特許第6254105号(P6254105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254105
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】ブラシシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/22 20060101AFI20171218BHJP
   F01D 11/00 20060101ALI20171218BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   F16J15/22
   F01D11/00
   F02C7/28 B
   F02C7/28 C
   F02C7/28 Z
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-560801(P2014-560801)
(86)(22)【出願日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】JP2014052779
(87)【国際公開番号】WO2014123192
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-21526(P2013-21526)
(32)【優先日】2013年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−318232(JP,A)
【文献】 特開2011−169319(JP,A)
【文献】 特開2003−343731(JP,A)
【文献】 特開2004−060763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0012149(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0251303(US,A1)
【文献】 米国特許第05114159(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/22
F01D 11/00
F02C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウジングと回転軸との間を軸方向に封止するブラシシール装置であって、
内周ブラシシールを有する内周ブラシシール部と外周ブラシシールを有する外周ブラシシール部とを有し、
前記内周ブラシシールは、
外周側の取付部と、
前記取付部から内周方向に複数の剛毛が配列されたブラシ部と、
前記ブラシ部の内周側端部であり、前記回転軸の外周面と対向して当該外周面に接触又は近接した状態に配置される自由端部とを有し、
前記外周ブラシシールは、
外周側の取付部と、
前記取付部から内周方向に複数の剛毛が配列されたブラシ部と、
前記ブラシ部の内周側端部であり、前記内周ブラシシール部の外周面と対向して当該外周面に接触又は近接した状態に配置される自由端部とを有する
ことを特徴とするブラシシール装置。
【請求項2】
前記内周ブラシシール又は前記外周ブラシシールの少なくともいずれか一方は、束状にされて円周に沿って壁状に配列された複数の線状部材について、当該線状部材の外周側の端部を溶接することにより前記複数の線状部材を相互に結合してリング状に形成し、前記外周側から内周側にシール部及び前記自由端部を形成したブラシシールであることを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項3】
前記内周ブラシシール又は前記外周ブラシシールの少なくともいずれか一方は、前記取付部と、前記取付部から内周側に伸びて周方向に対して傾斜した前記剛毛としての細梁を有する前記ブラシ部と、前記自由端部とを有する板ブラシシール単板を、複数、軸方向に積層して一体的に形成したことを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項4】
前記内周ブラシシールの前記ブラシ部と前記外周ブラシシールの前記ブラシ部とは、同一の材質の剛毛からなることを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項5】
前記内周ブラシシールの前記ブラシ部と前記外周ブラシシールの前記ブラシ部とは、異なる材質の剛毛からなることを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項6】
前記内周ブラシシールの前記内周側ブラシ部は、前記複数の剛毛が径方向に対して傾斜して内周方向に配列されており、
前記外周ブラシシールの前記外周側ブラシ部は、前記複数の剛毛が径方向に対して傾斜して内周方向に配列されており、
前記内周ブラシシールの前記剛毛の傾斜と前記外周ブラシシールの前記剛毛の傾斜とは、前記径方向に対して反対方向であることを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項7】
前記内周ブラシシール部の外周面に設置され、前記外周ブラシシールの自由端部が接触又は近接した状態に配置されるとともに、当該外周ブラシシールの自由端部の軸方向の広がりを防止するブラシ受部をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【請求項8】
前記外周ブラシシールは、前記回転軸の軸方向に対して傾斜した状態に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のブラシシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガスタービン等の回転軸と、回転軸と相対移動するハウジング等の相手部品との間をシールするブラシシール装置であって、複数の剛毛が配列されたブラシ部を有するブラシシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の剛毛により形成されるブラシ部を有するこの種のブラシシール装置は、回転軸が径方向に微小な移動をした場合でも、ブラシ部が回転軸の移動に伴って変形し剛毛の先端の自由端部を回転軸の周面に追従させることができるので、有効である。
しかし、回転軸が移動してブラシシールの剛毛を圧接した場合、これに作用する摩擦力は、剛毛の弾性変形に対するバネ定数はもとより、剛毛の取付構造等に起因する複雑な摩擦力等の影響も受け、これを最適な状態に設定するのは非常に難しい。
回転軸の変動に対する剛毛の追従性が適切でない場合には、剛毛と回転軸との間に隙間が生じて被密封流体が漏洩したり、剛毛の自由端部あるいは回転軸の周面を早期に摩耗させることとなる。
【0003】
このような課題を解決するブラシシール装置としては、すなわち、追従性を高め摩耗を低減したブラシシール装置としては、ブラシシール本体をフローティングタイプにし、径方向に比較的大きく移動可能としたものが知られている。また、外周に板バネを設けて、ブラシシール摩耗時にロータとの間に隙間が生じても偏芯を防止できるようにしたものも知られている(例えば日本国特許出願公開2011−169319号公報(特許文献1)参照)。
【0004】
しかしながら、例えばブラシシール本体をフローティングタイプとした構成、あるいは、特許文献1に示されているように外周に板バネを設置した構成においては、シール外周におけるシールが十分ではないため、その外周を経路とする漏れを二次シール面で防止する必要がある。しかし、この構成では、外周側及び二次シールの箇所が直接外周漏れに曝されており、シール性能に対する負担が大きい。この二次シール面の漏洩を防止するためには、高性能な二次シールを設置する必要があり、その点において負担が増加する。また、回転軸に対する追従性においても一層の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許出願公開2011−169319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような不利益を解決するために成されたものであって、その目的は、回転軸の振動や偏芯等の径方向の移動に対して過大な圧力となることのない適正な圧力をもって適切に追従することができ、その結果、回転軸との間に間隙が生じて被密封流体が漏洩することを防ぐことができるとともに、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、また、外周側からの被密封流体の漏洩を高性能な二次シールを要することなく適切に防止、抑制することができ、さらには、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することにある。
【発明が解決しようとする手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本願発明のブラシシール装置は、複数の剛毛が配列されたブラシ部を有し、ハウジングと回転軸との間を軸方向に封止するブラシシール装置であって、内周ブラシシールを有する内周ブラシシール部と外周ブラシシールを有する外周ブラシシール部とを有し、前記内周ブラシシールは、外周側の取付部と、前記取付部から内周方向に複数の剛毛が配列されたブラシ部と、前記ブラシ部の内周側端部であり、前記回転軸の外周面と対向して当該外周面に接触又は近接した状態に配置される自由端部とを有し、前記外周ブラシシールは、外周側の取付部と、前記取付部から内周方向に複数の剛毛が配列されたブラシ部と、前記ブラシ部の内周側端部であり、前記内周ブラシシール部の外周面と対向して当該外周面に接触又は近接した状態に配置される自由端部とを有することを特徴とする。
【0008】
このような構成の本発明によれば、回転軸の振動や偏芯等の径方向の移動に対して過大な圧力となることのない適正な圧力をもって適切に追従することができ、その結果、回転軸との間に間隙が生じて被密封流体が漏洩することを防ぐことができるとともに、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、また、外周側からの被密封流体の漏洩を高性能な二次シールを要することなく適切に防止、抑制することができ、さらには、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0009】
好適には、前記内周ブラシシール又は前記外周ブラシシールの少なくともいずれか一方は、束状にされて円周に沿って壁状に配列された複数の線状部材について、当該線状部材の外周側の端部を溶接することにより前記複数の線状部材を相互に結合してリング状に形成し、前記外周側から内周側に前記シール部及び前記自由端部を形成したブラシシールであることを特徴とする。
【0010】
また好適には、前記内周ブラシシール又は前記外周ブラシシールの少なくともいずれか一方は、前記取付部と、前記取付部から伸びて周方向に対して内周側に傾斜した前記剛毛としての細梁を有するブラシ部と、前記自由端部とを有する板ブラシシール単板を、複数、軸方向に積層して一体的に形成したブラシシールであることを特徴とする。
【0011】
また好適には、前記内周ブラシシールの前記ブラシ部と前記外周ブラシシールの前記ブラシ部とは、同一の材質の剛毛からなることを特徴とする。
【0012】
また好適には、前記内周ブラシシールの前記ブラシ部と前記外周ブラシシールの前記ブラシ部とは、異なる材質の剛毛からなることを特徴とする。
【0013】
また好適には、前記内周ブラシシールの前記内周側ブラシ部は、前記複数の剛毛が径方向に対して傾斜して内周方向に配列されており、
前記外周ブラシシールの前記外周側ブラシ部は、前記複数の剛毛が径方向に対して傾斜して内周方向に配列されており、
前記内周ブラシシールの前記剛毛の傾斜と前記外周ブラシシールの前記剛毛の傾斜とは、前記径方向に対して反対方向であることを特徴とする。
【0014】
また好適には、前記内周ブラシシール部の外周面に設置され、前記外周ブラシシールの自由端部が接触又は近接した状態に配置されるとともに、当該外周ブラシシールの自由端部の軸方向の広がりを防止するブラシ受部をさらに有することを特徴とする。
【0015】
また好適には、前記外周ブラシシールは、前記回転軸の軸方向に対して傾斜した状態に形成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態のブラシシール装置の構成を示す断面図である。
図2A図2Aは、図1に示したブラシシール装置の内周ブラシシール部を構成する内周ブラシシールの平面図である。
図2B図2Bは、図1に示したブラシシール装置の外周ブラシシール部を構成する外周ブラシシールの平面図である。
図3図3は、図1に示したブラシシール装置の内周ブラシシール部の内周ブラシシールの自由端部の形態を示す斜視図である。
図4図4は、図1に示したブラシシール装置の2段に構成された内周ブラシシール部及び外周ブラシシール部の、内周ブラシシール及び外周ブラシシールの箇所における径方向断面図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態のブラシシール装置の構成を示す断面図である。
図6A図6Aは、図5に示したブラシシール装置のブラシシール部のブラシシールを構成する板ブラシシール単板を示す第1の図であって、内周ブラシシール部の内周ブラシシールを構成する板ブラシシール単板の平面図である。
図6B図6Bは、図5に示したブラシシール装置のブラシシール部のブラシシールを構成する板ブラシシール単板を示す第2の図であって、外周ブラシシール部の外周ブラシシールを構成する板ブラシシール単板の平面図である。
図7図7は、図5に示したブラシシール装置の2段に構成された内周ブラシシール部及び外周ブラシシール部の、内周ブラシシール及び外周ブラシシールの箇所における径方向断面図である。
図8A図8Aは、図6Aに示した内周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせ方法を説明するための第1の図であり、第1の細梁のパターンを示す図である。
図8B図8Bは、図6Aに示した内周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせ方法を説明するための第2の図であり、第2の細梁のパターンを示す図である。
図8C図8Cは、図6Aに示した内周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせ方法を説明するための第3の図であり、図8Aに示した第1の細梁と図8Bに示した第2の細梁を積層した状態を示す図である。
図9A図9Aは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第1の例を示す第1の図であり、第1の細梁のパターンを示す図である。
図9B図9Bは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第1の例を示す第2の図であり、第2の細梁のパターンを示す図である。
図9C図9Cは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第1の例を示す第3の図であり、図9Aに示した第1の細梁と図9Bに示した第2の細梁を積層した状態を示す図である。
図10A図10Aは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第2の例を示す第1の図であり、第1の細梁のパターンを示す図である。
図10B図10Bは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第2の例を示す第2の図であり、第2の細梁のパターンを示す図である。
図10C図10Cは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第2の例を示す第3の図であり、図10Aに示した第1の細梁と図10Bに示した第2の細梁を積層した状態を示す図である。
図11A図11Aは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第3の例を示す第1の図であり、第1の細梁のパターンを示す図である。
図11B図11Bは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第3の例を示す第2の図であり、第2の細梁のパターンを示す図である。
図11C図11Cは、本発明の第3実施形態のブラシシール装置としての外周ブラシシールにおける細梁の重ね合わせの第3の例を示す第3の図であり、図11Aに示した第1の細梁と図11Bに示した第2の細梁を積層した状態を示す図である。
図12図12は、本発明の第4実施形態のブラシシール装置の構成を示す断面図である。
図13A図13Aは、本発明の第5実施形態のブラシシール装置の構成を示す第1の図であり、内周ブラシシール部の内周ブラシシールを示す図である。
図13B図13Bは、本発明の第5実施形態のブラシシール装置の構成を示す第2の図であり、外周ブラシシール部の外周ブラシシールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施形態
本発明の第1実施形態のブラシシール装置について図1図4を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態のブラシシール装置100の構成を示す断面図であり、図2Aは、ブラシシール装置100の内周ブラシシール部101の内周ブラシシール120の平面図であり、図2Bは、ブラシシール装置100の外周ブラシシール部102の外周ブラシシール140の平面図であり、図3は、内周ブラシシール120の自由端部125の形態を示す斜視図であり、図4は、ブラシシール装置100の内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140の箇所における径方向断面図である。
【0018】
ブラシシール装置100は、例えばガスタービン等に設置されて使用されるブラシシール装置であり、図1に示すように、ハウジング810と回転軸830との間隙に設置されて、当該間隙を高圧P1側と低圧P2側とに仕切るブラシシール装置である。ブラシシール装置100は、ハウジング810の内周面811に設けられた段部812に取り付けられる。
【0019】
ブラシシール装置100は、内周ブラシシール部101及び外周ブラシシール部102を有する。内周ブラシシール部101及び外周ブラシシール部102は、各々、内周側にブラシ部123、143を有し、その先端部(内周側端部)が自由端部125、145に形成されている。
【0020】
内周ブラシシール部101は、自由端部125が回転軸830の外周面831と対向して外周面831に接触又は近接する状態に設置される。外周ブラシシール部102は、内周ブラシシール部101の外周側において、自由端部145が内周ブラシシール部101の外周面111と対向して外周面111に接触又は近接する状態に設置される。また、外周ブラシシール部102の外周面112は、ハウジング810の内周面811に密接嵌合される。
【0021】
ブラシシール装置100は、このような内周ブラシシール部101と外周ブラシシール部102の2段のブラシシールにより、ハウジング810と回転軸830との間の空間において、高圧P1側の被密封流体を軸方向にシールする。
【0022】
内周ブラシシール部101は、内周ブラシシール120、背板部130及び保持部135を有する。
【0023】
内周ブラシシール120は、図1及び図2Aに示すように、多数の線形の剛毛121を束状にし、束状にした剛毛121を円周に沿って壁状に配列し、外周側を溶接により結合してリング状に形成したものである。外周側のリング状の溶接部は取付部122として形成され、その内周側がブラシ部123として形成され、内周側の端部が回転軸830の外周面831と接触又は近接する自由端部125として形成される。
【0024】
各剛毛121は、図2Aに示すように、直線状を成して、回転軸830の回転方向へ傾斜するように回転軸830の径方向に対して所定の角度をなす姿勢で配置される。このように配列された内周ブラシシール120の自由端部125の内側となる環状空間127に、回転軸830が嵌合される。従って、内周ブラシシール120は、環状空間127の内径が、回転軸830の外周面831の外径とほぼ同じ長さとなるように形成される。
【0025】
回転軸830との嵌合面(嵌合部)を形成する内周ブラシシール120の剛毛121の自由端部125は、図3に示すように、極力隙間を生じないように整然とかつ密に配列され、また精密に仕上げ加工されている。
【0026】
本実施形態において、剛毛121は、鋼、ニッケル基の合金、セラミック材等の材質で、断面が円形の線状部材であり、その直径は0.5〜0.005mm、好ましくは0.20〜0.02mmである。
ただし、剛毛121としては、本願明細書に記載の作用、動作あるいは効果等が発揮できることを前提に、任意の形状のものを用いてよい。例えば、断面が矩形の線状部材等、円形以外の任意の断面形状を有する部材を用いてよいし、上記の範囲以外の直径を有する部材を用いてもよい。また、断面形状や断面サイズ(直径)等が変化するような剛毛を用いてもよいし、多数の剛毛の中に、そのような形状、形態の異なる剛毛を混在させて使用してもよい。
【0027】
背板部130は、図1に示すように、内周ブラシシール120の低圧P2側に設置される円環板状部材である。背板部130は、側面131が内周ブラシシール120の剛毛121に接触する状態に配置され、被密封流体の圧力を受ける剛毛121を低圧P2側から支持する。
【0028】
背板部130の中央には、回転軸830を通過させる開口132が形成されている。開口132は、回転軸830が振動や偏芯等して径方向に移動しても接触しない程度の十分な大きさの直径を有するものである。一方で、開口132は、剛毛121の適切な支持及び被密封流体の漏洩防止の観点から、ハウジング810の段部812の内側内周面813あるいは後述する保持部135の開口137よりも小さい直径に形成される。
【0029】
なお、背板部130の低圧P2側の側面133には、ブラシシール装置100とハウジング810との間の二次シールが形成される場合もあり、その場合には側面133はが二次シール面として構成される。
【0030】
保持部135は、内周ブラシシール120の高圧P1側に設置される円環板状部材である。保持部135は、側面136が内周ブラシシール120の剛毛121に接触する状態に配置されており、中央には、回転軸830を通過させる開口137が形成されている。開口137は、回転軸830が振動や偏芯等して内周ブラシシール120に当接したり当接状態が変化した場合等において剛毛121の変形等に対応できるように、背板部130の開口132と比べて十分に大きい直径に形成されている。
【0031】
これら背板部130と保持部135とは、これらの間で内周ブラシシール120を挟持するような形態で内周ブラシシール120と一体に形成される。すなわち、背板部130と内周ブラシシール120の取付部122と保持部135とが、内周ブラシシール120の取付部122を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合され、全体として内周ブラシシール部101を構成する。
【0032】
なお、背板部130、内周ブラシシール120及び保持部135が一体化された内周ブラシシール部101の外周面111には、後述するブラシ受部190が設置される。
【0033】
内周ブラシシール部101は、図4に示すように、外周ブラシシール部102の外周ブラシシール140の自由端部145の内側となる環状空間147にブラシ受部190を介在させて嵌合される。従って、内周ブラシシール部101の外径、すなわち、内周ブラシシール120、背板部130及び保持部135の外径は、後述する外周ブラシシール部102の環状空間147の内径とほぼ同じ長さに形成される。
【0034】
背板部130及び保持部135は、例えば、ニッケル基の合金、鉄、鋼、その他非鉄金属等、任意の材質で製作される。背板部130及び保持部135は、被密封流体の種類、温度、その他の条件によって、あるいは、内周ブラシシール120の剛毛121若しくは取付部122の材質や構造等によって、適宜好適な材質が選定される。
【0035】
外周ブラシシール部102は、図1に示すように、外周ブラシシール140、第1の保持部150、第2の保持部155及びブラシ受部190を有する。外周ブラシシール部102の構成は、基本的に前述した内周ブラシシール部101と同じと言えるが、各部の寸法の他、剛毛141の傾斜方向、保持部150、155の構成及び機能、及び、ブラシ受部190の有無等が内周ブラシシール部101とは異なる。
【0036】
外周ブラシシール140は、図1及び図2Bに示すように、内周ブラシシール120と同様に、多数の線形の剛毛141を束状にし、束状にした剛毛141を円周に沿って壁状に配列し、外周側を溶接により結合してリング状に形成したものである。外周側のリング状の溶接部は取付部142として形成され、その内周側がブラシ部143として形成され、内周側の端部が内周ブラシシール部101の外周面111に設置されるブラシ受部190と接触又は近接する自由端部145として形成される。
【0037】
外周ブラシシール140においては、図4に示すように、自由端部145の内側となる環状空間147に、内周ブラシシール部101が嵌合される。従って、外周ブラシシール140の自由端部145の内側の環状空間147の内径は、内周ブラシシール部101の外周面111の外径とほぼ同じ長さとなるように形成される。
【0038】
剛毛141の素材、断面形状、断面サイズ、配列密度や配列形態は、実質的に、前述した内周ブラシシール120の剛毛121と同じである。
ただし、外周ブラシシール140においては、剛毛141の傾斜が、回転軸830の径方向すなわち内周ブラシシール部101や外周ブラシシール部102の径方向に対して、内周ブラシシール120の剛毛121の周方向に沿った傾斜とは反対方向に傾斜した構成とされる。なお、このような構成とすることの作用、効果は後述する。
【0039】
第1の保持部150は、図1に示すように、外周ブラシシール140の取付部142の低圧P2側に設置される円環状部材である。また、第2の保持部155は、外周ブラシシール140の取付部142の高圧P1側に設置される円環状部材である。これら第1の保持部150と第2の保持部155とは、これらの間で外周ブラシシール140を挟持するような形態で外周ブラシシール140と一体に形成されている。すなわち、第1の保持部150と外周ブラシシール140の取付部142と第2の保持部155とが、外周ブラシシール140の取付部142を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合され、全体として外周ブラシシール部102の主部を構成している。
【0040】
これら一体化された第1の保持部150と外周ブラシシール140と第2の保持部155の外周面112は、外周ブラシシール部102をハウジング810に設置する際、換言すればブラシシール装置100をハウジング810に設置する際、ハウジング810の内周面811に密接嵌合する嵌合面に形成される。従って、外周ブラシシール部102の外径、すなわち、外周ブラシシール140、第1の保持部150及び第2の保持部155の外径は、ハウジング810の内周面811の内径とほぼ同じ長さに形成される。
【0041】
ブラシ受部190は、内周ブラシシール部101の外周面に嵌合設置される筒状部材であり、外周ブラシシール140の剛毛141の自由端部145の広がりを防止する広がり防止部材である。ブラシ受部190には、外径方向に向かって、すなわちその外周面に、凹部191が形成されている。凹部191は、外周ブラシシール140の自由端部145が近接して、又は当接して、あるいは摺動するように配置される外周ブラシシール部102の剛毛141の通路である。凹部191の軸方向の両端部は環状に外径方向に突出しており、外周ブラシシール140の自由端部145が凹部191の外側に出ないように、外周ブラシシール140の自由端部145の移動を規制する。
【0042】
このようなブラシ受部190を、外周ブラシシール140の自由端部145に対して設置することにより、外周ブラシシール140の剛毛141の自由端部145が広がることを防ぐことができ、自由端部145が整然と密に配列された状態を長期にわたって維持することができる。特に、図1に示す本実施形態のように、内周ブラシシール部101の背板部130及び保持部135のような剛毛141の側面を押さえる部材を具備していない外周ブラシシール部102においては、外周ブラシシール140の自由端部145が広がる(特に軸方向に)可能性があるが、ブラシ受部190を設けることで自由端部145の広がりを防止することができる。その結果、外周ブラシシール140の自由端部145が広がることに起因してブラシシール装置100の偏芯防止機能が減少することを防止でき、ブラシシール装置100の適切な作動を長期にわたって維持することができる。
【0043】
また、ブラシ受部190を設けることにより、外周ブラシシール140の自由端部145が直接摺動することによる内周ブラシシール部101の外周面111の摩耗を防ぐことができる。
【0044】
第1の保持部150、第2の保持部155及びブラシ受部190も、内周ブラシシール部101の背板部130及び保持部135と同様に、例えば、ニッケル基の合金、鉄、鋼、その他非鉄金属等、任意の材質で製作される。これらの部材も、例えば、被密封流体の種類、温度、その他の条件によって、あるいは、外周ブラシシール140の剛毛141若しくは取付部142の材質や構造等によって、適宜好適な材質が選定される。
【0045】
このような各構成の内周ブラシシール部101及び外周ブラシシール部102を有するブラシシール装置100は、図1に示すように内外周2段のブラシシールを有するブラシシール装置として、ハウジング810の内周面811の回転軸830との間に設置される。
【0046】
ブラシシール装置100は、予め内周ブラシシール部101と外周ブラシシール部102とを一体に形成し、一体に形成されたブラシシール装置100をハウジング810と回転軸830との間に設置する設置形態とすることができる。その場合、ブラシシール装置100をハウジング810の内周面811に設置するまでの間、内周ブラシシール部101と外周ブラシシール部102との間に装着してこれらを一体的に保持するセット用部材を必要に応じて用いるようにしてよい。セット用部材は、ブラシシール装置100をハウジング810の内周面811に設置した後、あるいはその後の実稼働段階で取り外して、内周ブラシシール部101と外周ブラシシール部102とを相対的に移動可能にする。
【0047】
あるいは、ブラシシール装置100は、設置前には内周ブラシシール部101と外周ブラシシール部102を分離した状態で用意しておき(ブラシ受部190は、内周ブラシシール部101の外周面111に設置しておくのが好ましい。)、ブラシシール装置100をハウジング810と回転軸830との間に設置する際に、これらを組み立てるような設置形態でもよい。
【0048】
その場合、まず外周ブラシシール部102をハウジング810の内周面811に設置し、その後、その内側である外周ブラシシール部102の環状空間127であって回転軸830の外周面831に、内周ブラシシール部101を設置するようにしてよい。あるいは、まず内周ブラシシール部101を回転軸830の外周面831に設置し、その後、その外側であってハウジング810の内周面811の内側に、外周ブラシシール部102を設置するようにしてもよい。
【0049】
このような構成の本実施形態のブラシシール装置100によれば、内周ブラシシール120の外周側にさらに外周ブラシシール140を設けた構成なので、ブラシシール装置100の外周側において被密封流体のシールが可能となり、ブラシシール装置100の外周側からの被密封流体の漏洩を適切に防止することができる。
【0050】
その結果、ブラシシール装置100の外周側における被密封流体の漏洩防止のために設けていた二次シールを不要にすることができる。
また、二次シールを併用する形態においても、二次シール面からの被密封流体の漏洩を適切に防止することができ、二次シールの負担を軽減し寿命を長期化することができる。また、二次シールに要求される性能が高くなることを防ぎ、装置のコスト低減等の効果を得ることもできる。
【0051】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140との2段のブラシシールを有するので、ブラシシール装置100全体の弾性特性(バネ性)を向上させることができる。その結果、回転軸830の偏芯やブラシシール(内周ブラシシール120)の摩耗等により回転軸830と内周ブラシシール120の自由端部125との間に隙間が生じる危険性があるような場合であっても、内周ブラシシール120は回転軸830の外周面831への追従を適切に継続することができる。その結果、そのような隙間が生じるのを防ぐことができ、被密封流体の漏洩を適切に防止できる。
【0052】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、外周ブラシシール140の剛毛141もハウジング810の内周面811及び回転軸830の径方向に対して傾斜して形成されており、外周ブラシシール140のブラシ部143も弾性変形に基づく偏芯防止機能を有する。その結果、ブラシシール装置100全体として、より一層好適に、回転軸830に対する偏芯防止機能を発揮することができる。すなわち、回転軸830と内周ブラシシール120の自由端部125との間に隙間が生じる危険性を低減することができ、ブラシシール装置100全体として回転軸830の調芯を一層好適に行うことができる。
【0053】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140の各々において、剛毛121及び141の長さや角度を任意の状態に調整することができる。従って、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140で作用する偏芯防止作用を各々適切な作動状態に調整することが可能となり、この点においても、ブラシシール装置100は全体として一層好適に回転軸830に偏芯防止機能を発揮することができ、回転軸830の調芯を好適に行うことができる。
【0054】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、回転軸830の径方向に対して、外周ブラシシール140の剛毛141の傾斜方向と内周ブラシシール120の剛毛121の傾斜方向とを異ならせている。このような構成とすることにより、回転軸830の回転により内周ブラシシール120に作用する力の方向に対して、外周ブラシシール140にはこれに対向する方向に力を作用させることができ、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140を各々回転し難くすることができる。その結果、内周ブラシシール部101の自由端部125及び外周ブラシシール部102の自由端部145の摺動による摩耗が低減され、ブラシシール装置100の寿命が長期にわたり適正に維持することができる。
【0055】
また、本実施形態のブラシシール装置100においては、剛毛121及び剛毛141は、各々、外周側を溶接により接合して内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140に形成している。このように、溶接により剛毛121、141を結合し、設置することにより、剛毛121、141が抜けることをほぼ確実に回避でき、強固なブラシ部123、143を形成することができる。その結果、ブラシシール装置100の寿命を長期にわたり適正に維持することができる。
【0056】
なお、前述した実施形態においては、内周ブラシシール部101の内周ブラシシール120と外周ブラシシール部102の外周ブラシシール140とは同じブラシ部123及び143を有するものとした。しかしながら、内周ブラシシール120と外周ブラシシール140とを、異なるブラシ部123及び143を有する構成としてもよい。すなわち、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140について、材質、線径、形状(断面形状)、特性、配列密度あるいは配列形態等の異なる剛毛121及び141を用いてブラシ部123及び143を構成してもよい。
【0057】
このような構成であれば、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール140として、種々の動作条件、動作特性を有するブラシ部123及び143を構成することができ、また、各々最適な条件を有するブラシ部123及び143を形成することができる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0058】
また、ブラシ受部190として、本実施形態では断面凹状の環状部材を用いたが、単に外周ブラシシール140の自由端部145の範囲を規定する部材を、内周ブラシシール部101の外周面111に、軸方向のその範囲の両側に設置するような構成でもよい。ブラシ受部190としては、外周ブラシシール140の自由端部145の広がりを防止することができる構成であれば任意の構成のものを用いてよい。
【0059】
このように、本発明の第1実施形態によれば、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置100が提供される。
【0060】
第2実施形態
本発明の第2実施形態のブラシシール装置について、図5図8を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施形態のブラシシール装置200の構成を示す断面図であり、図6Aは、ブラシシール装置200の内周ブラシシール部201の内周ブラシシール220を構成する板ブラシシール単板311の平面図であり、図6Bは、ブラシシール装置200の外周ブラシシール部202の外周ブラシシール240を構成する板ブラシシール単板321の平面図であり、図7は、ブラシシール装置200の内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240の箇所における径方向断面図であり、図8A及び図8Bは、内周ブラシシール220の細梁221の第1のパターン及び第2のパターンを示す図であり、図8Cはこれらを積層した状態を示す図である。
図である。
【0061】
第2実施形態のブラシシール装置200に係る以下の説明においては、図1図4を参照して前述した第1実施形態のブラシシール装置100等と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。第2実施形態としては、第1実施形態のブラシシール装置100との相違点を主として説明をする。
【0062】
図5に示すように、第2実施形態のブラシシール装置200は、基本的に第1実施形態のブラシシール装置100と同じ構成を有する。
すなわち、ブラシシール装置100は、ハウジング810と回転軸830との間隙に設置されて、当該間隙を高圧P1側と低圧P2側とに仕切る。
ブラシシール装置200は、内周ブラシシール部201及び外周ブラシシール部202を有し、内周ブラシシール部201は内周ブラシシール220を有し、外周ブラシシール部202は外周ブラシシール240を有する。内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240は、各々、内周側にブラシ部223、243を有し、その先端部(内周側端部)が自由端部225、245に形成されている。
【0063】
内周ブラシシール部201は、自由端部225が回転軸830の外周面831と対向して外周面831に接触又は近接する状態に設置される。外周ブラシシール部202は、内周ブラシシール部201の外周側において、自由端部245が内周ブラシシール部201の外周面211と対向して外周面211に接触又は近接する状態に設置される。また、外周ブラシシール部202の外周面212は、ハウジング810の内周面811に密接嵌合される。
ブラシシール装置200は、このような内周ブラシシール部201と外周ブラシシール部202の2段のブラシシールにより、ハウジング810と回転軸830との間の空間において、高圧P1側の被密封流体を軸方向にシールする。
【0064】
第2実施形態のブラシシール装置200が第1実施形態のブラシシール装置100と異なる点は、第1に、内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240の構成にある。
前述した第1実施形態のブラシシール装置100の内周ブラシシール部101及び外周ブラシシール部102の各ブラシシール120、140は、多数の線形の剛毛121、141を束状にし、束状にした剛毛を円周に沿って壁状に配列し、外周側、内周側あるいは中間部分を溶接により結合してリング状に形成したものであった。
【0065】
これに対して第2実施形態のブラシシール装置200の内周ブラシシール部201及び外周ブラシシール部202の内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240は、図6A及び図6Bに示すような薄板の円環状の板ブラシシール単板311、321を積層して形成するものである。
【0066】
板ブラシシール単板311、321は、各々、環状体を成し、内周側が周方向へ傾斜した細梁221、241に加工され、その間がスリット312、322に形成されている。そして、細梁221、241とスリット312、322とが一定の間隔を成してブラシ部313、323に構成されている。
【0067】
なお、スリット312、322及び細梁221、241の周方向に対する傾斜方向は、内周ブラシシール220の板ブラシシール単板311においては、回転軸830の回転方向となる方向である。また、外周ブラシシール240の板ブラシシール単板321においては、図7を参照して後述するように、回転軸830の径方向、すなわち内周ブラシシール部201及び外周ブラシシール部202の径方向に対して、板ブラシシール単板311のブラシ部313の細梁221の傾斜方向とは反対方向である。
【0068】
板ブラシシール単板311、321の細梁221、241は、例えば、縦横の辺の長さが0.2〜0.005×0.3〜0.008mm、好ましくは0.15〜0.008×0.2〜0.01mmの長方形あるいは正方形の断面形状を有する棒状(線状、毛状)の部材である。細梁221、241の断面としては、矩形以外に、三角形、台形、楕円形等種々のものが用いられる。
なお、一般的にこの細梁221及び241を剛毛と称する場合もある。
【0069】
板ブラシシール単板311、321において、ブラシ部313、323の外周側は、スリット312、322及び細梁221、241が形成されていない環状で板状の基部316、326に形成され、細梁221、241は基部316、326に連結している。板ブラシシール単板311、321を積層して内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240を形成する場合、この基部316、317において、多数の積層された板ブラシシール単板311、321が溶接され、一体化される。
【0070】
基部316、326による板ブラシシール単板311、321の積層方法について、ここでは、板ブラシシール単板311と板ブラシシール単板321とで、すなわち内周ブラシシール220と外周ブラシシール240とで異なった形態を例示する。
【0071】
内周ブラシシール部201の内周ブラシシール220を構成する板ブラシシール単板311においては、図6Aに示すように、基部316は比較的幅広に形成されており、この基部316には、円周に沿って位置決め孔317が形成されている。
【0072】
位置決め孔317は、そのピッチが、ブラシ部313の細梁221のピッチ(スリット312のピッチ)と対応しておらず(位置決め孔317のピッチが細梁221のピッチの整数倍等とはなっておらず)、微少に相違するように形成されている。あるいは、各位置決め孔317のピッチ(間隔)は、各々微小に異なるように形成されている。
【0073】
この位置決め孔317のピッチの相違は、複数の板ブラシシール単板311を積層する場合に、位置決め孔317をずらして合わせることにより、ブラシ部313の細梁221の位置が、板ブラシシール単板311によって少しずつずれるようにするために形成されている。具体的には、板ブラシシール単板311間で合わせる位置決め孔317を適宜変えることにより、細梁221の位置は、細梁221のピッチの数分の1ずつずれるようになっている。
【0074】
従って、複数の板ブラシシール単板311を積層して内周ブラシシール220を形成する場合に、位置決め孔317をずらして合わせれば、ある板ブラシシール単板311のスリット312の位置に、他の板ブラシシール単板311の細梁221を重ならせることができる。そしてこのようにして複数の板ブラシシール単板311を積層すれば、内周ブラシシール220の全体として、内周ブラシシール220を軸方向に貫通するスリット(間隙)を実質的に無くすことができ、被密封流体の漏洩を効果的に防止することができる。
【0075】
例えば、内周ブラシシール220において、隣接する板ブラシシール単板311を、図8A及び図8Bに示すように、ピッチの1/2ずつずれた状態の細梁221a及び221bとして積層することにより、内周ブラシシール220においては、図8Cに示すように、内周ブラシシール220を軸方向に貫通するスリット(間隙)を実質的に無くすことができる。
【0076】
一方、外周ブラシシール部202の外周ブラシシール240を構成する板ブラシシール単板321においては、図6Bに示すように、基部316は、比較的幅狭に形成されており、基部316に位置決め孔等は形成されていない。
【0077】
従って、複数の板ブラシシール単板321を積層して外周ブラシシール240を形成する場合には、板ブラシシール単板311のように位置決め孔を用いて各内周側スリット312の板を決定することはできない。しかし、換言すれば、内周側スリット312においては、任意の位置だけ各板をずらして積層することができる。そして位置をずらして積層することにより、外周ブラシシール240の全体として、外周ブラシシール240を軸方向に貫通するスリット(間隙)を実質的に無くすことができ、被密封流体の漏洩を効果的に防止することができる。
【0078】
すなわち、位置決め孔317の形成されていない板ブラシシール単板321においては、基部316の構成、すなわち板ブラシシール単板321自体の構成は板ブラシシール単板311より簡単にすることができ、また基部326の幅を小さくし、外周ブラシシール240の大きさを小さくすることができる。また、任意のずらし方で板ブラシシール単板321を積層することができ、板ブラシシール単板のずらし方に関しては、板ブラシシール単板311よりも自由度が向上する。
【0079】
本実施形態においては、内周ブラシシール220は位置決め孔317を有する板ブラシシール単板311を用いて構成し、外周ブラシシール240は位置決め孔317を具備しない板ブラシシール単板321を用いて構成した。しかし、内周ブラシシール220を、位置決め孔を具備しない板ブラシシール単板で構成し、外周ブラシシール240を、位置決め孔を有する板ブラシシール単板で構成してもよいし、内周ブラシシール220と外周ブラシシール240の両方を位置決め孔を有する板ブラシシール単板で構成しておよいし、あるいは、その両方を位置決め孔を具備しない板ブラシシール単板で構成してもよい。
【0080】
また、積層する板ブラシシール単板311、321は、上述のようにずらして積層してもよいし、ずらさずに積層してもよい。内周ブラシシール220あるいは外周ブラシシール240を軸方向に貫通する間隙があっても被密封流体の漏洩量を十分に抑えられる場合等には、そのような構成でもよい。
【0081】
板ブラシシール単板311、321の材質は、鋼、ステンレス、ニッケル基の合金、セラミック材等である。また、板ブラシシール単板311、321に対するスリット312、322あるいは位置決め孔317等の加工は、従来知られている加工方法のワイヤー放電加工やエッチング処理加工、レーザ加工、電子ビーム加工等の微細加工方法を適用できる。
【0082】
第2実施形態のブラシシール装置200の内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240は、各々、このような構成の板ブラシシール単板311、321を、必要とされるシール能力に応じた必要厚さあるいは必要枚数に積層して形成される。すなわち、積層する複数の板ブラシシール単板311、321を前述したように位置合わせし、基部316、326を溶接等することにより複数の板ブラシシール単板311、321を一体化する。
【0083】
図6Aに示す板ブラシシール単板311のように、基部316に位置決め孔317が形成されている板ブラシシール単板311の場合、複数の板ブラシシール単板311の接合は、例えば、図5に示すように、位置合わせピン318を、複数の板ブラシシール単板311の位置を合わせた位置決め孔317に挿入することにより行うことができる。その際、複数の板ブラシシール単板311を溶接する際には、位置合わせピン318も一体に溶接してしまってよい。抜け防止のために効果的である。
【0084】
なお、位置合わせピン318は、例えば背板部130に予め立設しておき、板ブラシシール単板311を積層する際に、背板部330に設置された位置合わせピン318に対して各板ブラシシール単板311の位置を合わせて行くような形態としてもよい。複数の板ブラシシール単板311を積層する工程と、後述する背板部130及び保持部135を設置する工程を実質的に同じ工程内で同時的に行うこととなるが、位置合わせピン318の取り扱いが容易となり、板ブラシシール単板311を積層する工程、及び、背板部130及び保持部135を設置する工程の両方を簡単な工程にできる可能性がある。そのような構造及び方法により、ブラシシール装置200を実施してもよい。
【0085】
図6Bに示す板ブラシシール単板321のように、基部326に位置決め孔が形成されていない板ブラシシール単板321の場合は、複数の板ブラシシール単板321を所望の位置合わせした状態に維持した状態で、単に各板ブラシシール単板321の基部326を溶接することによりこれらを接合する。
なお、このように形成された内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240においては、以下、基部316、326の溶接された部分を取付部222、242と称する場合もある。
【0086】
ブラシシール装置200は、前述したように、内周ブラシシール部201及び外周ブラシシール部202を有し、内周ブラシシール部201は、板ブラシシール単板311により前述したように構成される内周ブラシシール220の他に、背板部130及び保持部135を有する。また、外周ブラシシール部202は、内周側スリット312により前述したように構成される外周ブラシシール240の他に、背板部250及び保持部255を有する。
【0087】
内周ブラシシール部201に関して、背板部130及び保持部135の構成は、第1実施形態のブラシシール装置100と同じである。すなわち、背板部230と内周ブラシシール220と保持部135とが、内周ブラシシール220の取付部222を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合され、内周ブラシシール部201とされる。
【0088】
また、外周ブラシシール部202に関して、背板部250及び保持部255の構成、機能、作用等は、内周ブラシシール部201の背板部130及び保持部135(第1実施形態のブラシシール装置100の内周ブラシシール部101の背板部130及び保持部135)と同じである。背板部250と外周ブラシシール240と保持部255とは、外周ブラシシール240の取付部242を中心にして溶接され、これらが三者一体に結合され、外周ブラシシール部202に構成される。
【0089】
ブラシシール装置200の内周ブラシシール部201及び外周ブラシシール部202の内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240の各ブラシ部223、243の自由端部225、245の機能、動作、作用は、前述した第1実施形態のブラシシール装置100の各ブラシシール部101、102のブラシシール120、140のブラシ部123、143の自由端部125、145の機能、動作、作用と同じである。
【0090】
なお、本実施形態においては、内周ブラシシール部201の内周ブラシシール220のブラシ部223と外周ブラシシール部202の外周ブラシシール240のブラシ部243とは同じブラシ部とする。すなわち、内周ブラシシール220を構成する細梁221と外周ブラシシール240を構成する細梁241とは、材質、断面形状、その大きさ、弾性特性等の特性、配列密度あるいは配列形態等が同じに構成されているものとする。
【0091】
また、第1実施形態のブラシシール装置100においては、内周ブラシシール部101の外周面111にブラシ受部190を設置し、外周ブラシシール部102の外周ブラシシール140の剛毛141の自由端部145の広がりを防止していた。
これに対して第2実施形態のブラシシール装置200においては、ブラシ受部190を設けておらず、外周ブラシシール240のブラシ部243の自由端部245は、内周ブラシシール部201の外周面211に直接接する構成となっている。
【0092】
その代わり、ブラシシール装置200においては、図5に示すように、ブラシシール装置100の第1の保持部150及び第2の保持部155に代わって、背板部250及び保持部255が外周ブラシシール240を挟持し、外周ブラシシール240の細梁241の側面を支持する構成となっている。すなわち、ブラシシール装置200においては、前述したように、背板部250と保持部255との間で、取付部(基部)242を中心として、外周ブラシシール240の取付部242側の根元部分を含む範囲を挟持している。その結果、ブラシシール装置200においては、背板部250及び保持部255により、外周ブラシシール240の細梁241の広がりが防止される。従って、外周ブラシシール240の自由端部245の箇所においてブラシ受部190のような構成を設けなくてよいのである。
【0093】
なお、このように背板部250と保持部255で外周ブラシシール240の根元を挟持する形態は、前述した第1実施形態のブラシシール装置100の外周ブラシシール140の剛毛141に対しても適用することができる。
【0094】
ブラシシール装置200の内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240の箇所における径方向断面図を図7に示す。図7に示すように、また前述したように、本実施形態のブラシシール装置200においては、外周ブラシシール240の細梁241は、回転軸830の径方向に対して、内周ブラシシール220の細梁221の傾斜とは反対方向に傾斜している。この構成において、細梁221及び細梁241の傾斜角度及び長さは、これら外周ブラシシール240の細梁241と内周ブラシシール220の細梁221とによるバネ効果が、ブラシシール装置200の径方向成分Fのみが残るように調整される。
【0095】
このような構成とすることにより、回転軸830からブラシシール装置200が受ける振動等に対する応力(振れ応力)は、径方向の力のみとなり、ブラシシール装置200が不安定な振動等の挙動をすることを防ぐことができ、ブラシシール装置200の動作を安定化させることができる。
【0096】
なお、このように細梁221及び細梁241の傾斜角度及び長さの特徴は、前述した第1実施形態のブラシシール装置100の内周ブラシシール120の剛毛121と外周ブラシシール140の剛毛141との関係に対しても適用することができる。
【0097】
第2実施形態のブラシシール装置200は、このような構成を有するものである。
従って、第2実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0098】
なお、本実施形態においては、内周ブラシシール部201の内周ブラシシール220のブラシ部223と外周ブラシシール部202の外周ブラシシール240のブラシ部243とは、同じブラシ部であるとした。しかしながら、これらを異なるブラシ部として構成することもできる。具体的には、内周ブラシシール220を構成する細梁221と外周ブラシシール240を構成する細梁241とを、断面形状、断面の大きさ、弾性特性等の特性、配列密度あるいは配列形態等が異なるものに加工をすることにより、これらは異なるブラシ部となる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0099】
また、ブラシシール装置200において、内周ブラシシール部201と外周ブラシシール部202とは、ブラシシール装置200をハウジング810に設置する前に予め一体にされた構成であってもよいし、ブラシシール装置200をハウジング810に設置するまでは別体として分離されたままの状態にしておき、これらをハウジング810に設置する時に(組み立て時に)一体化する構成であってもよい。
【0100】
第3実施形態
本発明の第3実施形態のブラシシール装置について図9図12を参照して説明する。
第3実施形態のブラシシール装置は、第2実施形態のブラシシール装置200の変形例として説明する。
【0101】
第2実施形態として前述したブラシシール装置200は、同一の板ブラシシール単板311、321を積層してブラシシール220、240(内周ブラシシール220及び外周ブラシシール240)を構成した。しかしながら、異なる種類の板ブラシシール単板を積層してブラシシール220、240を構成するようにしてよい。
【0102】
特に、外周ブラシシール240を、細梁241の形態が異なる複数種類の板ブラシシール単板321を積層して形成することにより、外周ブラシシール240のブラシ部243における軸方向の隙間を少なくすることができる。
【0103】
例えば、図9A及び図9Bに示すように、傾斜方向が異なる細梁241cと細梁241dを有する2種類の板ブラシシール単板321c、321dを積層することにより、外周ブラシシール240のブラシ部243は、図9Cに示すような形態となり、軸方向の隙間が小さくなる。
【0104】
また、図10A及び図10Bに示すように、ピッチが異なる細梁241eと細梁241fを有する2種類の板ブラシシール単板321e、321fを積層することにより、外周ブラシシール240のブラシ部243は、図10Cに示すような形態となり、この構成においても軸方向の隙間が小さくなる。
【0105】
さらに、図11A及び図11Bに示すように、傾斜角度が異なる細梁241gと細梁241hを有する2種類の板ブラシシール単板321g、321hを積層することにより、外周ブラシシール240のブラシ部243は、図11Cに示すような形態となり、この構成においても軸方向の隙間が小さくなる。
【0106】
これらいずれの構成においても、外周ブラシシール240の細梁241における軸方向の隙間が小さくなるので、ブラシシール装置200の外周周りの被密封流体の漏洩を低減しあるいは防止することができ好適である。
【0107】
第3実施形態のブラシシール装置は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置に係る作用、効果、変形例等は、第3実施形態として説明したブラシシール装置に対しても適用可能である。従って、第3実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0108】
なお、細梁241の形態を異ならせることについては、上述した以外にも種々の方法、形態があり、任意の方法を適用してよい。
また、この構成は、板ブラシシール単板に細梁を形成しこれを積層する形態に限られるものではない。第1実施形態として説明した剛毛により外周ブラシシールを形成する構成にも適用可能である。
また、同様の方法を内周ブラシシール220に対しても適用可能である。そのような構成とすれば、内周ブラシシール220のブラシ部223における被密封流体の漏洩を低減あるいは防止することができ好適である。
【0109】
第4実施形態
本発明の第4実施形態について図12を参照して説明する。
第4実施形態のブラシシール装置500に係る以下の説明においても、前述した各実施形態のブラシシール装置と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。
【0110】
前述した各実施形態のブラシシール装置において、内周ブラシシール120、220及び外周ブラシシール140、240は、剛毛121、141あるいは細梁221、241の向きが回転軸830の径方向に沿った方向になるように配設されていた。
これに対して第4実施形態のブラシシール装置500は、外周ブラシシール540が、軸方向に傾斜して配設されているものである。
以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0111】
図12に示すように、本実施形態のブラシシール装置500も、例えばガスタービン等のハウジング810と回転軸830との間隙を高圧P1側と低圧P2側とに仕切るブラシシール装置であるが、ブラシシール装置500は、ハウジング810の内周面811に設けられた傾斜面815に取り付けられる。傾斜面815は、内周面811に対して略45°傾斜した面である。
【0112】
ブラシシール装置500は、内周ブラシシール部101、外周ブラシシール部502及び連結部503を有する。
内周ブラシシール部101は、内周ブラシシール120、背板部130及び保持部135を有し、前述した第1実施形態の内周ブラシシール部101と同じ構成である。
【0113】
外周ブラシシール部502は、外周ブラシシール540、背板部580及び保持部585を有する。
外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540は、第1実施形態のブラシシール装置100の外周ブラシシール140と略同一の構成であるが、全体形状が、第1実施形態の外周ブラシシール140のような平面的な円環形状ではなく、図12に断面形状を示すように、裁頭円錐体(円錐台)形状に形成されているものである。すなわち、外周ブラシシール540は、多数の線形の剛毛541を束状にし、その束状にした剛毛541を円錐台側周面形状に沿って壁状に配列し、外周側端部542を溶接により結合して円錐台状に形成したものである。そして、溶接部分542の内周側がブラシ部543に形成され、その先端に自由端部545が形成される。
【0114】
外周ブラシシール540は、背板部580と保持部585とにより挟持されることにより、これらと一体化されて外周ブラシシール部502とされる。
背板部580は、外周ブラシシール540の低圧P2側に設置される、外周ブラシシール540と同様の裁頭円錐体(円錐台)形状の部材であり、外周ブラシシール540の剛毛541を低圧P2側から支持する。
また、保持部585は、外周ブラシシール540の高圧P1側に設置される、外周ブラシシール540と同様の裁頭円錐体(円錐台)形状の部材であり、背板部580との間で外周ブラシシール540を挟持するための部材である。
【0115】
背板部580と保持部585とは、これらの間で外周ブラシシール540を挟持するような形態で配置され、外周ブラシシール540の外周側溶接部542を中心として溶接され、これらが三者一体に結合され、外周ブラシシール部502に形成される。
これら、背板部580及び保持部585の材質は、第1実施形態の背板部130及び保持部135等と同じである。
【0116】
円環形状の外周ブラシシール部502の各箇所においては、図2に断面が示されているように、外周面512は、外周ブラシシール520、背板部580及び保持部585の各板面に対して垂直に形成されるが、外周ブラシシール部502は全体形状が裁頭円錐体形状に形成されるので、外周ブラシシール部502の全体としては、外周面512は、回転軸830の外周面831、あるいは、ハウジング810の内周面811に対して傾斜した面となる。そして外周ブラシシール部502においては、この外周面512のハウジング810の内周面811に対する傾斜角度が、ハウジング810の傾斜面815の傾斜角度と同じであり、外周面がハウジング810の傾斜面815と平行に対向するように形成される。
【0117】
連結部503は、図12に示すように、断面が三角形形状の環状部材である。連結部503は、内周面504と、ハウジング810の内周面811に形成された傾斜面815に平行な傾斜面505を有する。
連結部503の内径は、内周ブラシシール部101の外径と略同じに形成されており、連結部503の軸方向の長さ(厚み)は、内周ブラシシール部101の軸方向の長さ(厚み)と略同じである。連結部503の内周面504には、図示のごとく内周ブラシシール部101が嵌合され接合され、連結部503は、内周ブラシシール部101と一体化される。
【0118】
このような構成のブラシシール装置500は、図12に示すように、ハウジング810の内周面811の傾斜面815に外周ブラシシール部502の外周面512を固定設置し、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540の剛毛541の自由端部545に、回転軸830に嵌合設置された内周ブラシシール部101の外周面111に設置された連結部503の傾斜面505が略垂直に当接することにより、ハウジング810と回転軸830との間に設置される。
【0119】
そして、内周ブラシシール部101の内周ブラシシール120の剛毛121の自由端部125は、回転軸830の外周面831に近接する状態に配置され、回転軸830との間隙の高圧P1側と低圧P2側とをシールする。また、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540の剛毛521の自由端部525は、連結部503の傾斜面505に近接する状態に配置され、連結部503との間の高圧P1側と低圧P2側とをシールする。
【0120】
ブラシシール装置500の内周ブラシシール部101の内周ブラシシール120のブラシ部123及び自由端部125、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540のブラシ部543及び自由端部545の機能、動作、作用は、前述した各実施形態のブラシシール装置の機能、動作、作用と同じである。
そして特にブラシシール装置500においては、外周ブラシシール部502の外周ブラシシール540が回転軸830の軸方向に対して傾斜して設けられているので、ブラシシール装置500は、回転軸830の径方向に移動のみならず、軸方向の移動にも追従できる。
【0121】
第4実施形態のブラシシール装置500は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置の作用、効果、変形例等は、いずれも第4実施形態のブラシシール装置500に対しても適用可能である。従って、第4実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0122】
そして、外周ブラシシール部502及びその外周ブラシシール540が回転軸830の軸方向に対して傾斜した本実施形態のブラシシール装置500においては、回転軸830の軸方向の変位に対しても追従することができ、より安定して動作可能で、その結果、より確実に被密封流体が漏洩を防止することができ、各部の摩耗を防止することができ、寿命の長いブラシシール装置を提供することができる。
【0123】
なお、本実施形態としては、内周ブラシシール120及び外周ブラシシール540として剛毛121、541を用いたものを例示したが、第2実施形態のように板ブラシシール単板を積層して構成したようなブラシシールを用いてもよい。
【0124】
また、外周ブラシシール540の傾斜角度は、本実施形態においては45°としたが、適用対象、被密封流体の圧力、各方向の負荷の強さ、振動、変位の形態や大きさ等に応じて、任意の角度としてよい。
【0125】
第5実施形態
本発明の第5実施形態について図13を参照して説明する。
第5実施形態のブラシシール装置600に係る以下の説明においても、前述した各実施形態のブラシシール装置と実質的に同一の構成については、同じ参照符号を付するとともにその説明を省略する。
【0126】
前述した各実施形態のブラシシールは、内周ブラシシール部の内周ブラシシール及び外周ブラシシール部の外周ブラシシールとして、剛毛を束ねて溶接した形態か、板ブラシシール単板を積層した形態のいずれかを共通的に用いた構成であった。しかしながら、これら内周ブラシシールと外周ブラシシールとは、異なる形態のものを用いてよい。本実施形態においては、内周ブラシシールとして板ブラシシール単板を積層したブラシシールを用い、外周ブラシシールとして剛毛を用いたブラシシールを用いたブラシシール装置600について説明する。
【0127】
本実施形態のブラシシール装置600は、前述の各実施形態と同様に、内周ブラシシール部と外周ブラシシール部を有するものであるが、図13に示すように、内周ブラシシール部の内周ブラシシールとして、前述した第2実施形態の外周ブラシシール220を有し、外周ブラシシール部の外周ブラシシールとして、前述した第1実施形態の内周ブラシシール140を有するものである。いずれも、詳細な構成は前述した内周ブラシシール220及び外周ブラシシール140と全く同じである。
なお、ここではブラシシールのみを図示し、背板部や保持部等の構成は図示省略する。
【0128】
そして、内周ブラシシール220を有する内周ブラシシール部を回転軸830の外周面831に設置し、外周ブラシシール140を有する外周ブラシシール部をハウジング810の内周面811に設置し、外周ブラシシール140の剛毛143の自由端部145が、内周ブラシシール220を有する内周ブラシシール部の外周面に近接して配置されることによりブラシシール装置600が構成される。
【0129】
第5実施形態のブラシシール装置600は、このような構成を有するものである。
そして、前述した各実施形態のブラシシール装置の作用、効果、変形例等は、第5実施形態のブラシシール装置600に対しても適用可能である。従って、第5実施形態においても、回転軸周囲から及び外周側からの被密封流体が漏洩を防止することができ、ブラシシール、回転軸あるいはハウジング等の摩耗を防止することができ、これらの機能、作用を長期にわたり適切に維持することのできるブラシシール装置を提供することができる。
【0130】
特に、本実施形態のブラシシール装置600においては、内周ブラシシールとして板ブラシシール単板を積層したブラシシール220を用い、外周ブラシシールとして剛毛を用いて形成したブラシシール140を用いている。このように、任意のブラシシールを組み合わせることにより、内周ブラシシール及び外周ブラシシールとして、種々の動作条件、動作特性を有するブラシ部を構成することができ、また、各々最適な条件を有するブラシ部を形成することができる。その結果、より広範な技術分野に適用可能で、また、より高性能なブラシシール装置を提供することができる。
【0131】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【産業上の利用分野】
【0132】
本発明に係るブラシシールは、航空機、ガスタービン等の回転軸を有する任意の装置に好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13