特許第6254135号(P6254135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6254135調節可能な発色団化合物およびそれら化合物を組み込んでいる材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254135
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】調節可能な発色団化合物およびそれら化合物を組み込んでいる材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20171218BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20171218BHJP
   C07D 249/20 20060101ALI20171218BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20171218BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20171218BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/3475
   C07D249/20 502
   C09B57/00 K
   G02C7/04
   G02C7/10
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-219150(P2015-219150)
(22)【出願日】2015年11月9日
(62)【分割の表示】特願2013-502825(P2013-502825)の分割
【原出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-94602(P2016-94602A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】61/320,442
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ アイ. ワインシェング ザ サード
【審査官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−523961(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1317535(CN,A)
【文献】 特開昭49−061142(JP,A)
【文献】 特表2007−524857(JP,A)
【文献】 特表2010−507108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化11】
(式中、
Wは、電子吸引部分であり、
Dは、電子供与部分であり、
Zは、移動阻害部分である)
からなる群から選択される調節可能な発色団。
【請求項2】
レンズであって、
ポリマー材料、および
該ポリマー材料内に分布した請求項に記載の調節可能な発色
含む、レンズ。
【請求項3】
Wが、Cl、FおよびCFからなる群から選択される、請求項1に記載の発色団。
【請求項4】
Dが、アルキル基、アルコキシ基およびアミノ基からなる群から選択される、請求項1に記載の発色団。
【請求項5】
Zが、非置換または置換C〜C20アルキルからなる群から選択される、請求項1に記載の発色団。
【請求項6】
Wが、Cl、FおよびCFからなる群から選択される、請求項2に記載のレンズ。
【請求項7】
Dが、アルキル基、アルコキシ基およびアミノ基からなる群から選択される、請求項2に記載のレンズ。
【請求項8】
Zが、非置換または置換C〜C20アルキルからなる群から選択される、請求項2に記載のレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、米国特許法§119の下で、2010年4月2日に出願された米国仮特許出願第61/320,442号に対する優先権を主張する。この米国仮特許出願第61/320,442号の全内容が、参考として本明細書に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、調節可能な発色団化合物およびそれら化合物を組み込んでいる材料(例えば、眼用レンズ材料)に関する。より具体的には、本発明は、所定の電磁放射線(例えば、2光子放射線)への曝露の際に構造的に変化する化学部分を含む調節可能な発色団化合物、およびそれら化合物を組み込んでいるレンズ材料(例えば、眼内レンズ材料)に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
発色団化合物は、光を吸収する分子であり、このような光吸収は、広い範囲の製品に望ましい。それらは、特に重要であり、多くの異なるタイプのレンズにおいて有用である。例として、発色団は、サングラスのレンズ、眼鏡レンズ、コンタクト・レンズおよび眼内レンズ(IOL)の中に組み込まれてきた。よって、光吸収特性を有する広い範囲の化合物を調査するかなりの量の研究が行われてきた。
【0004】
レンズ(例えば、上記のもの)が、ポリマーマトリクスもしくはガラスマトリクスから形成されることは、代表的である。有利なことには、上記発色団は、マトリクスの一部もしくは全体にわたって分散もしくは分布させられ得、上記発色団の濃度は、上記マトリクス全体にわたって実質的に均一であり得るか、または上記濃度は、上記マトリクスの特定の部分において変動させられ得る。
【0005】
レンズに関しては、任意の特定の発色団によって提供される光吸収の量およびタイプ(例えば、波長)は、代表的には、特定のレンズにおいて使用される発色団の量およびタイプ(例えば、化学構造)に依存する。発色団のこのタイプおよび量は、代表的には、予め決められ、特定の所定の光吸収プロフィールを有するレンズを提供する。これは、大部分のレンズに関して一般に受容可能である一方で、レンズの中に組み込まれた後に発色団の吸収特性を変更し、それによって、上記レンズ自体により提供される光吸収プロフィールを変更することが望ましい状況がある。
【0006】
一例として、眼内レンズ(IOL)を有する個体は、それらのレンズにおいて上記発色団により提供される吸収プロフィールを変化させる能力があることを特に希望し得る。地理的変化、活動(例えば、雇用)の変化もしくは彼らの生活における他の変化に起因して、より多くの日光に曝される個体は、彼らのIOLの吸収プロフィールにおける変化を希望し得る。特定の波長の光に対して感受性を有するかもしくは発現させている個体は、吸収プロフィールにおける変化を希望し得る。またIOLを受容している個体にとって、IOLの吸収プロフィールを調節し得ることは、望ましい。
【0007】
いくつかの発色団化合物は、光の吸収に起因して、経時的に分解する傾向にある場合もある。この状況において、上記レンズの吸収プロフィールを調節して、上記発色団の分解を補償し得ることは望ましい。
【0008】
上記のことを鑑みると、調節可能な光吸収特性を有する発色団を提供することは、特に望ましい。レンズの吸収プロフィールが、上記レンズの中に上記発色団化合物を組み込んだ後に調節され得る製品(例えば、上記レンズ)内にこのような発色団化合物を提供することもまた、特に望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
一実施形態において、本発明は、式B−Xの化合物を含む調節可能な発色団に関しており、
ここで、
i)Bは、基礎発色団化合物であり、
ii)Xは、調節可能な化学部分であって、該調節可能な部分は、所定の電磁放射線への曝露の際に残りの化学部分(C)を形成し、それによって化合物B−Cを形成する、調節可能な部分であり、
iii)上記化合物B−Cは、上記化合物B−Xより高い光吸収を提供し、
iv)上記残りの化学部分(C)は、共役二重結合を含む。
【0010】
本発明はまた、ポリマー材料、および上記ポリマー材料内に分布した調節可能な発色団化合物(本明細書に記載されるとおりの化合物)を含むレンズに関する。上記発色団化合物を含む材料は、代表的には、より多くの量の上記化合物B−Cが、上記調節可能な化合物B−Xから形成されるにつれて、徐々により高い波長の光を吸収し得る。
【0011】
本発明はまた、インビボもしくはインビトロでレンズを調節する方法に関する。上記方法は、眼にレンズを移植する前もしくは移植した後のいずれかに、本明細書に記載される所定の電磁放射線を、上に記載されるレンズに方向付けて、上記化合物B−Cを形成する工程を包含する。
【0012】
本発明はまた、反応系
【0013】
【化1】
【0014】
の一部として、式B−XもしくはB−Cの化合物を含む調節可能な発色団システムに関しており、
ここで、
i)Bは、基礎発色団化合物であり、
ii)Xは、第1の所定の電磁放射線への曝露の際に、残りの化学部分(C)を形成し、それによって、上記化合物B−Cを形成する調節可能な化学部分であり、
iii)上記化合物B−Cは、上記化合物B−Xより高い光吸収を提供し、
vi)上記残りの化学部分(C)は、共役二重結合を含み、そして、
v)必要に応じて、上記化合物B−Cは、分離可能な基(S)の補助を伴いつつかもしくは補助なしのいずれかで、第2の所定の電磁放射線への曝露の際に、上記化合物B−Xを形成する。
【0015】
上記レンズの基礎発色団、上記調節可能な発色団のシステムは、好ましくは、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、アゾ色素および桂皮酸エステルからなる群より選択される。上記化合物B−Cは、代表的には、顕著な量のUV光、青色光もしくはその両方を吸収する。さらに、上記調節可能な化学部分Xは、好ましくは、環式部分(例えば、ジシクロペンタジエン)である。
一実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
式B−Xの化合物を含む調節可能な発色団であって、
ここで、
v)Bは、基礎発色団化合物であり、
vi)Xは、調節可能な化学部分であって、該調節可能な化学部分は、所定の電磁放射線への曝露の際に、残りの化学部分(C)を形成し、それによって化合物B−Cを形成する、調節可能な化学部分であり、
vii)該化合物B−Cは、該化合物B−Xより大きな光吸収を提供し、
viii)該残りの化学部分(C)は、共役二重結合を含む、
発色団。
(項目2)
前記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、アゾ色素および桂皮酸エステルからなる群より選択される、項目1に記載の発色団。
(項目3)
前記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾールである、項目1または2に記載の発色団。
(項目4)
前記化合物B−Cは、顕著な量のUV光、青色光、もしくはその両方を吸収する、項目1、2または3に記載の発色団。
(項目5)
前記化合物B−Cは、顕著な量の青色光を吸収する、項目1〜4のいずれかに記載の発色団。
(項目6)
前記調節可能な化学部分Xは、環式部分である、項目1〜5のいずれかに記載の発色団。
(項目7)
前記調節可能な化学部分Xは、ジシクロペンタジエンである、項目1〜6のいずれかに記載の発色団。
(項目8)
ポリマー材料、および
該ポリマー材料内に分布した項目1〜7のいずれかに記載の調節可能な発色団化合物を含むレンズであって、
ここで、該材料は、徐々により大きな波長の光を吸収し得、より多量の前記化合物B−Cが、前記調節可能な化合物B−Xから形成される、
レンズ。
(項目9)
インビボもしくはインビトロでレンズを調節する方法であって、
眼に該レンズを移植する前もしくは移植した後に、所定の電磁放射線を、項目8に記載のレンズに方向付けて、前記化合物B−Cを形成する工程
を包含する、方法。
(項目10)
調節可能な発色団システムであって、
反応系
【化10】


の一部として、式B−XもしくはB−Cの化合物を含み、
ここで、
i)Bは、基礎発色団化合物であり、
ii)Xは、調節可能な化学部分であって、該調節可能な化学部分は、第1の所定の電磁放射線への曝露の際に、残りの化学部分(C)を形成し、それによって、該化合物B−Cを形成する、調節可能な化学部分であり、
iii)該化合物B−Cは、該化合物B−Xより大きな光吸収を提供し、
vi)該残りの化学部分(C)は、共役二重結合を含み、そして、
v)必要に応じて、該化合物B−Cは、分離可能な基(S)の補助を伴いつつかもしくは補助なしのいずれかで、第2の所定の電磁放射線への曝露の際に、該化合物B−Xを形成する、
発色団システム。
(項目11)
前記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、アゾ色素および桂皮酸エステルからなる群より選択される、項目10に記載のシステム。
(項目12)
前記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾールである、項目10または11に記載のシステム。
(項目13)
前記化合物B−Cは、顕著な量のUV光、青色光もしくはその両方を吸収する、項目10、11または12に記載のシステム。
(項目14)
前記化合物B−Cは、顕著な量の青色光を吸収する、項目10〜13のいずれかに記載のシステム。
(項目15)
前記調節可能な化学部分Xは、環式部分である、項目10〜14のいずれかに記載のシステム。
(項目16)
前記調節可能な化学部分Xは、ジシクロペンタジエンである、項目10〜15のいずれかに記載のシステム。
(項目17)
レンズであって、
ポリマー材料、および
該ポリマー材料内に分布した項目10〜16のいずれかに記載の調節可能な発色団
を含む、レンズ。
(項目18)
レンズをインビボもしくはインビトロで調節する方法であって、
眼にレンズを移植する前もしくは移植した後に、項目10〜16のいずれかに記載の所定の第1のもしくは第2の電磁放射線を、項目17に記載のレンズに方向付けて、前記化合物B−CもしくはB−Xを形成する工程
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1Aおよび図1Bは、それぞれ、本発明の一局面に従うコンタクト・レンズの上面図および断面図である。
図2図2Aおよび図2Bは、それぞれ、本発明の一局面に従う眼内レンズの上面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、調節可能な発色団化合物および/もしくはシステムの提供に基づく。上記発色団化合物の吸収特性(例えば、吸収プロフィール)は、所定の電磁放射線への曝露の際に、調節可能である。本発明はまた、本発明の調節可能な発色団化合物および/もしくはシステムを組み込み、その結果、製品、特に、レンズ(例えば、サングラスのレンズ、眼鏡レンズ、IOL、コンタクト・レンズなど)の吸収プロフィールが調節され得るようになる製品の提供に基づく。
【0018】
上記調節可能な発色団化合物は、代表的には、以下の化学構造
B−X
を有し、ここで、
Bは、基礎発色団化合物であり、
Xは、調節可能な化学部分であって、上記調節可能な化学部分は、所定の電磁放射線への曝露の際に分離可能な基(S)および残りの化学部分(C)を形成し、それによって、化合物B−Cを形成する、調節可能な化学部分であり、
代表的には、上記残りの化学部分(C)は、共役二重結合を含む。有利なことには、このような共役二重結合は、上記調節可能な発色団化合物B−Xと比較して、得られる発色団化合物B−Cの吸収特性(例えば、吸収プロフィール)への顕著な調節を提供する。
【0019】
多くの発色団が公知であり、上記基礎発色団化合物(B)として使用され得る。しかし、好ましい実施形態において、上記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、アゾ色素および桂皮酸エステルからなる群より選択される。非常に好ましい実施形態において、上記基礎発色団化合物は、ベンゾトリアゾールもしくはベンゾフェノンであるが、最も代表的には、ベンゾトリアゾールである。上記基礎発色団化合物として適切なベンゾトリアゾールの例は、米国特許第4,528,311号および同第7,396,942号、ならびに米国特許出願第2010/0012889号および同第2008/0090937号(これらはすべて、その全体がすべての目的で本明細書に参考として援用される)に開示されている。潜在的に適した基礎発色団化合物の他の例は、米国特許出願公開第2007/0077214号、同第2008/0242818号、および同第2002/0025401号(これらはすべて、その全体がすべての目的で本明細書に参考として完全に援用される)に開示されている。
【0020】
上記調節可能な化学部分(X)は、所定の電磁放射線への曝露の際に、上記残りの化学部分(C)および上記分離可能な基(S)へと分離され得る任意の部分であり得る。代表的には、上記化学部分(X)は、環式であり、上記化学部分(C)および上記分離可能な基(S)へと分離すると、共役二重結合を有する上記化学部分(C)を提供する。模式的には、このような反応は、以下の
X → C + S
の通りであるか、または、
【0021】
【化2】
【0022】
である。
【0023】
上記調節可能な化学部分(X)としての使用に適した部分の例としては、ジシクロペンタジエン、ジシクロヘキサジエン、シクロブタン、シクロヘキンなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記化学部分(C)および上記分離可能な基(S)の構造は、上記化学部分(X)の構造によって必然的に決まり、特定の状況においては、逆もまたしかりであることが理解されるものとする。上記分離可能な基(S)は、上記ポリマーのポリマーマトリクス内で結合し得、上記ポリマーマトリクス中に巻き込まれ得るが、どちらでもないことがあることもまた理解される。
【0024】
本発明の調節可能な発色団システムは、本発明の調節可能な発色団化合物を含み、その調節可能な発色団化合物は、得られる発色団化合物B−Cへと調節され得るが、次いで、その調節は、上記得られる発色団化合物B−Cが、上記調節可能な化合物B−Xへと戻って調節され得るように、可逆的である。従って、上記調節可能な発色団システムは、反応系
【0025】
【化3】
【0026】
の一部として、式B−XもしくはB−C、またはその両方の化合物を含み、
ここで、
Bは、上記基礎発色団化合物であり、
Xは、上記調節可能な化学部分であって、上記調節可能な部分は、第1の所定の電磁放射線への曝露の際に、分離可能な基(S)および残りの化学部分(C)を形成し、それによって、上記残りの化学部分(C)が共役二重結合を含む上記化合物B−Cを形成する。次いで、上記調節可能な化学部分(X)を、上記残りの化学部分(C)および上記分離可能な基(S)へ分離することは、上記化合物B−Xを形成するために異なる所定の電磁放射線への曝露の際に可逆的であり得ることが考えられる。このような場合において、上記システムは、上記システムによって提供される吸収のレベルに加えられ得るか、またはそれに提供される電磁放射線に依存して、上記システムによって提供される吸収の量から差し引かれ得る。
【0027】
上記発色団化合物B−Xおよび発色団化合物B−Cは、電子供与化学部分(D)もしくは電子吸引化学部分(W)またはその両方を含み得、その部分は、代表的には、上記調節可能な部分(X)が、上記残りの部分(C)および上記分離可能な基(S)へと分離された後に、上記発色団化合物B−Cとともに残り得る。上記供与部分(D)および上記吸引部分(W)は、上記基礎発色団化合物(B)、上記調節可能な化学部分(X)および/もしくは上記残りの化学部分(C)の一部であり得る。代表的には、上記供与部分(D)が上記基礎発色団化合物(B)の一部である場合、上記吸引部分(W)は、上記調節する化学部分(X)および上記残りの化学部分(C)の一部であり、その逆もまたしかりである。
【0028】
種々の適切な電子吸引部分(W)は、当業者に明らかである。適切な電子吸引部分(W)の例としては、シアノ基、カルボニル、エステル、アミド、スルホニル、ハロゲン、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。好ましい実施形態において、上記吸引部分(W)は、ハロゲン(例えば、ハロゲン自体もしくはハロゲン含有基)(例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、三フッ化炭素(CF)など)である。種々の適切な電子供与部分(D)はまた、当業者に明らかである。適切な供与部分(D)の例としては、アルキル基(例えば、メチル基およびエチル基)、アルコキシ基、またはアミノ基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
有利なことには、上記供与部分(D)もしくは上記吸引部分(W)またはその両方は、上記発色団化合物B−Cの極性化を補助し得る。このような極性化は、上記発色団化合物B−Cが、光(特に、さらなる波長の光(例えば、より高いもしくはより長い波長の光)を吸収することにおける能力を補助し得る。さらに、このような極性化は、上記発色団化合物B−Xの光吸収能が、上記発色団化合物B−Cの光吸収能と比較して、顕著に低下する(例えば、80%未満もしくはさらに60%であり得る)ように、上記調節可能な化学部分(X)によって顕著にブロックされ得る。
【0030】
上記調節可能部分(X)は、さらにもしくは代わりに、移動阻害部分(Z)を含み得、その部分は、上記調節可能部分(X)が上記残りの部分(C)および上記分離可能な基(S)へと分離した後に、代表的には、上記分離可能な基(S)とともに残る。このような移動阻害部分(Z)は、上記調節可能部分(X)が上記残りの部分(C)および上記分離可能な基(S)へと分離した後に、マトリクス(例えば、ポリマーもしくはガラスマトリクス)中に上記分離可能な基(S)を維持するために、上記発色団化合物B−Xが上記マトリクスの中に組み込まれる状況に特に有用である。代表的には、上記移動阻害部分は、上記マトリクスに巻き込まれ(entangle)得る。好ましくは、上記移動阻害部分(Z)は、C−C20、より代表的にはC−C12、そして、さらに考えられることにはC−C10の範囲にある炭素原子を有する炭素鎖もしくは炭素ベースの基で置換されたかもしくは置換されていないアルキル基(例えば、アルカン鎖)であるかもしくは上記アルキル基を含む。
【0031】
本発明の発色団化合物および/もしくはシステムは、種々の異なる製品へと組み込まれ得る。しかし、最も顕著なことには、それらは、製品(例えば、サングラスもしくは眼鏡)のレンズへと、またはコンタクト・レンズもしくはIOLへと組み込まれ得る。上記発色団化合物およびシステムは、これらレンズが、ガラスもしくはポリマー材料またはこれらの組み合わせから形成されるかどうかに拘わらず、上記のこれらレンズへと組み込まれ得る。代表的には、これら材料は、熱硬化性であろうと熱可塑性であろうと、マトリクスを形成し、上記化合物および/もしくはシステムは、上記マトリクスの全体もしくは一部分にわたって分布もしくは分散され得る。
【0032】
本発明の発色団化合物および/もしくはシステムは、サングラスもしくは眼鏡を形成するために一般に使用される材料のマトリクスへと組み込まれ得る。このような材料としては、ガラスもしくはポリマー材料(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル、またはこれらの組み合わせなど)が挙げられ得る。
【0033】
本発明の発色団化合物および/もしくはシステムは、コンタクト・レンズ、IOLもしくはその両方へと組み込まれ得る。コンタクト・レンズおよびIOLは、代表的には、アクリレートベースの材料(すなわち、少なくとも20%、少なくとも50%もしくはより多くのアクリレートモノマー(例えば、フェニルエチルメタクリレートおよびヒドロキシエチルメタクリレート)から形成される材料)、またはシリコーン材料などから形成されるマトリクスを含む。当業者は、発色団化合物が一般に、レンズおよび/もしくはマトリクスのこれらのタイプ中に含まれており、本発明の発色団化合物が、類似の様式で組み込まれ得ることを理解する。
【0034】
本発明の発色団化合物の調節は、製品もしくは材料マトリクスの中へ組み込む前に起こり得るが、好ましくは、その後に起こる。示唆されるように、上記調節は、上記発色団化合物の曝露(特に、上記調節可能部分(X))を所定の電磁放射線へ曝露した際に、引き起こされる。上記調節可能部分(X)を、上記残りの部分(C)および上記分離可能な基(S)へと形成する(逆もまたしかり)ために特に使用される放射線は、上述の基および/もしくは部分の化学構造に依存する。その電磁放射線は、上記電磁スペクトルの可視部分もしくは上記電磁スペクトルの非可視部分に由来し得る。好ましい実施形態において、上記所定の電磁放射線は、比較的強い紫外(UV)線として提供される。別の好ましい実施形態において、上記所定の放射線は、赤外(IR)線として提供される。1つの特に好ましい実施形態において、上記電磁放射線は、代表的には、上記電磁スペクトルの可視部分に由来する2光子放射線として提供される。有利なことには、上記2光子放射線は、上記電磁スペクトルの可視部分に由来する光として提供され得る。
【0035】
上記所定の電磁放射線は、上記発色団、または上記発色団が組み込まれた上記材料において上記放射線を方向付け得る光源(例えば、レーザー源もしくは他の光源もしくはエネルギー源)から提供される。最も一般には、上記所定の電磁放射線は、以下の反応スキーム
B−X → B−C + S
をもたらすように構成された波長および/もしくは周波数を有し、
ここで上記調節可能な発色団化合物B−Xは、上記発色団化合物B−Cおよび上記分離可能な基(S)を生成するように、所定の放射線に曝される。さらに、本発明の上記システム内で、第2の所定の電磁放射線は、その反応の反転を引き起こすように構成された波長および/もしくは周波数を有する。
【0036】
以下の実施例4を特に参照すると、上記発色団化合物B−Xが、分離可能な基の形成なしに、B−Cに直接変換され得ることもまた理解される。このスキームは、実施例4において起こるように、以下の反応スキーム
【0037】
【化4】
【0038】
に従って起こり得る。
あるいは、通常では上記分離可能な基(S)である化学実体(chemical entity)は、本発明のシステムが、以下のスキーム
【0039】
【化5】
【0040】
に従って起こり得るように、上記基礎発色団と化学的に結合していても、上記基礎発色団と化学的に結合した状態になってもよく、そして上記基礎発色団の一部であり得る。
【0041】
本発明において、上記発色団化合物B−Cは、代表的には、調節可能な発色団化合物B−Xより顕著に多い量の光吸収を提供する。さらに、より多くの上記発色団化合物B−Cが形成されるにつれて、より大きなもしくは(例えば、より長い)波長のより多くの量の光が吸収されることは、可能でありかつしばしば望ましい。この状況において、上記発色団化合物B−Cを含む上記材料の吸収カットオフは、ますます多くの上記発色団化合物B−Cが形成されるにつれて、ますますより高いもしくはより長い波長に向かって移動する。
【0042】
この吸収の変化の定量化として、化合物B−Xの出発量もしくは出発濃度のうちの25%未満が化合物B−Cおよび分離可能な基(S)に変換された場合、化合物B−Xを含む材料は第1の波長の光のうちの少なくとも80%および第2の波長の光のうちの20%未満を吸収することが望ましい。しかし、上記化合物B−Xの出発量もしくは出発濃度のうちの少なくとも75%が化合物B−Cに変換された後に、上記材料は上記第1の波長の光のうちの少なくとも80%および上記第2の波長の光のうちの少なくとも80%を吸収することが望ましい。このような状況において、上記第1の波長は、上記第2の波長より少なくとも5ナノメートル、より好ましくは、少なくとも10ナノメートルおよびさらに考えられることには、少なくとも15ナノメートル短い。
【0043】
上で示唆されるように、上記発色団化合物B−Cおよび分離可能な基(S)が、所定の放射線に曝されて、調節可能な発色団化合物B−Xを生成し得ることもまた企図される。この吸収の定量化として、化合物B−Cおよび分離可能な基(S)の出発量もしくは出発濃度のうちの25%未満が化合物B−Xに変換された場合に、化合物B−Cおよび分離可能な基(S)を含む材料は第1の波長および第2の光の波長の光のうちの少なくとも80%を吸収することが望ましい。しかし、上記化合物B−Cおよび上記分離可能な基(S)の出発量もしくは出発濃度のうちの少なくとも75%が化合物B−Xに変換された後に、上記材料は上記第1の波長の光のうちの少なくとも80%を吸収するが、上記第2の波長の光のうちの20%未満を吸収することが望ましい。このような状況において、上記第1の波長は、上記第2の波長より少なくとも5ナノメートル、より好ましくは、少なくとも10ナノメートル、およびさらに考えられることには少なくとも15ナノメートル短い。
【0044】
眼用レンズ、特に、IOLおよび/もしくはコンタクト・レンズに関しては、上記発色団B−Xおよび/もしくはB−Cは、代表的には、UV範囲から上記青色光範囲に至るまで、そしてさらには上記青色光範囲の一部までの波長の光の実質的な吸収(例えば、少なくとも50%およびさらには少なくとも80%)を提供するように設計される。よって、上記第1および第2の波長は、本明細書で議論されるように、代表的には、電磁スペクトルのUVから青色部分にある。従って、好ましい実施形態において、上記第1および第2の波長はともに、好ましくは300〜500ナノメートル、より好ましくは380〜470ナノメートル、さらにより好ましくは390〜440ナノメートルの範囲にある。
【0045】
当業者は、本発明の発色団化合物を受容する上記IOLおよびコンタクト・レンズが、眼の適用に適した大きさおよび形状にされることを理解する。図1Aおよび図1Bを参照すると、コンタクト・レンズ10は、代表的には少なくとも2センチメートル、より代表的には少なくとも3センチメートル、さらにより代表的には少なくとも4センチメートルの最大外周(例えば、最大の外周境界線)12を有する。上記最大外周12はまた、代表的には10センチメートル未満、より代表的には6センチメートル未満、さらにより代表的には5.5センチメートル未満である。上記コンタクト・レンズはまた、代表的には、凸表面16に対向する凹表面14を含む。図2Aおよび図2Bを参照すると、IOL20は、代表的には少なくとも1.5センチメートル、より代表的には少なくとも2.0センチメートル、さらにより代表的には少なくとも3.2センチメートルの最大外周(例えば、最大の外周境界線)22を有する。最大外周22はまた、代表的には7センチメートル未満、より代表的には5センチメートル未満、さらにより代表的には4.5センチメートル未満である。無水晶体IOLはまた、代表的には、第2の凸表面26に対向する第1の凸表面24を含むのに対して、有水晶体IOLは、上記無水晶体IOLのような凸表面もしくは上記コンタクト・レンズのような凸/凹表面を有し得る。
【0046】
これら吸収調節は、インビトロで起こり得る一方で、それがインビボでも起こり得ることもまた企図される。例示であって限定でなく、コンタクト・レンズおよびIOLはともに、それらレンズを、哺乳動物の眼、特に、ヒトの眼へ適用もしくは移植した後に、調節され得る。これは、特に、可視光(例えば、2光子光)が上記吸収特性を調節するために使用される場合である。移植したIOLの屈折率を調節するために2光子光を使用するという技術の議論は、米国特許公開第2009/0157178号(これは、すべての目的で本明細書に完全に参考として援用される)に提供されている。有利なことには、このような技術はまた、本発明の発色団を調節するために使用され得る。
【0047】
本発明のさらなる利点として、上記所定の放射線は、上記レンズの特定の部分に方向付けられて、上記レンズの特定の所定の領域における光吸収を増強し得る一方で、上記レンズの他の領域は、少ない吸収を示す。IOLに関しては、例えば、上記IOLの核部分の光吸収を増強すると同時に、上記IOLの外周部分がより少ない光吸収を示すようにすることは、望ましいことであり得る。次いで、このようなIOLは、光が明るくかつ眼の瞳孔が小さい場合により大きな光吸収を示し、光が少なくかつ眼の瞳孔がより大きい場合に、より小さな吸収を示す。このような実施形態において、上記核領域は、代表的には、上記レンズの特定の領域における濃度の120%より高い、より代表的には150%より高い上記発色団化合物B−Cの濃度を有する。このような核領域およびこのような外周領域はともに、あらゆる眼内レンズ支持部を除いた上記IOLの全容積のうちの少なくとも10%である。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
【0049】
【化6】
【0050】
上記の実施例1は、本発明の1つの例示的実施形態を図示する。認められ得るように、発色団化合物B−Xは、ベンゾトリアゾール基礎発色団(B)および調節可能部分(X)(これは、ジシクロペンタジエンである)を含む。上記調節可能部分(X)は、移動阻害基(Z)(これは、好ましくは、アルカン鎖である)、および電子供与部分(D)(これは、好ましくは、アルコキシ基である)を含む。上記基礎発色団化合物(B)は、電子吸引基(W)(これは、好ましくは、上で議論される上記ハロゲンもしくはハロゲン化基のうちの1つである)を含む。認められ得るように、所定の放射線への曝露の際に、上記発色団化合物B−Xは、上記発色団化合物B−Cおよび分離可能な基(S)になり、上記発色団化合物B−Cは、共役二重結合および上記電子供与基(D)および残りの基(C)を有する。次いで、上記基礎発色団(B)は、上記電子吸引基(W)を含む。さらに、上記分離可能な基(S)は、上記移動阻害基(Z)を含む。
【0051】
(実施例2)
【0052】
【化7】
【0053】
上記の実施例2は、本発明の別の例示的実施形態を図示する。認められ得るように、発色団化合物B−Xは、ベンゾトリアゾール基礎発色団(B)および調節可能な部分(X)(これは、ジシクロペンタジエンである)を含む。上記調節可能部分(X)は、移動阻害基(Z)(これは、好ましくは、アルカン鎖である)、および電子吸引部分(W)(これは、好ましくは、ハロゲン基である)を含む。上記基礎発色団化合物(B)は、電子供与基(D)(これは、好ましくは、アルコキシ基である)を含む。認められ得るように、所定の放射線への曝露の際に、上記発色団化合物B−Xは、上記発色団化合物B−Cおよび分離可能な基(S)になり、上記発色団化合物B−Cは、共役二重結合および上記電子吸引基(W)、ならびに上記残りの基(C)を有する。次いで、上記基礎発色団(B)は、上記電子供与基(D)を含む。さらに、上記分離可能な基(S)は、上記移動阻害基(Z)を含む。
【0054】
(実施例3)
【0055】
【化8】
【0056】
上記実施例3は、本発明の別の例示的実施形態を図示する。認められ得るように、発色団化合物B−Xは、ベンゾトリアゾール基礎発色団(B)および調節可能な部分(X)(これは、ジシクロペンタジエンである)を含む。この実施例において、上記基礎発色団(B)の環式部分および上記ジシクロペンタジエンは、共通する結合を共有する。上記調節可能部分(X)は、移動阻害基(Z)(これは、好ましくは、アルカン鎖である)を含む。さらに、上記基礎発色団(B)は、電子吸引部分(W)(これは、好ましくは、ハロゲン基である)および電子供与基(D)(これは、好ましくは、アルコキシ基を含む)を含む。認められ得るように、所定の放射線への曝露の際に、上記発色団化合物B−Xは、上記発色団化合物B−Cおよび分離可能な基(S)になり、上記発色団化合物B−Cは、上記残りの基(C)としての共役二重結合、および上記電子吸引基(W)を有する。上記基礎発色団(B)はまた、上記電子供与基(D)を含む。さらに、上記分離可能な基(S)は、上記移動阻害基(Z)を含む。
【0057】
(実施例4)
【0058】
【化9】
【0059】
上記実施例4は、本発明のシステムの別の例示的実施形態を図示する。認められ得るように、1対の基礎発色団化合物(B)(これは、両方のベンゾトリアゾールである)は、ともに単一の調節可能な部分(X)(これは、シクロブタンである)に結合し、上記化合物B−X−Bを形成する。上記基礎発色団化合物(B)の各々は、電子吸引部分(W)(これは、好ましくは、ハロゲン基である)および電子供与基(D)(これは、好ましくは、アルコキシ基を含む)の両方を含む。認められ得るように、所定の放射線への曝露の際に、上記発色団化合物B−X−Bは、2個の別個の発色団化合物B−Cになり、上記発色団化合物B−Cの各々は、共役二重結合を有する残りの基(C)を有する。さらに、第2の所定の放射線への曝露の際に、上記発色団化合物B−Cは反応して、上記単一の発色団化合物B−X−Bになり得る。
【0060】
出願人は、本開示におけるすべての引用される参考文献の全内容を具体的に援用する。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメーターが、ある範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値のリストのいずれかとして与えられる場合、これは、範囲が別個に開示されているか否かに拘わらず、任意の範囲上限値もしくは好ましい値と、任意の範囲下限値もしくは好ましい値との任意の対から形成されるすべての範囲を具体的に開示しているとして理解されるべきである。ある範囲の数値が本明細書で記載される場合、別段示されなければ、上記範囲は、その終点、ならびにその範囲内のすべての整数および有理数を含むと解釈される。本発明の範囲は、範囲を定義する場合に記載される具体的な値に限定されるとは解釈されない。
【0061】
本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮し、本明細書で開示される発明を実施することにより、当業者に明らかになる。本明細書および実施例は、例示として考慮されるに過ぎず、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲およびその等価物によって示されると解釈される。
図1
図2