特許第6253451号(P6253451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6253451満腹感持続剤および満足感を維持する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6253451
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】満腹感持続剤および満足感を維持する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20171218BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20171218BHJP
   A23L 33/20 20160101ALI20171218BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20171218BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   A61K31/7004ZMD
   A23L33/10
   A23L33/20
   A61P3/04
   A61P3/10
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-37956(P2014-37956)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-164900(P2015-164900A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-19965(P2014-19965)
(32)【優先日】2014年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成25年度科学技術試験研究委託事業「生涯に亘って心身の健康を支える脳の分子基盤、環境要因、その失調の解明」(生体恒常性維持における視床下部ネスファチン回路網と迷走神経を介した末梢環境情報)に関わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】矢田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 有作
(72)【発明者】
【氏名】木村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】大隈 一裕
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−213227(JP,A)
【文献】 特開2007−051137(JP,A)
【文献】 特開2007−051134(JP,A)
【文献】 OCHIAI Masaru et al.,Inhibition by Dietary D-Psicose of Body Fat Accumulation in Adult Rats Fed a High-Sucrose Diet,Biosci Biotechnol Biochem,2013年,Vol.77, No.5,p.1123-1126
【文献】 OCHIAI M et al.,Anti-obesity effects of dietary d-psicose in growing rat fed a high-sucrose diet.,Annals of Nutrition and Metabolism,2013年,Vol. 63, SUPPL. 1,p.1575
【文献】 飯田哲郎, 大隈一裕,希少糖(D‐プシコース,D‐アロース,D‐タガトース)の特性とその利用,オレオサイエンス,2013年,Vol.13, No.9,p.435-440
【文献】 新谷知也 他,カロリー制限模倣物質としての希少糖D‐プシコース及びD‐アロース―抗メタボリックシンドローム効果からア,日本醸造協会誌,2013年,Vol.108, No.8,p.565-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
A23L31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回あたり0.07g〜0.5g/kg体重のD−プシコースが、ヒトに対して食前1時間前から食直前までの間に1回経口摂取または経口投与されるように用いられることを特徴とする、D−プシコースを有効成分とする食後の満腹感持続剤。
【請求項2】
D−プシコースの経口摂取または経口投与が求心性迷走神経を介して脳に伝達されて食後の満腹感を持続させる請求項1に記載の満腹感持続剤。
【請求項3】
食後血糖値上昇の抑制が必要な個体または肥満の個体に対して用いられる請求項1または2に記載の満腹感持続剤。
【請求項4】
ダイエット飲食品の製造に用いられる請求項1または2に記載の満腹感持続剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内にD−プシコースを摂取することにより満腹感を持続させることができる満腹感持続剤または満腹感持方法に関し、満腹感を持続させることによって個体の食事摂取量、すなわちエネルギー摂取量を減少させ、ひいては過食に起因する肥満等の病態の予防及び改善を図ることのできる満腹感持続剤または満腹感持続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満の予防及び改善は、健康維持増進のために非常に重要である。肥満は、過剰に摂取した食物に起因する糖質や脂質が皮下脂肪組織や臓器周辺組織に中性脂肪として過剰に蓄積された結果として生じる病態の一つであるが、そのうち肥大化した内臓脂肪はTNF−α等のアディポサイトカインを合成・分泌して糖質代謝や脂質代謝に悪影響を与えることから、内臓脂肪蓄積型肥満の方がより問題視されている。代謝異常により内臓脂肪、高血糖や高脂血症の状態が長期間持続すると、糖尿病、動脈硬化症、高血圧症、心疾患といった疾病へ進展するリスクが増加するため、極めて危険な状態にある。
【0003】
これら疾病の予防には肥満を予防することが重要であり、過剰なエネルギー摂取を制限することが最善の手段であることは明らかである。しかしながら、エネルギー摂取を制限すなわち食事量を制限する場合、空腹感が常に持続することにより生活の活力が低下し、空腹感を我慢できずに食事制限を中止することによりかえって摂食量が以前より増す等、生活習慣として食事制限を常に取り入れることは大変難しいため、満腹感を長時間持続させる方法が強く求められている。
【0004】
我々が食事の際に満腹感を感じるのは、胃壁の拡張と血糖値の上昇のためである。胃壁の拡張により胃に分布する迷走神経が刺激されること、あるいは食物中の炭水化物が分解されて生じるD-グルコースが血糖値を上昇させることで脳の視床下部にある満腹中枢が刺激されることにより、満腹感は感じられるとの報告がある(非特許文献1〜4)。
【0005】
しかし一方で、糖尿病をはじめとする糖質代謝性疾患の予防及び治療には血糖値が上昇しにくい食品や物質の摂取が有効とされるので、そのような患者は満腹感を得たい場合、血糖値を上昇させる食品等を摂取するのではなく、胃壁を物理的に拡張させる食品等を摂取する手法を選択すると考えられ、そのような食品としては例えば寒天のようなほぼ0キロカロリーでありながら水分を多く保持してゲル化する多糖類等が挙げられる。
【0006】
従来の満腹感持続作用剤としては上記例示したような多糖類を利用するものが非常に多く、例えば、寒天を主成分とする空腹感抑制用組成物(特許文献1)、全穀粒及びハイドロコロイドを含む複合体(特許文献2)、不溶性結晶セルロースを添加あるいはコーティングすることを特徴とする不溶性結晶セルロース添加米(特許文献3)、プルランを糖尿病患者に投与することを含む糖尿病患者に低血糖応答を生じさせるための方法(特許文献4)は、いずれもカロリーがほぼゼロである多糖類を利用することにより満腹感を持続させようとするもので、その他、ポリグルタミン酸を有効成分とする満腹感持続剤(特許文献5)、発酵ホエイを有効成分として含む満腹感誘導組成物(特許文献6)や可食性リンタンパクと特定の金属塩とを含有する食品組成物(特許文献7)といった、タンパクペプチドを利用したものが開示されている。さらに、アミラーゼ阻害物質を利用するもの(特許文献8)も知られている。
【0007】
しかし、水分を多く保持する多糖類を利用する場合はその粘性が問題となって使いづらく、不溶性結晶セルロースは水に不溶であることから固体等の特定の対象物に利用が限定されてしまう。また、タンパクペプチドや上記アミラーゼ阻害物質はタンパク質由来であるために風味が好ましくなく、さらにこれらの物質に対するアレルギー症状を有する患者に対しては使用できないという問題がある。
【0008】
また、抗肥満作用のある食欲抑制剤として、脳内神経伝達物質に直接作用する薬学的組成物(特許文献9)が知られている。しかし、セロトニン作働剤やドーパミンアゴニストとして脳全体に作用するため、食欲抑制だけでなく、血圧異常、胃腸障害、精神神経症状などの副作用が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4074325号公報
【特許文献2】特開2012−214785号公報
【特許文献3】特開2008−73026号公報
【特許文献4】特表2005−529944号公報
【特許文献5】特開2013−129612号公報
【特許文献6】特開2011−239774号公報
【特許文献7】特開2010−94085号公報
【特許文献8】特開平9−194392号公報
【特許文献9】特開平11−228447号公報
【特許文献10】WO2008/142860号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Juhasz A, et al. Orv Hetil. 148:1827−1836(2007)
【非特許文献2】Sobocki J, et al. J Physiol Pharmacol. 56:27−33(2005)
【非特許文献3】Li Y. Curr Med Chem. 14:2554−2563(2007)
【非特許文献4】Mayer J. Ann N Y Acad Sci. 63:15−43(1955)
【非特許文献5】Matsuo T, et al. J Nutr Sci Vitaminol. 48:77−80(2002)
【非特許文献6】Hayashi N, et al. Biosci Biotechnol Biochem.74:510−9(2010)
【非特許文献7】Iida T, et al. J Nutr Sci Vitaminol. 54:511−4(2008)
【非特許文献8】Matsuo T, et al. J Nutr Sci Vitaminol. 30:55-65(2001)
【非特許文献9】Hishiike T, et al. J Agric Food Chem. 61:7381−6(2013)
【非特許文献10】Koichi N, et al. Proceedings of the second symposium of international society of rare sugars. 341−5(2004)
【非特許文献11】Flint A, et al. Int J Obes Relat Metab Disord. 24:38-48(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、D-プシコースはゼロカロリーで(非特許文献5)、食後血糖値上昇抑制効果(特許文献1、非特許文献6及び7)や抗肥満効果(非特許文献8)を有する等の報告があり、特に血糖値に関しては、ヒトにおいて日常的な食事と共に5gのD-プシコースを摂取することで食後血糖値の上昇抑制が認められている(非特許文献6及び7)。また、D-プシコースを単独で摂取しても、血糖値が上昇しないことが知られており(非特許文献7)、D-プシコースの小腸への吸収は、D-グルコース(ぶどう糖)及びD-フルクトース(果糖)と比較して遅いことも明らかとなっている(非特許文献9)。さらに、D-プシコースは脳に直接作用しないことが知られている(非特許文献10)。
しかしながら、D-プシコースの摂取が満腹感を持続させること、及び空腹時におけるD-プシコースの摂取がその後の食欲・食事摂取量を低減させることについては、これまでに報告はない。一方、満腹感の誘導や持続には血糖値上昇や高粘性物質による胃拡張が重要であることが知られているが、D-プシコースは血糖値を上昇させないこと及び粘性をほぼ示さないことから、D-プシコースが満腹感を持続させるだろうとの予測は成り立たなかった。
【0012】
本発明の目的は、脳に直接作用せずに食後血糖値を抑制するにもかかわらず満腹感を持続させ、かつ、食感や風味の点においても違和感なく摂食できる満腹感持続剤または満腹感を持続する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究した結果、特定用量のD-プシコースが食事摂取後の満腹感を持続させる効果を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の第1の発明は、1回あたり0.07g〜0.5g/kg体重のD−プシコースが、ヒトに対して食前1時間前から食直前までの間に1回経口摂取または経口投与されるように用いられることを特徴とする、D−プシコースを有効成分とする食後の満腹感持続剤である。
【0015】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、D−プシコースの経口摂取または経口投与が求心性迷走神経を介して脳に伝達されて食後の満腹感を持続させる剤であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の発明は、第1または第2の発明において、食後血糖値上昇の抑制が必要な個体または肥満の個体に対して用いられる食後の満腹感を持続させる剤であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の発明は、第1または第2の発明において、ダイエット飲食品の製造に用いられる食後の満腹感を持続させる剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、持続的な満腹感を与える満腹感持続剤または満腹感を持続させる方法を提供することができる。本発明の満腹感持続剤または満腹感を持続させる方法は、それを摂取した場合に、満腹感が生じ、かつ当該満腹感が一定時間持続する。
本発明の満腹感持続剤または満腹感を持続させる方法では、単独摂取により血糖値を上げないばかりか、食事前に摂取した場合には食後血糖値の上昇を抑制し、しかも食後血糖値の上昇を抑制するにも関わらず満腹感を一定時間持続させる効果を有するため、食事の摂取制限を意識せずともカロリー制限を効果的に行うことができることとなり、ひいては高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病の予防及び改善が期待できる。また、本発明の満腹感持続剤は脳に直接作用するのではなく、末梢に分布する求心性迷走神経を介して限局した脳領域に情報を伝達して満腹感を持続させるため、大きな副作用もない。
したがって、本発明の満腹感持続剤または満腹感を持続する方法を用いれば、過食を回避することができ、肥満や生活習慣病等の予防又は改善に有用である。また、本発明の満腹感持続剤を用いることにより、ダイエットの遂行が容易となる。すなわち、本発明の満腹感持続剤を摂取することにより満腹感を持続させることができるダイエット飲食品を提供することができる。
また、本発明は、人の満腹感の持続、空腹感の低減、食欲の低減効果を奏することが実証されているところから、人の過食による肥満防止、生活習慣病、成人病の罹病率低下など健康増進に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】D-プシコースをマウスに経口胃内投与したときの累積摂食量(相対値、%)の推移を示す。
図2】D-プシコースをマウスに腹腔内投与したときの累積摂食量(相対値、%)の推移を示す。
図3】D-グルコースをマウスに経口胃内投与したときの累積摂食量(kcal)の推移を示す。
図4】マウスを用いたD-プシコース経口投与に対する条件付け味嫌悪試験結果を示す。
図5】D-プシコース経口胃内投与後のマウス迷走神経下神経節と延髄孤束核のc-Fos発現量(神経活性化マーカー)を示す。
図6】偽手術マウスあるいは横隔膜下迷走神経切断マウスへD-プシコース経口胃内投与後の累積液体食摂食量 (g)の推移を示す。
図7】D-プシコースをヒトに摂取させたときの食後の満腹感の推移を示す。
図8】D-プシコースをヒトに摂取させたときの食後の空腹感の推移を示す。
図9】D-プシコースをヒトに摂取させたときの食後の食欲の推移を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、D-プシコースを有効成分とする満腹感持続剤および満腹感を持続する方法に関し、過剰な食物の摂取を防止して健康体を維持することに貢献するものである。
D−プシコースの満腹感持続効果はD−プシコース摂取後の不快感・嫌悪感に起因するものではない。また、D−プシコースが脳の摂食中枢に直接作用するのではなく、末梢臓器に広く分布する内臓感覚神経の求心性迷走神経を介して脳に作用することで満腹感が誘導・持続される。D−プシコースを摂取した人に対して、満腹感の持続、空腹感の低減、食欲の低減効果を奏することから過食による人の健康の防止に有用である。
【0021】
「満腹感」とは、一定量の食事によって得られる満腹感が持続する状態、空腹感が抑制される状態、あるいは食欲が抑制される状態をいう。この状態を判断する方法として、Visual Analog Scales(VAS)法(非特許文献11)を改良したアンケートが使用される。特に、食事願望の度合の項目で判断される。また、本発明において、「満腹感の持続」とは、少なくとも2時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは4時間以上、上記の満腹感が持続することを示す。
【0022】
本発明において使用するD-プシコースは、自然界にその存在
量が少ない単糖(希少糖)の一つで食経験があり、六炭糖(C12)である。D-プシコースの甘味度は砂糖の約70%であり、D-フルクトースと類似した上品で爽やかな甘味を有しているが、カロリーはほぼゼロである。
D-プシコースの製造に関しては、D-フルクトースを酵素エピメラーゼ処理して得る製法(特許文献10)等が知られているが、ズイナ等の天然物からの抽出物若しくは天然物中に含まれるものを抽出、精製して使用しても良い。
【0023】
本発明のD-プシコースを有効成分とする満腹感持続剤は、一般的な甘味料や飲食品に用いることができ、さらに医薬品、医薬部外品若しくは飼料等の製剤すべての一原料として利用することができる。また、当該飲食品には、満腹感の持続又は空腹感の抑制をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品等の機能性飲食品が包含される。
【0024】
上記飲食品としては、特に限定されるものではなくあらゆるものが該当するが、例えば、プリン、ゼリー、キャンディー、チョコレート、パン、ケーキ、クッキー、饅頭等の菓子類、生クリーム等の卵製品、機能性飲料、乳酸飲料、果汁飲料、炭酸飲料等の飲料、紅茶、インスタントコーヒー等の嗜好品、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、フラワーペースト、果実のシロップ漬け等のペースト類、ハム、ソーセージ、ベーコン等の畜肉製品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ等の水産加工製品、醤油、ソース、ドレッシング等の調味料等に使用することができる。
【0025】
また、流動食、成分栄養食、ドリンク栄養食品、経腸栄養食品等の機能性食品又は栄養補助食品としても使用することができ、その形態は特に限定されるものではないが、例えば、スポーツドリンクの場合は栄養バランス及び風味を良くするために、さらにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類等の栄養的添加物や組成物、香料、色素等を配合することも可能である。
【0026】
上記医薬品、医薬部外品の摂取形態としては、D-プシコースを単独で用いるほか、その他の素材と合わせて錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等として用いることができ、経口投与に限らず注射剤、貼付剤、スプレー剤等による非経口投与も挙げられる。また、このような医薬製剤は、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤等の適当な添加剤を組み合わせて調製することができる。上記医薬品の投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、好ましくは食後血糖値上昇の抑制が必要な個体または肥満の個体に対して投与される。
【0027】
上記飼料としては家畜、家禽、ペット類用の飼料が挙げられ、例えばウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等のペットフード、牛、豚等の家畜用飼料等が挙げられる。特に、家庭で飼育される犬、猫などが過食と運動不足により肥満体となることを予防するためには、本発明の満腹感維持剤を餌とともに与えると効果的である。
【0028】
本発明のD-プシコースを有効成分とする満腹感持続剤または満腹感持続方法におけるD−プシコースの摂取量は、その効果が得られる限り特に限定されるものではないが、食事1回につき、体重1kg当たりD-プシコースとして0.07g〜3.0gを摂取することが好ましいが、より好ましくは、0.1〜2.0g、さらに好ましくは、0.3〜1.5gの範囲である。摂取量に関しては、対象者の健康状態、体重、性別、年齢又はその他の条件にもよるが、例えば、緩下作用を考慮すれば成人(60kg)1人当たり一度に摂取可能なD-プシコース量は30gであることが好ましい。また、摂取するタイミングは、食前が好ましく、食前1時間以内に摂取することがさらに好ましく、食前15〜30分以内に摂取することがより好ましい。
【0029】
本発明の満腹感維持剤を摂取すると、摂取後約15分後には効果を発揮することからその後は満腹感を持続することにより食欲が低下して食事の量が減少する。摂取後の満腹感の持続時間は、条件によりばらつきはあるが、摂取後6時間から12時間は持続され、24時間後には摂取前の状態に復帰することが確かめられている。満腹感を確実に持続するには毎食事の前に本発明の満腹感維持剤を摂取することが好ましい。しかしながら、本発明の満腹感維持剤は約12時間の間、満腹感を持続する作用効果があることから、朝食前に一度摂取することにより、朝食、昼食、夕食を食する際にも満腹感を得て食事の量を制限することもできる。
【0030】
本発明の満腹感持続剤の摂取対象者としては特に限定されず、健常者、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病の予防又は改善を目的とする者であっても差し支えなく、食品類の摂取制限を目的とする者であればいずれであってもよい。
本発明の満腹感維持剤の有効成分であるD−プシコースは従来からの研究により、抗酸化作用、細胞保護作用、食後血糖値上昇抑制作用、抗動脈硬化作用、膵β細胞の変性抑制作用、脂肪蓄積抑制作用を発揮すること、および人体に対する副作用もなく安全な物質であることが知られていることから、これらの作用を利用して高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病にも同時に対処することが可能であるし、摂取する人を制限することもない。また、D−プシコースは甘味剤として利用される物質であるから、経口摂取に際して困難性はなく、さらに、食品類に添加しても違和感なく食することが可能である。
本発明の満腹感持続剤の適用は、ヒトに限定されず哺乳動物であればいずれであっても効果が奏される。
【0031】
本発明の満腹感持続剤は、ダイエット飲食品類を製造するためにも使用され、食事1回に対して、体重1kg当たりD-プシコースとして0.07g〜3gが摂取されるようにダイエット食品中に添加される。
【0032】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
空腹状態のマウスにおけるD-プシコースの摂食量低減作用を以下の試験により確認した。
【0034】
<試験方法>
実験動物としては、C57BL/6J雄性マウスを用いた。マウスは個別ケージ内で1週間以上予備飼育させ環境に順化させた。実験前日の18時00分から16時間絶食させた後、各試験液を経口胃内投与あるいは腹腔内投与した。各投与において、control群として生理食塩水(10mL/kg)、試験群としてD-プシコース(0.3g/kg、1g/kg、3g/kg)を投与した。この時の各試験液の濃度はそれぞれ0.3%、10%、30%であった。9時45分から各溶液を投与し、10時00分からCE−2飼料(栄養バランスの摂れた一般的なマウス用飼料、日本クレア製)をマウスに自由摂食させ、0.5時間、1時間、2時間、3時間、6時間、24時間後の摂食量を経時的に測定した。
なお、D-プシコースの比較例として、D-プシコースと同程度の甘味度を有し、類似構造であるが代謝されてエネルギー産生に寄与するD-グルコース(1g/kg及び3g/kg)の経口胃内投与実験についても同様の手法により行った。
【0035】
<試験結果>
投与後の経過時間を横軸にとり、その経過時間毎の累積摂食量(相対値、%)を縦軸にプロットして得られる結果を図1(経口胃内投与)及び図2(腹腔ない投与)に示す。尚、累積摂食量(相対値、%)に関しては、実施した実験毎の各時間の生理食塩水群の平均摂食量を100%として、各群での累積摂食量の比率を表す。得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定は一元配置分散分析により解析し、有意な場合はcontrol群に対してDunnett‘s検定を行った。検定の有意水準は両側5%未満とし、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満で表記した。
その結果、一晩絶食させた空腹状態のマウスにD-プシコースを経口胃内投与した場合、0.3g/kg投与群は投与後いずれの時間帯においても摂食量に変化はなかったが、D-プシコース1g/kg投与群及び3g/kg投与群においては投与0.5〜6時間後までの摂食量が有意に低下した(図1)。他方、腹腔内投与した場合には、D-プシコース1g/kg投与群では摂食量に影響を与えず、D-プシコース3g/kg投与群では投与0.5〜6時間後までの摂食量が有意に低下した(図2)。
【0036】
比較例のD-グルコース(1g/kg及び3g/kg)の経口胃内投与後の累積摂食量(エネルギー、kcal)を図3に示す。0hは経口胃内投与したD-グルコースのエネルギーを示し、0.5h移行の累積摂食量は投与したD-グルコースエネルギー量も含む摂取エネルギー(kcal)で示す。結果表記及び統計解析は図1,2と同様である。D-グルコース(1g/kg及び3g/kg)の経口胃内投与は、いずれの投与量においても摂食量に影響を与えなかった(図3)。
以上より、D-プシコース1g/kg及び3g/kgの経口胃内投与、及びD-プシコース3g/kgの腹腔内投与は摂食量を低減させる効果があることを見出した。
【実施例2】
【0037】
上記の摂食量低減効果がD-プシコース摂取に伴う不快感・嫌悪感に起因するものであることを否定するため、D-プシコース経口投与に対する条件付け味嫌悪試験を行った。
【0038】
<試験方法>
実験動物としては、先の実験と同じC57BL/6J雄性マウスを用いた。個別ケージで飼育しているマウスに10時00分から12時00分の2時間のみ二瓶の水を5日間与え、制限水スケジュールに順化させた。6日目、0.15%サッカリン溶液を30分間提示し、その後リチウムクロライド(3mmol/kg)を腹腔内投与することでサッカリン溶液の味に対する嫌悪学習を形成させた(条件付け)。同様に、生理食塩水(10mL/kg)を経口投与したcontrol群と、プシコース(1g/kgまたは3g/kg)を経口投与した試験群を作成した。7日目は休息日として前述の制限水スケジュールを実施した。8日目は試験日として、0.15%サッカリン溶液と水の二瓶を同時に30分間提示し、サッカリン溶液の嗜好比(サッカリン摂取量/二瓶全体の摂取量)を測定した。
【0039】
<試験結果>
マウス条件付け味嫌悪学習を形成後のサッカリン溶液嗜好比を図4に示す。得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定は一元配置分散分析により解析後、control群に対してDunnett‘s検定を行い、**は危険率1%未満で表記した。
生理食塩水投与群は強いサッカリン溶液嗜好性を示し、一方、内臓不快感を誘導するリチウムクロライド投与群はサッカリン溶液に対する嗜好性が著しく減弱した。摂食量低減効果を誘導するD-プシコースの経口胃内投与は、1g/kg及び3g/kg投与共にサッカリン溶液嗜好性に影響を与えなかった。
【0040】
<考察>
D-プシコース(1g/kg及び3g/kg)のマウスへの経口胃内投与は、投与後6時間までの強い摂食量低減効果を示した。この時、経口胃内投与したD-プシコースは味嫌悪行動に影響を与えず、D-プシコースは嫌悪感無しで摂食量を低下させることが判明した。従って、D-プシコースの経口摂取により満腹感が誘導され、摂食量が低減されたことが示唆された。
この摂食量低減作用は、D-プシコースの類縁体であるD-グルコースではみられず、D-プシコース特有の効果であった。さらに、この摂食量低減効果はD-プシコースを腹腔内へ投与するより経口胃内投与することで強力に発揮された。従って、D-プシコースによる摂食量低減作用を十分に発揮させるためには、D-プシコースを食品として経口摂取することが有効な手段であると考えられた。また、D-プシコースのマウスに対する摂食量低減有効量は、低用量の1g/kgで十分作用していると考えられた。
D-プシコースは経口胃内投与で強力に摂食が抑制されることから、D-プシコースがまず消化管に作用し、最終的に摂食量を低下させている可能性が考えられた。食後の満腹感形成には食後分泌される消化管ホルモンが重要な役割を果たすことが知られている。そして、消化管ホルモンの多くは、消化管周囲に分布する内臓感覚神経である「求心性迷走神経」に直接作用し、その神経情報が脳へ伝達されることで満腹感誘導・摂食量低減が発揮される。従って、D-プシコースの摂食量低減作用には求心性迷走神経を介している可能性が考えられた。
【実施例3】
【0041】
-プシコース誘発摂食量低減作用における求心性迷走神経の関与を検証する試験を行った。
<試験方法>
D-プシコースの経口投与によって「求心性迷走神経」とその投射先である「延髄孤束核」の活性化を、神経活性化マーカーであるc-Fosの発現量を免疫染色法にて解析した。c-Fosとは、immediate early geneの1種で、神経の活性化に伴い発現量が上昇する核内タンパク質であり、神経活性化マーカーとして利用できる。また、求心性迷走神経の細胞体は全て迷走神経下神経節に局在し、末梢側(心臓・肺・消化管・膵臓・肝臓など多くの内臓)と中枢側(延髄孤束核)に投射する双極性神経である。
実験動物としては、C57BL/6J雄性マウスを用い、個別ケージ内で1週間以上予備飼育及びハンドリングをして環境に順化させた。一晩絶食させたマウスにD-プシコース(1g/kg)を経口胃内投与後し、その30分ごと90分後に4%パラホルムアルデヒド溶液にて灌流固定し迷走神経下神経節と脳をそれぞれ摘出した。それぞれの臓器は4%パラホルムアルデヒド溶液にて後固定し、凍結切片標本を作製した。この凍結切片標本を用いてc-Fos免疫染色を行った。
【0042】
<試験結果>
D-プシコース経口投与後のマウス迷走神経下神経節と延髄孤束核のc-Fos発現量の結果を図5に示す。得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定は対応のないStudent’st検定を用い、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満で表記した。
本試験の結果、D-プシコース(1g/kg)経口胃内投与は生理食塩水群と比較して、迷走神経下神経節のc-Fos発現量が有意に増加させた。D-プシコース(1g/kg)経口胃内投与は、延髄孤束核でのc-Fos発現量も有意に増加させた。従って、末梢で情報を受容した求心性迷走神経は脳の延髄孤束核に直接神経情報を伝達する。
【0043】
以上より、D-プシコースの経口摂取は、求心性迷走神経及びその投射先である延髄孤束核を活性化することが明らかとなった。
そこで、D−プシコースの経口摂取による摂食量低減効果が、求心性迷走神経を介してその神経情報が脳に伝達されることに起因するものであるとの確証を得るため、消化管等を支配する横隔膜下迷走神経を切断したマウスにおけるD-プシコースによる摂食量低減効果を検討した。
【0044】
<比較試験>
横隔膜下の迷走神経を切断したマウスに対して経口胃内投与した時にも、D-プシコースに摂食量低減効果があるかどうかを検討した。実験動物はC57BL/6J雄性マウスを用いた。偽手術マウス(偽手術群)と横隔膜下迷走神経を切断したマウス(迷走神経切断群)の2群に分け、それぞれの手術を行った。回復期として1週間とり、摂食実験前日の一晩(16時間)絶食させた後、各試験液を経口胃内投与し、その後の液体食(乳幼児用ミルク)の摂取量を調べた。投与した各試験液として、偽手術群、迷走神経切断群共に生理食塩水(10mL/kg)またはD-プシコース(1g/kg)を経口胃内投与した。この時のD-プシコース溶液濃度は10%であった。9時45分に各試験液をマウスに経口胃内投与し、10時00分から液体食を自由摂取させ、経時的に摂食量を測定した。
【0045】
<比較試験結果>
横隔膜下迷走神経切断マウスとその偽手術マウスにD-プシコース(1g/kg)を経口胃内投与した後の累積液体食摂取量の図6に示す。経過時間を横軸にとり、その経過時間毎までの累積液体食摂取量(g)を縦軸にプロットした。得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定は対応のないStudent’st検定を用い、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満で表記した。
その結果、偽手術群において、D-プシコース(1g/kg)の経口胃内投与は投与後3時間まで有意に摂食量が抑制されたが、その効果は迷走神経切断群では全て消失した。
【0046】
以上の結果より、D−プシコース経口摂取は求心性迷走神経を介してその神経情報が脳に伝達され、摂食量を低下させることが明らかとなった。
【実施例4】
【0047】
ヒトにおけるD-プシコースの満腹感持続作用を確認する試験を行った。
【0048】
<試験方法>
喫煙習慣のない健常人7名(平均年齢35.0才、男性4名、女性3名、平均BMI21.7kg/m)に対し、2群のシングルブラインド・クロスオーバー法により実施した。
非特許文献6において、糖尿病境界型を中心とした成人男女を対象に、D-プシコース5gあるいは高甘味度甘味料であるアスパルテームを10mg添加して甘味度を同一にした飲料のいずれかを朝食と共にクロスオーバーで摂取させて食後血糖値を比較したところ、D-プシコース摂取群で有意な血糖値の低下が認められたという報告がある。
そこで、本試験では、試験当日の12時間前より被験者を絶食させた後、D-プシコース5gあるいは、対照食として高甘味度甘味料アスパルテーム10mgの添加によって甘味度を同一にした試験液150mLのいずれかを摂取させた。なお、各試験液の濃度はD-プシコース群では3.3%、アスパルテーム群では0.005%であった。また、被験者のD-プシコースの摂取量は、体重1kg当たり0.071〜0.096g(平均0.085g)であった。摂取後、朝食(サンドイッチ、ヨーグルト、ジュース)(総カロリー:405kcal、たんぱく質10.2%・脂質28.4%・炭水化物61.4%)を10分間で摂取させた。試験中は、所定の水のみ自由摂取とし、それ以外は絶飲食とした。この朝食を摂取後4時間まで下記の食欲に関するアンケートを実施し、この結果から食後の経時的な食欲変化を比較した。
【0049】
<食欲に関するアンケート>
食欲に関するアンケートは、VAS(Visual Analog Scale)法により評価し、非特許文献11を基にして作成した。アンケート項目は満腹感、空腹感、食欲の3項目を設定した。各項目において、被験者には長さ100mmの直線上に、現在の状態に最も近い位置に印を付けてもらい、左端から印の付いた位置までの長さを定規で計測して数値化した。得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定は対応のあるStudent’st検定を用い、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満、***は危険率0.1%未満で表記した。
【0050】
<試験結果>
朝食摂取後からの経過時間(分)を横軸にとり、その経過時間毎の各項目に関する数値を縦軸にプロットして得られる結果を図7〜9に示す。対照食と比較してD-プシコース摂食群では、食後の満腹感の持続、空腹感及び食欲の抑制効果が摂取後4時間以上持続することが認められた。特に、空腹感においては、朝食摂取直後から4時間後まで有意に抑制している。
【0051】
<まとめ>
ヒトにおいて、食前にD-プシコース摂取することにより、食後の満腹感持続効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、食後血糖値の上昇を抑制するにも関わらず満腹感を持続させることができるという、新規な満腹持続剤および満腹感を持続させる方法を提供することができる。また、単独で摂取した場合にも血糖値を上昇させないため、血糖値の気になる人や健康志向の人にとっても有用である。また、本発明のD-プシコース含有満腹感維持剤は副作用がなく、各種飲食品に含有させて又は医薬の有効成分として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9