(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252972
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】コーン種実の凍結乾燥体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/02 20060101AFI20171218BHJP
A23B 9/00 20060101ALI20171218BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20171218BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
A23B7/02
A23B9/00
G01N24/00 Z
G01N33/02
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-174916(P2013-174916)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-42160(P2015-42160A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】南 千 智
(72)【発明者】
【氏名】山 口 秀 幸
(72)【発明者】
【氏名】小 柳 光 紀
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−299455(JP,A)
【文献】
特開平05−049422(JP,A)
【文献】
特開昭63−000257(JP,A)
【文献】
特開平01−181757(JP,A)
【文献】
特開平08−038067(JP,A)
【文献】
Food Res. Int.,2012年,vol.49, no.2,pp.687-693
【文献】
Cereal Chem.,1990年,vol.67, no.6,pp.580-584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−9/34
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーン種実の凍結乾燥体であって、核磁気共鳴法により得られた、湯戻しされた該凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T2)からなるT2画像の頻度分布のT2≧30msecの範囲の累積頻度が16%以上である、コーン種実の凍結乾燥体。
【請求項2】
炭酸水素ナトリウムで処理されたコーン種実を凍結乾燥させることを特徴とする、コーン種実の凍結乾燥体の製造方法。
【請求項3】
炭酸水素ナトリウムによる処理が、コーン種実を炭酸水素ナトリウム水溶液で浸漬することにより行われる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
炭酸水素ナトリウム水溶液が糖質をさらに含んでなるものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
炭酸水素ナトリウムで処理されたコーン種実を糖質および/または糖アルコールでコーティングし、凍結乾燥後のコーン種実の薄皮を剥離する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
核磁気共鳴法により、湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T2)を測定し、得られたT2画像の頻度分布から湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体の水分分布を決定することを含んでなる、コーン種実の凍結乾燥体の食感特性を判定する方法。
【請求項7】
核磁気共鳴法により得られた、湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T2)からなるT2画像の頻度分布において、T2≧30msecの範囲の累積頻度が16%以上であるときに、被験試料が湯戻し時に水煮缶様の食感を有すると判断する、請求項6に記載のコーン種実の凍結乾燥体の食感特性の判定方法。
【請求項8】
下記工程(A)、(B)および(C):
(A)湯戻しされた被験試料について横緩和時間(T2)を測定し、測定された横緩和時間(T2)からなるT2画像の頻度分布から累積頻度がX%以上になるT2値を求め、そのT2値以上の累積頻度Y1を求めること、
(B)湯戻しされた対照試料について横緩和時間(T2)を測定し、測定された横緩和時間(T2)からなるT2画像の頻度分布において工程(A)で求めたT2値以上の累積頻度Y2を求めること、および
(C)被験試料の累積頻度Y1と対照試料の累積頻度Y2とを比較し、Y1がY2よりも大きいときに被験試料の湯戻し時の食感が対照試料よりも優れていると判断すること
を含んでなる、請求項6に記載のコーン種実の凍結乾燥体の食感特性の判定方法。
【請求項9】
Xが90である、請求項8に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯戻し時の食感に優れたコーン種実の凍結乾燥体およびその製造方法に関する。本発明はまた、コーン種実の凍結乾燥体の湯戻し時の食感特性を判定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
スイートコーン種実に代表されるコーン種実の凍結乾燥体は、インスタントスープ類やインスタント麺類等のインスタント食品の具材として幅広く利用されている。この凍結乾燥形態のコーン種実は熱湯や温水を加えて攪拌したり、あるいは熱湯や温水を加えて加熱したりして湯戻しさせることにより、元の状態に復元させ食するものである。
【0003】
コーン種実の凍結乾燥体は、生鮮原料を加熱処理した後に糖液に含浸させたものを各種乾燥方法(天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等)にて乾燥したものが使用されてきた。コーン種実の凍結乾燥体については、コーン種実の薄皮を凍結乾燥後に剥離させることにより湯戻り性に優れたコーン種実の凍結乾燥体を製造できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−299455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コーン種実の凍結乾燥体は注湯などの簡便な方法で元の状態に復元できるものの、生鮮のトウモロコシを茹でたり、焼いたり、あるいは、水煮缶詰状に処理したものが有するシャキシャキあるいはザクザクといった喫食時の食感が不足しており、この点でさらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、湯戻し時の食感に優れたコーン種実の凍結乾燥体およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、コーン種実の凍結乾燥体の湯戻し時の食感特性を客観的に判定する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、重曹水溶液で浸漬処理されたコーン原料を使用して凍結乾燥体を製造すると、得られた凍結乾燥体の湯戻し時の食感が水煮缶様の食感であるとともに、浮きみとしての特性も満足することを見出した。本発明者らはまた、核磁気共鳴法により湯戻しコーン内部の水分分布画像を取得することにより、その頻度分布と食感との間に相関関係があることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)コーン種実の凍結乾燥体であって、核磁気共鳴法により得られた、湯戻しされた該凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像の頻度分布のT
2≧30msecの範囲の累積頻度が16%以上である、コーン種実の凍結乾燥体。
(2)炭酸水素ナトリウムで処理されたコーン種実を凍結乾燥させることを特徴とする、コーン種実の凍結乾燥体の製造方法。
(3)炭酸水素ナトリウムによる処理が、コーン種実を炭酸水素ナトリウム水溶液で浸漬することにより行われる、上記(2)に記載の製造方法。
(4)炭酸水素ナトリウム水溶液が糖質をさらに含んでなるものである、上記(3)に記載の製造方法。
(5)炭酸水素ナトリウムで処理されたコーン種実を糖質および/または糖アルコールでコーティングし、凍結乾燥後のコーン種実の薄皮を剥離する、上記(2)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)上記(2)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により製造されたコーン種実の凍結乾燥体。
(7)核磁気共鳴法により、湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T
2)を測定し、得られたT
2画像の頻度分布から湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体の水分分布を決定することを含んでなる、コーン種実の凍結乾燥体の食感特性を判定する方法。
(8)核磁気共鳴法により得られた、湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体に含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像の頻度分布において、T
2≧30msecの範囲の累積頻度が16%以上であるときに、被験試料が湯戻し時に水煮缶様の食感を有すると判断する、上記(7)に記載のコーン種実の凍結乾燥体の食感特性の判定方法。
(9)下記工程(A)、(B)および(C):
(A)湯戻しされた被験試料について横緩和時間(T
2)を測定し、測定された横緩和時間(T
2)からなるT
2画像の頻度分布から累積頻度がX%以上になるT
2値を求め、そのT
2値以上の累積頻度Y1を求めること、
(B)湯戻しされた対照試料について横緩和時間(T
2)を測定し、測定された横緩和時間(T
2)からなるT
2画像の頻度分布において工程(A)で求めたT
2値以上の累積頻度Y2を求めること、および
(C)被験試料の累積頻度Y1と対照試料の累積頻度Y2とを比較し、Y1がY2よりも大きいときに被験試料の湯戻し時の食感が対照試料よりも優れていると判断すること
を含んでなる、上記(7)に記載のコーン種実の凍結乾燥体の食感特性の判定方法。
(10)Xが90である、上記(9)に記載の判定方法。
【0009】
本発明のコーン種実の凍結乾燥体は湯戻し時の食感が水煮缶様の食感である。湯戻し時の食感が水煮缶様の食感であるコーン種実の凍結乾燥体はこれまでに知られていないことから、本発明は湯戻し時の食感が優れたコーン種実の凍結乾燥体を提供できる点で有利である。本発明のコーン種実の凍結乾燥体は、上記特性に加え、湯戻し時に浮きみとしての特性をも満足する。湯戻し時に水煮缶様の食感を備え、かつ、湯戻し時に浮きみとして利用できるコーン種実の凍結乾燥体はこれまでに知られていないことから、本発明はこれまでにない新しい特性をもつ食品(特に、インスタント食品)を提供できる点で非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】湯戻しされた凍結乾燥コーン(重曹未処理)と缶詰コーンについて核磁気共鳴(以下、単に「NMR」ということがある)マイクロイメージングを実施することにより作成されたT
2画像とそれに基づいて作成されたT
2値の出現率(relative frequency)に関するヒストグラムを示した図である。NMRイメージングは本明細書の実施例の3.に記載された手順に従って行った。
【
図2】実施例に記載された組合せAについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を対比させた図である。
図2では重曹未処理区の凍結乾燥コーン試料と、0.3%重曹水溶液処理区の凍結乾燥コーン試料のT
2値分布ヒストグラムを対比させた。T
2値の出現率(relative frequency)は棒グラフで示されている。累積ヒストグラムは黒四角形で示されている。
【
図3】実施例に記載された組合せAについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を集計し、対比させた図である。
図3では0.3%重曹水溶液処理区の累積頻度90%以上になるT
2値を基準にして求めたbin値の総和を重曹未処理区と0.3%重曹水溶液処理区で対比させた。
【
図4】実施例に記載された組合せBについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を対比させた図である。
図4では重曹未処理区の凍結乾燥コーン試料と、0.5%重曹水溶液処理区の凍結乾燥コーン試料のT
2値分布ヒストグラムを対比させた。T
2値の出現率(relative frequency)は棒グラフで示されている。累積ヒストグラムは黒四角形で示されている。
【
図5】実施例に記載された組合せBについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を集計し、対比させた図である。
図5では0.5%重曹水溶液処理区の累積頻度90%以上になるT
2値を基準にして求めたbin値の総和を重曹未処理区と0.5%重曹水溶液処理区で対比させた。
【
図6】実施例に記載された組合せCについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を対比させた図である。
図6では重曹未処理区の凍結乾燥コーン試料と、1.0%重曹水溶液処理区の凍結乾燥コーン試料のT
2値分布ヒストグラムを対比させた。T
2値の出現率(relative frequency)は棒グラフで示されている。累積ヒストグラムは黒四角形で示されている。
【
図7】実施例に記載された組合せCについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定結果を集計し、対比させた図である。
図7では1.0%重曹水溶液処理区の累積頻度90%以上になるT
2値を基準にして求めたbin値の総和を重曹未処理区と1.0%重曹水溶液処理区で対比させた。
【0011】
本発明のコーン種実の凍結乾燥体は、その内部に適度な親水性あるいは吸水性が付与されたものである。コーン種実の凍結乾燥体の内部に適度な親水性あるいは吸水性を付与することにより、湯戻し時に水煮缶様の食感を備え、かつ、湯戻し時に浮きみとして利用できるという特徴を有するコーン種実の凍結乾燥体を得ることができる。
【0012】
内部に適度な親水性あるいは吸水性が付与されたコーン種実の凍結乾燥体は、例えば、炭酸水素ナトリウムで処理されたコーン種実を凍結乾燥させることにより得ることができる。コーン種実の凍結乾燥体の内部に適度な親水性あるいは吸水性が付与され、それによりコーン種実の凍結乾燥体が上記特徴を有しているかは、湯戻しされたコーン種実の凍結乾燥体(以下、単に「湯戻しコーン」ということがある)の水分分布を核磁気共鳴法により測定することにより評価することができる。具体的には、湯戻しコーンに含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像の頻度分布のT
2≧30msecの範囲の累積頻度が、T
2画像の頻度分布の全累積頻度に対して16%以上、好ましくは21%以上、より好ましくは56%以上(いずれも上限値は76%とすることができる)である場合に、コーン種実の凍結乾燥体は、湯戻し時に水煮缶様の食感を備え、かつ、湯戻し時に浮きみとして利用できるという特徴を有すると評価できる。上記評価は、本発明の判定方法の実施手順に従って実施することができる。なお、上記評価に当たっては、コーン種実の凍結乾燥体は熱湯(例えば、95℃〜100℃)で湯戻しすることができ、水分分布の測定はNMRマイクロイメージングにより行うことができる。
【0013】
本発明においてコーン種実の凍結乾燥体の製造原料として使用するコーン種実としては、スイートコーン、デントコーンおよびフリントコーンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。製造された乾燥体をインスタントスープ類や、インスタント麺類等の具材として使用する場合には、スイートコーンを原料として使用することができる。本発明でスイートコーンを用いる場合に、スイートコーンは甘味種、普通種など、特に制限はない。
【0014】
本発明において炭酸水素ナトリウム処理(以下、「重曹処理」ということがある)は、コーン種実を炭酸水素ナトリウム水溶液中に浸漬することにより行うことができる。炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)は食品添加物用のものを使用することができる。浸漬処理に用いられる炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度は凍結乾燥体の湯戻し時の食感が向上する限りにおいて特に限定されないが、例えば、0.2質量%〜5質量%、0.3質量%〜4質量%、あるいは0.5質量%〜1.0質量%の範囲とすることができる。
【0015】
本発明において炭酸水素ナトリウム処理をする際には、炭酸水素ナトリウム水溶液に好ましくは糖質を添加することができる。糖質を添加した炭酸水素ナトリウム水溶液中にコーン種実を浸漬すると、浸透圧が適度に調節されることによりコーン種実からの糖質(主としてショ糖)の溶出を抑制することができ、凍結乾燥体の製品としての歩留まりを向上させることができる。炭酸水素ナトリウム水溶液に添加することができる糖質は、例えば、ショ糖、ブドウ糖、トレハロース並びにこれらの一部および全部の組合せから選択することができる。また、炭酸水素ナトリウム水溶液中の糖質の濃度は、原料コーン種実の糖度(すなわち、BRIX値)と同等になるように調整することができる。なお、原料コーン種実の糖度は、ペースト状のコーン種実に同質量の水を加えて撹拌・ろ過し、得られたろ液を糖度計で測定した値とすることができる。
【0016】
本発明においてコーン種実の炭酸水素ナトリウム水溶液による浸漬処理は、例えば、0℃〜10℃の温度範囲で12〜48時間静置することにより行うことができる。浸漬処理は典型的には冷蔵庫の中で行うことできる。浸漬処理が終了した後は、液だれがなくなるまで液切り処理を実施することが望ましい。
【0017】
本発明の製造方法は、原料コーン種実を炭酸水素ナトリウム処理する以外は、常法に従って実施することができる。すなわち、炭酸水素ナトリウム処理された原料コーン種実は予備凍結処理を経て凍結乾燥処理に付することができる。例えば、−20〜−40℃程度の温度で12時間以上予備凍結した後、棚温40℃前後で30〜40時間程度、真空凍結乾燥させることができる。予備凍結処理は典型的には冷凍庫の中で行うことができ、凍結乾燥処理は市販の真空凍結乾燥機の中で行うことができる。
【0018】
凍結乾燥処理の前に、炭酸水素ナトリウム処理されたコーン種実を糖質および/または糖アルコールでコーティングし、凍結乾燥後にコーン種実の薄皮を剥離してもよい(特開2003−299455号公報参照)。この処理により凍結乾燥体の湯戻り性を著しく改善することができる。コーティングに用いる糖類としては、スクロース、フルクトース、ブドウ糖など、食品に用いることが可能な糖質であれば、いずれも使用することができる。また、コーティングに用いる糖アルコールとしては、例えばソルビトールなどを挙げることができる。コーティングにあたっては、上記糖類および糖アルコールのうちの一種を用いてもよいし、あるいはこれらを二種以上併用してもよい。また、コーン種実の薄皮の剥離は機械的に行うことができ、例えば、ヘリカルコイル式粉粒体搬送機や回転式ブレンダーを用いて実施することができる。
【0019】
また、原料コーン種実は、炭酸水素ナトリウム処理に先だってブランチング処理を行うことができる。ブランチング処理は常法により実施でき、例えば、90℃の熱湯中で1〜20分間程度処理すればよい。
【0020】
本発明のコーン種実の凍結乾燥体は、典型的にはインスタントスープ類やインスタント麺類等のインスタント食品に添加して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明によれば、コーン種実の凍結乾燥体の食感特性を判定する方法が提供される。この判定方法は、核磁気共鳴法により、湯戻しコーンに含まれる水分中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像を測定することを特徴とする。湯戻しされたコーン種実内の水分分布と喫食時の食感との関係はこれまで知られていなかったが、後記実施例に示されるように、水分含量と相関関係があるT
2値を指標にすることで湯戻しされたコーン種実の喫食時の食感を判定可能であることが確認された。
【0022】
本発明の判定方法の第1の態様によれば、被験試料について核磁気共鳴法による分析を実施して被験試料内のT
2画像を取得し、その結果に基づいて被験試料が湯戻し時に水煮缶様の食感を有するか否かを判定することができる。この判定方法では、まず、湯戻しされた被験試料について核磁気共鳴法による分析を実施し、該試料に含まれる水分子の水素原子核に由来する核磁気共鳴シグナルを検出する。具体的には、水分子中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像を取得し、T
2画像の頻度分布を求める。本発明ではT
2画像の頻度分布は横軸をT
2値(msec)とし、縦軸を出現頻度(%)としたヒストグラムにより表現することができる。湯戻しされた凍結乾燥コーン(従来品)と缶詰コーンについて取得されたT
2画像と、それに基づいて作成されたT
2画像の頻度分布(ヒストグラム)の例は
図1に示される通りである。得られたT
2画像の頻度分布において、T
2値が30msec以上の範囲の累積頻度を算出し、それが、T
2画像の頻度分布の全累積頻度に対して16%以上、好ましくは21%以上、より好ましくは56%以上(いずれも上限値は76%とすることができる)であるときに、被験試料が湯戻し時に水煮缶様の食感を有すると判定することができる。上記判定に当たって、コーン種実の凍結乾燥体は熱湯(例えば、95℃〜100℃)で湯戻しすることができる。また、水分分布の測定はNMRマイクロイメージングにより行うことができる。本発明において実施するNMRマイクロイメージングの条件は実施例3.(3)の条件に従って設定することができ、具体的には以下のように設定することができる。
試料室温度:恒温装置の誤差を加味しつつ常に20±1℃
測定磁場:9.4T(テスラ)
水素原子核のNMR緩和時間T
2から成る2次元画像の作成法:MSME法(測定パラメターTEを3.26msecとし、3.26msecずつ積算していった各エコー時間における画像を16枚取得し、湯戻しコーンの水分由来シグナルが減衰する様子を捉える。また、TR=5sec、マトリクスサイズ=128×128、スライス厚=1mm、FOV=15mm×15mm、バンド幅=101010.1Hzとする。)
【0023】
本発明の判定方法の第2の態様によれば、被験試料と対照試料について核磁気共鳴法による分析を実施して被験試料内のT
2画像を取得し、被験試料の結果と対照試料の結果を対比し、対比結果に基づいて被験試料の湯戻し時の食感が対照試料よりも優れているか否かを判定することができる。
【0024】
この判定方法では、湯戻しされた被験試料について水分子中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像を取得し、得られたT
2画像の頻度分布から累積頻度がX%以上になるT
2値を求め、そのT
2値以上の累積頻度Y1を求める(工程(A))。横緩和時間(T
2)の頻度分布はヒストグラムにより表現することができる。また、得られたT
2画像の頻度分布において、累積頻度が例えば80%以上あるいは90%以上になるT
2値を求めることができる。求めたT
2値以上の範囲の累積頻度Y1はヒストグラムから求めることができ、例えば、そのT
2値以上の数値に該当するbin値を合計することで算出することができる。
【0025】
上述の第2の態様の判定方法では、湯戻しされた対照試料について水分子中の水素原子核の横緩和時間(T
2)からなるT
2画像を取得し、得られたT
2画像の頻度分布において工程(A)で求めたT2値以上の累積頻度Y2を求める(工程(B))。工程(A)と同様に、工程(B)においてもT2画像の頻度分布はヒストグラムにより表現することができる。また、工程(A)で求めたT
2値以上の範囲の累積頻度Y2はヒストグラムから求めることができ、例えば、そのT
2値以上の数値に該当するbin値を合計することで算出することができる。横緩和時間(T
2)の測定と得られたT
2画像の頻度分布の作成については、被験試料、対照試料いずれを先に実施してもよい。工程(A)および(B)では、コーン種実の凍結乾燥体は熱湯(例えば、95℃〜100℃)で湯戻しすることができる。また、水分分布の測定はNMRマイクロイメージングにより行うことができる。
【0026】
上述の第2の態様の判定方法では、被験試料の累積頻度Y1と対照試料の累積頻度Y2とを比較し、Y1がY2よりも大きいときに被験試料の湯戻し時の食感が対照試料よりも優れていると判断する(工程(C))。
【実施例】
【0027】
本実施例ではコーン種実を重曹水溶液で浸漬処理した後に凍結乾燥処理を行い、重曹処理したコーン種実の凍結乾燥体(本明細書中において、単に「凍結乾燥コーン」ということがある)を調製した。また、得られた重曹処理凍結乾燥コーンを官能評価するとともに、NMRマイクロイメージングにより湯戻しコーン内部の水分分布を分析し、水分分布と官能評価との相関関係の有無を調べた。
【0028】
1.凍結乾燥コーンの調製
【0029】
(1)コーン原料の調製
凍結乾燥コーンの原料として冷凍コーンカーネル(IQFコーン、Stahlbush Island Farma社製)を使用した。冷凍状態のIQFコーンを計量し、90℃に加熱したスチームコンベクションオーブン(Super Steam(SSCG-04S)、株式会社マルゼン製)内で20分間蒸気加熱し、IQFコーンを解凍した。
【0030】
(2)コーン浸漬処理
上記(1)で得られた解凍コーンに、コーンと同質量の重曹水溶液(炭酸水素ナトリウム水溶液)を加え、5℃±3℃の温度で24時間浸漬した(重曹処理区)。重曹水溶液は、0.3質量%、0.5質量%、1.0質量%の3種類を準備した。浸漬処理後、浸漬液の液きりを行った。
【0031】
次いで、重曹処理区のコーンと重曹処理されていない未処理区のコーンに対して糖コーティング処理を行った。具体的には、50質量%ショ糖水溶液をコーン質量の6%添加し、全てのコーン表面が糖コーティングされるように混合した。なお、この糖コーティングは、凍結乾燥処理後にコーン表皮を容易に剥くための処理である。
【0032】
(3)凍結乾燥処理
上記(2)の糖液コーティングの後、予備凍結のため、コーンを−20℃で12時間冷凍処理した。予備凍結後、真空凍結乾燥機(製品名:RLE-206、(共和真空技術株式会社製)にて乾燥温度40℃、乾燥時間36時間で凍結乾燥処理を行った。
【0033】
凍結乾燥処理後、表皮の剥皮処理のため、コーンを篩上で振動させ、コーン剥皮率が3%以上となるまで同処理を行った。なお、コーン剥皮率は下記計算式で算出した。
【数1】
【0034】
2.官能評価試験
上記1.で調製された重曹処理区の凍結乾燥コーンと未処理区の凍結乾燥コーンについて官能評価試験を実施した。具体的には、上記1.で調製された凍結乾燥コーン試料5gに熱湯(95℃〜100℃)を150ml注ぎ、約15秒間撹拌した後、1分間静置した。得られた湯戻し試料を官能評価に供した。
【0035】
官能評価は、5名の熟練した官能評価パネラーにより喫食時の味覚、食感、浮き性、総合評価を評価することにより行った。評価は未処理区を基準とした場合の5段階評価(A:非常に優れる、B:優れる、C:やや優れる、D:同等、E:劣る。)で行った。
【0036】
結果は以下の通りであった。
【表1】
【0037】
表1の通り重曹処理区の試料は未処理区の試料と比較して食感が著しく改善した。特に、0.5%重曹水溶液で処理された試料や1.0%重曹水溶液で処理された試料は食感が改善されるとともに総合評価でも高い評価となった。また、重曹処理区の試料については浮き性に悪影響がみられなかった。このように、重曹処理された凍結乾燥コーンは優れた食感を有するとともに、浮きみとしての特性をも満足するものであった。
【0038】
3.コーン内部の水分分布量の分析と食感改善効果の判定
上記1.で調製された重曹処理区の凍結乾燥コーンと未処理区の凍結乾燥コーンについて、NMRマイクロイメージングによるコーン内部の水分分布測定を行った。NMRマイクロイメージングでは、主に水の
1H原子に由来するNMRシグナルを検出することができるが、NMRマイクロイメージングを用いることにより湯戻し後の凍結乾燥コーン内部の水分分布を非破壊かつ定量的に解析することができる。
【0039】
(1)測定試料の調製
凍結乾燥コーン3gをプラスチックカップに入れ、90℃以上の熱水150mlを一気に注ぎ入れた。注湯後攪拌をせず、15秒の静置の後、10メッシュの篩にて水切りを行った。水切り後、メッシュ上に60秒静置した後、NMR測定に供した。
【0040】
(2)NMR試料管の調製
測定には、内径約13mmのNMR試料管を用いた。パルス均一性の良いコイル中心付近のみを活用する為、コーンの同時測定数を最大3粒としコイル上下方向の中心部分から±1cmに試料全体が収まるようにコーンを重ねて設置した。また、測定中に試料が動かないよう、適切な大きさにカットしたウレタンフォームを上下に設置し固定した。この時、試料が変形しないように注意した。
【0041】
(3)NMR装置と測定条件
測定にはブルカー社製核磁気共鳴装置(AVANCE)、及び9.4Tワイドボア型超伝導磁石(内径89mm)と直径15mm
1Hバードゲージコイルを装着したマイクロイメージングプローブ(Micro2.5)を用いた。水素原子核のNMR緩和時間T
2から成る2次元画像を取得する為、MSME(Multi Slice Multi Echo)法を用いた。測定時の試料室温度は20±1℃とし、湯戻しコーンは測定前に試料室で5分間静置し測定温度になじませた。マトリクスサイズ128×128、スライス厚1mm、TR=5sec、TE=3.26msec、エコー画像数16、FOV=15mm×15mm(縦×横)、バンド幅101010.1Hzとした。スライス数は1〜3とし試料管中のコーンそれぞれの中間部分が撮像位置になるよう、スライス間隔を適宜調節した。各測定の画像強度が公平となるようレシーバゲインは全ての測定で同じ値とした。得られた各エコー時間画像は、0から255の範囲で表現された256階調の画像に変換した。
【0042】
(4)T
2画像の作成
上記(3)で得られた各エコー時間[t]における画像をY=A+C・exp(−t/T
2)にフィッティングすることにより、T
2値によって表現された画像が得られる。NMR緩和時間T
2は分子運動性と相関があり(例えば、日本分光学会 測定法シリーズ41、NMR分光法−原理から応用まで−、54頁、株式会社学会出版センター参照)、澱粉系素材の加熱調理において、調理に用いる水の量が多くなると系に含まれる自由水の量も多くなりT
2値が長くなることが経験的に知られている。これにより、食品分野では水分の観測法としてT
2値が利用されることがある(例えば、Midori Kasai et al., Food Research International 38(2005)pp403-410; Hsi-Mei Lai & San-Chao Hwang, Food Research International 37(2004)pp957-966;およびT.I.Kojima et al., Journal of Food Science 66(9)(2001)pp1361-1365参照)。本実施例でもT
2画像によって凍結乾燥コーン中に浸潤する水分分布を調べた。T
2画像の生成において、画像中の強度の弱いピクセルは適切に計算されずT
2画像上でノイズとなる。これを防ぐ為、各エコー時間画像の強度範囲を下限値15、上限値255としてT
2画像生成に用いるピクセルを選択した。これ以外のピクセルはT
2画像において0とした。
【0043】
(5)標準試料による測定条件の確認
ここで、内径約4mmのNMR試料管に2.0[mol/L]グルコース溶液を封入したものを標準試料とし、上記(3)、及び(4)と同じ条件にて、コイル上下方向の中心部分の断面についてT
2画像を取得しS/N(シグナルノイズ比)を求めた。最初のエコー時間画像において、上記グルコース溶液に由来するピクセルを下限値15、上限値255として選択し、さらにその中心部分0.05cm
2をシグナル領域とした。また、これ以外の背景に相当する部分からシグナル領域と同じ面積分のピクセルを選択し、これをノイズ領域とした。測定毎のS/N=(シグナル領域の平均値/ノイズ領域の標準偏差)が140以上であることを確認した。また、得られたT
2画像において、上記シグナル領域に相当する部分の平均値は実験ごとの試料室温度の誤差を加味し41msecから44msecの範囲内であること、及び標準偏差が1msec以下であることを確認した。
【0044】
(6)T
2画像の解析
各試験区での検体数を9(n=9)とし、得られたT
2画像のT
2>0の値についてヒストグラム、及び累積ヒストグラムを作成し、それぞれについて平均値と標準偏差を求めグラフ化した。
【0045】
(7)食感改善効果の判定
上記(6)で作成したヒストグラムを元にして食感改善効果の有無を判定できるかを検証した。検証試験は以下の3つの組合せにおいて実施した。
・組合せA:対照区(重曹未処理区) 対 被験区(0.3%重曹水溶液処理区)
・組合せB:対照区(重曹未処理区) 対 被験区(0.5%重曹水溶液処理区)
・組合せC:対照区(重曹未処理区) 対 被験区(1.0%重曹水溶液処理区)
【0046】
被験区の累積頻度が90%以上になるT
2値を求め、そのT
2値以上のT
2値を有するbin値の総和を対照区と被験区それぞれで求めた。t検定を実施し、対照区と被験区の数値(bin値の総和)を比較した。結果は
図2〜7に示される通りであった。
【0047】
その結果、組合せA、BおよびCのいずれにおいても被験区の数値が対照区を上回った(
図3、5および7参照)。前記表1に示されるように、0.3%重曹水溶液、0.5%重曹水溶液および1.0%重曹水溶液で処理されて調製された凍結乾燥コーン試料はいずれも未処理の凍結乾燥コーン試料よりも食感が改善されたものである。従って、NMRマイクロイメージングを用いた分析法により凍結乾燥コーン試料の食感改善性を客観的に判定することができる。