特許第6253220号(P6253220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6253220-APJ活性化剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6253220
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】APJ活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/539 20060101AFI20171218BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20171218BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20171218BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/515 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/736 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20171218BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20171218BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171218BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20171218BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20171218BHJP
【FI】
   A61K36/539
   A61K8/9789
   A61K8/9794
   A61K36/185
   A61K36/28
   A61K36/515
   A61K36/53
   A61K36/534
   A61K36/725
   A61K36/73
   A61K36/736
   A61K36/9066
   A61P17/00
   A61P43/00 111
   A61Q19/00
   A61K131:00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-81958(P2012-81958)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209339(P2013-209339A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月2日
【審判番号】不服-15630(P-15630/J1)
【審判請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】澤根 美加
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 健太朗
【合議体】
【審判長】 須藤 康洋
【審判官】 渡戸 正義
【審判官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−189609(JP,A)
【文献】 特開2006−290782(JP,A)
【文献】 特開2010−208991(JP,A)
【文献】 特開2008−120772(JP,A)
【文献】 特開2004−359674(JP,A)
【文献】 特開2001−354517(JP,A)
【文献】 特開2000−063259(JP,A)
【文献】 特開2008−231031(JP,A)
【文献】 特開2004−250445(JP,A)
【文献】 特開2003−261432(JP,A)
【文献】 特開2012−020942(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123215(WO,A1)
【文献】 Circulation,2010年,Vol.122,No.2,p.e27,doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.110.192773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61K36/00-36/9068
A61Q1/00-90/00
A61P1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、及びウコンエキスから成る群から選択される1又は複数の成分を含んで成る、リンパ管機能を安定化するためのAPJ活性化剤。
【請求項2】
皮膚に適用されることを特徴とする請求項1に記載のAPJ活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスから成る群から選択される1又は複数の成分を含んで成るAPJ活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アペリンは、1998年に、長らくオーファン受容体であった7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であるAPJ(別名、AGTRL1:Angiotensin receptor like 1)に対する結合因子として牛の胃の細胞抽出液から単離された分子である。ヒトアペリンは、心臓、肺、腎臓、脂肪、胃、脳、副腎、内皮など様々な部位での発現が報告されており、77アミノ酸の前駆タンパク質に由来する36アミノ酸から成るアペリンAPJ受容体のリガンドとして知られる(非特許文献1)。アペリンの cDNA は77アミノ酸をコードするが、この前駆体からロング・フォーム(42〜77アミノ酸)とショート・フォーム(65〜77アミノ酸)が形成される。どちらのアペリンもAPJの活性化を誘導することが知られている。これまで、心血管系や中枢神経系で、APJの発現が報告されてきており、心臓では心筋収縮作用、神経系ではバソプレシンの発現を制御するなど、体液の調節機構に関与することが示唆されてきている。また、APJはエイズウイルスの受容体として感染にも関与することから、種々の観点からの創薬のターゲットとしてにわかに注目を浴びつつある受容体である。APJの発現は、血管系においては、血管内皮細胞や壁細胞に発現するとされてきており、アフリカツメガエルを用いた遺伝子ノックダウンの実験にて、アペリン/APJシステムが血管発生に必須の役割を果たすことが示され、またマウスやヒトにおいても本受容体の発現が内皮細胞に認められることから、哺乳類においても血管形成に関与することが予想されてきた(非特許文献2)。また、アペリンのノックアウトマウスの解析や、試験管内での血管系解析を通して、血管内皮細胞がAng1で刺激を受けた際に分泌するアペリンが血管径を制御することが報告されている(非特許文献3)。さらに、近年、アペリンが、皮膚リンパ管の機能安定化を促進し、皮下脂肪の蓄積を抑制することが明らかとなっている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−208991号公報
【特許文献2】特開2012−020942号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kawamata Y et al, (2001) Molecular properties of apelin: tissue distribution and receptor binding. BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA. 2-3:162-171
【非特許文献2】実験医学 Vol. 26, No.9 (2008), pp. 1380-1383
【非特許文献3】Kidoya et al, (2008) Spatial and temporal role of the apelin/APJ system in the caliber size regulation of blood vessels during angiogenesis. EMBO J 27: 522-534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アペリンの受容体であるAPJを活性化する新規な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、この度、アペリン/APJシグナル系を利用したスクリーニング方法を確立し、該スクリーニング方法を用いて、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスが、APJを活性化し、アペリンと同様の機能を有するという驚くべき知見を得た。
【0007】
したがって、本願は以下の発明を包含する:
[1] オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスから成る群から選択される1又は複数の成分を含んで成るAPJ活性化剤。
[2] 皮膚に適用されることを特徴とする[1]に記載のAPJ活性化剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るAPJ活性化剤を皮膚に適用することにより、APJの活性化に関与する多様な疾患や症状の予防・解消や、美容状態の改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アペリンによる細胞内cAMP濃度の減少、及びアペリン中和抗体による細胞内cAMP濃度の減少の抑制を示すグラフである。
図2】アペリン様薬剤(オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキス)単独(棒グラフ左)、及びアペリン様薬剤+アペリン中和抗体(棒グラフ右)を添加した場合における細胞内cAMP濃度上昇のコントロールであるフォルスコリン添加群に対する割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
APJ受容体は、AGTRL1(アンジオテンシン受容体様1)とも称され、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の1つであり、380のアミノ酸から成る。この膜貫通領域は、アンジオテンシン(AT1)受容体と40〜50%の相同性を示す。APJ受容体は、αサブユニット(約40〜50kDa)、βサブユニット(約35kDa)及びγサブユニット(約10kDa)からなるヘテロ三量体Gタンパク質と共役しており、情報伝達(シグナル)カスケードに関連していることが知られている。APJ受容体が活性化していない状態ではα,β,γの各々のサブユニットは強く結合しているが、APJ受容体にアペリンが結合することにより、APJ受容体が活性化し、αサブユニットに結合しているGDPとGTPの交換反応がおこり、GTP結合型αサブユニットとβγサブユニットに解離する。これらのサブユニットは、各々の標的タンパク質・酵素を活性化し、シグナルを下流へと伝達する。その後、αサブユニットに結合したGTPは、αサブユニットのGTPase活性により分解されてGDPとなり、GDP結合型αサブユニットはβγサブユニットと結合し、不活性型の三量体を再び形成する。三量体Gタンパク質はαサブユニットの機能及び遺伝子の相違から、Gs、Gi、Go、Gq、Gt、Golf等のサブファミリーに分類されている。GsとGi はそれぞれアデニル酸シクラーゼの活性を亢進又は抑制し、Goは神経組織のシグナル伝達系に関係し、GqはホスホリパーゼCβを活性化し、そしてGtとGolfはそれぞれ視細胞(網膜)と臭細胞のシグナル伝達系に重要な役割を果たしている。APJ受容体がアペリンと結合した場合には、Gi経路を介してアデニル酸シクラーゼの活性が抑制されるため、その結果、細胞内のcAMP濃度が減少する。
【0011】
本発明者は、上記アペリン/APJシグナル系を利用し、アペリン様薬剤のスクリーニング方法を確立した。具体的には、アペリン様薬剤のスクリーニングは、まず、1次スクリーニングとして、cAMPルシフェラーゼレポーターベクターをトランスフェクトした単離細胞(例えば、NIH-3T3細胞)を96ウェルプレートに播種し、そこに候補薬剤を添加してプレインキュベートし、フォルスコリンによりアデニル酸シクラーゼを活性化させた後、ルシフェラーゼの発光をルミノメーター(例えば、GloMaxTM 96 Microplate Luminometer(Promega))によりcAMP濃度を測定し、フォルスコリンによるcAMP濃度上昇を抑制した薬剤を選定とする。そして、次に、cAMP濃度の減少がAPJの活性化を介していることを確認するために、2次スクリーニングとして、1次スクリーニングで選定した薬剤とアペリン中和抗体(例えば、4G5)とを一緒に加え、1次スクリーニングと同様のルシフェラーゼアッセイを行う。その結果、中和抗体の添加により、cAMP濃度の減少が抑制され、80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは100%までcAMP濃度の減少を回復する薬剤をアペリン様薬剤として選定することができる。
【0012】
本発明者は、この度、上記スクリーニング方法により、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスが、アペリンの受容体であるAPJを活性化させ、これにより、アペリンと同様の機能を有する蓋然性が極めて高いという知見を得た。したがって、本発明により、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスから成る群から選択される1又は複数の成分を含んで成るAPJ活性化剤が提供される。
【0013】
オウゴンエキスは、シソ科タツナミソウ属の多年草で、中国大陸北部を原産とするコガネバナ(Scutellaria baicalensis)の根(オウゴン)に由来する抽出物であり、老化防止作用を有することが知られており、生活習慣病などの治療薬や化粧品などの有効成分として用いられている。
【0014】
ローズマリーエキスは、地中海沿岸を原産とするシソ科の常緑低木であるローズマリー(Rosmarinus officinalis)に由来する芳香性の抽出物であり、該植物の根、葉、茎、花、植物全体を原材料として用いることができる。交感神経活性化作用や痩身作用を有することが知られており、医薬品、食品、化粧品などの有効成分として用いられている。
【0015】
アンズ核粒は、中国大陸北部を原産とするホンアンズ(Prunus armeniaca L.) 又はその近縁植物の種子の内果皮を粉砕して作られた粒子状の原料である。アンズ核粒は、そのまま又は乾燥したものを粉砕して乾燥粉末として、あるいは、これら原料を溶媒で抽出し、抽出物として用いてもよい。アンズ核粒又はその抽出物は、脂肪分解促進作用や痩身作用を有することが知られており、医薬品や化粧品などの有効成分として用いられている。
【0016】
ゲンチアナエキスは、ヨーロッパを原産とするリンドウ科の多年草であるゲンチアナ(Gentiana lutea)に由来する抽出物であり、該植物の根、葉、茎、花、植物全体を原材料として用いることができる。脂肪分解作用や痩身作用を有することが知られており、医薬品や化粧品などの有効成分として用いられている。
【0017】
タイムエキスは、ヨーロッパ、北アフリカ、アジアを原産とするシソ科イブキジャコウソウ属 (Thymus)に属する植物、特にタチジャコウソウ(common thyme)に由来する抽出物であり、該植物の根、葉、茎、花、植物全体を原材料として用いることができる。脂肪分解作用を有することが知られており、医薬品や食品、化粧品などの成分として用いられている。
【0018】
ハッカ末は、地中海沿岸、ヨーロッパ、アジア東部を原産とするシソ科ハッカ属(Mentha)の多年草植物の全草を乾燥させて粉末にしたものである。脂肪燃焼作用を有することが知られており、医薬品や食品、化粧品などの成分として広く用いられている。
【0019】
タイソウエキスは、ヨーロッパを原産とするクロウメモドキ科ナツメ(Ziziphus jujuba)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に未成熟果実が原材料として用いられる。痩身作用を有することが知られており、医薬品や食品、化粧品などの成分として用いられている。
【0020】
ホップエキスは、ヨーロッパを原産とするクワ科植物のホップ(Humulus lupulus)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に雌花穂が原材料として用いられる。脂肪細胞分化抑制作用や抗炎症作用を有することが知られており、肥満や肥満に伴う疾病、炎症応答と関連した病理学的状態の治療薬や、食品、化粧品の成分として用いられている。
【0021】
キウイエキスは、中国を原産とするマタタビ科マタタビ属の雌雄異株のキウイフルーツ(Actinidia deliciosa)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に果実が原材料として用いられる。抗肥満作用を有することが報告されており、高血圧症、高脂血症、肥満症などの治療薬や、食品、化粧品の成分として用いられている。
【0022】
ローマカミツレエキスは、ヨーロッパを原産とするキク科アンテミス属のローマカミツレ(Chamaemelum nobile)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に花が原材料として用いられる。デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)産生促進作用を有することが知られており、皮膚改善剤等のアンチエイジング剤、免疫賦活剤、抗糖尿病剤、抗骨粗しょう症剤、抗肥満剤、睡眠促進剤、抗中枢神経剤等の医薬品として使用できることが報告されている。
【0023】
リンゴエキスは、中央アジアを原産とするバラ科リンゴ属のリンゴ(Malus domestica)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に果実が原材料として用いられる。プロシアニジンを成分として含み、抗肥満剤として使用できることが報告されている。
【0024】
サンザシエキスは、バラ科サンザシ属のサンザシ(Crataegus cuneata)に由来する抽出物であり、該植物の花、葉、実、植物全体を原材料として用いることができる。脂肪燃焼促進作用を有することが知られており、飲食品の成分として用いられている。
【0025】
ウコンエキスは、ショウガ目ショウガ科のウコン属のウコン(Curcuma longa)に由来する抽出物であり、脂質代謝改善作用や脂質分解促進作用を有することが知られており、医薬品や食品、化粧品などの成分として広く用いられている。
【0026】
これらの植物は日本でも栽培されており、入手可能な植物である。
【0027】
これらの植物抽出物の抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、上記原材料をそのまま使用することもできるが、粉末状に粉砕・細断して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。
【0028】
抽出温度は特に限定されるものではなく、原材料の粉砕物の大きさや溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、原材料の粉砕物の大きさ、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0029】
例えば、上記植物抽出物は、原材料を溶媒中に浸漬し、室温又は80℃〜100℃にて抽出することができる。抽出処理により得られた抽出液をろ過後、そのまま又は必要に応じて濃縮若しくは乾固したものを、活性成分として使用することができる。なお、この抽出処理の際には、原材料は細断又は粉砕したものを用いてもよい。また、生の原材料又は乾燥した原材料を用いてもよいし、あるいは焙煎した原材料を用いてもよい。焙煎方法は特に限定されるものではないが、80℃〜120℃で0.5時間〜2時間焙煎する方法が挙げられる。
【0030】
抽出に使用される溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水(熱水等を含む)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール)、グリコール(例えば1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール)、グリセリン、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えばジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル)、アセトニトリル、エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えばクロロホルム)、又はこれらのうち2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0031】
このような抽出操作により、原材料から有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、数日静置して熟成させてから用いても良い。さらに滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解して使用してもよい。
【0032】
本発明に係るAPJ活性化剤は、APJの活性に関与する多様な疾患や症状の予防又は治療、あるいは美容状態の改善に有効な医薬品、食品又は化粧品として利用できる。APJの発現に関与する疾患、症状又は美容状態には、紫外線の照射によりもたらされる皮膚の炎症、アトピー性皮膚炎、赤ら顔、酒さ、乾癬等の皮膚炎、リンパ管の構造の不安定化を原因とするリンパ液の漏出による皮膚疾患、例えば紫外線照射、フィラリア、手術、悪性腫瘍、炎症にともなう二次性のリンパ浮腫や先天性リンパ浮腫、例えばMilroy病、Meige病、lymphedema-distichiasis症候群、皮下脂肪蓄積が伴う疾患、例えば肥満、セルライト、たるみ(皮膚老化、弾力低下)、または皮下脂肪蓄積に付随する疾患・症候群、例えば睡眠時無呼吸症候群、頻尿、無毛症、月経異常、ホルモン低下による発育不良、貧血、卵巣がん、子宮がん、乳がん、不妊症、肝硬変、痔、深部静脈血栓症、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症などが挙げられる。
【0033】
本発明に係るAPJ活性化剤は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明のAPJ活性化剤の投与形態は特に制限されるものではなく、経口、非経口、外用等であってよいが、好ましくは外用剤である。剤型としては、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤、注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤、又は錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤を挙げることができる。
【0034】
本発明のAPJ活性化剤中のアペリン様薬剤(オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及び/又はウコンエキス)の配合量は、用途に応じて適宜決定できるが、一般には剤全量中、0.00001〜20.0質量%、好ましくは0.00001〜10.0質量%である。
【0035】
また、本発明のAPJ活性化剤には、アペリン様薬剤(オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及び/又はウコンエキス)以外に、例えば、通常の食品、化粧品又は医薬品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0036】
さらに、本発明のAPJ活性化剤を皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0037】
本発明に係るAPJ活性化剤は痩身を目的とする美容学的方法にも利用される。この美容学的方法は、例えば本発明に係るAPJ活性化剤を皮下脂肪蓄積の気になる部位、例えばセルライト(脂肪の繊維組織)を呈している部位に適用し、そのまま放置するか又は例えばリンパ管液の流れの方向に即してマッサージなどを施し、リンパ管液の流れを促進するなどして行うことができる。この方法の適用箇所には顔面、首、手足、など、全身のあらゆる部位が挙げられる。
【0038】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実験1.アペリン様薬剤のスクリーニング系の確立
APJ発現細胞の培養
NIH3T3細胞にアペリン受容体APJを高発現させ、ハイグロマイシンで選択した安定株(大阪大学微生物病研究所高倉伸幸教授より供与)をcAMPルシフェラーゼレポーターベクターでトランスフェクトし、これを以下のcAMPルシフェラーゼアッセイに用いた。培養は200 μg/mlのハイグロマイシンを含む10% FBS含有DMEM培地(Invirtogen)で行った。アッセイ前日に、96穴プレートに1ウェルあたり2.0×105個の細胞を播種し、10% FBSと200 μg/mlハイグロマイシンを含むDMEM培地で培養した。
【0040】
cAMPルシフェラーゼアッセイ
一晩培養した後、培地をアスピレーターで除き、1ウェルあたり100 μlの添加剤を含まないDMEM培地に交換した。3時間後、GloSensorTM cAMP 試薬(Promega)を1ウェルあたり4 μlずつ添加し、遮光し2時間室温で平衡化した。その後、アペリン13(ペプチド研究所)を0.4 μg/mlとなるように添加剤を含まないDMEM培地で希釈し、これを1ウェルあたり50 μlずつ添加し(最終濃度は0.1 μg/ml)、室温で5 分間プレインキュベートした。更に、40 μMに調整したフォルスコリン(Sigma)を50 μlずつ添加し(最終濃度は10 μM)、15 分間処理した。その後、GloMaxTM 96 Microplate Luminometer(Promega)を用いて発光を測定した。また、上記と同様のルシフェラーゼアッセイを、アペリンと共にアペリン中和抗体である4G5(大阪大学より供与)を添加して行なった。この場合、5 μg/mlとなるように中和抗体を含まないDMEM培地で希釈し、1ウェルあたり50 μlずつ添加した(最終濃度0.5 μg/ml)。同様に、最終濃度が1.5、5、15及び50 μg/mlとなるような中和抗体を調製し、それぞれウェルに添加した。コントロールとして、アペリンを添加せずに、20 μMのフォルスコリンを1ウェルあたり100 μl添加した。
【0041】
上記cAMPルシフェラーゼアッセイの結果を図1に示す。図1からもわかるように、アペリンによってcAMP濃度が減少する一方、アペリン中和抗体によるアペリン活性の消失に伴いcAMP濃度の減少は抑制されている。すなわち、上記のcAMPルシフェラーゼアッセイにおいて、まず、アペリンの代わりに候補薬剤を添加した場合にcAMP濃度を減少させる薬剤を探索し(1次スクリーニング)、次に、これらの薬剤の中から、アペリン中和抗体と一緒に添加した場合にcAMP濃度の減少が有意に抑制される薬剤をさらに選別すること(2次スクリーニング)により、アペリン受容体であるAPJの活性化を介してcAMP濃度を減少させる薬剤(すなわちアペリン様薬剤)を短時間かつ効率的に選定することが可能となる。
【0042】
実験2.アペリン様薬剤のスクリーニング
候補薬剤として、約250種の化粧品素材(株式会社資生堂)を用いて、実験1において確立したスクリーニング系によりアペリン様薬剤の選定を行った。
具体的には、候補薬剤を400 μg/mlに調製し、実験1のcAMPルシフェラーゼアッセイで使用したアペリンの代わりに、1ウェルあたり50 μlずつ添加し(最終濃度100 μg/ml)、実験1と同様のアッセイを行った。
【0043】
図2に示されるとおり、オウゴンエキス、ローズマリーエキス、アンズ核粒、ゲンチアナエキス、タイムエキス、ハッカ末、タイソウエキス、ホップエキス、キウイエキス、ローマカミツレエキス、リンゴエキス、サンザシエキス及びウコンエキスは、細胞内のcAMP濃度を有意に減少させ、またアペリン中和抗体(4G5)と共に添加した場合には、アペリン活性の消失によりcAMP濃度の減少が有意に抑制されていることから、これらの植物抽出物は、アペリンと同様の機能を有することが示された。
図1
図2