【実施例】
【0038】
以下、本発明の一実施形態について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0039】
〔第1実施例〕
(実施例)
〔正極活物質の合成〕
LiNi
0.55Co
0.20Mn
0.25O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムの粒子1000g(10.34mol)を3リットルの純水に投入し攪拌した。次に、これに硝酸エルビウム5水和物4.58g(10.33mmol)を溶解した溶液を加えた。この際、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加え、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを含む溶液のpHが9となるように調整した。次いで、吸引濾過、水洗した後、空気雰囲気中において400℃の温度で5時間熱処理をし、表面にオキシ水酸化エルビウムが均一に付着したニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得た。尚、上記オキシ水酸化エルビウムの付着量は、エルビウム元素換算で、上記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの遷移金属の総モル量に対して0.1モル%であった。
【0040】
[正極の作製]
上記正極活物質94質量部に、炭素導電剤としてのカーボンブラック4質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン2質量部とを混合し、更に、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えることにより正極スラリーを調製した。次に、該正極スラリーを、アルミニウムからなる正極集電体の両面に塗布、乾燥した。最後に、ローラーを用いて圧延し、所定の電極サイズに切り取り、更に、正極リードを取り付けることにより、正極を作製した。
【0041】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛を97.5質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを1質量部と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム1.5質量部とを混合し、純水を適量加えて負極スラリーを調製した。次に、この負極スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布、乾燥した。最後に、ローラーを用いて圧延し、所定の電極サイズに切り取り、更に、負極リードを取り付けることにより、負極を作製した。
【0042】
[非水電解液の調製]
EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)とPC(プロピレンカーボネート)とFEC(フルオロエチレンカーボネート)を10:10:65:5:10の体積比で混合した混合溶媒に、溶質としてのLiPF
6を1.5モル/リットルの濃度となるように、またリチウムビスオキサラトボレートを0.01モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0043】
[電池の作製]
上記正極と上記負極とを、ポリエチレン製微多孔膜から成るセパレータを介して対向配置した後、巻き芯を用いて渦巻状に巻回した。次に、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製し、この電極体を金属製の外装缶に挿入した後、上記非水電解液を注入し、更に封口することによって、電池サイズが直径18mmで、高さ65mmの18650型の非水電解質二次電池(容量:2.1Ah)を作製した。 このようにして作製した電池を、以下、電池Aと称する。
【0044】
図1は、上述のようにして作製した非水電解質二次電池を示す模式的断面図である。
図1に示すように、正極1、負極2及びセパレータ3からなる電極体4は、負極缶5内に挿入されている。負極缶5の上方に、正極端子を兼ねる封口体6を配置し、負極缶5の上部をかしめて封口体6を取り付け、非水電解質二次電池10を作製している。
【0045】
(比較例1)
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に、オキシ水酸化エルビウムの付着を行わず、電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。
【0046】
(比較例2)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0047】
(比較例3)
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に、オキシ水酸化エルビウムの付着を行わなかったこと以外は、上記実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
【0048】
<低温放電性能の評価>
上記電池A、Z1〜Z3について、下記条件で低温放電性能を調べた。
・充放電条件
25℃の温度条件下、1It(2.1A)の充電電流で電池電圧が4.35Vまで定電流充電を行い、更に、電池電圧4.35Vの定電圧で電流が0.02It(0.042A)になるまで定電圧充電を行った。次に、−20℃の環境へ移し、9.52It(20A)の放電電流で定電流放電するという条件にて、放電開始から0.1秒後の電池電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、本発明に従う電池Aは、比較の電池Z1〜Z3に比べ、低温での大電流放電開始0.1秒後の電圧の低下が抑制されている。従って、低温環境下での大電流放電性能に優れていることがわかる。これは、電池Aにおいては、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に、リチウムイオン伝導性に優れた良質な被膜が形成されたためであると考えられる。その反応機構の詳細は明らかでないが、以下のように考えられる。希土類元素の電気陰性度は、アルカリ土類金属の次に陽性が高いため、遷移金属元素の中でも反応性に優れる元素である。ゆえに、希土類元素は、高い電子吸引性を有している。一方、オキサラト錯体は高い電子供与性を有している。このため、充電時に、希土類元素とオキサラト錯体が選択的に結合し、正極活物質上に被膜が形成するものと考えられる。この希土類元素に結合したオキサラト錯体は、非水電解質中のリチウムイオンと配位する性質を有しているため、リチウム含有遷移金属酸化物に付着した希土類化合物とオキサラト錯体により形成された被膜は、リチウムイオン伝導性に優れるものと考えられる。
【0051】
本発明電池Aでは、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩としてLiBOBを用いたが、上記の理由によりLiBOBに限定されるものではなく、他のオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いた場合においても同様の効果が発現するものと考えられる。
【0052】
〔第2実施例〕
(実施例1)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを0.03モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製したこと以外は、上記第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。
【0053】
(実施例2)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを0.06モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製したこと以外は、上記第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。
【0054】
(実施例3)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを0.1モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製したこと以外は、上記第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池B3と称する。
【0055】
(
参考例)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを0.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製したこと以外は、上記第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池B4と称する。
【0056】
<低温放電性能の評価>
上記電池B1〜B4について、上記第1実施例と同様の条件で低温放電性能を調べ、放電開始から0.1秒後の電池電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、本発明に従う電池A、B1〜B4は、比較の電池Z2に比べ、低温での大電流放電開始0.1秒後の電圧の低下が抑制されており、低温環境下での大電流放電性能に優れていることがわかる。従って、非水電解質1リットル当たりのLiBOBの割合が、0.01モル以上0.2モル以下であれば、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に、上記したリチウムイオン伝導性に優れる良質な被膜(リチウム含有遷移金属酸化物に付着した希土類化合物とオキサラト錯体により形成された被膜)が確実に形成されることがわかる。
【0059】
〔第3実施例〕
(実施例1)
[正極活物質の合成]
LiNi
0.55Co
0.20Mn
0.25O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムに代えて、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いたこと以外は、第1実施例の実施例と同様にして正極活物質を合成し、表面にオキシ水酸化エルビウムが均一に付着したニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得た。尚、上記オキシ水酸化エルビウムの付着量は、エルビウム元素換算で、上記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの遷移金属の総モル量に対して0.1モル%であった。
【0060】
[正極(作用極)の作製]
上記正極活物質を用い、第1実施例の実施例と同様にして正極スラリーを調整した。次に、該スラリーをアルミニウムからなる正極集電体の両面に塗布、乾燥した。塗布量は、片面あたり200g/m
2であった。最後に、ローラーを用いて圧延し、所定の電極サイズに切り取り、更に、正極リードを取り付けることにより、正極(塗布面積2.5cm×5.0cm)となる作用極を作製した。
【0061】
[負極(対極)及び参照極の作製]
負極となる対極と、参照極には、共にリチウム金属を用いた。
【0062】
[非水電解液の調製]
EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)を3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に、溶質としてのLiPF
6を1.0モル/リットルの濃度となるように、さらに、ビニレンカーボネートを1質量%、また、リチウムビスオキサラトボレートを0.1モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0063】
[三電極式試験電池の作製]
図2に示すように、上記正極(作用極)11と上記負極(対極)12の間、及び上記正極(作用極)11と参照極14との間に、それぞれセパレータ13を配し、これらをアルミラミネート15で包み込むことにより、アルミラミネートセル(三電極式試験電池)を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池C1と称する。
【0064】
(比較例1)
非水電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第3実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y1と称する。
【0065】
(実施例2)
正極活物質の合成において、硝酸エルビウム5水和物に代えて硝酸ランタン6水和物を用い、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2の表面にオキシ水酸化ランタンが
均一に付着したニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得たこと以外は、上記第3実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池C2と称する。
【0066】
(比較例2)
非水電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第3実施例の実施例2と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y2と称する。
【0067】
(実施例3)
正極活物質の合成において、硝酸エルビウム5水和物に代えて硝酸ネオジム6水和物を用い、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2の表面にオキシ水酸化ネオジムが均一に付着したニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得たこと以外は、上記第3実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池C3と称する。
【0068】
(比較例3)
非水電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第3実施例の実施例3と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y3と称する。
【0069】
(実施例4)
正極活物質の合成において、硝酸エルビウム5水和物に代えて硝酸サマリウム6水和物を用い、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2の表面にオキシ水酸化サマリウムが均一に付着したニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得たこと以外は、上記第3実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池C4と称する。
【0070】
(比較例4)
非水電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第3実施例の実施例4と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y4と称する。
【0071】
(比較例5)
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に、オキシ水酸化エルビウムの付着を行わなかったこと以外は、上記第3実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y5と称する。
【0072】
(比較例6)
非水電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第3実施例の比較例5と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Y6と称する。
【0073】
<放電性能の評価>
上記電池C1〜C4、Y1〜Y6について、下記条件で放電性能を調べた。
・充放電条件1
25℃の温度条件下、0.1It(0.01A)の電流密度で4.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電し、更に、4.5V(vs.Li/Li
+)の定電位で電流密度が0.02It(0.002A)になるまで定電位充電した。さらに、0.1It(0.01A)の電流密度で2.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流放電した。
・充放電条件2(サイクル試験)
さらに、25℃の温度条件下、2It(0.2A)の電流密度で4.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電し、更に、4.5V(vs.Li/L
i
+)の定電位で電流密度が0.02It(0.002A)になるまで定電位充電した。次に各セルをそれぞれ、2It(0.2A)の電流密度で2.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流放電する条件を10回繰り返し、10サイクル後の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
尚、電池C1〜C4及び電池Y1〜Y6の10サイクル後の容量維持率は、電池C1の10サイクル後の容量維持率を100としたときの相対値を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示すように、エルビウム、ランタン、ネオジム、サマリウムのような希土類の化合物をニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に付着させた場合には、非水電解液にLiBOBが添加されていない電池Y1〜Y4では、サイクル後の容量維持率が低下しているのに対して、希土類の化合物をニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に付着させ、且つ、非水電解液にLiBOBが添加された電池C1〜C4は、電池Y1〜Y4のみならず、電池Y5と比較してもサイクル後の容量維持率が高くなっており、大電流放電性能に優れていることがわかる。これは、電池C1〜C4においては、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に、上記したリチウムイオン伝導性に優れた良質な被膜が形成されたためであると考えられる。一方、電池Y1〜Y4、Y6については、電解液にLiBOBが添加されていないために、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に、リチウムイオン伝導性に優れた被膜が形成されにくくなっているため、10サイクル後の容量維持率の向上の効果が得られなかったと考えられる。また、電池Y5については、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に希土類の化合物が付着していない場合、リチウムビスオキサラトボレートを添加しても、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に希土類の化合物が付着している場合と比較して、正極活物質上にリチウムイオン伝導性に優れる被膜が形成されにくくなっているため上記の効果が得られなかったと考えられる。
【0076】
本実施例では、希土類の化合物の希土類元素として、エルビウム、ランタン、ネオジム、サマリウムを用いたが、上記したリチウムイオン伝導性に優れる良質な被膜は、希土類元素とオキサラト錯体が選択的に結合することにより形成すると考えられるので、他の希土類元素を用いた場合においても同様の効果が発現するものと考えられる。
【0077】
また、エルビウム、ネオジム、サマリウムの化合物をニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に付着させた電池C1、C3、C4は、ランタンの化合物をニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に付着させた電池C2に比べて、サイクル後の容量維持率がより向上していることがわかり、大電流放電性能に優れている。この要因としては、 ランタンに比べてエルビウム、ネオジム、サマリウムの化合物は、平均粒径が小さく、正極活物質の表面により均一に析出し易いことに起因するものと考えられる。従って、エルビウム、ネオジム、サマリウムの化合物をニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面に付着させるのがより好ましい。
【0078】
〔第4実施例〕
(実施例1)
〔正極活物質の合成〕
第1実施例の実施例と同様にして、正極活物質を合成した。
【0079】
[正極(作用極)の作製]
上記正極活物質を用い、第1実施例の実施例と同様にして正極スラリーを調整した。次に、該スラリーをアルミニウムからなる正極集電体の片面に塗布、乾燥した。塗布量は、100g/m
2であった。最後に、所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて圧延し、更に、正極リードを取り付けることにより、正極(塗布面積2.5cm×5.0cm)となる作用極を作製した。
【0080】
[負極(対極)及び参照極の作製]
負極となる対極と、参照極とには、共にリチウム金属を用いた。
【0081】
[非水電解液の調製]
EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)を3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に、溶質としてのLiPF
6を1.0モル/リットルの濃度となるように、さらに、ビニレンカーボネートを1質量%、また、リチウムビスオキサラトボレートを0.1モル/リットルの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0082】
[三電極式試験電池の作製]
図2に示すように、上記正極(作用極)11と上記負極(対極)12の間、及び上記正極11と参照極14との間に、それぞれセパレータ13を配し、これらをアルミラミネート15で包み込むことにより、アルミラミネートセル(三電極式試験電池)を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池D1と称する。
【0083】
(実施例2)
LiNi
0.55Co
0.20Mn
0.25O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムに代えて、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極活物質として用いたこと以外は、第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。尚、オキシ水酸化エルビウムの付着量は、エルビウム元素換算で、上記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの遷移金属の総モル量に対して0.1モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池D2と称する。
【0084】
(実施例3)
LiNi
0.55Co
0.20Mn
0.25O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムに代えて、LiNi
0.80Co
0.15Al
0.05O
2で表されるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを正極活物質として用いたこと以外は、第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。尚、オキシ水酸化エルビウムの付着量は、エルビウム元素換算で、上記ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの遷移金属の総モル量に対して0.1モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池D3と称する。
【0085】
(実施例4)
LiNi
0.55Co
0.20Mn
0.25O
2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムに代えて、LiCoO
2で表されるコバルト酸リチウムを正極活物質として用いたこと以外は、第1実施例の実施例と同様にして電池を作製した。尚、オキシ水酸化エルビウムの付着量は、エルビウム元素換算で、上記コバルト酸リチウムの遷移金属の総モル量に対して0.1モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池D4と称する。
【0086】
(比較例1)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第4実施例の実施例1と同様にアルミラミネートセルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池X1と称する。
【0087】
(比較例2)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第4実施例の実施例2と同様にアルミラミネートセルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池X2と称する。
【0088】
(比較例3)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第4実施例の実施例3と同様にアルミラミネートセルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池X3と称する。
【0089】
(比較例4)
電解液にリチウムビスオキサラトボレートを添加しなかったこと以外は、上記第4実施例の実施例4と同様にアルミラミネートセルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池X4と称する。
【0090】
<低温放電性能の評価>
上記電池D1〜D4、X1〜X4について、下記条件で放電性能を調べた。
・充放電条件1
25℃の温度条件下、0.1It(0.0025A)の電流密度で4.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電し、更に、4.5V(vs.Li/Li
+)の定電位で電流密度が0.02It(0.0005A)になるまで定電位充電した。さらに、0.1It(0.0025A)の電流密度で2.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流放電した。
・充放電条件2(サイクル試験)
さらに、25℃の温度条件下、2It(0.05A)の電流密度で4.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電し、更に、4.5V(vs.Li/Li
+)の定電位で電流密度が0.02It(0.0005A)になるまで定電位充電した。次に各セルをそれぞれ、2It(0.05A)の電流密度で2.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流放電する条件を10回繰り返し、10サイクル後の容量維持率を測定した。結果を表4に示す。
尚、電池D2〜D4及びX1〜X4の10サイクル後の容量維持率は、電池D1の10サイクル後の容量維持率を100としたときの相対値を示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示すように、本発明に従う電池D1〜D4は、比較の電池X1〜X4に比べ、10サイクル後の容量維持率が向上していることがわかる。従って、リチウム含有遷移金属酸化物として、一般式Li
aNi
xCo
yMn
zO
2(0.95<a<1.20、0.30≦x≦0.80、0.10≦y≦0.40、0.10≦z≦0.50)の範囲を満たすニッケルコバルトマンガン酸リチウム、一般式Li
aNi
xCo
yAl
zO
2(0.95<a<1.20、0.50≦x≦0.99、0.01≦y≦0.50、0.01≦z≦0.10)の範囲を満たすニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム、コバルト酸リチウムを用いた場合には、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着された希土類のオキシ水酸化エルビウム(希土類の化合物)と電解液に添加されたLiBOB(添加剤としてのリチウム塩)とが充電時に反応し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に上記したリチウムイオン伝導性を有する良質な被膜が確実に形成されるためと考えられる。一方、電解液にLiBOBが添加されていない電池X1〜X4について高い容量維持率が得られていない理由としては、非水電解液にLiBOBが添加されていない場合には、リチウム含有遷移金属酸化物の表面にリチウムイオン伝導性に優れた被膜が形成されにくくなっているためと考えられる。
【0093】
なお、本実施例で、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いた場合に、容量維持率の改善効果が小さくなっているが、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムにおいても、表面に付着された希土類のオキシ水酸化エルビウム(希土類の化合物)と電解液に添加されたLiBOB(添加剤としてのリチウム塩)とが充電時に反応し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に上記したリチウムイオン伝導性を有する良質な被膜が確実に形成され、本願発明の効果は得られる。しかし、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムの表面にはNiOからなる抵抗層が存在するため、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウムを用いた場合の方が、より大きな効果が得られる。
上記の理由で、リチウム含有遷移金属酸化物にNiを含む場合には、活物質中のNiの平均酸化数が2.9未満であるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いることが望ましく、活物質中のNiの平均酸化数が2.66未満であるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いることがより望ましい。これは、Niの平均酸化数が3であるニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムでは、活物質表面でのNiOからなる抵抗層の割合が多くなるからである。
【0094】
上記実施例においては、非水電解質二次電池として、円筒型の電池及び三電極式の電池を例にして説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。