特許第6254116号(P6254116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧
特許6254116電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法
<>
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000002
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000003
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000004
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000005
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000006
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000007
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000008
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000009
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000010
  • 特許6254116-電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254116
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20171218BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20171218BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20171218BHJP
【FI】
   H02M1/08 A
   H02M3/155 H
   H02M7/48 F
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-103542(P2015-103542)
(22)【出願日】2015年5月21日
(62)【分割の表示】特願2013-541543(P2013-541543)の分割
【原出願日】2011年11月2日
(65)【公開番号】特開2015-165768(P2015-165768A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2015年5月21日
【審判番号】不服-1463(P-1463/J1)
【審判請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】篠本 洋介
(72)【発明者】
【氏名】山田 倫雄
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和徳
(72)【発明者】
【氏名】下麥 卓也
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 和田 志郎
【審判官】 山田 正文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−282326(JP,A)
【文献】 特開2004−88886(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/155917(WO,A1)
【文献】 特開2010−252451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドバンドギャップ半導体により形成されたスイッチング素子を有する電力変換装置を駆動する駆動装置であって、
前記スイッチング素子を駆動するための第1の駆動信号を生成する信号出力部と、
前記第1の駆動信号が入力され、第2の駆動信号を前記スイッチング素子に出力するオン速度低減部を備え、
前記オン速度低減部の第2の駆動信号は、前記スイッチング素子をオフからオンへ変化させる場合に、前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移が完了に近づくほど時間変化率が低減されるように生成され
前記オン速度低減部はローパスフィルタにより構成される電力変換装置の駆動装置。
【請求項2】
ワイドバンドギャップ半導体により形成されたスイッチング素子を有する電力変換装置を駆動する駆動装置であって、
前記スイッチング素子を駆動するための第1の駆動信号を生成する信号出力部と、
前記第1の駆動信号が入力され、第2の駆動信号を前記スイッチング素子に出力するオン速度低減部を備え、
前記オン速度低減部の第2の駆動信号は、前記スイッチング素子をオフからオンへ変化させる場合に、前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移が開始されてから時間が経過するほど時間変化率が増加された後、前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移が完了に近づくほど時間変化率が低減されるように生成され
前記オン速度低減部はローパスフィルタにより構成される電力変換装置の駆動装置。
【請求項3】
前記スイッチング素子をオンからオフへ変化させる場合に、オフからオンへの変化時よりも短い時間で前記スイッチング素子の電流を変化させるオフ速度改善部を備える請求項1または2に記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項4】
前記オフ速度改善部は、前記スイッチング素子のゲートに接続され、トランジスタスイッチで構成される請求項に記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項5】
前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移時間での前記第2の駆動信号がなめらかに変化するよう前記第2の駆動信号の時間変化率を連続的に変化させる請求項1または2に記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項6】
前記オン速度低減部は、前記スイッチング素子の等価容量によるLC共振で発生するリンギングを抑制するよう前記第2の駆動信号の時間変化率を低減させる請求項1または2に記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項7】
前記オフ速度改善部は、前記スイッチング素子の等価容量に充電された電荷を放電させる請求項またはに記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項8】
前記オフ速度改善部は、前記スイッチング素子をオンからオフへ変化させる場合にオフからオンへの変化時よりも電荷移動量を多くするよう電荷を吸出する請求項またはに記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項9】
前記電力変換装置は前記スイッチング素子を複数備え、複数の前記スイッチング素子はそれぞれ互いに位相を変えて駆動される請求項1からのいずれか1つに記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項10】
前記電力変換装置は、誘導性負荷を負荷として接続された直流交流電力変換装置である請求項1からのいずれか1つに記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項11】
前記電力変換装置は圧縮機を制御する請求項1に記載の電力変換装置の駆動装置。
【請求項12】
ワイドバンドギャップ半導体により形成されたスイッチング素子を有する電力変換装置を駆動する駆動方法であって、
前記スイッチング素子を駆動するための第1の駆動信号を生成する信号出力ステップと、
前記第1の駆動信号が入力され、前記スイッチング素子をオフからオンへ変化させる場合に、前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移が完了に近づくほど時間変化率が低減されるように生成される第2の駆動信号を前記スイッチング素子に出力するオン速度低減ステップとを含み、
前記オン速度低減ステップはローパスフィルタにより実現される電力変換装置の駆動方法。
【請求項13】
前記スイッチング素子をオンからオフへ変化させる場合に、オフからオンへの変化時よりも短い時間で前記スイッチング素子の電流を変化させるオフ速度改善ステップを含む請求項1に記載の電力変換装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法に関する。
【0002】
電力変換装置等で用いられるスイッチング素子(半導体素子)を駆動する技術として、半導体素子のゲート容量を積極的に利用して部品点数の少ない簡易な構成とするゲート駆動回路を構成する技術がある(例えば、下記特許文献1参照)。この技術では、容量と抵抗器を並列接続したゲート駆動回路をゲートとスイッチング出力回路間に挿入して、半導体素子のゲート容量Cisと前記容量Cgとの関係を(オン時のスイッチング制御回路出力電圧)×(Cg/(Cg+Cis))≧(閾値電圧)とし、ゲート駆動回路の抵抗器はゲート駆動型半導体素子のゲートへ伝導度変調に見合った電流を供給する。これにより、スイッチング制御回路の出力電圧が適切に分圧印加されて、半導体素子のゲート端子に印加され、部品点数の少ない簡易な回路構成のゲート駆動回路を実現する。
【0003】
また、ターンオン時にタイマによる一定期間、定常時の印加電圧より低い電圧を印加する回路を用いる、またはゲート駆動回路の出力段の一対のスイッチ素子にスイッチング時間が異なるものを用いることにより、半導体素子のゲートに加える電圧を比較的低電圧として還流ダイオードの逆回復電流を低減する技術もある(例えば、下記特許文献2参照)。
【0004】
また、ゲート−エミッタ間に接続されたコンデンサによりターンオン時は徐々にゲート電圧が上昇しターンオフ時はコンデンサが作用せずにdv/dtが緩やかになることなくスイッチング損失を増加させない技術もある(例えば、下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−51165号公報
【特許文献2】特開平2−179262号公報
【特許文献3】特開2002−300016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術では、高速にゲート電圧を立ち上げることでスイッチング速度を早くし、スイッチング損失を低減させている。これに対し、上記特許文献2の技術ではターンオン時に比較的低い電圧でオンさせることで還流ダイオードの逆阻止能力を回復させる、すなわちスイッチングを緩やかに行うことで、ノイズを低減している。したがって、上記特許文献1の技術と上記特許文献2の技術は相反するため、スイッチング損失低減とスイッチングノイズ低減は同時に実現することができないという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献3では、ターンオン時のみ緩やかにゲート電圧を上昇させることでターンオフ時のスイッチング損失増加を解決する技術が開示されている。しかしながら、この技術は、ターンオン速度を高速化する必要がなくスイッチング素子自体の等価容量によるリンギングノイズが発生しない従来材料であるシリコンのスイッチング素子での解決手段である。このため、例えばワイドバンドギャップ半導体のように、高速スイッチングを行いつつリンギングノイズを抑える必要があるスイッチング素子を用いる場合に、リンギングノイズを低減することはできない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高速スイッチングを行う場合に、リンギングを抑制することができる電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されたスイッチング素子を有する電力変換装置を駆動する駆動装置であって、前記スイッチング素子を駆動するための第1の駆動信号を生成する信号出力部と、前記第1の駆動信号が入力され、第2の駆動信号を前記スイッチング素子に出力するオン速度低減部を備え、前記オン速度低減部の第2の駆動信号は、前記スイッチング素子をオフからオンへ変化させる場合に、前記スイッチング素子のオフからオンの動作遷移が完了に近づくほど時間変化率が低減されるように生成され、前記オン速度低減部はローパスフィルタにより構成される。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、リンギングを抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明にかかる電力変換装置の駆動装置の構成例を示す図である。
図2図2は、ワイドバンドギャップ半導体と従来のシリコン半導体との比較を示す図である。
図3図3は、ワイドバンドギャップ半導体における浮遊容量の概念を示す図である。
図4図4は、実施の形態の動作例を示す図である。
図5図5は、オン速度低減部としてLCR回路を用いた場合のステップ応答波形の一例を示す図である。
図6図6は、所定の波形と駆動信号のANDをとるオン速度低減部の構成例を示す図である。
図7図7は、図6の構成例の動作波形の一例を示す図である。
図8図8は、電力変換装置の別の構成例を示す図である。
図9図9は、図8の構成例のスイッチング素子の波形の一例を示す図である。
図10図10は、電力変換装置のさらに別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる電力変換装置の駆動装置および電力変換装置の駆動方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態.
図1は、本発明にかかる電力変換装置の駆動装置の構成例を示す図である。本実施の形態の電力変換装置の駆動装置(駆動装置)15は、電力変換装置9を駆動する。電力変換装置9は、直流電源1、リアクタ2、スイッチング素子3、逆阻止ダイオード4、平滑コンデンサ5、負荷6および抵抗7,8を備える。駆動装置15は、PWM信号出力部11、ゲート駆動部12、オン速度低減部13およびオフ速度改善部14を備える。電力変換装置9の構成は一例であり、スイッチング素子としてワイドバンドギャップ半導体を用いる構成であれば図1の構成に限定されない。
【0014】
本実施の形態の電力変換装置9および駆動装置15は、例えば、空気調和機等における圧縮機に用いられる。圧縮機等に用いる場合には、負荷6は、例えば誘導性負荷である。本実施の形態の電力変換装置9および駆動装置15は、これに限らず、冷凍機、洗濯乾燥機のほか、冷蔵庫、除湿器、ヒートポンプ式給湯機、ショーケース、掃除機など家電製品全般に適用可能であり、ファンモータや換気扇、手乾燥機、誘導加熱電磁調理器などへの適用も可能である。更に言えば、家電製品だけでなく、エレベータやエスカレータ、工場設備用モータ駆動インバータ、電鉄インバータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの産業機器向けモータ駆動インバータにも適用可能である。
【0015】
スイッチング素子3は、ワイドバンドギャップ半導体と称される半導体で構成される。ワイドバンドギャップ半導体は、例えば、GaN(窒化ガリウム)、SiC(シリコンカーバイド)系材料、またはダイヤモンドなどの材料で形成される。ワイドバンドギャップ半導体は、高速動作可能、低損失、耐熱性改善などの特徴を持つ新しい半導体デバイスとして脚光を浴びる半導体である。
【0016】
一方、半導体の材料・素材の革新により、上述のワイドバンドギャップ半導体を用いることによりスイッチング素子の性能が改善されて特にスイッチング素子の動作速度が格段に高速化したため、新たな課題が発生している。高速スイッチングが可能となる前の従来技術においては、配線インピーダンスの影響が課題となっていたがこの課題を解決するための対策は可能であった。これに対し、高速スイッチングが可能となった場合、従来の対策は適用できず、配線インピーダンスの影響が大きな課題となっている。
【0017】
図2は、ワイドバンドギャップ半導体と従来のシリコン半導体との比較を示す図である。図2(a)は、従来のシリコン半導体をスイッチング素子として用いた場合の動作波形を示し、図2(b)はワイドバンドギャップ半導体をスイッチング素子として用いた場合の動作波形を示す。両図とも横軸に時間をとり、上から順に、スイッチング素子両端電圧、スイッチング素子電流、スイッチング素子駆動電流を示している。
【0018】
ワイドバンドギャップ半導体を用いる場合、シリコン半導体を用いる場合よりもスイッチングによる遷移時間T1、T2は短くなるため、高速スイッチングが実現でき、高周波駆動が実現できる。また、ワイドバンドギャップ半導体は、この遷移時間が短いため、高周波駆動してもスイッチング損失が発生せず、高周波駆動に適した半導体と言われている。
【0019】
一方、図1中のA点、B点、C点には、図示していないが、配線インダクタンス成分が存在する。このインダクタンス成分は、数nHと非常に小さくなるよう設計されており、従来のシリコン半導体であれば問題にならないレベルである。しかし、配線インダクタンスはL成分であるため、周波数が上昇すると、jωLで表されるインピーダンスは上昇する。なお、ωは角周波数(ω=2πf:fは周波数)、jは虚数単位とする。
【0020】
ワイドバンドギャップ半導体の場合、スイッチング素子の端子間の浮遊容量と呼ばれるキャパシタンス成分が従来のシリコン半導体よりも1〜2桁程度大きくなる。図3は、ワイドバンドギャップ半導体における浮遊容量の概念を示す図である。図3の点線で示したキャパシタンス16−1〜16−3は、浮遊容量となる回路図には無いキャパシタンスを示している。
【0021】
さらに、ワイドバンドギャップ半導体では、この浮遊容量と呼ばれるキャパシタンスと配線インダクタンスによるLC共振が、図2に示すように従来のシリコン半導体で構成した電力変換装置よりも高周波なリンギングとして発生する。尚、従来のシリコン半導体の場合、逆阻止の回復遅れにより、リカバリー電流が発生していた。これに対し、ワイドバンドギャップ半導体の場合、逆回復は早くリカバリー電流は発生していないが、半導体の等価容量が大きくなり、LC共振によりリンギングが発生する。
【0022】
特に、スイッチング素子に流れる電流に重畳するリンギング電流はノイズ発生源となり、このリンギングによって回路から電界が放射されたり、交流電源へ伝導したりする。このため、図2に示すスイッチングの遷移時間T1、T2を長くするなどといった方策によりノイズ抑制を行う必要があるが、単純に遷移時間を長くするだけではワイドバンドギャップ半導体の高速スイッチングの特性を活かせなくなる。
【0023】
そこで本実施の形態では、以下に示す動作を実施することで、ワイドバンドギャップ半導体の高速スイッチング、低損失の特長を活かしつつ、配線インダクタンスとワイドバンドギャップ半導体の等価容量とのLC共振によるリンギングのノイズ低減を実現する。
【0024】
図1に示す電力変換装置9は、一般的に昇圧型のDC(Direct Current)/DC電力変換装置である。スイッチング素子3をオンすると、リアクタ2とスイッチング素子3を介して直流電源1を短絡することとなり、リアクタ2に電荷が貯えられる。スイッチング素子3をオフするとリアクタ2に貯えられた電荷が逆阻止ダイオード4を介して平滑コンデンサ5へ流入し、平滑コンデンサ5の両端電圧が上昇する。
【0025】
ワイドバンドギャップ半導体のスイッチング素子3がオンする際、平滑コンデンサ5から逆阻止ダイオード4を通じて逆流電流が流れる。この逆阻止ダイオード4もワイドバンドギャップ半導体であれば、この逆流電流も微少量で逆阻止ダイオード4がオフされる。本来、逆阻止ダイオード4がオフされたことでリカバリー電流が無くなり、ノイズも発生しないが、等価容量と配線インダクタンスによるLC共振が、特にこの電流の流れなくなった経路(図1のB点)にて発生する。
【0026】
LC共振は、コンデンサとコンデンサとの間にインダクタンスが存在している場合に発生する。従って、逆阻止ダイオード4とスイッチング素子3のワイドバンドギャップ半導体による等価容量とその間にある配線インダクタンス、図1のB点とC点、がLC共振の発生源となる。このLC共振によるリンギングによるエネルギーによってノイズが発生する。
【0027】
そこで、図1に示すように、本実施の形態の駆動装置15では、PWM信号出力部11とゲート駆動部12を備えるだけでなく、オン速度低減部13を備える。上記特許文献2に示されるように還流ダイオード等の逆回復のためにスイッチングを緩やかに実施するのではなく、本実施の形態では、LC共振が発生しないようにオン速度を落としてスイッチングさせる。
【0028】
スイッチング素子3にステップ状の変化を与えると、図1中のB点、C点に減衰項となる抵抗成分が小さいため、LC共振が振動したまま継続し、リンギングとなる。このリンギングを抑制するためには、抵抗成分などを挿入すればよいが、挿入する対策部品による損失が発生し、ワイドバンドギャップ半導体の特徴を十分に活用できない。このため、電力変換装置9のパワー回路中に対策部品を挿入することは望ましくない。
【0029】
そこで、本実施の形態では、スイッチング素子3の変化をステップ状の変化としないような動作信号に制御するよう駆動装置15を構成する。図4は、本実施の形態の動作例を示す図である。PWM信号出力部11は、従来と同様に電力変換装置9のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号を生成して出力する。図4の上段は、PWM信号出力部11から出力されるPWM信号(駆動信号)の一例を示している。図4の中段は、スイッチング素子3のG(ゲート)−S(ソース)間の端子間電圧を示し、図4の下段は、スイッチング素子3の電流を示している。
【0030】
図4に示すようにPWM信号出力部11から出力されたスイッチング素子3の駆動信号のオンタイミングを示す立ち上がりエッジに対応して、スイッチング素子3のG−S間電圧が変化するが、この際、オフからオンに変化する前後だけ緩やかに、換言するとS字を描くようにG−S間電圧を変化させる。
【0031】
高速で動作するワイドバンドギャップ半導体もトランジスタ構造を採用しているため、図4のようにG−Sに電圧を与えることにより、スイッチング素子3の電流は緩やかに立ち上がる。さらにワイドバンドギャップ半導体の特徴である高速スイッチングが、立上がり後に実現され、低いスイッチング損失を維持できる。さらに、スイッチング遷移時間の最終段階で緩やかな変化でスイッチング動作を終了させることで、スイッチング素子3の変化をステップ状の急な変化を抑制し、リンギングの原因となるステップ応答エネルギーを遮断する。以上のようなターンオン動作をさせる駆動装置15を構成することでリンギングを低減し、ワイドバンドギャップ半導体で課題となる発生ノイズを低減できる。
【0032】
以上述べたターンオン動作を実現する回路の一例を、図1にオン速度低減部13として示している。図1に示したオン速度低減部13は、LCR(コイルL、コンデンサC、抵抗R)によるローパスフィルタとして構成している。すなわち、LCを用いることで遷移時間の立ち上がりおよび終了直前の変化を緩やかな変化にし、LC共振で発生するオーバーシュートをRで減衰させる構成の回路である。
【0033】
図5は、オン速度低減部としてLCR回路を用いた場合のステップ応答波形の一例を示す図である。図5では、一例として、R=15Ω、L=2mH、C=22uFとした時のステップ応答波形を示しており、波形21は入力を示し、波形22は出力を示している。LCRによるローパスフィルタ用いることにより、遷移時間の開始直後と終了間際が緩やか(変化率が低くなっている)になっていることがわかる。
【0034】
図1に示したオン速度低減部13の構成例は、回路のハードウェア(H/W)を用いて図4に示したG−S間電圧を実現するものであるが、オン速度低減部13の実装方法は図1の例に限定されない。例えば、所定の波形と駆動信号のANDをとるような構成としてもよい。図6は、所定の波形と駆動信号のANDをとるオン速度低減部13aの構成例を示す図であり、図7は、その動作波形の一例を示す図である。図7の括弧内の文字(D〜H)に対応する波形は、それぞれ図6の対応する文字で示して位置での波形を示している。
【0035】
図6のD点からはPWM信号(駆動信号)が出力される。図6のE点はD点と同波形となり、この波形が図7の(D)である。図6のE点からF点まで伝達する際、CRローパスフィルタがあり、図7の(F)のように立ち上がりエッジが緩やかなカーブとなる波形に変化する。波形生成部17は、図7の(G)に示す所定の波形(ここでは鋸波とする)を生成する。比較器18は、波形生成部17が生成した鋸波と駆動信号を比較して出力し、AND回路19は、比較器18から出力される信号と駆動信号とのANDをとった結果(図7の(H))を出力する。なお、波形生成部17が生成する波形は、鋸波に限らず、同様の効果が得られる波形であればどのような波形であってもよい。
【0036】
図7(H)の波形は、ワイドバンドギャップ半導体の場合高速応答する可能性もあるが、ゲート抵抗8およびスイッチング素子3のG−S間の等価容量によるフィルタで滑らかになる程度に高速な鋸波であれば、この場合も緩やかなゲート駆動を実現できる。更に言えば、PWM信号出力部11から直接AND回路19へ出力してもなんら問題ない。PWM信号出力部11から直接AND回路19へ出力することでさらにS字形状の立ち上がり特性を細かく設定できる。
【0037】
以上のように、図1に示したオン速度低減部13の代わりに、図7図1に示したオン速度低減部13aを備えた駆動装置15aを図1の駆動装置15の代わりに用いることができる。図6に示した構成では、図1の構成例に比べコイルLを削減することができ、パッケージ化する際に小型化することができる。
【0038】
つぎに、ターンオフ時について述べる。ターンオフ時もスイッチング素子3の等価容量によるLC共振のリンギングが発生するが、ターンオン時よりもリンギング量は少ない。ターンオン時と異なるのは、スイッチング素子3に逆並列にダイオードが接続されていることによる。スイッチング素子3と逆阻止ダイオード4との間で発生するLC共振は、スイッチング素子3がオフしても、スイッチング素子3の逆並列ダイオード−逆阻止ダイオード4−平滑コンデンサ5の方向でだけであるが、電流経路が形成され、平滑コンデンサ5への充電による減衰作用が発生する。
【0039】
さらに、スイッチング素子3および逆阻止ダイオード4の等価容量によるLC共振であるため、スイッチング素子3のゲートから電荷を引き出す(吸出する)際に、同時にこの等価容量からも電荷が引き出される。このことからもワイドバンドギャップ半導体を用いる場合には、ターンオンよりもターンオフ時の電流容量の高いことが駆動装置15に要求される。本実施の形態では、さらにスイッチング素子3から電荷を高速に引き出すオフ速度改善部14を用いてターンオフ動作することでLC共振によるリンギングの発生源とも言うべき電荷をスイッチング素子の等価容量から引き出し、リンギングを抑制する。
【0040】
従って、ターンオフ時は、ターンオン時と異なり、高速でかつターンオン時よりも高い電荷吸出能力を持つ駆動装置が必要であり、このために図1の駆動装置15はオフ速度を改善するオフ速度改善部14を備えている。図1のオフ速度改善部14は、例えばPNPトランジスタなどを用いて電荷を高速に引き出すような回路を構成する。これによりオフ速度改善部14はスイッチング損失だけでなく、リンギングによるノイズ低減も同時に実現できる。このような回路構成の場合、図4に示すように電荷を引き出すターンオフ時だけ、ゲート駆動部12のPNPトランジスタが並列接続された形となるのでターンオフ時のスイッチング素子電流は急峻に低減される。
【0041】
ゲート駆動部12で電荷を充分引き出せれば問題ないが、ゲート駆動部12がトーテムポールやC(Complementary)−MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造であった場合、上下のトランジスタの性能は一致させておくことが必要である。従って、この場合ターンオン側まで電荷供給量が多くなるとターンオン時のリンギングが増加してしまう。そこで、オフ速度改善部14のようにターンオフ時だけ高速化を補償するような回路を有することがワイドバンドギャップ半導体の駆動装置としては適切であり、ワイドバンドギャップの特徴を損なうことなく、高速スイッチングによるノイズの発生を抑制できる。
【0042】
図8は、電力変換装置の別の構成例を示す図である。図8に示した電力変換装置は、交流電源31、ダイオード32−1〜32−6、コイル33−1,33−2、スイッチング素子34,35、平滑コンデンサ36、負荷37を備える交流直流変換装置である。図1の電力変換装置9の代わりに図8の電力変換装置を用いることができる。
【0043】
図8の交流直流変換装置は、2つのスイッチング素子34,35の位相を反転させて図9に示すような波形で動作させることでスイッチングによるリップル電流を低減する。図9(a)は、図8のスイッチング素子34での動作による電流波形の一例を示し、図9(b)は、スイッチング素子35での動作による電流波形の一例を示している。図9(c)は、図9(a)の波形と図9(b)の波形の合成電流波形を示している。合成することによりスイッチング素子34,35の動作の2倍のリップルになり、等価的に1/2倍の周期で動作することとなる。
【0044】
従って、ワイドバンドギャップ半導体のように高速で動作させて、さらにその2倍の周波数の電流リップルが交流電源に流れ出すことで小型のチョークコイルなどで対策可能となり、変圧器などの設備機器への影響を軽減できる。また、図8は2つのスイッチング素子で記載しているが、スイッチング素子の数は2つに限ったことではなく、3つ以上であってもよい。スイッチング素子の個数をn個とすると、360/nの位相差で動作させることで上記の効果を逸脱することなく実現できる。
【0045】
図10は、電力変換装置のさらに別の構成例を示す図である。図10に示す電力変換装置は、電源41、平滑コンデンサ42、抵抗43およびスイッチング部44を備えている。スイッチング部44は、6個のスイッチング素子で構成される。このような構成の電力変換装置において、スイッチング素子としてワイドバンドギャップ半導体を適用した場合、上述の駆動装置15を用いて駆動することでワイドバンドギャップ半導体の特徴を損なうことなく、ノイズを低減できる。これは、ワイドバンドギャップ半導体を用いている場合には、ワイドバンドギャップ半導体の等価容量と配線インダクタンスとのLC共振によりリンギングがノイズの原因であり、従来の引用例のような逆回復によるリカバリー電流によるノイズ発生とメカニズムが異なるためである。
【0046】
このように、本実施の形態では、駆動信号のターンオン時の遷移時間の立ち上がりおよび終了直前の変化を緩やかにするオン速度低減部13と、ターンオフ時に電荷を高速に引き出すオフ速度改善部14と、を備えるようにした。このため、ワイドバンドギャップ半導体を用いた高速スイッチングを行う電力変換装置を駆動する場合に、ターンオン時およびターンオフ時のリンギングを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明にかかる電力変換装置の駆動装置は、ワイドバンドギャップ半導体を適用できる電力変換装置、所謂、交流直流変換、直流直流変換、直流交流変換、交流交流変換などの電力変換装置を駆動する装置に適している。特に、コンバータやインバータなどに利用でき、ワイドバンドギャップ半導体の適用することによる省エネを実現しつつ、高速スイッチングで発生するノイズを低減できる駆動装置を提供するものである。空気調和機や冷凍機、洗濯乾燥機のほか、冷蔵庫、除湿器、ヒートポンプ式給湯機、ショーケース、掃除機など家電製品全般に適用可能であり、ファンモータや換気扇、手乾燥機、誘導加熱電磁調理器などへの適用も可能である。更に言えば、家電製品だけでなく、エレベータやエスカレータ、工場設備用モータ駆動インバータ、電鉄インバータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの産業機器向けモータ駆動インバータにも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,41 電源、2 リアクタ、3,34,35 スイッチング素子、4 逆阻止ダイオード、5,36,42 平滑コンデンサ、6,37 負荷、7,8,43,R 抵抗、11 PWM信号出力部、12 ゲート駆動部、13 オン速度低減部、14 オフ速度改善部、15 電力変換装置の駆動装置、16−1〜16−3 キャパシタンス、17 波形生成部、18 比較器、19 AND回路、31 交流電源、32−1〜32−6 ダイオード、33−1,33−2,L コイル、44 スイッチング部、C コンデンサ、21,22 波形。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10