特許第6253485号(P6253485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6253485
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1764 20060101AFI20171218BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20171218BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20171218BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   B60T8/1764
   B60T8/171 Z
   B60T8/172 D
   B60T8/1761
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-74532(P2014-74532)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196427(P2015-196427A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】オートリブ日信ブレーキシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 友規
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−227283(JP,A)
【文献】 特開2013−193479(JP,A)
【文献】 特開平11−263202(JP,A)
【文献】 特開平09−249145(JP,A)
【文献】 特開平11−198677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/1764
B60T 8/171
B60T 8/172
B60T 8/1761
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車線を区切るための境界部から車両の前部までの距離を取得する距離取得手段と、
車輪の接地路面の摩擦係数が左右で所定以上異なるスプリット路において、高摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力と低摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力との差を設定する制動力差設定手段と、を備え、
前記制動力の差は、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
実ヨーレートを取得する実ヨーレート取得手段を備え、
前記制動力差設定手段は、前記実ヨーレートが目標ヨーレートに追従するように前記制動力の差を設定し、
前記目標ヨーレートは、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
車両の進行方向と車両の向きとがなす角度であるスリップ角を取得するスリップ角取得手段を備え、
前記制動力差設定手段は、前記スリップ角が目標スリップ角に追従するように前記制動力の差を設定し、
前記目標スリップ角は、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ制御装置に関し、より詳しくは、接地路面の摩擦係数が左右で大きく異なるスプリット路に対応したブレーキ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スプリット路に対応したブレーキ制御を実行可能な車両用ブレーキ制御装置として、ヨーレートセンサで検出される実ヨーレートが、舵角および車両速度に基づいて設定される目標ヨーレートに近づくように、左右の車輪ブレーキにかかるブレーキ液圧の差を設定するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−193479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術は、ヨーレートに基づいた制御であるため、車両からセンターラインなどの車線の境界部までの距離にばらつきが生じることがあり、仮に車両がセンターラインに近づきすぎると、運転者に不安感を与えてしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、スプリット路において車両が車線の境界部に近づくのを抑えることで、運転者に不安感を与えるのを抑えることができる車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用ブレーキ制御装置は、車線を区切るための境界部から車両の前部までの距離を取得する距離取得手段と、
車輪の接地路面の摩擦係数が左右で所定以上異なるスプリット路において、高摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力と低摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力との差を設定する制動力差設定手段と、を備え、前記制動力の差は、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されることを特徴とする。
【0007】
ここで、「境界部」は、センターライン、中央分離帯、路肩と車線を区切るライン、車線に沿って立設された壁などを含む。
【0008】
例えば車線の右側に境界部が設けられ、車線の右半分が高摩擦路面となり、左半分が低摩擦路面となるスプリット路において車両を制動させる場合には、車両の左側の車輪が滑ることで、車両が右側の高摩擦路面側に向くように旋回する。この際、車両の前部が右側の境界部に近い、つまり車両の前部と右側の境界部との距離が所定値以下であると、制動力の差が小さく設定されることで、右側(高摩擦係数側)の車輪ブレーキの制動力が小さくなる。これにより、車両の旋回が抑制されるので、車両の前部が右側の境界部にそれ以上近づくのを抑えることができ、運転者に不安感を与えるのを抑えることができる。
【0009】
また、前述したようなスプリット路での制動時において、車両の前部が右側の境界部から遠い、つまり車両の前部と右側の境界部との距離が所定値よりも大きい場合には、制動力の差が大きく設定されるので、右側(高摩擦係数側)の車輪ブレーキの制動力が大きくなる。これにより、車両が右側に向けて旋回し、この旋回により運転者に逆方向への転舵を促すことが可能となるので、車両の姿勢を運転者のステアリング操作で制御しつつ、十分な制動力を確保することができる。なお、この場合において車両が右側に向けて旋回しても、車両の前部が右側の境界部から遠いため、運転者に不安感を与えることはない。
【0010】
また、前記した構成において、実ヨーレートを取得する実ヨーレート取得手段を備える場合には、前記制動力差設定手段は、前記実ヨーレートが目標ヨーレートに追従するように前記制動力の差を設定し、前記目標ヨーレートは、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されるように構成することができる。
【0011】
これによれば、車両の前部と境界部との距離が所定値以下である場合には、目標ヨーレートが小さくなる。この際、制動力差設定手段は、実ヨーレートを目標ヨーレートに追従させるべく、制動力の差を小さく設定するので、車両が境界部に近づくのを抑えることができる。また、このように実ヨーレートを用いて制動力の差を設定することで、制動力の差を良好に設定することができる。
【0012】
また、前記した構成において、車両の進行方向と車両の向きとがなす角度であるスリップ角を取得するスリップ角取得手段を備える場合には、前記制動力差設定手段は、前記スリップ角が目標スリップ角に追従するように前記制動力の差を設定し、前記目標スリップ角は、前記距離が所定値以下の場合には、前記距離が前記所定値よりも大きい場合よりも小さな値に設定されるように構成することができる。
【0013】
これによれば、車両の前部と境界部との距離が所定値以下である場合には、目標スリップ角が小さくなる。この際、制動力差設定手段は、スリップ角を目標スリップ角に追従させるべく、制動力の差を小さく設定するので、車両が境界部に近づくのを抑えることができる。また、このようにスリップ角を用いて制動力の差を設定することで、車両の向きを考慮した制御が可能となるので、車両の進行方向に対する車両の向きのばらつきを抑えることができ、操作フィーリングを向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スプリット路において車両が車線の境界部に近づくのを抑えることで、運転者に不安感を与えるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置を備えた車両の構成図である。
図2】液圧ユニットの構成を示す構成図である。
図3】制御部の構成を示すブロック図である。
図4】車両の前部からセンターラインまでの距離を算出するための方法を示す図である。
図5】目標ヨーレートを設定するための、車両速度と、車両速度に基づく目標ヨーレートとの関係を示すマップである。
図6】目標ヨーレートを設定するための、操舵角と、操舵角に基づく目標ヨーレートとの関係を示すマップである。
図7】目標ヨーレートを設定するための、車両の前部からセンターラインまでの距離と、当該距離に基づく目標ヨーレートとの関係を示すマップである。
図8】差圧設定手段の構成を示すブロック図である。
図9】フィードフォワード差圧を設定するための、操舵角と、操舵角に基づく差圧との関係を示すマップである。
図10】フィードフォワード差圧を設定するための、車両速度と目標ヨーレートの比と、車両速度と目標ヨーレートの比に基づく差圧との関係を示すマップである。
図11】差圧を設定するための、車両速度と差圧との関係を示すマップである。
図12】制御部によるアンチロックブレーキ制御時の処理を示すフローチャートである。
図13】操舵角、ヨーレートおよび差圧の変化を示すタイミングチャートである。
図14】第2の実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
図15】目標スリップ角を設定するための、車両速度と、車両速度に基づく目標スリップ角との関係を示すマップである。
図16】目標スリップ角を設定するための、操舵角と、操舵角に基づく目標スリップ角との関係を示すマップである。
図17】目標スリップ角を設定するための、車両の前部からセンターラインまでの距離と、当該距離に基づく目標スリップ角との関係を示すマップである。
図18】第2の実施形態に係る差圧設定手段の構成を示すブロック図である。
図19】第2の実施形態に係る制御部によるアンチロックブレーキ制御時の処理を示すフローチャートである。
図20】操舵角、スリップ角および差圧の変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、第1の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置Aは、車両CRの各車輪Wに付与する制動力を適宜制御する装置である。車両用ブレーキ制御装置Aは、油路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
【0017】
各車輪Wには、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられ、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源としてのマスタシリンダMCから供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダHが備えられている。マスタシリンダMCとホイールシリンダHとは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、通常時には、ブレーキペダルBPの踏力(運転者の制動操作)に応じてマスタシリンダMCで発生したブレーキ液圧が、制御部100および液圧ユニット10で制御された上でホイールシリンダHに供給される。
【0018】
車両CRの前側には、左右一対のCCD(Charge Coupled Device)カメラ95が設けられている。左右のCCDカメラ95は、車両CRの前方にある対象物を異なる視点からステレオ撮像し、画像データを画像認識装置96に出力する。
【0019】
画像認識装置96は、左右のCCDカメラ95からの画像を処理する装置である。画像処理の方法としては、例えば、左右のCCDカメラ95で撮像した車両CRの前方の環境の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求める処理を行って、三次元の距離分布を表す距離画像を生成する。
【0020】
このデータを基に、周知のグルーピング処理や、予め記憶しておいた三次元的な道路形状データ、側壁データ、立体物データ等と比較し、車線を区切るための境界部の一例としてのセンターラインのデータなどを抽出する。そして、画像認識装置96は、センターラインなどについて、予め定めた車両CRのカメラ位置を中心とする2次元座標上に、センターラインなどが存在する位置をメモリするとともに、センターラインから車両CRの中心までの距離Lcを算出して、その距離Lcを制御部100に出力する。
【0021】
制御部100には、画像認識装置96と、マスタシリンダMCの圧力を検出する圧力センサ91と、各車輪Wの車輪速度を検出する車輪速センサ92と、ステアリングSTの操舵角θを検出する操舵角センサ93と、車両CRの実際のヨーレートである実ヨーレートYを検出するヨーレートセンサ94が接続されている。そして、この制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、画像認識装置96からの入力と、各センサ91〜94からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって、制御を実行する。なお、制御部100の詳細は、後述することとする。
【0022】
図2に示すように、液圧ユニット10は、マスタシリンダMCと車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとの間に配置されている。マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2は、液圧ユニット10の入口ポート10aに接続され、出口ポート10bが、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時は液圧ユニット10内の入口ポート10aから出口ポート10bまでが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0023】
液圧ユニット10には、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに対応して四つの入口弁1、四つの出口弁2、および四つのチェック弁1aが設けられている。また、液圧ユニット10には、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2に対応した各液圧路11,12のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5aが設けられている。また、液圧ユニット10には、各ポンプ4を駆動するための共通のモータ6が設けられている。
【0024】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間に設けられた常開型の比例電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達する液圧を遮断する。
【0025】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとリザーバ3との間に設けられた常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により開放されることで、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに加わる液圧をリザーバ3に逃がす。
【0026】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0027】
リザーバ3は、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液を一時的に貯溜する機能を有している。
ポンプ4は、リザーバ3とマスタシリンダMCとの間に設けられており、リザーバ3で貯溜されているブレーキ液を吸入し、そのブレーキ液をオリフィス5aを介してマスタシリンダMCに戻す機能を有している。
【0028】
入口弁1および出口弁2は、制御部100により開閉状態が制御されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダHのブレーキ液圧を制御する。例えば、入口弁1が開、出口弁2が閉となる通常状態では、ブレーキペダルBPを踏んでいれば、マスタシリンダMCからの液圧がそのままホイールシリンダHへ伝達して増圧状態となり、入口弁1が閉、出口弁2が開となれば、ホイールシリンダHからリザーバ3側へブレーキ液が流出して減圧状態となり、入口弁1と出口弁2が共に閉となれば、ブレーキ液圧が保持される保持状態となる。
【0029】
次に、制御部100の詳細について説明する。
制御部100は、液圧ユニット10を制御して各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに設定した制動力を与えることにより車両を安定化させる制御を実行する装置である。このため、制御部100は、図3に示すように、車両速度取得手段111と、操舵角取得手段112と、実ヨーレート取得手段113と、距離取得手段114と、目標ヨーレート設定手段121と、アンチロックブレーキ制御手段130と、スプリット路判定手段140と、制動力差設定手段の一例としての差圧設定手段150と、制御実行手段160と、記憶手段190とを主に備えて構成されている。
【0030】
車両速度取得手段111は、車輪速センサ92から、車輪速度WSの情報(車輪速センサ92のパルス信号)を取得し、公知の手法により車両速度Vを算出して取得する手段である。算出した車両速度Vは、目標ヨーレート設定手段121、アンチロックブレーキ制御手段130および差圧設定手段150に出力される。
【0031】
操舵角取得手段112は、操舵角センサ93から、操舵角θの情報を取得する手段である。取得した操舵角θは、目標ヨーレート設定手段121および差圧設定手段150に出力される。なお、本明細書において、操舵角θは、スプリット路において車両CRが低摩擦係数側の路面(低μ路)に回頭する方向にステアリングSTが操作されたときの値を正とする。
【0032】
実ヨーレート取得手段113は、ヨーレートセンサ94から、車両CRの実際のヨーレートである実ヨーレートYの情報を取得する手段である。取得した実ヨーレートYは、距離取得手段114および差圧設定手段150に出力される。なお、本明細書において、実ヨーレートYおよび後述する目標ヨーレートYTは、スプリット路において車両CRが高摩擦係数側の路面(高μ路)に回頭する方向の値を正とする。
【0033】
距離取得手段114は、画像認識装置96から出力されてくる距離Lcと、実ヨーレート取得手段113から出力されてくる実ヨーレートYとに基づいて、車両CRの前部からセンターラインまでの距離(最短距離)Lを算出して取得する手段である。具体的には、例えば、距離取得手段114は、まず、実ヨーレートYに基づいて、図4に示すように、車両CRの進行方向W1と車両CRの向きW2とがなす角度であるスリップ角Dを算出する。スリップ角Dは、実ヨーレートYの値を積分することにより算出される。なお、本明細書において、スリップ角Dは、スプリット路において車両CRが高摩擦係数側に回頭する方向の値を正とする。
【0034】
そして、距離取得手段114は、スリップ角Dと、車両CRの中心からセンターラインCLまでの距離Lcと、車両CRの中心から車両CRの前端までの距離Cと、車両CRの中心から車両の左右方向の一端までの距離Bとを、以下の式(1)に代入することで、車両CRの前部からセンターラインCLまでの距離Lを算出する。
L = Lc − (C・sinD + B・cosD) ・・・(1)
【0035】
そして、距離取得手段114は、距離Lを算出すると、算出した距離Lを目標ヨーレート設定手段121に出力する。
【0036】
目標ヨーレート設定手段121は、車両速度Vと、操舵角θと、距離Lとに基づいて、目標ヨーレートYTを設定する手段である。具体的には、車両速度Vに基づく目標ヨーレートYTと、操舵角θに基づく目標ヨーレートYTθと、距離Lに基づく目標ヨーレートYTを算出し、目標ヨーレートYT,YTθ,YTのうち、最小値を目標ヨーレートYTとして算出する。図5は、車両速度Vに基づく目標ヨーレートYTを設定するためのマップであり、車両速度Vが大きくなるほど、目標ヨーレートYTが小さくなるように決められている。また、図6は、操舵角θに基づく目標ヨーレートYTθを設定するためのマップであり、操舵角θが大きくなるほど、目標ヨーレートYTθが小さくなるように決められている。詳しくは、操舵角θが0以下の範囲では目標ヨーレートYTθが一定値に決められ、操舵角θが0から所定値θ1までの間は前記した一定値から一定の減少率で操舵角θが大きくなるほど目標ヨーレートYTθが小さくなり、操舵角θが所定値θ1から所定値θ2までの間は0から所定値θ1までの間の場合よりも大きな減少率で操舵角θが大きくなるほど目標ヨーレートYTθが小さくなり、操舵角θが所定値θ2よりも大きい範囲では目標ヨーレートYTθが0になるように決められている。
【0037】
図7は、距離Lに基づく目標ヨーレートYTを設定するためのマップであり、距離Lが小さくなるほど、目標ヨーレートYTが小さくなるように決められている。詳しくは、距離Lが0のときには目標ヨーレートYTが負の値となるように設定し、距離Lが0から大きくなるほど目標ヨーレートYTが正の値に向けて徐々に大きくなっていくように決められている。
【0038】
なお、図5のマップにおける車両速度Vが0のときの目標ヨーレートYTは、図6のマップにおける操舵角θが0のときの目標ヨーレートYTθよりも小さい値に設定されている。また、図7のマップにおける距離Lが所定値L1よりも十分大きな値であるときの正の目標ヨーレートYTは、図5および図6の各マップにおける目標ヨーレートYT,YTθの最大値よりも大きな値に設定されている。さらに、図7のマップにおける距離Lが所定値L1のときには、目標ヨーレートYTは0であり、距離Lが所定値L1よりも小さいときには、目標ヨーレートYTは負の値に設定され、距離Lが所定値L1よりも大きいときには、目標ヨーレートYTは正の値に設定されている。設定した目標ヨーレートYTは、差圧設定手段150に出力される。
【0039】
アンチロックブレーキ制御手段130は、車輪速度WSと車両速度Vに基づいて、公知の手法により、アンチロックブレーキ制御を実行するか否かを車輪Wごとに判定するとともに、アンチロックブレーキ制御時の液圧制御の指示(ホイールシリンダH内の液圧を増圧状態、保持状態および減圧状態のいずれかにするかの指示)を車輪Wごとに決定する手段である。アンチロックブレーキ制御を実行する旨の情報は、スプリット路判定手段140に出力され、決定した液圧制御の指示は、制御実行手段160に出力される。
【0040】
スプリット路判定手段140は、アンチロックブレーキ制御を実行するときに、車輪Wの接地路面の摩擦係数が左右で所定以上異なるスプリット路であるか否かを判定する手段である。スプリット路の判定方法は、特に限定されないが、一例として、アンチロックブレーキ制御を実行するときに、各車輪Wの減速度のうち、最大値(最も減速度が出ていない値)を示す車輪Wの減速度が第1の閾値以上であって、左右の車輪Wの減速度の差が第2の閾値以上であるときにスプリット路であると判定することができる。また、スプリット路判定手段140は、スプリット路であると判定した場合、左右の車輪Wのうち、どちらが高摩擦係数側で、どちらが低摩擦係数側かを判定する。一例として、左右の車輪Wのうち、減速度の大きさが小さい方の車輪Wを高摩擦係数側と判定し、減速度の大きさが大きい方の車輪Wを低摩擦係数側と判定する。スプリット路であると判定した旨の情報は、差圧設定手段150に出力される。
【0041】
差圧設定手段150は、スプリット路において、高摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力と低摩擦係数側の車輪ブレーキの制動力との差である制動力差を設定する手段である。本実施形態においては、差圧設定手段150は、制動力差に相当する値として、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧と低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧との差である差圧DPを、実ヨーレートYが目標ヨーレートYTに追従するように設定する。ここで、右側車輪の制御で使う実ヨーレートは、車両CRを上から見て時計回りの方向を正とし、左側車輪の制御で使う実ヨーレートは、車両CRを上から見て反時計回りの方向を正としている。そして、目標ヨーレートYTと比較する実ヨーレートYは、高摩擦側にある車輪の制御で使う実ヨーレートとなっている。前述した制御のため、差圧設定手段150は、図8に示すように、フィードフォワード差圧算出部151と、偏差算出部152と、フィードバック差圧算出部153と、差圧算出部156とを主に有している。
【0042】
フィードフォワード差圧算出部151は、操舵角θと車両速度Vと目標ヨーレートYTに基づいて、フィードフォワード差圧DPFFを算出する手段である。具体的に、フィードフォワード差圧DPFFは、操舵角θに基づく差圧に、車両速度Vと目標ヨーレートYTに基づく差圧を加算することで算出される。図9は、操舵角θに基づく差圧を設定するためのマップであり、操舵角θが大きくなるほど、差圧が大きくなるように決められている。また、図10は、車両速度Vと目標ヨーレートYTに基づく差圧を設定するためのマップであり、車両速度Vと目標ヨーレートYTとの比(YT/V)が大きくなるほど、差圧が大きくなるように決められている。算出したフィードフォワード差圧DPFFは、差圧算出部156に出力される。
【0043】
偏差算出部152は、実ヨーレートYと目標ヨーレートYTとの偏差ΔY(=Y−YT)を算出する手段である。算出した偏差ΔYは、フィードバック差圧算出部153に出力される。
【0044】
フィードバック差圧算出部153は、実ヨーレートYが目標ヨーレートYTに追従するようにPID(Proportional Integral Derivative)制御によって、差圧DPを設定するためのフィードバック差圧DPFBを算出する手段である。具体的に、フィードバック差圧DPFBは、P項(比例ゲイン×今回の偏差ΔY)と、I項(前回のI項+(積分ゲイン×今回の偏差ΔY))と、D項(微分ゲイン×(前回の偏差ΔY−今回の偏差ΔY))とを加算することで算出される。算出したフィードバック差圧DPFBは、差圧算出部156に出力される。
【0045】
差圧算出部156は、差圧DPを算出する手段である。具体的に、スプリット路であると判定されてから、予め設定された所定時間T1が経過するまでの間は、車両速度Vと予め設定されたマップに基づいて、差圧DPを算出する。図11は、スプリット路であると判定されてから所定時間T1が経過するまでの間の差圧DPを設定するためのマップであり、車両速度Vが大きくなるほど、差圧DPが小さくなるように決められている。一方、スプリット路であると判定されてから所定時間T1が経過した後は、フィードフォワード差圧DPFFおよびフィードバック差圧DPFBに基づいて差圧DPを算出する。詳しくは、フィードフォワード差圧DPFFとフィードバック差圧DPFBとを加算して差圧DPを算出する。算出した差圧DPは、制御実行手段160に出力される。
【0046】
制御実行手段160は、アンチロックブレーキ制御手段130が決定した液圧制御の指示や、差圧設定手段150が設定した差圧DPに基づいて、公知の手法により、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのブレーキ液圧を制御する手段である。詳しくは、アンチロックブレーキ制御を実行する車輪ブレーキについては、アンチロックブレーキ制御手段130が決定した液圧制御の指示に基づいて、液圧ユニット10を制御する。また、スプリット路であると判定されているときに、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧と低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧との差が差圧DPを超えそうな場合は、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧が、低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧に、差圧DPを加算した値となるように、液圧ユニット10を制御する。液圧ユニット10の具体的な制御は公知であるので詳細な説明は省略するが、簡単に説明すると、入口弁1および出口弁2に出力する電流を調整するとともに、必要に応じてモータ6を作動させてポンプ4を駆動するように制御する。
【0047】
記憶手段190は、制御部100の動作に必要なプログラムや定数、マップ、計算結果などを適宜記憶する手段である。
【0048】
次に、車両用ブレーキ制御装置Aの制御部100による、アンチロックブレーキ制御時の処理について図12を参照して説明する。なお、図12の処理は、制御サイクルごとに繰り返し行われる。
【0049】
まず、制御部100は、車輪速センサ92から車輪速度WSを取得し、操舵角センサ93から操舵角θを取得し、ヨーレートセンサ94から実ヨーレートYを取得し、当該実ヨーレートYに基づき算出されるスリップ角Dと画像認識装置96から出力されてくる距離Lcとに基づいて車両CRの前部からセンターラインCLまでの距離Lを算出して取得する(S101)。次に、制御部100は、車輪速度WSから車両速度Vを算出するとともに、車両速度Vと操舵角θと距離Lに基づいて目標ヨーレートYTを算出する(S102)。そして、アンチロックブレーキ制御手段130は、アンチロックブレーキ制御の液圧制御の指示を決定する(S111)。
【0050】
次に、スプリット路判定手段140は、車輪Wの接地路面がスプリット路であるか否かを判定する(S112)。
スプリット路でないと判定された場合(S112,NO)、制御実行手段160は、アンチロックブレーキ制御の液圧制御の指示に基づいて、液圧ユニット10を制御し、車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御する(S131)。
【0051】
ステップS112において、スプリット路であると判定された場合(YES)、差圧設定手段150は、スプリット路であると判定されてから所定時間T1が経過したか否かを判定する(S121)。所定時間T1が経過していない場合(S121,NO)、差圧設定手段150は、車両速度Vに基づき、図11のマップから差圧DPを設定する(S122)。
【0052】
一方、ステップS121において、所定時間T1が経過した場合(YES)、差圧設定手段150は、車両速度V、操舵角θおよび目標ヨーレートYTに基づいてフィードフォワード差圧DPFFを算出する(S124)。また、差圧設定手段150は、実ヨーレートYと目標ヨーレートYTとの偏差ΔYを算出し(S125)、偏差ΔYに基づいてPID制御によりフィードバック差圧DPFBを算出する(S126)。
【0053】
そして、差圧設定手段150は、フィードフォワード差圧DPFFとフィードバック差圧DPFBの和を差圧DPとして算出する(S127)。
【0054】
差圧DPが算出されると、制御実行手段160は、差圧DPとアンチロックブレーキ制御の液圧制御の指示に基づいて、液圧ユニット10を制御し、車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御する(S131)。具体的には、アンチロックブレーキ制御の液圧制御の指示に基づいて、低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御するとともに、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧と低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧との差が差圧DPを超えそうな場合は、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧が、低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧に、差圧DPを加算した値となるように、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御する。
【0055】
以上説明した本実施形態の車両用ブレーキ制御装置Aの効果について、図13を参照して説明する。
【0056】
図13においては、時刻t11においてブレーキペダルBPが踏まれたものとする。その後、低摩擦係数側の車輪でアンチロックブレーキ制御が開始され、時刻t12においてスプリット路であると判定され、所定時間T1が経過した時刻t13以降、フィードフォワード差圧DPFFおよびフィードバック差圧DPFBに基づいて差圧が算出される。つまり、時刻t13以降は、実ヨーレートYが目標ヨーレートYTに追従するように、差圧が制御される。なお、実線は、車両CRの前部からセンターラインCLまでの距離Lが所定値L1よりも十分大きい場合の各パラメータの変化を示し、破線は、距離Lが比較的小さい値(例えば所定値L1)の場合の各パラメータの変化を示す。
【0057】
図13に実線で示すように、距離Lが十分大きい場合には、距離Lに応じた目標ヨーレートYTが大きな値となり、その結果、目標ヨーレートYT1は比較的大きな値に設定され、この大きな目標ヨーレートYT1に実ヨーレートY1が追従するように差圧DP1が設定されることで、差圧DP1も比較的大きな値となる。具体的には、例えば距離Lが十分大きい場合には、目標ヨーレートYTが大きな値となることで当該目標ヨーレートYTが目標ヨーレートYT1(最小値)として選択されず、目標ヨーレートYT,YTθのいずれかが目標ヨーレートYT1として選択されるので、車両速度Vや操舵角θに対応した目標ヨーレートYT1によって、適切な差圧でブレーキ制御を行うことができる。
【0058】
また、このように距離Lが十分大きい場合において差圧DP1が比較的大きな値に設定されることで、車両CRが高摩擦係数側の路面に向けて旋回するので、この旋回により運転者に逆方向への転舵を促すことが可能となる。そのため、距離Lが十分大きな値のときには、車両CRの姿勢を運転者のステアリング操作で制御しつつ、十分な制動力を確保することができる。なお、このように距離Lが十分大きい場合において車両CRが高摩擦係数側の路面に向けて旋回しても、車両CRの前部がセンターラインCLから遠いため、運転者に不安感を与えることはない。
【0059】
図13に破線で示すように、距離Lが十分小さい場合には、距離Lに応じた目標ヨーレートYTが小さな値となり、その結果、目標ヨーレートYT2も比較的小さな値に設定され、この小さな目標ヨーレートYT2に実ヨーレートY2が追従するように差圧DP2が設定されることで、差圧DP2も比較的小さな値となる。具体的には、例えば距離Lが所定値L1であるときには、目標ヨーレートYTが目標ヨーレートYT2(最小値)として選択されるので、小さな距離Lに対応した小さな目標ヨーレートYT2によって、差圧DP2が小さくなる。これにより、車両CRの旋回を抑えることができるので、車両CRの前部がセンターラインCLに近づきすぎるのを抑えることができ、運転者に不安感を与えるのを抑えることができる。
【0060】
以上、本実施形態では、前述した効果に加え、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態では、実ヨーレートを用いて差圧を設定したので、差圧を良好に設定することができる。
【0061】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、前述した第1の実施形態に係る制御部100の一部の構成を変更したものであるため、第1の実施形態と略同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0062】
図14に示すように、第2の実施形態に係る制御部200(差圧設定手段250)は、車両CRの進行方向と車両CRの向きとがなす角度であるスリップ角Dが目標スリップ角DTに追従するように差圧を設定するように構成されている。詳しくは、制御部200は、第1の実施形態と略同様の機能を有する車両速度取得手段111、操舵角取得手段112、実ヨーレート取得手段113、距離取得手段114、アンチロックブレーキ制御手段130、スプリット路判定手段140、制御実行手段160および記憶手段190を備える他、目標スリップ角設定手段221と、スリップ角取得手段222と、差圧設定手段250とを備えている。なお、本明細書において、目標スリップ角DTは、スプリット路において車両CRが高摩擦係数側に回頭する方向の値を正とする。
【0063】
目標スリップ角設定手段221は、車両速度取得手段111から出力されてくる車両速度Vと、操舵角取得手段112から出力されてくる操舵角θと、距離取得手段114から出力されてくる距離Lとに基づいて、目標スリップ角DTを設定する手段である。
【0064】
具体的には、車両速度Vに基づく目標スリップ角DTと、操舵角θに基づく目標スリップ角DTθと、距離Lに基づく目標スリップ角DTを算出し、目標スリップ角DT,DTθ,DTのうち、最小値を目標スリップ角DTとして算出する。図15は、車両速度Vに基づく目標スリップ角DTを設定するためのマップであり、車両速度Vが大きくなるほど、目標スリップ角DTが小さくなるように決められている。詳しくは、目標スリップ角DTは、想定し得る車両速度Vの範囲において、常に正の値、つまり車両CRの向きが進行方向に対して高摩擦係数側の路面を向くような角度に設定されている。
【0065】
また、図16は、操舵角θに基づく目標スリップ角DTθを設定するためのマップであり、操舵角θが大きくなるほど、目標スリップ角DTθが小さくなるように決められている。詳しくは、操舵角θが0以下の範囲では目標スリップ角DTθが一定値(操舵角θが正であるときの値以上の一定値)に決められ、操舵角θが0から所定値θ1までの間は前記した一定値から一定の減少率で操舵角θが大きくなるほど目標スリップ角DTθが小さくなり、操舵角θが所定値θ1から所定値θ2までの間は0から所定値θ1までの間の場合よりも大きな減少率で操舵角θが大きくなるほど目標スリップ角DTθが小さくなり、操舵角θが所定値θ2よりも大きい範囲では目標スリップ角DTθが0になるように決められている。言い換えると、目標スリップ角DTθは、操舵角が所定値θ2未満である場合には、常に正の値、つまり車両CRの向きが進行方向に対して高摩擦係数側の路面を向くような角度に設定されている。
【0066】
図17は、距離Lに基づく目標スリップ角DTを設定するためのマップであり、距離Lが小さくなるほど、目標スリップ角DTが小さくなるように決められている。詳しくは、距離Lが0のときには目標スリップ角DTが負の値となるように設定し、距離Lが0から大きくなるほど目標スリップ角DTが正の値に向けて徐々に大きくなっていくように決められている。
【0067】
なお、図15のマップにおける車両速度Vが0のときの目標スリップ角DTは、図16のマップにおける操舵角θが0のときの目標スリップ角DTθよりも小さい値に設定されている。また、図17のマップにおける距離Lが所定値L1よりも十分大きな値であるときの正の目標スリップ角DTは、図15および図16の各マップにおける目標スリップ角DT,DTθの最大値よりも大きな値に設定されている。さらに、図17のマップにおける距離Lが所定値L1のときには、目標スリップ角DTは0に設定され、距離Lが所定値L1よりも小さいときには、目標スリップ角DTは負の値に設定され、距離Lが所定値L1よりも大きいときには、目標スリップ角DTは正の値に設定されている。
【0068】
さらに、目標スリップ角設定手段221は、スプリット路判定手段140からスプリット路であると判定した旨の情報を受け取ったときには、上述のように目標スリップ角DTを設定し、当該目標スリップ角DTを差圧設定手段250に出力する。
【0069】
スリップ角取得手段222は、実ヨーレート取得手段113から出力されてくる実ヨーレートYに基づいて、車両CRの進行方向と車両CRの向きとがなす角度であるスリップ角Dを取得する手段である。具体的に、スリップ角Dは、実ヨーレートYの値を積分することにより算出される。取得したスリップ角Dは、差圧設定手段250に出力される。
【0070】
差圧設定手段250は、高摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧と低摩擦係数側の車輪ブレーキのブレーキ液圧との差である差圧DPを、スリップ角Dが目標スリップ角DTに追従するように設定する。この制御のため、差圧設定手段250は、図18に示すように、フィードフォワード差圧算出部251と、偏差算出部252と、フィードバック差圧算出部253と、第1の実施形態と略同様の機能を有する差圧算出部156とを主に有している。
【0071】
なお、各算出部251〜253による差圧の算出は、スプリット路であると判定されてから予め設定された所定時間T1が経過するまでの間は行われず、所定時間T1の経過後に行われるようになっている。
【0072】
フィードフォワード差圧算出部251は、操舵角θに基づいて、フィードフォワード差圧DPFFを算出する手段である。操舵角θに基づくフィードフォワード差圧DPFF(操舵によるスリップ角変動を打ち消すための第2制動力差)は、前述した図9のマップから求められる。算出したフィードフォワード差圧DPFFは、差圧算出部156に出力される。
【0073】
偏差算出部252は、スリップ角Dと目標スリップ角DTとの偏差ΔD(=D−DT)を算出する手段である。算出した偏差ΔDは、フィードバック差圧算出部253に出力される。
【0074】
フィードバック差圧算出部253は、スリップ角Dが目標スリップ角DTに追従するようにPID(Proportional Integral Derivative)制御によって、差圧DPを設定するためのフィードバック差圧DPFBを算出する手段である。具体的に、フィードバック差圧DPFBは、スリップ角Dと目標スリップ角DTとの偏差ΔDを小さくするのに必要な第1制動力差に相当し、P項(比例ゲイン×今回の偏差ΔD)と、I項(前回のI項+(積分ゲイン×今回の偏差ΔD))と、D項(微分ゲイン×(前回の偏差ΔD−今回の偏差ΔD))とを加算することで算出される。算出したフィードバック差圧DPFBは、差圧算出部156に出力される。
【0075】
次に、第2の実施形態に係る制御部200による、アンチロックブレーキ制御時の処理について図19を参照して説明する。ここで、図19のフローチャートは、図12のフローチャートの一部を変更したものなので、図12のフローチャートと同様のステップについては同一符号を付し、説明を省略する。
【0076】
図19のフローチャートでは、図12のフローチャートにおけるステップS102,S124,S125,S126の代わりに、新たなステップS202,S224,S225,S226を設けている。ステップS202では、制御部200は、車輪速度WSから車両速度Vを算出し、車両速度Vと操舵角θと距離Lに基づいて目標スリップ角DTを算出し、実ヨーレートYからスリップ角Dを算出する。
【0077】
ステップS224では、差圧設定手段250は、操舵角θに基づいてフィードフォワード差圧DPFFを算出する。ステップS225では、差圧設定手段250は、スリップ角Dと目標スリップ角DTとの偏差ΔDを算出する。ステップS226では、差圧設定手段250は、偏差ΔDに基づいてPID制御によりフィードバック差圧DPFBを算出する。
【0078】
以上説明した本実施形態の制御部200の効果について、図20を参照して説明する。
【0079】
図20においては、時刻t21においてブレーキペダルBPが踏まれたものとする。その後、低摩擦係数側の車輪でアンチロックブレーキ制御が開始され、時刻t22においてスプリット路であると判定され、所定時間T1が経過した時刻t23以降、フィードフォワード差圧DPFFおよびフィードバック差圧DPFBに基づいて差圧が算出される。つまり、時刻t23以降は、スリップ角D(例えばD1)が目標スリップ角DT(例えば実線で示すDT)に追従するように、差圧が制御される。なお、実線は、車両CRの前部からセンターラインCLまでの距離Lが所定値L1よりも十分大きい場合の各パラメータの変化を示し、破線は、距離Lが比較的小さい値(例えば所定値L1)の場合の各パラメータの変化を示す。
【0080】
時刻t22においてスプリット路判定手段140がスプリット路であると判定すると、目標スリップ角設定手段221がそのときに設定した目標スリップ角DTを差圧設定手段250に出力するが、差圧設定手段250は、時刻t22から所定時間T1の間は、目標スリップ角DTを用いずに、図11のマップに基づいて差圧を設定する。時刻t22から所定時間T1が経過した後(時刻t23以降)、差圧設定手段250は、時刻t22において予め設定された目標スリップ角DTにスリップ角Dが追従するように、差圧を設定する。
【0081】
図20に実線で示すように、距離Lが十分大きい場合には、距離Lに応じた目標スリップ角DTが大きな値となり、その結果、目標スリップ角DTは比較的大きな値DT2に設定され、この大きな目標スリップ角DT2にスリップ角D1が追従するように差圧DP1が設定されることで、差圧DP1も比較的大きな値となる。具体的には、例えば距離Lが十分大きい場合には、目標スリップ角DTが大きな値となることで当該目標スリップ角DTが目標スリップ角DT(最小値)として選択されず、目標スリップ角DT,DTθのいずれかが目標スリップ角DTとして選択されるので、車両速度Vや操舵角θに対応した目標スリップ角DTによって、適切な差圧でブレーキ制御を行うことができる。
【0082】
また、このように距離Lが十分大きい場合において差圧DP1が比較的大きな値に設定されることで、車両CRが高摩擦係数側の路面に向けて旋回するので、この旋回により運転者に逆方向への転舵を促すことが可能となる。そのため、距離Lが十分大きな値のときには、車両CRの姿勢を運転者のステアリング操作で制御しつつ、十分な制動力を確保することができる。なお、このように距離Lが十分大きい場合において車両CRが高摩擦係数側の路面に向けて旋回しても、車両CRの前部がセンターラインCLから遠いため、運転者に不安感を与えることはない。
【0083】
図20に破線で示すように、距離Lが十分小さい場合には、距離Lに応じた目標スリップ角DTが小さな値となり、その結果、目標スリップ角DTも比較的小さな値DT1に設定され、この小さな目標スリップ角DT1にスリップ角D2が追従するように差圧DP2が設定されることで、差圧DP2も比較的小さな値となる。具体的には、例えば距離Lが所定値L1であるときには、目標スリップ角DTが目標スリップ角DT(最小値)として選択されるので、小さな距離Lに対応した小さな目標スリップ角DTによって、差圧DP2が小さくなる。これにより、車両CRの旋回を抑えることができるので、車両CRの前部がセンターラインCLに近づきすぎるのを抑えることができ、運転者に不安感を与えるのを抑えることができる。
【0084】
また、このようにスリップ角Dを用いて差圧を設定することで、車両CRの向きを考慮した制御が可能となるので、車両CRの進行方向に対する車両CRの向きのばらつきを抑えることができ、操作フィーリングを向上させることができる。
【0085】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
【0086】
前記各実施形態においては、制動力差設定手段としての差圧設定手段150,250が、制動力差として、差圧DPを設定する構成であったが、本発明はこれに限定されず、例えば、制動力差設定手段は、制動力差そのものを設定する構成であってもよい。
【0087】
第1の実施形態においては、車両の前部から境界部までの距離Lと車両速度Vと操舵角θに基づいて目標ヨーレートYTを設定する構成であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、目標ヨーレート設定手段は、車両の前部から境界部までの距離と車両速度のみに基づいて目標ヨーレートを設定する構成であってもよいし、車両の前部から境界部までの距離と操舵角のみに基づいて目標ヨーレートを設定する構成であってもよい。また、目標ヨーレートは、車両の前部から境界部までの距離のみに基づいて設定されてもよい。また、第2の実施形態でも同様に、目標スリップ角は、車両の前部から境界部までの距離と車両速度のみに基づいて設定されてもよいし、車両の前部から境界部までの距離と操舵角のみに基づいて設定されてもよいし、車両の前部から境界部までの距離のみに基づいて設定されてもよい。
【0088】
前記各実施形態においては、ブレーキ液を利用した車両用ブレーキ制御装置Aを例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ブレーキ液を利用せずに電動モータによりブレーキ力を発生させる電動ブレーキ装置を制御するための車両用ブレーキ制御装置であってもよい。
【0089】
前記各実施形態においては、境界部としてセンターラインCLを例示したが、本発明はこれに限定されず、境界部は、例えば中央分離帯、路肩と車線を区切るライン、車線に沿って立設された壁などであってもよい。
【符号の説明】
【0090】
114 距離取得手段
150 差圧設定手段
A 車両用ブレーキ制御装置
L 距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図18
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