(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより前記車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により結合させ、前記内方部材の端部に前記外側継手部材の肩部を当接させた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪と前記外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、前記凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に、ねじ締め付けにより発生する軸力以下の引き込み力で凸部の周方向側壁部による凹部形成面の切削でもって圧入し、その他方に凸部の周方向側壁部の形状を転写することにより、前記凸部と前記凹部との嵌合接触部位全域が密着し、前記凹部が凸部の径方向先端部に対して隙間を有する凹凸嵌合構造を構成し、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差を32kN以下としたことを特徴とする車輪用軸受装置。
前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、前記雌ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
前記内方部材の端部が当接する前記外側継手部材の肩部から前記凸部までの軸方向長さを前記ステム部の最大外径で除算した値を0.3以下とし、前記ステム部の軸方向長さをステム部の最大外径で除算した値を1.3以下とした請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【背景技術】
【0002】
従来の車輪用軸受装置は、例えば、
図28に示すように、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受106と等速自在継手107とで主要部が構成されている。
【0003】
ハブ輪101は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面108が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ109を備えている。その車輪取付フランジ109の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト110が植設されている。ハブ輪101のインボード側外周面に形成された小径段部111に内輪102を嵌合させ、その内輪102の外周面にインボード側の内側軌道面112が形成されている。ハブ輪101の軸孔の内周面には、等速自在継手107をトルク伝達可能に連結するための雌スプライン113が形成されている。
【0004】
内輪102は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪101の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面108と、内輪102の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面112とで複列の内側軌道面を構成している。内輪102をハブ輪101の小径段部111に圧入し、その小径段部111の端部を外側に加締め、その加締め部114でもって内輪102を抜け止めしてハブ輪101と一体化し、車輪用軸受106に予圧を付与している。
【0005】
外輪105は、内周面にハブ輪101および内輪102の内側軌道面108,112と対向する複列の外側軌道面115,116が形成され、外周面に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ117を備えている。その車体取付フランジ117は、車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに取り付け孔118を利用してボルト等で固定される。
【0006】
車輪用軸受106は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪101および内輪102の外周面に形成された内側軌道面108,112と外輪105の内周面に形成された外側軌道面115,116との間に転動体103,104を介在させ、各列の転動体103,104を保持器119,120により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0007】
車輪用軸受106の両端開口部には、外輪105とハブ輪101および内輪102との環状空間を密封する一対のシール121,122が外輪105の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリース等の潤滑剤の漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0008】
等速自在継手107の外側継手部材123をハブ輪101に連結することにより、車輪用軸受装置が構成される。外側継手部材123は、内側継手部材、ボールおよびケージからなる内部部品(図示せず)を収容したカップ状のマウス部124と、そのマウス部124から軸方向に一体に延びるステム部125とで構成されている。ステム部125の外周面には、ハブ輪101とトルク伝達可能に連結するための雄スプライン126が形成されている。
【0009】
外側継手部材123のステム部125をハブ輪101の軸孔に圧入し、そのステム部125の端部に形成された雄ねじ部129にナット127を螺合させ、そのナット127をハブ輪101の端面に係止させた状態で締め付けることにより、等速自在継手107をハブ輪101に固定している。このナット127の締め付け力(軸力)でもってハブ輪101の加締め部114に外側継手部材123の肩部128を当接させている。このようにして、ステム部125の雄スプライン126とハブ輪101の雌スプライン113を嵌合させることにより、等速自在継手107から車輪用軸受106へのトルク伝達が可能となっている。
【0010】
この車輪用軸受装置では、ハブ輪101の加締め部114とその加締め部114に対向する外側継手部材123の肩部128とが、ナット127の締め付け力(軸力)でもって当接した状態にある。このことから、車両発進時、静止状態にある車輪用軸受106に対して等速自在継手107から回転トルクが負荷されると、雌雄スプライン113,126を介して外側継手部材123からハブ輪101へ回転トルクを伝達しようとするが、外側継手部材123の捩れによりハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との間で急激な滑りが発生する。この急激な滑りが原因となって、カッキン音と通称されるスティックスリップ音が発生することがある。
【0011】
このスティックスリップ音を未然に防止する手段として、急激な滑りが発生しないように、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面での摩擦抵抗を大きくする手段が講じられている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、摩擦抵抗を大きくする手段として、外側継手部材123の肩部128の当接面に、放射状、楕円形状あるいはクロスハッチング状の凹凸部を形成する構造や、外側継手部材123の肩部128の当接面に、ゴムや樹脂製の間座を設けた構造が開示されている。
【0012】
また、スティックスリップ音を未然に防止する他の手段として、急激な滑りが発生しないように、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面での摩擦抵抗を小さくする手段が講じられている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2では、ハブ輪101の加締め部114の当接面に凹溝を形成し、その凹溝内にグリースを充填するようにした構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1,2に開示された従来の車輪用軸受装置では、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面での摩擦抵抗を大きくしたり、逆に、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面での摩擦抵抗を小さくしたりすることにより、急激な相対滑りが発生しないようにして、スティックスリップ音を未然に防止するようにしている。
【0015】
しかしながら、摩擦抵抗を大きくする手段として、外側継手部材123の肩部128の当接面に、凹凸部を形成したり、あるいは間座を設けたりしなければならない。また、摩擦抵抗を小さくする手段として、ハブ輪101の加締め部114の当接面に凹溝を形成しなければならない。このように、当接面での摩擦抵抗を変える処理として、凹凸部の形成や凹溝の形成を必要としたり、別部材としての間座を必要とすることから、車輪用軸受装置のコストアップを招くという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、当接面での摩擦抵抗を変える処理が不要で、簡便な手段によりスティックスリップ音を未然に防止し得る車輪用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により結合させ、内方部材の端部に外側継手部材の肩部を当接させた車輪用軸受装置において、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、凸部
の周方向側壁部のみに対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に
、ねじ締め付けにより発生する軸力以下の引き込み力で凸部の周方向側壁部による凹部形成面の切削でもって圧入し、その他方に凸部
の周方向側壁部の形状を転写することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着
し、凹部が凸部の径方向先端部に対して隙間を有する凹凸嵌合構造を構成し、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差を32kN以下としたことを特徴とする。
【0018】
本発明では、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に軸方向に延びる複数の凸部を形成すると共に他方に凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成しておく。ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。
【0019】
この際、凸部により凹部形成面を極僅かに切削加工し、凸部による凹部形成面の極僅かな塑性変形や弾性変形を付随的に伴いながら、相手側の凹部形成面に凸部の形状を転写する。この時、凸部が相手側の凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の相対的移動が許容される。凸部の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着し、外側継手部材とハブ輪を強固に結合一体化することができる。
【0020】
ここで、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、ねじ締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入することができる。その結果、ハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品を利用したねじ締め付けでもって等速自在継手を簡易に車輪用軸受に結合させることができる。
【0021】
本発明では、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差を32kN以下とする。このように、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差を32kN以下とすることにより、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差、つまり、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との当接面に発生する軸力を32kN以下とすることになる。その結果、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との当接面での面圧を小さくすることができ、車両発進時に車輪用軸受に対して等速自在継手から回転トルクが負荷された場合、当接面で急激な滑りが発生することを回避でき、スティックスリップ音の発生を未然に防止することができる。
【0022】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、その雌ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雌ねじ部に雄ねじ部を螺合させることによりその雄ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることによって、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0023】
本発明における凸部は外側継手部材のステム部に設けられ、凹部はハブ輪に設けられた構造が望ましい。このような構造を採用すれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を容易に構成することができる。
【0024】
本発明では、外側継手部材のステム部に凸部が設けられ、ハブ輪に凹部が設けられた構造において、内方部材の端部が当接する外側継手部材の肩部から凸部までの軸方向長さをステム部の最大外径で除算した値を0.3以下とし、ステム部の軸方向長さをステム部の最大外径で除算した値を1.3以下とすることが望ましい。このように、ステム部の最大外径に対する軸方向長さを設定すれば、車両発進時に車輪用軸受に対して等速自在継手から回転トルクが負荷された場合、凹凸嵌合構造における有効嵌合長を確保した上で外側継手部材の捩れ量を少なくすることができる。その結果、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との当接面で急激な滑りが発生することを確実に回避でき、スティックスリップ音の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することで凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことにより、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、ねじ締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入することができる。その結果、ねじ締め付けにより発生する軸力と圧入力により発生する軸力との差を32kN以下とすることにより、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との当接面での面圧を小さくすることができ、車両発進時に車輪用軸受に対して等速自在継手から回転トルクが負荷された場合、当接面で急激な滑りが発生することを回避でき、スティックスリップ音の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態で、車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【
図3】
図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す断面図である。
【
図4】凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。
【
図5】凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【
図6】凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
【
図7】本出願人が行った軸力測定に基づく試験結果を示す表である。
【
図8】歪みゲージを埋め込んだボルトを示す一部断面の正面図である。
【
図9】凸部の周方向側壁部および径方向先端部に対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のD−D線に沿う断面図である。
【
図10】凸部の周方向側壁部および径方向先端部に対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のE−E線に沿う断面図である。
【
図11】凸部の周方向側壁部および径方向先端部に対して締め代を有する凹部を形成した実施形態で、(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のF−F線に沿う断面図である。
【
図12】本発明の他の実施形態で、外側継手部材のステム部に円筒状シールを装着した形態を示す断面図である。
【
図14】
図12の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す断面図である。
【
図16】本発明の他の実施形態で、ハブ輪とボルトとの間に円筒状シールを介在させた形態を示す断面図である。
【
図18】本発明の他の実施形態で、ハブ輪とボルトとの間にフランジ付き円筒状シールを介在させた形態を示す断面図である。
【
図20】本発明の他の実施形態で、車輪用軸受の内輪にリップ付きシールを装着した形態を示す断面図である。
【
図22】本発明の他の実施形態で、車輪用軸受の内輪にラビリンスシールを装着した形態を示す断面図である。
【
図24】本発明の他の実施形態で、外側継手部材の肩部にリップ付きシールを装着した形態を示す断面図である。
【
図26】本発明の他の実施形態で、外側継手部材の肩部にラビリンスシールを装着した形態を示す断面図である。
【
図28】従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態を以下に詳述する。
図1に示す車輪用軸受装置は、内方部材であるハブ輪1および内輪2、複列の転動体3,4、外方部材である外輪5からなる車輪用軸受6と等速自在継手7とで主要部が構成されている。なお、以下の説明では、車体に組み付けた状態で、車体の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と称し、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と称す。
【0028】
ハブ輪1は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面8が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ9を備えている。その車輪取付フランジ9の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト10が植設されている。ハブ輪1のインボード側外周面に形成された小径段部11に内輪2を嵌合させ、その内輪2の外周面にインボード側の内側軌道面12が形成されている。
【0029】
内輪2は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪1の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面8と、内輪2の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面12とで複列の軌道面を構成している。内輪2をハブ輪1の小径段部11に圧入し、その小径段部11の端部を揺動加締めにより外側に加締め、その加締め部13でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受6に予圧を付与している。
【0030】
外輪5は、内周面にハブ輪1および内輪2の内側軌道面8,12と対向する複列の外側軌道面14,15が形成され、外周面に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ16を備えている。この車体取付フランジ16は、車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに取り付け孔17を利用してボルト等で固定される。
【0031】
車輪用軸受6は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪1および内輪2の外周面に形成された内側軌道面8,12と外輪5の内周面に形成された外側軌道面14,15との間に転動体3,4を介在させ、各列の転動体3,4を保持器18,19により円周方向等間隔に支持した構造を有する。なお、車輪用軸受6は、加締め部13でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化した構造となっていることから、等速自在継手7の外側継手部材20と分離可能になっている。
【0032】
車輪用軸受6の両端開口部には、外輪5とハブ輪1および内輪2との環状空間を密封する一対のシール21,22が設けられている。このシール21,22は外輪5の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリース等の潤滑剤の漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止する。シール21は芯金と弾性部材からなり、弾性部材のリップ先端がハブ輪1の外周面に摺接するようになっている。シール22は所謂パックシールと言うタイプで2つのL字状芯金と弾性部材からなり、一方の芯金に弾性部材が取り付けられ、内輪外周に装着した他方の芯金の外周面に弾性部材のリップ先端が摺接するようになっている。
【0033】
等速自在継手7は、ドライブシャフトを構成するシャフト23の一端に設けられ、駆動側と従動側の二軸間で角度変位のみを許容する固定式等速自在継手である。この等速自在継手7は、内周面にトラック溝24が形成された外側継手部材20と、その外側継手部材20のトラック溝24と対向するトラック溝25が外周面に形成された内側継手部材26と、外側継手部材20のトラック溝24と内側継手部材26のトラック溝25との間に組み込まれたボール27と、外側継手部材20の内周面と内側継手部材26の外周面との間に介在してボール27を保持するケージ28とで構成されている。
【0034】
外側継手部材20は、内側継手部材26、ボール27およびケージ28からなる内部部品を収容したカップ状のマウス部29と、そのマウス部29から軸方向に一体的に延びるステム部30とで構成されている。内側継手部材26は、シャフト23の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能にシャフト23と結合している。
【0035】
等速自在継手7の外側継手部材20とシャフト23との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ31を装着して、外側継手部材20の開口部をブーツ31で閉塞した構造としている。このブーツ31は、外側継手部材20の外周面にブーツバンドにより締め付け固定された大径端部と、シャフト23の外周面にブーツバンドにより締め付け固定された小径端部と、大径端部と小径端部とを繋ぎ、その大径端部から小径端部へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部とで構成されている。
【0036】
この車輪用軸受装置は、
図2に示すように、外側継手部材20のステム部30の根元部位32を円柱形状とし、その根元部位32からアウトボード側の外周面に軸方向に延びる複数の凸部33からなる雄スプラインを形成する。これに対して、ハブ輪1の軸孔34の先端部位35を円筒形状とし、その先端部位35からアウトボード側の内周面に前述の凸部33の周方向側壁部71〔
図5(B)参照〕のみに対して締め代nを有する複数の凹部36を形成する。凹部36は、凸部33の周方向側壁部71のみに対して締め代nを有するように凸部33よりも小さく設定されている。このように凹部36を凸部33よりも小さく設定するには、凹部36の周方向寸法を凸部33よりも小さくすればよい。また、凸部33の周方向側壁部71を除く部位、つまり、凸部33の径方向先端部72は、凹部36と締め代を有さないことから、凹部36の径方向寸法を凸部33よりも大きく設定することにより、凹部36が凸部33の径方向先端部72に対して隙間pを有する。
【0037】
この車輪用軸受装置では、
図3および
図5(A)(B)に示すように、外側継手部材20のステム部30をハブ輪1の軸孔34に圧入し、相手側の凹部形成面であるハブ輪1の軸孔34に凸部33の周方向側壁部71の形状を転写することにより凹部37を形成する〔
図6(A)(B)参照〕。なお、凸部33の径方向先端部72は、凹部36と締め代を有さないことから、凸部33の径方向先端部72の形状が凹部36に転写されることはない。ステム部30を軸孔34に圧入するに際して、凸部33の周方向側壁部71により凹部形成面を極僅かに切削加工し、凸部33の周方向側壁部71による凹部形成面の極僅かな塑性変形や弾性変形を付随的に伴いながら、その凹部形成面に凸部33の周方向側壁部71の形状を転写することになる。この時、凸部33が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部33の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部33の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪1の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。
【0038】
このようにして、凸部33と凹部37との嵌合接触部位全域Xで密着した凹凸嵌合構造Mを構成する。これにより、外側継手部材20とハブ輪1を強固に結合一体化することができる。この凹凸嵌合構造Mでは、低コストで信頼性の高い結合により、ステム部30とハブ輪1の嵌合部分の径方向および周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合接触部位全域Xがトルク伝達に寄与して安定したトルク伝達が可能となり、耳障りな歯打ち音を長期に亘り防止できる。このように、嵌合接触部位全域Xで密着していることから、トルク伝達部位の強度が向上するため、車輪用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
【0039】
ここで、凸部33の表面硬度を凹部36の表面硬度よりも大きくする。その場合、凸部33の表面硬度と凹部36の表面硬度との差をHRCで20以上とする。これにより、外側継手部材20のステム部30をハブ輪1の軸孔34に圧入するに際して、凸部33の周方向側壁部71により凹部形成面を極僅かに切削加工し、凸部33の周方向側壁部71による凹部形成面の極僅かな塑性変形や弾性変形を付随的に伴いながら、相手側の凹部形成面に凸部33の周方向側壁部71の形状を容易に転写することができる。
【0040】
また、
図4(A)(B)に示すように、ハブ輪1の軸孔34に予め形成された凹部36のインボード側には、圧入の開始をガイドするガイド部を設けている。このガイド部はステム部30の凸部33よりも大きめの凹部38が形成されている(
図2の拡大部分参照)。つまり、凸部33と凹部38との間に隙間mが形成されている。このガイド部により、外側継手部材20のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ステム部30の凸部33がハブ輪1の凹部36に確実に圧入されるように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0041】
さらに、ハブ輪1の軸孔34と外側継手部材20のステム部30との間に、圧入による凸部形状の転写(切削加工およびそれに付随する塑性変形や弾性変形)によって生じる食み出し部39を収容する収容部40を設けている〔
図5(A)および
図6(A)参照〕。この収容部40は、外側継手部材20のステム部30の軸端を小径とすることにより、ハブ輪1の軸孔34の内周面との間に形成されている。これにより、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部39を収容部40に保持することができ、その食み出し部39が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。その食み出し部39を収容部40に保持することで、食み出し部39の除去処理が不要となり、作業工数の削減を図ることができ、作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0042】
この車輪用軸受装置は、
図1〜
図3に示すように、以下のようなねじ締め付け構造Nを具備し、外側継手部材20のステム部30をハブ輪1の軸孔34に圧入する作業は、このねじ締め付け構造Nを利用する。ねじ締め付け構造Nは、外側継手部材20のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、その雌ねじ部41に螺合した状態でハブ輪1に係止される雄ねじ部であるボルト42とで構成されている。この構造では、ハブ輪1の軸孔34に形成された突壁部43の貫通孔44にボルト42を挿通させてステム部30の雌ねじ部41に螺合させ、そのボルト42をハブ輪1の突壁部43に係止させた状態で締め付けることにより、等速自在継手7の外側継手部材20を引き込んで外側継手部材20のステム部30をハブ輪1の軸孔34に圧入し、等速自在継手7をハブ輪1に固定する。このボルト42の締め付けでもってハブ輪1の加締め部13に外側継手部材20の肩部45を当接させている。
【0043】
ステム部30のハブ輪1への圧入時、ハブ輪1の軸孔34に凸部33の周方向側壁部71の形状を転写することにより凹部37を形成するに際して、凸部33の周方向側壁部71のみに対して締め代nを有する凹部36、つまり、周方向寸法が凸部33よりも小さく設定された凹部36を予め形成していることから〔
図5(B)参照〕、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪1に対して外側継手部材20を圧入可能とすることができる。つまり、ボルト42の引き込み力でもって車輪用軸受6のハブ輪1に外側継手部材20を圧入して等速自在継手7を車輪用軸受6に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【0044】
このように、車輪用軸受6のハブ輪1に外側継手部材20を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるボルト42でもって等速自在継手7を簡易に車輪用軸受6に結合させることができる。また、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下という比較的小さな引き込み力の付与で圧入することができるので、ボルト42による引き込み作業性の向上が図れる。さらに、大きな圧入荷重を付与しないので済むことから、凹凸嵌合構造Mでの凹凸が損傷する(むしれる)ことを防止でき、高品質で長寿命の凹凸嵌合構造Mを実現できる。
【0045】
以上のようなボルト42の締め付けでもってハブ輪1の加締め部13に外側継手部材20の肩部45を当接させたねじ締め付け構造Nとしている。この車輪用軸受装置では、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪1に対して外側継手部材20を圧入可能とすることができることから、ボルト42の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力との差を32kN以下、好ましくは28kN以下とする。これは、ボルト42の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪1に対するステム部30の圧入力により発生する軸力との差、つまり、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力を32kN以下とすることになる。
【0046】
ここで、従来の車輪用軸受装置(
図28参照)では、ハブ輪101の軸孔の雌スプライン113と外側継手部材123のステム部125の雄スプライン126との嵌合構造を採用している。このことから、ナット127の締め付けにより発生する軸力が、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面に発生する軸力となる。つまり、ナット127の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪101の加締め部114と外側継手部材123の肩部128との当接面に発生する軸力とは等しい。
【0047】
これに対して、この実施形態の車輪用軸受装置では、ボルト42の締め付け時、外側継手部材20のステム部30の凸部33の周方向側壁部71に対して締め代nを有する凹部36がハブ輪1の軸孔34に予め形成された状態で、その凸部33の周方向側壁部71により凹部形成面を極僅かに切削加工し、凸部33の周方向側壁部71による凹部形成面の極僅かな塑性変形や弾性変形を付随的に伴いながら、外側継手部材20のステム部30がハブ輪1の軸孔34に圧入され、その凹部形成面に凸部33の周方向側壁部71の形状を転写することにより凹部37を形成した構造を採用している〔
図5(A)(B)参照〕。このことから、ボルト42の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力との差が、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力となる。
【0048】
つまり、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力を、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力の分だけ、ボルト42の締め付けにより発生する軸力よりも小さくすることができる。このようにして、従来の車輪用軸受装置の場合よりも、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面での面圧を小さくすることができ、車両発進時に車輪用軸受6に対して等速自在継手7から回転トルクが負荷された場合、当接面で急激な滑りが発生することを回避でき、スティックスリップ音の発生を未然に防止することができる。
【0049】
図7は、本出願人が行った軸力測定に基づく試験結果であり、ボルト42の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力を測定し、本発明品(No.1〜7)と比較品(No.8〜13)について、スティックスリップ音の有無を確認したものである。
【0050】
なお、ボルト42の締め付けにより発生する軸力の測定は、
図8に示すように、ボルト42の頭部46に孔47を形成し、その孔47に接着剤49で埋め込まれた歪みゲージ48を利用して行う。この歪みゲージ48は、ボルト42の軸部根元部位50の内部に埋設状態で配置されている。歪みゲージ48で測定される歪み値を軸力に換算するには、歪みゲージ48を埋め込んだボルト42の引張試験を予め行っておき、歪み値と軸力との関係を較正する。また、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力の測定は、ボルト42による引き込みとは別に、ハブ輪1の軸孔34に外側継手部材20のステム部30を圧入する際に、引張圧縮試験機に接続し、圧入力を測定する。
【0051】
この軸力測定に基づく試験では、
図7に示すように、ボルト42の締め付けにより発生する軸力と、ハブ輪1に対する外側継手部材20の圧入力により発生する軸力との差、つまり、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力が32kN以下となる本発明品(No.1〜7)では、スティックスリップ音が発生しなかった。これに対して、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力が32kNより大きくなる比較品(No.8〜13)では、スティックスリップ音が発生するという結果が得られた。なお、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面に発生する軸力は28kN以下とすることが好ましい。この28kNは、本発明品(No.1〜7)の軸力の平均値である。
【0052】
また、この実施形態の車輪用軸受装置では、
図2に示すように、ハブ輪1の加締め部13が当接する外側継手部材20の肩部45から凸部33(雄スプラインの切り上がり部)までの軸方向長さL1をステム部30の最大外径Dで除算した値を0.3以下とし、ステム部30の軸方向長さL2(外側継手部材20の肩部45から凸部33のアウトボード側端部までの軸方向長さ)をステム部30の最大外径Dで除算した値を1.3以下としている。ここで、ステム部30の最大外径Dとは、凸部33(雄スプライン)での尖端部外径を意味する。
【0053】
このように、ステム部30の最大外径Dに対する軸方向長さL1,L2を設定することにより、車両発進時に車輪用軸受6に対して等速自在継手7から回転トルクが負荷された場合、凹凸嵌合構造Mにおける有効嵌合長を確保した上で外側継手部材20の捩れ量を少なくすることができる。その結果、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面で急激な滑りが発生することを確実に回避でき、スティックスリップ音の発生をより一層確実に防止することができる。
【0054】
なお、外側継手部材20の肩部45から凸部33までの軸方向長さL1をステム部30の最大外径Dで除算した値が0.3よりも大きいか、あるいは、ステム部30の軸方向長さL2をステム部30の最大外径Dで除算した値が1.3よりも大きいと、凹凸嵌合構造Mにおける有効嵌合長を確保することが困難となったり、トルク負荷時における外側継手部材20の捩れ量を少なくすることが困難となる。その結果、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との当接面で急激な滑りが発生し易く、スティックスリップ音の発生を防止することが困難となる。
【0055】
以上の実施形態では、凸部33の周方向側壁部71〔
図5(B)参照〕のみに対して締め代nを有するように設定した場合について説明したが、
図9(A)(B)〜
図11(A)(B)に示す実施形態のように、凸部33の周方向側壁部71のみならず、その径方向先端部72を含む部位、つまり、凸部33の山形中腹部から山形頂上部に至る領域で締め代nを設定するようにしてもよい。このように、凹部36の全領域が凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72に対して締め代nを有するように、その凹部36を凸部33よりも小さく設定する。このように凹部36を凸部33よりも小さく設定するには、凹部36の周方向寸法および径方向寸法を凸部33よりも小さくすればよい。
【0056】
この実施形態の場合も、
図9(A)(B)に示すように、外側継手部材20のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ガイド部(凹部38)により、ステム部30の凸部33がハブ輪1の凹部36に確実に圧入されるように誘導する。そして、
図10(A)(B)に示すように、凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72により凹部形成面を極僅かに切削加工し、凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72による凹部形成面の極僅かな塑性変形や弾性変形を付随的に伴いながら、その凹部形成面に凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72の形状を転写する。この時、凸部33が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部33の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部33の軸方向相対移動が停止すれば、
図11(A)(B)に示すように、ハブ輪1の軸孔34が元の径に戻ろうとして縮径することになり、ハブ輪1の軸孔34に凹部37が形成される。
【0057】
なお、前述の
図4(A)(B)〜
図6(A)(B)に示す実施形態では、凸部33の周方向側壁部71〔
図5(B)参照〕のみに対して締め代nを有するように設定している。これに対して、
図9(A)(B)〜
図11(A)(B)に示す実施形態では、凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72〔
図10(B)参照〕に対して締め代nを有するように設定している。ここで、凸部33の周方向側壁部71のみに対して締め代nを有するように設定している実施形態の場合、凸部33の周方向側壁部71および径方向先端部72に対して締め代nを設定している実施形態の場合よりも、圧入荷重を下げることができる。
【0058】
図12〜
図27に示す実施形態の車輪用軸受装置は、凹凸嵌合構造Mの防錆を目的として、その凹凸嵌合構造Mに泥水などが侵入することを未然に防止するシール構造を具備する。この実施形態において、シール構造以外の他の構成は、
図1〜
図11に示す前述の実施形態と同様であるため、
図1〜
図11と同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0059】
図12〜
図15に示す実施形態では、円筒形状を有するシール52を、外側継手部材20のステム部30とハブ輪1の突壁部43との間に介在させた構造を具備する。このシール52はゴム製あるいは樹脂製の弾性部材が好ましい。シール52のインボード側端部53を、ステム部30に形成された収容部40である軸端小径部に嵌め込んで固定し(
図14および
図15参照)、ボルト42の締め付け時に外側継手部材20のステム部30を引き込むことにより、シール52のアウトボード側端部54をハブ輪1の突壁部43に押し当てて所定の締め代でもって密着させる(
図12および
図13参照)。このようにして、外側継手部材20のステム部30とハブ輪1の突壁部43との間に介在するシール52により、ボルト42が挿通されたハブ輪1の突壁部43の貫通孔44から泥水などが侵入しても、その泥水などが凹凸嵌合構造Mまで達することを阻止する。
【0060】
図16および
図17に示す実施形態では、円筒形状を有するシール55を、ハブ輪1の突壁部43とボルト42との間に介在させた構造を具備する。このシール55はゴム製あるいは樹脂製の弾性部材が好ましい。シール55は、外周面をハブ輪1の突壁部43の貫通孔内径に接着剤などで固定することにより、内周面をボルト42の軸部根元部位50に所定の締め代でもって密着させるか、あるいは、内周面をボルト42の軸部根元部位50に接着剤などで固定することにより、外周面をハブ輪1の突壁部43の貫通孔内径に所定の締め代でもって密着させる。このようにして、ハブ輪1の突壁部43とボルト42との間に介在するシール55により、ボルト42が挿通されたハブ輪1の突壁部43の貫通孔44から凹凸嵌合構造Mへ泥水などが侵入することを阻止する。
【0061】
図18および
図19に示す実施形態では、円筒形状を有し、アウトボード側端部に径方向外側に突出するフランジ部57を設けたシール56を、ハブ輪1の突壁部43とボルト42との間に介在させた構造を具備する。このシール56はゴム製あるいは樹脂製の弾性部材が好ましい。シール56の取り付け構造およびシール機能は、前述した
図16および
図17の実施形態におけるシール55と同様であるため、重複説明は省略する。このシール56の場合、アウトボード側端部にフランジ部57を有することから、ハブ輪1の突壁部43に対する軸方向の位置規制が可能となる。その結果、シール56の外周面をハブ輪1の突壁部43に固定する場合、その取り付けが容易となる。さらに、ボルト42で外側継手部材20を引き込む際、フランジ部57により、シール56のインボード側への移動(位置ずれ)を防止できる。また、シール56の内周面をボルト42の軸部根元部位50に固定する場合、ハブ輪1の突壁部43の貫通孔内径に密着する外周面での沿面距離をかせぐことができてシール性がより一層向上する。
【0062】
図20および
図21に示す実施形態では、金属製のシール部材58の先端部内径にリップ部材59を装着したリップ付きシール60を、外側継手部材20と内輪2との間に介在させた構造を具備する。リップ部材59はゴム製あるいは樹脂製の弾性部材が好ましい。シール60は、シール部材58の基端部を内輪2の端部に嵌め込んで固定し、そのシール部材58の先端部内径に取り付けられたリップ部材59を外側継手部材20の肩部45の外周面に弾圧接触で密着させる。このようにして、外側継手部材20の肩部45と内輪2との間に介在するシール60により、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との間から凹凸嵌合構造Mへ泥水などが侵入することを阻止する。
【0063】
図22および
図23に示す実施形態では、金属製のラビリンスシール61を、外側継手部材20と内輪2との間に介在させた構造を具備する。このシール61は、その円筒状基端部62を内輪2の端部に嵌め込んで固定し、その彎曲状先端部63を外側継手部材20の肩部45の外周面に近接させる。このようにして、外側継手部材20の肩部45と内輪2との間に介在するシール61の彎曲状先端部63でのラビリンス構造により、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との間から凹凸嵌合構造Mへ泥水などが侵入することを阻止する。
【0064】
図24および
図25に示す実施形態では、金属製のシール部材64の先端部にゴム製あるいは樹脂製のリップ部材65を装着したリップ付きシール66を、外側継手部材20と内輪2との間に介在させた構造を具備する。リップ部材65はゴム製あるいは樹脂製の弾性部材が好ましい。シール66は、シール部材64の基端部を外側継手部材20の肩部45に嵌め込んで固定し、そのシール部材64の先端部に取り付けられたリップ部材65を内輪2の端面に弾圧接触で密着させる。このようにして、外側継手部材20の肩部45と内輪2との間に介在するシール66により、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との間から凹凸嵌合構造Mへ泥水などが侵入することを阻止する。
【0065】
図26および
図27に示す実施形態では、金属製のラビリンスシール67を、外側継手部材20と内輪2との間に介在させた構造を具備する。このシール67は、その円筒状基端部68を外側継手部材20の肩部45に嵌め込んで固定し、その屈曲状先端部69を内輪2の端面に近接させる。このようにして、外側継手部材20の肩部45と内輪2との間に介在するシール67の屈曲状先端部69でのラビリンス構造により、ハブ輪1の加締め部13と外側継手部材20の肩部45との間から凹凸嵌合構造Mへ泥水などが侵入することを阻止する。
【0066】
以上の実施形態では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1の突壁部43に係止させた状態で締め付けるねじ締め付け構造Nを例示したが、他のねじ締め付け構造として、外側継手部材20のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部と、その雄ねじ部に螺合した状態でハブ輪1の突壁部43に係止される雌ねじ部であるナットとで構成することも可能である。
【0067】
また、以上の実施形態では、ハブ輪1の小径段部11の端部を揺動加締めにより外側に加締め、その加締め部13でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化することにより、等速自在継手7を車輪用軸受6から分離可能とした加締め構造を例示したが、内輪2をハブ輪1の小径段部11に圧入し、その内輪2の端部を外側継手部材20の肩部45に当接させる非加締め構造であってもよい。
【0068】
さらに、以上の実施形態では、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材に形成された複列の内側軌道面8,12の一方、つまり、アウトボード側の内側軌道面8をハブ輪1の外周に形成した(第三世代と称される)タイプの車輪用軸受装置に適用した場合を例示したが、ハブ輪1の外周に一対の内輪を圧入し、アウトボード側の軌道面8を一方の内輪の外周に形成すると共にインボード側の軌道面12を他方の内輪の外周に形成した(第一、第二世代と称される)タイプの車輪用軸受装置にも適用可能である。
【0069】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。