(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6253863
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】ポリマーの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08G 69/30 20060101AFI20171218BHJP
【FI】
C08G69/30
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-545412(P2017-545412)
(86)(22)【出願日】2017年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2017018854
【審査請求日】2017年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-106885(P2016-106885)
(32)【優先日】2016年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
【審査官】
藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−094508(JP,A)
【文献】
特開2014−101494(JP,A)
【文献】
特開平08−073587(JP,A)
【文献】
特開2001−233958(JP,A)
【文献】
特開2006−160881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00 − 69/50
C08G 63/00 − 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌機を備えた反応容器内で、反応容器内壁の温度を重合温度で固体の粉粒体原料の前記重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を撹拌熱で加熱し、反応容器内壁の温度よりも高温の重合温度として、前記固体の状態を保ちながら固相重合することを特徴とするポリマーの製造方法。
【請求項2】
ポリアミドポリマーを固相重合することを特徴とする請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
ジカルボン酸とジアミンから成るポリアミドであって、ジカルボン酸の50〜100モル%がテレフタル酸であるポリアミドポリマーを固相重合することを特徴とする請求項2記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
粉粒体原料の温度および、または撹拌機の負荷を検知しつつ、撹拌機の回転数を変化させながら固相重合することを特徴とする請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
粉粒体への吸着水の過剰な増大にともなう反応系の暴走を防止するために、粉粒体原料の温度と、撹拌機の負荷と、系外への排出水量との少なくともいずれかを検知しつつ、撹拌機の回転数を変化させながら固相重合することを特徴とする請求項4記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
撹拌機のモーターを制御するインバータのストール防止機能を用いて撹拌機の回転数を変化させることを特徴とする請求項4または5記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
ポリマーの製造装置であって、
前記製造装置は、撹拌機を備えた反応容器を有し、
前記製造装置は、反応容器内壁の温度を重合温度で固体の粉粒体原料の前記重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を前記撹拌機による撹拌熱で加熱し反応容器内壁の温度よりも高温の重合温度として、前記固体の状態を保ちながら固相重合させるものであることを特徴とするポリマーの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーの製造方法および製造装置に関し、特に固相重合法によるポリマーの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固相重合法は、ポリエステルや耐熱ポリアミドといったポリマーの製造において、工業的に広く利用されている(JP2016−79203A)。原料となるモノマーと、塩と、プレポリマーの粉粒体とを、生成するポリマーの融点以下の温度で加熱する方法が一般的である。加熱の方法は、高温の反応容器内壁からの伝熱によることがほとんどである(JP2016−79203A)。固相重合法は、溶融重合法に比べて低温で生産が可能であるため、重合時のポリマーの熱劣化を防止することができる。また、固相重合法は、結晶化による反応活性点の非晶領域への濃縮により、生成ポリマーを高分子量化できるといった利点がある。
【0003】
しかし、固相重合法には、以下のような問題点もある。すなわち、固相重合法においては、生産中の反応容器内壁へのポリマーの付着が起こりやすい。付着が生じると、反応容器から原料粉粒体への熱伝導が妨げられる。粉粒体は、液体に比べると、そもそも反応容器内壁からの伝熱効率が低いため、付着による伝熱量の減少は、ポリマーの生産性低下に直結する。また、生産を重ねるにつれて、付着量が増加すると、経時で重合条件が変動することになり、ポリマーの品質を低下させる。さらに、重合反応においては、一般に、粉粒体同士が強く固結しやすいため、付着物の除去は容易ではない。これらの理由により、付着の防止が、固相重合法によるポリマーの生産、開発における大きな課題となっている。
【0004】
反応容器内壁への粉粒体の付着は、以下の機構により発生する。反応容器内壁に接触した原料粉粒体は(この段階では付着の程度はさほど強くない)、接触面である反応容器内壁面が最も高温であるため、速やかに重合反応が進行する。そして、撹拌や重力による粒子の移動に対して重合反応に伴う粒子間の固結が優先する状況下で、付着が成長すると考えられる。
【0005】
これに対し、反応容器内壁の温度を重合温度以下にすることができれば、上記の機構による付着は発生しないと考えられる。しかし、反応容器内壁の温度を下げれば、当然のことながら、反応容器からの伝熱で原料粉粒体を重合に必要な温度に上げることは出来ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑み、反応容器内壁への付着の問題を根本的に解決して、多種類のポリマーに対して適用可能な、固相重合によるポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、このような問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、不足の熱源供給として、撹拌熱の利用に着目した。つまり本発明者は、反応容器内壁の温度を重合温度よりも低く保ちながら、撹拌熱により原料を加熱することに着目して、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明のポリマーの製造方法は、撹拌機を備えた反応容器内で、反応容器内壁の温度を
重合温度で固体の粉粒体原料の
前記重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を撹拌熱で加熱し
、反応容器内壁の温度よりも高温の重合温度として
、前記固体の状態を保ちながら固相重合することを特徴とする。
【0009】
本発明のポリマーの製造装置は、撹拌機を備えた反応容器を有し、
前記製造装置は、反応容器内壁の温度を
重合温度で固体の粉粒体原料の
前記重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を前記撹拌機による撹拌熱で加熱し反応容器内壁の温度よりも高温の重合温度として
、前記固体の状態を保ちながら固相重合させるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応容器内壁の温度を粉粒体原料の重合温度よりも低く保ちながら固相重合するため、粉粒体原料が反応容器内壁に接触しても重合反応が進行しにくく、このため粉粒体原料の反応容器内壁への付着を防止することができる。よって、生産性が高く、製品の品質も良好な、固相重合法によるポリマーの製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のポリマーの製造方法を実施するための装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明のポリマーの製造方法の実施に際して用いられる反応容器1を示す。この反応容器1は、撹拌熱を発生できる機構と性能を有することが必要である。
図1の反応容器1としては、高速回転する撹拌翼2を有する混合機を使用する。3はその容器である。撹拌翼2は、ポリマーを製造するための粉粒体原料を撹拌することで発生する撹拌熱の生成に必要な負荷に耐える容量のモーター4を動力源とする。撹拌翼2は、複数の原料やその温度分布を均一化させるための混合装置の役割も同時に果たす。反応容器1の具体例としては、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、サイクロミックス、レーディゲミキサーといった装置が挙げられる。
図1はヘンシェルミキサーを示す。反応容器1は、必要に応じて、原料投入口、製品排出口、吸排気口等を備える。
【0013】
粉粒体原料は、モノマー、塩、プレポリマーといったポリマーの原料であり、反応温度つまり重合温度において、固体の状態の粉粒体である必要がある。一方、固相重合で得られるポリマーも、反応温度つまり重合温度において、固体の粉粒体である。液体に対しては撹拌熱が出にくいため、本発明の効果が現出しにくい。粉粒体の大きさに制限はないが、好ましくは平均粒径5mm以下である。5mmを超えても本発明は利用できるが、5mm以上の粒体は、そもそも反応容器1に付着しにくい。
【0014】
粉粒体原料は、複数成分であってもかまわない。さらに、必要に応じ、末端封鎖剤、触媒、その他の添加剤を加えることができる。混合成分などで、一部が液状となってもかまわないが、全体として、固体同士が接触し、撹拌熱を発生できる状態である必要がある。
【0015】
粉粒体原料として、具体的には、ポリエチレンテレフタレートプレポリマー、ポリアミド塩(ポリアミド−6,6塩、ポリアミド−10,T塩)、ポリアミドオリゴマー(ポリアミド10Tオリゴマー、ポリアミド9Tオリゴマー、ポリアミド6Tオリゴマー)などの粉粒体が挙げられる。ペレットであってもかまわない。
【0016】
固相重合における温度条件として、粉粒体の温度を反応容器1の内壁の温度よりも高くする必要がある。このとき、粉粒体の温度は、生産性や品質を考慮して、それに適した重合温度とすることが好ましい。一方、反応容器1における容器3の内壁の温度は、重合がほとんど進行しない温度域、すなわち重合温度よりも低い温度に設定することが必要である。
【0017】
反応容器1の容器3の内壁の温度の制御は、ヒーター、蒸気、熱媒ジャケットといった公知の方法によればよい。
【0018】
粉粒体の温度制御のため撹拌熱をコントロールすることが好ましい。撹拌翼2の回転数や負荷は一定でもよいが、重合の進行につれて物質の状態が変わっていくため、撹拌翼2の動力源であるモーター4の回転数や負荷を制御することが好ましい。制御方法としては、粉粒体温度をモニターして回転数に反映させる方法や、モーター4の電力値や電流値を制御する方法がある。多くの場合、インバータ制御のモーターを用いることが必要となる。
図1において、5はインバータ、6は粉粒体の温度をモニターするための熱電対などの温度検知器、7は制御用のコンピュータである。
【0019】
インバータ5によるモーター4の制御方法として、ストール防止制御を用いることが好ましい。ストール防止制御においては、モーター4の最大回転数の値と最大電流の値とを設定すれば、モーター4への負荷が大きい場合、回転数が低下し、その回転数が低下したときの低めの設定電流値にてモーター4が運転される。モーター4への負荷が小さく、負荷を表す電流値が設定値に満たないときは、最大回転数にて回転する。固相重合の進行につれて物質の状態が変わるため、通常は重合反応に適した温度を維持するための回転数も経時的に変動していく。検知器6により粉粒体の温度をモニターしてインバータ5によるストール防止制御の設定電流値に反映させるカスケード制御も、好ましく用いることができる。
【0020】
本発明の製造方法における重合は固相重合なので、ポリマーの融点は粉粒体の温度以上である。
【0021】
本発明は、ポリマーの種類にかかわらず適用可能であるが、特に好ましいのはポリアミドである。原料が反応温度で固体であることを考えると、原料モノマーとしては、アミノカプロン酸、各種ポリアミド塩(ポリアミド6,6塩、ポリアミド10,10塩、ポリアミド6,T塩、ポリアミド9,T塩、ポリアミド10,T塩、ポリアミド12,T塩 など)の粉粒体が好ましい。ポリアミドオリゴマーや低重合度体を原料とすることも好ましい。この場合は、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,T、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド12,Tなどを、粉粒体もしくはペレットの形態で用いる。
【0022】
ポリアミドの中でも、通常、固相重合で生産される、半芳香族ポリアミドに、本発明を好ましく適用することができる。ジカルボン酸とジアミンとからなるポリアミドで、ジカルボン酸の50〜100モル%がテレフタル酸である半芳香族ポリアミドは、耐熱性や機械物性に優れた製品の原料となるため、さらに好ましい。
【0023】
ポリアミド以外には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルも好ましい。
【0024】
ポリアミド、ポリエステル、またはその他のポリマーいずれの場合においても、ホモポリマーでも、共重合体でも同様に適用可能である。
【0025】
固相重合中の粉粒体の温度すなわち重合温度は、たとえばポリアミドの場合には、原料やポリマーの融点以下で、150〜280℃とするのが好ましい。その際、反応容器1の内壁の温度は、粉粒体の温度より100℃〜10℃低くすることが好ましい。
【0026】
必要に応じて、本発明による撹拌熱での固相重合にひき続いて、一般的な伝熱による加熱でさらに重合を進めることも可能である。反応容器1への付着が発生するのは重合反応の前半だけであり、その後半において上記のように伝熱による加熱を行っても、付着は発生しない。
【0027】
本発明によれば、反応容器1の内壁からの伝熱のみで重合する場合に比べると、反応時間が短くなり、生産性が向上する。生産性向上の効果は、反応容器が大きくなるほど顕著となる。
【0028】
ポリアミド、ポリエステルといった樹脂のための縮合重合の系に本発明を適用すると、反応の進行に伴って粉粒体内部から水が発生する。重合時の雰囲気温度は100℃以上なので、水は水蒸気として系外に排出される。しかし、水蒸気となる前に、粉粒体表面に吸着水のような形で捕捉された状態を経ると考えられる。そして、この吸着水の量が多いほど、粉粒体の摩擦抵抗が増大する。粉粒体の摩擦抵抗の増大により、撹拌機の回転数が同じでもモーター4の負荷(電流値)は増大し、撹拌熱量も増大するために、効率的な加熱が可能となる。
【0029】
しかし、実際には、吸着水が増加して、撹拌熱の効率が過度に上がると、重合反応が加速し、それによって水分発生速度が増加し、したがって吸着水がさらに増加し、その結果、撹拌力の増大にともない撹拌熱量が増加して重合反応がさらに加速するという現象が生じる。つまり、反応が加速度的となり、反応系が暴走して制御困難となる。これに対して、本発明によれば、粉粒体原料の温度と、撹拌機の負荷と、系外への排出水量との少なくともいずれかを検知しつつ、撹拌機の回転数を変化させながら固相重合することで、吸着水の過大な増加を抑制し、それによって反応状態を平衡かつ安定させることができる。詳細には、たとえば粉粒体の温度を検出しながらの上述のストール防止制御により、撹拌熱量を一定に保つことで、反応状態を非常に安定させることができる。あるいは、系外への排出水量を検知しながら、排出水量が過大になったときには、上述のストール防止制御やその他の制御によって、撹拌の度合いを低下させるように調節することで、同様に反応状態を非常に安定させることができる。
【0030】
本発明の製造方法で得られたポリマーは、他の公知の方法で得たポリマーと全く同様に、溶融加工などの方法にて利用可能である。例えば、ポリアミドの場合、射出成形用途で利用することができる。その際には、必要に応じてフィラーや安定剤などの添加剤を加えることが好ましい。添加の方法は、ポリアミドの重合時に添加する方法、または得られたポリアミドに溶融混練する方法が挙げられる。添加剤としては、ガラス繊維や炭素繊維のような繊維状補強材や、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイトのような充填材や、酸化チタン、カーボンブラックのような顔料などが挙げられる。そのほか、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤などの添加剤が挙げられる。また、射出成形のほかに、上記ポリマーを繊維やフィルムの原料とすることも可能である。
【0031】
射出成形品の用途として、自動車のトランスミッション周り、エンジン周り、ランプ周りで使用する自動車部品、事務機器等のための電気・電子部品が挙げられる。具体的には、自動車のトランスミッション周りとしては、シフトレバーやギアボックス等の台座に用いるベースプレート、エンジン周りとしては、シリンダーヘッドカバー、エンジンマウント、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ラジエータホース、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、タイミングベルトカバー、エンジンカバー等、ランプ周りとしては、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット等が挙げられる。電気・電子部品としては、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。フィルムとして、スピーカー振動版、フィルムコンデンサ、絶縁フィルム等が挙げられる。繊維として、エアーバッグ基布、耐熱フィルター等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
参考例1(ポリアミド10T塩粉体の製造)
平均粒径80μmのテレフタル酸粉末183.68kgと、重合触媒としての次亜リン酸ナトリウム一水和物0.76kgとを、リボンブレンダー式の反応装置(容量600L)に供給し、窒素密閉下、回転数35rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、170℃を保ちながら、液注装置を用いて、110℃に加温したデカンジアミン198.89kgを、1.3kg/分の速度で、約2.5時間かけて連続的にテレフタル酸粉末に添加した。この間、反応物は粉体状態を保っていた。その後、末端封鎖剤としてのステアリン酸16.67kgを加えて、ポリアミド塩を得た。
【0033】
実施例1
インバータ制御される150kWのモーターを動力とする撹拌翼と、内部温度測定用の熱電対とを備えたヘンシェル型ミキサー(容量1300L)を、窒素気流下で200℃に加熱し、原料である参考例1のポリアミド塩粉体400kgを入れた。撹拌翼を360rpmで回転させた。撹拌熱により内容物の温度が反応容器の温度を超え、236℃に達したときに、モーター制御のためのインバータのストール防止機能の上限電流値が143Aとなるように設定して、つまり上限電流値を超える過負荷が発生した場合には撹拌翼の回転数を下げ、その回転数に応じた低電流の軽負荷で撹拌できるようにして、反応熱の制御を開始した。ここから、内容物の状態に応じて、ストール防止の上限電流値を制御することで、内容物の温度を236℃±1℃に保持した。この状態で、60分間重合反応を行った。その時点でストール防止機能の使用を終了し、さらに、撹拌翼の回転数を360rpmに固定して40分間撹拌した。最終的に、内容物の温度は245℃となった。
【0034】
次いで、内容物を、配管で連結された別のリボンブレンダー型反応容器に、窒素雰囲気を保持したまま移動させた。別の反応容器の温度は255℃、その撹拌機の回転数は40rpmに設定し、実質的に撹拌熱を用いずに、引き続きの重合を行った。3時間重合した後、生成物を冷却した。
【0035】
得られたポリアミドについて、96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した相対粘度は2.28であった。
【0036】
得られたポリアミドは、融点316℃であり、ゲル等はなく均一に溶融でき、成形加工などの溶融加工に適したものであった。
【0037】
重合終了後の反応容器内壁を観察したが、ヘンシェル型ミキサー、リボンブレンダー型容器ともに、付着は少なく、同条件で連続して製造することが可能であった。
【0038】
参考例2
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
【0039】
このPETオリゴマー60kgを重縮合反応缶に移送した後、三酸化アンチモンを17g(全酸成分1モルに対して2×10
−4モルとなる量)添加し、反応器を徐々に減圧して60分後に1.2hPa以下とし、温度280℃で撹拌しながら2時間重合反応を行った。
【0040】
次に、反応缶から払い出したポリエステルプレポリマーのストランドを、冷却バスで室温程度まで冷却した後、カッティングすることによりペレット化した。
【0041】
実施例2
インバータ制御される30kWのモーターを動力とするヘンシェル型ミキサー(容量150L)に、参考例2のポリエステルプレポリマー50kgを仕込み、窒素気流下、撹拌翼を100rpmで回転させながら、加熱した。反応容器の温度が200℃に到達した後、その温度を維持しながら、730rpmで撹拌翼を回転させた。撹拌熱により、内容物の温度が反応容器の温度を超え、固相重合反応が進行した。2時間反応を続け、最終的な内容物の温度は233℃であった。冷却後払出し、ポリエステルを得た。このポリエステルは、フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した極限粘度が1.08であった。また、このポリエステルは、ゲル等はなく均一に溶融でき、繊維などへの溶融加工に適したものであった。
【0042】
実施例3
容量20Lのヘンシェルミキサーに、参考例1のポリアミド塩を投入し、固相重合反応を開始した。反応に際して、粉粒体の温度と、撹拌翼の回転数と、モーターの電流値と、系外へ排出される水量とを観察した。
【0043】
そうしたところ、反応開始後50分頃と同2時間30分頃に、粉粒体の温度と、排出水量と、電流値とが急激に上昇した。それに対処するために、マニュアル操作によって、撹拌翼の回転数を低下させた。そうしたところ、粉粒体の温度と排出水量と電流値との上昇が抑えられた。その後、撹拌翼の回転数を徐々に元に戻して反応を継続させた。
【0044】
以上の処理によって、ポリアミドを得ることができた。
【0045】
比較例1
実施例1で用いた、リボンブレンダー型反応容器を窒素気流下で255℃に加熱し、原料である参考例1のポリアミド塩粉体400kgを入れた。回転数は40rpmに設定し、実質的に撹拌熱を用いずに、重合を行った。12時間重合した後、生成物を冷却した。冷却前の内容物の温度は252℃であった。
【0046】
得られたポリアミドについて、96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した相対粘度は2.27であった。
【0047】
得られたポリアミドは、融点316℃であり、ゲル等はなく均一に溶融でき、成形加工などの溶融加工に適したものであった。
【0048】
重合終了後の反応容器内壁を観察すると、付着したポリマーで内壁が覆われていた。このまま、同条件で連続して製造すると、12時間重合後の冷却開始前の内容物の温度は242℃であった。得られたポリアミドの相対粘度は2.03と、最初のバッチよりもかなり低く、その後の成形加工は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリマーの製造方法は、撹拌熱を利用するため生産効率に優れ、さらに、反応容器内壁への付着の問題が解決され操業の安定性が良好である。このため、本発明のポリマーの製造方法は、固相重合による特にポリアミドの製造分野、なかでも半芳香族ポリアミドの製造分野などにおいて、有用である。
【要約】
撹拌機2を備えた反応容器1内で、反応容器1の内壁の温度を粉粒体原料の重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を撹拌熱で加熱し反応容器1の内壁の温度よりも高温の重合温度として固相重合する。