(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザー光を発する光源と、前記光源に対し空間的に離間して配置された発光部とを備え、前記発光部は基板と、前記基板上に配置された蛍光体層と、前記基板と前記蛍光体層との間に配置された反射層とを有し、
前記蛍光体層は、前記レーザー光により励起される蛍光体と、補間材とを含み、
前記補間材は、前記蛍光体と共通する元素を有する金属酸化物であって、前記蛍光体層内において前記蛍光体の結晶層とは別の結晶層を形成し、前記蛍光体と屈折率が異なり、粒界径が0.5μm〜5μmであり、粒界形状が略球状もしくは略球状多角形であり、前記蛍光体層中における濃度が5vol%〜25vol%であり、
前記蛍光体層は、少なくとも前記補間材を含む層と、前記補間材を含まない層とを含む複数の層からなり、
前記補間材を含む層は、前記補間材を含まない層よりも前記レーザー光が入射される側に近い位置にあり、
前記蛍光体層は、前記レーザー光が入射した光路と前記反射層で反射した光路とにずれを生じさせることを特徴する発光装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の発光装置の実施形態を説明する。
まず
図1を参照して、本発明が適用される発光装置の概要を説明する。
図1に示す発光装置100は、レーザー光源10と発光部20を備え、レーザー光源10と発光部20とは図示しない支持構造によって互いに空間的に離れて配置されている。レーザー光源10は、所定の波長のレーザー光を発する光源で、例えば青色光レーザーを発するレーザーダイオード(LD)が用いられる。レーザー光源10を構成するLDは単数でも複数個でも良い。
【0016】
発光部20は、主として、蛍光体プレート(蛍光体層)21と基板30を有し、蛍光体プレート21は接合材40により基板30に固定されている。また蛍光体プレート21の基板側には反射層22が形成され、蛍光体プレート21の上面(基板側と反対側)には反射防止層25が形成されている。反射防止層25が形成される面が発光部20の光出射面となる。なお
図1では、レーザー光が蛍光体プレート上面に対し斜めに入射する場合を示しているが、レーザー光の蛍光体プレート21に対する入射角は0度でもよい。
【0017】
蛍光体プレート21は、レーザー光源10からのレーザー光を吸収し、レーザー光と異なる波長の光を発する蛍光体を含む部材である。蛍光体としては、赤色光を発する赤色蛍光体、黄色光を発する黄色蛍光体、緑色光を発する緑色蛍光体など公知の蛍光体を用いることができるが、本発明は特に緑色蛍光体の高出力化に好適である。緑色蛍光体としては、LuAG:CeやLuAG:Ce+Al
2O
3を用いることができる。なお、LuAGとはLu
3Al
5O
12の組成式で示されるガーネット結晶構造の結晶体であり、Luはルテチウム、Alはアルミニウム、Oは酸素である。そしてLuAG:Ceは、LuAG結晶のLu原子サイトの一部を賦活材であるCe(セリウム)で置換した結晶体を意味する。また、LuAG:Ce+Al
2O
3はLuAGとAl
2O
3の多結晶体を意味する。
【0018】
蛍光体プレート21の形態としては、蛍光体粉末をガラスや樹脂中に分散させたもの、ガラス母体に発光中心イオンを添加したガラス蛍光体、及び蛍光体セラミックス等を用いることができる。特に、蛍光体粉末の焼結体である蛍光体セラミックスが好ましい。また蛍光体プレートは、透光性の高いものが好ましい。透光性の高い蛍光体プレートを用いることにより、蛍光層からの光の取り出し効率を高めることができ、また蛍光体プレート内で発生した熱を効率よく拡散することができる。
【0019】
基板30は、蛍光体プレート21の支持部材であるとともに、蛍光体プレート21で発する熱を放熱する機能を有する。このためアルミニウム、銅、スレンレスなど熱導電性のよい金属を用いることが好ましい。また
図1では平板状の基板30を示しているが、基板30は蛍光体プレート21が固定される面と反対側にフィン等の放熱構造を備えていてもよいし、形状は任意である。
【0020】
蛍光体プレート21を基板30に固定する接合材40としては、シリコーン樹脂、ガラス等を用いることができる。また蛍光体プレート21に形成された反射層22が金属層の場合、熱伝導性の良いAgフィラーやグラファイトフィラーを添加したエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、はんだ、金錫等を用いることも可能である。接合材40が樹脂やガラスの場合、透明(光透過性)でも不透明でもよく、透明な場合には蛍光体プレート21側面を覆うように設けてもよい。透明な樹脂は蛍光体プレート21側面からの光の出射を妨げないので側面からの光も利用することができる。
【0021】
蛍光体プレート21の裏面側に設けられる反射層22としては、金属反射膜、誘電体多層膜からなる増反射膜、金属反射膜と増反射膜との組み合わせなどを用いることができる。好適には、
図2に示すように、蛍光体プレート21側から順に、全反射膜223、増反射膜222及び金属反射膜221を組み合わせたものが好適である。
【0022】
金属反射膜221は、Ag、Al等の金属が用いられる。特に反射率の高いAgが好適である。金属反射膜221の厚みは、特に限定されるものではないが、用いる金属の反射率が飽和する厚み以上が好ましい。Ag、Alならば1000〜2000Å(100〜200nm)が好ましい。また金属反射膜の外側には、金属の劣化を防止するためTi、Pt、Ti/Au、Pt/Au等の金属性の保護膜26やAl
2O
3、TiO
2、SiO
2等の金属酸化物の保護膜26を形成することが好ましい。
【0023】
増反射膜222は、屈折率(n)の異なる材料を交互に積層した光学多層膜であり、各層の厚みが入射光の波長λの1/4程度に調整され、さらに入射光の角度依存性による反射率低下を防ぐために反射波長帯域を広くする構造とすることにより入射光の一部または殆どを透過せず反射光にすることができる。その層構成は励起光及び波長変換部材20が発する光の波長を考慮して調整される。なお増反射膜222の入射光の反射可能な最大入射角(反射限界角)が小さければ層構成は簡素化でき、大きければ層構成は複雑化、多層化する。低屈折率材料としては、例えば、Na
5Al
3F
14(チオライト)(n=1.33)、AlF
3(n=1.36)、CaF
2(n=1.38)、SiO
2(n=1.45)、Al
2O
3(n=1.64)等が用いられる。高屈折率材料としては、CeO
2(n=2.13)、Ta
2O
5(n=2.20)、Ti
3O
5(n=2.31)、TiO
2(n=2.35)、Nb
2O
5(n=2.37)等が用いられる。本実施形態に好適な一例として、蛍光体プレート側から順にTa
2O
5(54nm)/SiO
2(24nm)/Ta
2O
5(54nm)/SiO
2(100nm)/Ta
2O
5(42nm)/SiO
2(54nm))の構成とした多層膜が挙げられる。
【0024】
全反射膜223は、蛍光体プレート21よりも屈折率が小さい透光性材料からなる。これにより蛍光体プレート21から全反射膜223に入射する入射光のうち全反射が起こる最も小さい入射角(全反射臨界角)以上の入射光を全反射できる。すなわち、全反射膜223を設けることにより増反射膜222の反射限界角を小さくでき、層構成を簡素化できる。
【0025】
全反射膜223を構成する材料の屈折率は、蛍光体プレート21の屈折率より小さく、増反射膜の反射限界角と同等か小さい角度で全反射臨界角となる値が好ましい。具体的には、蛍光体プレート21の屈折率がn1、全反射膜223の屈折率がn2、増反射膜222の反射限界角がθならば、n2≦sin(θ)×n1となる関係が良い。例えば、蛍光体プレートであるLuAGの屈折率が1.85、増反射膜の反射限界角が65°ならば、全反射膜の屈折率n2は1.68以下となれば良い。このような低屈折率材料として、具体的には、Na
5Al
3F
14(チオライト)(n=1.33)、AlF
3(n=1.36)、MgF
2(n=1.38)、CaF
2(n=1.43)、SiO
2(n=1.45)、Al
2O
3(n=1.64)などの誘電体物質を用いることができる。また蛍光体プレートの屈折率が大きければAlN(n=1.9−2.2)、Si
3N
4(n=2.03)などの誘電体物質も用いることができる。これらのうち化学的安定性、屈折率、成膜性の観点からはSiO
2、Al
2O
3が好適である。
【0026】
全反射膜223の厚みは、限定されるものではないが、全反射膜223と金属反射膜221との間に誘電体層の多層膜(増反射膜)222を設ける場合には、300nm以上、好ましくは500nm以上である。また上限は2μm以下、好ましくは1μm以下である。厚みを300nm以上とすることにより、増反射膜と干渉を起こすことなく全反射機能を得ることができる。また2μm以下とすることにより製造時間の短縮を図ることができる。
【0027】
金属反射膜221、増反射膜222及び全反射膜223及び保護膜26は、それぞれ、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、イオンアシスト蒸着等の方法で、蛍光体プレート21或いはその上に形成された反射層の表面に成膜することができる。
【0028】
蛍光体プレート21の光出射面に設けられる反射防止層25は、蛍光体プレート21へ入射する励起光の反射を低減し入射効率を向上するとともに、励起放射された蛍光を効率よく取りだす機能を持つ。反射防止層25としては、高屈折率材料(誘電体)と低屈折率材料(誘電体)とを交互に多層に積層した多層膜を用いることができる。本実施形態に好適な一例として、蛍光体プレート側よりTa
2O
5(23nm)/SiO
2(25nm)/Ta
2O
5(58nm)/SiO
2(18nm)/Ta
2O
5(41nm)/SiO
2(99nm)とした構成の多層膜が挙げられる。反射防止層25は、他の反射層22と同様に、蒸着、イオンプレーティングなど公知の手法で蛍光体プレート上に成膜することができるが、イオンアシスト機能を利用した蒸着は、蒸着時の基板温度を下げることができ好ましい。なお反射防止層25の層構成は、反射防止する波長によって異なり、前掲のものに限定されるものではない。
【0029】
発光装置100は、発光装置の構造体の一部である基板30に接合材40を介して発光部20の反射層22側を接合して固定し、発光部20の光出射面に対し所定の角度でレーザー光が照射されるようにレーザー光源10を取り付けることにより製造することができる。発光装置100は、レーザー光源10から発したレーザー光の光路を調整するために、レンズ、ハーフミラー、ダイクロックミラーなどの図示しない光学部材を備えていてもよい。
【0030】
本発明の発光装置は、上述した構造を基本として、蛍光体プレート21に入射されたレーザー光による蛍光体の励起飽和を防止する手段(光路調整手段)を設けたことが特徴であり、以下、光路調整手段の態様毎に実施形態を説明する。
【0031】
<第1実施形態>
本実施形態の発光装置は、光路調整手段として、蛍光体プレートが補間材を含むことが特徴である。発光装置の構造は
図1に示したものと同じであり、蛍光体プレート以外の要素については説明を省略する。以下、本実施形態の特徴である蛍光体プレートについて説明する。
【0032】
本実施形態の発光装置が用いる蛍光体プレートは、蛍光体粉末と補間材とを焼結して得られる蛍光体セラミックスからなる。蛍光体粉末としては、CaAlSiN
3:Eu
2+、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu
2+、(Sr,Ba)
2SiO
5:Eu
2+、(Ca,Sr)
2Si
5N
8:Eu
2+、等の赤色発光蛍光体、Y
3Al
5O
12:Ce
3+、(Sr,Ba)
2SiO
4:Eu
2+、Ca
x(Si,Al)
12(O,N)
16:Eu
2+、(Ba,Sr,Ca)
2SiO
4:Eu
2+、Tb
3Al
5O
12:Ce
3+、Ca−α−Sialon:Eu
2+等の黄色発光蛍光体、Y
3(Ga,Al)
5O
12:Ce
3+、Lu
3Al
5O
12:Ce
3+、(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu
2+、Ca
3Sc
2Si
3O
12:Ce
3+、CaSc
2O
4:Eu
2+、CaSc
2O
4:Ce
3+、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu
2+、β−Sialon:Eu
2+、(Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Eu
2+、Ba
3Si
6O
12N
2:Eu
2+等の緑色発光蛍光体を用いることができる。結晶構造の観点からはガーネット結晶構造のTAG系(テルビウム・アルミニウム・ガーネット系)、YAG系(イットリウム・アルミニウム・ガーネット系)、LuAG(ルビジウム・アルミニウム・ガーネット系)系蛍光体が適している。本実施形態は緑色発光蛍光体、特にLu
3Al
5O
12:Ce
3+等のLuAG系蛍光体に好適に適用することができる。
【0033】
補間材は、焼結体中で蛍光体の結晶相とは別の結晶相を形成することによって、蛍光体プレートの透光性を損なうことなく光拡散性を与える材料であり、蛍光体(結晶)と屈折率が異なる材料が用いられる。具体的には、蛍光体と共通する元素を有するAl
2O
3、SiO
2、AlN、Si
3N
4等の金属酸化物が用いられる。
【0034】
透光性を損なうことなくレーザー光を散乱するために、補間材の粒界径はレーザー光が粒界通過時に進行方向に回折散乱するような粒界径、すなわち0.5μm〜5μm程度の粒界径であることが好ましく、好適には1μm前後が良い。粒界径が0.5μmより小さくなるとレーザー光の進行方向後方側の回折散乱強度が高くなり、励起光であるレーザー光が蛍光体プレート深部へ届かなくなり蛍光効率(蛍光出力÷励起光出力)が低下する。反対に5μmより大きくなると進行方向の回折散乱角が狭くなり、蛍光体結晶への入射光量が減少しやはり蛍光効率が低下する。
【0035】
レーザー光の回折散乱に適した補間材の粒界形状は略球状、略球状多角形が良い。それには補間材の結晶構造が蛍光体結晶と異なると共に蛍光体結晶構成元素を含むことが好ましい。このような性状の補間材は、補間材と蛍光体を焼結形成する過程において補間材粒界が略球状、略球状多角形になり易い。
【0036】
蛍光体プレート中における補間材の割合(濃度)は、5vol.%〜25vol.%であることが好ましい。5vol.%以上とすることにより、蛍光体結晶中に補間材が上述したサイズおよび形状で分散する粒界を形成するので蛍光体の励起飽和を防止するのに必要な散乱が得られる。また25vol.%を超えると、蛍光体濃度が低下して蛍光効率が低下する。
【0037】
本実施形態の蛍光体プレートは、通常の蛍光体セラミックスの製造方法と同じである。補間材となる金属酸化物の微粒子を所定の量で混合する。その後、例えば、金型等によって一軸成形後、冷間静水圧成形を行って成形体とし、不活性ガス、酸素ガス、減圧、真空の何れかまたは組み合わせた雰囲気で焼結する。焼結体を板状に加工した後、反射層22、保護膜26及び反射防止層25を形成した後、所定の形状にダイシングし、蛍光体プレートを得る。
【0038】
本実施形態の発光装置は、
図1の蛍光体プレートとして上述した補間材を含む蛍光体プレート21を用いたことが特徴であり、層構造は
図1に示すような単層でもよいし、
図3(a)〜(c)に示すように、複数の層(蛍光体プレート)から構成されているものでもよい。
図3(a)は、上層211と下層212の二層からなり、レーザー光が入射される上層211が補間材を含まない蛍光体プレート、下層212が補間材を含む蛍光体プレートである。
図3(b)は、
図3(a)と逆で、上層211が補間材を含む蛍光体プレート、下層212が補間材を含まない蛍光体プレートである。
図3(c)は、補間材を含まない蛍光体プレートからなる中間層213を、補間材を含む蛍光体プレートからなる上下の層214、215で挟んだ構造である。補間材を含む蛍光体プレートの位置は、
図3に示す例に限定されず、上層、中間層、下層のいずれでもよい。尚、このような層構造にした場合、蛍光体プレート21の体積に換算しときの補間材濃度が5vol.%〜25vol.%となるように上層、中間層または下層となる補間材を含む蛍光体プレートを形成する。
【0039】
蛍光体プレート21を複数の層で構成する場合、種類の異なる蛍光体プレートを接合材で接合してもよいし、各蛍光体プレートの蛍光体と補間材を成形後、焼結体とする前に重ねて同時に焼結し1枚の蛍光体プレートとしてもよい。
【0040】
本実施形態の発光装置では、レーザー光源10から発せられたレーザー光は、反射防止層25を通過し発光部20の蛍光体プレート21に入射する。ここで蛍光体プレート21に補間材を含む上層、中間層または下層の蛍光体プレートの層が存在することにより、発光部20に入射したレーザー光は回折散乱を受ける。この散乱では、光は後方散乱せず蛍光体プレートの下側の反射層22に向かうことができるので、反射層22までの光路(往路)と反射層22で反射されて光出射面から出射されるまでの光路(復路)とで、蛍光体プレート中の蛍光体を十分に励起することができる。しかも補間材による回折散乱によってレーザー光の往路と復路とが異なることから、励起飽和による蛍光効率の低下を生じることがない。
【0041】
さらに本実施形態の発光装置では、反射層22を金属反射膜221、増反射膜222及び全反射膜223で構成したことにより、蛍光体プレート21と反射層22との界面でレーザー光及び蛍光の光損失がなく極めて高い反射率で光出射面側に反射されるので、高い蛍光効率(高出力)を得ることができる。
【0042】
<第2実施形態>
本実施形態の発光装置は、光路調整手段として、蛍光体プレートに接する反射層として白色セラミックを用いたことが特徴である。発光装置の構造は
図4に示す。
図4において
図1と同じ構成要素については同じ符号で示し、説明を省略する。なお
図4ではレーザー光源10を省略しているが、レーザー光源10を発光部20に対し空間的に離して配置することは
図1の発光装置100と同じである。
【0043】
本実施形態の発光装置も、発光部20は基板30の上に接合材40により固定された構造を持つ。発光部20は蛍光体プレート21の光出射面側に反射防止層25が形成され、その反対側の面に反射層22が形成されている。
【0044】
反射層22は、蛍光体プレート21側から順に、白色セラミック層225及び金属反射膜221からなる。なお金属反射膜221は、発光部20を基板30に固定する接合材40として、はんだや金錫等の金属接合材を用いる場合には必要であるが、接合材40が樹脂やガラスの場合には省くことも可能である。その場合には金属反射膜221を保護する保護膜も省略することができる。
【0045】
白色セラミック層225は、蛍光体プレート21を透過したレーザー光及びレーザー光によって蛍光体プレート21が発した蛍光を拡散反射または均等拡散反射し、反射層22までの光路(往路)と反射層22から光出射面までの光路(復路)を異ならせる光路調整手段として機能する。この機能を持たせるために、レーザー光の波長(例えば450nm)と蛍光の波長(緑色蛍光体の場合約510nm)に対し高い反射率を持つ白色アルミナ反射膜が好適である。白色アルミナ反射膜は、波長450nmの光に対し95%以上の高い反射率を持ち、正反射光の少ない拡散反射が得られる。
【0046】
白色アルミナ反射膜等のセラミック層225は、蛍光体プレート21の面にプラズマ溶射によりμmオーダーの膜厚精度で形成することができる。他にスパッタ、プラズマCVD等でも形成可能だが、拡散反射面または均等拡散反射面を形成するにはプラズマ溶射膜が好ましい。また所定の基材上に白色セラミック層27を溶射により形成したものを蛍光体プレート21に透明な樹脂やガラス等の接合材を介して接合してもよい。セラミック層225の厚みは、特に限定されないが、金属反射膜221を設ける場合にはレーザー光の拡散に必要な1μm〜20μm程度の膜厚で良い。またセラミック層225だけで拡散反射させる場合には反射率の低下を防ぐために20μm〜100μm程度とすることが好ましい。
【0047】
セラミック層225に熱伝導性の高い部材を用いれば、蛍光体プレート21が蛍光する際に発する熱を効率良く基板30へ伝熱できるので蛍光体プレート21の温度消光を防止できる。白色アルミナの熱伝導率は20W/(m・K)〜30W/(m・K)と高い熱伝導率を有するので好適な部材である。
【0048】
蛍光体プレート21は、第1実施形態と同様のものを用いてもよいが、励起飽和の問題がなければ、蛍光体濃度が高いほど高い蛍光効率(光出力)が得られるので、蛍光体濃度100%の蛍光体プレートを用いることが好ましい。蛍光体濃度100%の蛍光体プレートとは、補間材を含まない蛍光体プレートであることを意味し、不可避的に混入する成分を含むものを排除するものではない。蛍光体プレート21を構成する蛍光体としては第1実施形態で例示した蛍光体を用いることができ、本実施形態においても、LuAG等の緑色蛍光体を好適に用いることができる。また蛍光体プレートの製造方法は、原料の比率が異なる以外は蛍光体濃度100%未満の場合と同様である。
【0049】
なお反射防止層25は省略することもできる。
【0050】
本実施形態の発光装置は、発光部20の反射層22として、蛍光体プレート21に接する部分に拡散反射性を持つ白色セラミック層225を用いたことにより、蛍光体プレート21を往復するレーザー光による蛍光体の励起飽和を効果的に防止し、且つ蛍光体が発する光に対しても高い反射性が維持できるので、高出力を得ることができる。
【0051】
<第3実施形態>
次に本発明の発光装置をプロジェクター用光源に利用した実施形態を説明する。
【0052】
図5にプロジェクター用光源装置の一例を示す。このプロジェクター用光源装置800は、青色レーザーを発するレーザー光源10と、蛍光体を備えた発光部20と、赤色光を発する赤色光源80と、ハーフミラー91及び複数のダイクロイックミラー92(921〜923)を含む光学部材と、光を映像光に変換する変換素子94とを備えている。
【0053】
レーザー光源10は、
図1の発光装置100のレーザー光源と同様であるが、ここでは青色レーザーを発するレーザー光源を複数用いている。レーザー光源10からの光はレンズ95で集光された後、ハーフミラー91により一部は反射され、残りはハーフミラー91を透過し、さらに所定の波長を透過するダイクロイックミラー921を透過し、発光部20に入射する。
【0054】
発光部20は、緑色蛍光体を含む蛍光体プレートに反射層を備え、第1実施形態又は第2実施形態のいずれかと同様の発光部20であり、ダイクロイックミラー921を通して入射された青色レーザー光を蛍光体が吸収し、緑色の光を出射する。発光部20から出射された緑色の光は、ダイクロイックミラー921は透過せず反射されて、さらに第2のダイクロイックミラー922で反射され、第3のダイクロイックミラー923を透過し、変換素子94に到達する。
【0055】
またハーフミラー91で反射されたレーザー光源10からの光は、ダイクロイックミラー923でさらに反射されて変換素子94に到達する。
【0056】
赤色光源80は、赤色LED等からなり、赤色に対し透過特性を持つ第2のダイクロイックミラー922の後方に配置され、そこから発した赤色光はダイクロイックミラー922及び第3のダイクロイックミラー923を透過して変換素子94に到達する。
【0057】
変換素子94は、液晶素子やDLP(Digital Light Processing)素子からなり、多数の画素に対応し、素子がONのときに光を通過させ、OFFのときに光を遮断することにより光を映像光に変換する。レーザー光源10からの青色光、発光部20からの緑色光及び赤色光源80からの赤色光は、変換素子94によって、所定の割合で合成された映像光となって出力される。
【0058】
本実施形態の発光装置では、緑色光を発する発光部20として、出力の高い赤色LEDや青色LDに劣らない高出力の発光部を用いることができるので、明るく色再現性のよい映像が得られる。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
蛍光体LuAG:Ceと補間材Al
2O
3とを含み、蛍光体濃度が異なる複数の蛍光体プレート(厚み:100nm)を用意した。蛍光体濃度は、試料1:25vol.%、試料2:50vol.%、試料3:75vol.%、試料4:90vol.%、試料5:95vol.%、試料6:100vol.%の6種類とした。なお賦活材濃度([Ce]/([Lu]+[Ce]×100)は5<atomic%と一定にした。
【0060】
イオンアシスト機能を持つ蒸着装置を用いて、これら蛍光体プレートの一方の面に、反射防止層として、蛍光体プレート側よりTa
2O
5(23nm)/SiO
2(25nm)/Ta
2O
5(58nm)/SiO
2(18nm)/Ta
2O
5(41nm)/SiO
2(99nm))を形成した。同様に、イオンアシスト機能を持つ蒸着装置を用いて、蛍光体プレートの他方の面に全反射膜(SiO
2、厚み:500nm)、増反射膜(全反射膜側よりTa
2O
5(54nm)/SiO
2(24nm)/Ta
2O
5(54nm)/SiO
2(100nm)/Ta
2O
5(42nm)/SiO
2(54nm))、接着層(Al
2O
3(10nm))、金属反射膜(Ag(150nm))をこの順に形成し、最後にAg膜の上に保護膜(TiO
2(50nm))を形成した。
【0061】
実施例1の反射防止層および反射層の反射特性を以下の通り確認した。
(1)反射防止層の反射率特性
透光性のYAG基板(屈折率1.85)の上に実施例1で形成した反射防止層と同じ多層膜を形成し、この反射防止層の反射スペクトルを、反射率測定装置を用い入射角5°で測定した。結果を
図6に示す。
図6において横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。図示するように、本実施例の反射防止層は、波長430nm〜580nmの光に対する反射率が0.4%以下であり、励起光である青色レーザー光(約450nm)に対して反射率0.2%以下と高い反射防止性があることが確認された。また蛍光体の発光波長(約510nm)付近では0.2%以下の反射率すなわち高い透過性があることが確認された。
【0062】
(2)反射層の反射率の入射角依存性
ガラス基板(屈折率1.82)の上に実施例1で形成した反射層(全反射膜+増反射膜+金属反射膜+保護膜)と同じ反射層を形成し、励起光と同じ波長450nmの光と、蛍光体の発光波長と同じ波長510nmの光について、入射角を0°〜28°まで変化させた場合の反射率を、反射率測定装置を用いてガラス側から測定した。結果を
図7に示す。
図7において横軸は入射角(°)、縦軸は反射率(%)である。図示するように、測定したすべての入射角において、両波長の光に対し92%以上の反射率を示した。青色光(波長450nm)は5°〜10°程度までの入射角に対し97%以上の反射率を有し、緑色光(波長510nm)は、レーザー光源からの入射角として想定される角度範囲0°〜28°の入射角に対し95%以上の反射率を有した。
【0063】
(3)反射層の反射率の波長依存性
上記(2)の反射層の反射スペクトルを、反射率測定装置を用い入射角5°で測定した。結果を
図8に示す。
図8において横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。図示するように、波長450nmの反射率および波長510nmの反射率はともに98%以上であり、非常に反射特性が良好であることが確認された。
【0064】
上述のように一方の面に反射防止層、他方の面に反射層を形成した蛍光体濃度の異なる6種の蛍光体プレートを所定の大きさ(1mm×1mm)にカットし、試料片を得た。これら6個の試料片を、UV洗浄後の金属基板(アルミ基板、厚さ0.5m)に透明樹脂(シリコーン樹脂)を用いて接合し、150℃で4時間硬化した。
【0065】
<比較例1>
増反射膜と金属反射膜を設けないこと以外は、実施例1と同様にして、蛍光体濃度の異なる6種類の蛍光体プレート試料および金属基板接合後の試料を得た。
【0066】
上述した実施例1および比較例1の各試料について、
図9に示すような測定装置900を用いて、金属基板接合後の蛍光体プレート試料の蛍光出力を測定した。
図9において、波長450nmの青色レーザーを発するレーザー光源からのレーザー光を、ハーフミラーおよび集光レンズを介しては蛍光体プレート試料に照射し、蛍光体プレート試料が発する蛍光をハーフミラーおよびダイクロイックミラーで分離し、サーモパイルセンサで検出した。レーザー光出力は室温下で10Wとし、照射サイズを約1mm×1.5mm角とした。
【0067】
結果を表1に示す。表1の結果は、比較例1の蛍光体濃度100%の蛍光出力値で規格化した値である。
【表1】
【0068】
表1に示す結果からわかるように、増反射膜および金属反射膜を設けない比較例1では、蛍光出力は蛍光体濃度の増加に伴い増加し、蛍光体濃度100%のときに最大となる。これに対し、増反射膜および金属反射膜を備える実施例1では、蛍光体濃度が約90%で蛍光出力は最大となり、それより蛍光体濃度が多くても逆に蛍光出力が低下する。しかしながら蛍光体濃度75%、90%および95%の試料で比較例1の蛍光体濃度100%のものより高い蛍光体出力が得られた。これは実施例1の蛍光体プレート試料が比較例1の蛍光体プレート試料に対して増反射膜を備えたことによる低入射角光の反射率が高くなったことに起因する。
【0069】
比較例1の試料は、増反射膜と金属反射膜を備えていないので、蛍光体プレートへ入射したレーザー光の内、蛍光体励起に用いられず蛍光体プレートの反対面に到達した残光成分は出射して接合部材や金属基板で吸収減衰する。従って補間材による回折拡散効果の有無に関係なく蛍光体濃度にのみ蛍光出力が左右される。
【0070】
実施例1の試料は、増反射膜と金属反射膜を備えているので、蛍光体プレートに入射したレーザー光の内、蛍光体励起に用いられず蛍光体プレートの反対面に到達した残光成分は増反射膜で反射され、再び蛍光体を励起する再励起光となる。この時、補間材粒界によるレーザー光の進行方向の回折拡散効果が十分に得られる蛍光体濃度90vol.%までは、レーザー光が拡散して広い範囲の蛍光体粒界を励起するので、再励起光による蛍光体の励起飽和が防止でき蛍光出力が増加する。対して、補間材による回折散乱効果が減少する蛍光体濃度90vol.%程度超では、レーザー光の拡散が不十分になり狭い範囲の蛍光体粒界のみを励起するので、再励起光による蛍光体の励起飽和が起こり、蛍光出力が減少する。
【0071】
蛍光体濃度90%vol%未満では蛍光出力は減少するが、蛍光体濃度75vol.%までは再励起光分の蛍光出力が加わるので増反射膜と金属反射膜を備えていない比較例1より蛍光出力は高い。
【0072】
全反射膜と増反射膜で殆どの光(90%以上)を反射するので、金属反射膜は無くてもよく、蛍光出力に大差はない。
【0073】
<実施例2>
実施例1の試料6(蛍光体濃度100%)と同じ蛍光体プレート試料を作成し、その一方の面に実施例1と同様に反射防止層を形成した。また他方の面に白色アルミナ層(厚み:30μm)をプラズマ溶射により形成した。この白色アルミナ層形成後の蛍光体プレート試料を、白色アルミナ層側を実施例1と同様に金属基板に接合し、実施例2の試料とした。
【0074】
実施例2の試料の白色アルミナ層の反射特性を確認するため、ガラス基板上にプラズマ溶射により白色アルミナ層を形成し、反射スペクトルを測定したところ、波長450nmおよび510nmの光に対し、95%以上の反射率があることが確認された。
【0075】
実施例2の試料について、実施例1と同様に蛍光体出力を測定したところ、1.07(比較例1の蛍光体濃度100%の値で規格化した値)であり、高い輝度が得られることが確認された。