(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、組織をスライスし、スライドガラスに設置することで作成された標本を顕微鏡観察する場合に、蛍光観察のみならず、明視野観察も行うことができることが好ましく、顕微鏡に搭載された近赤外領域に感度を有するカメラでは色再現性の高い明視野観察を行うことができないという不都合がある。一方、カメラとして、カラーカメラを採用すれば、標本の明視野観察を行うことはできるが、カラーカメラが感度を有する波長範囲が狭いため、近赤外領域以降の蛍光観察を行うことができず、可視光領域において発生する自家蛍光によって、鮮明な蛍光観察を行うことができないという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、観察方法が異なるために単一のカメラでは賄い切れない波長範囲の観察を行うことができる顕微鏡システムおよび顕微鏡観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、
組織を連続的にスライスした連続切片である、特定色の色素により染色した色素染色標本
、近赤外領域の蛍光を発生する蛍光物質により染色した蛍光染色標本
および染色されていない無染色標本を搭載するステージと、該ステージに搭載された前記色素染色標本
、前記蛍光染色標本
および前記無染色標本に照射する光を発生する光源と、該光源から発生された光を照射することにより前記色素染色標本
、前記蛍光染色標本
および前記無染色標本において発生した光を撮影するカラー撮像素子およびモノクロ撮像素子と、
予め用意した前記蛍光染色標本および前記無染色標本に対し同一の光を照射して、前記モノクロ撮像素子により取得された2つの蛍光画像間で減算処理を行う画像処理手段と、標本の染色方法に応じて、前記カラー撮像素子と前記モノクロ撮像素子を切り替える切替手段と
、前記切替手段によって、前記モノクロ撮像素子が選択されたときに、前記蛍光染色標本および前記無染色標本において発生した光から近赤外領域の波長の光を選択して前記モノクロ撮像素子に入射させる波長選択手段とを備える顕微鏡システムを提供する。
【0007】
本態様によれば、ステージに搭載された標本に対して光源から発せられた光を照射することにより標本から光が発生する。標本から発せられる光は標本の観察方法に応じて異なるものとなるが、切替手段を作動させて撮像素子を切り替えることにより、各観察方法に適した分光感度特性の撮像素子により標本の撮影を行うことができる。したがって、単一のカメラでは賄い切れない波長範囲の観察を観察方法に合わせて行うことができる。
【0009】
このようにすることで、標本の観察方法として近赤外領域の蛍光観察が選択された場合に、切替手段によって長波長撮像素子が選択され、標本において発生した光から、近赤外領域の波長の光が波長選択手段によって選択されて、長波長撮像素子に入射される。これにより、可視領域において多く発生する自家蛍光が低減された鮮明な蛍光画像による観察を行うことができる。
【0010】
このようにすることで、蛍光染色標本から発せられて長波長撮像素子により撮影される蛍光には、染色のための蛍光物質および自家蛍光物質からの近赤外領域の蛍光が含まれ、無染色標本から発せられて長波長撮像素子により撮影される蛍光には、自家蛍光物質からの近赤外領域の蛍光が含まれる。したがって、画像処理手段によって2つの蛍光画像間で減算処理を行うことにより、対応する領域の自家蛍光を除去して、目的部位を鮮明に表す蛍光画像を取得することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記ステージに搭載された
前記色素染色標本および前記蛍光染色標本を判別する標本判別手段を備え、前記切替手段が、前記標本判別手段による判別結果に応じて前記
カラー撮像素子と前記モノクロ撮像素子を切り替えてもよい。
このようにすることで、標本判別手段による標本の判別により、標本に適した観察方法を簡易に特定することができ、観察方法に適した撮像素子に切り替えて観察を行うことができる。
【0012】
また、上記態様においては
、前記標本判別手段は、前記カラー撮像素子により取得された画像に特定の色が存在する場合に、当該色の色素により染色された色素染色標本であると判別してもよい。
このようにすることで、観察開始時にカラー撮像素子により取得された明視野画像によって、色素染色標本であるか否かを容易に判別でき、色素染色標本である場合には明視野観察、色素染色標本ではない場合には蛍光観察等の明視野観察以外の観察方法を選択することができる。
【0013】
また、上記態様においては、前記画像処理手段は、前記蛍光染色標本および前記無染色標本の位相差画像に基づいて2つの蛍光画像を位置合わせして減算処理を行ってもよい。
このようにすることで、蛍光染色標本および無染色標本が、明視野観察では判別困難な透明標本であっても、位相差画像によって形状を特定し、画像間での位置合わせを容易にして、減算処理を精度よく行うことができる。
【0014】
また、上記態様においては、組織
を連続的にスライスした連続切片
である、特定色の色素により染色した色素染色標本
、近赤外領域の蛍光を発生する蛍光物質により染色した蛍光染色標本
および染色されていない無染色標本を用意する標本準備ステップと、標本の染色方法に応じて、カラー撮像素子とモノクロ撮像素子を切り替える切替ステップと、前記色素染色標本に可視光を照射してカラー撮像素子により撮影することにより明視野画像を取得する明視野撮影ステップと、
前記標本準備ステップにより予め用意された前記蛍光染色標本
および前記無染色標本に対し同一の光を照射して、標本から発せられる近赤外領域の蛍光をモノクロ撮像素子により撮影することにより蛍光画像を
それぞれ取得する蛍光撮影ステップと
、該蛍光撮影ステップにより取得された2つの蛍光画像間で減算処理を行う演算ステップとを含む顕微鏡観察方法を提供する。
【0015】
本態様によれば、標本準備ステップにおいて用意された色素染色標本に、明視野撮影ステップにおいて可視光を照射して色素染色標本の明視野画像をカラー撮像素子により取得し、切替ステップによって撮像素子をモノクロ撮像素子に切り替えた後に、標本準備ステップにおいて用意された蛍光染色標本に、近赤外光を照射して蛍光染色標本の蛍光画像をモノクロ撮像素子により取得する。その結果、カラー撮像素子により、色再現性の高い明視野画像を取得することができ、モノクロ撮像素子により、自家蛍光を抑えた鮮明な蛍光画像を取得することができる。
【0017】
このようにすることで、連続切片から用意された蛍光染色標本および無染色標本に、蛍光撮影ステップにおいて近赤外光を照射することにより、2つの蛍光画像が得られる。蛍光染色標本により得られた蛍光画像においては、染色に使用した蛍光物質の存在する目的部位および自家蛍光の存在する領域が光り、無染色標本により得られた蛍光画像においては、自家蛍光の存在する領域が光っているので、これらの2つの蛍光画像に対して演算ステップにおいて減算処理を行うことにより、自家蛍光が消滅し、蛍光物質の存在する領域を特異的に光らせた鮮明な蛍光画像を得ることができる。
【0018】
また、上記態様においては、前記蛍光染色標本および前記無染色標本の位相差画像を取得する位相差撮影ステップと、該位相差撮影ステップにより取得された2つの位相差画像に基づいて2つの前記蛍光画像の位置合わせを行う位置合わせステップとを含んでいてもよい。
このようにすることで、蛍光染色標本および無染色標本が透明な場合であっても、位相差画像によって形状を特定し、画像間での位置合わせを容易にして、減算処理を精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、観察方法が異なるために単一のカメラでは賄い切れない波長範囲の観察を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の
参考例としての発明の一参考実施形態に係る顕微鏡システム1および顕微鏡観察方法について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡システム1は、
図1に示されるように、顕微鏡本体2と、該顕微鏡本体2に取り付けられるカメラヘッド3と、該カメラヘッド3を操作する操作部4と、カメラヘッド3により取得された画像信号を処理する画像処理部5と、該画像処理部5により処理された標本Aの画像を表示するモニタ6とを備えている。
【0022】
顕微鏡本体2は、標本Aを搭載するステージ7と、標本Aに対する明視野観察を行う明視野観察光学系8と、標本Aの蛍光観察を行う蛍光観察光学系9とを備えている。
明視野観察光学系8および蛍光観察光学系9は、共通の光学部品として、標本Aからの光を集光する対物レンズ10と、該対物レンズ10により集光された光を2つに分岐するビームスプリッタ11と、該ビームスプリッタ11により分岐された一方の光を集光して観察者の網膜に結像させる接眼レンズ12と、ビームスプリッタ11により分岐された他方の光を集光してカメラヘッド3に結像させる結像レンズ13とを備えている。
【0023】
明視野観察光学系8は、白色光を発生する白色光源14と、該白色光源14から発せられた白色光を調整してステージ7上の標本Aに照射するコンデンサレンズ15と、白色光源14からコンデンサレンズ15への白色光の入射・非入射を切り替えるシャッタ16とを備え、標本Aを透過した光を対物レンズ10により集光し、ビームスプリッタ11により分岐して接眼レンズ12を介して観察者に観察させる一方、結像レンズ13によって結像した標本Aの光学像を、カメラヘッド3によって撮影させるようになっている。
【0024】
蛍光観察光学系9は、励起光を発生する励起光源17と、該励起光源17から発せられた励起光を偏向して、対物レンズ10の光軸に沿って対物レンズ10に入射させ、ステージ7上の標本Aに照射させる一方、標本Aにおいて発生し、対物レンズ10により集光された蛍光を結像レンズ13側に透過させる蛍光キューブ18とを備えている。
【0025】
白色光源14および励起光源17は暖機運転のために常時点灯している。白色光源14からの白色光は、シャッタ16が開かれることにより、コンデンサレンズ15を介して標本Aに照射され、シャッタ16が閉鎖されることにより、標本Aへの照射が遮断されるようになっている。一方、励起光源17からの励起光は、蛍光キューブ18が配置されることにより対物レンズ10に入射され、空のキューブが選択されることにより、対物レンズ10への入射が遮断されるようになっている。
【0026】
標本Aを搭載するステージ7は、標本Aを対物レンズ10の光軸に直交する方向に移動させるようになっている。対物レンズ10は、倍率の異なるものが複数用意され、レボルバ19に搭載されて、いずれかの対物レンズ10が、ステージ7と蛍光キューブ18との間に配置されるようになっている。
【0027】
蛍光キューブ18は、観察する蛍光の波長に合わせて、複数のもの(図中、1つのみ表示。)が対物レンズ10とビームスプリッタ11との間に挿脱可能に用意されている。蛍光キューブ18の中には、近赤外領域の蛍光を透過し、可視領域の蛍光を遮断する波長特性を有するものが含まれている。また、明視野観察を行う場合には、励起光源17からの光を遮断し、標本Aからの光を通過させる空のキューブが、対物レンズ10とビームスプリッタ11との間の光路上に挿入されるようになっている。
【0028】
カメラヘッド3は、
図2に示されるように、結像レンズ13により集光された光を反射するミラー20と、該ミラー20を光路上に挿脱するように駆動するアクチュエータ(切替手段)21と、分光感度特性の異なる2つの撮像素子22,23とを備えている。一方の撮像素子はカラーCCD23であり、
図3に示される分光感度特性を有している。他方の撮像素子はモノクロCCD22であり、
図4に示される分光感度特性を有している。
【0029】
アクチュエータ21の駆動により、ミラー20が、結像レンズ13とカラーCCD23との間の光路上に挿脱されるようになっている。ミラー20が結像レンズ13とカラーCCD23との間の光路に挿入されると、結像レンズ13により集光された光がミラー20によって90°偏向され、モノクロCCD22のみに入射される一方、ミラー20が光路から離脱させられると、結像レンズ13により集光された光がカラーCCD23のみに直接入射されるようになっている。
【0030】
操作部4は、カメラヘッド3に接続されたキーボード、マウスあるいは押しボタン等の入力装置であり、観察方法を入力するようになっている。観察方法として、明視野観察が入力された場合には、カメラヘッド3のアクチュエータ21が駆動させられてミラー20が結像レンズ13とカラーCCD23との間の光路から離脱させられるようになっている。また、観察方法として、蛍光観察が入力された場合には、カメラヘッド3のアクチュエータ21が駆動させられてミラー20が結像レンズ13とカラーCCD23との間の光路に挿入されるようになっている。
【0031】
画像処理部5は、カメラヘッド3のカラーCCD23あるいはモノクロCCD22から送られてきた信号を処理して明視野画像あるいは蛍光画像を生成し、モニタ6に出力するようになっている。モニタ6は画像処理部5から送られてきた明視野画像あるいは蛍光画像を表示するようになっている。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡システム1を用いた顕微鏡観察方法について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察方法は、
図5に示されるように、観察を行う標本Aを準備する標本準備ステップS1と、標本Aに対して明視野観察を行う明視野観察ステップS2と、CCD22,23を切り替える切替ステップS3と、標本Aに対して蛍光観察を行う蛍光観察ステップS4とを含んでいる。
【0033】
標本準備ステップS1は、標本Aとして、明視野観察用のEVG染色標本と、蛍光観察用の蛍光免疫染色標本とを準備する。まず、観察対象物として、例えば、臓器の組織内のコラーゲンを目的物質として観察する場合には、組織を連続的にスライスして2つの連続切片を切り出し、各連続切片をスライドガラスに載せる。次いで、一方の切片に、例えば、シリウスレッド試薬を用いて染色を行うことにより、EVG染色標本を作成する。また、他方の切片に例えば、近赤外領域に蛍光波長を有するcy7の蛍光色素を用いて染色を行うことにより、蛍光免疫染色標本を作成する。作成した2つの標本Aをステージ7上に載置する。
【0034】
作成された2つの標本Aは、連続切片であるため、その形態はほぼ同等である。連続切片は染色前にはいずれも無色透明であるが、EVG染色標本は、シリウスレッド色素によって全体的に赤く染色されるので、
図6に示されるように、画像上で赤い領域Rを確認することにより標本A全体の形状を把握することができる。
【0035】
蛍光免疫染色標本は、目的物質であるコラーゲンに特異的に集積するので、励起光の照射によりコラーゲンを光らせることができる。しかしながら、標本A内に存在するゴミや目的物質以外の部位(例えば、組織内の血球)あるいは顕微鏡光学系のレンズ素材において、自家蛍光が発生する。これらの自家蛍光は可視領域において多く発生するので、仮に、可視領域の蛍光を発生する蛍光色素を用いた蛍光観察をカラーCCD23によって行う場合には、
図7に示されるように、目的物質において発生する蛍光F1が自家蛍光F2に紛れてしまい、目的物質を観察することが困難になる。本実施形態においては、近赤外領域に蛍光波長を有する蛍光色素を用いて染色している。
【0036】
明視野観察ステップS2は、ステージ7上に載置されたEVG染色標本を対物レンズ10の光軸上に配置するとともに、操作部4を操作してアクチュエータ21を駆動し、ミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間から離脱する。そして、蛍光キューブ18を光軸上から離脱させて空のキューブを配置する。
【0037】
この状態で、白色光源14から発せられた白色光をステージ7下方からEVG染色標本に照射し、透過した光を対物レンズ10および結像レンズ13で集光し、カラーCCD23に直接入射させる。カラーCCD
23によって取得された画像信号は、画像処理部5により処理されてモニタ6に表示される。これにより、EVG染色標本の光学像を高い色再現性で明視野観察することができる。
【0038】
撮像素子切替ステップS3は、操作部4を操作してアクチュエータ21を駆動し、ミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間に挿入させる。
そして、蛍光観察ステップS4は、ステージ7上に載置された蛍光免疫染色標本を対物レンズ10の光軸上に配置するとともに、蛍光キューブ18として、励起光を偏向して対物レンズ10側に入射させ、可視領域の光を遮断し近赤外領域の光を透過する波長特性を有するものを対物レンズ10と結像レンズ13との間に挿入する。
【0039】
この状態で、励起光源17から発せられた励起光を蛍光キューブ18の側方から入射させる。励起光は蛍光キューブ18によって偏向されて対物レンズ10に入射させられ、対物レンズ10により集光されて蛍光免疫染色標本に照射される。蛍光免疫染色標本においては励起光が照射されることにより蛍光が発せられる。発せられた蛍光は対物レンズ10によって集光され、近赤外領域の蛍光のみが蛍光キューブ18を透過して結像レンズ13により集光され、ミラー20によって偏向されてモノクロCCD22に入射される。
【0040】
モノクロCCD22によって取得された画像信号は、画像処理部5により処理されて、
図8に示されるように、モニタ6に表示される。蛍光免疫染色標本に含まれる目的物質であるコラーゲンにはcy7のような蛍光色素が特異的に集積しているので、蛍光色素から発せられた蛍光Fを観察することにより、目的物質の存否を観察することができる。
【0041】
この場合において、本実施形態に係る顕微鏡システム1によれば、蛍光観察に際して、画像を取得する撮像素子を切り替えて、近赤外領域に感度を有するモノクロCCD22を採用し、蛍光キューブ18によって可視光を遮断し、近赤外領域の蛍光FをモノクロCCD22に入射させるので、蛍光免疫染色標本内に存在する自家蛍光物質から発せられた自家蛍光F2の混入を低く抑えて、鮮明な蛍光観察を行うことができる。
【0042】
すなわち、本実施形態に係る顕微鏡システム1によれば、染色方法の異なる標本Aを観察する場合のように、観察方法が異なる場合に、カラーCCD23とモノクロCCD22とを切り替えて観察を行うことで、高い色再現性を有する標本Aの全体像の明視野観察と、局在する目的物質を鮮明に表示する蛍光観察とを両立することができ、観察方法が異なるために単一のカメラでは賄い切れない波長範囲の観察を行うことができるという利点を有する。
【0043】
次に、本発明の第
1の実施形態に係る顕微鏡システム30および顕微鏡観察方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明において、上述した
一参考実施形態に係る顕微鏡システム1および顕微鏡観察方法と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
本実施形態に係る顕微鏡システム30は、
図9に示されるように、レボルバ19に取り付けられた対物レンズ10の内の1つとして、位相差板を内蔵した位相差観察用対物レンズ31を備えるとともに、リングスリットを内蔵した位相差観察用コンデンサレンズ32が上記コンデンサレンズ15と交換可能に配置されている点において、
一参考実施形態に係る顕微鏡システム1と相違している。
また、本実施形態に係る顕微鏡システム30においては、画像処理部33が画像間演算を行うように構成されている点においても
一参考実施形態に係る顕微鏡システムと相違している。
【0045】
本実施形態に係る顕微鏡観察方法は、
図10に示されるように、標本準備ステップS10において
一参考実施形態に係る顕微鏡観察方法と相違するとともに、位相差観察ステップS11、第2の蛍光観察ステップS12および演算ステップS13において
一参考実施形態と相違している。
【0046】
具体的には、本実施形態に係る顕微鏡システム30においては、標本準備ステップS10において、標本Aとして、連続切片を用いて、EVG染色標本、蛍光免疫染色標本に加えて、無染色標本を用意する。無染色標本は、染色を行っていない標本Aを意味する。
【0047】
また、位相差観察ステップS11は、ステージ7上に載置された無染色標本を対物レンズ10の光軸上に配置するとともに、操作部4を操作してアクチュエータ21を駆動し、ミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間に挿入させる。そして、蛍光キューブ18を光軸上から離脱させて空のキューブを配置する。そして、位相差観察用コンデンサレンズ32および位相差観察用対物レンズ31を光軸上に配置する。
【0048】
この状態で、白色光源14から発せられた白色光を、位相差観察用コンデンサレンズ32を介して無染色標本に照射し、無染色標本を透過した光を位相差観察用対物レンズ31および結像レンズ13により集光し、モノクロCCD22によって撮影することにより、無染色標本の位相差画像を取得することができる。取得された位相差画像は画像処理部33において処理された後モニタ6に表示される。これにより無染色標本の位相差観察を行うことができる。
【0049】
位相差観察を行うことにより、無染色標本が無色透明であってもその屈折率の変化にコントラストを付けた位相差画像を得ることができ、無染色標本の形状を特定することができる。そして、蛍光観察により取得された蛍光画像を用いて、目的物質の観察位置を、ステージの移動によって、観察者が目視で探索し特定することができる。
【0050】
また、第2の蛍光観察ステップS12は、位相差観察ステップS11の状態から、シャッタ16を閉鎖して、蛍光キューブ18として、蛍光観察ステップS4において使用した蛍光キューブ18を光軸上に挿入する。また、対物レンズ10も、蛍光観察ステップS4において使用した対物レンズ10を使用する。
【0051】
この状態で、蛍光観察ステップS4と同様に、励起光源17から発せられた励起光を蛍光キューブ18の側方から入射させる。励起光は蛍光キューブ18によって偏向されて対物レンズ10に入射させられ、対物レンズ10により集光されて無染色標本に照射される。無染色標本においては、蛍光染色されていないので、励起光が照射されることにより蛍光免疫染色標本のような蛍光は発生しないが、標本A内に存在している蛍光物質等から自家蛍光F2が発せられる。発せられた自家蛍光F2は対物レンズ10によって集光され、微弱な近赤外領域の自家蛍光F2のみが蛍光キューブ18を透過して結像レンズ13により集光され、モノクロCCD22に入射される。
【0052】
そして、演算ステップS13においては、蛍光観察ステップS4において取得された蛍光免疫染色標本の蛍光画像から、第2の蛍光観察ステップS12において取得された無染色標本の蛍光画像が減算される。
これにより、
図11に示されるように、蛍光キューブ18を透過する微弱な近赤外領域の自家蛍光F2を蛍光免疫染色標本の蛍光画像から除去した鮮明な蛍光画像を取得することができる。
【0053】
すなわち、本実施形態に係る顕微鏡観察方法によれば、蛍光観察ステップS4では、蛍光キューブ18を通過してしまうような近赤外領域の自家蛍光F2が存在する場合においても、演算ステップS13によってそのような自家蛍光F2を除去することができ、より高S/N比の鮮明な蛍光画像を取得することができるという利点がある。
【0054】
次に、本発明の第
2の実施形態に係る顕微鏡システム40および顕微鏡観察方法について以下に説明する。
上記各実施形態においては、CCD22,23の切り替え、蛍光キューブ18の切り替え、ステージ7による標本Aの移動、対物レンズ10の切り替え、コンデンサレンズ15の切り替え等を手動で行う場合について説明したが、本実施形態においては、これに代えて、これらを自動的に行うものである。
【0055】
本実施形態に係る顕微鏡システム40は、
図12に示されるように、顕微鏡本体2およびカメラヘッド3を制御する制御部41と、制御部41に観察方法を入力する操作部4とを設け、操作部4からの入力に基づいて、制御部41が、撮像素子の切り替え、蛍光キューブ18の切り替え、標本Aの移動、対物レンズ10の切り替え、コンデンサレンズ15の切り替えを行う。蛍光キューブ18、ステージ7、レボルバ19、シャッタ16およびコンデンサレンズ15には、図示しないアクチュエータが設けられている。
【0056】
本実施形態に係る顕微鏡観察方法は、ステージ7に2つの標本A、すなわち、EVG染色標本と蛍光免疫染色標本とを載置して、撮影を自動的に行う。
まず、制御部41は、
図13に示されるように、操作部4から観察開始の入力がなされると、まず、標本を判別する標本判別ステップS20を行うようになっている。
【0057】
この標本判別ステップS20においては、制御部41は、顕微鏡本体2およびカメラヘッド3に対して明視野観察用の設定を行うようになっている。
すなわち、制御部41は、顕微鏡本体2に対しては、ステージ7を駆動していずれかの標本Aを対物レンズ10の光軸上に配置し、明視野観察用のコンデンサレンズ15および対物レンズ10に切り替えるとともに、蛍光キューブ18を空のキューブに設定する。また、シャッタ16は開放する。そして、制御部41は、カメラヘッド3に対しては、アクチュエータ21を駆動してミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間から離脱する。
【0058】
これにより、白色光源14からの白色光は、コンデンサレンズ15が配置された状態で、シャッタ16が開かれることにより、コンデンサレンズ15を介して標本Aに照射され、透過した光がカラーCCD23によって撮影される。この場合において、制御部41は、取得された画像の彩度を算出することにより、観察している標本Aが、EVG染色標本であるか否かを判別するようになっている。
【0059】
彩度としては、具体的には、カラーCCD23によって取得されたRGBデータを次式によりHSI変換して求めた数値Sを用いる。
Imax=max{R,G,B} (1)
Imin=min{R,G,B} (2)
S=(Imax−Imin)/Imax (3)
【0060】
彩度Sが所定の閾値以上であれば、標本Aは、色情報を有しているEVG染色標本であり、閾値未満であれば、蛍光免疫染色標本であると判別することができる。
ステージ7に載置されている標本Aが複数である場合には、各標本Aに対して上記判別を行い、標本Aの種別をタグ付けしておく。タグは、例えば、各標本Aのスライドガラスの中心座標に関連付けておく。
【0061】
次に、上記判別の結果、標本AがEVG染色標本であると判別された場合には、そのまま明視野観察ステップS2を行う。これは、標本判別ステップS20が明視野観察の設定で行われているため、EVG染色標本であると判別された標本Aに対しては、設定を変更することなく明視野観察が可能だからである。
一方、上記判別の結果、標本AがEVG染色標本でないと判別された場合には、ステージ7を駆動して、もう一方の標本AすなわちEVG染色標本を対物レンズ10の光軸上に配置する。
【0062】
明視野観察ステップS2の結果、取得された明視野画像がモニタ6に表示される。観察者は、モニタ6上で観察部位の設定を行う(ステップS21)。そして、撮影された明視野画像は図示しないメモリに記憶される。
【0063】
次に、観察部位の設定が終了したことが操作部4から入力されると、制御部41はまず、蛍光免疫染色標本に対して位相差観察を行う(ステップS22)。
すなわち、制御部41は、顕微鏡本体2に対しては、ステージ7を駆動して、判別の結果、蛍光免疫染色標本であると判別された標本Aを対物レンズ10の光軸上に配置し、対物レンズ10を位相差観察用対物レンズ31に、コンデンサレンズ15を位相差観察用コンデンサレンズ32に切り替える。また、制御部41は、カメラヘッド3に対しては、アクチュエータ21を駆動してミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間に挿入させる。
【0064】
シャッタ16および蛍光キューブ18は明視野観察時の状態に維持される。
これにより、白色光源14から発せられた白色光が標本Aに照射され、透過した光がモノクロCCD22により撮影されることにより、位相差画像が取得され、メモリに記憶される。
【0065】
この状態で、2つの標本A間の位置関係が算出される(ステップS23)。すなわち、メモリに記憶された明視野画像と位相差画像とが読み出され、画素毎に特徴点検出法で用いられる以下の行列式Mと、検出関数Rとを算出することにより数点の特徴点を検出する。
【数1】
R=detM−k(trM)
2 (5)
【0066】
ここで、符号x,yは各画素の座標値、Iは画素値、detは行列式、trは対角成分の和、kは調整パラメータを示す。
そして、2つの画像において対応する特徴点の座標から、EVG染色標本と、蛍光免疫染色標本の回転量および座標値の差分を算出する。
これにより、明視野画像における標本Aの外観と蛍光画像における各位置とを対応づけることができるようになる。
【0067】
次いで制御部41は、撮像素子を切り替える切替ステップS3を行った後に、蛍光免疫染色標本に対して蛍光観察を行う(ステップS4)。
すなわち、制御部41は、顕微鏡本体2に対しては、蛍光観察用の対物レンズ10、蛍光観察用の蛍光キューブ18に切り替え、シャッタ16を閉鎖する。ステージ7およびカメラヘッド3は位相差観察時の状態に維持される。
【0068】
蛍光キューブ18が配置されることにより、励起光源17からの励起光が対物レンズ10を介して標本Aに照射され、標本Aにおいて発生した蛍光が対物レンズ10によって集光され、モノクロCCD22によって撮影されることにより蛍光画像が取得される。
取得された蛍光画像は、メモリに記憶されている明視野画像と対応づけて並列に、あるいは、重畳されてモニタ6に表示される。
【0069】
EVG染色標本と蛍光免疫染色標本との回転量および座標値の差分が算出されているので、相互に共通の特徴点を有しない明視野画像と蛍光画像とを確実に対応づけることができる。したがって、観察者は、蛍光画像において蛍光が発せられている目的部位を明視野画像上において容易に特定することができるという利点がある。
【0070】
なお、本実施形態においては、単一の明視野画像と単一の蛍光画像とを取得して比較する場合について説明したが、顕微鏡本体2の視野範囲に対して標本Aが十分に大きい場合には、標本A全体を複数の領域に分割して、各領域について順次撮影し、取得された複数の画像を座標と対応づけて記憶することにより、貼り合わせ画像を形成することとしてもよい。
この場合に、画像間の位置合わせは、貼り合わせ画像全体どうしで行ってもよいし、部分画像どうしで行ってもよい。
【0071】
次に、本発明の第
3の実施形態に係る顕微鏡観察方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡観察方法の説明において、上述した第
2の実施形態に係る顕微鏡観察方法と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
また、本実施形態に係る顕微鏡観察方法は、第
1の実施形態に係る顕微鏡観察方法を半自動的に行うものであり、第
1の実施形態と同様に、標本Aとして、EVG染色標本、蛍光免疫染色標本および無染色標本を用意する。
【0073】
本実施形態に係る顕微鏡観察方法においては、第
2の実施形態に係る顕微鏡観察方法と同様に、操作部4から観察開始の入力がなされると、
図14に示されるように、まず、標本Aを判別する標本判別ステップS20が制御部41により行われる。
標本判別ステップS20においては、3つの標本Aに対して、EVG染色標本か否かの判別が行われ、EVG染色標本かそれ以外かのタグ付けが行われる。
【0074】
次に、標本判別ステップS20においてEVG染色標本であると判別された標本Aに対して、明視野観察ステップS2が行われ、取得された明視野画像上で観察部位の設定が行われる(ステップS21)。
この後に、制御部41は切替ステップS3を行って、顕微鏡本体2およびカメラヘッド3に対して蛍光観察用の設定を行うようになっている。
【0075】
すなわち、制御部41は、顕微鏡本体2に対しては、蛍光観察用の蛍光キューブ18を設定する。また、シャッタ16は閉鎖する。そして、制御部41は、カメラヘッド3に対しては、アクチュエータ21を駆動してミラー20を結像レンズ13とカラーCCD23との間に挿入させる。
【0076】
この後に、タグ付けされた蛍光免疫染色標本および無染色標本に順次位相差観察が行われ(ステップS22)、取得された位相差画像に基づいて標本間の回転量および座標値の差分等の位置関係が算出される(ステップS23)。
そして、制御部41は、ステージ7を駆動して、無染色標本および蛍光免疫染色標本に対して順次蛍光観察ステップを行い、取得した蛍光画像を記憶する(ステップS4)。
この後に、制御部41は、無染色標本と蛍光免疫染色標本とを判別する第2の標本判別ステップS24を行う。
【0077】
第2の標本判別ステップS24においては、制御部41は、まず、取得された一方の標本Aの蛍光画像を用いて、その標本Aが蛍光免疫染色標本であるか否かを判別する。
この第2の標本判別ステップS24は、取得された蛍光画像に基づいてヒストグラムを作成する。ヒストグラムは、横軸を画素値、縦軸を頻度としたグラフである。
【0078】
蛍光免疫染色標本のヒストグラムは、背景となる黒(画素値約ゼロ)と蛍光色素が発する特定の画素値に分布している。一方、無染色標本のヒストグラムは、画像全体にわたって画素値が約ゼロとなっている。したがって、得られたヒストグラムが、所定の閾値以上の画素値を多く有する場合には、蛍光免疫染色標本であると判別され、閾値以上の画素値を有しない場合には無染色標本であると判別される。
【0079】
これにより、蛍光免疫染色標本と無染色標本とが判別され、それぞれの標本Aに種別がタグ付けされる。タグは、例えば、各標本Aのスライドガラスの中心座標に関連づけて付けておく。
【0080】
そして、上記ステップで取得された位置関係を用いて、蛍光免疫染色標本の蛍光画像から無染色標本の蛍光画像を減算する演算ステップS13が行われる。
【0081】
この場合において、蛍光画像間の減算処理を行う蛍光免疫染色標本と無染色標本とを、位相差画像を用いた位置関係の算出により、精度よく位置合わせすることができる。したがって、精度よく位置合わせされた蛍光画像間の減算処理を行うことができ、蛍光免疫染色標本の蛍光画像から自家蛍光をより確実に除去して、鮮明な蛍光画像を取得することができるという利点がある。
【0082】
なお、本実施形態においては、顕微鏡本体の光学部品の設定回数を極力少なくするために、明視野観察の設定で行われる標本判別ステップS20の直後に明視野観察を行い、蛍光観察ステップS4の直後に、蛍光観察の設定で行われる第2の標本判別ステップS24を行うこととしたが、これに代えて、最初に標本判別ステップS20と第2の標本判別ステップS24を行って全ての標本Aを識別してから、明視野観察ステップS2、蛍光観察ステップS4および位相差観察ステップS22を行うことにしてもよい。
【0083】
また、上記各実施形態は、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、結像レンズ13により集光された光が、ミラーを介してモノクロCCDに入射するようにしたが、ミラーを介してカラーCCDに入射するように、モノクロCCDとカラーCCDとの配置を逆にしてもよい。
また、カメラヘッドについては、本実施形態においては、1つのカメラヘッド内に2つの撮像素子を配置することとしたが、カメラヘッド自体を複数用意して、顕微鏡本体2に光学部材を追加して光路を分岐することや、分光感度の異なる複数のカメラヘッドを用いて画像を取得してもよい。
また、彩度Sの算出や特徴点検出で記述した式は代表的な式であり、これに限定されるものではない。
【0084】
また、顕微鏡観察方法としては、
図15に示されるような構成を採用してもよい。
すなわち、標本Aとして、マルチカラー蛍光色素で染色したもの1つを用意する(ステップS1)。
マルチカラー蛍光染色とは、例えば1波長で励起し、発生した異なる蛍光色情報から多成分を同時に検出可能な蛍光色素で染色することを意味している。例えば、マルチカラー蛍光色素である量子ドットの糖鎖固定化蛍光性ナノ粒子は、紫外領域波長(400nm)で励起され、金属の組成比によって蛍光の色が緑色、黄色、赤色に変化する。
【0085】
カメラヘッドにおいてはカラーCCDを設定し、蛍光キューブとしてはマルチカラー蛍光に対応する蛍光キューブを設定し、シャッタを閉じる。
この状態で、励起光源から標本Aに励起光を照射し、発せられた蛍光をカラーCCDにより撮影する(ステップS30)。取得されたカラー画像はモニタに表示されるので、観察者は、観察したい波長を選択する。
【0086】
この状態で切替ステップS3により、カラーCCDからモノクロCCDに切り替え、観察したい特定の波長に対応する蛍光キューブを設定する。
そして、励起光源から励起光を標本Aに照射することにより、対物レンズによって集光された蛍光の中から、観察したい特定波長の蛍光のみが蛍光キューブを透過してモノクロCCDによって撮影される(ステップS31)。これにより、観察したい特定波長の蛍光のみが光る蛍光画像を取得することができる。
【0087】
一般に、モノクロCCDはカラーCCDより感度が高いので、撮影に要する露出時間を短縮することができ、標本Aの褪色を抑えることができる。露出時間が短いため、カラーCCDよりもフレームレートが早く、ステージを光軸方向に移動させて行われる標本Aに対するピント合わせを容易にすることができる。
【0088】
また、モノクロCCDで取得した画像は、一般にカラーCCDで取得した画像と比較して高解像度であり、撮像面にカラーフィルタを有しないことから情報を均一に取得することができ、かつ、画像処理も実施されないため、蛍光強度を定量的に確認することができる。
このことから、マルチカラー蛍光染色された標本Aを観察する際に、カラーCCDとモノクロCCDとを併用して観察することで、標本A中の目的部位の選択、目的部位の高感度撮影および蛍光強度の定量的評価を行うことができる。