(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内周ブラシシール又は前記外周ブラシシールの少なくともいずれか一方は、束状にされて円周に沿って壁状に配列された複数の線状部材について、当該線状部材の一方の端部を溶接することにより前記複数の線状部材を相互に結合してリング状に形成し、前記溶接箇所から他方の端部側にシール部及び前記自由端部を形成したブラシシールであることを特徴とする請求項2に記載のブラシシール装置。
前記内周ブラシシール及び前記外周ブラシシールは、束状にされて円周に沿って壁状に配列された複数の線状部材について、当該線状部材の各途中部分を溶接することにより前記複数の線状部材を相互に結合してリング状に形成し、前記溶接箇所の外周側を前記外周ブラシシール、内周側を前記内周ブラシシールとして形成したものであることを特徴とする請求項2に記載のブラシシール装置。
前記連結部から内周側に伸びて、当該板ブラシシール単板の周方向に対して傾斜した前記剛毛としての細梁を有する前記内周側ブラシ部と、前記内周側自由端部と、からなる前記内周ブラシシールと、
前記連結部から外周側に伸びて、当該板ブラシシール単板の周方向に対して傾斜した前記剛毛としての細梁を有する前記外周側ブラシ部と、前記外周側自由端部と、からなる前記外周ブラシシールと、
前記内周ブラシシールと前記外周ブラシシールの各連結部が一体的に形成される基部と、
を有する板ブラシシール単板を積層して形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシシール装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1実施形態
本発明の第1実施形態のブラシシール装置100について
図1〜
図4を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態のブラシシール装置100は、例えばガスタービン等に設置されて使用され、ハウジング810と回転軸830との間隙を高圧P1側と低圧P2側とに仕切るブラシシール装置である。
【0021】
ブラシシール装置100は、ハウジング810の内周面811に設けられた段部812に取り付けられる。ブラシシール装置100は、ブラシシール110の内周及び外周に各々自由端部として形成される内周側自由端部125及び外周側自由端部145を有する。内周側自由端部125は、回転軸830の外周面831と対向して外周面831に接触又は近接した状態に配置されており、外周側自由端部145は、ハウジング810の内周面811と対向して内周面811に接触又は近接した状態に配置されている。このような構成、配置により、ブラシシール装置100は高圧P1側の被密封流体をシールする。
【0022】
ブラシシール装置100は、主な構成部として、ブラシシール110、背板部180、保持部185及びブラシ受部190を有し、ブラシシール110は、さらに内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140を有する。
【0023】
内周ブラシシール120は、
図1及び
図2Aに示すように、多数の線形の剛毛121を束状にし、束状にした剛毛121を円周に沿って壁状に配列し、外周側を溶接により結合してリング状に形成したものである。外周側のリング状の溶接部は取付部122として形成され、その内周側がブラシ部123として形成され、内周側の端部が回転軸830の外周面831と接触又は近接する自由端部125として形成される。
【0024】
各剛毛121は、
図2Aに示すように、直線状を成して、回転軸830の回転方向へ傾斜するように回転軸830の径方向に対して所定の角度で傾斜した姿勢で配置される。ブラシシール装置100が実際の装置に設置され使用される場合、このように配列された内周ブラシシール120の内周側自由端部125の内側に、回転軸830が嵌合される。回転軸830との嵌合面(嵌合部)を形成する内周ブラシシール120の剛毛121の内周側自由端部125は、
図3に示すように、極力隙間を生じないように整然とかつ密に配列され、また精密に仕上げ加工されている。
【0025】
本実施形態において、剛毛121は、鋼、ニッケル基の合金、セラミック材等の材質で、断面が円形の線状部材であり、その直径は0.5〜0.005mm、好ましくは0.20〜0.02mmである。
ただし、剛毛121としては、本願明細書に記載の作用、動作あるいは効果等が発揮できることを前提に、任意の形状のものを用いてよい。例えば、断面が矩形の線状部材等、円形以外の任意の断面形状を有する部材を用いてよいし、上記の範囲以外の直径を有する部材を用いてもよい。また、断面形状や断面サイズ(直径)等が変化するような剛毛を用いてもよいし、多数の剛毛の中に、そのような形状、形態の異なる剛毛を混在させて使用してもよい。
【0026】
外周ブラシシール140は、
図1及び
図2Bに示すように、多数の線形の剛毛141を束状にし、その束状にした剛毛141を円周に沿って壁状に配列し、内周側を溶接により結合してリング状に形成したものである。内周側のリング状の溶接部は取付部142として形成され、その外周側がブラシ部143として形成され、外周側の端部がハウジング810の内周面811と接触又は近接する自由端部145に形成される。剛毛141の配列密度や配列形態は、実質的に、前述した内周ブラシシール120の剛毛121の配列密度や配列形態と同じである。
【0027】
各剛毛141は、
図2Bに示すように、直線状を成して、ハウジング810の内周面811の周方向に沿って傾斜するように、ハウジング810の内周の径方向に対して所定の角度で傾斜した姿勢で配置される。また、その剛毛141の傾斜は、回転軸830の径方向に対して、内周ブラシシール120の剛毛121の周方向に沿った傾斜とは反対方向に傾斜した構成とされる。なお、このような構成とすることの作用、効果は後述する。
【0028】
ハウジング810の内周面811と嵌合する外周ブラシシール140の剛毛141の外周側自由端部145は、取付部142より外周側に配置されるため若干隙間は生じるものの、
図3に示した内周ブラシシール120の剛毛121と同様に、なるべく隙間を生じないように整然とかつ密に配列され、また精密に仕上げ加工されたものである。このように配列された外周ブラシシール140の外周側自由端部145が、後述するブラシ受部190を介在させてハウジング810の内周面811に接触し摺動するように配置される。
【0029】
本実施形態において、剛毛141は、前述した内周ブラシシール120の剛毛121と同じものである。すなわち、剛毛141は、鋼、ニッケル基の合金、セラミック材等の材質で、断面が円形の線状部材であり、その直径は0.5〜0.005mm、好ましくは0.20〜0.02mmである。また、剛毛141の形態の変形可能性についても、上述した剛毛121と同じである。
【0030】
本実施形態においては、外周ブラシシール140のブラシ部143は、内周ブラシシール120のブラシ部123と実質的に同じブラシ部である。すなわち、外周ブラシシール140の剛毛141は、内周ブラシシール120の剛毛121と同じ材料である。すなわち、各剛毛121及び141は、材質、形状(断面形状)、線径等が同じで、弾性特性等の特性も同じである。また、剛毛141の配列密度や配列形態も、実質的に内周ブラシシール120の剛毛121の配列密度や配列形態と同じである。ただし、外周ブラシシール140の剛毛141と内周ブラシシール120の剛毛121とは、傾斜角度、傾斜方向及び剛毛の長さという点については相違する。
【0031】
ここで、本願発明及び本願明細書において「ブラシ部が同じ」と記載する場合は、第2実施形態として後述するような、剛毛の途中を溶接して内周側を内周ブラシシール120とし外周側を外周ブラシシール140とする形態を典型例とし、これと実質的に同等の形態を意味するものとする。従って、内外周の剛毛の長さの相違、溶接前後の加工に係る内外周の各剛毛の傾斜角度、傾斜方向の相違等は、同じブラシ部を有するとの意義に含まれるものである。このような観点から、本実施形態の外周ブラシシール140のブラシ部143と内周ブラシシール120のブラシ部123とは、剛毛121と剛毛141の傾斜角度、傾斜方向あるいは剛毛の長さという点については相違するものの、材質、形状(断面形状)、線径等が同じで、弾性特性等の特性も同じ、配列密度や配列形態も同じであり、実質的に同じブラシ部である。
【0032】
外周ブラシシール140の取付部142の内側となる環状空間147(
図2B参照)は、内周ブラシシール120の装着部である。外周ブラシシール140の内側環状空間147は、内部に内周ブラシシール120を嵌合可能なように、内周ブラシシール120の外周と略同じ内径に形成されている。換言すれば、内周ブラシシール120は、外周ブラシシール140の環状空間147に嵌合可能なように、その外径が外周ブラシシール140の内側環状空間147の内径と略同じ外径に形成されている。
【0033】
そして、
図4に示すように、外周ブラシシール140の環状空間147に内周ブラシシール120を嵌合設置することにより、ブラシシール110が構成される。外周ブラシシール140と内周ブラシシール120とは、取付部142と取付部122とが連結部112として溶接等により接合されることにより一体化され、ブラシシール110として形成される。
【0034】
背板部180は、
図1に示すように、ブラシシール110の低圧P2側に設置される円環板状部材である。背板部180は、側面181がブラシシール110の内周ブラシシール120の剛毛121に接触する状態に配置され、被密封流体の圧力を受ける剛毛121を低圧P2側から支持する。
【0035】
背板部180の中央には、回転軸830を通過させる開口182が形成されている。開口182は、回転軸830が振動や偏芯等して径方向に移動しても接触しない程度の十分な大きさの直径を有するものである。一方で、開口182は、剛毛121の適切な支持及び被密封流体の漏洩防止の観点から、ハウジング810の段部812の内側内周面813あるいは後述する保持部185の開口187よりも小さい直径に形成される。
【0036】
なお、背板部180の低圧P2側の側面183は、図示しないが、ブラシシール装置100とハウジング810との間の二次シールが形成される二次シール面として構成される場合もある。
【0037】
保持部185は、ブラシシール110の高圧P1側に設置される円環板状部材である。保持部185は、側面186がブラシシール110の内周ブラシシール120の剛毛121に接触する状態に配置されており、中央には、回転軸830を通過させる開口187が形成されている。開口187は、回転軸830が振動や偏芯等してブラシシール110の内周ブラシシール120に当接したり当接状態が変化した場合等において剛毛121の変形等に対応できるように、背板部180の開口182と比べて十分に大きい直径に形成されている。
【0038】
これら背板部180と保持部185とは、これらの間でブラシシール110を挟持するような形態でブラシシール110と一体に形成されている。
特に本実施形態においては、背板部180と保持部185とは、
図1に示すように、ブラシシール110の内周ブラシシール120を挟持するように構成されている。すなわち、背板部180と内周ブラシシール120の取付部122と保持部185とが、内周ブラシシール120の取付部122を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合されている。
【0039】
なお、このような構成においては、ブラシシール装置100全体としては、背板部180及び保持部185と一体化された内周ブラシシール120を、外周ブラシシール140の環状空間147内に挿入し、外周ブラシシール140を内周ブラシシール120の外周側に接合することにより構成にしてもよいし、あるいは、前述したように内周ブラシシール120を外周ブラシシール140の環状空間147に装着して接合しブラシシール110を形成した後に、ブラシシール110の内周ブラシシール120の両側に背板部180及び保持部185を接合する構成であってもよい。
【0040】
また、図示しないが、背板部180と保持部185とが、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とが一体化されたブラシシール110を挟持する構成でもよい。すなわち、背板部180と、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とが一体化されたブラシシール110と、保持部185とが、ブラシシール110の連結部112の箇所を中心にして溶接され、一体化される構成であってもよい。
【0041】
背板部180及び保持部185は、例えば、ニッケル基の合金、鉄、鋼、その他非鉄金属等、任意の材質で製作される。背板部180及び保持部185は、例えば、被密封流体の種類、温度、その他の条件によって、あるいは、内周ブラシシール120の剛毛121若しくは取付部122の材質や構造等によって、適宜好適な材質が選定される。
【0042】
ブラシ受部190は、ハウジング810の内周面811のブラシシール装置100が設置される箇所に嵌合設置される筒状部材であり、外周ブラシシール140の剛毛141の外周側自由端部145の広がりを防止する広がり防止部材である。ブラシ受部190には、内径方向に向かって、すなわちその内周面に、凹部191が形成されている。凹部191は、外周ブラシシール140の外周側自由端部145が近接して、又は当接して、あるいは摺動するように配置される通路である。凹部191の軸方向の両端部は径方向内側に環状に突出しており、外周ブラシシール140の外周側自由端部145が凹部191の外側に出ないように、外周ブラシシール140の外周側自由端部145の移動を規制する。
【0043】
このようなブラシ受部190を外周ブラシシール140の外周側自由端部145に対して設置することにより、外周ブラシシール140の剛毛141の外周側自由端部145が広がることを防ぐことができ、外周側自由端部145が整然と密に配列された状態を長期にわたって維持することができる。特に、
図1に示す本実施形態のように、背板部180及び保持部185に相当する構成を外周ブラシシール140に対しては設けない構成のブラシシール装置100にあっては、外周ブラシシール140の外周側自由端部145が広がる(特に軸方向に)可能性があるが、ブラシ受部190を設けることで外周側自由端部145の広がりを防止することができる。その結果、外周ブラシシール140の外周側自由端部145が広がることに起因するブラシシール装置100の偏芯防止機能が減少することを防止でき、ブラシシール装置100の適切な作動を長期にわたって維持することができる。
【0044】
また、ブラシ受部190を設けることにより、外周ブラシシール140の外周側自由端部145がハウジング810の内周面811に密接摺動することによるハウジング810の内周面811の摩耗を防ぐことができる。
【0045】
ブラシ受部190も、背板部180及び保持部185と同様に、例えば、ニッケル基の合金、鉄、鋼、その他非鉄金属等、任意の材質であり、被密封流体の種類、温度、その他の条件によって適宜好適な材質を選定してよい。しかし、ブラシ受部190としては、特に、耐摩耗性の強い材料で形成するのが好適であり、剛毛141の材質、当接・摺動条件等に応じて適宜好適な材料が選定される。
【0046】
なお、ブラシシール装置100は、通常、外周側自由端部145がハウジング810の内周面811と接触した状態に構成され、内周側自由端部125は回転軸830の外周面831に接触又は近接した状態に構成される。しかしながら、内周側自由端部125あるいは外周側自由端部145の少なくともいずれか一方が回転軸830の外周面831及びハウジング810の内周面811と接触した状態であれば、ブラシシール装置100の径方向位置は実質的に規定されることとなる。従って、ブラシシール装置100は、そのような構成、すなわち、ブラシシール110の内周側自由端部125あるいは外周側自由端部145のいずれか一方あるいは両方が回転軸830の外周面831及びハウジング810の内周面811と接触した状態であれば任意の形態で装置に実装されてよい。
【0047】
さらに、一時的に、あるいは、他の係止手段あるいは支持手段(例えばブラシシール装置100の軸方向の位置のみを規定する手段等)を備えることにより、内周側自由端部125と外周側自由端部145の両方が回転軸830の外周面831及びハウジング810の内周面811に近接した状態、すなわち、これら外周面831及び内周面811から浮いた状態となる構成もあり得る。そのような構成も当然本願発明の範囲内であり、また、そのような動作も想定内のものである。
【0048】
このような構成の本実施形態のブラシシール装置100によれば、内周ブラシシール120の外周側にさらに外周ブラシシール140を設けた構成なので、ブラシシール装置100の外周側において被密封流体のシールが可能となり、ブラシシール装置100の外周側からの被密封流体の漏洩を適切に防止することができる。
【0049】
その結果、ブラシシール装置100の外周側における被密封流体の漏洩防止のために設けていた二次シールを不要にすることができる。
また、二次シールを併用する形態においても、二次シール面からの被密封流体の漏洩を適切に防止することができ、二次シールの負担を軽減し寿命を長期化することができる。また、二次シールに要求される性能が高くなることを防ぎ、装置のコスト低減等の効果を得ることもできる。
【0050】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140との2段のブラシシールを有するので、ブラシシール装置100全体の弾性特性(バネ性)を向上させることができる。その結果、回転軸830の偏芯やブラシシール(内周ブラシシール120)の摩耗等により回転軸830と内周ブラシシール120の内周側自由端部125との間に隙間が生じる危険性があるような場合であっても、内周ブラシシール120は回転軸830の外周面831への追従を適切に継続することができる。その結果、そのような隙間が生じるのを防ぐことができ、被密封流体の漏洩を適切に防止できる。
【0051】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、外周ブラシシール140の剛毛141もハウジング810の内周面811及び回転軸830の径方向に対して傾斜して形成されており、外周ブラシシール140のブラシ部143も弾性変形に基づく偏芯防止機能を有する。その結果、ブラシシール装置100全体として、より一層好適に、回転軸830に対する偏芯防止機能を発揮することができる。すなわち、回転軸830と内周ブラシシール120の内周側自由端部125との間に隙間が生じる危険性を低減することができ、ブラシシール装置100全体として回転軸830の調芯を一層好適に行うことができる。
【0052】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140の各々において、剛毛121及び141の長さや角度を任意の状態に調整することができる。従って、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140で作用する偏芯防止作用を各々適切な作動状態に調整することが可能となり、この点においても、ブラシシール装置100は全体として一層好適に回転軸830に偏芯防止機能を発揮することができ、回転軸830の調芯を好適に行うことができる。
【0053】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、回転軸830の径方向に対して、外周ブラシシール140の剛毛141の傾斜方向と内周ブラシシール120の剛毛121の傾斜方向とを異ならせている。このような構成とすることにより、回転軸830の回転により内周ブラシシール120に作用する力の方向に対して、外周ブラシシール140にはこれに対向する方向に力を作用させることができ、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140を各々回転し難くすることができる。その結果、ブラシシール110の内周側自由端部125及び外周側自由端部145の摺動による摩耗が低減され、ブラシシール装置100の寿命が長期にわたり適正に維持することができる。
【0054】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、剛毛121及び剛毛141は、各々、外周側あるいは内周側を溶接により接合して内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140に形成している。このように、溶接により剛毛121、141を結合し、設置することにより、剛毛121、141が抜けることをほぼ確実に回避でき、強固なブラシ部123、143を形成することができる。その結果、ブラシシール装置100の寿命を長期にわたり適正に維持することができる。
【0055】
また、本実施形態のブラシシール装置100は、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140の2段のブラシシールを有する構成であるが、これらは、取付部122と取付部142とを連結部112として接合して一体のブラシシール110に形成されており、取り扱いは非常に容易である。従って、1つのブラシシールを有する従来の通常のブラシシール装置と同様の容易さで設置、取り外し、調整等が可能である。
【0056】
この点に関して、本実施形態においては、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とを接合してブラシシール110として一体化し、さらに背板部180及び保持部185等とも一体化した後、これをハウジング810と回転軸830との間に設置するものとした。しかしながら、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とは、組み立て時に一体化する構成としてもよい。
【0057】
すなわち、内周ブラシシール120を背板部180及び保持部185で挟持した部材と、外周ブラシシール140とを、分離した状態で用意しておき(ここでは、ブラシ受部190の説明は省略する。)、ブラシシール装置100をハウジング810と回転軸830との間に設置する際に、内周ブラシシール120(背板部180及び保持部185に挟持された内周ブラシシール120)を外周ブラシシール140の環状空間147に挿入し、接合し、ブラシシール110を完成するようにしてもよい。
【0058】
本実施形態のブラシシール装置100は、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140との接合も容易であることから、このような形態によりブラシシール110を設置、完成することも可能であり、設置する装置(ハウジング810、回転軸830)の条件や状態等に応じて適宜都合のよい形態で設置することができる。
【0059】
また、前述した実施形態においては、ブラシシール110の内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とは同じブラシ部123及び143を有するものとした。しかしながら、前述したように、本実施形態のブラシシール装置100は、別個体として構成された内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とを、取付部122と取付部142とから構成される連結部112において連結してブラシシール110を構成するものであるから、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140として、異なるブラシ部123及び143を有するものを用いてもよい。すなわち、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140について、材質、線径、形状(断面形状)、特性、配列密度あるいは配列形態等の異なる剛毛121及び141を用いてブラシ部123及び143を構成してもよい。
【0060】
このような構成であれば、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140として、種々の動作条件、動作特性を有するブラシ部123及び143を構成することができ、また、各々最適な条件を有するブラシ部123及び143を形成することができる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0061】
なお、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140として異なるブラシ部123及び143を有する形態の場合においても、前述したように、これらは、ブラシシール装置100をハウジング810に設置する前に予め一体にされた構成であってもよいし、ブラシシール装置100をハウジング810に設置するまでは別体として分離されたままの状態にしておき、これらをハウジング810に設置する時に(組み立て時に)一体化する構成であってもよい。
【0062】
また、ブラシ受部190として、本実施形態では断面凹状の環状部材を用いたが、単に外周ブラシシール140の自由端部145の範囲を規定する部材を、ハウジング810の内周面811に、軸方向のその範囲の両側に設置するような構成でもよい。ブラシ受部190としては、外周ブラシシール140の自由端部145の広がりを防止することができる構成であれば任意の構成のものを用いてよい。
【0063】
このように、本発明の第1実施形態によれば、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置100が提供される。
【0064】
第2実施形態
本発明の第2実施形態のブラシシール装置200について、
図5〜
図7を参照して説明する。
【0065】
第2実施形態のブラシシール装置200に係る以下の説明においては、
図1〜
図4を参照して前述した第1実施形態のブラシシール装置100等と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。第2実施形態としては、第1実施形態のブラシシール装置100と相違する点を主として説明をする。
【0066】
図5及び
図6に示すように、第2実施形態のブラシシール装置200は、基本的に第1実施形態のブラシシール装置100と同じ構成を有する。すなわち、ブラシシール装置200は、ブラシシール210、背板部180、保持部185及びブラシ受部190を有し、また、ブラシシール210は、内周側にブラシ部123及び自由端部125を有する内周ブラシシール220、及び、外周側にブラシ部143及び自由端部145を有する外周ブラシシール240を有する。
【0067】
第2実施形態のブラシシール装置200が第1実施形態のブラシシール装置100と異なる点は、ブラシシール210の構造にある。
前述した第1実施形態のブラシシール装置100は、
図2及び
図4を参照して説明したように、剛毛121を有する内周ブラシシール120と剛毛141を有する外周ブラシシール140とを別部材として形成し、内周ブラシシール120の取付部122と外周ブラシシール140の取付部142とを連結部112として連結することによりブラシシール110を構成していた。
【0068】
これに対して第2実施形態のブラシシール装置200のブラシシール210は、剛毛211の途中部分212を溶接することにより、その内周側を内周ブラシシール220とし、外周側を外周ブラシシール240として形成するものである。
すなわち、ブラシシール210は、
図7Aに示すように、多数の剛毛211を束状にし、これを円周に沿って壁状に配列し、
図7Bに示すように、この剛毛211の途中部分212を溶接し、複数の剛毛211を相互に結合してリング状に形成したものである。
【0069】
そして、剛毛211の途中部分の溶接箇所212をブラシシール210の取付部212として、背板部180と保持部185とが取付部212を中心として溶接されてブラシシール210と一体化され、ブラシシール装置200が形成される。
ブラシシール装置200は、このような構造及び製造方法により、取付部212の内周側がブラシ部123及び外周側自由端部125を有する内周ブラシシール220として形成され、取付部212の外周側がブラシ部143及び外周側自由端部145を有する外周ブラシシール240として形成されたものである。
【0070】
なお、このような構造をとるために、ブラシシール装置200において当初用意される剛毛211は、第1実施形態のブラシシール装置100における内周ブラシシール120の剛毛121の長さと外周ブラシシール140の剛毛141の長さとを合わせた長さに略等しい長さを有するものである。
【0071】
また、第2実施形態のブラシシール装置200においても、ブラシシール210の剛毛211は、第1実施形態のブラシシール装置100の内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140と同様に、内周ブラシシール220を構成する部分と外周ブラシシール240を構成する部分において、各々、ブラシシール210の周方向あるいは径方向に対して所定の角度で傾斜されている。ブラシシール装置200においては、剛毛211のこの各部の傾斜は、剛毛211を溶接して一体化する前の段階にて予め個々の剛毛211に形成しておいてもよいし、あるいは、直線状の剛毛211を溶接して一体化した後に、各取付部212を折り曲げることにより形成してもよく、製造装置等の条件や形成する形態に係る条件等に応じて、好ましい方法で、任意の段階で形成してよい。場合によっては、内周ブラシシール220のブラシ部123に係る傾斜は予め個々の剛毛211に形成しておき、外周ブラシシール240のブラシ部143に係る傾斜は、剛毛211を一体化した後に形成するというような方法で形成してもよい。
【0072】
第2実施形態のブラシシール装置200は、このような構成を有するものである。
そして、第1実施形態のブラシシール装置100に係る作用、効果、変形例のうち、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とが分離可能であることに関係するもの以外の作用、効果、変形例等は、いずれも第2実施形態のブラシシール装置200に対しても適用可能である。従って、第2実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0073】
なお、第1実施形態のブラシシール装置100においては、
図1、2及び4に示すように、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とに各々取付部122及び142が形成され、これらを連結部112として結合することによりブラシシール110が形成されていた。
これに対してブラシシール装置200においては、そもそも同一の剛毛211により内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240を形成しているので、
図5及び
図6に示すように、内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240に個別の取付部は無く、ブラシシール210として1つの取付部212が存在するのみである。
【0074】
このように、第2実施形態のブラシシール装置200は、剛毛の溶接は1箇所のみでよく、ブラシシール210の製造を少ない工程で容易に行うことができる。
また、これにより製造されたブラシシール210は、内周ブラシシール220と外周ブラシシール240とが一体化されたものなので、取り扱いが簡単であり好適である。
第2実施径板のブラシシール装置200は、さらにこのような特徴を有するものである。
【0075】
第3実施形態
本発明の第3実施形態のブラシシール装置300について
図8〜
図10を参照して説明する。
第3実施形態のブラシシール装置300に係る以下の説明においても、
図1〜
図4を参照して前述した第1実施形態のブラシシール装置100、あるいは、
図5〜
図7を参照して前述した第2実施形態のブラシシール装置200等と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。第3実施形態としては、これら前述した第1実施形態のブラシシール装置100あるいは第2実施形態のブラシシール装置200との相違点を主として説明をする。
【0076】
図8に示すように、第3実施形態のブラシシール装置300も、基本的に第1実施形態のブラシシール装置100及び第2実施形態のブラシシール装置200と同じ構成を有する。すなわち、ブラシシール装置300は、ブラシシール310、背板部380及び保持部385を有し、ブラシシール310は、内周側にブラシ部323及び自由端部325を有する内周ブラシシール320、及び、外周側にブラシ部343及び自由端部345を有する外周ブラシシール340を有する。
【0077】
第3実施形態のブラシシール装置300が第1及び第2実施形態のブラシシール装置100及び200と異なる点は、第1に、ブラシシール310の構成にある。
前述した第1及び第2実施形態のブラシシール装置100及び200のブラシシール110、220は、いずれも、多数の線形の剛毛121、141あるいは211を束状にし、束状にした剛毛を円周に沿って壁状に配列し、外周側、内周側あるいは中間部分を溶接により結合してリング状に形成したものであった。
【0078】
これに対して第3実施形態のブラシシール装置300のブラシシール310は、
図9に示すような薄板の円環状の板ブラシシール単板311を積層して形成するものである。
板ブラシシール単板311は、環状体を成し、内周側が円環状の板ブラシシール単板311の周方向(回転軸830の回転方向となる方向)へ傾斜したスリット312に加工され、その間が細梁321に形成され、全体として内周側板ブラシ部313に構成されている。
【0079】
板ブラシシール単板311の外周側は、周方向(ハウジング810の内周面811)に対して傾斜するとともに、回転軸830の径方向に対して、内周側の内周側スリット312の傾斜とは反対方向に傾斜したスリット314に加工され、その間が細梁341に形成され、全体として外周側板ブラシ部315に構成されている。
【0080】
板ブラシシール単板311の細梁321、341は、例えば、縦横の辺の長さが0.2〜0.005×0.3〜0.008mm、好ましくは0.15〜0.008×0.2〜0.01mmの長方形あるいは正方形の断面形状を有する棒状(線状、毛状)の部材である。細梁321、341の断面としては、矩形以外に、三角形、台形、楕円形等種々のものが用いられる。
なお、一般的にこの細梁321及び341を剛毛と称する場合もある。
【0081】
板ブラシシール単板311の内周側板ブラシ部313と外周側板ブラシ部315との間は、スリット312、314及び細梁321、341が形成されていない環状で板状の基部316に形成されている。この基部316には、円周に沿って位置決め孔317が形成されている。位置決め孔317のピッチは、内周側板ブラシ部313及び外周側板ブラシ部315の細梁321、341のピッチ(スリット312、314のピッチ)と対応しておらず(位置決め孔317のピッチが細梁321、341のピッチの整数倍等とはなっておらず)、微少に相違するように形成されている。あるいは、各位置決め孔317のピッチ(間隔)は、各々微小に異なるように形成されている。
【0082】
この位置決め孔317のピッチの相違は、複数の板ブラシシール単板311を積層する場合に、位置決め孔317をずらして合わせることにより、内周側板ブラシ部313及び外周側板ブラシ部315の細梁321、341の位置が、板ブラシシール単板311によって少しずつずれるようにするために形成されている。具体的には、板ブラシシール単板311間で合わせる位置決め孔317を適宜変えることにより、細梁321、341の位置は、細梁321、341のピッチの数分の1ずつずれるようになっている。
【0083】
従って、複数の板ブラシシール単板311を積層してブラシシール310を形成する場合に、位置決め孔317をずらして合わせれば、ある板ブラシシール単板311のスリット312、314の位置に、他の板ブラシシール単板311の細梁321、341を重ならせることができる。そしてこのようにして複数の板ブラシシール単板311を積層すれば、ブラシシール310の全体として、ブラシシール310を軸方向に貫通するスリット(間隙)を実質的に無くすことができ、被密封流体の漏洩を効果的に防止することができる。
【0084】
例えば、外周ブラシシール340において、隣接する板ブラシシール単板311を、
図10A及び
図10Bに示すように、ピッチの1/2ずつずれた状態の細梁341a及び341bとして積層することにより、ブラシシール310においては、
図10Cに示すように、ブラシシール310を軸方向に貫通するスリット(間隙)を実質的に無くすことができる。
【0085】
板ブラシシール単板311の材質は、鋼、ステンレス、ニッケル基の合金、セラミック材等である。また、板ブラシシール単板311に対するスリット312、314あるいは位置決め孔317等の加工は、従来知られている加工方法のワイヤー放電加工やエッチング処理加工、レーザ加工、電子ビーム加工などの微細加工方法を適用できる。または、細梁自身を堆積により形成させるアディティブ法も適用できる。
【0086】
第3実施形態のブラシシール装置300のブラシシール310は、このような構成の板ブラシシール単板311を、必要とされるシール能力に応じた必要厚さあるいは必要枚数に積層して形成される。すなわち、積層する複数の板ブラシシール単板311を前述したように位置決め孔317を用いて所定の位置関係に位置合わせし、基部316を溶接等することにより複数の板ブラシシール単板311を一体化する。
【0087】
複数の板ブラシシール単板311の接合は、例えば、
図8に示すように、位置合わせピン318を、複数の板ブラシシール単板311の位置を合わせた位置決め孔317に挿入することにより行う。なお、複数の板ブラシシール単板311を溶接する際には、位置合わせピン318も一体に溶接してしまってよい。抜け防止のために効果的である。
このように形成されたブラシシール310においては、溶接された基部316の部分が取付部に相当する(以下、基部316を取付部316と称する場合もある)。
【0088】
そして、本実施形態のブラシシール装置300においては、背板部380と保持部385とを、これらの間でブラシシール310を挟持するような形態でブラシシール310と一体に形成する。すなわち、背板部380とブラシシール310と保持部385とが、ブラシシール310の取付部316を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合され、ブラシシール装置300とされる。
【0089】
ここで、前述した説明では、複数の板ブラシシール単板311を接合する際に位置合わせピン318を用いたが、この位置合わせピン318は、例えば背板部380に予め立設しておき、複数の板ブラシシール単板311を積層する際に、背板部380に設置された位置合わせピン318に対して各板ブラシシール単板311の位置を合わせて行くような形態としてもよい。複数の板ブラシシール単板311を積層する工程と背板部380あるいは背板部380と保持部385とを設置する工程を実質的に同じ工程内で同時的に行うこととなるが、位置合わせピン318の取り扱いが容易となり、板ブラシシール単板311を積層する工程、及び、背板部380及び保持部385を設置する工程の両方を簡単な工程にできる可能性がある。そのような構造及び方法により、ブラシシール装置300を実施してもよい。
【0090】
ブラシシール装置300のブラシシール310の内周ブラシシール320のブラシ部323及び自由端部325、外周ブラシシール340のブラシ部343及び自由端部345の機能、動作、作用は、前述した第1及び第2実施形態のブラシシール装置100、200のブラシシール110、210の内周ブラシシール120、220のブラシ部123及び自由端部125、外周ブラシシール140、240のブラシ部143及び自由端部145の機能、動作、作用と同じである。
【0091】
なお、本実施形態においては、ブラシシール310の内周ブラシシール320のブラシ部323と外周ブラシシール340のブラシ部343とは、同じブラシ部であるとする。すなわち、内周ブラシシール320を構成する細梁321と外周ブラシシール340を構成する細梁341とは、断面形状、その大きさ、弾性特性等の特性、配列密度あるいは配列形態等が同じに構成されているものとする。なお、細梁321と細梁341とは、同一の板ブラシシール単板311の内外周に形成されたものであるので、その材質はもともと同じものである。
【0092】
また、第1及び第2実施形態のブラシシール装置100、200においては、ハウジング810の内周面811のブラシシール装置100、200が設置される箇所にブラシ受部190を設置し、外周ブラシシール140、240の剛毛141、211の外周側自由端部145の広がりを防止していた。
これに対して第3実施形態のブラシシール装置300においては、ブラシ受部190を設けておらず、外周ブラシシール340のブラシ部343の自由端部345は、ハウジング810の内周面811に対して直接接する構成となっている。
【0093】
その代わり、ブラシシール装置300においては、
図8に示すように、背板部380及び保持部385が、ブラシシール310の内周ブラシシール320の部分のみならず、外周ブラシシール340の部分をも挟持する構成となっている。すなわち、ブラシシール装置300においては、前述したように、背板部380と保持部385との間で、取付部(基部)316を中心として、内周ブラシシール320、及び、外周ブラシシール340の取付部316側の根元部分を含む範囲を挟持している。その結果、ブラシシール装置300においては、背板部380及び保持部385により、内周ブラシシール320の細梁321の広がりが防止されるのみならず、外周ブラシシール340の細梁341の広がりも防止される。従って、外周ブラシシール340の自由端部345の箇所においてブラシ受部190のような構成を設けなくてよいのである。
【0094】
なお、このように背板部380と保持部385で内周ブラシシール320及び外周ブラシシール340の根元を挟持する形態は、前述した第1及び第2実施形態のブラシシール装置100及び200に対しても適用することができる。
【0095】
また、本実施形態のブラシシール装置300においては、
図9を参照して前述したように、外周ブラシシール340の細梁341は、回転軸830の径方向に対して、内周ブラシシール320の細梁321の傾斜とは反対方向に傾斜している。この構成において、細梁321及び細梁341の傾斜角度及び長さは、
図9に示すように、これら外周ブラシシール340の細梁341と内周ブラシシール320の細梁321とによるバネ効果が、ブラシシール装置300の径方向成分Fのみが残るように調整される。
【0096】
このような構成とすることにより、回転軸830からブラシシール装置300が受ける振動等に対する応力(振れ応力)は、径方向の力のみとなり、ブラシシール装置300が不安定な振動等の挙動をすることを防ぐことができ、ブラシシール装置300の動作を安定化させることができる。
【0097】
なお、このように細梁321及び細梁341の傾斜角度及び長さの特徴は、前述した第1実施形態のブラシシール装置100の内周ブラシシール120の剛毛121と外周ブラシシール140の剛毛141との関係、及び、第2実施形態の内周ブラシシール220の剛毛211と外周ブラシシール140の剛毛211との関係に対しても適用することができる。
【0098】
第3実施形態のブラシシール装置300は、このような構成を有するものである。
従って、第3実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0099】
なお、本実施形態においては、ブラシシール310の内周ブラシシール320のブラシ部323と外周ブラシシール340のブラシ部343とは、同じブラシ部であるとした。しかしながら、内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とが、同一の板ブラシシール単板311の内外周に形成された細梁321と細梁341とにより構成されるものである場合においても、これらを異なるブラシ部として構成することもできる。具体的には、内周ブラシシール320を構成する細梁321と外周ブラシシール340を構成する細梁341とを、断面形状、断面の大きさ、弾性特性等の特性、配列密度あるいは配列形態等が異なるものに加工をすることにより、これらは異なるブラシ部となる。
【0100】
このような構成であれば、1枚の板ブラシシール単板311の内外周に内周ブラシシール320用の細梁321及び外周ブラシシール340用の細梁341を形成する形態でありながら、内周ブラシシール320及び外周ブラシシール340として、種々の動作条件、動作特性を有するブラシ部323及び343を構成することができ、また、各々最適な条件を有するブラシ部323及び343を形成することができる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0101】
また、本実施形態においては、1枚の板ブラシシール単板311に内周ブラシシール320と外周ブラシシール340の両方を形成し、この両方の形成された板ブラシシール単板311を積層する構成であった。しかし、第1実施形態のブラシシール装置100と同様に、内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とを別個の薄板を用いて形成してもよい。すなわち、内周ブラシシール320及び外周ブラシシール340に対応するパターンを別個の薄板で形成し、各薄板単板を積層して内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とを別個に形成し、これらを、第1実施形態のブラシシール装置100と同様に連結することにより、ブラシシール装置300を形成するようにしてもよい。
【0102】
また、そのように内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とを別体として構成する場合、内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とは、同一のブラシ部のものであってもよいし、内周側と外周側とで異なるブラシ部を有するものであってもよい。
【0103】
さらにまた、内周ブラシシール320と外周ブラシシール340とを別個に形成する場合において(これらが同じブラシ部を有する場合でも異なるブラシ部を有する場合でも)、これらはブラシシール装置300をハウジング810に設置する前に予め一体にされた構成であってもよいし、ブラシシール装置300をハウジング810に設置するまでは別体として分離されたままの状態にしておき、これらをハウジング810に設置する時に(組み立て時に)一体化する構成であってもよい。
【0104】
第4実施形態
本発明の第4実施形態のブラシシール装置について
図11〜
図13を参照して説明する。
第4実施形態のブラシシール装置は、第3実施形態のブラシシール装置300の変形例として説明する。従って、第3実施形態のブラシシール装置300等と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。
【0105】
第3実施形態として前述したブラシシール装置300は、同一の板ブラシシール単板311を積層してブラシシール310を構成していた。しかしながら、異なる種類の板ブラシシール単板311を積層してブラシシール310を構成するようにしてよい。
【0106】
特に、外周ブラシシール340の細梁341の形態が異なる複数種類の板ブラシシール単板311を積層してブラシシール310を形成することにより、外周ブラシシール340のブラシ部343における軸方向の隙間を少なくすることができる。
【0107】
例えば、
図11A及び
図11Bに示すように、傾斜方向が異なる細梁341cと細梁341dを有する2種類の板ブラシシール単板311を積層することにより、外周ブラシシール340のブラシ部343は、
図11Cに示すような形態となり、軸方向の隙間が小さくなる。
【0108】
また、
図12A及び
図12Bに示すように、ピッチが異なる細梁341eと細梁341fを有する2種類の板ブラシシール単板311を積層することにより、外周ブラシシール340のブラシ部343は、
図12Cに示すような形態となり、この構成においても軸方向の隙間が小さくなる。
【0109】
さらに、
図13A及び
図13Bに示すように、傾斜角度が異なる細梁341gと細梁341hを有する2種類の板ブラシシール単板311を積層することにより、外周ブラシシール340のブラシ部343は、
図13Cに示すような形態となり、この構成においても軸方向の隙間が小さくなる。
【0110】
これらいずれの構成においても、外周ブラシシール340の細梁341における軸方向の隙間が小さくなるので、ブラシシール装置300の外周周りの被密封流体の漏洩を低減しあるいは防止することができ好適である。
【0111】
第4実施形態のブラシシール装置は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置に係る作用、効果、変形例などは、第4実施形態として説明したブラシシール装置に対しても適用可能である。従って、第4実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0112】
なお、細梁341の形態を異ならせることについては、上述した以外にも種々の方法、形態があり、任意の方法を適用してよい。
また、この構成は、板ブラシシール単板に細梁を形成しこれを積層する形態に限られるものではない。第1、第2実施形態として説明した剛毛により外周ブラシシールを形成する構成にも適用可能である。
また、同様の方法を内周ブラシシール320に対しても適用可能であり、その場合には、内周ブラシシール320のブラシ部323における被密封流体の漏洩を低減あるいは防止することができ好適である。
【0113】
第5実施形態
本発明の第5実施形態について
図14〜
図16を参照して説明する。
第5実施形態のブラシシール装置500に係る以下の説明においては、前述した各実施形態のブラシシール装置と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。
【0114】
前述した各実施形態のブラシシール装置においては、剛毛121、141、221あるいは細梁321、341の向きが回転軸830の径方向に沿った方向になるように、内周ブラシシール120、220、320及び外周ブラシシール140、240、340が配設されていた。
これに対して第5実施形態のブラシシール装置500は、外周ブラシシール540が、軸方向において傾斜して配設されているものである。
以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0115】
図14に示すように、本実施形態のブラシシール装置500も、例えばガスタービン等のハウジング810と回転軸830との間隙を高圧P1側と低圧P2側とに仕切るブラシシール装置である。
ブラシシール装置500は、ハウジング810の内周面811に設けられた傾斜面815に取り付けられる。傾斜面815は、内周面811に対して略45°傾斜した面である。
【0116】
ブラシシール装置500は、内周ブラシシール部501、外周ブラシシール部502及び連結部503を有する。内周ブラシシール部501は、内周ブラシシール120、背板部180及び保持部185を有する。また、外周ブラシシール部502は、外周ブラシシール540、背板部580及び保持部585を有する。
【0117】
内周ブラシシール120、背板部180及び保持部185は、第1実施形態のブラシシール装置100の同一符合を付した各構成と同一である。そしてブラシシール装置500においては、これらが内周ブラシシール部501として一体的に構成されている。
【0118】
外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540は、第1実施形態のブラシシール装置100の外周ブラシシール140と略同一の構成であるが、全体形状が、第1実施形態の外周ブラシシール140のような平面的な円環形状ではなく、
図15及び
図16に示すように、裁頭円錐体(円錐台)形状に形成されているものである。すなわち、外周ブラシシール540は、多数の線形の剛毛541を束状にし、その束状にした剛毛541を円錐台側周面形状に沿って壁状に配列し、途中部分542を溶接により結合して円錐台状に形成したものである。そして、溶接部分542の外周側がブラシ部543に形成され、その先端に外周側自由端部545が形成される。この外周側自由端部545が、ハウシング810の傾斜面815に当接し、高圧P1側と低圧P2側とをシールする。
【0119】
外周ブラシシール540は、背板部580と保持部585とにより挟持されることにより、これらと一体化されて外周ブラシシール部502とされる。
背板部580は、外周ブラシシール540の低圧P2側に設置される、外周ブラシシール540と同様の裁頭円錐体(円錐台)形状の部材であり、外周ブラシシール540の剛毛541を低圧P2側から支持する。
【0120】
また、保持部585は、外周ブラシシール540の高圧P1側に設置される、外周ブラシシール540と同様の裁頭円錐体(円錐台)形状の部材であり、背板部580との間で外周ブラシシール540を挟持するための部材である。
これら、背板部580及び保持部585の材質は、第1実施形態の背板部180及び保持部185等と同じである。
【0121】
背板部580と保持部585とは、これらの間で外周ブラシシール540を挟持するような形態で配置され、外周ブラシシール540の途中の溶接部分542を中心として溶接され、これらが三者一体に結合される。
【0122】
これら結合された背板部580と外周ブラシシール540と保持部585は、その内周側が切断されて回転軸830に平行な面とされ、外周ブラシシール部502に形成される。この内周側の環状空間547は、内周ブラシシール部501の装着部である。外周ブラシシール部502の内側環状空間547は、内部に内周ブラシシール部501を嵌合可能なように、内周ブラシシール部501の外周と略同じ内径に形成されている。
【0123】
そして、
図15に示すように、外周ブラシシール部502の内周側環状空間547に内周ブラシシール部501を嵌合設置することにより、ブラシシール装置500が構成される。外周ブラシシール部502と内周ブラシシール部501とは、その内周面と外周面とが連結部503として溶接等により接合されることにより一体化され、ブラシシール装置500として形成される。
【0124】
このように構成されたブラシシール装置500は、内周ブラシシール部501の内周ブラシシール120が回転軸830の外周面831に近接するように設置され、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540がハウシング810の傾斜面815に当接するように設置される。
【0125】
ブラシシール装置500の内周ブラシシール部501の内周ブラシシール120のブラシ部123及び自由端部125、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540のブラシ部543及び自由端部545の機能、動作、作用は、前述した各実施形態のブラシシール装置の機能、動作、作用と同じである。しかし特にブラシシール装置500においては、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540が回転軸830の軸方向に対して傾斜して設けられているので、ブラシシール装置500は、回転軸830の径方向に移動のみならず、軸方向の移動にも追従できる。
【0126】
第5実施形態のブラシシール装置500は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置の作用、効果、変形例等は、いずれも第5実施形態のブラシシール装置500に対しても適用可能である。従って、第5実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0127】
そして、前述したように、外周ブラシシール540が回転軸830の軸方向に対して傾斜した本実施形態のブラシシール装置500においては、ブラシシール装置500及び回転軸830の軸方向の変位も許容することができ、換言すれば軸方向の変位に対しても追従することができ、より安定して動作可能で、その結果、より確実に被密封流体が漏洩を防止することができ、各部の摩耗を防止することができ、寿命の長いブラシシール装置を提供することができる。
【0128】
なお、本実施形態としては、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール540として剛毛121、541を用いたものを例示したが、第3実施形態のように板ブラシシール単板を積層して構成したようなブラシシールを用いてもよい。
また、外周ブラシシール540の傾斜角度は、本実施形態においては45°としたが、適用対象、被密封流体の圧力、各方向の負荷の強さ、振動、変位の形態や大きさ等に応じて、任意の角度としてよい。
【0129】
第6実施形態
本発明の第6実施形態について
図17を参照して説明する。
第6実施形態のブラシシール装置600に係る以下の説明においても、前述した各実施形態のブラシシール装置と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。
【0130】
前述した各実施形態のブラシシールは、内周ブラシシール及び外周ブラシシールとして、剛毛を束ねて溶接した形態か、板ブラシシール単板を積層した形態のいずれかを共通的に用いた構成であった。しかしながら、これら内周ブラシシールと外周ブラシシールとは、異なる形態のものを用いてよい。本実施形態においては、内周ブラシシールとして板ブラシシール単板を積層したブラシシールを用い、外周ブラシシールとして剛毛を用いたブラシシールを用いたブラシシール装置600について説明する。
【0131】
図17に示すように、ブラシシール装置600は、外周ブラシシール140に内周ブラシシール620を嵌合したブラシシール610を有するものである。
なお、ここではブラシシール610のみを図示し、背板部や保持部等の構成は図示省略する。
【0132】
ブラシシール装置600において、外周ブラシシールは第1実施形態のブラシシール装置100の外周ブラシシール140と同一である。
また、内周ブラシシール620は、第3実施形態として
図9を参照して説明した板ブラシシール単板311の基部(取付部)316より内側の部分を積層して構成したブラシシールである。なお、内周ブラシシール620の外周には取付部622が形成されている。
【0133】
外周ブラシシール140の取付部142の内側となる環状空間147は、内周ブラシシール620の装着部である。外周ブラシシール140の内側環状空間147は、内部に内周ブラシシール620を嵌合可能なように、内周ブラシシール620の外周と略同じ内径に形成されている。換言すれば、内周ブラシシール120は、外周ブラシシール140の環状空間147に嵌合可能なように、その外径が外周ブラシシール140の内側環状空間147の内径と略同じ外径に形成されている。
【0134】
そして、
図17に示すように、外周ブラシシール140の環状空間147に内周ブラシシール620を嵌合設置することにより、ブラシシール610(ブラシシール装置600)が構成される。外周ブラシシール140と内周ブラシシール620とは、取付部142と取付部622とが連結部として溶接等により接合されることにより一体化され、ブラシシール610として形成される。
【0135】
第6実施形態のブラシシール装置600は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置の作用、効果、変形例等は、第6実施形態のブラシシール装置600に対しても適用可能である。従って、第6実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0136】
そして特に、本実施形態のブラシシール装置600においては、内周ブラシシール620として板ブラシシール単板を積層したブラシシールを用い、外周ブラシシール140として剛毛を用いて形成したブラシシールを用いている。このように、任意のブラシシールを組み合わせることにより、内周ブラシシール及び外周ブラシシールとして、種々の動作条件、動作特性を有するブラシ部を構成することができ、また、各々最適な条件を有するブラシ部を形成することができる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0137】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0138】
本発明に係るブラシシール装置は、航空機、ガスタービン等の回転軸を有する任意の装置に好適に利用することができる。