(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周期的に運動する生体組織に対する計測によって取得されたフレーム列に含まれる同時相関係にある開始フレーム及び終了フレームの間で、隣接フレーム間ごとに観測点トラッキング処理を実行して移動後の観測点座標を演算するトラッキング処理部と、
前記開始フレーム上の観測点座標である開始座標に対する前記終了フレーム上の観測点座標である終了座標のずれを全体補正量として演算する全体補正量演算部と、
前記フレーム列における補正対象フレーム列において、各補正対象フレームの誤差指標値に応じて前記全体補正量を各補正対象フレームに配分することにより、補正対象フレームごとの個別補正量を演算する個別補正量演算部と、
前記補正対象フレームごとに前記個別補正量に応じて前記移動後の観測点座標を補正することにより、前記観測点トラッキング処理によって累積された誤差が解消又は改善された座標として補正後の観測点座標を演算する座標補正部と、
を含み、
前記開始フレーム及び前記終了フレームの間の期間が前記生体組織の1又は複数の運動周期に対応し、
前記全体補正量演算部は、前記終了座標から前記開始座標を引くことにより前記全体補正量を演算する、
ことを特徴とする医療画像処理装置。
周期的に運動する生体組織に対する計測によって取得されたボリューム列に含まれる同時相関係にある開始ボリューム及び終了ボリュームの間で、隣接ボリューム間ごとに観測点トラッキング処理を実行して移動後の観測点座標を演算するトラッキング処理部と、
前記開始ボリューム上の観測点座標である開始座標に対する前記終了ボリューム上の観測点座標である終了座標のずれを全体補正量として演算する全体補正量演算部と、
前記ボリューム列における補正対象ボリューム列において、各補正対象ボリュームの誤差指標値に応じて前記全体補正量を各補正対象ボリュームに配分することにより、補正対象ボリュームごとの個別補正量を演算する個別補正量演算部と、
前記補正対象ボリュームごとに前記個別補正量に応じて前記移動後の観測点座標を補正することにより、前記観測点トラッキング処理によって累積された誤差が解消又は改善された座標として補正後の観測点座標を演算する座標補正部と、
を含み、
前記開始ボリューム及び前記終了ボリュームの間の期間が前記生体組織の1又は複数の運動周期に対応し、
前記全体補正量演算部は、前記終了座標から前記開始座標を引くことにより前記全体補正量を演算する、
ことを特徴とする医療画像処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る医療画像処理装置の好適な実施形態が示されている。本実施形態に係る医療画像処理装置は超音波診断装置である。超音波診断装置は病院等の医療機関に設置され、生体に対する超音波の送受波により得られたデータに基づいて超音波画像を形成する装置である。本実施形態において、超音波診断の対象となる組織は、心臓であり、特に左室である。心臓は周期的に運動する組織である。心臓以外の組織が診断対象となってもよい。
【0021】
図1において、プローブ10は、本実施形態において、体表面上に当接されており、プローブ10によって、超音波が送受波される。プローブ10は、アレイ振動子12を有し、そのアレイ振動子12は、例えば、直線的に配列された複数の振動素子により構成される。アレイ振動子12により超音波ビーム14が形成され、その超音波ビームが電子的に走査される。これにより走査面16が構成される。ちなみに、
図1においては、走査面16上に左室の短軸断面18が現れている。r方向は深さ方向であり、θ方向は電子走査方向である。
【0022】
超音波ビーム14の1回の電子走査により1つの走査面16が構成され、そのような走査面16の形成が繰り返し実行される。本実施形態においては、電子走査方式として電子セクタ走査方式が利用されている。もちろん、例えば電子リニア走査方式等の他の電子走査方式が利用されてもよい。プローブ10が食道内に挿入される経食プローブであってもよい。アレイ振動子12として2Dアレイ振動子を設けることも可能である。
【0023】
送受信部20は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能するものである。送信時において、送受信部20からアレイ振動子12に対して複数の送信信号が並列的に供給される。これにより、アレイ振動子12において送信ビームが形成される。受信時において生体内からの反射波がアレイ振動子12において受波されると、アレイ振動子12から複数の受信信号が並列的に出力される。それらの受信信号は、送受信部20において整相加算処理され、これにより整相加算後の受信信号すなわちビームデータが生成される。1つの走査面16ごとに例えば100個のビームデータが得られることになる。それらのビームデータは受信フレームを構成する。1つの受信フレームが1つの走査面16に対応する。
【0024】
ビームデータ処理部22は、検波回路、対数圧縮回路等の公知の回路を備えており、入力されるビームデータに対して所定の信号処理を実行する。信号処理後のビームデータが画像形成部24に送られる。
【0025】
画像形成部24は、本実施形態において、デジタルスキャンコンバータ(DSC)により構成されている。すなわち、画像形成部24は、座標変換機能、補間機能等を備え、入力される受信フレームに対して所定の処理を実行し、これによって表示フレーム26を生成する。1つの表示フレーム26が1つの断層画像に相当する。受信フレームは極座標系に従うフレームであり、表示フレーム26は直交座標系に従うフレームである。図示の例では、表示フレーム26が表示処理部28に送られており、またシネメモリ30にも送られている。表示処理部28は、入力される表示フレーム26に対して必要な処理を適用した上でその表示フレーム26を表示器56へ出力する。これにより、表示器56においては、動画像としての断層画像(Bモード断層画像)が表示される。それ以外の超音波画像が表示されてもよい。通常のBモードの実行中においては、表示器56の表示画面上にリアルタイムで取得されたBモード断層画像が表示される。
【0026】
シネメモリ30は、リングバッファの構造を有し、現時点から過去の一定期間に亘って複数の表示フレーム26を格納するものである。すなわちシネメモリ30上にはフレーム列32が格納される。そのような記憶装置がビームデータ処理部22と画像形成部24との間に設けられてもよい。例えば、フリーズ後におけるループ再生において、シネメモリ30からフレーム列32が読み出され、表示処理部28に送られる。これにより表示器56において再生された動画像が表示される。一方、本実施形態においては、シネメモリ30に格納されたフレーム列32を利用して観測点のトラッキング処理等を行うことが可能である。以下に、そのための構成について説明する。
【0027】
図1において、画像処理部34は、例えば実質的にソフトウェアの機能として実現されている。画像処理部34はトラッキング処理機能、計測機能、波形生成機能等を有し、更に、本実施形態においては、1心拍間での累積誤差を解消するための補正機能を備えている。
【0028】
具体的に説明すると、トラッキング処理部36は、フレーム列32における隣接フレーム間ごとに、観測点のトラッキング処理を実行するものである。すなわち、開始フレーム上において1又は複数の観測点がユーザーにより指定され、観測点ごとにフレーム単位でトラッキング処理が実行される。これにより、前フレーム上の観測点の座標を基準として、後フレーム上における観測点移動先を特定することができ、つまり、観測点ごとに二次元移動ベクトル(二次元移動量)を演算することが可能である。本実施形態においては、後に説明するように、左室の所定箇所に観測点が設定されており、その観測点の座標の時間変化が観測されている。例えば、心筋における厚み方向の両側に2つの観測点を指定し、それらの観測点について個別的にトラッキング処理を実行すれば、心筋の厚みやストレイン等についての時間的変動を計測することが可能である。
【0029】
トラッキング処理においては、本実施形態において、パターンマッチング処理が実行されている。パターンマッチング処理としては公知のブロックマッチング法や勾配法を利用することができる。もちろん、他の手法が利用されてもよい。いずれにしても、パターンマッチング法の適用により、隣接フレーム間で観測点ごとに二次元移動ベクトルを得ることが可能である。これにより、フレームごとに、各観測点について移動後の座標が特定される。記憶部40上には、観測点ごとに、個々の時相での座標が記録される。また、記憶部40上には、観測点ごとの移動ベクトルすなわち移動量も記憶される。更に、パターンマッチング処理結果の信頼性を表すスコアや相関値等の指標値も記録される。
【0030】
一次補正部38は、トラッキング処理結果として特定された座標に対して、必要に応じて補正を実行するものである。トラッキング処理の直後に行われる一次補正としては各種の公知手法を適用することが可能である。一次補正が適用される場合、記憶部40上には一次補正後の座標が記憶される。
【0031】
計測部50は、1又は複数の観測点の座標変化に基づいて所定の計測を実行するものであり、例えば変位、厚み、ストレイン等の時間的変化を計測することが可能である。そのような計測に当たっては、記憶部40上に観測点ごとに格納された時系列順の座標群が参照される。
【0032】
波形形成部54は、計測部50の結果を表す波形54を生成する。波形54における横軸は時間軸であり、縦軸は例えば変位、厚さ、ストレイン等を表すものである。診断の目的に応じて所望の波形54が生成される。そのような波形は、
図1に示した構成において、表示処理部28を介して表示器56に送られる。これにより表示器56上においては波形がグラフとして表示される。例えば複数の波形が画面上に表示されてもよい。シネメモリ30から読み出されたフレーム列に基づく再生画像もグラフと一緒に表示され得る。
【0033】
本実施形態においては、画像処理部34が累積誤差補正部42を有している。累積誤差補正部42は、例えば1心拍間で生じた累積誤差を事後的に解消するための座標補正を実行するものである。この補正は、上述した一次補正との対比において二次補正と言いうるものである。本実施形態では、1心拍のフレーム列が処理対象とされており、1心拍間での全体補正量を各補正対象フレームに適応的に配分し、これによって求められる補正対象フレームごとの個別補正量に基づいて、各補正対象フレーム上の観測点座標が補正される。
【0034】
累積誤差補正部42は、より詳しくは、全体補正量演算部44、個別補正量演算部46及び座標補正部48を備えている。全体補正量演算部44は、1心拍間において生じた累積誤差に相当する全体補正量を演算するものである。個別補正量演算部46は、全体補正量を補正対象フレーム列に対して適応的に配分することにより、各補正対象フレームについて個別補正量を求めるものである。座標補正部48は、補正対象フレームごとに求められた個別補正量に基づいて当該補正対象フレームにおける観測点座標を補正するものである。座標補正の結果、記憶部40に記憶されている観測点座標が補正後の観測点座標に置き換えられる。もちろん、旧座標を保存しておくようにしてもよい。累積誤差補正部42の具体的な処理内容については後に詳述する。
【0035】
いずれにしても、本実施形態においては、画像処理部34が累積誤差補正部42を備えているので、隣接フレーム間でトラッキング処理を繰り返し実行した場合において生じる累積誤差を事後的に解消又は改善することが可能である。しかもその場合において適応的配分方式が採用されているので、座標補正をより自然に行うことが可能であり、ひいては波形54を自然に補正することが可能である。
【0036】
ちなみに、画像処理部34は、例えばパーソナルコンピューター等の情報処理装置によって実現することも可能である。その場合においては、当該情報処理装置が医療画像処理装置と言い得る。その情報処理装置に対しては、超音波診断装置で取得されたフレーム列が記憶媒体を介してあるいはネットワークを介して伝送される。そのような情報処理装置が、超音波画像列ではなく、CT画像列やMRI画像列等を処理するものであってもよい。
【0037】
上記処理を三次元処理として実現することも可能である。その場合、例えば、超音波診断装置において、2Dアレイ振動子等によって三次元動画像が取得され、それが処理される。三次元動画像は、時間軸上に並ぶ複数のボリューム(ボリュームデータ)により構成される。個々のボリュームは三次元空間内から取得された複数のエコーデータからなるものである。三次元処理において、トラッキング処理は、ボリュームを単位として実行される。隣接ボリューム間の観測点の移動量として、三次元移動ベクトルが求められる。三次元移動ベクトルは、ある面に対して垂直に伸びるベクトルであり、二次元方向の二成分と奥行き方向の成分とからなるものである。そのような三次元処理を行う場合、以下の説明において、フレームがボリュームに読み替えられる。
【0038】
図1に示す制御部58は、CPU及び動作プログラムによって構成される。制御部58は
図1に示された各構成の動作制御を行っている。制御部58には入力部60が接続されている。入力部60は操作パネルにより構成され、それはトラックボールや複数のスイッチ等を含む。入力部60を利用して、個々の観測点の初期座標を断層画像上で指定することが可能である。画像解析によって個々の観測点が自動的に特定されてもよい。入力部60を利用して累積誤差補正モードのオンオフやモード変更等を行うことも可能である。心電計62は、生体から心電信号63を取得し、それを制御部58に送るものである。制御部58は心電信号63を解析する機能を備え、例えば心電波形におけるR波の検出により、個々の心拍における所定時相を特定している。本実施形態において、観測点トラッキングは例えば1心拍分のフレーム列を対象として実行されている。その場合において、例えば拡張末期の時相を心電信号63中のR波により特定することが可能である。制御部58からトラッキング処理部36に対して、時相を示す信号が与えられている。なお、記憶部40あるいはシネメモリ30に心電波形が記憶されてもよい。表示器56には心電波形が断層画像等とともに表示されるのが望ましい。
【0039】
図2には、上述したフレーム列32が示されている。そのフレーム列32は、時間軸方向に並ぶ複数のフレームからなるものであり、各フレームは断層画像としての表示フレームである。フレーム列32は1心拍に対応しており、それは開始フレーム64aと終了フレーム64bとを有している。もちろん、複数心拍分のフレーム列が処理対象となってもよい。
図2に示す例では、開始フレーム64aに表れた左室断面66上に、2つの観測点74,76がユーザーにより指定される。例えば、左室66における内膜68上に第1観測点74が指定され、左室66における外膜70上に第2観測点76が指定される。第1観測点74及び第2観測点76は重心点78を基準として所定方位の方向に設定されている。上記のように、観測点74,76の指定を自動化することも可能である。開始フレーム64a上において以上のように2つの観測点74,76が指定されると、それ以後の隣接フレーム間において観測点ごとにトラッキング処理が順次実行される。すなわち個々のフレーム上において2つの観測点についての運動後の座標が順次特定される。その結果、終了フレーム64b上において、第1観測点についての最終座標80が特定され、第2観測点76についての最終座標82が特定される。以上の処理に際しては様々な公知技術を利用可能である。
【0040】
図3には、隣接関係にある前フレーム84及び後フレーム86が示されている。トラッキング処理においては、上述したようにパターンマッチング処理が実行される。それは観測点ごとに実行される。これにより、例えば、前フレーム84上における第1観測点88が後フレーム86においてどこに移動したのかを特定することが可能である。第1観測点88についての移動後の新しい座標が符号92で表されている。これにより第1観測点について移動ベクトル93が定義される。同様に、第2観測点90についても、移動後の新しい座標94を特定でき、これにより第2観測点について運動ベクトル95が定義される。フレーム間の時間差Δtは既知かつ一定であり、よって、移動ベクトル93,95は速度ベクトルに相当する。移動ベクトル93,95は二次元ベクトルである。
【0041】
既に説明したように、上記のような隣接フレーム間ごとのトラッキング処理においては誤差が生じる可能性がある。あるフレームにおいて誤差が生じると、その誤差が次のフレームにも引き継がれる。時間経過に従って誤差が増大していく可能性がある。これは上述した累積誤差の問題である。
【0042】
図4には、そのような累積誤差が示されている。すなわち、
図4には、ある観測点について1心拍分の運動軌跡が示されている。符号102Aは開始座標を示しており、それは
図4に示す例において拡張末期104Aにおける観測点の座標である。拡張末期104Aから収縮末期106までの期間が収縮期108であり、収縮末期106から1心拍後の拡張末期104Bまでの期間が拡張期110である。観測点は、1心拍にわたって
図4に示すように例えばループ状に運動する。個々の点102−iは時相iでの観測点座標を示している。ちなみに、
図4における運動軌跡は例示である。
【0043】
図4に示されるように、拡張末期104Aにおける開始座標102Aに対して1心拍後の拡張末期104Bにおける終了座標102Bがずれている。両者間に誤差ベクトル112が生じている。本来であれば、周期的に運動する組織における所定部位は1心拍後においても同じ位置に戻って来る筈であるが、上述した累積誤差の影響により、誤差ベクトル112が生じる。このような誤差ベクトル112は実際には存在しない運動であり、それを解消又は緩和するための座標補正(軌跡補正)が求められる。
【0044】
そこで、まず、誤差ベクトル112をキャンセルするための全体補正量(ベクトル)114が特定される。全体補正量は誤差ベクトルに対して逆向きのベクトルである。それは、例えば、終了座標102Bから開始座標102Aを引くことによって特定される。全体補正量114を各補正対象フレームに対して適応的に配分することにより、個々の補正対象フレーム上において特定された移動後の観測点座標を補正することが可能である。
【0045】
観測点座標の補正方式として、
図5に、比較例として、均等配分方式が示されている。なお、
図5において
図4に示した要素と同様の要素には同一符号を付している。このことは後に説明する
図6についても同様である。
【0046】
図5に示す均等配分方式においては、拡張期110内の各補正対象フレームに対して全体補正量114が均等に配分される。すなわち、
図5において符号118,120,122で示すように、時相によらずに、同じ配分量が与えられる。配分量118,120,122はそれぞれベクトルであり、拡張期110内でのそれらの総和が全体補正量114に相当する。したがって、各配分量(ベクトル)118,120,122の向きは全体補正量(ベクトル)114の向きに一致している。実際の座標補正に当たっては、
図5に示す例において、拡張末期106に対応する基準座標116よりも後に存在する各座標に対して与えられる個別補正量は、基準座標116から当該座標までの間に配分された配分量の加算値(累積値)として定義される。このように、フレームごとの個別補正量に基づいて、フレームごとに座標補正演算が実行される。その結果、
図5において破線で示す補正後の軌跡が得られる。この補正により、1心拍の開始と終了とで観測点の座標が一致する。
図5に示す例では、補正対象は1心拍の全体ではなく、拡張末期106以降の拡張期110である。
【0047】
図6には、本実施形態に係る適応的配分方式が示されている。この適応的配分方式では、全体補正量114が、補正対象フレームごとの固有パラメータ値に基づいて、各補正対象フレームに対して適応的に配分される。
図6に示す例では、収縮末期106後の拡張期110が補正対象期間とされており、拡張期110内の先頭から最終までの各補正対象フレームに対して観測点座標の補正処理が適用される。全体補正量114の適応的配分に当たっては、フレームごとに演算される誤差指標値としての固有パラメータ値が参照される。固有パラメータ値は、
図6に示す例において、フレーム間での観測点の移動量である。観測点の大きな動きがあった場合、より大きな誤差が発生している可能性が高いので、そのような場合にはより多くの配分量が与えられる。
図6においては、移動量の大小に応じて変化する配分量124,126,128が示されている。
【0048】
一般に、収縮末期106の直後において、観測点の動きは大きく、拡張末期104Bに近付くに従って観測点の動きは小さくなる。よって、拡張期110における初期において大きな配分量124が与えられ、拡張期110の後半部分では小さな配分量126,128が与えられる。
図5に示した均等配分方式によると、拡張期110の後半部分において、実際には観測点がほとんど移動していないにもかかわらず、見かけ上、観測点が一定速度で移動したように見えてしまうが、
図6に示した適応的配分方式によれば、移動量の大小によって配分量の大小が決まるので、見かけ上の運動という問題を解消又は軽減することが可能である。
【0049】
図6に示した例においては、上記のように、収縮末期以降の拡張期110が補正対象期間である。これにより、収縮末期106付近で生じる、大きなしかも速い観測点の動き(ピーク)を保存することが可能である。すなわち、適用的配分方式では、観測点の移動量の大きいところにはより大きな配分量が与えられるため、1心拍全体を補正対象期間とした場合に上記ピーク付近に対して大きな配分量が与えられ、ピークがかなり大きく下がってしまう。これはある意味で診断上、重視される部分に対する過度の補正とも言える。そこで、
図6に示した例では、1心拍中の一部分、特に、収縮末期以降の拡張期110が補正対象期間とされており、その期間内においてだけ全体補正量が配分されている。これにより、診断上、重視される部分を保存しつつ、その後において座標軌跡を自然に補正することが可能である。そして、最終的に累積誤差を消失させることが可能である。これについては後に
図10を用いてより詳しく説明する。
【0050】
図7には、上述した適応的配分方式を実行する場合における計算例が示されている。S10においては、全体補正量として、1心拍間での観測点座標の差分が演算される。それは全体補正量Eとみなされる。Eはベクトルである。S12においては、k番目の補正対象フレームについて演算された誤差指標値として、移動ベクトルV
kが参照される。kは、本実施形態において、収縮末期106後の各補正対象フレームの番号を示す(但し、k=1,2,3,…)。補正対象フレームの総数をnとする。
【0051】
S14においては以下の(1)式が計算される。e
kは、k番目のフレームに対して与えられる配分量(ベクトル)である。
【0052】
[数1]
e
k=(|V
k| / Σ|V
k|)×E …(1)
【0053】
上記(1)式において、分子は、現在注目している補正対象フレーム上の移動ベクトルV
kの絶対値である。V
kそのものではなく、その絶対値|V
k|を計算で利用したのは、向きによらずに、移動量の大きさそれ自体に応じて、全体補正量を配分するためである。上記(1)式における分母Σ|V
k|は規格化のためのものであり、それは|V
k|を1番目からk番目まで加算したものである。ここで、k=1は収縮末期後の最初のフレームを表しており、k=nは1心拍後の拡張末期フレームつまり終了フレームを表している。括弧内が配分率に相当しており、その配分率が全体補正量Eに対して乗算され、これにより配分量e
kが求められている。
【0054】
S16においては、個々の補正対象フレームについての個別補正量C
k以下の(2)式から求められる。
【0056】
上記の(2)式により、現在注目しているk番目の補正対象フレームについての個別補正量が、1番目からk番目までの配分量e
kすべて加算したものとして定義される。S16では、このように演算された個別補正量C
kが現在注目しているk番目の補正対象フレーム上の観測点座標に対して適用され、具体的には、その観測点座標に対して個別補正量C
kを作用させることにより特定される座標として、補正後の観測点座標が定められる。以上の処理が収縮末期以降の補正対象フレームごとに順次実行される。その結果、観測点座標の軌跡が
図6において一点鎖線から実線のように補正される。
【0057】
なお、
図8には上述した移動ベクトルV
kが示されており、そのx成分がx
kで示されており、そのy成分がy
kで示されている。三次元の場合には、xy平面に垂直なz方向に、z成分がz
kで追加されて移動ベクトルV
kが演算される。
【0058】
図9には、比較例として、表示画像130が示されている。表示画像130は、断層画像132、計測結果画像134及び心電波形136を含むものである。断層画像132は、時相マーカー154で特定される時相に対応した画像である。断層画像132として、ループ再生される動画像を表することも可能である。ちなみに符号138は観測点を表している。
【0059】
計測結果画像134は、図示の例において、実線で示されている波形(補正前波形)148を含んでいる。縦軸142は、例えば、観測点についての所定方向の変位又は所定点からの距離を表している。縦軸142が厚みやストレインを表してもよい。破線で示されている波形150は、均等配分方式による補正を経た観測点座標に基づいて作成された補正後波形である。1心拍144における拡張末期104Aは心電信号のR波136Aにより特定される。1心拍後の拡張末期104Aも同様にR波により特定される。符号140は時間軸を表しており、計測結果画像134と心電波形136との間において時間軸は一致している。
【0060】
補正前波形148においては、最終的に累積誤差に相当するオフセット152が生じている。すなわち、観測点の初期座標と終了座標との間に大きな乖離が生じている。このような補正前波形148は実態を反映しておらず診断に適さないものである。これに対し、均等配分方式に基づく補正を適用すれば補正後波形150を得られる。補正後波形150においては、オフセット152が消失している。しかし、補正後波形150において、ピークから終了時相にかけて、フレームごとに均等の配分量(補正量)が与えられた結果、ピーク以降において右斜め下へ傾斜した波形部分が生じている。その波形部分は、見かけ上の観測点の継続的な運動を表すものである。拡張期の後半において、観測点はあまり動かないので、その波形部分は実態を反映していないものである。
【0061】
図10には、本実施形態に係る表示例が示されている。なお、
図9に示した構成と同様の構成には同一符号を付してある。
図10において、補正前波形148が一線鎖線で示されており、均等配分方式による補正後の波形150が破線で示されている。
【0062】
本実施形態によれば、拡張期において、適応的配分方式により観測点座標が補正される。これにより、
図10において実線で示されている波形154を提供可能である。波形154においては、収縮末期106付近のピークが保存されている。収縮末期106以後の拡張期において、観測点の移動量が大きな最初の部分では補正量が大きいが、後半部分においては移動量が小さいので補正量も小さくなっている。上述した見かけ上の観測点の運動という問題も解消又は緩和されている。このように、本実施形態によれば、重要な波形部分を保存した上で、他の波形部分を自然に補正することが可能である。ちなみに、
図10中の各波形は例示である。
【0063】
以上のように、適応的配分方式によれば誤差が生じる可能性の大小又は誤差の大小に応じて、配分量つまり個別補正量を動的に変更できるので、自然な座標補正を実現できる。なお、モード切替ボタン156は、補正なしモード、均等配分モード、適応的配分モードのいずれかのモードを選択するためのボタンである。上記構成において、ユーザーにより補正対象となる期間を可変設定できるように構成してもよい。ユーザーにより補正対象となる期間の開始時相及び終了時相を指定できるように構成してもよい。
【0064】
図11には、上述した適応的配分方式を実行する場合における動作例がフローチャートとして示されている。
【0065】
S20においては、開始フレーム上においてユーザーによりあるいは自動的に観測点が設定される。具体的には、画面上に断層画像が表示され、その断層画像上において座標が指定される。S22においては、隣接フレーム間での観測点のトラッキング処理が実行される。そのトラッキング処理の結果を評価して、必要に応じて、移動先の座標に対して一次補正を適用するようにしてもよい。S24において最終フレームまでトラッキング処理がなされたと判断されるまで、S22の工程が隣接フレーム間ごとに順次実行される。S26においては、開始フレームにおける観測点の座標と終了フレームにおける観測点の座標との間で差分演算を行うことにより全体補正量が演算される。S28では、全体補正量から、上述した計算式に基づき補正対象フレームごとに個別補正量が演算され、それを用いて補正対象フレームごとの観測点座標が補正される。S30において所定時相後の各補正対象フレームについて座標補正が完了したと判断されるまで、S28の工程が補正対象フレームごとに順次実行される。補正対象フレームごとの座標補正がすべて完了すると、S32において、所定の計測が実行され、その計測結果を表す波形が画面上に表示される。
【0066】
次に、上記実施形態の変形例について
図12及び
図13を用いて説明する。
【0067】
図12は、上述した
図7に対応する図であり、
図12に示す変形例1においては、S40において、
図7に示したS10と同じ工程が実行された上で、S42においてフレームごとの誤差指標値としてトラッキング結果評価値R
kが参照される。すなわち
図7に示した構成では誤差評価値として移動量が参照されていたが、この変形例1においてはトラッキング結果評価値が参照されている。そのような評価値はトラッキング処理、具体的にはパターンマッチング処理において、その過程で又はその結果として得られるものである。それは例えばマッチング結果の良否をスコア等として表すものである。そのような評価値は誤差が含まれる可能性あるいは誤差の大小を表すものであるから、それを誤差指標値として理解することが可能である。
【0068】
S44においては、(3)式が計算される。(3)式は、上記(1)式において移動ベクトルV
kを評価値R
kで置き換えたものに相当する。評価値R
kはスカラー値であり、それは正の値を有するものであるため、絶対値の演算は省略されている。もちろん、そのような評価値が正負の符号を有する場合、その正負の符号を考慮してもよいし、あるいは絶対値を演算してもよい。S46においては(4)式が演算される。その(4)式は
図7のS16に示した式(2)と同じである。
【0069】
図13には変形例2が示されている。変形例2においては、x成分及びy成分ごとに個別補正量が演算され、またx成分及びy成分ごとに座標補正が実行されている。すなわち、S50においては、全体補正量として、1心拍間での観測点の座標差分が成分ごとに演算される。S52においては、フレームごとの誤差指標値として、移動ベクトルのx成分及びy成分が参照される。そして、S54においては、各フレームにおける観測点に対する個別補正量が成分ごとに演算される。すなわち上述した(1)式が成分ごとに実行されることになる。その上で、S56において、各フレームにおける観測点の座標が、当該観測点について演算された個別補正量に基づき、成分ごとに補正される。すなわち、上述した(2)式が成分ごとに実行される。
【0070】
上記の変形例2によれば、成分ごとに移動量の大小を評価して、成分ごとに配分量を決定できるから、より観測点の動きに忠実な座標補正を行うことが可能である。この変形例2によると、個々の補正対象フレーム上において、個別補正量ベクトルの向きが全体補正量ベクトルの向きと必ずしも一致しなくなるが、観測点の動きにより忠実な自然な補正を行えるという利点が得られる。
【0071】
上述した適応的配分方式によれば、誤差が大きいとみなせる場合には配分量を大きくし、誤差が小さいとみなさる場合には配分量を小さくすることにより、より自然な座標補正を行える。均等配分方式によると、実際には動いていない観測点が見掛け上動いているように見えてしまうが、上記適応的配分方式によれば、そのような見掛け上の動きという問題を解消又は軽減できる。適応的配分方式を1周期全体に亘って適用すると、動きが大きいピークを大きく引き下げてしまう可能性があるが、上記の例においては、収縮末期以降の拡張期において各フレームに対して座標補正が適用されるようにしたので、診断上重要となるピークを保存しつつもそれ以降の波形を自然に補正できる。
【0072】
上記の例においては超音波画像フレーム列について説明したが、他の医療画像フレーム列に対して上記の適応的配分方式を適用することも可能である。そのような医療画像フレーム列として、CT画像フレーム列、MRI画像フレーム列等を挙げることができる。上記の実施形態においては、心臓における特に左室が計測対象となっていたが、心臓において、左室以外の部分が診断対象となってもよく、また拍動する他の組織が診断対象となってもよい。
図1に示した画像処理部34に相当する情報処理装置において上記の適応的配分装置が実現されてもよい。上記実施形態では、スキャンコンバート後のフレーム列が処理されていたが、スキャンコンバート前のフレーム列を処理するようにしてもよい。