(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
SEQ ID NO:1〜14のいずれかのアミノ酸配列を含む黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ロイコシジンA(「LukA」)に結合する、抗LukA抗体またはその結合断片の治療的有効量;および
SEQ ID NO:15〜27のいずれかのアミノ酸配列を含む黄色ブドウ球菌ロイコシジンB(「LukB」)に結合する、抗LukB抗体またはその結合断片の治療的有効量
を含む、組成物。
黄色ブドウ球菌感染の発症を阻止するまたは黄色ブドウ球菌感染を処置する方法で使用するための、請求項1記載の組成物であって、薬学的に許容される担体をさらに含む、前記組成物。
黄色ブドウ球菌感染の発症を阻止するまたは黄色ブドウ球菌感染を処置する方法で使用するための、請求項2記載の組成物であって、該方法が、その必要がある哺乳類対象に組成物を投与する段階を含む、前記組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
以下の開示は、順繰りに、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、LukAおよびLukBポリヌクレオチド、抗LukA抗体および抗LukB抗体、LukAおよび/もしくはLukB、または抗LukA抗体および/もしくは抗LukB抗体を含有する治療用組成物、治療用組成物を使用する方法、LukAB媒介性細胞毒性の阻害剤を特定する方法、ならびに黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測または評価する方法を対象にする。
【0022】
LukAポリペプチド
黄色ブドウ球菌に生まれつき備わっているポリペプチドが、今回、本出願人らにより単離され、公知のS-サブユニットロイコシジン(例えば、LukS-PVL、LukEおよびHlgC)の活性プロファイルを示すと特定された。本明細書においてまとめてLukAと表されるこれらのポリペプチドは、ヒト食細胞を特異的に標的化し結合し(しかしヒト上皮細胞もしくはヒト内皮細胞、またはマウス細胞ではそうでない)、いったん食細胞膜に結合すると、LukAは黄色ブドウ球菌F-サブユニットロイコシジン(例えば、本明細書において開示されるLukF-PVL、LukDおよびHlgB、ならびにLukB)とオリゴマー化し、オリゴマー化によって膜貫通細孔を形成する(まとめてLukA活性といわれる)。
図1に示されるアライメントには、大多数のLukA配列のアミノ酸配列(本明細書においてSEQ ID NO:1と表される)、およびその対応する13種の異なる黄色ブドウ球菌株由来のLukAポリペプチドのアミノ酸配列(本明細書においてSEQ ID NO:2〜14と表される)が含まれる。
【0023】
SEQ ID NO:1〜14の各々におけるN末端の27アミノ酸残基は、天然の分泌/シグナル配列を表す。したがって、SEQ ID NO:1〜14の各々においてアミノ酸残基番号28〜351により表されるLukAの成熟な、分泌型は、本明細書において「LukA (28-351)」または「成熟LukA」ということができる。それに応じて、LukAの未熟型は本明細書において「LukA (1-351)」ということができる。
【0024】
SEQ ID NO:2〜14 (これは天然黄色ブドウ球菌LukAに関して網羅的ではない)に基づくLukAコンセンサス配列はしたがって、以下のように指定した、LukAの最低限64箇所の位置(バラツキの一連の位置をX
1〜X
64と表示する)にバラツキを含むであろう: 8位(X
1=LまたはF)、16位(X
2=AまたはV)、17位(X
3=IまたはL)、24位(X
4=TまたはN)、26位(X
5=QまたはE)、31位(X
6=HまたはN)、38位(X
7=NまたはT)、46位(X
8=SまたはA)、50位(X
9=EまたはD)、55位(X
10=TまたはN)、56位(X
11=NまたはD)、61位(X
12=SまたはT)、62位(X
13=TまたはP)、63位(X
14=A、GまたはV)、73位(X
15=IまたはV)、78位(X
16=EまたはV)、77位(X
17=TまたはS)、80位(X
18=VまたはE)、83位(X
19=EまたはK)、84位(X
20=EまたはK)、105位(X
21=VまたはI)、124位(X
22=KまたはR)、125位(X
23=EまたはN)、127位(X
24=K、TまたはN)、129位(X
25=SまたはA)、130位(X
26=NまたはS)、135位(X
27=KまたはQ)、146位(X
28=RまたはS)、148位(X
29=RまたはP)、173位(X
30=SまたはN)、174位(X
31=SまたはL)、181位(X
32=TまたはV)、184位(X
33=IまたはV)、195位(X
34=TまたはS)、202位(X
35=NまたはK)、208位(X
36=SまたはI)、214位(X
37=WまたはR)、221位(X
38=IまたはV)、229位(X
39=GまたはN)、231位(X
40=VまたはI)、237位(X
41=EまたはD)、239位(X
42=LまたはF)、243位(X
43=NまたはT)、246位(X
44=IまたはL)、247位(X
45=AまたはS)、278位(X
46=LまたはI)、283位(X
47=SまたはT)、285位(X
48=EまたはD)、288位(X
49=QまたはR)、299位(X
50=IまたはV)、303位(X
51=RまたはK)、309位(X
52=AまたはG)、310位(X
53=PまたはQ)、315位(X
54=KまたはQ)、318位(X
55=DまたはE)、322位(X
56=LまたはF)、325位(X
57=TまたはV)、338位(X
58=VまたはI)、339位(X
59=DまたはE)、342位(X
60=SまたはT)、344位(X
61=D、EまたはQ)、347位(X
62=PまたはS)、348位(X
63=YまたはF)、および349位(X
64=KまたはR)。
【0025】
LukBポリペプチド
黄色ブドウ球菌に生まれつき備わっているポリペプチドが、今回、本出願人らにより、公知のF-サブユニットロイコシジン(例えば、LukF-PVL、LukDおよびHlgB)の活性プロファイルを示すと特定された。本明細書においてまとめてLukBと表されるこれらのポリペプチドは、ヒト食細胞に結合される黄色ブドウ球菌S-サブユニットロイコシジン(例えば、本明細書において開示されるLukS-PVL、LukEおよびHlgC、ならびにLukA)と特異的にオリゴマー化し、オリゴマー化によって食細胞に膜貫通細孔を形成する(まとめてLukB活性といわれる)。
図2に示されるアライメントには、大多数のLukB配列のアミノ酸配列(本明細書においてSEQ ID NO:15と表される)、およびその対応する12種の異なる黄色ブドウ球菌株由来のLukBポリペプチドのアミノ酸配列(本明細書においてSEQ ID NO:16〜27と表される)が含まれる。
【0026】
SEQ ID NO:15〜27の各々におけるN末端の29アミノ酸残基は、分泌/シグナル配列を表す。したがって、SEQ ID NO:16〜27の各々においてアミノ酸残基番号30〜339により表されるLukBの成熟な、分泌型は、本明細書において「LukB (30-339)」または「成熟LukB」ということができる。それに応じて、LukBの未熟型は本明細書において「LukA (1-339)」ということができる。
【0027】
SEQ ID NO:15〜28 (これは天然黄色ブドウ球菌LukBに関して網羅的ではない)に基づくLukBコンセンサス配列はしたがって、以下のように指定した、LukBの最低限49箇所の位置(バラツキの一連の位置をX
1〜X
49と表示する)にバラツキを含むであろう: 5位(X
1=LまたはV)、6位(X
2=CまたはY)、13位(X
3=SまたはT)、15位(X
4=AまたはT)、16位(X
5=LまたはI)、19位(X
6=AまたはT)、20位(X
7=LまたはF)、23位(X
8=FまたはL)、26位(X
9=SまたはT)、28位(X
10=YまたはF)、34位(X
11=EまたはK)、36位(X
12=KまたはT)、37位(X
13=Q、TまたはA)、46位(X
14=DまたはE)、59位(X
15=SまたはT)、60位(X
16=QまたはE)、62位(X
17=NまたはK)、64位(X
18=TまたはS)、75位(X
19=PまたはK)、95位(X
20=KまたはR)、98位(X
21=N、dまたはE)、126位(X
22=Sまたは欠失)、159位(X
23=RまたはQ)、163位(X
24=TまたはP)、170位(X
25=SまたはK)、187位(X
26=LまたはI)、190位(X
27=SまたはP)、192位(X
28=SまたはT)、193位(X
29=SまたはT)、193位(X
29=HまたはN)、197位(X
30=GまたはA)、204位(X
31=SまたはL)、222位(X
32=DまたはN)、224位(X
33=TまたはV)、247位(X
34=NまたはD)、270位(X
35=NまたはK)、272位(X
36=KまたはE)、276位(X
37=R、QまたはK)、287位(X
38=DまたはE)、290位(X
39=LまたはI)、294位(X
40=KまたはR)、309位(X
41=QまたはK0、327位(X
42=DまたはN)、329位(X
43=LまたはF)、330位(X
44=IまたはV)、332位(X
45=tまたはV)、333位(X
46=f、IまたはL)、336位(X
47=KまたはN)、および338位(X
48=KまたはQ)。
【0028】
LukAおよびLukBロイコシジンは、1つまたは複数のさらなるアミノ酸挿入、置換または欠失という点で、それぞれSEQ ID NO:2〜14および16〜27と指定した天然ポリペプチドと異なることができ、例えば、SEQ ID NO:2〜14または16〜27内の1つまたは複数のアミノ酸残基を、機能的等価体として働き、サイレントな改変をもたらす、類似極性の別のアミノ酸により置換することができる。つまり、天然配列に対する変化が、天然LukAおよびLukBの基礎的特性をかなり損なうことはないであろう。例としてはSEQ ID NOS:1および15が挙げられる。LukAまたはLukBのそのような任意の類似体を、本明細書において開示されるプロトコル(例えば、細胞毒性アッセイ法および膜損傷アッセイ法)にしたがってスクリーニングし、それが天然のLukAまたはLukB活性を維持するかどうか判定することができる。これらのロイコシジン内の置換は、アミノ酸が属するクラスの他の成員から選択することができる。例えば、無極性(疎水性)アミノ酸はアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンを含む。極性中性アミノ酸はグリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンを含む。陽性荷電(塩基性)アミノ酸はアルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む。陰性荷電(酸性)アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0029】
他の態様において、LukAおよびLukBを不活性化または解毒する目的で、非保存的改変(例えば、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失および/または付加)を加えることができる。1つの態様において、無毒性LukA類似体は、位置342〜351におけるC末端アミノ酸が欠失されているという点で天然ポリペプチドとは異なる。SEQ ID NO:4〜6 (これはこれらの位置に9個のアミノ酸を含有する)を除いて、類似体は10個のC末端アミノ酸残基を欠く。まとめて、これらの類似体はLukAΔ10Cといわれる。解毒されたLukAおよびLukBを、本明細書において記述される能動ワクチン組成物において用いることができる。分子改変は、一本鎖鋳型(Kunkel, Proc. Acad. Sci., USA 82:488-492 (1985))、二本鎖DNA鋳型(Papworth, et al., Strategies 9(3):3-4 (1996))を用いたプラスミド鋳型上でのプライマー伸長を含む、当技術分野において周知の方法により、およびPCRクローニング(Braman, J. (ed.),
IN VITRO MUTAGENESIS PROTOCOLS, 2nd ed. Humana Press, Totowa, N.J. (2002)により達成することができる。LukAまたはLukBでの所与の分子改変がLukAB細胞毒性を低減するかどうか判定する方法が本明細書において記述される。
【0030】
それゆえ、前述したことを考慮しておよび本発明の目的で、LukAをSEQ ID NO:1〜14 (例えば、黄色ブドウ球菌のNewman株に生まれつき備わっているLukAポリペプチドであるSEQ ID NO:2)、またはそれと少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列類似性を有する(天然もしくは非天然)ポリペプチドのいずれかに関してさらに広く記述することができる。
【0031】
同様に、前述したことを考慮しておよび本発明の目的で、LukBをSEQ ID NO:15〜27 (例えば、黄色ブドウ球菌のNewman株に生まれつき備わっているLukBポリペプチドであるSEQ ID NO:27)、またはそれと少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列類似性を有する(天然もしくは非天然)ポリペプチドのいずれかに関してさらに広く記述することができる。
【0032】
したがって、反対の指示がない限り、天然LukAおよびLukBの未熟型および成熟型も、天然LukAと100%未満の類似性を有する配列(すなわち、まとめて本明細書において「LukA」および「LukB」といわれる、天然配列および似ている類似体)も、本発明の組成物および方法において、ならびに本発明の抗LukA抗体および抗LukB抗体を作出するために用いることができる。
【0033】
LukAおよびLukAをコードするポリヌクレオチドならびにLukAおよびLukBを合成または単離する方法
LukAおよびLukBロイコシジンは、当技術分野において周知である組み換えDNA法によって合成することができる。例えば、黄色ブドウ球菌(Newman)のLukAポリペプチド(SEQ ID NO:2)をコードするヌクレオチド配列(SEQ ID NO:28と指定した)を以下に示す。このポリペプチドをコードする縮重(例えば、組み換え発現の目的のために選択の宿主においてコドン選択という点で有用でありうる)配列、および他のLukAポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当技術分野において公知であり、または当業者によってデザインされることができる。
【0035】
黄色ブドウ球菌(Newman)のLukBポリペプチド(SEQ ID NO:27)をコードするヌクレオチド配列(本明細書においてSEQ ID NO:29と指定した)を以下に示す。このポリペプチドをコードする縮重(例えば、組み換え発現の目的のために選択の宿主においてコドン選択という点で有用でありうる)配列、および他のLukBポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当技術分野において公知であり、または当業者によってデザインされることができる。
【0037】
LukAをコードするポリヌクレオチドおよびLukBをコードするポリヌクレオチドを細菌(大腸菌(E. coli))、植物およびまたは酵母のような宿主において発現させ、その後、単離および精製することができる。あるいは、LukAおよびLukBロイコシジンを標準的な技法にしたがって黄色ブドウ球菌(例えば、Newman株)から単離することもできる。したがって、これらのロイコシジンは(天然または非天然環境から)単離することができる。それらはまた、黄色ブドウ球菌LukAおよびLukBがその天然状態において結び付いている他のタンパク質および細胞成分(すなわち、黄色ブドウ球菌細胞に存在するタンパク質および細胞成分)または非天然状態において結び付いている他のタンパク質および細胞成分(すなわち、組み換え細胞宿主のタンパク質および細胞成分)を実質的に含まないという点で精製することもできる。典型的には、少なくとも2つの連続的な手順の組み合わせを伴う、適当な精製スキームが当技術分野において公知である。アフィニティーカラムクロマトグラフィーおよび陽イオン交換液体クロマトグラフィーのような2つまたはそれ以上の標準的な技法の組み合わせまたは1つを用いた、Deutscher, Methods in Enzymology, 182 (1990); and Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, N.Y. (1982)を参照されたい。
【0038】
抗LukA抗体および抗LukB抗体
本発明の局面は、LukAに特異的に結合する抗LukA抗体、およびLukBに特異的に結合する抗LukB抗体、該抗体を含有する治療用組成物、ならびにその使用の方法を対象にする。本発明の目的で、「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、および抗体の遺伝子組み換え型、ならびにそれらの組み合わせを含む。より具体的には、「免疫グロブリン」という用語と互換的に用いられる「抗体」という用語は、全長(すなわち、天然に存在するまたは通常の免疫グロブリン遺伝子断片組み換え過程により形成された)免疫グロブリン分子(例えば、IgG抗体)、およびかさねて、天然に存在してもよい、または事実上合成による、その免疫学的に活性な断片(すなわち、全長免疫グロブリン分子の特異的な結合部分を含む)を含む。したがって「抗体断片」という用語はF(ab')
2、F(ab)
2、Fab'、Fab、Fv、scFvなどのような抗体の一部分を含む。構造にかかわらず、抗体断片は、全長抗体によって認識される同一抗原と結合し、本発明との関係においては、LukA、LukBまたはLukAB複合体と特異的に結合する。抗体断片を作出およびスクリーニングする方法は、当技術分野において周知である。
【0039】
いくつかの態様において、本発明の抗LukA抗体はHlgC、LukS-PVL、HlgA、LukS-I、LukE、LukEv、およびLukMのような他のブドウ球菌ロイコシジンS-サブユニットとある程度の交差反応性を持ちうる。同様に、いくつかの態様において、本発明の抗LukB抗体はLukF'-PV、LukF-PV、LukDv、LukD、LukF-I、およびHlgBのような他のブドウ球菌ロイコシジンF-サブユニットとある程度の交差反応性を持ちうる。抗LukA抗体および/または抗LukB抗体は、それぞれ、LukA活性およびLukB活性を阻害または低減することができる。いくつかの態様において、抗LukA抗体および/または抗LukB抗体は、それぞれ、LukA活性およびLukB活性を中和する(例えば、実質的に取り除く)。
【0040】
天然に存在する抗体は、典型的には、2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖を有し、各軽鎖が鎖間ジスルフィド結合によって重鎖に共有結合的に連結されており、複数のジスルフィド結合が2本の重鎖を互いとさらに連結している。個々の鎖は、類似のサイズ(110〜125アミノ酸)および構造を有するが、しかし異なる機能を有するドメインへ折り重なりうる。軽鎖は1つの可変ドメイン(VL)および/または1つの定常ドメイン(CL)を含むことができる。重鎖はまた、1つの可変ドメイン(VH)および/または、抗体のクラスもしくはアイソタイプに依り、3つもしくは4つの定常ドメイン(CHI、CH2、CH3およびCH4)を含むことができる。ヒトでは、アイソタイプはIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGはサブクラスまたはサブタイプ(IgA1〜2およびIgG1〜4)へさらに細分類される。
【0041】
一般に、可変ドメインは、とりわけ抗原結合部位の場所で、抗体ごとにかなりのアミノ酸配列のバラツキを示す。超可変領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域がVLおよびVHの各々において見出され、これらはフレームワーク可変領域と呼ばれるバラツキの少ない領域により支持されている。本発明の抗体はIgGモノクローナル抗体を含むが、しかし本発明の抗体はまた、抗体断片または遺伝子操作型を含む。これらは、例えば、Fv断片、または例示される抗体のCDRおよび/もしくは可変ドメインが単鎖抗原結合タンパク質として遺伝子操作されているタンパク質である。
【0042】
VLおよびVHドメインからなる抗体の部分は、Fv (断片可変部)と指定され、抗原結合部位を構成する。単鎖Fv (scFvまたはSCA)は、1本のポリペプチド鎖上のVLドメインおよびVHドメインを含有する抗体断片であり、その一方のドメインのN末端および他方のドメインのC末端がフレキシブルリンカーによって結び付けられている。単鎖抗体を産生するために用いられるペプチドリンカーは、典型的には、VLおよびVHドメインの適正な三次元的折り畳みが行われることを確実とするように選択されたフレキシブルペプチドである。このリンカーは、一般に10〜50アミノ酸残基であり、場合によってはさらに短く、例えば、約10〜30アミノ酸残基、または12〜30アミノ酸残基、あるいは場合により15〜25アミノ酸残基である。このようなリンカーペプチドの例には、4つのグリシン残基とそれに続くセリン残基の繰り返しが含まれる。
【0043】
単鎖抗体は、それらが由来する抗体全体のうちの定常ドメインの一部または全部を欠いている。それゆえ、単鎖抗体は、抗体全体の使用に伴う問題の一部を克服することができる。例えば、単鎖抗体は、重鎖定常領域と他の生体分子との間のある種の望ましくない相互作用を免れる傾向がある。これに加えて、単鎖抗体は抗体全体よりもかなり小さく、抗体全体よりも大きな浸透性を有することができる結果、単鎖抗体を局在化させ、標的抗原結合部位とより効率的に結合させることが可能になる。さらに、単鎖抗体のこの比較的小さなサイズによって、単鎖抗体は抗体全体よりもレシピエントにおいて不必要な免疫応答を引き起こす可能性が低くなる。
【0044】
Fab (断片、抗原結合性)は、VL、CL、VH、およびCH1ドメインからなる抗体の断片をいう。単純にパパイン消化後に作出されるものはFabといわれ、重鎖ヒンジ領域を保持しない。ペプシン消化後、重鎖ヒンジを保持するさまざまなFabが作出される。鎖間ジスルフィド結合が完全な状態のそれらの断片はF(ab')2といわれ、一方、単一のFab'はジスルフィド結合が保持されない場合に生じる。F(ab')
2断片は、一価Fab断片よりも抗原に対して高い結合活性を有する。
【0045】
Fc (断片、結晶化)は、対合した重鎖定常ドメインを含む抗体の部分または断片の呼称である。例えば、IgG抗体では、FcはCH2およびCH3ドメインを含む。IgAまたはIgM抗体のFcはさらに、CH4ドメインを含む。このFcは、Fc受容体の結合、補体媒介性細胞毒性の活性化および抗体依存性細胞毒性(ADCC)と関連がある。多重IgG様タンパク質の複合体であるIgAおよびIgMなどの抗体の場合、複合体形成にはFc定常ドメインが必要になる。
【0046】
最終的には、ヒンジ領域が抗体のFabおよびFc部分を分離し、Fabの、互いに対するおよびFcに対する易動性を与えるほか、2つの重鎖の共有結合による連結のための多重ジスルフィド結合を囲い込む。
【0047】
抗体「特異性」は、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識をいう。「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンもしくはT細胞受容体への特異的結合ができるか、または分子と別の方法で相互作用ができる任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は、一般的に、アミノ酸もしくは糖質、または糖の側鎖のような分子の化学的に活性な表面集団からなり、かつ、一般的に、特異的な三次元構造特性、ならびに特異的な電荷特性を有する。エピトープは「線状」または「立体配座」でありうる。線状エピトープにおいて、タンパク質と、相互作用する分子(抗体のような)との間の相互作用点の全てが、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って線状に現れる。立体配座のエピトープにおいて、相互作用点は互いに分離したタンパク質上のアミノ酸残基、すなわち、タンパク質の三次折り畳みによって近接して並べられた非連続アミノ酸にわたって現れる。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒への暴露によっても保持され、一方、三次折り畳みによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒での処理によって失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、通常は、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を、固有の空間的立体配座に含む。同じエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が別の抗体の標的抗原への結合を遮断する能力を示す単純な免疫アッセイ法において確認することができる。
【0048】
本発明のモノクローナル抗体はマウス、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体でありうる。ヒト化抗体は、ある種、例えば、げっ歯類、ウサギ、イヌ、ヤギ、ウマ、もしくはニワトリ抗体(または任意の他の適当な動物抗体)由来の抗体のCDRがげっ歯類抗体の重可変鎖および軽可変鎖から、ヒト重可変ドメインおよび軽可変ドメインへ移入される、組み換えタンパク質である。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体の定常ドメインに由来する。ヒト化抗体を作出するための方法は、当技術分野において周知である。キメラ抗体は、好ましくは、ヒト抗体定常領域に実質的にまたは排他的に由来する定常領域、およびヒト以外の哺乳類の可変領域の配列に実質的にまたは排他的に由来する可変領域を有する。キメラ化の過程は、マウス(または他の非ヒト哺乳類)抗体の、超可変領域または相補性決定領域(CDR)以外の、可変領域を、対応するヒト配列と置き換えることによってもさらに効果的に行うことができる。CDR以外の可変領域は可変フレームワーク領域(FR)としても公知である。本発明のさらに他のモノクローナル抗体は、LukAおよびLukBの両方に対する特異性を有するという点で、二重特異性である。二重特異性抗体は、好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体である。
【0049】
上記の抗体は標準的な技法にしたがって得ることができる。例えば、LukA、LukB (これらは、これらの用語を本明細書において用いる場合、LukAΔ10Cのようなその無毒性類似体を含む)またはLukAもしくはLukBの免疫学的に活性な断片を対象(例えば、ヒトまたはマウスのような哺乳類)に投与することができる。ロイコシジンはそれ自体で免疫原として使われてもよく、またはそれらは担体タンパク質もしくは他の物体、例えばセファロースビーズのようなビーズに付着されてもよい。哺乳類が抗体を産生した後に、脾細胞のような、抗体産生細胞の混合物を単離し、それからポリクローナル抗体を得ることができる。個々の抗体産生細胞を混合物から単離し、例えば、それらを骨髄腫細胞のような、腫瘍細胞と融合することで、それらを不死化することにより、モノクローナル抗体が産生されてもよい。得られたハイブリドーマを培地中で保存し、モノクローナル抗体を培地から回収する。
【0050】
組み換えモノクローナル抗体を作出するための技法は、当技術分野において周知である。LukA、LukBまたはLukABを免疫原として用い、米国特許出願公開第2002/0009453号に記述されている方法に類似した方法によって組み換えポリクローナル抗体を産生することができる。
【0051】
治療用組成物
LukAおよびLukBは、限局性急性炎症状態を含む、急性炎症状態の処置において抗炎症剤として用いるための治療用組成物へ処方することができる。LukAおよびLukBはまた、能動ワクチンとして用いるための治療用組成物へ処方することもできる。抗LukA抗体および抗LukB抗体は、受動ワクチンとして用いるための治療用組成物へ処方することができる。受動および能動ワクチンを予防的に用いて、黄色ブドウ球菌感染の発症を阻止することができ、または治療的に用いて、黄色ブドウ球菌感染、具体的には、難治性であることが知られた、もしくは特定の対象の場合、他の従来の抗生物質治療による処置に対して難治性と証明された、MRSAのような黄色ブドウ球菌感染を処置することができる。
【0052】
治療用組成物が能動ワクチンとしての使用を意図される態様において、LukAおよび/またはLukBは、毒性の低減を示すように改変することができる。分子改変は前述されている。したがって、LukAΔ10Cのような、その無毒性類似体を用いることができる。本出願人らは、無毒性の免疫原に応じて産生された抗体が毒性の、天然LukAまたはLukABを中和するものと考える。LukAおよびLukBの毒性を低減する目的のための他の改変には、化学的処理(例えば、特定のアミノ酸残基の修飾)または別の部分への(例えば、細菌性多糖類もしくは細菌性糖タンパク質のような、別の細菌性抗原への)結合が含まれる。不活性化もしくは解毒(または毒性の低減)の目的のための他の黄色ブドウ球菌毒素に対する化学的改変は公知である。所与の改変がLukAまたはLukBの毒性を低減するかどうか判定する方法は、当技術分野において公知であり、および/または本明細書において記述されている。
【0053】
本発明の治療用組成物は、LukAおよびLukB、または抗LukA抗体および抗LukB抗体を、薬学的に許容される担体および任意で、薬学的に許容される賦形剤で処方することによって調製される。本明細書において用いられる場合、用語「薬学的に許容される担体」および「薬学的に許容される賦形剤」(例えば、希釈剤、免疫刺激剤、補助剤、抗酸化物質、保存料および可溶化剤のような添加物)は、利用される投与量および濃度で、それに曝露されている細胞または哺乳類に対して無毒性である。薬学的に許容される担体の例としては、例えばリン酸、クエン酸および別の有機酸で緩衝化された、水が挙げられる。本発明において有用でありうる薬学的に許容される賦形剤の代表例としては、アスコルビン酸のような抗酸化物質; 低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド; 血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンのような、タンパク質; 補助剤(米国特許第6,355,625号に記述されているβ-グルカン、もしくは顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)などの、補助剤による毒性を回避するように選択された); ポリビニルピロリドンのような親水性重合体; グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリジンのようなアミノ酸; グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含めて単糖類、二糖類、および他の糖質; EDTAのようなキレート剤; マンニトールもしくはソルビトールのような糖アルコール; ナトリウムのような塩形成対イオン; ならびに/またはTWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(登録商標)のような非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0054】
本明細書の他の箇所に記述されているように、本発明の治療用組成物は少なくとも1つのさらなる活性薬剤を含有することができる。
【0055】
本発明の治療用組成物は、凍結乾燥された処方物または水溶液の形態で、所望の純度を有する活性成分を薬学的に許容される担体ならびに任意的な賦形剤および/またはさらなる活性薬剤と混合することにより貯蔵用に調製することができる。
【0056】
治療用組成物の使用 -- 適応症
急性炎症状態
炎症は、病原体(例えば、細菌およびウイルス)、損傷細胞および刺激物などの有害な侵入性の刺激を除去するための、ならびに治癒を開始するための防御生物学的応答と一般的に理解されている。炎症は、より具体的には、損傷に対して血管新生された生きている組織の反応と理解されている。したがって、炎症は、物理的、化学的または生物学的因子により引き起こされる損傷または異常刺激に応じた罹患血管および隣接組織の細胞学的および化学的反応の、定型化した基本固定概念である。炎症は、通常、損傷部位での体液および血液細胞の蓄積をもたらし、通常、治癒過程である。炎症過程がなければ、創傷および感染は治癒せず、組織の進行性破壊が致命的となるであろう。急性炎症は、侵入性の刺激に対する身体の初期応答をいい、損傷組織または感染組織への血漿および白血球の動員を伴う。慢性炎症ともいわれる、長期の炎症は、炎症部位に存在する免疫細胞のタイプの進行性の変化を伴い、炎症過程からの組織の同時の破壊および治癒によって特徴付けられる。
【0057】
しかしながら、炎症は時に、通常は炎症の正常な進行の機能不全を通じて、害を及ぼす。炎症性疾患は、炎症に関するもの、炎症によって特徴付けられるもの、炎症を引き起こすもの、炎症から生じるもの、または炎症の影響を受けているものである。「急性炎症状態」は、この用語が本明細書において、および通常の医学用語にしたがって用いられる場合、急激な発症および重篤な症状を有する炎症状態をいう。患者の通常状態から炎症症状の重篤な徴候が現れるまでの発症の期間は、一般に約72時間まで続く。急性炎症状態は、疾患がほとんど変化を示さないかまたはゆっくりと進むことを意味する、長期間の炎症状態である慢性炎症状態と対照的である。急性状態と慢性状態の区別は、医学の専門家にとって周知である。
【0058】
炎症の急性期に関わる、および急性炎症性障害に関わる主要な免疫細胞には、単核細胞(例えば、単球、これは炎症に応じてマクロファージへ分化する); 樹状細胞、および好中球(これは炎症部位へ移動する)が含まれる。これらの免疫細胞は、ヒスタミン、インターフェロン-γ、インターロイキン-8、ロイコトリエンB4、酸化窒素などのような炎症性メディエータを放出することにより、ならびに細菌、ウイルスおよび細胞残屑を捕食すること(食作用として公知の過程)により炎症応答を補助する。これらの細胞は、まとめて食細胞として当技術分野において公知である。
【0059】
本出願人らは、LukABがヒト食細胞を標的化し、殺処理すること、およびこのLukAB媒介性細胞毒性はこれらの細胞に対して実質的に特異的であるが、他の有核哺乳類細胞に対してはそうでないことを発見した。いずれかの特定の動作理論によって束縛することを意図するわけではないが、本出願人らは、LukA/LukB複合体が浸潤食細胞の原形質膜上に細孔を形成し、細胞死を引き起こし、かくして炎症を低減するものと考える。したがって、本発明の抗炎症性組成物は、原因にかかわらず、ヒトのような哺乳類における急性炎症状態、例えば、任意の細菌感染またはウイルス感染、および好ましい態様において、限局性急性炎症状態の処置において有用でありうる。そのような状態の他の例としては、アレルギー性接触皮膚炎、急性過敏症、急性神経炎症性損傷(例えば、急性感染によって引き起こされる)、急性心筋梗塞、心肺バイパス手術から生じる急性ニューロン損傷、および細菌感染またはウイルス感染によって引き起こされる急性の、限局性抗炎症状態が挙げられる。
【0060】
好ましい態様において、急性炎症状態は皮膚または軟組織における感染創である。本発明による処置を受け入れられる創傷は、生きている組織の穿刺、切傷または裂傷の形態でありうる。皮膚の創傷は表皮、真皮、または全層創傷の場合には皮下組織まで達しうる。したがって、本発明の治療用組成物で処置できる創傷には、例えば心臓切開手術後の、深部胸骨創傷ならびに腹部手術および任意の他のタイプの外科手術後の術後創傷が含まれる。他の創傷は、銃発砲、ナイフ、または皮膚に切傷もしくは裂傷を引き起こしうる任意の他の物体によるような外傷から生じるものである。投薬の副作用として生じる創傷またはさまざまな病態の症状として生じる創傷(例えば、カポジ肉腫と関連する潰瘍)、ならびに内部創傷(例えば、裂肛、および胃腸管に対する創傷または損傷、例えば胃または腸内の潰瘍)はまた、本発明による処置を受け入れることができる。
【0061】
本発明の治療用組成物による処置を受け入れることができるさらに他の急性炎症状態には、結膜炎、虹彩炎、ブドウ膜炎、中心性網膜炎、外耳炎、急性化膿性中耳炎、乳様突起炎、内耳炎、慢性鼻炎、急性鼻炎、副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎、接触皮膚炎、皮膚壊死、糖尿病性多発性神経炎、多発性筋炎、骨化性筋炎、変形性関節症、関節リウマチ、肩関節周囲炎、および変形性骨炎が含まれる。
【0062】
黄色ブドウ球菌感染
本発明はまた、抗体組成物を、それを必要としている哺乳類対象に投与することにより黄色ブドウ球菌感染の発症を阻止するまたは黄色ブドウ球菌感染を処置する方法を提供する。本発明の目的上、標的の対象集団には、黄色ブドウ球菌に感染している、または黄色ブドウ球菌に感染するリスクがある、ヒトのような、哺乳類が含まれる。いくつかの態様において、処置される対象は、MRSAを含む黄色ブドウ球菌に感染しており、および/または抗生物質もしくは他の治療剤で既に処置されたが、処置に失敗している。
【0063】
治療的有効量
急性炎症状態の処置との関連で、LukAおよびLukBの量は、処置が症状の数の低減、少なくとも1つの症状の重症度の減少、または少なくとも1つの症状のさらなる進行の遅延、または場合により急性炎症状態の完全な緩和のいずれかの1つまたは複数を達成できるという意味で治療的に有効である。
【0064】
黄色ブドウ球菌感染に関連して受動または能動ワクチンとしての治療用組成物の使用との関連で、LukAおよびLukB、または抗LukA抗体および抗LukB抗体の治療的有効量はまた、該組成物の投与が、リスクのある者での黄色ブドウ球菌感染の阻止もしくは抑止、および黄色ブドウ球菌に感染している哺乳類対象という観点では、症状の数の低減、少なくとも1つの症状の重症度の減少、または少なくとも1つの症状のさらなる進行の遅延、または場合により感染の完全な緩和のいずれかの1つまたは複数を達成できるという意味で予防的に有効である。
【0065】
概して、LukA、LukB、ならびに抗LukA抗体および抗LukB抗体の治療的有効量は、例えば、組成物中のこれらの活性薬剤の濃度、投与の方法および頻度、処置(または予防)される急性炎症状態または黄色ブドウ球菌感染の重症度、ならびに年齢、体重、健康全般および免疫状態のような、対象の詳細を含む、多数の要因を考慮に入れた、標準的な手順にしたがって判定することができる。一般的な手引きは、例えば、International Conference on Harmonizationの刊行物のなかで、およびREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Mack Publishing Company 1990)のなかで見出すことができる。臨床医は、望まれるまたは必要とされる予防効果または治療効果を与える投与量に達するまで、LukAおよびLukBまたは抗LukA抗体および抗LukB抗体を投与することができる。この治療の進行を従来のアッセイ法によって容易にモニタリングすることができる。
【0066】
LukAおよびLukBの治療的有効量は、典型的には、1用量あたりまたは1日に、LukAおよびLukBのそれぞれ1〜400μgに及ぶ。好ましくは、LukAおよびLukBの量は実質的に同じである。抗体組成物の治療的有効量は、典型的には、1用量あたりまたは1日に、少なくとも100 mg/kg、少なくとも150 mg/kg、少なくとも200 mg/kg、少なくとも250 mg/kg、少なくとも500 mg/kg、少なくとも750 mg/kgおよび少なくとも1000 mg/kgを含めて、体重1キログラムあたり少なくとも50 mg (mg/kg)の組成物である。モノクローナル抗体組成物の投与量はもっと低くなる、例えば非モノクローナル抗体組成物の約10分の1、例えば少なくとも約5 mg/kg、少なくとも約10 mg/kg、少なくとも約15 mg/kg、少なくとも約20 mg/kg、または少なくとも約25 mg/kgである傾向がありうる。
【0067】
投与方法
投与の前に、本発明の治療用組成物は滅菌されてもよく、これは凍結乾燥および再構成の前にまたは後に、滅菌ろ過膜を通じたろ過によって容易に達成することができる。治療用組成物は、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって貫通されうるストッパを有するバイアルの中に入れることができる。
【0068】
抗炎症性組成物は、受け入れられている医療行為にしたがっていくつもの経路により投与することができる。好ましい方法には、当技術分野において公知である技法を用いた、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与および経皮投与が含まれる。他の投与経路が想定されてもよい。限局化されている急性炎症状態の処置の場合には、非全身性の投与が好ましいこともあり、その場合、治療用組成物の投与は急性炎症の部位またはその部位の周辺である。
【0069】
併用療法
いくつかの態様において、治療用組成物は、処置されている黄色ブドウ球菌感染または急性炎症状態の性質に依り、別の活性薬剤とともに併用療法の一部として投与される。そのようなさらなる活性薬剤には、抗感染症剤、抗生物質製剤、および抗菌剤が含まれる。本発明において有用でありうる代表的な抗感染症剤には、バンコマイシンおよびリソスタフィンが含まれる。本発明において有用でありうる代表的な抗生物質製剤および抗菌剤には、バンコマイシン、リソスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシンおよびクリンダマイシンを含めて、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、セファロスポリンおよびカルバペネムが含まれる。これらの抗生物質の投与量は、当技術分野において周知である。例えば、MERCK MANUAL OF DIAGNOSIS AND THERAPY, Section 13, Ch. 157, 100
th Ed. (Beers & Berkow, eds., 2004)を参照されたい。抗炎症剤、抗感染症剤、抗生物質および/または抗菌剤は、投与の前に混ぜ合わされてもよく、あるいは本発明の治療用組成物と同時に(同じ組成物の一部としてもしくは異なる組成物によって)または連続的に投与されてもよい。
【0070】
いくつかの態様において、抗LukA抗体および/または抗LukB抗体組成物は、これがまた、別の細菌抗原に特異的に結合する(および任意で、他の細菌抗原を中和する)抗体を含有するという点で多価である。これらの抗体はワクチン組成物との関連で本明細書において記述される抗原のいずれかに特異的に結合することができる。したがって、例えば、他の抗体は黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、ロイコシジン成分、例えばPVL (個々のPVLサブユニット、LukS-PVおよびLukF-PVを含む)、γ-ヘモリジンサブユニット(HlgA、HlgB、およびHlgC)、黄色ブドウ球菌由来のLukEまたはLukD、黄色ブドウ球菌由来のLukMまたはLukF'-PV、リポタイコ酸(LTA)ならびに接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質を含めて、多糖類または糖タンパク質に特異的に結合することができる。
【0071】
処置計画
本発明の治療用組成物は単回の用量で、または複数投薬プロトコルにしたがって投与することができる。例えば、1用量または2用量のような、比較的少用量の治療用組成物が投与される。数日間または数週間にわたる複数用量を一般的に伴う、従来の抗生物質療法を含む態様において、抗生物質は一定期間、例えば少なくとも5日間、10日間または場合により14日間もしくはそれ以上の日数の間、毎日1回、2回もしくは3回またはそれ以上の回数、服用されうるが、一方で抗体組成物は、通常、1回または2回だけ投与される。しかしながら、当業者は、治療用組成物および抗生物質のさまざまな投与量、投与のタイミングおよび相対量を選択および調節することができる。
【0072】
LukAB媒介性細胞毒性の阻害剤ならびに毒性のより低いLukAおよびLukBの改変型を特定する方法
抗LukA抗体および抗LukB抗体、およびその断片、ならびに他の潜在的な治療的部分(例えば、有機小分子)をさまざまな方法(アッセイ形式またはスクリーニングを含む)で用いて、LukAB媒介性細胞毒性を阻害するその能力を評価することができる。下記のように、これらの方法は、LukAB媒介性細胞毒性およびヒト食細胞の溶解をもたらす事象のカスケードのいくつかの局面を阻害する薬剤を特定するようにデザインされる。これらの方法はまた、天然の対応物に比べて低減した毒性を保有するLukAおよびLukBの改変型を特定するようにデザインされる。カスケードの一部であり標的化される事象には、例えば、食細胞膜へのLukAの結合、LukAへのLukBの結合(LukABオリゴマー化)、およびLukABオリゴマーによって形成された膜細孔の遮断が含まれる。アッセイ形式には一般に、ヒト食細胞(またはそのLukAB膜結合部分)、適当な培地、ならびに精製されたLukAまたは精製されたLukAおよびLukBが必要とされる。
【0073】
当業者は、以下のプロトコルが単に例示にすぎないこと、ならびに反応条件、検出可能な標識および装置(例えば、検出および定量化のための器具類)の選択などのさまざまな操作パラメータを、適切であると考えられるように変えられることを理解するであろう。
【0074】
以下の方法は、広くは、影響を受けるカスケードにおける正確な事象を必ずしも明らかにすることなしに、LukAB細胞毒性を阻害する薬剤を特定することを対象にする。
【0075】
LukAB細胞毒性の阻害剤を特定するために、ヒト食細胞(例えばPMN-HL60細胞)を384ウェル透明底黒色組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量50μl中5×10
3個の細胞/ウェルでプレーティングすることができる。細胞を次に、試験化合物/分子(およそ5μl/さまざまな濃度)とで接触/混合/反応/処理させることができ、その後、LukAおよびLukBで傷害することができるが、これらは、好ましい態様において、実質的に精製されており(およそ0.001から2μM溶液5 ul)、LukAおよびLukBによる食細胞の傷害を可能にする培養条件の下、例えば、37℃、5% CO
2で1時間、一緒に加えられることが好ましい。対照として、細胞を培地で処理することができ(100%生存)、および0.1% v/v Triton X100で処理することができる(100%死滅)。
【0076】
これらの態様において、上記のようにして処理された細胞を次に、CellTiter (Promega) (これは細胞の代謝活性の定量化により培養における生存細胞の数を測定することによって吸光度を介した細胞生存性の判定を可能にする)のような、細胞生存性をモニタリングするための色素とともにインキュベートし、さらなる時間(例えば、37℃、5% CO
2で約2時間)インキュベートすることができる。細胞生存性を次いで、例えば、プレートリーダー、例えばEnvision 2103 Multi-label Reader (Perkin-Elmer)を用い492 nmで比色反応を測定することにより判定することができる。%生存細胞は、例えば以下の方程式を用いることによって、計算することができる: %生存性 = 100×[(Ab
492 サンプル - Ab
492 Triton X)/(Ab
492 組織培地)。100%生存性の増加から、LukAB細胞毒性の阻害が示唆される。
【0077】
このアッセイ法の変形を膜損傷アッセイ法という。これらの態様において、上記のようにして処理された(例えば、試験化合物/分子による細胞の処理、その後、精製LukAによる細胞の傷害を含むそれ以下の)細胞を次いで、SYTOXグリーン(0.1μM; Invitrogen)のような細胞非透過性の蛍光色素とともに(製造元の使用説明書にしたがって)インキュベートし、例えば、暗所中にて室温でさらに15分間インキュベートすることができる。次に蛍光を、膜損傷の指標として、Envision 2103 Multilabel Reader (Perkin-Elmer)のようなプレートリーダーを用い励起485 nm、発光535 nmで測定することができる。蛍光の減少から、LukAB細胞毒性の阻害が示唆される。
【0078】
全体として、これらのアッセイ法は、ヒト食細胞に対するLukAB細胞毒性効果を阻害または低減する化合物の特定を容易にする。
【0079】
特に上記の方法から阻害活性が明らかにされれば、上記の方法と併せてまたは独立して、生化学的カスケードにおけるどんな事象が作用物質によって影響を受けているか、または標的とされているかを当業者がもっと正確に判定することを可能にする、さらなる方法を用いることができる。これらの事象には、食細胞膜へのLukAの結合、LukAへのLukBの結合(LukABオリゴマー化)、およびLukABオリゴマーによって形成された膜細孔の遮断が含まれる。
【0080】
標的細胞へのLukA結合の阻害剤のスクリーニング
傷害過程における第1段階であるものと考えられる、標的細胞へのLukAの結合を遮断または低減する阻害剤をスクリーニングするために、ヒト食細胞(例えばPMN-HL60細胞)を384ウェル平底組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量50μl中2.5×10
3個の細胞/ウェルでプレーティングすることができる。次に細胞を試験化合物/分子(およそ5μl/さまざまな濃度)で処理し、精製され、蛍光的に標識されたLukA (例えば、FITC、Cy3、Cy5、APC、PE)およそ0.01〜2μMの溶液5 ulで37℃、5% CO
2にて1時間傷害することができる。試験される化合物/分子の効力を評価するため、例えば、ハイコンテントスクリーニングおよびハイコンテント分析用にデザインされた自動蛍光顕微鏡画像化システム(例えばCellomics ArrayScan HCS Reader (Thermo Scientific) (励起485 nm、発光535 nm))を用い、細胞へのLukAの結合の指標として細胞結合型の蛍光を測定することができる。
【0081】
LukA-LukBオリゴマー化/相互作用の阻害剤のスクリーニング
傷害過程における第2段階であるものと考えられる、LukA/LukB相互作用を遮断または低減する阻害剤をスクリーニングするために、ヒト食細胞(例えばPMN-HL60細胞)を384ウェル平底組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量50μl中2.5×10
3個の細胞/ウェルでプレーティングすることができる。次に細胞を試験化合物/分子で処理し、その後、精製されたLukAと、FITC、Cy3、Cy5、APC、およびPEのような蛍光分子で蛍光的に標識されている精製されたLukBとの混合物で傷害することができ、傷害過程を完了するように(例えば、37℃、5% CO
2で1時間)静置させることができる。試験される化合物/分子の効力を評価するため、例えば、ハイコンテントスクリーニングおよびハイコンテント分析用にデザインされた自動蛍光顕微鏡画像化システム(例えばCellomics ArrayScan HCS Reader (Thermo Scientific) (励起485 nm、発光535 nm))を用い、LukA/LukB-FITC相互作用の指標として細胞結合型LukB-FITCの蛍光を測定することができる。
【0082】
LukAB細孔形成の阻害剤のスクリーニング
LukAB細孔の形成を遮断または阻害する阻害剤、細胞溶解をもたらすエフェクタ分子をスクリーニングするために、ヒト食細胞(例えばPMN-HL60細胞)を384ウェル透明底黒色組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量50μl中2.5×10
3個の細胞/ウェルでプレーティングすることができる。次に細胞を試験化合物/分子(さまざまな濃度を含有するおよそ5μl)で処理し、その後、精製されたLukAB (およそ0.001〜2μm)で37℃、5% CO
2にて10分間傷害することができる。対照として、PMN-HL60細胞を培地で処理することができ(陰性対照)、および0.1% v/v Triton X100で処理することができる(陽性対照)。
【0083】
宿主細胞の表面上のLukAB細孔を直接評価するために、臭化エチジウム(EB)流入アッセイ法を用いることができる。EBは、健常宿主細胞に非透過性である小さな陽イオン性色素である。LukABによる陽イオン性の細孔の形成により、EBは細胞に侵入してDNAに結合し、これによって蛍光を生ずる。このように処理した細胞を次に、暗所中にて室温でさらに5分間EB (5μM)とともにインキュベートすることができる。LukAB細孔形成を阻害する際の試験化合物/分子の効力を評価するため、Envision 2103 Multilabel Reader (Perkin-Elmer)のようなプレートリーダーを励起530 nm、発光590 nmで用い、細孔形成の指標として蛍光を測定することができる。このアッセイ法によって、LukAB細孔を遮断または阻害できる分子の特定が容易となり、これによってLukABを介した毒性が緩和されよう。
【0084】
黄色ブドウ球菌臨床分離株によるLukABの産生を判定し、感染の重症度を予測する方法
本発明のさらなる局面は、感染した対象から得られた生体サンプルにおける、LukAおよび/もしくはLukB、またはその対応する遺伝子の存在または量の検出を伴う、黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測または評価する方法を対象にする。したがって、ほんのわずかなまたは検出不能な量のLukAおよび/またはLukBを産生する対照(例えば、黄色ブドウ球菌株USA100およびUSA400)と比べて、LukAおよび/もしくはLukBの存在もしくは比較的多量の検出、またはその対応遺伝子(例えば、黄色ブドウ球菌株Newman、4645、ならびにMRSA株USA300およびUSA500によって示される)の検出は、重篤な感染を示す。LukAおよび/またはLukBの相対量の検出または存在に関して、
図4Aのイラストを参照することができる。この方法の代表的な態様を以下に記述する。
【0085】
LukAおよびLukBレベルを判定するための免疫ブロット分析
LukABレベル(すなわち、LukAB産生)を判定するために、生体サンプル、例えば、体液(例えば、血液)または組織サンプルを感染対象から入手し、引き続いて黄色ブドウ球菌の増殖を可能とするのに適した培養条件への培養物の曝露、培養上清の入手、そこからの細菌タンパク質の分離、LukAおよび/またはLukBの特定、その後、LukAおよび/またはLukBの定量化を行う。より具体的には、1つの態様において、臨床分離株を適当な培地、例えば、1%カザミノ酸を補充したRoyal Park Memorial Institute培地1640 (RPMI; Invitrogen) (RPMI+CAS)中にて、適当な培養条件の下で、例えば、180 rpmで振盪させながら37℃で12〜18時間、選択および増殖することができる。次いで細菌を遠心分離によって沈殿させることができ、培養上清を回収することができる。次に培養上清(およそ30μl)をSDS-Laemmli緩衝液10μlと混合することができ、95℃で10分間煮沸することができる。次にタンパク質を、例えば、15% SDS-PAGEゲルを用いて分離することができ、その後、固体支持体、例えば、ニトロセルロース膜に転写することができる。この膜を次に、LukAまたはLukBに対して作製された抗体(例えば、ウサギポリクローナル抗体)とともにインキュベートすることができ、抗体-LukA/抗体-LukB複合体をフルオロフォアに結合された二次抗体(例えば、AlexaFluor-680に結合された抗ウサギ抗体; Invitrogen)で検出することにより、LukAまたはLukBの存在を可視化することができる。次いで膜を乾燥し、例えば、Odyssey赤外線撮像システム(LI-COR Biosciences)を用い走査して、LukAおよびLukBの量を判定することができる。
【0086】
LukAおよび/またはLukB遺伝子の存在を判定するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
LukABをコードする遺伝子の存在について判定するために、生体サンプルを感染対象から入手し、引き続いて黄色ブドウ球菌の増殖を可能とするのに適した培養条件への培養物の曝露、培養黄色ブドウ球菌からの核酸の抽出、その後、LukAおよび/またはLukB特異的なプライマーを用い、PCRまたは他の適当な増幅プロトコルを用いた少なくとも1ラウンドの核酸増幅の実施、ならびにLukAおよび/またはLukBの検出を行う。したがって、1つの代表的な態様において、最初のサンプル調製の後、臨床分離株を固形培地、例えば、37℃にて1.5%の寒天で固化されたトリプティックソイブロス(TSB)中で/上で増殖させることができる。次いで黄色ブドウ球菌コロニーを選択し、例えば、37℃で10分間TSM緩衝液(100 mM TRIS pH 7、500 mMスクロース、10 mM MgCl
2)中2 mg/mlのリソスタフィン(AMBI PRODUCTS LLC)で酵素的に消化することができる。次いでサンプルを遠心分離し、上清を捨て、ペレットを滅菌水100μlで再懸濁し、引き続き100℃で5分間の煮沸、および遠心分離を行うことができる。上清は、出発材料ならびにLukAおよび/またはLukB特異的なプライマーを用いたPCRなどの増幅反応用のDNA鋳型をもたらす。
【実施例】
【0087】
本発明をこれから、以下の非限定的な例を参照することによって記述する。特別の定めのない限り、全ての部分は重量によるものである。
【0088】
実施例1: 天然条件下での組み換えLukAおよびLukBの発現および精製: pMAL発現系
LukAおよびLukB遺伝子を、以下のプライマーを用いアニーリング温度55℃の標準的PCRの設定の下でTaqポリメラーゼにより黄色ブドウ球菌DNAから増幅した: LukAの場合には
および
ならびにLukBの場合には
および
。
LukAおよびLukB遺伝子産物をNde1およびSal1 (New England BioLabs)で消化し、pMAL-c4Xベクター(New England BioLabs)へ核酸連結した。この構築体を大腸菌株DH5αへ形質転換し、配列決定によってプラスミド挿入断片を確認した。形質転換体を、培養物がおよそ0.5のA
600に達するまで、100 ug/mlのアンピシリンおよび0.2%のグルコースを有するTerrific Broth中にて37℃で増殖させた。6-his-タグ付MBP-LukAまたは6-his-タグ付MBP-LukBの発現を180 rpmで振盪させながら、16℃にて終夜、0.3 mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。
【0089】
誘導後、細胞を20分間4℃にて4000 rpmでの遠心分離によって収集し、EDTA不含プロテアーゼ阻害剤を補充した氷冷カラム緩衝液(20 mM Tris-HCL、200 mM NaCl、および1 mM EDTA) (Roche)に再懸濁した。細菌細胞を氷上で1分間超音波処理(10秒のパルス)した。サンプルを30分間4℃にて10,000 rpmで遠心分離し、上清を回収し、アミロース樹脂カラムへアプライした。カラムをカラム緩衝液で2回洗浄し、精製された6-his-タグ付MBP-LukAまたは6-his-タグ付MBP-LukBを、10 mMマルトースを補充したカラム緩衝液により10画分中に溶出させた。
【0090】
実施例2: 組み換え活性LukA、LukAΔ10C、Δ33NLukAおよびLukB毒素の発現および精製: pET14b発現系
LukA、LukAΔ10C、Δ33NLukAおよびLukB遺伝子を、以下のプライマーを用いアニーリング温度55℃の標準的PCRの設定の下でVentポリメラーゼ(New England BioLabs)により黄色ブドウ球菌DNAから増幅した: LukAの場合には
;
LukAΔ10Cの場合には
;
Δ33NLukAの場合には
;
LukBの場合には
。
遺伝子産物をXho1およびBamH1 (New England BioLabs)で消化し、pET14bベクター(Novagen)へ核酸連結し、遺伝子の5'領域にヒスチジンタグのコード配列を融合した。この発現プラスミドを大腸菌株DH5αへ形質転換し、プラスミド挿入断片を配列決定によって確認した。プラスミドを精製し、発現大腸菌株T7 lysY/lq (New England BioLabs)へ形質転換した。
【0091】
変性条件下での精製の場合、形質転換体を、培養物がおよそ0.5のA600に達するまで、100μg/mlのアンピシリンを有するTerrific Broth中にて37℃で増殖させた。6-his-タグ付LukAまたは6-hisLukBの発現を180 rpmで振盪させながら、37℃にて3時間、0.4 mMのIPTGで誘導した。誘導後、細胞を15分間4℃にて4000 rpmでの遠心分離によって収集し、その後、1×TBS (50 mM Tris、150 mM NaCl、pH 7.5)に再懸濁した。細菌細胞を氷上で2分間超音波処理(10秒のパルス)した。超音波処理した細菌を50,000 rpmで30分間、超遠心分離した。ペレットを溶解緩衝液(100 mM NaH2PO4、10 mM Tris、8 M尿素、pH 8.0)に再懸濁し、ローティッセリ(rotisserie)上にて室温で30分間インキュベートした。サンプルを30分間13,000 rpmで遠心分離し、上清を、Ni-NTA樹脂(Qiagen)を含有するカラムへアプライした。カラムを洗浄緩衝液(100 mM NaH
2PO
4、10 mM Tris、8 M尿素、pH 6.3)で2回洗浄し、タンパク質を溶出緩衝液(100 mM NaH
2PO
4、10 mM Tris、8 M尿素)によりpH 5.9でおよびpH 4.5でカラムから溶出させた。SDSPAGEによって判定した、精製タンパク質を含有する画分をプールし、tris緩衝生理食塩水(TBS; 500 mM Tris、1.5 M NaCl、pH 7.5)中で1:1希釈し、4℃で終夜TBS中で透析して尿素を除去し、再折り畳みを可能にした。精製された6-his-タグ付LukAおよびLukBを、Thermo Scientific Pierce BCA Protein Assay Kitを用いて定量化した。
【0092】
天然条件下での精製の場合、形質転換体を、培養物がおよそ0.5のA600に達するまで、100μg/mlのアンピシリンを有するルリア・ベルターニ(Luria-Bertani)ブロス中にて37℃で増殖させた。6-his-タグ付LukA、6-his-タグ付LukAΔ10C、6-his-タグ付Δ33NLukAまたは6-hisLukBの発現を220 rpmで振盪させながら、25〜30℃にて3時間、0.05〜0.1 mMのIPTGで誘導した。誘導後、細胞を15分間4℃にて4000 rpmでの遠心分離によって収集し、その後、10 mMイミダゾールおよびHALT EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル(Thermo Scientific)を有する1×TBS (50 mM Tris、600 mM NaCl、pH 7.5)に再懸濁した。細菌細胞を氷上で超音波処理した。超音波処理した細菌を20,000 rpmで20分間、遠心分離した。上清をローティッセリ(rotisserie)上にて4℃で1時間Ni-NTA樹脂(Qiagen)とともにインキュベートした。サンプルをカラムへアプライし、カラムを、25 mMイミダゾールを有する洗浄緩衝液1×TBS (50 mM Tris、600 mM NaCl、pH 7.5)で洗浄した。タンパク質を、溶出緩衝液1×TBS (50 mM Tris、600 mM NaCl、pH 7.5)中50〜500 mMのイミダゾールを用いてカラムから溶出させた。SDS-PAGEによって判定した、精製タンパク質を含有する画分をプールし、1×TBS (50 mM Tris、150 mM NaCl、pH 7.5)中で1:1希釈し、4℃で終夜1×TBS中で透析した。精製された6-his-タグ付LukAおよびLukBを、Thermo Scientific Pierce BCA Protein Assay Kitを用いて定量化した。
【0093】
実施例3: 変性された組み換えLukAおよびLukBの発現および精製
LukAおよびLukB遺伝子を、以下のプライマーを用いアニーリング温度55℃の標準的PCRの設定の下でVentポリメラーゼ(New England BioLabs)により黄色ブドウ球菌DNAから増幅した: LukAの場合には
ならびにLukBの場合には
。
LukAおよびLukB遺伝子産物をNde1およびSal1 (New England BioLabs)で消化し、pET41bベクター(Novagen)へ核酸連結した。この構築体を最初に、DH5α細胞へ形質転換し、その後、大腸菌発現株ER2566 (New England BioLabs)へ形質転換した。形質転換体を37℃で2.5時間、カナマイシン25 ug/mlを有するTerrific Broth中で増殖させ、LukAおよびLukBの発現を180 rpmで振盪させながら、37℃にて2時間、0.3 mMのIPTGで誘導した。細胞をペレット化し、1×TBS (500 mM Tris、1.5 M NaCl、pH 7.5)中に再懸濁し、1分間氷上で超音波処理(10秒のパルス)した。超音波処理した細菌を50,000 rpmで30分間、超遠心分離した。
【0094】
変性条件の下でC末端6-his-タグ付LukAおよびLukBを精製するために、ペレットを溶解緩衝液(100 mM NaH
2PO
4、10 mM Tris、8 M尿素、pH 8.0)に再懸濁し、ローティッセリ(rotisserie)上にて室温で30分間インキュベートした。サンプルを30分間13,000 rpmで遠心分離し、上清を、Ni-NTAカラムへアプライした。カラムを洗浄緩衝液(100 mM NaH
2PO
4、10 mM Tris、8 M尿素、pH 6.3)で2回洗浄し、LukAおよびLukBを溶出緩衝液(100 mM NaH
2PO
4、10 mM Tris、8 M尿素)によりpH 5.9でおよびpH 4.5でカラムから溶出させた。精製された6-his-タグ付LukAおよびLukBを、BioRad DC Protein Assayを用いて定量化した。
【0095】
実施例4: 抗LukAポリクローナル抗体および抗LukBポリクローナル抗体の産生
フロイント完全アジュバント(FCA)中で乳化された変性組み換えLukA (250μg)をNew Zealand Whiteウサギに注射した。動物を、フロイント不完全アジュバント(FCA)中で乳化された組み換えLukA (125μg)で21日目におよび49日目に追加免疫した。
【0096】
フロイント完全アジュバント(FCA)中で乳化された変性組み換えLukB (250μg)をNew Zealand Whiteウサギに注射した。動物を、フロイント不完全アジュバント(FCA)中で乳化された組み換えLukB (125μg)で21日目におよび49日目に追加免疫した。
【0097】
実施例5: ロイコシジンA/Bは膜破壊を通じたヒト食細胞の細胞毒素媒介性の死滅化に主に関わる
使用した細胞株
LukABがヒト食細胞をいかにして標的化し、死滅化させるかを調べるためのモデルとして、HL-60細胞(ATCC CCL-240、ヒト前骨髄球細胞株)を用いた。HL-60細胞を、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI培地(Gibco)中、5% CO
2にて37℃で増殖させた。HL-60を好中球様細胞(PMN-HL60)へ分化させるために、培養物に1.5% (v/v)のジメチルスルホキシド(DMSO)を補充し、これを4日間増殖させた。
【0098】
使用した方法/アッセイ法
細胞毒性アッセイ法
黄色ブドウ球菌ロイコシジンAB (LukAB)による傷害後の哺乳類細胞の生存性を評価するため、PMN-HL60細胞を96ウェル平底組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量100 ul中1×10
5個の細胞/ウェルでプレーティングした。細胞を三つ組で、20%〜0.16% v/vに及ぶ黄色ブドウ球菌株Newman由来の培養ろ液の連続2倍希釈液により37℃、5% CO
2で2時間、傷害した。野生型菌株由来の細胞外タンパク質およびLukABを欠く菌株(変異体菌株)由来の細胞外タンパク質を用いて、実験を行った。100%生存性の対照には、20% v/vの組織培地(RPMI+10%の熱不活化ウシ胎仔血清)、および20% v/vの黄色ブドウ球菌増殖培地(RPMI+Casアミノ酸)を含めた。0.1% v/v Triton X100を100%細胞死の対照として用いた。傷害の後、CellTiter (Promega) 10μlを各ウェルに加え、細胞を37℃、5% CO
2でさらに3時間インキュベートした。CellTiterでは、代謝的に活性な細胞(色の変化)、つまり死細胞で失われる特性をモニタリングする。Perkin Elmer Envision 2103 Multilabel Readerを用い492 nmで比色反応を測定した。以下の方程式を用いて%生存細胞を計算した: %生存性 = 100×[(Ab
492 サンプル - Ab
492 Triton X)/(Ab
492 組織培地)。
【0099】
膜損傷アッセイ法
LukAB媒介性細胞毒性を測定するための代替的なアッセイ法は、宿主細胞膜の完全性を評価することである。この目的を達成するために、SYTOXグリーン(Invitrogen)透過性アッセイ法を利用した。健常細胞はSYTOXグリーンに対して非透過性であるが、細胞膜の完全性がいったん損なわれると、色素に対して透過性になる。細胞内部で、SYTOXグリーンはDNAに結合し、強力な蛍光を示す。
【0100】
LukABによる傷害または黄色ブドウ球菌株によるエクスビボ感染後の宿主細胞膜の完全性を評価するため、PMN-HL60細胞を96ウェル平底組織培養処理プレート(Corning)の中に、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI (Gibco)の終容量100 ul中1×10
5個の細胞/ウェルでプレーティングした。細胞を三つ組で、37℃、5% CO
2にて2時間、20%〜0.16% v/vに及ぶ黄色ブドウ球菌株Newman由来の培養ろ液の希釈液により傷害するか、または1〜100に及ぶMOIにより感染させるかした。野生型菌株およびLukABを欠く菌株(変異体菌株)を用いて、実験を行った。バックグラウンドの蛍光の対照には20% v/vの組織培地(RPMI+10%の熱不活化ウシ胎仔血清)、および20% v/vの黄色ブドウ球菌増殖培地(RPMI+Casアミノ酸)を含めた。傷害または感染の後、細胞を96ウェルのv底プレート(Corning)に移し入れ、1500 rpmで5分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットをPBS + SYTOXグリーン(0.1μM; Invitrogen) 100 ulに再懸濁した。細胞を次に、96ウェル透明底黒色組織培養処理プレート(Corning)に移し入れ、暗所中にて室温で10分間インキュベートした。Perkin Elmer Envision 2103 Multilabel Reader (励起485 nm、発光535 nm)を用いて蛍光を測定した。
【0101】
結果
LukABはヒト初代食細胞を標的化および死滅化する
黄色ブドウ球菌株Newman由来のろ過培養上清での初代ヒト末梢単核球(PBMC) (
図3a)、単球、マクロファージ、樹状細胞(
図3b)および多形核細胞(PMN) (
図3c)の傷害は、細胞毒性アッセイ法(Cell Toxicity Assay)によって調べた場合に強力な細胞死をもたらした(
図3a〜c)。溶血素(hla)、γ-ヘモリジン(hlg)、ロイコシジンE/D (LukED)またはロイコシジンA/B (LukAB)を欠く黄色ブドウ球菌株Newman由来のろ過培養上清でのこれらの細胞の傷害から、hla-、hlg-、およびLukED-陰性菌株由来の細胞外タンパク質がNewman野生型(WT)菌株と同じ細胞毒性である(細胞毒性アッセイ法によって調べた場合)ことが明らかにされ、Newmanによって産生される既述のロイコトキシンのどれも、これらの細胞の細胞毒素媒介性の死滅化に寄与しないことが示唆された(
図3a〜c)。対照的に、LukABを欠く菌株Newman (ΔlukAB)由来の細胞外タンパク質で細胞を傷害した場合、ごくわずかな細胞死しか観察されなかった。LukABを欠く菌株Newmanによる細胞毒性活性の欠如は、プラスミドにてトランスにlukAB遺伝子を与えること(ΔlukAB/pLukAB)によりレスキューされた(
図3c)。重要なことには、この表現型は、精製された組み換えLukAおよびLukBでPMNを傷害することによって判定した場合、LukABに完全に依存している。個々のサブユニットはPMNに対して検出可能な細胞毒性を示さなかった(
図3d)。対照的に、両方のサブユニットの組み合わせでは、用量依存的にこれらの細胞に対する強力な細胞毒性が引き起こされた(
図3d)。全体として、これらの結果は、感染性因子から宿主を防護するのに必要とされる重要な免疫細胞である初代ヒト食細胞を標的化および死滅化する黄色ブドウ球菌の能力にLukABが関与していることを実証している。
【0102】
LukABはヒト食細胞を選択的に死滅化する
黄色ブドウ球菌株Newman由来のろ過培養上清での好中球様細胞株(PMN-HL60)およびマクロファージ様細胞株(THP1+PMA)の傷害は、細胞毒性アッセイ法(Cell Toxicity Assay)によって調べた場合に強力な細胞死をもたらした(
図3)。黄色ブドウ球菌WTならびに同質遺伝子的な細胞毒素変異体菌株(hla、hlgABC、LukED、およびLukAB)由来のろ過培養上清でのこれらの細胞の傷害から、細胞毒性アッセイ法によって判定した場合、これらの細胞を死滅化する黄色ブドウ球菌の能力にLukABが関与していることが明らかにされた(
図4aおよび4b)。LukABを欠く菌株Newmanによる細胞毒性活性の欠如は、lukABを発現するプラスミドでLukABを欠く菌株Newmanを形質転換すること(ΔlukAB/pLukAB)によりレスキューされた(
図4c)。この菌株由来の細胞外タンパク質はPMN-HL60細胞とTHP-1+PMA細胞の両方に対し極めて細胞毒性であり、LukABが、ヒト細胞を標的化および死滅化する強力なブドウ球菌毒素であるという強力な証拠が示された。
【0103】
黄色ブドウ球菌培養上清に存在する他の因子の寄与をさらに除外するために、PMN-HL60細胞を精製された組み換えLukAまたはLukBで傷害した。個々のサブユニットはPMN-HL60に対して検出可能な細胞毒性を示さなかった(
図3d)。対照的に、両方のサブユニットの組み合わせでは、用量依存的にこれらの細胞に対する強力な細胞毒性が引き起こされた(
図3d)。PMN-HL60細胞およびTHP-1+PMA細胞のほかに、PMN-HL60が分化される骨髄系前駆細胞(HL60)、THP-1+PMAが分化される単球系前駆細胞(THP-1)、リンパ球(HuT細胞およびJurkat細胞)、ならびに上皮細胞(293TおよびHepG2)を含むいくつかの他のヒト細胞株も組み換えLukABで傷害した(
図4e)。これらの結果は、LukABがヒト食細胞を選択的に標的化および死滅化し、ヒトリンパ球または上皮細胞に影響を及ぼさないことを実証する。全体として、これらの結果は、LukABが黄色ブドウ球菌媒介性の食細胞死滅化において重要な役割を果たすことを実証する。
【0104】
LukABは黄色ブドウ球菌の臨床関連菌株によって産生される
LukBに対して作製されたポリクローナル抗体による免疫ブロット分析から、院内感染および市中感染と関連するMRSA菌株を含む一連のブドウ球菌株(USA300、400、および500;
図5a)によってLukBが産生されることが明らかにされた。重要なことには、LukBレベルはこれらの菌株の細胞毒性表現型と関連している(
図5aおよび5b)。高いレベルのLukBを産生する菌株(例えば、Newman、4645、USA 500、およびUSA 300)は、少量のまたは検出不能なLukBを産生する菌株(例えばUSA100およびUSA400)よりもPMN-HL60細胞に対して細胞毒性であった(
図5b)。MRSA菌株におけるLukABの役割について詳しく調べるために、臨床分離株USAタイプ300 LAクローンにおいてLukAB同質遺伝子変異体を作出した(
図5c)。菌株Newmanで認められるように、LukABを欠く菌株USA300由来の細胞外タンパク質は親菌株由来の細胞外タンパク質よりも細胞毒性が著しく低かった(
図5d)。これらのデータは、LukABがMRSA菌株によって産生される重要な細胞毒素であることを実証している。
【0105】
LukABはヒト食細胞の膜を損なう
黄色ブドウ球菌由来の細胞外タンパク質でのPMN-HL60の傷害は、LukABに依る表現型である細胞円形化および核膨潤をもたらした(
図6a)。この細胞円形化および膨潤の表現型は、膜損傷アッセイ法(Membrane Damage Assay)によって判定した場合に膜透過性の増大と関連していた(
図6bおよび6c)。重要なことには、LukAB陰性菌株由来の細胞外タンパク質は膜透過性、つまりプラスミドからLukABを産生することによってレスキューされた表現型、に及ぼす効果をほとんどまたは全く示さず(
図6b)、組み換えLukABでは用量依存的に膜損傷が引き起こされるが、しかし個々の毒素サブユニットでは引き起こされない(
図6c)。さらに、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)株およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) USA300株の両方での初代ヒトPMNの感染は、LukAB依存的な膜損傷をもたらした(
図6d)。これらの結果は、LukABがエクスビボ感染中に宿主細胞の原形質膜を損なうことを実証している。
【0106】
LukABは食細胞を標的化および死滅化することにより、宿主媒介性の死滅化から黄色ブドウ球菌を防護する
黄色ブドウ球菌WT、ΔlukAB、およびlukAB発現プラスミドを持つΔlukAB (ΔlukAB/pLukAB)でのPMN-HL60細胞の感染から、膜損傷アッセイ法(Membrane Damage Assay)によって判定した場合に、ブドウ球菌と食細胞との間の相互作用中に食細胞の膜を破壊する黄色ブドウ球菌の能力にはLukABが必要とされること(
図7a)が明らかにされた。重要なことには、LukABを過剰産生する黄色ブドウ球菌(ΔlukAB /plukAB)は、WT菌株よりも多くの膜損傷を示したこと(
図7a)から、LukABが宿主細胞膜を強力に損なうことが実証された。ヒト全血(
図7b)および精製された初代ヒト好中球(PMN;
図7c)の感染から、lukAB陰性のブドウ球菌がWT菌株と比べてさらに効率的に死滅化されることが明らかにされた(
図7bおよび7c)。重要なことには、ΔlukAB陰性のブドウ球菌が示す弱毒化された表現型はlukAB発現プラスミドでレスキューされた(
図7bおよび7c)。黄色ブドウ球菌WT、ΔlukAB、およびlukAB発現プラスミドを含有するΔlukAB変異体菌株の培養ろ液での初代ヒトPMNの傷害から、LukABが初代ヒトPMNを標的化および死滅化することが明らかにされた(
図7d)。これらのデータから、LukABが、膜破壊を通じてPMNを標的化および死滅化する強力なブドウ球菌細胞毒素であり、したがってPMN媒介性の死滅化から黄色ブドウ球菌を防護することが強く示唆される。
【0107】
LukABはインビボで黄色ブドウ球菌の病原性に寄与する
LukABプロモーターがルシフェラーゼレポーターに融合されているルシフェラーゼレポーター構築体(pLukAB-Xen1)を含んだ黄色ブドウ球菌を眼窩後方から感染させたマウスは、腎膿瘍においてLukABプロモーター活性を示したが、その一方でプロモーターを持たないレポーター(pXen1)は活性を示さなかった(
図8a)。これらのデータは、LukABが感染の腎膿瘍モデルにおいてインビボで発現されることを実証している。さらに、黄色ブドウ球菌WTを眼窩後方から感染させたマウスでは、腎臓での広範囲に及ぶコロニー形成が示されたが、LukABを欠く黄色ブドウ球菌株では示されなかった。LukAB陰性の菌株において観察されたコロニー形成の欠陥は、LukABをトランスに与えることによってWTレベルまで回復した(
図8b)。全体として、これらのデータは、LukABが、細菌の病原性に寄与する重要なブドウ球菌細胞毒素であることを示している。
【0108】
LukABは、ポリエチレングリコールで遮断できる標的細胞膜上の細孔を形成する
組み換えLukAB (rLukAB)でのPMN-HL60細胞の傷害から、LukAおよびLukB特異的抗体での免疫ブロットによって判定した場合、rLukAおよびrLukBの両方が標的細胞に結合することが明らかにされた(
図9a)。蛍光活性化細胞選別(FACS)およびHis特異抗体を用いてPMN-HL60への6His-タグ付rLukABの結合も確認された(
図9b)。rLukABオリゴマーがまた、組み換え毒素による傷害後にPMN-HL60膜に対する免疫ブロットにより検出され、LukABが標的細胞膜上に高次構造を形成することが示唆された(
図9c)。重要なことには、rLukABでのPMN-HL60の傷害から、LukABが、ポリエチレングリコール分子(PEG)を用いて遮断できる標的細胞膜上の臭化エチジウム透過性の細孔を形成すること(
図9d)、およびLukAB細孔の遮断が細胞の生存性を増大すること(
図9e)が実証された。さらに、サポニンによりPMN-HL60膜において形成された細孔がPEGによって遮断されなかったことや、結果的に、これらの細胞が細孔媒介性の死から防護されなかったことから、PEGはLukAB細孔を特異的に遮断する。これらのデータは、LukAB細孔を小分子によって遮断できること、およびLukAB細孔の遮断によってLukAB媒介性の死滅化から細胞が防護されることを実証している。
【0109】
α-LukAポリクローナル抗体による黄色ブドウ球菌の培養ろ液細胞毒性の中和
異なる2羽のウサギにおいて作出されたα-LukAポリクローナル抗体の各種量とともにプレインキュベートされた黄色ブドウ球菌培養ろ液でのPMN-HL60の傷害は、用量依存的に培養ろ液の毒性の低下を引き起こした(
図10)。この中和効果は、培養ろ液を免疫前血清とともにプレインキュベートした場合、認められなかった。重要なことには、異なる2羽のウサギにおいて作出された抗体は、非常に似通った挙動をし、これらの抗体の中和能は、後期採血由来の抗体の中和効果を初期採血由来の抗体の中和効果と比較することによって認められたように、成熟度とともに増した(
図10)。これらのデータは、黄色ブドウ球菌由来の培養ろ液で認められた細胞毒性を、α-LukAポリクローナル抗体で中和できることを示している。
【0110】
α-LukAポリクローナル抗体により依然として認識される非細胞毒性LukA切断変異体の特定
LukAは、これがN末端およびC末端の両方に伸長部を有するという点で他のブドウ球菌ロイコトキシンS-サブユニットとは異なる。この伸長部は、N末端の33アミノ酸およびC末端の10アミノ酸からなる(
図11a)。N末端伸長部を欠く精製された組み換えLukA (rΔ33NLukA)と精製されたrLukBとの組み合わせでのPMN-HL60の傷害は、精製されたrLukA+rLukBの細胞毒性に匹敵した細胞に対する強力な細胞毒性をもたらした(
図11b)。しかしながら、C末端伸長部を欠く精製された組み換えLukA (rLukAΔ10C)とrLukBとの組み合わせでのPMN-HL60の傷害は、細胞毒性効果をもたらさなかった(
図11b)。これらのデータから、N末端伸長部はLukAの細胞毒性効果にとって重要ではないが、C末端伸長部は毒性に必要であることが実証される。重要なことには、LukABの効果を中和するα-LukAポリクローナル抗体(
図10)は、α-Hisポリクローナル抗体と全く同じように6×Hisタグ付の非細胞毒性rLukAΔ10C変異体を依然として認識する(
図11c)。これらのデータは、中和抗体であるα-LukAポリクローナル抗体をインビボで作出するためにrLukAΔ10Cを活用できることを示唆している。それゆえ、rLukAΔ10Cを能動ワクチン組成物において用いることができる。
【0111】
全ての特許刊行物および非特許刊行物は、本発明が関連する技術分野における当業者の技術レベルを示す。これらの刊行物は全て、各個々の刊行物が具体的かつ個別的に参照により組み入れられると示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0112】
本明細書における発明を特定の態様に関して記述したが、これらの態様は単に本発明の原理および適用を説明するだけのものであると理解されるべきである。それゆえ、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、例示的な態様に対して多数の修正がなされてよいものと、および他のアレンジが考案されてよいものと理解されるべきである。