特許文献1に記載された発明の主要部を示す回路図である。図7において、Qは半導体スイッチング素子、Lはリアクトル、Nは主巻線、Nは補助巻線、C11,C12はコンデンサ、Dはダイオード、CはX点と機器のシャーシ(接地点)との間に存在する寄生キャパシタンス、Cは補助巻線と上記シャーシとの間に接続されたコンデンサ、Vinは入力電圧、Voutは出力電圧である。
【0010】
図7の動作としては、スイッチング素子Qのオンオフ動作によりX点の電位が変動し、寄生キャパシタンスCを介して漏洩電流Iがシャーシに流れると、この電流Iと大きさが同じで逆向きの電流IがコンデンサCを介して補助巻線Nに流れる。
ここで、主巻線N及び補助巻線Nの巻数を参照符号と同様にN,Nとし、寄生キャパシタンスC及びコンデンサCの容量値を参照符号と同様にC,Cとすると、C・N=C・Nとなるように設定することにより、X点の電位変動による漏洩電流Iを打ち消すことができ、雑音端子電圧を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−153542号公報(段落[0026]〜[0034]、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方、最近では、高効率化を図る目的で多レベルの電力変換装置が提供されている。
例えば、図8に示す電力変換装置は3レベルAC−DC変換装置(3レベルコンバータ)であり、交流入力電圧Vrsから3つの直流電位Vps,Vsn,0〔V〕を生成するものである。
【0013】
図8において、図6と異なる部分を中心に説明すると、スイッチング素子50,51同士の接続点であるA点とコンデンサ31,32同士の接続点であるS点との間に、例えば2個の低耐圧MOSFETの逆直列回路からなる双方向スイッチ54が接続されている(2個のMOSFET同士の接続点をB点とする)。また、40はA点と接地点との間の寄生キャパシタンス、43はB点と接地点との間の寄生キャパシタンスである。
この3レベルコンバータにおいて、コンデンサ31,32の直列回路の両端を正負の出力端子P,Nとすると、スイッチング素子50,51及び双方向スイッチ54のオンオフ動作により、直流出力端子であるP点,N点及びS点から3つの直流電位(Vps,Vsn,0〔V〕)を発生させることが可能である。
【0014】
図8の3レベルコンバータでは、図9に示すように、A点,B点の電位が交流入力電圧Vrsの極性に応じて変化する。
すなわち、A点の電位は、交流入力電圧Vrsが正の期間では、S点電位(−Vrs/2)とP点電位(Vps−Vrs/2)との間を変動し、交流入力電圧Vrsが負の期間では、S点電位(−Vrs/2)とN点電位(Vsn−Vrs/2)との間を変動する。また、B点の電位は、交流入力電圧Vrsが正の期間ではS点電位(−Vrs/2)と同様になり、交流入力電圧Vrsが負の期間では、A点と同様、つまりS点電位(−Vrs/2)とN点電位(Vsn−Vrs/2)との間を変動する。
【0015】
上記のように、交流入力電圧Vrsが負の期間では、A点とB点とは同じパターンで電位変動するが、交流入力電圧Vrsが正の期間では、A点とB点とが異なるパターンで電位変動する。従って、寄生キャパシタンス40,43に流れる漏洩電流I,Iは、交流入力電圧Vrsの極性に応じて異なるパターンで変化することになる。
このため、前述した特許文献1のように、回路内の一点の電位変動をコンデンサ及び補助巻線を用いて低減する方法では、漏洩電流I,Iを同時に打ち消すことができない。
【0016】
そこで、本発明の目的は、寄生キャパシタンスと接地点を介して回路内に環流する漏洩電流を確実に打ち消すことにより、雑音端子電圧を低減させた各種の電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の半導体スイッチング素子のスイッチング動作により、電源から供給される電力を変換して負荷に供給するコンバータやインバータ等の電力変換装置であって、第1,第2の半導体スイッチング素子同士が接続された第1の接続点と、第3,第4の半導体スイッチング素子同士が接続された第2の接続点と、を有し、第1の接続点に加わる交流電圧の一方の極性(例えば正極性)における第1の接続点の電位変動パターンと第2の接続点の電位変動パターンとが異なる電力変換装置を対象とする。
そして、本発明の特徴は、第1の接続点及び第2の接続点の電位変動を抑制するために電圧を注入する電位変動抑制部を備えている。この電位変動抑制部は、交流電圧の一方及び他方の極性(すなわち、正及び負の極性)における第1の接続点の電位変動により第1の接続点から寄生キャパシタンスを介して接地点に流れる第1の漏洩電流を、第1の接続点に接続されたリアクトルと第1の接地コンデンサとを介して流れる第1の補償電流により打ち消して第1の接続点の電位変動を抑制する。電位変動抑制部は、更に、交流電圧の他方の極性(例えば負極性)における第2の接続点の電位変動により第2の接続点から寄生キャパシタンスを介して接地点に流れる第2の漏洩電流を、リアクトルと第2の接地コンデンサとを介して流れる第2の補償電流により打ち消して第2の接続点の電位変動を抑制するように動作する。
【0018】
なお、上記第2の接続点は、2個の半導体スイッチング素子が逆直列に接続された双方向スイッチ内の半導体スイッチング素子同士の接続点であり、双方向スイッチを構成する一方の半導体スイッチング素子に第1の接続点が接続されているものである。
【0019】
電位変動抑制部を構成するリアクトルは、一端が第1の接続点に接続され、他端に補助巻線の一端が接続された主巻線と、この主巻線とは誘起電圧が逆極性となる補助巻線とを備えており、この補助巻線の他端を第1の接地コンデンサに接続し、かつ、半導体スイッチング素子等からなるスイッチを介して第1の接地コンデンサに接続する。そして、上記スイッチは、第1の接続点に加わる交流電圧の一方の極性(例えば正極性)では開き、他方の極性(同じく負極性)では閉じるように構成されている。
このようにスイッチを開閉動作させるには、補助巻線の誘起電圧の極性に応じてオンオフするように半導体スイッチング素子等を接続すれば良い。
【0020】
本発明に係る電力変換装置には、第1〜第4の半導体スイッチング素子の動作により、交流−直流変換、または直流−交流変換、もしくは交流−交流変換を行う各種のコンバータ、インバータが含まれるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電力変換装置内に、交流電圧の極性に応じて電位変動のパターンが異なるスイッチング素子同士の接続点が二つ存在するような場合でも、上記極性に応じた電位変動抑制部の動作によって漏洩電流を自動的に打ち消すことができる。これにより、各接続点の電位変動を抑制して雑音端子電圧を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本発明の第1実施形態を示す回路図である。
図1B図1Aにおける双方向スイッチ54の他の構成図である。
図2図1Aにおけるスイッチ8を具体化した回路図である。
図3】本発明の第2実施形態を示す回路図である。
図4】本発明の第3実施形態を示す回路図である。
図5】従来のダブルコンバータの回路図である。
図6図5における漏洩電流の経路を説明するための回路図である。
図7】特許文献1に記載された従来技術の主要部を示す回路図である。
図8】従来の3レベルコンバータの回路図である。
図9図8における各点の電位の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1Aは、本発明の第1実施形態を示す3レベルコンバータの回路図であり、図8と同一の機能を有するものには同一の参照符号を付してある。
図1Aにおいて、単相交流電源1の両端はEMIフィルタ21を介して交流入力端子R1,S1に接続されている。交流入力端子R1,S1と接地点との間には、接地コンデンサ30が接続される。また、交流入力端子R1,S1の間には、コンデンサ33が接続されている。
【0024】
交流入力端子R1は、リアクトル62の主巻線62mを介して、半導体スイッチング素子50,51同士の接続点であるA点に接続される。リアクトル62に設けられた補助巻線62sの一端は主巻線62mの交流入力端子R側の一端に接続され、補助巻線62sの他端は補償用の接地コンデンサ44を介して接地される。更に、補助巻線62sの他端は、スイッチ8と補償用の接地コンデンサ45との直列回路を介して接地されている。ここで、主巻線62mと補助巻線62sとは、誘起電圧の極性が逆になるように接続されている。
【0025】
AC−DCコンバータの主回路構成は、図8と同一である。すなわち、スイッチング素子50,51の直列回路に並列に、コンデンサ31,32の直列回路が接続され、コンデンサ31,32同士の接続点であるS点と前記A点との間に、例えば低耐圧MOSFET等の半導体スイッチング素子54a,54bを逆直列接続した双方向スイッチ54が接続されている(2個のスイッチング素子54a,54b同士の接続点をB点とする)。
なお、40はA点と接地点との間の寄生キャパシタンス、43はB点と接地点との間の寄生キャパシタンス、P点,N点は直流出力端子である。
【0026】
ここで、A点は請求項における第1の接続点、B点は第2の接続点、接地コンデンサ44は第1の接地コンデンサ、接地コンデンサ45は第2の接地コンデンサ、寄生キャパシタンス40は第1の寄生キャパシタンス、寄生キャパシタンス43は第2の寄生キャパシタンスに相当する。
また、接地コンデンサ44,45及びリアクトル62は、請求項における電位変動抑制部を構成している。
【0027】
双方向スイッチの構成は図示例に限定されるものではなく、例えば、図1Bに示すように、IGBT等のスイッチング素子541a,541bを逆直列接続して双方向スイッチ541を構成しても良い。
【0028】
上記構成において、リアクトル62の主巻線62mと補助巻線62sとの巻数比をN:1とすると、補助巻線62sの誘起電圧は主巻線62mの1/Nとなる。
また、接地コンデンサ44,45の容量値は、以下の条件を満足するものとする。
まず、交流入力電圧Vrsが正のときにスイッチ8をオフした場合の接地コンデンサ44の容量値C44を、数式1とする。
[数式1]
44=N×C40
なお、C40は寄生キャパシタンス40の容量値である。
【0029】
また、交流入力電圧Vrsが負のときにスイッチ8をオンした場合の接地コンデンサ44の容量値C44と接地コンデンサ45の容量値C45との和を、数式2とする。
[数式2]
44+C45=N×C40+N×C43
なお、C43は寄生キャパシタンス43の容量値である。
【0030】
従って、交流入力電圧Vrsが正のとき、主巻線62mとは逆極性の電圧が補助巻線62sに印加されるため、接地コンデンサ44にA点からの漏洩電流Iと逆方向の補償電流Iが流れる。また、交流入力電圧Vrsが負のとき、前記同様に、接地コンデンサ44に漏洩電流Iと逆方向の補償電流I流れるほか、スイッチ8をオンすることにより、接地コンデンサ45にB点からの漏洩電流Iと逆方向の補償電流Iが流れる。
【0031】
また、主巻線62mにおける誘起電圧の変化分がΔVであるとすると、補助巻線62sにおける誘起電圧は(−ΔV/N)となるので、漏洩電流I,I及び補償電流I,Iは数式3〜数式6によって表される。
[数式3]
漏洩電流I=C40×ΔV
[数式4]
漏洩電流I=C43×ΔV
[数式5]
補償電流I=−C44×ΔV/N=N×C40×ΔV/N=C40×ΔV
[数式6]
補償電流I=−C45×ΔV/N=N×C43×ΔV/N=C43×ΔV
【0032】
このように、漏洩電流Iと補償電流I、漏洩電流Iと補償電流Iとは、それぞれ大きさが同じで方向が逆になる。従って、前述した補助巻線62s及び接地コンデンサ44,45の作用により、スイッチング素子50,51及び双方向スイッチ54のスイッチングにより発生する高周波の漏洩電流を打ち消して雑音端子電圧を低減させることができる。

【0033】
補助巻線62sの巻数は2ターン以上でも良いが、構造を簡略化するためには、巻数を最小の1ターンとすれば良い。補助巻線62sの巻数が2ターン以上の場合には、数式7,8の条件を満足すれば良い。
[数7]
40×N=C44×N
[数8]
43×N=C45×N
上記の数式7,8において、Nは主巻線62mの巻数、Nは補助巻線62sの巻数である。
【0034】
次に、図2は、図1Aにおけるスイッチ8を具体化した回路図である。
図2において、スイッチ8は、半導体スイッチング素子81と、そのゲートと交流入力端子S1との間に接続された抵抗82と、スイッチング素子81のゲートと接地コンデンサ44の一端との間に接続されたツェナーダイオード83と、から構成されている。ここで、スイッチング素子81には、図示するMOSFETのほか、IGBTを用いても良い。
【0035】
上記構成のスイッチ8によれば、交流入力電圧Vrsが負のときにスイッチング素子81がオンとなり、接地コンデンサ45が回路に接続されて補償電流Iが流れる。また、交流入力電圧Vrsが正のときにはスイッチング素子81がオフして接地コンデンサ45の放電経路が遮断されるため、補償電流Iは流れない。
このスイッチ8によれば制御回路が不要であり、構成が簡単である。なお、ツェナーダイオード83は、スイッチング素子81のゲートへの過電圧印加を防ぐためのものである。
【0036】
次いで、本発明の第2実施形態を、図3を参照しつつ説明する。図3は、3レベルDC−AC変換器(3レベルインバータ)の回路図であり、三つの直流電位から交流電圧を生成するものである。図3において、図1A図2と同一の機能を有するものには同一の参照符号を付してある。
【0037】
この3レベルインバータの構成を説明すると、直流電源91,92の直列回路に並列に、スイッチング素子52,53の直列回路が接続されている。また、直流電源91,92同士の接続点であるF点と、スイッチング素子52,53同士の接続点であるC点との間には、双方向スイッチ54が接続されている。なお、双方向スイッチ54内のスイッチング素子54a,54b同士の接続点をD点とする。ここで、スイッチング素子54a,54bは、MOSFETだけでなくIGBTでも良い。
【0038】
前記C点はリアクトル62の主巻線62mの一端に接続され、主巻線62mの他端は補助巻線62sと接地コンデンサ44との直列回路を介して接地されている。前記同様に、主巻線62mと補助巻線62sとは、誘起電圧の極性が逆になるように接続されている。
また、補助巻線62sと接地コンデンサ44との接続点と接地点との間には、スイッチ8と接地コンデンサ45とが直列に接続されている。
主巻線62mと補助巻線62sとの接続点と、前記F点との間には、コンデンサ34が接続されている。このコンデンサ34の両端と接地点との間には接地コンデンサ35が接続され、コンデンサ34の両端にはEMIフィルタ22を介して負荷7が接続されている。
【0039】
ここで、C点は請求項における第1の接続点、D点は第2の接続点、接地コンデンサ44は第1の接地コンデンサ、接地コンデンサ45は第2の接地コンデンサ、寄生キャパシタンス47は第1の寄生キャパシタンス、寄生キャパシタンス46は第2の寄生キャパシタンスに相当する。
【0040】
この3レベルインバータは、スイッチング素子52,53及び双方向スイッチ54のスイッチング動作により、C点とF点との間の電圧が直流電源91の正電圧、直流電源92の負電圧、0[V]と変化する。このため、スイッチング素子52,53及び双方向スイッチ54をパルス幅変調制御することにより、正弦波状の交流電圧を負荷7に供給することができる。
【0041】
図3の回路においては、出力電圧の極性によってC点とD点との電位変動のパターンが異なる。従って、第1実施形態と同様に、C点の電位変動により寄生キャパシタンス47に流れる漏洩電流Iは、出力電圧が正のときに接地コンデンサ44を流れる補償電流Iにより打ち消し、D点の電位変動により寄生キャパシタンス46に流れる漏洩電流Iは、出力電圧が負であってスイッチング素子81がオンしたときに接地コンデンサ45を流れる補償電流Iにより、それぞれ打ち消すことができる。
【0042】
次に、本発明の第3実施形態を、図4を参照しつつ説明する。図4は、4レベルAC−AC変換器(4レベルインバータ)の回路図である。
図4において、図1A図2図3と同一の機能を有するものには同一の参照符号を付してある。すなわち、交流入力端子R1,S1より前段の構成は図1A図2と同様であり、C点,F点以降の構成は図3と同様である。以下では、図1A図2図3と異なる部分を中心に説明する。
【0043】
交流入力端子R1は双方向スイッチ54を介して、スイッチング素子52,53同士の接続点であるC点に接続されている。他方、交流入力端子S1は、直流電源91,92同士の接続点であるF点に接続されている。
また、F点とC点との間には、交流入力電圧Vrsを出力させる際にオフするスイッチ57が接続されている。
前記同様に、双方向スイッチ54は2個のIGBTを逆直列接続して構成しても良い。
【0044】
ここで、第2実施形態と同様に、C点は請求項における第1の接続点、D点は第2の接続点、接地コンデンサ44は第1の接地コンデンサ、接地コンデンサ45は第2の接地コンデンサ、寄生キャパシタンス47は第1の寄生キャパシタンス、寄生キャパシタンス46は第2の寄生キャパシタンスに相当する。
【0045】
この4レベルインバータでは、スイッチング素子52,53、双方向スイッチ54及びスイッチ7の動作により、直流電源91,92の電圧Vps,Vpn、0[V]、交流入力電圧Vrsの4つを組み合わせて交流電圧Vを生成する。
図4の回路においても、出力電圧の極性によってC点とD点との電位変動のパターンが異なる。従って、第1,第2実施形態と同様に、C点の電位変動により寄生キャパシタンス47に流れる漏洩電流Iは、出力電圧が正のときに接地コンデンサ44を流れる補償電流Iにより打ち消し、D点の電位変動により寄生キャパシタンス46に流れる漏洩電流Iは、出力電圧が負であってスイッチング素子81がオンしたときに接地コンデンサ45を流れる補償電流Iにより、それぞれ打ち消すことができる。
【0046】
前述した第1実施形態は単相交流電圧を多レベルの直流電圧に変換する単相コンバータの例であり、第2,第3実施形態は直流電圧を含む多レベルの電圧を単相交流電圧に変換する単相インバータの例であるが、本発明は、3相コンバータ、3相インバータにもそれぞれ適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1:単相交流電源
7:負荷
8:スイッチ
21,22:EMIフィルタ
30,35:接地コンデンサ
31,32,33:コンデンサ
41,44,45:コンデンサ
40,43,46,47:寄生キャパシタンス
50,51,52,53:半導体スイッチング素子
54,541:双方向スイッチ
54a,54b,541a,541b:半導体スイッチング素子
57:スイッチ
62:リアクトル
62m:主巻線
62s:補助巻線
81:半導体スイッチング素子
82:抵抗
83:ツェナーダイオード
91,92:直流電源
R1,S1:交流入力端子
P,N:直流出力端子
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9