特許第6253268号(P6253268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6253268
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20171218BHJP
【FI】
   A61N5/10 H
   A61N5/10 M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-124287(P2013-124287)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2015-90(P2015-90A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝道
(72)【発明者】
【氏名】野田 文章
(72)【発明者】
【氏名】秋山 浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
【審査官】 石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−113118(JP,A)
【文献】 特開2001−166098(JP,A)
【文献】 特表2009−539474(JP,A)
【文献】 特表2013−509277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射点に設置された照射対象に複数の方向から照射する照射装置
と、
前記加速器から取り出された前記荷電粒子ビームの輸送経路を定め、前記照射装置まで輸送するビーム輸送装置を備える粒子線治療装置であって、
前記照射装置のうち水平方向とは異なる方向から前記荷電粒子ビームを照射する照射装置に接続される前記ビーム輸送装置は、前記荷電粒子ビームを偏向する偏向部、及び前記荷電粒子ビームを直進させる直線部を有し、
前記偏向部は1台または複数の偏向電磁石を有し、少なくとも一つの前記偏向部はビーム輸送経路の分岐点に設置され、
前記直線部はそれぞれ少なくとも2台の四極電磁石を備え、
複数の前記偏向部のうち少なくとも二つの偏向部、それぞれ水平面に対して90度未満の角度を成す傾斜面に沿って前記荷電粒子ビームを偏向するように設置された2台の偏向電磁石、および該2台の偏向電磁石の間に設置された少なくとも1台の四極電磁石を構成に有しかつ前記二つの傾斜した偏向部間は傾斜した直線部によって接続されており、
前記偏向部は前記加速器から前記照射装置までの間に前記直線部を挟んで複数あり、そのいずれか上流にある一方で生じた分散関数をいずれか下流にある他方で低減するように
前記偏向部の偏向電磁石を制御することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子線治療装置において、
前記偏向部が複数の偏向電磁石を有する場合、当該偏向電磁石と偏向電磁石の間に四極電磁石を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粒子線治療装置において、
前記偏向電磁石と偏向電磁石の間に配置される四極電磁石を用いて、通過する前記荷電粒子ビームの分散関数を調整することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
請求項3に記載の粒子線治療装置において、
前記傾斜した直線部を通過する前記荷電粒子ビームの分散関数を生じさせるように前記四極電磁石を励磁することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置において、
前記照射点を複数備え、それぞれの照射点ごとに複数の方向から前記荷電粒子ビームを照射する照射装置を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置において、
前記傾斜した直線部と前記傾斜した偏向部の傾斜角は22.5度以上67.5度以下であることを特徴とする粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム(陽子線または炭素イオン線等の重イオン線)の照射によって、がんなどの腫瘍を治療する粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療法の一つとして、患部に荷電粒子ビーム(陽子線あるいは炭素イオン等の重粒子線)を照射する粒子線治療が知られている。陽子や炭素イオン等のイオンを高エネルギーで物質に入射すると、飛程の終端で多くのエネルギーを失う。粒子線治療では、この性質を利用し、がん細胞で多くのエネルギーを失うように、荷電粒子ビームを患者に照射する。すると、周囲の健康な組織に損傷を与えることなく、がん細胞を破壊できる。粒子線治療では荷電粒子ビームの空間的な広がりとエネルギーを調整し、患部の形状に合わせた線量分布を形成する。
【0003】
粒子線治療に用いる粒子線治療装置は、イオン源、イオン源で発生したイオンを加速する加速器、加速器から出射した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送装置、所望の線量分布で患部に荷電粒子ビームを照射する照射装置を備える。
【0004】
粒子線治療装置で用いられる加速器には、シンクロトロンやサイクロトロン等が挙げられる。これら加速器は入射したイオンを所定のエネルギーまで加速し、荷電粒子ビームとして出射する機能を持つ。
【0005】
加速器から出射された荷電粒子ビームはビーム輸送装置によって照射装置まで輸送される。ビーム輸送装置には荷電粒子ビームの進行方向を大きく変える偏向電磁石、荷電粒子ビームの進行方向を微調整するステアリング電磁石、荷電粒子ビームに収束・発散の作用を与える四極電磁石が備えられており、これらの電磁石の励磁量を適切に調整することで照射装置に適切なサイズ,位置の荷電粒子ビームが輸送される。
【0006】
粒子線治療装置では一台の加速器から輸送装置の途中でビーム経路を分岐させ、複数の治療室を設置することや、患部に複数方向から荷電粒子ビームを照射するために、一つの治療室に例えば水平方向からと鉛直方向からの二方向など複数のビーム輸送装置と照射装置を設置することもある。複数の治療室を備える場合、荷電粒子ビームの輸送経路の分岐点には偏向電磁石が設置され、偏向電磁石の励磁の有無で荷電粒子ビームを輸送する経路を決めることができる。また、一つの治療室に対して複数の方向(例えば、水平方向と鉛直方向)から荷電粒子ビームを出射する場合、粒子線治療装置は、水平方向から荷電粒子ビームを出射する第1の照射装置と鉛直方向から荷電粒子ビームを出射する第2の照射装置を備える。このように、水平方向とは異なる方向から荷電粒子ビームを照射する場合は、輸送装置で少なくとも一度荷電粒子ビームを振り上げるか振り下げる必要がある。この振り上げあるいは振り下げの際にも偏向電磁石が用いられる。このような従来の輸送系配置の例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3574334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の粒子線治療装置では、ビーム輸送装置に備えられる偏向電磁石が、複数の治療室や複数の照射装置に荷電粒子ビームを輸送するためのコースの切り替え、及び多方向照射のためのコースの振り上げに用いられる。このような振り上げ部では偏向電磁石の小型化のために同一の偏向角を持つ複数台の偏向電磁石で偏向部を構成し、その間に分散関数を消すために四極電磁石を挿入することがある。しかし、その場合には偏向電磁石のギャップ方向の荷電粒子ビームのビームサイズが大きくなり偏向電磁石のギャップを広くとる必要が生じる。そのため偏向電磁石電源の電流が大きくなり、装置の消費電力や導入コストの増加の要因となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における粒子線治療装置のビーム輸送装置が有する偏向部を構成する複数の偏向電磁石間におかれた四極電磁石の励磁量を下流での分散関数を0とできる値よりも小さくする。結果、四極電磁石の発散効果が抑制され、下流でのギャップ方向のビームサイズを従来より抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ビーム輸送装置での荷電粒子ビームのコースの切替と荷電粒子ビームの振り上げを一か所で実現できるようになり、装置小型化を達成できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態の粒子線治療装置の全体構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態の粒子線治療装置における偏向部の機器配置図である。
図3】第1の実施形態の粒子線治療装置に備えられる偏向部を用いた場合と、従来の粒子線治療装置に備えられる偏向部を用いた場合での荷電粒子ビームのビームサイズの変化を示す図である。
図4】第1の実施形態の粒子線治療装置に備えられる偏向部を用いた場合と、従来の粒子線治療装置に備えられる偏向部を用いた場合での荷電粒子ビームの分散関数の変化を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態の粒子線治療装置を構成する治療室と傾斜直線部の立面図である。
図6】本発明の第1の実施形態の粒子線治療装置を構成する治療室と傾斜直線部の立面図である。
図7】本発明の第2の実施形態の粒子線治療装置に全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第1の実施形態を説明する。本実施例は炭素イオンビーム(以下、イオンビーム)を患部に照射する炭素線治療装置を例に説明する。
【0013】
図1に本実施例の粒子線治療装置(炭素線治療装置)100の概略図を示す。炭素線治療装置100は、イオン源200、入射用直線加速器300、シンクロトロン400、輸送装置500、2室の治療室(第1の治療室)610、治療室(第2の治療室)620を備える。
【0014】
イオン源200で発生させた炭素イオンは入射用加速器によって核子あたり6MeVまで加速された後にシンクロトロン400に入射される。シンクロトロン400では入射した炭素イオンを治療に用いる運動エネルギー(最大1核子あたり430MeV)まで加速し、輸送装置500に取り出される。
【0015】
治療室610及び治療室620は、高さが異なる複数の照射ポートを有する。具体的には、炭素線治療装置100には6台の照射ポートが設けられる。治療室610及び治療室620は、それぞれが三方向からイオンビームを照射可能な構成となっている。第1の治療室610が、水平方向からイオンビームを照射する水平照射ポート(第1の水平照射ポート)511と、鉛直方向からイオンビームを照射する鉛直照射ポート(第1の鉛直照射ポート)521と、斜め方向からイオンビームを照射する斜め照射ポート(第1の斜め照射ポート)531を備える。第2の治療室610が、水平方向からイオンビームを照射する水平照射ポート(第2の水平照射ポート)512と、鉛直方向からイオンビームを照射する鉛直照射ポート(第2の鉛直照射ポート)522と、斜め方向からイオンビームを照射する斜め照射ポート(第2の斜め照射ポート)532を備える。シンクロトロン400から出射されたイオンビームは、輸送装置500によって定められたビーム経路を通過し、6台の照射ポートのいずれか一つの照射ポートに輸送される。
【0016】
輸送装置500には、イオンビームが通過するダクトと、当該ダクトの内部を真空引きするための真空ポンプ(図示せず)が備えられ、イオンビームは真空中を通過する。輸送装置500は、イオンビームを偏向させる偏向部561〜569とイオンビームを直進させる直線部571〜585を有する。輸送装置500の偏向部には、ビーム経路を曲げるための偏向電磁石が用いられる。
【0017】
高さが異なる複数の照射ポートを備える場合、輸送装置はイオンビームの経路を少なくとも一度は上方に振り上げる必要がある。本実施例の炭素線治療装置100では、シンクロトロン400、第1の水平照射ポート511及び第2の水平照射ポート512が同じ階層(フロア)に配置される。第1の鉛直照射ポート521、第1の斜め照射ポート531、第2の鉛直照射ポート522及び第2の斜め照射ポート532は、シンクロトロン400よりも上に配置される。本実施例では、偏向部561を傾けて設置することによって、イオンビームの振り上げを実現する。偏向部561とは、第1の鉛直照射ポート521、第1の斜め照射ポート531、第2の鉛直照射ポート522、第2の斜め照射ポート532につながる共通の偏向部である。偏向部561に備えられる偏向電磁石541及び偏向電磁石542と、偏向部563に備えられる偏向電磁石545及び偏向電磁石546は水平面に対し45度傾いて設置されている。その結果、偏向部561と偏向部563の間の直線部572、573は45度の傾斜を持った直線部となる。
【0018】
本実施例における輸送装置500に用いられる偏向電磁石541〜557はC字型の鋼板をイオンビームのビーム進行方向に積み重ねたC型積層鋼板電磁石である。すべての偏向電磁石はコイルに電流を励磁することでギャップ内に磁場を発生させ、ギャップを通過するイオンビームの軌道を偏向する。偏向角が45度となるようにイオンビームのエネルギーに応じて励磁電流量が調整される。本実施例では、偏向角45度の偏向電磁石を2台で1組として用い、合計で偏向角90度の偏向部を構成する。本実施例では、9箇所の偏向部561〜569を備える。すべての偏向部は2台の偏向電磁石と、偏向電磁石の間に設置された四極電磁石1台(四極電磁石711〜719)を備える。各直線部571〜585にも四極電磁石(図示せず)が複数台設置されている。傾斜した直線部572、573には四極電磁石が各3台、直線部571、574〜576、580〜582には四極電磁石が各4台、直線部577〜579、583〜585には四極電磁石が各3台配置されている。四極電磁石にはイオンビームをある方向に収束、それと垂直な方向に発散させる作用があり、適切な励磁量に設定することでイオンビームを真空ダクトの内形で規定される設計ビーム通過領域に収めるとともに、適切なビームサイズで照射点の患部にイオンビームを照射することができる。
【0019】
輸送装置500内のビーム経路上には分岐点591〜595がある。分岐点591に偏向電磁石541が設置され、分岐点592に偏向電磁石543が設置され、分岐点593に偏向電磁石546が設置され、分岐点594に偏向電磁石548が設置され、分岐点595に偏向電磁石550が設置される。これらの偏向電磁石541、543、546、548、550はイオンビームを偏向するとともに、イオンビームを輸送するコースの切り替えの役割を果たす。すなわち、分岐点に来たイオンビームは偏向電磁石が励磁中(ON)ならば偏向され、励磁中でない(OFF)ならば直進する。例えば、治療室610の第1の水平ポート511にて照射するときは、偏向電磁石541は励磁せず(OFFし)、偏向電磁石546を励磁する(ONする)。このように、偏向電磁石の励磁のON/OFFによってイオンビームが輸送される照射ポートを選択できる。
【0020】
次に図2に、本実施例で用いる偏向部の構成を示す。前述の通り、偏向部は二台の45度偏向電磁石(5401、5402)を備え、偏向電磁石5401と偏向電磁石5402の間に四極電磁石7101を備える。四極電磁石7101は、輸送中のイオンビームと照射するイオンビームの分散関数を調整する役割がある。分散関数とはイオンビームを構成する粒子個々の運動量ずれと設計軌道からの位置ずれの相関を示すパラメータである。分散関数が0でない値を持つと運動量の広がりに起因してビームサイズがより広がる。分散関数はイオンビームが偏向電磁石を通過することによって発生する。荷電粒子が磁場によって偏向される角度はその運動量に依存するため、運動量の大きな荷電粒子は偏向される角度が小さくなり、運動量の小さい荷電粒子は偏向される角度が大きくなる。このようにして偏向電磁石における各荷電粒子の偏向角に運動量依存性が生じ、イオンビームが輸送装置内を輸送されるに従って、位置のずれとなる。偏向部で生じる分散関数を調整するために、本実施例では2台の偏向電磁石(5401、5402)の間に四極電磁石7101を用いる。この四極電磁石7101は偏向面に平行かつビーム進行方向に垂直な方向(X方向)にイオンビームを収束させ、偏向面に垂直な方向(Y方向)にイオンビームを発散させる作用を持つ。このような偏向部の構成であると、四極電磁石の位置において上流の偏向電磁石5401で生じたX方向の分散関数を収束させる。すると、例えばある四極電磁石の励磁量においては上流の偏向電磁石で生じた分散関数は下流の偏向電磁石を通過後に0とすることができる。このような分散関数の生じない偏向部をアクロマティック偏向部と定義する。偏向部にアクロマティック偏向部を用いることで後続する直線部の分散関数が0となり、ビームサイズを抑えながらイオンビームを照射点まで輸送することが可能となる。図2に、アクロマティック偏向部での設計軌道8001と運動量の大きい荷電粒子が描く軌道8003と、運動量の小さい荷電粒子が描く軌道8002を示した。アクロマティック偏向部の特徴として、四極電磁石の励磁量が他の直線部に用いられる四極電磁石より大きくなる傾向がある。図2の軌道形状が示すように、四極電磁石7101をレンズに見立てた場合、その焦点距離は偏向電磁石の軌道長程度になる。すると、四極電磁石7101によって発散の作用を受けるY方向には大きい発散力を受け、下流のY方向ビームサイズが大きくなってしまう。そのため、アクロマティック偏向部の下流の直線部では電磁石のサイズが大きくなりやすい。従来は偏向電磁石の直後にY方向に収束作用を持つ四極電磁石を挿入するなどの対策が必要であった。その分、装置の消費電力が増すこととなる。さらに本実施例のように、輸送経路中に傾斜した直線部や、鉛直方向の直線部がある場合、設置機器が増加する分メンテナンス性の確保や据え付けにかかる時間の増加となりえる。
【0021】
ここで、従来のアクロマティック偏向部を用いた場合と本実施例で適用したアクロマティック条件よりも四極電磁石の励磁量を小さくした場合の傾斜直線部572,573におけるビームサイズの変化を図3に示す。図3のグラフの開始地点は偏向電磁石541の入り口であり、終了地点は偏向電磁石546の出口である。すなわち全長約23mの傾斜直線部572,573におけるビームサイズを示している。図3の横軸はビーム進行方向の距離、縦軸にビームサイズをとっている。また、図3のBMは偏向電磁石を示し、QMは四極電磁石を示す。イオンビームのビームサイズはX方向とY方向に対して射影される各粒子の位置の標準偏差の2倍として定義している。開始地点におけるイオンビームの位相空間上の分布はTwissパラメータによって記述され、水平方向はα=3.1、β=6.8mであり、鉛直方向はα=0.8、β=4.1mである。この条件のイオンビームが酋長点においても同じ値をとるように四極電磁石の励磁量は調整されている。また開始地点におけるイオンビームのエミッタンスは水平方向に0.75πmm・mrad、鉛直方向は3.8πmm・mradである。また、運動量ずれの標準偏差は0.02%とした。上述のように、図3にBMと示した最初の2台の偏向電磁石の間の四極電磁石(QM)の励磁量が従来のアクロマティック条件よりも本実施例の条件のほうが小さくなっている。そのため、Y方向へのイオンビームの発散が抑えられ、アクロマティック条件では矢印で示したBMの下流で最大37mmまでイオンビームサイズが大きくなるのに対し、本実施例では28mmまでに抑制できる。このため、この傾斜直線部での電磁石の開口部の大きさを従来より抑制でき、消費電力の削減が達成できる。同様に、X方向のビームサイズの最大値も本実施例のほうが小さくできており、やはり傾斜直線部における電磁石の消費電力を従来の例よりも小さくできる。また、本実施例ではアクロマティック条件を満たす偏向部を用いない理由から、傾斜直線部の分散関数が0とならない。その様子を図4に示す。従来は分散関数が0でなくなるのは偏向部内のみに対し、本実施例では傾斜直線部全域にわたって分散関数が生じる。しかし、図3の結果からわかるように運動量のばらつきが小さければ分散関数の影響によってビームサイズが大きくなる効果は無視でき、本実施例のほうが、従来と比較しX方向もY方向もビームサイズが小さくできる。さらに、わずかに傾斜直線部の出口で残る分散関数は下流の直線部と照射点に向かう偏向部までの間で消すことができ、照射性能には全く影響しない。
【0022】
さらに、治療室610を図1の矢印Aの方向から見た断面図を図5に示す。本実施例の建屋は二階建てになっており、二階建ての二階部分には第1の鉛直照射ポート521と第1の斜め照射ポート531に続く輸送経路が設置されており、一階部分に第1の水平照射ポート511に続く直線部577と第1の治療室610が設けられている。第1の治療室610には患者611が横たわる可動治療台612があり、照射点630に患部が位置するように治療台の位置が照射ごとに決められる。照射点630の直前のビーム経路上には照射装置640がある。スキャニング照射法を用いる本実施例では照射装置内にイオンビームを走査する走査電磁石651、652や、ビーム位置を測定する位置モニタが置かれる。スキャニング照射法ではなく、散乱体照射法を用いることも可能であり、その場合は照射装置内に走査電磁石の代わりに散乱体やコリメータなどが設置される。本実施例のような輸送経路を取ることで水平照射ポートに続く直線部577の真上の二階部分に広い空間700が取れる。この場所に輸送系の電磁石やシンクロトロンの電磁石など各機器の電源等を配置することで建屋空間の有効利用が可能となり、結果、建屋体積の削減が達成できる。
【0023】
なお、傾斜直線部572、573の勾配、すなわち偏向部561の傾斜角度は本実施例では45度としたが、その他の角度でもよい。例えば、傾斜角度が22.5度とした場合の治療室の断面図を図6に示す。この場合の特徴は、傾斜角度が45度の時と比較し、水平照射ポートの上階により広い空間701が確保できる点と斜め照射ポートの上流により長い直線部が取れる点である。長い直線部が照射ポートの上流に取れることで四極電磁石など輸送系機器の配置が容易となる他、照射点630の直前の四極電磁石の収束力、すなわち励磁量が小さくできるなどの利点がある。一方建屋の横方向の長さは大きくなる。また、逆に傾斜角度を45度より大きくすると斜め照射ポートの上流の直線部の長さや、水平照射ポートの上階の空間が小さくなる一方、建屋の敷地面積の減少が図れる。これらの点を留意し、傾斜角度は設置場所の土地の形状に合わせて傾斜角は選択すればよい。
【0024】
さらに、本実施例の炭素線治療装置100が備える6台の照射ポートのうち、一部の照射ポートとそれに付随する輸送装置を省くこともできる。例えば、第2の治療室602の斜め照射ポート532、その上流直線部584、偏向部568、水平直線部581を省き、第2の治療室602が鉛直照射ポート512と第の2水平照射ポート522の二方向からのみ照射できるようにすることも可能である。その場合、省かれた機器分のコスト削減が可能となる。
【0025】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しつつ本発明の第2の実施形態を説明する。本実施例の粒子線治療装置(炭素線治療装置)1100は、第一の実施例と同様に、2室の治療室を備える。ここでは第1の実施例の炭素線治療装置100との相違点を中心に述べる。
【0026】
図7に、本実施例の炭素線治療装置1100の概略図を示す。本実施例の炭素線治療装置1100は、輸送装置の形状と治療室の配置が、第1の実施例の炭素線治療装置100と異なる。本実施例の炭素線治療装置1100は、第1の実施例の炭素線治療装置100と同様に、傾斜直線部1572、1573と水平直線部1571、1574〜1576、1580〜1582を備える。偏向部1561〜1569は第一の実施例同様に、イオンビームを偏向し、偏向されたイオンビームが治療室1610、1620内にある照射点に照射される。本実施例の炭素線治療装置1100は、第1の実施例の炭素線治療装置100と異なり、偏向部1564、1565、1567、1568は54.74度の偏向角を有する偏向電磁石を一台のみで構成される。当該偏向電磁石の偏向角を2の平方根の逆正接関数、すなわち54.74度とすることで、4台の偏向電磁石1546、1548、1552、1554の偏向角を共通とすることができる。本実施例の特徴は水平照射ポート1511、1512に向かう直線部1577、1583と水平な直線部との成す角を90度以下とすることにより、偏向電磁石のコストダウンと消費電力の削減が図れる。
【0027】
さらに、本実施例の治療室の断面図は図6と同様となり、斜め照射ポートに向かう直線部1578、1584の長さと垂直照射ポート1521、1522に向かう直線部1579、1585の長さを等しくすることができる。従って、四極電磁石を適切に配置することで四極電磁石の励磁量を抑えつつビームサイズの調整が可能となる。一方、偏向部1564、1565、1567、1568を1台の偏向電磁石照射点に最終の偏向電磁石とすることで、照射点において分散関数を消すためには上流の水平直線部や斜め直線部に設置された四極電磁石の励磁量の調整が必要となる。本実施例においても、傾斜直線部1572、1573での分散関数は消されておらず、最終的に照射点に向かう直線部において、分散関数を消している。本実施例では、傾斜直線部の出入り口の偏向部1561、1562、1563において偏向部1564、1565、1567、1568の偏向角は共通としつつ、斜め照射ポート上流の直線部と垂直照射ポート上流の直線部の長さを同一とする場合の偏向部1564、1565、1567、1568の角度は前述の通り54.74度となる。この角度を別の値にすることで各ポート上流の直線部の長さを調整できる。また第1の実施例に記した炭素線治療装置100と同様に、傾斜直線部1572、1573の傾斜角は小さくするほど水平照射ポートの上階に空間が得られる一方、建屋の幅が大きくなる。以上のことを踏まえ実際の炭素線治療装置では偏向角と傾斜角を選択すればよい。
【0028】
さらに、第一の実施例と同様に、本実施例の炭素線治療装置1100が備える6台の照射ポートのうち、一部のポートとそれに付随する輸送装置を省くこともできる。例えば、治療室1602の斜め照射ポートの上流直線部1584、偏向部1554、水平直線部1581を省き、垂直照射ポート1522と水平照射ポート1512の二方向からのみ照射できるようにすることも可能である。その場合、省かれた機器分のコスト削減が可能となる。
【0029】
なお、実施例1及び2では粒子線治療装置として炭素線治療装置を例に説明したが、陽子線治療装置であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
100、1000 炭素線治療装置
200 イオン源
300 線形加速器
400 シンクロトロン
500 輸送装置
511〜512、1511〜1512 水平照射ポート
521〜522、1521〜1522 垂直照射ポート
531〜532、1531〜1532 斜め照射ポート
541〜558、1546、1548、1552、1554、5401〜5402 偏向電磁石
561〜569、1561〜1569 偏向部
571〜585、1571〜1585 直線部
610、620、1610、1620 治療室
611 患者
612 可動治療台
630 照射点
640 照射装置
651、652 走査電磁石
700、701 空間
711〜719、1711〜1715、7101 四極電磁石
8001〜8003 粒子軌道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7